2022年09月11日

令和4年司法試験の結果について(3)

1.今回は、論文式試験の全科目平均点をみていきます。以下は、これまでの全科目平均点及び受験者数の推移をまとめたものです。全科目平均点の括弧書きは最低ライン未満者を含む数字、受験者数前年比の括弧書きは変化率を示しています(なお、各年の全科目平均点を比較することの意味については、「平成26年司法試験の結果について(4)の補足」を参照。ただし、後記2のとおり、現在ではその意味が薄まってきています。)。元号の省略された年の表記は、平成の元号によります。

全科目
平均点
前年比

受験者数

前年比
18 404.06 ---

2087

---
19 393.91 -10.15

4597

+2510
(+120.2%)
20 378.21
(372.18)
-15.70

6238

+1641
(+35.6%)
21 367.10
(361.85)
-11.11
(-10.33)

7353

+1115
(+17.8%)
22 353.80
(346.10)
-13.30
(-15.70)

8163

+810
(+11.0%)
23 353.05
(344.69)
-0.75
(-1.41)

8765

+602
(+7.3%)
24 363.54
(353.12)
+10.49
(+8.43)
8387 -378
(-4.3%)
25 361.62
(351.18)
-1.92
(-1.94)
7653 -734
(-8.7%)
26 359.16
(344.09)
-2.46
(-7.09)
8015 +362
(+4.7%)
27 376.51
(365.74)
+17.35
(+21.65)
8016 +1
(+0.0%)
28 397.67
(389.72)
+21.16
(+23.98)
6899 -1117
(-13.9%)
29 374.04
(360.53)
-23.63
(-29.19)
5967 -932
(-13.5%)
30 378.08
(369.80)
+4.04
(+9.27)
5238 -729
(-12.2%)
令和元 388.76
(376.39)
+10.68
+6.59
4466 -772
(-14.7%)
令和2 393.50
(382.81)
+4.74
(+6.42)
3703 -763
(-17.0%)
令和3 380.77
(367.55)
-12.73
(-15.26)
3424 -279
(-7.5%)
令和4 387.16
(371.98)
+6.39
(+4.43)
3082 -342
(-9.9%)

 平成26年までは、全科目平均点と受験者数の間には、緩やかな逆相関性がありました。いつの年にも、上位層というのは、一定の限られた人数しかいないものです。ですから、受験者数が増加することは、下位層の増加を意味することになりやすい。その結果、受験者数が増加すると、全科目平均点は下がりやすい、という緩やかな関係性が生じるわけです。ただし、必ずしも、受験者数の増減幅に応じて全科目平均点が上下する、という関係にはありません。平成25年のように、逆相関の関係にない年もある。「緩やかな」と表現した所以です。とはいえ、平成26年までは、それで概ね説明が付きました

2.しかし、平成27年は、受験者数にほとんど変化がないのに、全科目平均点が急上昇しました。これは、上記の全科目平均点と受験者数の関係性からは説明が付きません。当サイトでは、この異常な全科目平均点の急上昇の主な要因として、考査委員間で得点分布の目安を守ろうという申し合わせがあったのではないか、と説明してきました(「平成27年司法試験の結果について(3)」)。「法科大学院制度がうまくいかないのは、司法試験が難しすぎるせいだ。(法科大学院が悪いのではなく、司法試験委員会が悪い。)」という法科大学院関係者からの批判を契機として、司法試験の成績評価の在り方が、検証の対象とされるようになったからです。

法曹の養成に関するフォーラム論点整理(取りまとめ)(平成24年5月10日)より引用。太字強調は筆者。)

 現在の合否判定は,受験者の専門的学識・能力の評価を実質的に反映した合理性のあるものになっているか疑問とする余地があり,合格者数が低迷しているのは合格レベルに達しない受験者が多かったからだと直ちに断定することはできず,合否判定の在り方についても見直す必要があるのではないか,法曹になるために最低限必要な能力は何かという観点から合格水準について検討すべきではないか,新たな法曹養成制度の下で司法試験合格者に求められる専門的学識・能力の内容や程度について,考査委員の間に共通の認識がないのではないか,新司法試験の考査委員には,法科大学院での教育やその趣旨についての理解が十分でないまま,旧来の司法試験と同様の意識や感覚で合否の決定に当たっている者も少なくないのではないかと疑われるとの意見があり,また,この立場から,考査委員の選任や考査委員会議の在り方等について工夫してはどうか(例えば,考査委員代表者を中心にする少人数の作業班により答案の質的レベル評価を反映する合格ラインの決定を行う等)との意見があった。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第48回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

井上正仁座長代理 やはり旧来どおりの司法試験の在り方やその結果が絶対だと見る既存のものの考え方が根強く残っている。新しい法曹養成制度になったときに、制度の趣旨に照らしてその点を見直し、その結果として前のとおりで良いと意識的に判断して、そうしているならば、それはそれで一つの考え方だと思うのですけれども、果たしてそのような意識的な検討が十分なされたのかどうか。新たな法曹養成制度の下で、特に多様なバックグラウンドの方をたくさん受け入れて、法曹の質を豊かなものにしていこうというのが大きな理念であるはずですが、それに適合した選別の仕方がなされているのかどうか。その辺について内部では議論されているのかもしれないのですけれど、司法試験委員会ないし考査委員会議は、守秘義務の壁の向こうにあるものですから、よく分からない。しかし、そういったところも、やはり検証する必要がある

井上正仁座長代理 司法試験については、司法試験委員会ないし法務省の方の見解では、決して数が先にあるのではなく、あくまで各年の司法試験の成績に基づいて、合格水準に達している人を合格させており、その結果として、今の数字になっているというのです。確かに、閣議決定で3,000人というのが目標とはされているのだけれども、受験者の成績がそこまでではないから、2,000ちょっとで止まっているのだというわけです。それに対しては、その合格者決定の仕方が必ずしも外からは見えないこともあり、本当にそうなのかどうか、合格のための要求水準について従来どおりの考え方でやっていないかどうかといった点も検証する必要がある

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第68回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

井上正仁座長 法科大学院制度発足のときにも,必ずしも法廷活動を中心にする狭い意味の法曹の育成を専ら念頭に置いていたというわけではなく,社会のいろいろな方面に法曹資格,あるいは,それに匹敵するような能力を備えた人が進出していき,その専門的能力を活(い)かして様々な貢献をするということが目指すべき理想とされ,そういう理念で出発したはずなのですけれども,その後,現実には司法試験というものの比重が非常に重いため,どうしても狭い意味の法曹というところに焦点が絞られるというか,多くの関係者の視野が狭くなってしまっていると言うことだと思います。これまでの本委員会でも,度々同じような御意見が出,議論もあったところですが,何かもう少し具体的な形で議論できるようにすることを考えていきたいと思っています。

(引用終わり)

(「法曹養成制度検討会議取りまとめ」(平成25年6月26日)より引用。太字強調は筆者。)

 具体的な方式・内容,合格基準・合格者決定の在り方に関しては,司法試験委員会において,現状について検証・確認しつつより良い在り方を検討するべく,同委員会の下に,検討体制を整備することが期待される

(引用終わり)

 (「平成28年以降における司法試験の方式・内容等の在り方について」(平成27年6月10日司法試験委員会決定)より引用。太字強調は筆者。)

第3.出題の在り方等についての検証体制

1.検証体制の位置付け

 司法試験考査委員は,これまでも毎年の出題等に関する検証を行ってきたものであるが,今後,出題等に関するより一層の工夫が求められることを踏まえ,その工夫の趣旨や効果等を検証するとともに,各科目・分野を横断して認識を共有し,その後の出題等にいかすため,年ごとに,各科目・分野の考査委員の中から検証担当考査委員を選任し,その年の司法試験実施後において,共同してその年の試験についての検証を行うこととする。

2.検証体制の構成

 検証担当考査委員については,研究者と実務家の考査委員の双方を含めるとともに,実務家については,法曹三者を全て含めることとする。

3.検証の対象

 検証担当考査委員による検証については,その年の短答式試験及び論文式試験の出題のみならず,成績評価や出題趣旨・採点実感等も対象とする

4.検証結果の取扱い

 検証担当考査委員による検証の結果については,適切な方法で司法試験委員会に報告するとともに,その後の出題等にいかすこととする。

(引用終わり)

 (「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日)より引用。太字強調は筆者。)

 司法試験の具体的方式・内容、合格基準・合格者決定の在り方に関しては、司法試 験法の改正等を踏まえ、試験時間等に一定の変更が加えられたものであるが、今後においても、司法試験委員会において、継続的な検証を可能とする体制を整備することとしたことから、検証を通じ、より一層適切な運用がなされることを期待する

(引用終わり)

 上記の検証については、偶然に考査委員による情報漏えい問題(「これまでの調査及び検討の状況について」、「司法試験出題内容漏えい事案を踏まえた再発防止策及び平成29年以降の司法試験考査委員体制に関する提言」参照)と時期が一致したために、それとの関係で考えてしまう人もいるかもしれませんが、そうではありません。要するに、「司法試験をもっと簡単にしろ。」という圧力を、司法試験委員会にかけるための仕組みです。「すべての元凶は司法試験が難しすぎるせいであって、法科大学院としてはもうどうしようもない。問題を解決するには司法試験を簡単にするしかない。」という論調は、その後も、法科大学院関係者からたびたび発せられています。このことは、法科大学院関係者ですら、「法科大学院で真面目に講義を受ければ司法試験に合格できる。」とは思っていないことを意味しています。近時の受験者合格率の上昇は、このような法科大学院関係者の意向に沿うものといえるでしょう。

法科大学院特別委員会(第75回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

上田信太郎(北大)委員 私は,法科大学院教育そのものに内在している問題もあるとは思いますけれども,それよりは,やはりちょっと難しいかもしれませんが,司法試験の方をどこか根本的に変えていくほかないのではないかなと。特に今,4人受ければ3人落ちる試験になっています。あるいは5人受けると4人落ちてしまう試験になっています。そうした中で,いわゆる純粋未修と言われている人たちが3年間で法科大学院のカリキュラムを消化していけば,きっちりと受かるというようなことを司法試験の側で示していかないと,なかなか我々法科大学院教育の携わる者として,特効薬というか,そういうものを見付け出していくというのはもう既に難しい段階に来ているのではないかなとも思います。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第78回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

鎌田薫(早大総長)委員 出口で想定している法曹像が,新しい制度を作ったときにイメージしていた法曹像と,実際の司法試験で合格させている人との間のずれが非常に大きいということなのではないかと思うんです。…問題の所在を発見して,どこに問題があって何を調べればいいかということを見通して,自分でちゃんと調べる能力があって,それに基づいて議論を立てて,プレゼンテーションをしてネゴシエーションができる人を想定していたわけで,ありとあらゆる法律に詳細な知識を詰め込んでいるのではない人を作ろうというのがこの制度だったはずですけれども,司法試験はそれに応じた改革がなされていないということであれば,結局,司法試験に通るための準備に四年,五年は最低掛かりますというふうなことになっていくのはやむを得ないのかなと思う反面,そこの目標に達するための手段として,法科大学院に行くほかに予備試験があるという制度が存在しているとしたら,法科大学院というのは一体どんな役割を果たすのか。それぐらいだったら,学部で四年,五年,しっかりやればいい。そこに,なぜ法科大学院が上に乗らないといけないのかの説明が,ますます難しくなってきているのだろうと思いますので,その辺のところをきちんと正当化できるような議論と組み合わせてやっていただくと同時に,未修者が,もう未修の法曹資格者を日本社会は期待していないのだというふうな感覚を持たないで済むような説明のできる新しい制度というのを是非作っていただきたいということを,次の期の委員会には期待したいと思います。

 (中略)

井上正仁(早大)座長 法曹となる段階で要求される学力ないし専門的学識が相当レベルの高いものであり,それがそのまま維持されたままですと,学力不足とされる人が増えることになるおそれが出てきます。そして,それがまた,ロースクールを出ても役に立たない,ロースクールは役割を果たしていない,といった評価に走らせかねませんので,その辺のところをやはり十分注意深く考えていく必要があると思うのです。一つは,個々のニーズに応じた柔軟な教育課程の組み方を可能にするということで,短縮してもやっていける人はそれでいいのですけれども,今の2年,あるいは3年の教育課程でも学力不足という人が実際かなりいるわけで,そういう人にはむしろ,もっと時間を掛けた教育をしないといけない。そういうことが可能なような制度の組み方を考えていかないといけないということです。もう一つは,短縮ということを本当にやろうとするなら,出口の方の司法試験もそれに適切に対応して変えてもらわなければならないということです。もちろん,法曹となって利用者に適切な法的サービスを提供できることを担保するためには,最低限一定レベル以上の学力,学識があることを確認することが不可欠ですから,それよりレベルを下げろということではないのはもちろんですけれども,やはり,それに先立つ教育期間の短縮ということを踏まえて,司法試験の範囲や問題内容,その難度をについて見直すことをやっていただく必要があるだろうということです。

(引用終わり) 

法科大学院等特別委員会第80回議事録より引用。太字強調は筆者。)

井上正仁(早大)座長 我々としてできることは限られており,その結果,どうしても後手後手に回ってしまって,志望者がどんどん減っていく。法科大学院として集めたくないわけではなく,集めようと努力してきたにも拘わらず,学生の方が志望してこなくなってきているというのが実情なのですね。それはなぜかといいますと,様々な原因があるのでしょうが,やはり最も大きいのは司法試験が難関であることであって,特に法学部出身でない学生がその難関を突破することがますます難しくなっており,それが更に志望者の減につながっていっている。つまり,そのような状況では,特に社会人の方とか,いろいろなバックグラウンドの人たちも,法科大学院に入ってからの確固としたキャリアプランが描けないわけで,そういうところにリスクを冒して入ってきてくれるかというと,それはかなり無理な話になっている。そういう構造的な問題点をどうにかして変えていかない限り,問題は解消しないのですけれど,その点で私たちとしてできることには限界があって,そこを崩せないでいる。

 (中略)

井上正仁(早大)座長 法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度を構想し,制度設計した当初も,グローバル化にどう対応するかということが司法制度改革全体の大きなテーマの一つで,法曹養成の育成についても,狭い意味の法曹ばかりではなく,国際的な視野と学識・能力を備えた人材を育てていくことが大きな目標だったのですね。ただ,その場合,法科大学院すべてが,そういった同じ目標に向かって一丸となって進んでいくということではなく,国際的な方向だけに限らず多様な人材を育成することが重要で,それぞれの法科大学院が各々,得意分野を持ってそれを目標にしていくべきだといのが司法制度改革審議会の提言であり,全体の改革の方向だったわけです。
 そして,制度発足当初は,そういう特色を示そうとした法科大学院も少なからずあったのですが,難関の司法試験との関係で次第に萎縮してしまい,本来の企図がなかなか実現できなくなったというのが実情だと思います。

 (中略)

大貫裕之(中央大) 委員 司法試験の問題の在り方,司法試験との連携の在り方を考えないとちょっとなかなかこの議論はつらいのかなと思います。直感的に申し上げますと,重い司法試験を前提にして,重い教育を前提にして,その教育期間を延ばしているだけではないかという印象がないわけではないんです。未修に関していうと,純粋未修に関して完全に教育期間は長くなるわけですね。本当にそれでいいのかなという気はしておりまして,ここでやるべきことではないということは十分分かっていますけれども,司法試験との連携ということが必要だということは,やはり繰り返し申し上げたいなというのがまず第1点です。

(引用終わり)

法科大学院等特別委員会(第83回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

大貫裕之(中央大) 委員 法科大学院成績と司法試験の成績の相関関係について調べたところを見ると,法科大学院の成績が同じである人が司法試験を受けると,ダブルスコアで未修の方が悪いわけです。これはどう理解するかは非常に重要な論点です。私は司法試験の方も,法科大学院の教育に合わせてくれということではないですが,法科大学院の教育と適切な連携を図ったものにより一層なっていただきたいと思っています。

(引用終わり)

法科大学院等特別委員会(第107回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

須藤典明日本大学大学院法務研究科教授・専攻主任  社会人に開かれたロースクールという中で、私が社会人学生と話をしていて考える最大の問題は、司法試験のレベルと学修レベルがなかなか一致しないということではないかと思います。特に未修の社会人学生にとって司法試験が難し過ぎます。合格率だけ言えば上位校というのはあるわけですが、実際には上位校でも半分もしくはそれ以上の人は落ちているわけです。そういう人たちが、「ロースクールに行っても受からない」ということを言っていますので、社会人学生はロースクールへ入るのはリスクが大きいと感じているようです。それで、勉強してロースクールに入って司法試験に合格できそうだという見込みが立たないと、実際は入学してきません

(引用終わり)
 

 さらに、近時の法曹コース創設、在学中受験等の制度の改定に伴い、司法試験の在り方が検討されることとされています。

参院法務委員会令和元年5月30日議事録より引用。太字強調は筆者。)

小出邦夫法務大臣官房司法法制部長 今回の法曹養成制度改革に関する改正法案におきましては、連携法において、新たに法務大臣と文部科学大臣は法科大学院の収容定員の総数その他の法曹の養成に関する事項について相互に協議を求めることができる旨の規定を設けることとしておりまして、法科大学院における教育課程の編成や教育水準の在り方とそれを踏まえた司法試験の在り方との相互関係などの事項について協議することにより、法務省と文部科学省との連携をより一層密にすることとしております。
 また、この法案が成立した後には、法務省としては、法科大学院教育と連携した司法試験の在り方を検討するために、司法試験委員会と連携したしかるべき会議体を設置して、文部科学省、最高裁判所等を構成員として検討を進めていくことを予定しているところでございます。

(引用終わり)

司法試験委員会会議(第159回)議事要旨より引用。太字強調は筆者。)

今後,幹事会において,司法試験の出題の在り方等について検討すべきである
 在学中受験資格の導入後も,法曹に求められる資質・能力を判定するという司法試験の位置付けや試験の難易度に変更はないが,今般の法曹養成制度改革は,プロセス教育の維持,強化が理念とされていることを念頭においた上,現行の司法試験の出題の在り方が,①法科大学院教育との適切な連携が図られたものとなっているか,②法科大学院や学生に対して学修の指針を示すという意味で適切な影響を与えているか, ③実務家登用試験として適切な選別機能を有しているか,といった観点から検討を行う必要があると考える。

 (中略)

 法科大学院協会の平成31年3月の臨時総会においても,「制度変更に伴い必要になる司法試験の内容について検討・議論する会議体の設置を法務省・関係団体に求めること」が確認されており,その趣旨はやはり,法曹養成プロセスの変更があった以上,司法試験についても,法科大学院,司法修習との有機的な連携のとれたものとなっているかをこの時期に改めて検討すべきであるというものであった

 (中略)

 当幹事会は,司法試験について様々な関係を持つステークホルダーによって構成されており,司法試験の出題の在り方等について,大所高所から検討することができることから,司法試験の出題の在り方等を幹事会において議論させていただきたいと考えている

(引用終わり)

(「司法試験委員会会議(第165回)議事要旨」より引用。太字強調は筆者。)

法曹養成プロセスが大きく変更され,在学中受験資格が導入されることに合わせて,法科大学院教育と司法試験がきちんと連携しているか今一度確認すべきである。3プラス2の導入も踏まえると,検証の場において,法学部教育からの視点や未修者教育からの視点も重要ではないか。検証担当考査委員や意見交換の参加者の人選に当たっては,これらの視点を持った人を選んでいくのはどうか

 (中略)

司法試験の問題作成者側の意識と,受験者側の意識及び受験者を指導する法科大学院側の意識との間にギャップがあることを認識しておく必要があると思われる。すなわち,問題作成者は,問題の分量や論点の数等,適正であると判断して作成しているが,受験者側としては,勉強の成果を存分に発揮して答案を作成するためにはもっと時間をかけて問題に取り組みたいと考えるのが自然であるし,法科大学院側も,学生の能力が正確に反映される問題や十分な試験時間を期待するのが自然である

(引用終わり)

 これは、非常に荒っぽくいえば、「法曹コースや在学中受験によって勉強時間がさらに短縮されるのだから、それでも受かるように司法試験をもっと簡単にしろや。」という圧力をかけるためのものといえるでしょう。キーワードは、「法科大学院教育との連携」です。一見すると意味がわかりにくいのですが、要するに、「法科大学院の教育を受けたら普通に合格するようにしろ。」という意味、すなわち、「司法試験を簡単にしろや。」ということを意味する。このことは、覚えておくと、最近の法曹養成関連の文書の意味を理解しやすくなるでしょう。表向きは「司法試験を簡単にしろや。」とは言えないので、「法科大学院教育との連携を図る」というもっともらしい表現を用いるわけです。最近は、この種の言換えが目立つようになってきました。文脈上、「記憶」という意味であるのに、それでは暗記させる予備校の受験指導のようだとして、「理解」という表現を用いる。「学習」や「自学自習」は、予備校の低レベルな勉強を想起させるとして、法科大学院が関わるものについては、「学修」や「自学自修」という表現を用いる。従来、学生の学習意欲を高めるために、こまめにミニテストを実施してその成績を公表したり、優秀な起案を紹介し、起案した学生を褒めたりすることをもって、学生同士の「競争」を促すという言い方をしていたものですが、これでは他者を蹴落とすとか先に受かればよいという予備校の発想を想起させるとして、学生同士の「切磋琢磨」を促すに言い換える。このようなものに対して、筆者は「撤退」を「転進」と言い換えるのに似たものを感じます。実質を変えられない焦りがそうさせるのだと思いますが、言葉を言い換えても、それで実質が変わることはありません。

 さて、本題に戻ります。得点分布の目安が守られた場合の全科目平均点を試算すると、概ね374.6点となります(「平成27年司法試験の結果について(3)」)。「考査委員が得点分布の目安を守ろうとした。」という仮説を前提にすると、全科目平均点は、この374.6点に近い数字になるでしょう。そこで、そのような目で、平成27年以降の全科目平均点を改めてみてみましょう。


全科目
平均点
平成27 376.51
(365.74)
平成28 397.67
(389.72)
平成29 374.04
(360.53)
平成30 378.08
(369.80)
令和元 388.76
(376.39)
令和2 393.50
(382.81)
令和3 380.77
(367.55)
令和4 387.16
(371.98)

 年によってブレはありますが、概ね374.6点の前後で推移しています。現在のところ、「考査委員が得点分布の目安を守ろうとした。」という仮説でそれなりに説明が付くことが確認できました。
 このように、全科目平均点を一定の数字に近づけるような採点がされるようになってくると、各年の全科目平均点を比較しても、受験生のレベルの変化を測ることが困難になっていきます。例えば、「今年は昨年よりも全科目平均点が下がったので、受験生のレベルが下がったに違いない。」等と考えることは、できないわけです。

3.「考査委員が得点分布の目安を守ろうとした。」という仮説が正しいとするなら、これは今後も同様の傾向となるでしょう。すなわち、全科目平均点は、年によってブレを生じつつも、概ね374点前後で推移するだろう、と予測できることになります。
 現在のところ、全科目平均点がどのくらいの水準であるかは、合否の決定には直接の影響はないといえます。合格点の決定は、「修了生7割」を大きく超えないような受験者合格率にとどめるという観点からされているとみえるからです(「令和4年司法試験の結果について(2)」)。つまり、全科目平均点が上がればそれに応じて合格点も上がるし、全科目平均点が下がれば合格点もそれに応じて下がるので、全科目平均点が上がったから難易度が下がるとか、全科目平均点が下がったから難易度が上がるということはない。ただし、全科目平均点の水準は、間接的に、最低ライン未満になりやすいか否かや、採点実感等に関する意見における評価区分(優秀、良好、一応の水準及び不良)の読み方等に影響してきます。これらの点については、後の記事で、詳しく説明したいと思います。 

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2022年09月08日

令和4年司法試験の結果について(2)

1.前回の記事(「令和4年司法試験の結果について(1)」)では、今年の合格者数が、「1400人基準」で説明できる、という話をしました。今回は、このことと、「1500人程度」という数値目標との関係について、順を追って説明したいと思います。

2.まず、今年の合格率を確認しましょう。今年は、3082人が受験して、1403人合格ですから、受験者合格率は、45.5%ということになります。以下は、これまでの受験者数、合格者数及び受験者合格率の推移です。なお、元号の省略された年の表記は、平成の元号によります。

受験者数 合格者数 受験者
合格率
18 2091 1009 48.2
19 4607 1851 40.1
20 6261 2065 32.9
21 7392 2043 27.6
22 8163 2074 25.4
23 8765 2063 23.5
24 8387 2102 25.0
25 7653 2049 26.7
26 8015 1810 22.5
27 8016 1850 23.0
28 6899 1583 22.9
29 5967 1543 25.8
30 5238 1525 29.1
令和元 4466 1502 33.6
令和2 3703 1450 39.1
令和3 3424 1421 41.5
令和4 3082 1403 45.5

 直近の数字をみると、平成28年以降、一貫して受験者合格率が上昇を続けていることがわかります。受験者数の減少幅に比して、合格者数の減少幅が小さいために、こうなっているのです。合格者数の減少幅を抑えてきたのが、「1500人程度」という数値目標でした。現在の合格率は、平成18年と平成19年の中間くらいの水準です。数字の上では、新司法試験開始初期の頃と同じくらい、受かりやすい試験になっている。ただし、当時の法科大学院の標準修業年限修了率は既修9割程度、未修7割5分程度だったのに対し、現在では、既修7割6分程度、未修5割程度まで下がっているという点には、注意を要します(「法科大学院修了認定状況の推移(平成17年度~令和2年度)」)。

3.各年の受験者合格率は、いわゆる「修了生7割」という累積合格率の数値目標との関係で、重要な意味を持ちます。
 「修了生7割」というのは、「法科大学院では修了生の7~8割が合格するような教育をすべきだ。」という理念のことです。これは、司法制度改革審議会の意見書に記載され、閣議決定にも盛り込まれています。その趣旨は、法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるようにすることにありました。要するに、合格率が低いようでは、受験勉強に専念してしまうからよくない、ということです。

司法制度改革審議会意見書より引用。太字強調は筆者。)

 「点」のみによる選抜ではなく「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備するという趣旨からすれば、法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるような仕組みとすることが肝要である。このような観点から、法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が後述する新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきである。厳格な成績評価及び修了認定については、それらの実効性を担保する仕組みを具体的に講じるべきである。

(引用終わり)

規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定) より引用。太字強調は筆者。)

 法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格できるよう努める

(引用終わり)

 ポイントは2つあります。1つは、「司法試験委員会が、修了生の7~8割を受からせる。」のではなく、「法科大学院が、修了生の7~8割が合格するような教育を行うべきだ。」というにとどまるということです。つまり、法科大学院は修了生の7~8割が受かるように教育すべきではあるが、合否を決めるのは司法試験委員会なので、必ず7~8割が受かるとは限らない、ということです。

参院法務委員会平成17年03月18日議事録より引用。太字強調は筆者。)

 国務大臣(南野知惠子君) 審議会の意見には、法曹となるべき資質また意欲を持つ人が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることがこれ不可欠の前提といたしていますので、その上で法科大学院では、課程を修了した人のうち相当程度……(略)……七割から八割という方たちに相当するわけですが、その方が新司法試験に合格できるように充実した教育を行うべきであるという願望がそこの中にございますので、七、八割の人をオーケーよということとはちょっと違うかなというふうに思います。
 そういうふうに教育を行うべきであるとされておりますが、これは法科大学院におけます教育内容……(略)……とか教育方法に関する記述でありまして、新司法試験におきましては法科大学院の修了者の七、八割が合格することを記述したものではないということでございます。
 七、八割は必ず合格しますよということじゃなく、七、八割が合格するようにみんな総力を挙げて教育に当たりましょうというようなところが一つの大きなポイントでありまして、したがって、この点、審議会意見とは矛盾するものではないと思うということが、そのように御答弁申し上げたいところでございます。

(引用終わり)

 もう1つのポイントは、この「7~8割」というのは、各年の受験者合格率ではなく、修了生が受験回数制限を使い切るまでに、最終的に7~8割が合格すればよいという意味だ、ということです。したがって、「修了生7割」が達成されても、各年の受験者合格率は70%より低い数字になる。このことは、制度創設時から、意識されていたことでした。

司法制度改革審議会第57回(平成13年4月24日)議事録より引用。太字強調は筆者。)

北村敬子委員 75%といって、落ちた人が次の年に受けて、また3回まで受けられるということになると、最後の年は50を切るんですね。今すぐには計算が出てこないんですが、これは非常に厳しい試験だなというふうな感じもするんですね。だから、75というのはごまかしの数字で、これは初年度が非常に有利なのであって、だんだん厳しくなっていくという計算になっているなというふうな感じがするんです。

 (中略)

 だから、75というのが一人歩きして、何か全部、毎年75%の人が合格していくなというような試験ではないんだということを、ちょっと認識しておいていただいた方がいいかなということです。

 (引用終わり)

 それにもかかわらず、各年の受験者合格率が70%~80%になるという趣旨の誤った報道がされ続けた時期がありました。新司法試験実施前は、「毎年7割8割が合格できるから、誰にでもチャンスがある。」などと説明し、実施後は、「合格率が70%~80%になるはずなのに、そうならないのはおかしい。」という論調だったのです。当サイトでは、かなり以前から、それが誤りであることを指摘し続けてきました(「法科大学院定員削減の意味(2)」、「平成22年度新司法試験の結果について(2)」) 。政府の公表資料でも、この点についての混乱があった時期もありました。しかし、現在では、修了生が受験回数制限を使い切るまでの最終的な合格率を「累積合格率」という用語で定義し、「7~8割」とは、この累積合格率を指す、という形で、正しく説明されています。

(「法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価」より引用。太字強調は筆者。)

 「司法制度改革審議会意見書-21 世紀の日本を支える司法制度-」(平成 13 年6月。以下「審議会意見」という。)において、法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきとされている

 (中略)

 各年度の法科大学院修了者を母数として、法科大学院修了後5年間の受験機会を経た後の合格率(以下「累積合格率」という。)をみると、平成 17 年度修了者は 69.76%と目標の中で例示された合格率の下限にほぼ到達したが、18 年度修了者は 49.52%と目標の中で例示された合格率に達していない。

(引用終わり)

4.そして、「1500人程度」という合格者数の数値目標は、この「修了生7割」と密接な関係にあります。なぜなら、現在の法科大学院の定員規模は、「合格者数1500人」と「累積合格率7割」から逆算して算出されたものだからです。

(「法曹人口の在り方に基づく法科大学院の定員規模について」より引用。太字強調は筆者。)

 累積合格率7割の達成を前提に、1,500人の合格者輩出のために必要な定員を試算すると、以下のとおりとなる。

○ 法科大学院では厳格な進級判定や修了認定が実施されており、これまでの累積修了率は85%であること。  
○ 予備試験合格資格による司法試験合格者は、平成26年は163名であるが、うち103名は法科大学院に在籍したことがあると推測されること。

 上記2点を考慮した計算式:(1,500 - 163) ÷ 0.7 ÷ 0.85 + 103 ≒ 2,350

○ さらに、法科大学院を修了しても司法試験を受験しない者がこれまでの累積で6%存在すること。 

 上記3点を考慮した計算式:(1,500 - 163)÷ 0.7 ÷ 0.85 ÷ 0.94 + 103 ≒ 2,493 

(引用終わり)

衆院文部科学委員会令和元年5月8日議事録より引用。太字強調は筆者。)

柴山昌彦文部科学大臣 収容定員の上限でありますけれども、現状の定員規模である二千三百人程度を想定しておりますが、この人数は、法曹養成制度改革推進会議の決定において、司法試験合格者数において当面千五百人程度は輩出されるよう必要な取組を進めること、また、法科大学院修了のうち、累積合格率でおおむね七割程度が司法試験に合格できるように充実した教育が行われることを目指すこととされていることを踏まえ、これらの目標を達成するために必要な法科大学院の定員規模を逆算というか試算をして設定したものであります。

(引用終わり)

 本来は、法科大学院で充実した教育が行われる結果として、「修了生7割」が達成される、という話でした。しかし、それは現実には難しいので、人為的に合格者数と入学定員を固定することによって、機械的に「修了生7割」を実現しようとした。その結果、「1500人程度」という合格者数の数値目標は、2300人程度の入学定員を前提に、「修了生7割」を達成するためのものとして機能するようになったのです。

5.そこで、気になるのは、合格者数が1500人を割り込むと、「修了生7割」が達成できなくなるのではないか、ということです。これは、簡単な試算が可能です。累積合格率とは、失権する前に合格する者の割合ということになりますから、単純化すれば、5年連続で不合格になった者以外の者の割合ということになる。そこで、単年の合格率をPとし、全体から5回連続で不合格になる割合を差し引いた数字を考えると、以下の算式となります。

 1-(1-P)

 ここに、今年の合格率である45.5%を代入して計算すると、累積合格率は、約95.1%となります。ただし、これは予備組も含めた数字です。法科大学院修了の資格で受験した者に限ると、どうなるか。今年は、2677人の法科大学院修了生が受験して、1008人が合格なので、受験者合格率は37.6%になります。これを上記に代入すると、約90.5%。今年のような合格率が5年続けば、法科大学院修了生に限ってみても、累積合格率は9割を超えてしまうのです。上記の試算は途中撤退者を考慮していないので、実際にはこれより低い数字になるでしょうが、それでも、7割を達成できないということはなさそうです。
 合格者数が1500人を下回っているのに、どうしてそんなことになってしまうのか。前記の定員規模の試算は、入学定員数と実入学者数が等しい場合を想定しています。しかし、実際には、かなりの定員割れが生じています。以下は、法科大学院の入学定員数と実入学者数の推移です(「各法科大学院の平成30年度~令和4年度入学者選抜実施状況等」等を参照)。元号を省略した年度の表記は、平成の元号によります。

年度 入学定員 前年比 実入学者 前年比
20 5795 --- 5397 ---
21 5765 -30 4844 -553
22 4909 -856 4122 -722
23 4571 -338 3620 -502
24 4484 -87 3150 -470
25 4261 -223 2698 -452
26 3809 -452 2272 -426
27 3169 -640 2201 -71
28 2724 -445 1857 -344
29 2566 -158 1704 -153
30 2330 -236 1621 -83
令和元 2253 -77 1862 +241
令和2 2233 -20 1711 -151
令和3 2233 1724 +13
令和4 2233 1968 +244

 直近では、大幅な定員割れが常態化していることがわかります。令和4年度に実入学者が244人も増加していますが、これは法曹コースの一期生203人が入学したことによるもので、実質の増加は41人にとどまります。

法科大学院等特別委員会(第106回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

森下専門職大学院室長 志願者数につきましては、ここ数年8,000人強で、横ばいから微増といった形で推移をしてまいりましたが、今期は昨年度より2,000人程度増加をいたしまして、10,633人となってございます。また……(略)……入学者につきましても、昨年度の1,724人から240人ほど増加しまして、1,968人となってございます。これに伴いまして……(略)……入学定員の総数に占める入学者数の割合、定員充足率も88.1%と向上しているところでございます。
 令和4年度は法曹コース、いわゆる3+2の制度の第1期生が学部3年での早期卒業を経て法科大学院に入学する最初の年度でございまして、その人数がこの中に含まれているところでございます。……(略)……法曹コースの学生は、特別選抜入試で法科大学院に進学できますが、5年一貫型は協定関係にある法曹コース生を対象として、学部成績で選抜するものです。開放型は、協定関係にない法曹コース生も対象として、学部成績に加えて論述式で選抜をするものでございます。
 3年早期卒業の法曹コース生の法科大学院の志願者数でございますけれども……(略)……5年一貫型が293人、開放型が248人、合計541人ということになっております。うち実際に合格をしたのが……(略)……5年一貫型が223人、開放型が66人の計289人ということになります。入学者数が……(略)……5年一貫型が167人、開放型が36人の合計203人、これが最終的に法曹コースから法科大学院に入学した数ということになります。
 今年度は昨年と比較しまして志願者数で2,000人、入学者数で240人ほど増加をしているところでございますけれども法曹コース生の志願者数約540人、入学者数約200人ほどが含まれているということで、これが主な増加の原因になろうと考えておるところでございますけれども、それを差し引いても入学者数も40名ほど増加をしておるところでございまして、これ自体はよい傾向なのかなと受け止めているところでございます。

(引用終わり)

 法曹コースからの入学者は、従来であれば翌年入学するはずだった者が前倒しで入学したというだけなので、急激な増加は一期生が入学するときにしか生じません。来年度以降も、このペースで増加するということはない。したがって、今後もしばらくは、定員割れが続くことになりそうです。2300人の定員が充足されることを想定して、1500人程度合格させるという試算をしていたわけですから、定員割れが常態化した状況の下で「1500人程度」を合格させ続ければ、合格率が高くなり過ぎてしまうことは、当然のことといえるでしょう。前回の記事(「令和4年司法試験の結果について(1)」)で説明したとおり、今年の合格者数は、昨年に引き続き、「1400人基準」で決定されたとみえます。仮に、このことと、「1500人程度」の数値目標との整合性を問われたとしても、担当者は、以下のように答えることができるわけです。


 「確かに、法曹養成制度改革推進会議決定におきまして、司法試験合格者数を「1500人程度」とするよう目指すものとされておりまして、基準人数を1400人として合格者を判定することは、形式的にはこれを満たさない結果となります。しかしながら、同決定における「1500人程度」という数値目標は、法科大学院の収容定員を2300人程度とし、その修了生の7割程度が合格できるようにするという要請との関係で考えられておるわけでありますが、現時点ではその収容定員を充足しない状況が続いてございます。このような状況の下におきましては、1500人程度を下回る合格者数であっても修了生の7割程度の合格を実現することは可能でありまして、むしろ、1500人程度の合格者数を維持しますと、いずれ修了生の累積合格率が9割を超え、試験としての選抜の実効性を問われる事態ともなりかねないものと考えております。そうしますと、1400人強の合格者数であっても、修了生の7割程度の合格を実現するという意味では、同決定の趣旨を損なうものではないと考えております。」

 以上の考察によれば、今後の合格者数は、実入学者数の推移に影響されることになります。今のところ、法曹コースによる一時的な影響を除けば、実入学者数は横ばいといってよい状況で、定員を充足するのは相当先になりそうです。そうすると、合格者数についても、当面は1400人強が維持される可能性が高いといえるでしょう。

6.なお、来年に関しては、在学中受験が可能となるという点が気になります(「在学中受験資格に関するQ&A」)。これは、単純計算すると、一時的にロー修了資格の1回目受験者が倍増することを意味します。実際には、全員が在学中受験をするわけではないでしょうが、今年の受験者のうち、令和3年度修了生が1216人だったことを踏まえると、1000人くらい受験者が増えても不思議ではない感じです。受験者数が1000人も増えれば、それを考慮して合格者数を増やしてくれるのではないか、という期待をしたくなるところでしょう。これまでの話を踏まえると、受験者数が増加することで、「修了生7割」の達成に支障が生じるようであれば、合格者数を増やして合格率を調整するだろう、という予測をすることができます。少し、今年の数字を使って試算をしてみましょう。仮に、今年のロー生の受験者数が1000人多い3677人だったとして、ロー生の合格者数が変わらない1008人だったとしましょう。すると、ロー生の受験者合格率は27.4%にまで下がります。受験者が増えても合格者は全然増えないという想定ですから、これは合格率を低めに見積もった試算です。しかし、これを元に累積合格率を単純計算すると、79.8%。累積合格率は8割近い数字で、「修了生7割」を達成できてしまいます。当局も、来年の受験者増が一時的な現象で、前記のとおり法科大学院の定員割れ状況に変わりがないことは把握しているわけですから、慌てて合格者数を増やす必要もないと考えるのが自然でしょう。そんなわけで、在学中受験による受験者の増加によって、合格者数が増えるという期待は、あまり持たない方がよさそうです。逆にいえば、来年は、数字の上では例年より結構厳しい試験になりそうだ、という心構えをしておくべきなのでしょう。

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2022年09月07日

令和4年司法試験の結果について(1)

1.令和4年司法試験の結果が公表されました。合格者数は、1403人でした。昨年は1421人でしたから、18人の減少ということになります。司法試験の(論文)合格者数については、「1500人程度」という目標値があります。これは、今でも撤回されてはいない数字です。

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用。太字強調は筆者。)

 新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。

 (引用終わり)

 (衆院法務委員会令和3年3月12日議事録より引用。太字強調は筆者。)

階猛(立憲)委員 合格者数については、過去、政府の決定で、千五百名を下回らないというのがあったと思っています。
 私は、これ以上合格者の質の低下を招かないようにするためにも、千五百人という目標はもうやめるべきではないかと思っていますけれども、この点、大臣、いかがでしょうか。

上川陽子国務大臣 ただいま委員の方から、年間千五百人という新たな法曹ということでございましたけれども、これは、平成二十七年六月の法曹養成制度改革推進会議の決定におきまして、法曹人口の在り方については、法曹の需要また供給状況を含めて様々な角度から実施されました法曹人口調査の結果を踏まえた上で、新たな法曹を年間千五百人程度は輩出できるよう、必要な取組を進め、さらには、これにとどまることなく、社会の法的需要に応えるため、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況となることを目指すべきとされているところでございます。
 法務省といたしましては、この推進会議の決定を踏まえまして、関係機関、団体の御協力を得ながら、法曹需要を踏まえた法曹人口の在り方について、必要なデータ集積等を継続して行っている状況でございます。
 しっかりとその質が担保されるように、こうした動きにつきましても注意深く対応してまいりたいと思っております。

(引用終わり)

 一昨年、初めて合格者数が1500人を下回り、1450人となりました。もっとも、一昨年の1450人という数字は、ぎりぎり「1500人程度」といえたこと、短答・論文の合格率のバランスが崩れていたことから、当サイトでは、何らかのイレギュラーな要因があったのではないか、議論が紛糾して、このような微妙な数字に落ち着いたのではないか、と考えたのでした(「令和2年司法試験の結果について(1)」)。それが、昨年は、合格者数が1421人となり、「1500人程度」と表現することが難しい数字であったことに加え、短答・論文の合格率のバランスがよく、、粛々と合格者数が決まったとみえたのでした(「令和3年司法試験の結果について(1)」)。
 これを踏まえて今年の結果をみると、合格者数は、1403人。これは、とても「1500人程度」と表現することはできない数字です。では、短答・論文の合格率のバランスはどうか。当サイトでは、今年の出願者数が公表された段階で、昨年と同じ短答・論文合格率だった場合と、論文で「1400人基準」が維持された場合のそれぞれを想定したシミュレーションを行っていました(「令和4年司法試験の出願者数について(2)」)。以下の表は、その当時の試算と、実際の結果をまとめたものです。 

  受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
昨年と同じ
短答・論文
合格率の場合
の試算
3030 2364 78.0% 1255 53.1% 41.4%
論文で
「1400人基準」が
維持された場合
の試算
2500 82.5% 1430 57.2% 47.1%
実際の
令和4年の
結果
3082 2494 80.9% 1403 56.2% 45.5%

 実際の結果は、論文で「1400人基準」が維持された場合の試算に近い数字であることがわかります。短答合格発表の時点で、論文で「1400人基準」が維持された場合の試算に近い短答合格者数であったことから、当サイトでは、特にイレギュラーな要因が作用しない限り、論文合格者数は昨年同様の水準になりそうだ、と考えていたのでした。 

(「令和4年司法試験短答式試験の結果について(1)」より引用。太字強調は原文による。)

 今回の短答式試験の結果は、論文合格者数を昨年同様の水準にすることを見越したものだ、と考えて無理がない、ということができるでしょう。特にイレギュラーな要因が作用しない限り、論文合格者数は、昨年同様の水準になりそうです。

(引用終わり)
 

 以上のように、今年は、短答・論文の合格率のバランスがよく、事前に予測可能な結果だったといえます。その意味で、今年の結果は、昨年同様、粛々と決まったものだ、ということができるでしょう。

2.もっとも、1403人という数字は、いかにも「1400人ギリギリ」という印象を与えます。このことに着目すると、「司法試験委員会は、敢えて1400人ギリギリの数字にすることで、来年こそは1400人を下回る数字にするぞ、というメッセージを送ろうとしたに違いない。」という説明がされそうです。さて、そのような説明は可能なのか。以下は、これまでの合格者数の推移です。なお、年号の省略された年の記載は、平成の元号によります。

合格者数
18 1009
19 1851
20 2065
21 2043
22 2074
23 2063
24 2102
25 2049
26 1810
27 1850
28 1583
29 1543
30 1525
令和元 1502
令和2 1450
令和3 1421
令和4 1403

 平成27年以降、合格者数は一貫して減少しています。そして、今年は1400人ギリギリで、この減少傾向が続くのであれば、来年は1400人を下回ってしまいそうにみえる。そうすると、「司法試験委員会は、敢えて1400人ギリギリの数字にすることで、来年こそは1400人を下回る数字にするぞ、というメッセージを送ろうとしたに違いない。」という説明にも説得力がありそうです。そこで、これまでの合格者数の決定についてどのような説明が可能であったのかも踏まえて、もう少し緻密に考えてみましょう。
 平成20年から平成27年までは、合格者数の決定基準はとても安定していました。一貫して、「〇〇人基準」、すなわち、5点刻みで最初に基準となる人数を超える累計人員となる得点を合格点とする、というルールで説明できたのです(「平成27年司法試験の結果について(1)」)。ところが、平成28年は、1500人強の合格者数だったにもかかわらず、「1500人基準」では説明できない合格者数でした(「平成28年司法試験の結果について(1)」)。この年は、何らかの理由で、イレギュラーな合格者数の決まり方になっていたのでしょう。その年のイレギュラーな要因としては、例の漏洩問題の影響で法科大学院の教員が考査委員から外され、実務家が考査委員の多数を占めていた(「平成28年司法試験考査委員の体制に関する提言」)ということがありました。当時、弁護士会は、合格者数の大幅な減少を主張していました(「平成30年司法試験の出願者数について(2)」)。また、元々、実務家考査委員というのは、合格点を下げて合格者数を増やすことには消極的だったのでした。

司法制度改革審議会集中審議(第1日)議事録より引用。太字強調は筆者。)

藤田耕三(元広島高裁長官)委員 大分前ですけれども、私も司法試験の考査委員をしたことがあるんですが、及落判定会議で議論をしますと、1点、2点下げるとかなり数は増えるんですが、いつも学者の試験委員の方が下げることを主張され、実務家の司法研修所の教官などが下げるのに反対するという図式で毎年同じことをやっていたんです。学者の方は1点、2点下げたところで大したレベルの違いはないとおっしゃる。研修所の方は、無理して下げた期は後々随分手を焼いて大変だったということなんです。 そういう意味で学者が学生を見る目と、実務家が見る目とちょっと違うかなという気もするんです。

(引用終わり)

(「基本ルールTF/基準認証・法務・資格TF議事録(法務省ヒアリング)平成19年5月8日(火)」より引用。太字強調は筆者。)

佐々木宗啓(法務省大臣官房司法法制部参事官) 私 、ここに来る前に司法研修所の民事裁判の教官をやってございました。そして、弁護士になるにしても、何になるにしても、イロハであるものに要件事実の否認と抗弁の違いというものがございます。これについてのあってはならない間違いとして、無権代理の抗弁というものがございます。
 これは昔でありましたら、1つの期を通じて間違いを冒すのが数名出るか出ないかであって、幻の抗弁と呼ばれていたのですが、最近になりましたら、それがクラスでちらほら見かけられるようになった。新60期のときには、いくつかのクラスに2桁出てしまっており,相当大変な事態になっているのではないかと思います。

(引用終わり)

 そして、平成29年は、「1500人基準」で説明できる合格者数だったのですが、短答の合格率と論文の合格率のバランスが崩れていたことから、当初は1500人強を受からせるつもりはなかったのではないか、短答段階ではもっと少ない合格者数にするはずだったのに、論文合格判定の段階で異論が出て、急遽1500人強になったのではないか、と思わせるような数字でした(「平成29年司法試験の結果について(1)」)。この年は、考査委員に法科大学院教員が戻ってきた年でした(「平成30年司法試験の出願者数について(2)」)。このように、平成28年は「1500人基準」によらなかったという点で、平成29年は短答・論文の合格率のバランスが崩れていたという点で、それぞれ何らかのイレギュラーな要因があったのだろう、ということが伺われる結果でした。
 その後は、「〇〇人基準」で説明でき、短答・論文の合格率のバランスのよい「安定型」と、そうではない「イレギュラー型」が頻繁に入れ替わる時代となりました。平成30年及び令和元年は「1500人基準」で説明ができ、短答・論文の合格率のバランスもよい安定型(「平成30年司法試験の結果について(1)」、「令和元年司法試験の結果について(1)」)。一昨年は、「1500人基準」で説明ができず、かつ、短答・論文の合格率のバランスも崩れているイレギュラー型となり(「令和2年司法試験の結果について(1)」)、昨年は、「1400人基準」で説明でき、かつ、短答・論文の合格率のバランスもよい、という安定型となったのでした(「令和3年司法試験の結果について(1)」)。

3.さて、以上を踏まえた上で、今年の結果はどうだったのか、みてみましょう。以下は、今年の合格点である750点前後における5点刻みの人員分布です。

得点 累計人員
760 1338
755 1372
750 1403
745 1436
740 1464

 合格点となった750点が、5点刻みで最初に1400人を超える得点だ、ということがわかります。すなわち、「1400人基準」で説明できる。前記1のとおり、今年は、短答・論文の合格率のバランスもよかったので、昨年に引き続き、安定型だったということになります。同時に、冒頭で示した「司法試験委員会は、敢えて1400人ギリギリの数字にすることで、来年こそは1400人を下回る数字にするぞ、というメッセージを送ろうとしたに違いない。」というような説明が、適切でないこともわかるでしょう。1403人という1400人ギリギリの数字になったのは、合格点前後の人員分布による偶然の結果、すなわち、たまたま5点刻みで最初に1400人を超えた数字が1403人だったから、というにすぎないのです。もっとも、「1400人基準」によって合格者数を決定するということは、当初から「1500人程度」の合格者数にするつもりがないことを意味します。これは、意図的なものといってよい。では、「1500人程度」という法曹養成制度改革推進会議決定はどうなってしまったのか。それは次回、詳しく説明します。

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