2017年09月18日

平成29年司法試験の結果について(3)

1.今回は、論文式試験の全科目平均点をみていきます。以下は、これまでの全科目平均点及び受験者数の推移をまとめたものです。全科目平均点のかっこ書は、最低ライン未満者を含む数字、受験者数前年比の括弧書きは、変化率を示しています(なお、各年の全科目平均点を比較することの意味については、「平成26年司法試験の結果について(4)の補足」を参照)。

全科目
平均点
前年比

受験者数

前年比
18 404.06 ---

2087

---
19 393.91 -10.15

4597

+2510
(+120.2%)
20 378.21
(372.18)
-15.70

6238

+1641
(+35.6%)
21 367.10
(361.85)
-11.11
(-10.33)

7353

+1115
(+17.8%)
22 353.80
(346.10)
-13.30
(-15.70)

8163

+810
(+11.0%)
23 353.05
(344.69)
-0.75
(-1.41)

8765

+602
(+7.3%)
24 363.54
(353.12)
+10.49
(+8.43)
8387 -378
(-4.3%)
25 361.62
(351.18)
-1.92
(-1.94)
7653 -734
(-8.7%)
26 359.16
(344.09)
-2.46
(-7.09)
8015 +362
(+4.7%)
27 376.51
(365.74)
+17.35
(+21.65)
8016 +1
(+0.0%)
28 397.67
(389.72)
+21.16
(+23.98)
6899 -1117
(-13.9%)
29 374.04
(360.53)
-23.63
(-29.19)
5967 -932
(-13.5%)

 全科目平均点と受験者数の間には、緩やかな逆相関性があります。いつの年にも、上位層というのは、一定の限られた人数しかいないものです。ですから、受験者数が増加することは、下位層の増加を意味することになりやすい。その結果、受験者数が増加すると、全科目平均点は下がりやすい、という緩やかな関係性があるというわけです。ただし、必ずしも、受験者数の増減幅に応じて全科目平均点が上下する、という関係にはありません。平成25年のように、逆相関の関係にない年もある。「緩やかな」と表現した所以です。とはいえ、平成26年までは、それで概ね説明が付きました

2.しかし、平成27年は、受験者数にほとんど変化がないのに、全科目平均点が急上昇しました。これは、上記の全科目平均点と受験者数の関係性からは説明が付きません。当時、当サイトでは、この異常な全科目平均点の急上昇の主な要因として、考査委員間で得点分布の目安を守ろうという申し合わせがあったのではないか、と説明していました(「平成27年司法試験の結果について(3)」)。「法科大学院制度がうまくいかないのは、司法試験が難しすぎるせいだ。(法科大学院が悪いのではなく、司法試験委員会が悪い。)」という法科大学院関係者からの批判を契機として、司法試験の成績評価の在り方が、検証の対象とされるようになったからです。

 

法曹の養成に関するフォーラム論点整理(取りまとめ)(平成24年5月10日)より引用。太字強調は筆者。)

 現在の合否判定は,受験者の専門的学識・能力の評価を実質的に反映した合理性のあるものになっているか疑問とする余地があり,合格者数が低迷しているのは合格レベルに達しない受験者が多かったからだと直ちに断定することはできず,合否判定の在り方についても見直す必要があるのではないか,法曹になるために最低限必要な能力は何かという観点から合格水準について検討すべきではないか,新たな法曹養成制度の下で司法試験合格者に求められる専門的学識・能力の内容や程度について,考査委員の間に共通の認識がないのではないか,新司法試験の考査委員には,法科大学院での教育やその趣旨についての理解が十分でないまま,旧来の司法試験と同様の意識や感覚で合否の決定に当たっている者も少なくないのではないかと疑われるとの意見があり,また,この立場から,考査委員の選任や考査委員会議の在り方等について工夫してはどうか(例えば,考査委員代表者を中心にする少人数の作業班により答案の質的レベル評価を反映する合格ラインの決定を行う等)との意見があった。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第48回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

井上正仁座長代理 やはり旧来どおりの司法試験の在り方やその結果が絶対だと見る既存のものの考え方が根強く残っている。新しい法曹養成制度になったときに、制度の趣旨に照らしてその点を見直し、その結果として前のとおりで良いと意識的に判断して、そうしているならば、それはそれで一つの考え方だと思うのですけれども、果たしてそのような意識的な検討が十分なされたのかどうか。新たな法曹養成制度の下で、特に多様なバックグラウンドの方をたくさん受け入れて、法曹の質を豊かなものにしていこうというのが大きな理念であるはずですが、それに適合した選別の仕方がなされているのかどうか。その辺について内部では議論されているのかもしれないのですけれど、司法試験委員会ないし考査委員会議は、守秘義務の壁の向こうにあるものですから、よく分からない。しかし、そういったところも、やはり検証する必要がある

井上正仁座長代理 司法試験については、司法試験委員会ないし法務省の方の見解では、決して数が先にあるのではなく、あくまで各年の司法試験の成績に基づいて、合格水準に達している人を合格させており、その結果として、今の数字になっているというのです。確かに、閣議決定で3,000人というのが目標とはされているのだけれども、受験者の成績がそこまでではないから、2,000ちょっとで止まっているのだというわけです。それに対しては、その合格者決定の仕方が必ずしも外からは見えないこともあり、本当にそうなのかどうか、合格のための要求水準について従来どおりの考え方でやっていないかどうかといった点も検証する必要がある

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第68回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

井上正仁座長 今の点は,法科大学院制度発足のときにも,必ずしも法廷活動を中心にする狭い意味の法曹の育成を専ら念頭に置いていたというわけではなく,社会のいろいろな方面に法曹資格,あるいは,それに匹敵するような能力を備えた人が進出していき,その専門的能力を活(い)かして様々な貢献をするということが目指すべき理想とされ,そういう理念で出発したはずなのですけれども,その後,現実には司法試験というものの比重が非常に重いため,どうしても狭い意味の法曹というところに焦点が絞られるというか,多くの関係者の視野が狭くなってしまっていると言うことだと思います。これまでの本委員会でも,度々同じような御意見が出,議論もあったところですが,何かもう少し具体的な形で議論できるようにすることを考えていきたいと思っています。

(引用終わり)

(「法曹養成制度検討会議取りまとめ」(平成25年6月26日)より引用。太字強調は筆者。)

 具体的な方式・内容,合格基準・合格者決定の在り方に関しては,司法試験委員会において,現状について検証・確認しつつより良い在り方を検討するべく,同委員会の下に,検討体制を整備することが期待される

(引用終わり)

 (「平成28年以降における司法試験の方式・内容等の在り方について」(平成27年6月10日司法試験委員会決定)より引用。太字強調は筆者。)

第3.出題の在り方等についての検証体制

1.検証体制の位置付け

 司法試験考査委員は,これまでも毎年の出題等に関する検証を行ってきたものであるが,今後,出題等に関するより一層の工夫が求められることを踏まえ,その工夫の趣旨や効果等を検証するとともに,各科目・分野を横断して認識を共有し,その後の出題等にいかすため,年ごとに,各科目・分野の考査委員の中から検証担当考査委員を選任し,その年の司法試験実施後において,共同してその年の試験についての検証を行うこととする。

2.検証体制の構成

 検証担当考査委員については,研究者と実務家の考査委員の双方を含めるとともに,実務家については,法曹三者を全て含めることとする。

3.検証の対象

 検証担当考査委員による検証については,その年の短答式試験及び論文式試験の出題のみならず,成績評価や出題趣旨・採点実感等も対象とする

4.検証結果の取扱い

 検証担当考査委員による検証の結果については,適切な方法で司法試験委員会に報告するとともに,その後の出題等にいかすこととする。

(引用終わり)

 (「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日)より引用。太字強調は筆者。)

 司法試験の具体的方式・内容、合格基準・合格者決定の在り方に関しては、司法試 験法の改正等を踏まえ、試験時間等に一定の変更が加えられたものであるが、今後においても、司法試験委員会において、継続的な検証を可能とする体制を整備することとしたことから、検証を通じ、より一層適切な運用がなされることを期待する

(引用終わり)

 

 上記の検証については、偶然に考査委員による情報漏えい問題と時期が一致したために、それとの関係で考えてしまう人もいるかもしれませんが、そうではありません。要するに、「司法試験をもっと簡単にしろ。」という圧力を、司法試験委員会にかけるための仕組みです。
 さて、得点分布の目安が守られた場合の全科目平均点を試算すると、概ね374.6点となります(「平成27年司法試験の結果について(3)」)。「考査委員が得点分布の目安を守ろうとした。」という仮説を前提にすると、全科目平均点は、この374.6点に近い数字になっていなければなりません。平成27年の全科目平均点は376.51点でしたから、概ねこの仮説で説明できたのです。

3.ところが、昨年の全科目平均点は、一昨年からさらに急上昇し、397.67点になってしまいました。これは、過去の数字でみると、平成18年に次ぐ高い数字で、得点分布の目安よりも、むしろ高い水準になってしまっています。この水準で定着するようなら、「考査委員が得点分布の目安を守ろうとした。」という仮説では説明が付きません。
 では、今年はどうだったかというと、昨年から20点以上も下がって、374.04点でした。これは、得点分布の目安が守られた場合の全科目平均点である374.6点にとても近い数字です。このことから、今年は、「考査委員が得点分布の目安を守ろうとした。」という仮説で説明が付くことがわかります。昨年がイレギュラーだった、ということです。昨年の全科目平均点が異常に高い数字になった原因としては、昨年も指摘したとおり、平成27年よりも受験者数が減少し、全科目平均点は上昇しやすい要素があったのに、平成27年同様の甘い採点基準を適用してしまった可能性や、考査委員から法科大学院教員が排除されたために、手堅い問題、採点基準を採用してしまった結果、従来より得点しやすくなってしまった可能性が考えられるでしょう(「平成27年司法試験の結果について(3)」)。

4.「考査委員が得点分布の目安を守ろうとした。」という仮説が正しいとするなら、これは来年も同様の傾向となるでしょう。すなわち、全科目平均点は、374点くらいで推移するだろう、と予測できることになります。
 現在のところ、全科目平均点がどのくらいの水準であるかは、合否の決定には直接の影響はありません。なぜなら、これまで、司法試験の合否は、「2000人基準」、「1800人基準」、「1500人基準」というように、人数を基準にして決定されてきたからです(「平成29年司法試験の結果について(1)」)。つまり、全科目平均点が上がれば、それに応じて合格点も上がるし、全科目平均点が下がれば、合格点もそれに応じて下がるので、全科目平均点が上がったから難易度が下がるとか、全科目平均点が下がったから難易度が上がるということはない。ただし、全科目平均点の水準は、間接的に、最低ライン未満になりやすいか否かや、採点実感等に関する意見における評価区分(優秀、良好、一応の水準及び不良)の読み方等に影響してきます。この点については、後の記事で、詳しく説明したいと思います。 

posted by studyweb5 at 16:42| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする


  【当サイト作成の電子書籍一覧】
司法試験平成28年最新判例ノート
平成29年司法試験のための平成28年刑訴法改正の解説
司法試験定義趣旨論証集刑訴法(逐次改頁版)
司法試験定義趣旨論証集刑訴法(通常表示版)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(民法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(民法)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(行政法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(行政法)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(憲法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(憲法)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(会社法)
司法試験定義趣旨論証集(会社法)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(物権)
司法試験定義趣旨論証集(物権)
司法試験平成26年最新判例ノート
司法試験論文用平成26年会社法改正対応教材
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(民法総則)
司法試験定義趣旨論証集(民法総則)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(刑法各論)
司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(刑法総論)
司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)
司法試験平成25年判例肢別問題集
司法試験平成25年判例論証穴埋問題集
司法試験平成25年判例論証集
司法試験定義趣旨論証集(行政法)

  【最新ニュース・新刊書籍紹介】
法科大学院移転し開所式、九州大…六本松キャンパス跡に
ジュリスト 2017年 10 月号
原発避難者訴訟 群馬弁護団は「怠慢見落とし」批判、損害額算定は評価
「相談役」「顧問」の居座りは社員全員の迷惑だ
法学教室 2017年 10 月号
電通社長、違法残業認める…罰金50万円求刑
「働き方法案」に潜むブラック要素を検証する
速報判例解説(21) 2017年 10 月号 (法学セミナー 増刊)
インド最高裁、ムスリムの「三下り半」トリプル・タラクを違憲判断 
ケニア大統領、「最高裁がクーデター」 再選無効の判断を非難
司法試験・予備試験 スタンダード100 (7) 刑事訴訟法 2018年 (司法試験・予備試験 論文合格答案集)
平成29年司法試験論文式試験出題の趣旨
平成29年司法試験最終合格発表に関する会長談話(日弁連)
裁判官はこう考える 弁護士はこう実践する 民事裁判手続
平成29年司法試験の結果について
司法試験合格率、今年も名門校が惨敗のワケ “危険水域”の法科大学院は?
1科目3分で分かる!司法試験、予備試験論文答案作成のコツ
司法試験1543人合格 予備試験経由、最多の290人 
「弁護士になりたい若者激減」が示す、日本の明るくない未来
事実認定体系<物権編> (【事実認定体系シリーズ】)
17年司法試験合格1543人=新制度下で最低更新
司法試験 現制度で最少の合格者数に
憲法学からみた最高裁判所裁判官 70年の軌跡
法科大学院 撤退相次ぐ 来年度から立教・青学が募集停止
元検事の31歳女弁護士を逮捕 カッターで同僚切り付けた疑い
S式生講義 入門憲法
国が訴訟当事者 重要事件2・5倍に 辺野古移設・諫早湾干拓…「国際裁判にノウハウ生かす」
弁護士をロボットに置き換えようとするベンチャー企業をシリコンバレーの著名起業家が興す
伊藤真の憲法入門 第6版
昨年の参院選比例区は「有効」 非拘束名簿式巡り最高裁
トランプ政権の難民入国制限、最高裁が却下判断保留
司法試験の問題と解説2017: 別冊法学セミナー
司法試験合格者のための進路説明会(法務省)
誤認逮捕で女性19日間勾留は「ひどすぎる」と物議 問題はないのか弁護士に聞いた
法学セミナー 2017年 10 月号
AI専門の法律家育成=宇宙分野も、東京弁護士会-「法曹離れ」歯止めに
無資格の事務員に弁護士業務させる 37歳男性弁護士を処分 神奈川県弁護士会
2018年版 司法試験&予備試験 完全整理択一六法 民法
平成30年司法試験予備試験試験会場の公募について

刑事訴訟法等の一部を改正する法律について
いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について(PDF)
法曹養成制度関係閣僚会議
民法(債権関係)の改正に関する要綱案
民法の一部を改正する法律案
法曹養成制度改革の推進について(PDF)
法曹養成制度改革推進会議
法曹養成制度改革顧問会議
平成29年司法試験予備試験の結果について
平成29年司法試験の結果について
司法試験考査委員の不適切行為に関する通報窓口

  【司法研修所教材・講義案・調査官解説等】
事件記録教材 法科大学院教材
調査官解説
事例で考える民事事実認定
民事訴訟における事実認定 契約分野別研究(製作及び開発に関する契約)
プラクティス刑事裁判
プロシーディングス刑事裁判
検察講義案 平成24年版
新問題研究要件事実
紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造 改訂
刑事第一審公判手続の概要
刑事判決書起案の手引
民事判決起案の手引
民事訴訟第一審手続の解説
情況証拠の観点から見た事実認定
民事訴訟における要件事実 第2巻
民事訴訟における要件事実 増補 第1巻
書記官研修講義案等