2022年11月20日

令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(2)

1.口述試験結果の発表と同時に、参考情報として、短答、論文段階を含めた詳細なデータが公表されます。
 以下は、直近5年の年齢層別の受験者数の推移です。

年齢層 平成30 令和元 令和2 令和3 令和4
19歳以下 76 107 100 151 125
20~24歳 3631 3791 3573 3952 4320
25~29歳 1297 1372 1200 1274 1422
30~34歳 1014 1079 962 1063 1177
35~39歳 988 1036 908 1057 1131
40~44歳 980 1006 899 941 1037
45~49歳 959 992 810 898 991
50~54歳 761 817 769 844 946
55~59歳 615 692 616 638 766
60~64歳 382 434 388 440 540
65~69歳 270 281 211 256 288
70~74歳 110 120 129 150 188
75~79歳 36 31 30 31 50
80歳以上 17 22 13 22 23

 19歳以下を除き、すべての年代で受験者が増加しています。コロナ禍前の令和元年と比較しても、40代後半以外は受験者が増加しており、感染を恐れて受験を控えるという雰囲気ではなくなってきたといえるでしょう。20代がコロナ禍前より増加していることから、法曹コース、在学中受験等が、必ずしも若者の受験を抑制する結果にはなっていないことがわかります。一方で、70代以上の受験者数も堅調に伸びていることについては、なんともいいがたいものを感じます。

2.以下は、今年の年齢層別最終合格者数、受験者ベースの最終合格率等をまとめたものです。

年齢層 受験者数 最終
合格者数
最終合格率
(対受験者)
19歳以下 125 1.60%
20~24歳 4320 279 6.45%
25~29歳 1422 67 4.71%
30~34歳 1177 34 2.88%
35~39歳 1131 39 3.44%
40~44歳 1037 22 2.12%
45~49歳 991 11 1.10%
50~54歳 946 0.73%
55~59歳 766 0.91%
60~64歳 540 0.74%
65~69歳 288 0%
70~74歳 188 0%
75~79歳 50 0%
80歳以上 23 0%

 20代前半が最も高いものの、それでも7%に満たない合格率です。50代以降に関しては、ほとんど絶望的な数字になっている。「よくこんな試験受けてんな。」と、感じさせます。よく、「予備試験は抜け穴として安易に利用されている。」というような指摘がされがちですが、実際には針に糸を通すような非常に狭いルートであって、「法科大学院に行かなくても、予備ルートなら簡単に法曹になれる。」等と安易に考えて受験するのは、とても危険です。仕事をしながら予備ルートで法曹になる、というのは魅力のある選択肢ですが、受験するのであれば、相応の覚悟が必要です。今年、40代以上の受験者は4829人で、合格者は51人です。毎年51人合格するとして、4829人全員が合格するには、単純計算で95年程度を要します。何となく勉強を続けて毎年受験していれば、いつかは受かるだろう、というのは、とても甘い考えです。

3.前記2のとおり、受験者ベースの最終合格率をみると、20代前半が最も高いわけですが、短答・論文段階に分けて見てみると、見え方が違ってきます。以下は、年齢層別の短答合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。  

年齢層 受験者数 短答
合格者数
短答合格率
(対受験者)
19歳以下 125 10 8.00%
20~24歳 4320 817 18.91%
25~29歳 1422 270 18.98%
30~34歳 1177 239 20.30%
35~39歳 1131 247 21.83%
40~44歳 1037 290 27.96
45~49歳 991 262 26.43%
50~54歳 946 241 25.47%
55~59歳 766 212 27.67%
60~64歳 540 136 25.18%
65~69歳 288 67 23.26%
70~74歳 188 31 16.48%
75~79歳 50 12.00%
80歳以上 23 4.34%

 短答段階では、40代前半がトップであることがわかります。次いで50代後半60代前半でも、25%を維持しています。最終合格率トップだったはずの20代前半は19%程度と、高齢受験者に及びません。19歳以下に至っては、8%程度で、70代後半(12%)にも劣る有様です。「はっはっは。甘いんじゃよ若造め。」と言われても、仕方のない結果だといえるでしょう。短答は単純に知識で差が付くので、苦節10年、20年と勉強を続けてきた高齢受験者が有利になるのです。仮に短答だけで合否を決する仕組みであれば、若手は合格することが難しい試験となっていたことでしょう。

4.それが、論文段階になると、全く違う景色になります。以下は、年齢層別の論文合格率(短答合格者ベース)等をまとめたものです。  

年齢層 短答
合格者数
論文
合格者数
論文合格率
(対短答合格)
19歳以下 10 20.00%
20~24歳 817 283 34.63%
25~29歳 270 70 25.92%
30~34歳 239 35 14.64%
35~39歳 247 39 15.78%
40~44歳 290 22 7.58%
45~49歳 262 12 4.58%
50~54歳 241 2.90%
55~59歳 212 3.30%
60~64歳 136 2.94%
65~69歳 67 0%
70~74歳 31 0%
75~79歳 0%
80歳以上 0%

 短答では強かった高齢受験者が壊滅し、若手が圧倒的有利になっています。以前の記事(「令和4年司法試験の結果について(12)」)で説明した若手優遇策は、予備試験の論文式試験でも用いられているのです。法律の知識・理解だけで勝負させてしまうと、短答のように高齢受験者が有利になり、40代前半が最も受かりやすい試験になってしまう。「40代まで勉強を続けた者が一番受かりやすい試験」など、誰も受けたくないでしょう。だから、そのような年代層が受からないような出題、採点をする。具体的には、長文の事例問題を出題し、規範と事実、当てはめ重視の採点をするということです。規範も、判例の規範であれば無条件に高い点を付けるが、学説だとかなり説得的な理由を付していなければ点を付けない。若手は、とにかく判例の規範を覚えるので精一杯です。しかし、勉強が進んでくると、判例の立場の理論的な問題点を指摘する学者の見解まで理解してしまいます。「そうか判例は間違いだったのか。」と、悪い意味で目から鱗が落ちる。こうして、年配者は、「間違った」判例ではなく、「正しい」学説を書こうとします。この傾向を逆手に取れば、若手優遇効果のある採点ができるというわけです。この採点方法は、「理論と実務の架橋という理念からすれば、まず判例の立場を答案に示すことが求められる。」という建前論によって、正当化することができる点でも、優れています。このことを知った上で、正しく対策をしないと、知識・理解をどんなに深めても、合格することは極めて困難になります。一方で、正しく対策し、訓練すれば、高齢受験者でも、不利を克服できることがわかっています(「令和4年司法試験の結果について(8)」)。前にも説明したとおり、漫然と受験を繰り返すだけでは、計算上、40代以上の受験者は合格に95年かかっても不思議ではない合格に必要とされる知識・理解の程度は、19歳以下でも習得できるレベルになっているのが現状です。その程度の知識・理解を習得した後に合否を分けるのは、配点の高い規範と事実を重視した答案スタイルと、それを最後まで書き切る筆力です。意識して答案スタイルを変え、限られた時間で必要な文字数を書き切るだけの訓練をすることが必要です。「こんなことは法曹に必要な能力なのか。」とか、「こんな非本質的な作業はつまらない。」等と思っているうちは、合格は極めて難しいでしょう。

posted by studyweb5 at 12:37| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする

2022年11月18日

令和4年予備試験口述試験(最終)結果について(1)

1.令和4年予備試験口述試験の結果が公表されました。合格点は、これまでと同じ119点最終合格者数は、472人でした。昨年の最終合格者数467人と比べると、5人の増加ということになります。
 今年の口述試験の受験者合格率は、472÷481≒98.12%でした。以下は、これまでの口述試験の受験者合格率等の推移をまとめたものです。元号の省略された年の表記は、平成の元号によります。

受験者数 合格者数 受験者
合格率
前年比
23 122 116 95.08% ---
24 233 219 93.99% -1.09
25 379 351 92.61% -1.38
26 391 356 91.04% -1.57
27 427 394 92.27% +1.23
28 429 405 94.40% +2.13
29 469 444 94.66% +0.26
30 456 433 94.95% +0.29
令和元 494 476 96.35% +1.40
令和2 462 442 95.67% -0.68
令和3 476 467 98.10% +2.43
令和4 481 472 98.12% +0.02

 平成26年までは下落傾向でしたが、平成27年以降は、上昇傾向となっています。とはいえ、昨年の98%というのはさすがに高すぎるということで、当サイトとしては、今年はもう少し低い水準となるだろうと予想していました(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)。ところが、今年も、昨年と同水準の非常に高い合格率となっています。
 以前にも説明したとおり、口述試験の理論的な合格率は、93.75%です(「令和4年予備試験口述試験対策について(上)」)。平成28年以降は、それを上回る数字で推移しています。ですから、当面は58点以下が付く可能性を考える必要はないでしょう。最近では、口述の再現をネット上に公開する人が増え、口述不合格者の再現を目にする機会が増えてきています。それをみると、民事・刑事のどちらかが悪く、それが58点以下になって不合格になったようにみえたりするものです(再現者自身がそのような感想を述べていることも多いようです。)。しかし、上記の合格率からは、そうではない可能性が高いといえます。以前の記事(「令和4年予備試験口述試験対策について(上)」)でも説明したとおり、口述は初日に大失敗した、と感じるのが普通で、58点が付く可能性を考えるようになると、それだけで心理的に不利になります。口述再現を目にする機会が増えることは悪いことではありませんが、読み方には注意を要します(※)。以前の記事(「令和4年予備試験口述試験対策について(下)」)でも説明しましたが、口述再現は、当日の雰囲気を知る程度のものとして読み流せばよく、論文の再現答案のように、それを分析して対策しようとすることは、適切とはいえないと思います。
 ※ 論文は答案という書面の内容のみで審査されますが、口述は言語によるやり取り以外の要素も審査対象となること、採点方法も論文とは違い、考査委員の印象でざっくりと決まること、論文は試験問題が公開されますが、口述の場合は主査の問いかけ自体も受験生の記憶に基づくこと、とっさのやり取りは記憶に残りにくいことに加え、論文よりも受け答えの内容が人格に関わりやすく、本当に恥ずかしい受け答えは再現から省いてしまいがちなこと等、口述再現には不確定要素があまりにも多く、それを理解した上で適切に判断の材料とすることは容易ではありません。

2.以下は、年代別の口述合格率(論文合格者ベース)の推移です。元号の省略された年の表記は、平成の元号によります。

19歳
以下
20代 30代 40代 50代
以上
23 --- 96.0% 94.2% 87.5% 100%
24 --- 99.2% 91.8% 81.8% 83.3%
25 --- 95.0% 93.4% 75.8% 64.2%
26 --- 92.6% 83.9% 86.2% 87.5%
27 --- 93.0% 92.0% 83.8% 88.2%
28 --- 95.4% 89.1% 91.3% 88.8%
29 100%
(2人)
96.8% 88.0% 87.0% 87.5%
30 100%
(1人)
95.6% 94.1% 93.9% 66.6%
令和元 100%
(1人)
97.9% 93.3% 87.5% 77.7%
令和2 100%
(3人)
97.0% 94.0% 76.0% 85.7%
令和3 100%
(4人)
98.6% 96.0% 87.0% 93.3%
令和4 100%
(2人)
98.0% 98.6% 97.0% 100%
(18人)

 従来から確立している傾向として、20代が常にトップ、ということがありました(母数の少ない19歳以下を除く。)。口述も、基本的には若手有利の傾向であったといえるでしょう。もっとも、今年に関しては、50代以上が全員合格する一方で、20代、30代、40代で満遍なく不合格者が出るという結果でした。合格率が98%台と非常に高く、実数としても不合格者は9人しかいないため、比較自体があまり意味を持たなくなってきたともいえそうです。

3.以下は、予備試験の最終合格者の平均年齢の推移です。元号の省略された年の表記は、平成の元号によります。

最終合格者
平均年齢
23 31.57
24 30.31
25 27.66
26 27.21
27 27.36
28 26.16
29 26.90
30 27.43
令和元 26.03
令和2 25.89
令和3 26.28
令和4 27.73

 平成24年から平成25年にかけて一気に若年化が進み、平成27年まではほぼ横ばい平成28年は、さらに1歳以上若年化しました。そして、平成30年までやや上昇傾向となった後に、令和元年からは再び若年化傾向となったともみえました。それが、昨年は0.4歳程度の高齢化今年は、一気に1.5歳程度の高齢化となりました。その主な要因は、大学生や法科大学院生の合格者の増減にあります。以下は、最終合格者全体に占める大学在学中、法科大学院在学中の合格者の割合の推移です。元号の省略された年の表記は、平成の元号によります。

大学在学中 法科大学院在学中 両者の合計
23 33.6% 5.1% 38.7%
24 31.5% 27.8% 59.3%
25 30.4% 46.7% 77.1%
26 32.0% 47.1% 79.1%
27 39.5% 35.0% 74.5%
28 44.1% 38.0% 82.1%
29 47.9% 24.5% 72.4%
30 39.2% 35.1% 74.3%
令和元 52.7% 24.3% 77.0%
令和2 54.7% 21.9% 76.6%
令和3 53.9% 21.4% 75.3%
令和4 41.5% 26.6% 68.1%

 一般に、大学生・法科大学院生は若者が多いので、大学在学中、法科大学院在学中の合格者の割合が増加すると、全体の平均年齢は若年化しやすくなります。また、一般に、法科大学院生より大学生の方が若いので、法科大学院在学中合格者が減少し、それに代えて大学在学中合格者が増加すると、やはり全体の平均年齢は若年化しやすくなるのです。平成26年までの若年化は、主に法科大学院在学中合格者の増加が原因でした。しかし、それ以降は、法科大学院在学中合格者は減少傾向となり、代わって大学在学中合格者が増加傾向となっていきます。一昨年は、大学在学中合格者の割合が過去最高となった一方で、法科大学院在学中合格者の割合は、平成24年以降で最低水準となりました。昨年は、法科大学院在学中合格者の割合が横ばいにとどまる一方で、大学在学中合格者の増加にはブレーキがかかり、減少に転じました。今年は、法科大学院在学中合格者の割合が大きく反転上昇した一方で、大学在学中合格者の割合は10ポイント以上の大幅減少となりました。今年の大幅な高齢化は、これらを反映したものといえるでしょう。これまでは、大学生が予備合格者の半数以上を占めていました。それが、今年は一気に半数割れとなっています。法曹コース、在学中受験等の影響で、実力のある大学生の予備離れが進んでいるのかもしれません。仮に、この傾向が来年以降も続くとすれば、予備試験合格者の平均年齢は、今後も高齢化していくことになります。

posted by studyweb5 at 00:47| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする

2022年10月27日

令和4年予備試験論文式試験の結果について(2)

1.以下は、予備試験論文式試験の合格点及び平均点と両者の差の推移です。年の表記において省略された年号は、平成を指します。

論文
合格点
論文
平均点
合格点と
平均点の差
23 245 195.82 49.18
24 230 190.20 39.80
25 210 175.53 34.47
26 210 177.80 32.20
27 235 199.73 35.27
28 245 205.62 39.38
29 245 208.23 36.77
30 240 200.76 39.24
令和元 230 191.58 38.42
令和2 230 192.16 37.84
令和3 240 197.54 42.46
令和4 255 210.45 44.55

 予備試験の論文は各科目50点満点で、10科目です(「司法試験予備試験の実施方針について」)。したがって、今年の合格点である255点は、1科目当たりにすると、25.5点。同様に、今年の平均点である210.45点は、1科目当たり概ね21点ということになります。合格点と平均点との間の差は、1科目当たり4点強だということもわかります。
 さて、上記の得点は、考査委員が採点する上で、どのくらいの水準とされているのでしょうか。各科目の得点と評価の水準との対応は、以下のようになっています。 

(「司法試験予備試験の方式・内容等について」より引用。太字強調は筆者。)

(2) 各答案の採点は,次の方針により行う。

ア 優秀と認められる答案については,その内容に応じ,下表の優秀欄の範囲。
 ただし,抜群に優れた答案については,下表の優秀欄( )の点数以上。

イ 良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の良好欄の範囲。

ウ 良好とまでは認められないものの,一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の一応の水準欄の範囲。

エ 上記以外の答案については,その内容に応じ,下表の不良欄の範囲。
 ただし,特に不良であると認められる答案については,下表の不良欄[ ]の点数以下。

  優秀 良好 一応の水準 不良  
  50点から38点
(48点)
37点から29点 28点から21点 20点から0点
[3点]
 

(引用終わり)

 合格点は、一応の水準の真ん中くらい。平均点は、ぎりぎり一応の水準になる数字であることがわかります。このことは、合格を目指すに当たり、優秀・良好のレベルを目指す必要は全然ないことを意味しています。
 当サイトでは、①基本論点の抽出、②規範の明示、③事実の摘示が、司法試験と予備試験に共通する合格答案の基本要素であることを、繰り返し説明してきました(近時の司法試験の検証によってもその傾向は変わらないと考えられる点につき、「令和4年司法試験の結果について(12)」参照。)。再現答案等を見ると、予備試験は、司法試験よりも①の要素で合否が分かれやすく、②・③はできていなくても合格水準に達している場合が多いと感じます。予備試験の場合、当たり前に書けるはずの基本論点を落としてしまう人がかなりいます。基本論点を抽出できないと、それ以降の規範の明示や事実の摘示も自動的に落とすので、配点をすべて落とすことになる。その結果、それだけで不良に転落することになっていきます。そのような答案が、予備試験では普通にあるのです。そのために、基本論点さえ拾っていれば、多少規範が不正確だったり、当てはめの中に規範が紛れているような書き方をしても、合格できてしまうことがある。当てはめについても、そもそも予備は司法試験ほど問題文の事情が詳細でないこともありますが、それにしても全然事実を引いてないよね、という答案を書く人でも、論点落ちがなければ受かってしまったりするものです。もっとも、そのような書き方だと、周りの出来によっては不合格になる可能性がありますし、仮に受かっても、そのような受かり方をした人は、司法試験の方で苦戦しがちなので、おすすめはできません。今年、そのような受かり方をした人は、司法試験に向けて、上記の点を意識して修正する必要があります。
 上記のように、優秀・良好は合格に不要である、という話をすると、「それは間違いだ。普段の学習で一応の水準を狙っているようでは、実際の本試験では不良になってしまう。だから、優秀・良好を狙う勉強をすべきだ。」などという人がいます。これは、短答と論文の特性を理解していないものであり、誤っていると思います。短答は、基本的に知識量がそのまま得点に結び付きますから、普段から合格点ぎりぎりの知識しか勉強していなかったら、本試験でケアレスミスをしたり、少し難しい問題が出題されたときに、不合格になってしまいます。ですから、短答は、確実に合格点を超えようとするなら、普段の学習で、それなりに上位の得点を取れるようになっておく必要があります。当サイトでも、予備試験の短答の場合、法律科目で7~8割が目標であるとしています(「令和4年予備試験短答式試験の結果について(2)」)。しかし、論文は、知識量がそのまま得点に結び付く試験ではない時間内に何文字書けるか、という要素によって、書ける上限が画されてしまうからです。知識的には4頁びっしり書ける水準であっても、文字を書く速度が遅くて2頁しか書けないのであれば、2頁分を超える配点を取ることは物理的に不可能です。しかも、現在の論文は、規範の明示と事実の摘示に極端な配点がある。そのスタイルで書こうとすると、それだけでかなりの文字数が必要です。論文で不合格になる人の多くは、優秀・良好を狙っていなかったから不合格になっているのではありません。むしろ、優秀・良好を狙うあまり、自分の筆力に見合わない文字数を書こうとして途中答案になってしまったり、理由付けや評価を優先して規範の明示や事実の摘示が雑になったりしてしまっているからなのです。すなわち、不合格の真の原因は、単純に筆力不足であるか、規範の明示と事実の摘示というスタイルで書けなかったというだけのことなのです。そのような理由で不合格になっている人に対し、「優秀・良好を狙う勉強をすべきだ。」などと指導することは、逆効果でしかありません。そのような人が採るべき対策は、「優秀・良好を狙う勉強をすること」ではなく、「規範の明示と事実の摘示というスタイルで書くクセを身に付けること、そのスタイルで書き切れるだけの筆力を身に付けること」です。そのようなスタイルで書き切れるようになった上で、なお時間的に余裕が出てきたのなら、事実に評価を付してみる。さらに余裕があれば、規範に理由付けを付してみる。それだけでも、十分に上位答案になってしまいます。このようなことは、司法試験の出題趣旨・採点実感や再現答案などの情報を確認し、実際に自分で答案を書いて物理的に可能か等を試したりしてみれば、容易にわかることです(※1)。もちろん、上記のことは、基本論点の抽出ができることが前提です。現在の予備試験では、その水準にすら達していない人が相当数いるというのは、既に説明したとおりです。しかし、それは「一応の水準になるための最低限の勉強」であって、「優秀・良好を狙う勉強」とは無関係です。
 ※1 現在の司法試験における一応の水準が、「規範の明示と事実の摘示の概ね一方がそれなりにできていれば、他方が不十分でもよい。」というレベルであることについては、以前の記事(「令和4年司法試験の結果について(5)」)で説明しました。

2.一応の水準の真ん中くらいが合格水準だ、という話をすると、「予備試験は3~4%しか受からない試験なのに、どうして合格レベルがそんなに低いのか。」と疑問に思う人もいるかもしれません。「予備試験は極端に合格率が低いのだから、誰もが書けるようなことを普通に書いていては論文に受からない。」というのは、予備試験ではよくある誤解です。そのような誤解が生じるのは、短答受験者ベースの最終合格率を見ているからです。以下は、昨年までの予備試験の短答受験者ベースの最終合格率等の推移です。年の表記において省略された年号は、平成を指します。

短答
受験者数
最終
合格者数
最終合格率
(短答受験者ベース)
23 6477 116 1.79%
24 7183 219 3.04%
25 9224 351 3.80%
26 10347 356 3.44%
27 10334 394 3.81%
28 10442 405 3.87%
29 10743 444 4.13%
30 11136 433 3.88%
令和元 11780 476 4.04%
令和2 10608 442 4.16%
令和3 11717 467 3.98%

 マスメディアや予備校、法科大学院等が流布する情報で目にするのは、この短答受験者ベースの最終合格率でしょう。このような数字を見て、「予備試験は上位3~4%しか受からない。だから、誰も書かないような高度な内容でないと合格答案にならない。」と言われると、「そうだよな。」と思ってしまいがちです。しかし実際には、論文は短答合格者しか受験できません。ですから、論文の合格答案の水準を考えるに当たっては、短答合格者(≒論文受験者)ベースの数字を見なければならないのです。以下は、予備試験における論文受験者ベースの論文合格率等の推移です。年の表記において省略された年号は、平成を指します。

論文
受験者数
論文
合格者数
論文合格率
23 1301 123 9.45%
24 1643 233 14.18%
25 1932 381 19.72%
26 1913 392 20.49%
27 2209 428 19.37%
28 2327 429 18.43%
29 2200 469 21.31%
30 2551 459 17.99%
令和元 2580 494 19.14%
令和2 2439 464 19.02%
令和3 2633 479 18.19%
令和4 2695 481 17.84%

 平成25年以降は、20%弱、5~6人に1人くらいの割合で推移していることがわかります(※2)。ですから、上位2割弱になる程度の内容の答案を書いていれば、合格答案になるのです。予備試験の場合、論文対策を十分にしないまま受験している人が相当数いるので、基本論点すら拾えないレベルの答案が多数を占めます。その結果、前記1で示した程度の水準でも、合格レベルとなってしまうのでした。
 ※2 以前の記事(「令和4年予備試験論文式試験の結果について(1)」)で説明したとおり、今年は、短答合格者の基準人数を2800人に引き上げた一方で、論文合格者の基準人数が450人のままに据え置かれた結果、論文受験者ベースの論文合格率は低めの数字となっています。

3.最後に、得点のバラ付きについて考えます。論文式試験の得点は、各科目について得点調整(採点格差調整)がされるため、各科目の得点の標準偏差は毎年常に同じ数字です(法務省の資料で「配点率」と表記されているものに相当します。)。しかし、各科目の得点を足し合わせた合計点の標準偏差は、年によって変動し得る。そのことは、以下の表をみればわかります。憲民刑の3科目、100点満点で、ABCの3人の受験生が受験したと想定した場合の得点の例です。

X年 憲法 民法 刑法 合計点
受験生A 90 10 50 150
受験生B 50 90 10 150
受験生C 10 50 90 150

 

Y年 憲法 民法 刑法 合計点
受験生A 90 90 90 270
受験生B 50 50 50 150
受験生C 10 10 10 30

 X年もY年も、各科目における得点のバラ付きは、90点、50点、10点で同じです。しかし、合計点のバラ付きは、Y年の方が大きいことがわかります。このように、各科目の得点のバラ付きが一定でも、ある科目で良い得点を取る受験生は他の科目も良い得点を取り、ある科目で悪い得点を取る受験生は他の科目も悪い得点を取るというように、科目間の得点についての相関性が高まると、合計点のバラ付きが大きくなるのです。
 実際の数字を見てみましょう。以下は、法務省の公表している得点別人員調を基礎にして算出した予備試験の論文式試験における合計点の標準偏差の推移です。年の表記において省略された年号は、平成を指します。

標準偏差
23 39.4
24 37.3
25 41.3
26 39.4
27 39.6
28 44.2
29 52.5
30 44.4
令和元 44.2
令和2 44.0
令和3 46.0
令和4 48.1

 平成28年以降、標準偏差が高めの数字で推移するようになっていることがわかります(ちなみに、当サイトが規範と事実に特化した参考答案を掲載するようになったのが、平成27年です。)。すなわち、科目間の得点の相関性が高まり、そのことによって、論文の合計点のバラ付きが大きくなってきているのです。
 では、合計点のバラ付きが大きくなると、どのような現象が生じるのでしょうか。下記の表をみて下さい。これは、X年とY年という異なる年に、100点満点の試験を10人の受験生について行ったという想定における得点の例です。

  X年 Y年
受験生1 60 80
受験生2 55 70
受験生3 50 60
受験生4 45 50
受験生5 40 40
受験生6 35 30
受験生7 30 15
受験生8 20 10
受験生9 15 5
受験生10 10 0
平均点 36 36
標準偏差 16.24 27.00

 X年とY年は、平均点は同じですが、得点のバラ付きを示す標準偏差が異なります。上記において、10人中の上位2名を合格とすると、合格率は同じ2割です。しかし、合格点をみると、X年は55点が合格点であるのに対し、Y年は70点が合格点となります。このように、得点のバラ付きが大きくなると、同じ平均点・合格率でも、合格点が上昇するのです。現在の論文式試験は、「400人基準」や「450人基準」のように、人数を基準にして合格点が決まっているとみえます(「令和4年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。また、前記2でみたとおり、近時は概ね2割弱の合格率で推移しています。ですから、上記のことは、現在の論文式試験によく当てはまるのです。
 このことを受験テクニック的に考えると、次のようなことがいえます。すなわち、現在の司法試験・予備試験は、共通して、基本論点の規範と事実に極端な配点があり、基本論点について、規範を明示して、事実を摘示しつつ当てはめるスタイルで答案を書く人は、どの科目も上位になりやすい傾向にあります。このことが、科目間の相関性の高まりとして表れている。また、合計点のバラ付きの拡大による合格点の上昇は、ある特定の科目でたまたま良い得点が取れたというだけでは、合格するのが難しくなること、逆にいえば、安定して全科目で得点できる必要があることを意味します。その結果、上記のスタイルで書けない人は、ますます合格しにくくなり、論文特有の「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則が成立しやすくなるというわけです。このような傾向を踏まえた対策は、前記1で説明したとおり、 「優秀・良好を狙う勉強をすること」ではなく、「規範の明示と事実の摘示というスタイルで書くクセを身に付けること、そのスタイルで書き切れるだけの筆力を身に付けること」です。そのための最もわかりやすい勉強法は、記憶作業は規範部分にとどめ(※3)、過去問等を素材にして答案を書きまくるということです。
 ※3 規範インプット用の教材としては、当サイト作成の「司法試験定義趣旨論証集」があります(ただし、現時点では一部科目のみ)。

posted by studyweb5 at 07:01| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。