2016年06月21日

平成28年司法試験論文式刑事系第2問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.司法試験の論文式試験において、現在の合格ラインである「一応の水準の真ん中」に達するための要件は概ね

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記が当然にできているという前提の下で、優秀・良好のレベルに達するために必要となる場合があるに過ぎないのです。
 にもかかわらず、多くの人が、上記優秀・良好レベルの事柄を過度に重視しているように思います。現場思考で応用論点を拾いに行ったり、趣旨や本質から論じようとしたり、事実に丁寧に評価を付そうと努力するあまり、基本論点を落としてしまったり、規範を正確に示すことを怠っていきなり当てはめようとしたり、問題文中の事実をきちんと摘示することを怠ってしまい、結果として不良の水準に落ちてしまっているというのが現状です。

2.その原因としては、多くの人が参考にする出題趣旨や採点実感等に関する意見の多くの記述が、実は優秀・良好レベルの話であって、一応の水準のレベルは当たり前過ぎるので省略されてしまっていること、あまりにも上位過ぎる再現答案を参考にしようとしてしまっていることがあると思います。
 とはいえ、合格ラインギリギリの人の再現答案には、解答に不要なことや誤った記述などが散見されるため、参考にすることが難しいというのも事実です。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作ってみてはどうか、ということを考えました。

3.今回、掲載する参考答案は、上記のようなコンセプトに基づいています。「本問で基本論点はどれですか」と問えば、多くの人が指摘できるでしょう。「その論点について解決するための規範は何ですか」と問えば、事前にきちんと準備している人であれば、多くの人が答えられるでしょう。「その規範に当てはまる事実は問題文中のどこですか、マーカーを引いてみてください」と問えば、多くの人が正確に示すことができるものです。下記の参考答案は、いわば、それを繋ぎ合わせただけの答案です。
 それなりの実力のある人が見ると、「何だ肝心なことが書いてないじゃないか」、「一言評価を足せば良い答案になるのに」と思うでしょう。優秀・良好レベルの答案を書いて合格できる人は、それでよいのです。しかし、合格答案を書けない人は、むしろ、「肝心なこと」を書こうとするあまり、最低限必要な基本論点、規範、事実の摘示を怠ってしまっているという点に気付くべきでしょう。普段の勉強で規範を覚えるのは、ある意味つまらない作業です。本試験の現場で、事実を問題文から丁寧に引用して答案に書き写すのは、バカバカしいとも思える作業です。しかし、そういう一見するとどうでもよさそうなことが、合否を分けているのが現実なのです。規範が正確でないと、明らかに損をしています。また、事実を引いているつもりでも、雑に要約してしまっているために、問題文のどの事実を拾っているのか不明であったり、事実を基礎にしないでいきなり評価から入っているように読める答案が多いのです。そういう答案を書いている人は、自分はきちんと書いたつもりになっているのに、点が伸びない。そういう結果になってしまっています。
 今回の参考答案は、やや極端な形で、大前提として抑えなければならない水準を示しています。合格するには、この程度なら確実に書ける、という実力をつけなければなりません。そのためには、規範を正確に覚える必要があるとともに、当てはめの事実を丁寧に摘示する筆力を身につける必要があるでしょう。これは、普段の学習で鍛えていくことになります。
 この水準をクリアした上で、さらに問題文の引用を上手に要約しつつ、応用論点にコンパクトに触れたり、趣旨・本質に遡って論述したり、当てはめの評価を足すことができれば、さらに優秀・良好のレベルが狙えるでしょう。

4.今年の刑訴法は、4つの設問が問われており、刑法同様、書く文量が非常に多かったのが特徴です。誰もが拾うような論点に触れて、規範と当てはめの事実を示すだけでも、時間内に書き切ることは難しいでしょう。今年は、他の科目も、書くべき文量が多いという傾向でした。法律の深い理解以前に、ボールペンで速く字を書く能力がないと、合格できない。このことが、特に顕著だった年といえるでしょう。このような傾向の場合には、上記の(1)から(3)までをしっかり書き切れるだけで、優に良好レベルを超えてしまうのです。逆に、それ以外のことを書こうとすると、あっという間に時間切れになる。今年は、十分な法律の知識・理解があるにもかかわらず、「字を書く速度が遅くて落ちた」、「趣旨や本質に遡ったから落ちた」、「理由付けを書いたから落ちた」、「自分の言葉で事実を評価しようとして落ちた」という人が、続出するでしょう。
 設問2の②の措置については、接見指定の変更の可否が問われています。これは、基本論点ではありませんが、正面から問われているので、避けることができません。このような場合、やってはいけないのは、「腰を据えてじっくり考える」ことや、だらだらと「本質に遡る」ことです。それは多くの場合、紙幅と時間の無駄になります。そうではなく、何となくありそうな規範を書いて、使える事実を書き写して結論を出しておく。現場で瞬時に考える程度でも、検察官が後から自由に変更できるというのは変だから、例外的な事情がないとダメだろう、ということくらいは思い付くでしょう。規範としては、「やむを得ない事情」、「特段の事情」、「正当な理由」などは瞬時に思い付くでしょうから、どれか1つを適当に選んで書けばよいのです。参考答案は、そのような書き方の一例です。
 設問4は、「司法試験平成27年最新判例ノート」に収録した最決平27・5・25の規範を書く必要があります。最新判例は、必ずしも基本論点とはいえませんが、多くの受験生が直前にざっと確認はしているものです。本問についても、それなりの人が、正確な規範は書けなくても、何となく公判前整理手続制度の趣旨に反するか否か、という程度の規範は立てることができたでしょう。「司法試験平成27年最新判例ノート」の内容紹介でも説明しているとおり、直近の判例を学習する意味は、問題意識をある程度把握しておき、大きく筋を外さないようにすることにある。本問で言えば、この判例を全然知らないと、「事件に関係のない事項」に当たるか、等の的はずれな議論を展開してしまいがちです。短答なら1問くらい最新判例が出ても、捨ててしまえばいいのですが、論文の場合はそうもいかない。だから、直前にざっと確認する必要があるのです。今年の設問4は、そのことがよくわかる設問だったと思います。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.判断基準

 留置きが適法であるというためには、強制処分に当たらないこと(197条1項ただし書)、任意処分として許される限度を超えないことを要する。
 強制処分とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でないものをいう(岐阜呼気検査事件判例参照)。したがって、対象者の退去意思に反する留置きは、強制処分に当たる(198条1項ただし書参照)。
 また、任意処分における有形力の行使は、必要性、緊急性等も考慮した上、具体的状況の下で相当と認められる限度において許される(上記判例参照)。このことは、任意処分としての留置きにも当てはまる。
 以上のことは、留置きが職務質問(警職法2条1項)に基づくものか、任意の取調べ(198条1項本文)に基づくものかによって異なるものではない。

2.事例2の留置きについて

(1)強制処分に当たるか。
 確かに、Pが、甲に対し、「H警察署で尿を出してください。」と言ったのに対し、甲は、「行きたくねえ。」と言い、甲車を降りてH警察署とは反対方向に歩き出し、2、3メートル進んだが、Pに進路を塞がれた。しかし、甲は、「仕方ねえ。」、「警察に行くくらいなら、ここにいる。」と言い、甲車運転席に戻ったことからすれば、Pの退去意思に反する留置きであるとはいえない。
 したがって、強制処分には当たらない。

(2)任意処分として許される限度を超えていないか。

ア.P及びQがパトカーで臨場した際、甲は、エンジンの空吹かしを繰り返して発進せず、全開の運転席窓から大声で意味不明な言葉を発していたこと、甲には、目の焦点が合わず異常な量の汗を流すなど、覚せい剤使用者特有の様子が見られたこと、覚せい剤取締法違反の有罪判決を受けた前科がある旨の無線連絡があったこと、甲の左肘内側に赤色の真新しい注射痕が認められたこと、甲車助手席上のバッグ内に注射器が認められたことからすれば、留置きの必要性があった。

イ.Pが甲に対し、「どうしましたか。」と声を掛けると、甲は、「何でもねえよ。」と答えたこと、Pが、甲に対し、「H警察署で尿を出してください。」と言ったのに対し、甲は、「行きたくねえ。」と言い、甲車を降りてH警察署とは反対方向に歩き出したこと、甲は、「献血の注射痕だ。」、「献血に使った注射器だ。見せられない。」と言ったことからすれば、留置きには緊急性があった。

ウ.留置きは30分程度であり、Pは、「どこに行くのですか。」と言って甲の前に立ち、進路を塞いだに過ぎないから、上記の必要性、緊急性も考慮すれば、具体的状況の下で相当と認められる。

(3)よって、事例2の留置きは、適法である。

3.事例3の留置きについて

(1)強制処分に当たるか。
 確かに、Pは、2台のパトカーを、甲車の前後各1メートルの位置に、甲車を挟むようにして停車させ、甲車が容易に移動できないようにした上、応援警察官4名を甲車周囲に立たせ、自らは甲車運転席側路上に立っていたのであり、甲は、Pに「ここで待っていてくれ。」と言われたのに対し、「嫌だ。」と言っただけでなく、「弁護士から帰っていいと言われたので、帰るぞ。」、「車から降りられねえのか。」、「帰れねえのか。」と言った。しかし、Pに制止されると、甲は、自ら甲車運転席に座ったから、Pの退去意思に反する留置きであるとはいえない。
 したがって、強制処分には当たらない。

(2)任意処分として許される限度を超えていないか。

ア.事例2の事情に加え、Pは、Qに対し、甲車の捜索差押許可状及び甲の尿を差し押さえるべき物とする捜索差押許可状を請求するよう指示したから、留置きの必要性及び緊急性は高まっていた。

イ.確かに、留置きは5時間30分程度にまで及び、制止の際に甲とPの体が接触している。しかし、Pは、甲に対し、「今から、採尿と車内を捜索する令状を請求する。令状が出るまで、ここで待っていてくれ。」と言ったこと、甲は、弁護士Rと連絡を取ったこと、交通渋滞のため、Qの到着に通常より1時間多くの時間を要したこと、制止の態様は、甲の前に立ち、「待ちなさい。」と言って両手を広げて進路を塞ぎ、甲がPの体に接触した際も、足を踏ん張り、それ以上甲が前に進めないように制止したり、胸部及び腹部を前方に突き出しながら、甲の体を甲車運転席前まで押し戻し、「座っていなさい。」と言った程度であったことに加え、上記アの必要性、緊急性の高まりも考慮すれば、具体的状況の下で相当と認められる。

(3)よって、事例3の留置きは、適法である。

第2.設問2

1.①の措置について

(1)接見指定が適法となるためには、「捜査のため必要があるとき」(39条3項本文)であって、「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ものでないこと(同項ただし書)が必要である。

(2)「捜査のため必要があるとき」とは、捜査の中断による支障が顕著な場合をいい、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある場合のほか、間近い時に上記取調べ等をする確実な予定があって、接見等を認めたのでは、上記取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などがこれに当たる(杉山事件、浅井事件各判例参照)。
 本件で、甲は、平成27年7月3日午前9時30分、I地方検察庁検察官に送致され、Sは、同日午前9時45分から弁解録取手続を開始していたこと、Tが希望した接見の場所はH警察署で、日時は同日午前10時30分であったこと、弁解録取手続終了まで更に約30分を要し、I地方検察庁からH警察署まで自動車で約30分を要したことからすれば、接見させるには弁解録取手続を中断する必要があり、捜査の中断による支障が顕著な場合といえる。
 したがって、「捜査のため必要があるとき」に当たる。

(3)初回接見に対する接見指定をするに当たっては、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能な場合には、留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情のない限り、たとえ比較的短時間であっても、時間を指定した上で上記時点での接見を認めるべきであり、上記時点での接見を拒否し、初回接見の機会を遅らせたときは、「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ものといえる(第2次内田国賠事件判例参照 )。
 本件で、Tが、Sに電話したのが同日午前9時50分であったこと、弁解録取手続終了まで更に約30分を要し、I地方検察庁からH警察署まで自動車で約30分を要したこと、Sは、接見の日時を同日午前11時に指定し、Tは、「仕方ないですね。」と言ったことからすれば、即時又は近接した接見を拒否し、初回接見の機会を遅らせたとはいえず、「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ものとはいえない。

(4)よって、①の措置は、適法である。

2.②の措置について

 既にされた接見指定の日時を一方的に変更することは、やむを得ない事情がない限り、「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ものとして許されない。
 本件では、確かに、弁解録取手続終了直後、甲が、「実は、お話ししたいことがあります。ただ、今度有罪判決を受けたら刑務所行きですよね。」と言ったという事情があり、Tは、同日午後零時30分に甲がH警察署に戻ると、すぐに甲と接見している。しかし、Sは、甲が自白しようか迷っていると察し、この機会に自白を得たいと考えたに過ぎず、初回接見であること、Tは、「予定どおり接見したい。」と主張して譲らず、取調中、Tは、当初の予定どおり接見できるよう求めてSに電話をかけたが、Sは電話に出なかったことをも考慮すると、やむを得ない事情があったとはいえない。
 よって、②の措置は、違法である。

第3.設問3

1.③の証言は、伝聞供述(320条1項)に当たり、証拠能力が否定されるのではないか。

2.伝聞供述(刑訴法320条1項)とは、供述者が直接体験しない事実を要証事実とする供述をいう(白鳥事件判例、規則199条の13第2項4号参照)。
 本件で、③の証言のうち、「警察がよく検問をしている…お前が捕まったら、俺も刑務所行きだから」という部分は、乙がそのような発言をしたこと自体から、乙に覚せい剤の認識があったことを推認させる。したがって、想定される③の証言の要証事実は、乙がそのような発言をしたことである。
 乙がそのような発言をしたことは、供述者である甲が直接体験した事実である。したがって、③の証言は、供述者が直接体験しない事実を要証事実とする供述ではないから、伝聞供述に当たらない。

3.よって、③の証言の証拠能力は、認められる。

第4.設問4

1.公判前整理手続終了後の新たな主張を295条1項によって制限するためには、主張明示義務(316条の17第1項)に違反したものと認められ、かつ、公判前整理手続を行った意味を失わせるものと認められる場合であることを要する(判例)。

2.本件では、確かに、乙及びUは、公判前整理手続において、裁判所から、「アリバイ主張について可能な限り具体的に明らかにされたい。」との求釈明を受け、「平成27年6月28日は、終日、丙方にいた。」旨釈明したのに、第2回公判期日に実施された被告人質問において、乙は、Uの質問に対し、「平成27年6月28日は、J県M市△町△番の戊方にいました。」と供述し、④の質問は、当日戊方にいたことに関し、詳しく聞くものである。
 しかし、アリバイの主張自体は明示されていたこと、公判前整理手続の結果、争点として整理されたのは、「平成27年6月28日に、乙方において、乙が甲に覚せい剤を譲り渡したか」であったこと、丙方に関する乙及びUの釈明の内容は、「その場所は、J県内であるが、それ以外覚えていない。『丙』が本名かは分からない。丙方で何をしていたかは覚えていない。」というものであったこと、乙は、「前回の公判期日後、戊から手紙が届き…思い出しました。」と供述したことからすれば、主張明示義務(316条の17第1項)に違反したとも、公判前整理手続を行った意味を失わせるものとも認められない。

3.よって、④の質問及びこれに対する乙の供述を295条1項により制限することはできない。

以上

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2016年06月18日

平成28年司法試験論文式刑事系第1問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.司法試験の論文式試験において、現在の合格ラインである「一応の水準の真ん中」に達するための要件は概ね

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記が当然にできているという前提の下で、優秀・良好のレベルに達するために必要となる場合があるに過ぎないのです。
 にもかかわらず、多くの人が、上記優秀・良好レベルの事柄を過度に重視しているように思います。現場思考で応用論点を拾いに行ったり、趣旨や本質から論じようとしたり、事実に丁寧に評価を付そうと努力するあまり、基本論点を落としてしまったり、規範を正確に示すことを怠っていきなり当てはめようとしたり、問題文中の事実をきちんと摘示することを怠ってしまい、結果として不良の水準に落ちてしまっているというのが現状です。

2.その原因としては、多くの人が参考にする出題趣旨や採点実感等に関する意見の多くの記述が、実は優秀・良好レベルの話であって、一応の水準のレベルは当たり前過ぎるので省略されてしまっていること、あまりにも上位過ぎる再現答案を参考にしようとしてしまっていることがあると思います。
 とはいえ、合格ラインギリギリの人の再現答案には、解答に不要なことや誤った記述などが散見されるため、参考にすることが難しいというのも事実です。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作ってみてはどうか、ということを考えました。

3.今回、掲載する参考答案は、上記のようなコンセプトに基づいています。「本問で基本論点はどれですか」と問えば、多くの人が指摘できるでしょう。「その論点について解決するための規範は何ですか」と問えば、事前にきちんと準備している人であれば、多くの人が答えられるでしょう。「その規範に当てはまる事実は問題文中のどこですか、マーカーを引いてみてください」と問えば、多くの人が正確に示すことができるものです。下記の参考答案は、いわば、それを繋ぎ合わせただけの答案です。
 それなりの実力のある人が見ると、「何だ肝心なことが書いてないじゃないか」、「一言評価を足せば良い答案になるのに」と思うでしょう。優秀・良好レベルの答案を書いて合格できる人は、それでよいのです。しかし、合格答案を書けない人は、むしろ、「肝心なこと」を書こうとするあまり、最低限必要な基本論点、規範、事実の摘示を怠ってしまっているという点に気付くべきでしょう。普段の勉強で規範を覚えるのは、ある意味つまらない作業です。本試験の現場で、事実を問題文から丁寧に引用して答案に書き写すのは、バカバカしいとも思える作業です。しかし、そういう一見するとどうでもよさそうなことが、合否を分けているのが現実なのです。規範が正確でないと、明らかに損をしています。また、事実を引いているつもりでも、雑に要約してしまっているために、問題文のどの事実を拾っているのか不明であったり、事実を基礎にしないでいきなり評価から入っているように読める答案が多いのです。そういう答案を書いている人は、自分はきちんと書いたつもりになっているのに、点が伸びない。そういう結果になってしまっています。
 今回の参考答案は、やや極端な形で、大前提として抑えなければならない水準を示しています。合格するには、この程度なら確実に書ける、という実力をつけなければなりません。そのためには、規範を正確に覚える必要があるとともに、当てはめの事実を丁寧に摘示する筆力を身につける必要があるでしょう。これは、普段の学習で鍛えていくことになります。
 この水準をクリアした上で、さらに問題文の引用を上手に要約しつつ、応用論点にコンパクトに触れたり、趣旨・本質に遡って論述したり、当てはめの評価を足すことができれば、さらに優秀・良好のレベルが狙えるでしょう。

4.今年の刑法は、甲乙丙丁の4者の罪責が問われており、書く文量が非常に多かったのが特徴です。誰もが拾うような論点に触れて、規範と当てはめの事実を示すだけでも、時間内に書き切ることは難しいでしょう。「じっくり腰を据えて考える」ような時間はありません。文字をボールペンで書く速さが、決定的に合否を分ける要素となります。上記の(1)から(3)までをしっかり書き切れれば、それだけで優に良好レベルを超えるでしょう。参考答案を見て、「なんでこんなバカみたいに問題文を書き写す必要があるんだよ。」と思った人は、「受かりにくい人」です。問題文に、わざわざ「具体的な事実を摘示しつつ」と書いてあることの意味を、考えてみる必要があるでしょう。

 

【参考答案】

第1.乙の罪責

1.V方に入った点につき、住居侵入罪(130条前段)が成立する。

2.Vに対する強盗致死罪(240条後段)を検討する。

(1)「強盗」とは、強盗犯人を意味し、既遂・未遂を問わないが、少なくとも強盗の実行に着手したことを要する。強盗罪における暴行又は脅迫は、被害者の反抗を抑圧する程度のものであることを要する。
 本件で、乙は、Vに対し、刃体の長さ約10センチメートルの果物ナイフをその顔面付近に突き付け、「金庫はどこにある。開け方も教えろ。怪我をしたくなければ本当のことを言え。」と言い、Vの顔面を数回蹴り、さらに、Vの右ふくらはぎを上記ナイフで1回刺したこと、Vは、乙からそのような暴行を受け、「言うとおりにしないと、更にひどい暴行を受けるかもしれない。」と考えて強い恐怖心を抱き、乙に対し、「金庫は6畳間にあります。鍵は金庫の裏にあります。」と言ったことからすれば、上記暴行・脅迫は、Vの反抗を抑圧する程度のものといえる。
 したがって、強盗罪の実行の着手が認められ、乙は、「強盗」に当たる。

(2)Vは、乙から顔面を蹴られたことによる脳内出血が原因で死亡したから、「死亡させた」といえる。

(3)乙は、Vを痛めつけようと考えていたから、Vの死亡につき故意はない。しかし、本罪の結果的加重犯としての性格から、強盗の手段である暴行と因果関係のある死亡結果については、故意・過失を問わず強盗致死罪が成立する。

(4)以上から、強盗致死罪が成立する。

3.よって、乙は、住居侵入罪及び強盗致死罪の罪責を負い、両罪は牽連犯(54条1項後段)となる。

第2.丙の罪責

1.V方に入った点につき、住居侵入罪が成立する。

2.強盗罪(236条1項)に係る乙との共同正犯(60条)を検討する。

(1)共同正犯が成立するには、自己の犯罪としてする意思(正犯意思)、意思の連絡(共謀)及び共謀に基づく犯罪の実行が必要である。

ア.正犯意思の有無は、犯行における役割の重要性、謀議への関与の程度、利益の帰属の程度等を考慮して判断すべきである。
 本件で、確かに、丙は、V方に行く際、乙が強盗するのを手伝おうという気持ちであり、Vは、終始丙が来たことには気付いておらず、丙の役割は、乙と共に金庫の中にあった現金500万円を準備したかばんの中に入れ、そのかばんを持ってV方から出たという程度に過ぎなかった。しかし、丙は、Vは身動きがとれないので簡単に現金を奪うことができるし、分け前をもらえると考えて乙の申出を了解したから、正犯意思が認められる。

イ.乙は、丙に対し、「計画どおりVをナイフで脅したけど、金庫の在りかを教えなかったから、ふくらはぎを刺してやった。あれじゃあ動けねえから、ゆっくり金でも頂くか。お前にも十分分け前はやる。」と言い、丙はこれを了解して「分かりました。」と言ったから、共謀がある。

ウ.丙は、上記共謀に基づき、乙と共に金庫の中にあった現金500万円をかばんの中に入れ、そのかばんを持ってV方から出たから、共謀に基づく犯罪の実行がある。

(2)もっとも、丙が加功したのは、前記第1の2(1)の乙の暴行脅迫の後である。強盗罪の暴行脅迫後に加功した者に共同正犯は成立し得るか。

ア.一般に、共同正犯が成立するのは、共謀及びそれに基づく行為と因果関係のある結果に限られる。したがって、共謀加担前の先行者の行為によって生じた結果については共同正犯は成立しない。ただし、強盗罪においては、暴行脅迫は強取の手段に過ぎず、暴行脅迫後の強取にのみ加功した者であっても、財物の占有移転又は財産上の利益の移転という法益侵害結果に因果関係を及ぼすことができるから、強盗罪の共同正犯が成立する。もっとも、加功前の暴行によって生じた致死傷の結果については、後行者は因果関係を及ぼし得ないから、この点について帰責されることはない。

イ.本件では、丙に強盗罪の共同正犯が成立するが、Vの死は丙が加功する前の乙の暴行によって生じた結果であるから、強盗致死罪の共同正犯は成立しない。

3.よって、丙は、住居侵入罪及び強盗罪の罪責を負い、両罪は牽連犯となる。

第3.甲の罪責

1.乙の住居侵入罪及び強盗致死罪に係る共謀共同正犯を検討する。

(1)共謀共同正犯が成立するには、正犯意思、共謀及び共謀者の一部による犯罪の実行が必要である。

ア.甲は、Vの現金を手に入れようと計画し、乙に対し、「Vの家に押し入って、Vをナイフで脅して、その現金を奪ってこい。」と指示し、現金3万円を渡して、「この金で、Vを脅すためのナイフなど必要な物を買って準備しろ。準備した物と実際にやる前には報告をしろ。」と言ったから、正犯意思がある。

イ.上記アの甲の指示に対し、乙は、「分かりました。」と言ったから、住居侵入罪及び強盗罪の共謀がある。

ウ.前記第1のとおり、共謀者である乙による犯罪の実行がある。もっとも、甲は、「Vをナイフで脅して」と指示したのに、乙は、Vの顔面を数回蹴り、Vの右ふくらはぎをナイフで1回刺す暴行を行っている。
 共謀内容と異なる犯罪が行われた場合において、共謀にのみ参加した者に共謀共同正犯が成立するためには、共謀と実行正犯の行為との間に因果関係があることを要する(教唆の事案におけるゴットン師事件判例参照)。
 本件で、甲及び乙は暴力団員であること、乙の暴行は脅迫によってもVが金庫のある場所等を教えなかったためになされたことからすれば、Vをナイフで脅す旨の共謀と乙の行為との間に因果関係がある。
 したがって、上記乙の暴行についても、共謀共同正犯は成立し得る。

(2)もっとも、甲は、乙の実行の着手前に、乙に対し、「犯行を中止しろ。」と言ったから、その時点で共犯関係は解消されたのではないか。

ア.実行の着手前に離脱の意思を表示し、他の共犯者において離脱の了承があった場合には、共犯関係は解消する。ただし、上記場合であっても、離脱した者が犯行方法を立案し、又は犯行に用いる道具を提供する等主要な役割を果たしたときは、果たした役割の影響を打ち消したと認めるに足りる積極的行為をしなければ共犯関係は解消しない。

イ.本件で、甲が乙に「犯行を中止しろ。」と言ったことは、離脱の意思表示である。これに対し、乙は、甲に対し、「分かりました。」と返事をしたから、離脱の了承があった。
 しかし、甲は、組長に次ぐ立場にあり、前記(1)アのとおり、犯行を計画して乙に指示し、道具購入費用を交付したから、主要な役割を果たしたといえる。にもかかわらず、甲は、乙に対し、「犯行を中止しろ。」と言っただけで、果たした役割の影響を打ち消したと認めるに足りる積極的行為をしていない。
ウ.したがって、共犯関係は解消しない。

(3)以上から、住居侵入罪及び強盗罪の共謀共同正犯が成立する。

(4)基本犯について共犯が成立する場合において、加重結果が発生したときは、結果的加重犯の共犯が成立する(判例)。
 本件では、強盗罪について共同正犯が成立し、Vの死亡結果が発生したから、強盗致死罪の共同正犯が成立する。

(5)以上から、住居侵入罪及び強盗致死罪の共同正犯が成立する。

2.よって、甲は、住居侵入罪及び強盗致死罪の罪責を負い、両罪は牽連犯となる。

第4.丁の罪責

1.V方に入った点につき、住居侵入罪が成立する。

2.本件キャッシュカードをズボンのポケットに入れた点につき、窃盗罪(235条)が成立する。

3.Vから本件キャッシュカードの暗証番号を聞き出した点について、強盗罪(236条2項)を検討する。

(1)反抗を抑圧する程度の脅迫があったといえるか。
 確かに、丁は「暗証番号を教えろ。」と言ったに過ぎない。しかし、Vは、右ふくらはぎから血を流して床に横たわっており、「何かされるかもしれない。」と考えて、丁に対して恐怖心を抱き、丁が間近に来たことでおびえていたこと、丁は、Vをにらみ付けながら強い口調で言ったこと、Vは、丁からそのように言われ、「言うことを聞かなかったら…ひどい暴力をまた振るわれるかもしれない。」と考えて、更に強い恐怖心を抱いたことからすれば、反抗を抑圧する程度の脅迫があったといえる。

(2)財産上の利益の移転があったといえるか。
 財産上の利益とは、移転性のある利益に限られる。もっとも、財産上の利益が被害者から行為者にそのまま直接移転することは必ずしも必要ではなく、行為者が利益を得る反面において、被害者が財産的な不利益(損害)を被るという関係があれば足りる。そして、キャッシュカードを占有する者が暗証番号を知れば、容易にATMから現金を引き出すことができるから、既にキャッシュカードの占有を取得した犯人との関係においては、暗証番号が聞き出されると、犯人がATMを通して当該被害者の預金の払戻しを受けることができる地位を得る反面において、被害者は自らの預金を犯人によって払い戻されかねないという不利益、すなわち、預金債権に対する支配が弱まるという財産上の不利益(損害)を被ることになるから、上記の地位は移転性のある利益といえる。したがって、既にキャッシュカードの占有を取得した犯人との関係において、暗証番号の聞出しは財産上の利益の移転に当たる。
 本件で、丁は、Vから暗証番号を聞き出す時点において、本件キャッシュカードの占有を取得していた。したがって、財産上の利益の移転があったといえる。

(3)丁は、横たわっているVのそばにしゃがみ込んでVの顔を見たところ、Vが恐怖で顔を引きつらせていたので、「強く迫れば、容易に暗証番号を聞き出せる。」と考えて、上記(1)の脅迫を行ったから、反抗を抑圧する程度の脅迫であることを認識していた。したがって、故意が認められる。

(4)以上から、強盗罪が成立する。

4.X銀行Y支店に入った点につき、建造物侵入罪(130条前段)を検討する。

(1)「侵入」とは、住居等の管理権者の意思に反して立ち入ることをいい、管理権者が予め立入拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、当該住居等の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的等からみて、現に行われた立入りを管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、管理権者の意思に反するものといえる(大槌郵便局事件判例参照)。
 本件で、確かに、丁は、24時間稼動しているATMに、出入口ドアから入ったに過ぎない。しかし、立入りの目的が窃取した本件キャッシュカードによる引出しである以上、合理的に判断すれば、X銀行Y支店の管理者である支店長はその立入りを容認していないといえる。したがって、「侵入」に当たる。

(2)以上から、建造物侵入罪が成立する。

5.ATMから現金1万円を引き出した点について、上記2の窃盗罪及び上記3の強盗罪についてのVの法益とは別に、X銀行Y支店支店長の有するATMの現金に対する占有を侵害することから、不可罰的事後行為とはならず、別個に窃盗罪が成立する。

6.よって、丁は、Vに対する住居侵入罪、窃盗罪及び強盗罪並びにX銀行Y支店支店長に対する建造物侵入罪及び窃盗罪の罪責を負う。このうち、前の3罪は、窃盗罪及び強盗罪が住居侵入罪とそれぞれ牽連犯となる結果、全体として科刑上一罪となる(かすがい現象)。後の2罪は牽連犯となり、前の3罪とは併合罪(45条前段)となる。

以上

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2016年06月14日

平成28年司法試験論文式民事系第3問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.現在の司法試験の論文式試験において、ほとんどの科目では、現在の合格ラインである「一応の水準の真ん中」に達するための要件は概ね

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。
 もっとも、従来は、民訴法に限り、上記が当てはまらない独特の出題傾向となっていました。設問の結論を答えようと思えば、誰もが比較的簡単に正解できるのですが、その説明の仕方が出題趣旨に沿っていないと、点が取れない。過去の傾向では、同じような筋で書いていても、以下のような書き方を守っているかどうかで、大きな差が付いていました。

(4)問題文で指定されたことだけに無駄なく答えている。
(5)参照判例がある場合、まずその判例の趣旨を確認している。
(6)例外が問われた場合、まず原則論を確認している。

 逆に、上記を守っていれば、それほど知識や文量は問われていなかった。そのため、短めの答案でも、上位になったりすることがあったのです。これは、他の科目と比較して顕著な傾向の違いでした。

2.今年の特徴は、上記のような従来の傾向と、他の科目同様の事例処理的な傾向とが混在しているという点です。
 今年の問題でも、問題文で示された参照判例については、その趣旨の確認が必要でしょうし、所々で原則論を確認した方がよいと思われる箇所があり、その意味では、従来の傾向が残っています。他方で、単に規範を示して当てはめれば足りるような部分も多く、しかも、処理すべき量が多い、という事務処理型の特徴もみられます。これは、例の漏洩事件によって考査委員が交代したことが影響しているのでしょう。出題形式を従来のものに似せて作ったために、一部は従来の傾向が残ったものの、内容面では他の科目同様の事務処理型になってしまった。その結果、今年の問題のような一貫性のない出題になったのだろうと思います。

3.そこで、今回の参考答案は、上記の(1)から(6)までを組み合わせたようなものになっています。今年は文量が多かったので、参考答案レベルを書き切るだけでも、相当に困難だったでしょう。このレベルを書き切れば、優に良好の上位くらいにはなるだろうと思います。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.総有権確認請求訴訟において原則として構成員全員が原告とならなければならないとされる理由

(1)構成員全員が原告とならなければならないか否かは、総有権確認請求訴訟が固有必要的共同訴訟であるか否かによる。

(2)固有必要的共同訴訟であるか否かは、主に管理処分権の帰属という実体法的観点から判断すべきであるが、紛争解決の実効性、手続保障、訴訟経済等の訴訟法的観点も考慮すべきである。
 本件で、権利能力のない社団への権利義務の帰属は構成員全員の総有とされ、各構成員は潜在的にも持分を有しない(杉並支部マーケット事件判例参照)こと、構成員全員に攻撃防御の機会を与え、判決効を及ぼす必要があることからすれば、実体法的観点及び訴訟法的観点のいずれの観点からも、総有権確認請求訴訟は固有必要的共同訴訟となると考えられる。

(3)固有必要的共同訴訟においては、当事者となるべき者全員が当事者とならなければ当事者適格が認められない。

(4)よって、総有権確認請求訴訟においては、原則として構成員全員が原告とならなければならない。

2.構成員の中に訴えの提起に反対する者がいた場合の対応策

(1)反対する者が原告とならない場合、当事者適格を欠くから、適法に訴えを提起できないのが原則である。

(2)もっとも、このような場合には、総有権の存在を主張する構成員が原告となり、反対する者を被告に加えて、総有権確認請求訴訟を提起することも許される(馬毛島事件判例参照)。

(3)よって、構成員の中に訴えの提起に反対する者がいた場合には、その者を被告として訴えを提起すべきである。

3.訴訟係属後に新たに構成員となる者が現れた場合の訴訟上の問題点

 訴訟要件は本案判決をするための要件であるから、訴訟係属中に当事者適格を欠くに至った場合には、訴えは却下される。そこで、どのようにして新たな構成員を当事者に加えるべきかが問題となる。

(1)その者がBに同調する場合

 固有必要的共同訴訟において、共同訴訟人となるべき者が当事者となっていない場合には、その者が共同訴訟参加(52条1項)することによって、当事者適格を追完することができる。
 本件で、新たに構成員となる者がBに同調する場合には、その者に共同訴訟参加してもらうことによって、その者を原告に加えることができる。

(2)その者がBに同調しない場合

ア.新たに構成員となる者がBに同調しない場合には、その者が共同訴訟参加することは期待できない。そこで、Bが、その者を係属中の訴訟の被告に追加することは可能か。主観的追加的併合の可否が問題となる。

イ.判例は、通常共同訴訟の関係にある訴えの主観的追加的併合を否定している。しかし、総有権確認請求訴訟は固有必要的共同訴訟であり、合一確定が要請される(40条1項)こと、弁論の併合(152条1項)に係る裁判所の裁量を認める余地がないことからすれば、本件においては上記判例の趣旨は及ばず、主観的追加的併合が認められる。

ウ.よって、新たに構成員となる者がBに同調しない場合には、主観的追加的併合の方法によって、その者を被告に加えることができる。

第2.設問2

1.確認の利益

 確認の利益の肯否は、即時確定の利益、確認対象の適否、手段選択の適否の観点から判断すべきである。

(1)即時確定の利益があるというためには、権利・法的地位の不安・危険が現実に存在することを要する。
 本件では、Bが会長であるかのように行動していることから、Xの会長の地位にあることを主張するZの権利・法的地位の不安・危険が現実に存在するといえ、即時確定の利益がある。

(2)確認対象の適否は、原則として、自己の現在の法律関係に係る積極的確認であるか否かによって判断すべきである。

ア.本件では、ZがXの会長の地位にあることの確認を求める訴えについては、自己の現在の法律関係に係る積極的確認であるから、確認対象は適切である。

イ.他方、解任決議が無効であることは、過去の法律関係であることから、確認対象が適切であるというためには、その法律関係の確定が現在の紛争の抜本的解決のために有効かつ適切であることを要する。
 本件では、解任決議が無効であるとすれば、規約上1名に限られる会長が既に存在する状況でされた新会長の選任決議も無効となることから、会長の地位に関する現在の紛争の抜本的解決のために有効かつ適切である。
 よって、解任決議が無効であることの確認を求める訴えについても、確認対象は適切である。

(3)手段選択の適否は、確認の訴えよりも有効かつ適切な紛争解決手段があるかという観点から判断すべきである。

ア.まず、ZがXの会長の地位にあることを前提とする給付の訴えによったのでは、ZがXの会長の地位にあることに直接の既判力が生じないため、抜本的な紛争解決とはならない。

イ.また、訴訟代理人の代理権の存否の確認を求める訴えを不適法とした判例の趣旨は、本案の前提として判断される手続的事項については、その訴訟において異議を述べる(90条参照)手段がより有効かつ適切であるから、手段選択の適切性を欠くという点にある。したがって、単なる手続的事項にとどまらず、その確定が紛争の抜本的解決のために有効かつ適切である事項といえる場合には、上記判例の趣旨は及ばない。
 本件では、ZがXの会長の地位にあることは、単なる手続的事項にとどまらず、本件不動産の帰属及びXの運営に関する紛争の抜本的解決のために有効かつ適切である事項といえる。したがって、上記判例の趣旨は、本件に及ばない。

ウ.以上から、手段選択は適切である。

(4)よって、確認の利益が認められる。

2.反訴の要件

(1)146条1項の要件のうち、口頭弁論終結前であること(柱書本文)、専属管轄に属しないこと(1号)、著しく訴訟手続を遅滞させないこと(2号)については問題なく充足する。

(2)では、本訴請求又は防御方法との関連性(柱書本文)を満たすか。
 関連性の有無は、訴訟資料及び証拠資料を利用できるか、社会生活上同一又は一連の紛争といえるかによって判断する。
 本件で、本訴であるBへの所有権移転登記手続請求の訴えは、BがXの現在の代表者であることを前提とするから、解任決議の無効及びZがXの会長の地位にあることの確認を求める訴えにおいて訴訟資料及び証拠資料を利用でき、社会生活上同一又は一連の紛争といえる。
 よって、本訴請求と関連性がある。

(3)よって、146条1項所定の要件を満たす。

第3.設問3

1.①について

(1)①の判例の趣旨は、29条は、権利能力のない社団の当事者能力だけでなく、構成員全員に代わって当事者として訴訟を遂行する法定訴訟担当をも認めたものであることから、権利能力のない社団に対する判決の既判力が構成員全員に及ぶ(115条1項2号)とする点にある。
 そして、同号の趣旨は、訴訟担当による代替的手続保障があることから、既判力による拘束力を及ぼすことが正当化されるという点にある。したがって、上記代替的手続保障があるといえない場合には、同号の既判力は及ばない。

(2)本件で、Zは、第1訴訟においてXと対立する被告の地位で訴訟追行していたから、上記代替的手続保障があるとはいえない。

(3)よって、①の判例の趣旨は本件に及ばず、同号による既判力は、第2訴訟には及ばない。

2.②について

 第2訴訟におけるYとZの主張の対立点は、YZ間の抵当権設定契約時にZが本件不動産を所有していたか否かであるから、その点について既判力が作用するかを検討する。

(1)既判力が作用するのは、前訴判決の主文(114条1項)と後訴の訴訟物の間に、同一関係、矛盾関係又は先決関係がある場合である。

(2)本件で、前訴判決の主文は、本件不動産がXの構成員全員の総有に属することを確認するものであるのに対し、第2訴訟の訴訟物は、債務不履行に基づく損害賠償請求であるから、同一関係又は矛盾関係にない。
 では、先決関係にあるといえるか。確かに、一物一権主義から、本件不動産がXの構成員の総有に属していれば、Zの所有には属しないといえる。しかし、既判力の基準時は事実審の口頭弁論終結時である(民執法35条2項参照)こと、YZ間の抵当権設定契約の後に第1訴訟が提起されたことからすれば、前訴判決はYZ間の抵当権設定契約の時点における本件不動産の帰属を確定するものではない。そうである以上、先決関係にあるとはいえない。

(3)よって、前訴判決の既判力は、第2訴訟におけるYとZの主張の対立点に関して作用し得ない。

3.③について

 Zの主張は、第1訴訟の蒸し返しであり、訴訟上の信義則(2条)に反し、許されないのではないか。

(1)信義則による拘束力を認めるべきか否かは、前訴で容易に主張し得たか、相手方に前訴判決によって紛争が解決したとの信頼が生じるか、相手方を長期間不安定な地位に置くものといえるか等の観点から判断すべきである(判例)。

(2)本件で、Zは、第1訴訟中の総有権確認請求訴訟において、Aから本件不動産を買い受けたのはZ自身であると容易に主張し得た。他方で、前訴判決から第2訴訟の提起までの間に長期間が経過し、Yが不安定な地位に置かれたという事実はうかがわれない。

(3)では、Yに第1訴訟によって紛争が解決したとの信頼が生じるといえるか。上記信頼が生じるというためには、相手方が前訴でなすべき手段を尽くしたことを要する。

ア.本件で、Yは、第1訴訟中の総有権確認請求訴訟において、Xに対し、抵当権設定契約時に本件不動産がZの所有であったことの確認を求める中間確認の訴え(145条1項)をすることができたか。訴えの利益を検討する。
 中間確認の訴えは、既に提起された訴えの前提問題となる限り訴えの利益が認められ、確認対象として、過去の他人の法律関係の確認を求めることもでき、即時確定の利益等を要しない(判例)。
 本件で、抵当権設定契約時に本件不動産がZの所有であったことは過去の他人の法律関係であるが、総有権の存否の前提問題となる以上、訴えの利益が認められる。

イ.したがって、Yは、第1訴訟中の総有権確認請求訴訟において、中間確認の訴えをすることができた。そうである以上、Yがなすべき手段を尽くしたとはいえないから、Yに第1訴訟によって紛争が解決したとの信頼が生じるとはいえない。

(4)以上からすれば、Zの主張は、信義則に反するとはいえない。

4.よって、裁判所は、第2訴訟において本件不動産の帰属に関して改めて審理・判断をすることができる。

以上

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