2018年02月05日

今年の合格者数に関する誤った情報について

1.最近、某巨大掲示板において、「合格者数が200人~300人ほど減少するのは確実だ」とする書込みがなされました。

 

(5ちゃんねる「平成30年司法試験2」より引用。太字強調は筆者。)

400 名前:氏名黙秘[sage] 投稿日:2018/01/20(土) 20:28:56.40 ID:shUFNyao
確実に減るよ

下の資料の司法修習生の費用の項目の「実務修習旅費」の項目は、平成28年度 1年次生、2年次生共に1810人
平成29年度 1年次生、2年次生共に1800人
平成30年度 1年次生1500人、2年次生1600人
と書かれている。歳出概算要求書は、司法修習生の人数をおおよそ決定して予算を要求しているはず。したがって、上の人数は司法修習生の採用予定人数を多めに見積もったものと考えられる。1年次生、2年次生というのは、会計年度が4月スタートなのに対して、修習が12月スタートになるためであろう。すなわち、2年次生が前年度採用の修習生、1年次生が今年度採用予定の修習生を表していると推察される。
ご存知の通り司法試験の合格者数は
平成28年、29年と1500人~1600人の間となっている。そして概算要求書に記載されている数は1800人程度。それが平成30年度は1500人となっている。すなわち、合格者数も200人~300人ほど減少すると考えられる。

裁判所所管
平成30年度歳出概算要求書
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/H30gaisanyoukyuusyo.pdf

平成29年度歳出概算要求書
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/H280909isaisyutu.pdf

平成28年度歳出概算要求書
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/H270911isaisyutu.pdf

(引用終わり)

 

 筆者からすれば、こんなものは「ハハッ、ワロス。」として、本来わざわざ取り上げるまでもないものです。ところが、司法試験や法科大学院に関するブログで有名なSchulzeさんが、これをそのまま紹介してしまいました。

 

(Schulze BLOG「司法試験の受験者が5000人しかいない時代 法科大学院制度では人材を供給できないことが明白に」より引用。太字強調は筆者。)

なお、司法試験合格者数については、旧2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)で盛んに書かれていますが、裁判所予算における「実務修習旅費」の想定人数が減少しているという指摘があり、これは司法試験合格者数の減少を織り込んだものとする旨の推測があります

(引用終わり)

 

 それだけではありません。これを、「要件事実マニュアル」で有名な岡口基一裁判官が、Twitterで紹介してしまったのです。

 

岡口基一さんのTwitter(8:19 - 2018年2月4日)より引用。 太字強調は筆者。)

 今年の司法試験合格者は1200人程度か
 大量合格させると、問題になるのは「合格者の質」

(引用終わり)

 

 Schulzeさんも岡口さんも、悪意があってこれを拡散させようとしているわけではないのでしょう。しかし、これでは、あたかも上記の裁判所の概算要求書が今年の合格者数を事前に把握して作成されたものであり、今年の合格者が1200人程度に減ることが既に決まっているかのような誤った情報が、そのまま拡散してしまいかねないでしょう。そこで、当サイトが火消しをしておこう、というのが、今回の記事の趣旨です。

2.さて、まずは、上記の書込みが言わんとする趣旨を確認しておきましょう。書込みは、裁判所の概算要求書の「実務修習旅費」の項目に、人数の表記があることに着目します。平成28年度歳出概算要求書では48頁の右下のところに「1810人」、平成29年度歳出概算要求書では50頁の右上のところに「1800人」、平成30年度歳出概算要求書では51頁の右中ほどよりやや下のところに「1500人」との表記があることが確認できます。そこで、この数字と実際の合格者数を対応表にすると、以下のようになります。

年度
(平成)
概算要求書
における数字
実際の
合格者数
両者の差
28 1810 1583 227
29 1800 1543 257
30 1500 ??? ???

 さて、この表を見て、「???の部分を埋めなさい。」と言われたら、どう考えるか、普通は、こんな感じになると予想するでしょう。

年度
(平成)
概算要求書
における数字
実際の
合格者数
両者の差
28 1810 1583 227
29 1800 1543 257
30 1500 1200~1300? 200~300?

 だから、今年の合格者数は、1200人から1300人までの間の数字になるに違いない。これが、上記の書込みの趣旨なのです。

3.しかし、ここで、具体的に考えてみる必要があります。このような形で概算要求書が作成されているということは、事務的には、最高裁の担当者と司法試験委員会の担当者との間で、以下のようなやり取りがされていることを意味します。

最高裁の担当者「もしもしー司法試験委員会さんですか?最高裁ですーすいません、平成30年って何人合格するんですか?」
司法試験委員会の担当者「あっはい、1200人くらいっす。」
最高裁の担当者「まじですかー、じゃあ300人くらい盛っといて1500人で要求しときますーどうもー」

 こんなのがあり得るか。少し冷静に考えれば、すぐわかることです。

4.それでは、概算要求書の人数は、どうしてこうなっているのか。このようなものは、作成時点で確認できる直近の数字を参照するものです。ここで注意したいのは、概算要求書を作成するのはいつの時点までなのか、ということです。これは、前年度の8月31日です。

 

(財政法17条1項)
 衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官及び会計検査院長は、毎会計年度、その所掌に係る歳入、歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の見積に関する書類を作製し、これを内閣における予算の統合調整に供するため、内閣に送付しなければならない。

(予算決算及び会計令8条1項)
 財政法第十七条第一項の規定により、内閣に送付すべき書類は、財務大臣の定めるところにより作製し、前年度の八月三十一日までに、これを内閣に送付しなければならない。

 

 ちなみに、国会、裁判所及び会計検査院の予算は、その独立性から少し特殊な扱いとなっています。これは、憲法における短答のマイナー知識ですね。

 

衆院予算委員会第一分科会平成10年03月19日より引用。太字強調は筆者。)

寺澤政府委員 お答えを申し上げます。 先生御指摘のように、国会、裁判所につきましては、憲法上、政府とは独立をした地位を有しているわけでございます。また、憲法上、予算を作成し国会に提出する事務、いわゆる予算編成権と言っておりますが、これは内閣の事務とされているところでございます。このために、これらの国会、裁判所の独立性を財政面から不当に制約することのないよう、財政法第十七条から第十九条の規定におきまして調整の方法が定められているところでございます。
 予算編成の過程で具体的にこの調整がどういうふうに行われているか申し上げますと、予算につきましては、まず概算要求という段階がございます。財政法第十七条第一項によりまして、国会、裁判所は、内閣に対しまして、歳入、歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の見積もりに関する書類を送付されるわけでございます。
 概算要求に当たりましては、内閣のもとにございます行政機関は、先生御承知のように、閣議了解ないしは総理の基本方針というものに従いまして概算要求を行わなければならないということになっておりますが、国会や裁判所の独立機関につきましては、内閣から、行政機関はこういった概算要求基準で要求をいたしますよという内容を参考までに送付いたしまして協力を要請しているということにとどまっているわけでございます。
 次に、大蔵大臣のもとに送られてきた概算要求をいろいろ議論する、いわゆる査定の段階があるわけでございますが、この段階におきまして、行政府と国会、裁判所との間でさまざまな形で意見調整を行い、合意を得るという手続があるわけでございます。
 これにつきまして、意見が調わない場合が発生するわけでございますが、国会や裁判所の意に反しまして行政府において歳出の見積もりを減額して予算を国会に提出するというような場合には、財政法第十九条の規定によりまして、これらの機関の歳出見積もりの詳細を付記をいたしまして、国会が独立機関の歳出額を修正する場合における必要な財源を明記するという形、いわゆる二重予算制度になっているわけでございます。
 いずれにいたしましても、現在の予算制度におきましては、国会や裁判所の予算につきまして、その独立性を十分尊重しつつ、合意のもとに予算調整を行うという具体的な編成を行っているところでございます。

(引用終わり)

(財政法19条)
 内閣は、国会、裁判所及び会計検査院の歳出見積を減額した場合においては、国会、裁判所又は会計検査院の送付に係る歳出見積について、その詳細を歳入歳出予算に附記するとともに、国会が、国会、裁判所又は会計検査院に係る歳出額を修正する場合における必要な財源についても明記しなければならない。

 

 それから、財政法17条1項や予算決算及び会計令8条1項では、「作製」という表記が用いられていますが、現在では、「作製」とは物品の製作を意味する場合にだけ用い、それ以外は「作成」という表記を用いるものとされています。

 

(「法令における漢字使用等について」(平成22年11月30日内閣法制局長官梶田信一郎)より引用)

作製・作成(「作製」は製作(物品を作ること)という意味についてのみ用いる。それ以外の場合は「作成」を用いる。)

(引用終わり)

 

 本題に戻りましょう。概算要求書は、前年度の8月31日までに作成する必要がある。大事なことは、その時点では、いまだその年の司法試験の結果は公表されていない、ということです。これは、具体的にいえば、以下のようなことを意味します。

(1)平成28年度の概算要求書は、平成27年8月31日までに作成しなければならず、その時点ではいまだ平成27年司法試験の結果は公表されていないので、最も直近で確認できる数字として、平成26年司法試験の結果(合格者数1810人)を参照することになる。
(2)平成29年度の概算要求書は、平成28年8月31日までに作成しなければならず、その時点ではいまだ平成28年司法試験の結果は公表されていないので、最も直近で確認できる数字として、平成27年司法試験の結果(合格者数1850人)を参照することになる。
(3)平成30年度の概算要求書は、平成29年8月31日までに作成しなければならず、その時点ではいまだ平成29年司法試験の結果は公表されていないので、最も直近で確認できる数字として、平成28年司法試験の結果(合格者数1583人)を参照することになる。

 これを表にまとめると、以下のようになるわけですね。

年度
(平成)
概算要求書
における数字
参照する
合格者数
28 1810 平成26年司法試験
(1810)
29 1800 平成27年司法試験
(1850)
30 1500 平成28年司法試験
(1583)

 おわかりいただけたでしょうかこれだけのことなのです。「くっだらねぇ。」と思ったなら、筆者もそう思います。ここまで理解した上で、改めて冒頭に示した書込みを見てみましょう。

 

(5ちゃんねる「平成30年司法試験2」より引用。太字強調は筆者。)

400 名前:氏名黙秘[sage] 投稿日:2018/01/20(土) 20:28:56.40 ID:shUFNyao
確実に減るよ

下の資料の司法修習生の費用の項目の「実務修習旅費」の項目は、平成28年度 1年次生、2年次生共に1810人
平成29年度 1年次生、2年次生共に1800人
平成30年度 1年次生1500人、2年次生1600人
と書かれている。歳出概算要求書は、司法修習生の人数をおおよそ決定して予算を要求しているはず。したがって、上の人数は司法修習生の採用予定人数を多めに見積もったものと考えられる。1年次生、2年次生というのは、会計年度が4月スタートなのに対して、修習が12月スタートになるためであろう。すなわち、2年次生が前年度採用の修習生、1年次生が今年度採用予定の修習生を表していると推察される。
ご存知の通り司法試験の合格者数は
平成28年、29年と1500人~1600人の間となっている。そして概算要求書に記載されている数は1800人程度。それが平成30年度は1500人となっている。すなわち、合格者数も200人~300人ほど減少すると考えられる。

裁判所所管
平成30年度歳出概算要求書
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/H30gaisanyoukyuusyo.pdf

平成29年度歳出概算要求書
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/H280909isaisyutu.pdf

平成28年度歳出概算要求書
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/H270911isaisyutu.pdf

(引用終わり)

 

 ここまで読んでいれば、筆者でなくても、「ハハッ、ワロス。」となるでしょう。このように、情報というものは、鵜呑みにすることなく、その真偽を慎重に確認する必要がある。うそはうそであると見抜ける人でないと、難しいのです。

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2018年02月04日

平成30年司法試験の出願者数について(2)

1.今回は、明らかになった出願者数の速報値から、今年の司法試験についてわかることを考えてみます。以下は、直近5年の出願者数、受験者数等をまとめたものです。

出願者数 受験者数 受験率
(対出願)
26 9255 8015 86.6%
27 9072 8016 88.3%
28 7730 6899 89.2%
29 6716 5967 88.8%
30 5811 ??? ???

 

短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
26 5080 63.3%
27 5308 66.2%
28 4621 66.9%
29 3937 65.9%
30 ??? ???

 

論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
26 1810 35.6% 22.5%
27 1850 34.8% 23.0%
28 1583 34.2% 22.9%
29 1543 39.1% 25.8%
30 ??? ??? ???

2.まず、受験者数の予測です。これは、出願者数に受験率を乗じることで、算出できます。受験率は、受験回数制限が緩和されて以降、概ね88%、89%程度で推移しています。ここでは、受験率を89%と仮定して、試算しましょう。そうすると、

 5811×0.89≒5171

 受験者数は、5171人と推計でき、昨年より800人程度減少するだろうということがわかります。

3.次に、短答合格者数です。現在の短答式試験の合格点は、以下のようなルールで説明できます(「平成29年司法試験短答式試験の結果について(1)」)。

(1)満点(175点)の6割5分である113.75の小数点を切り上げた114点を一応の基本的な合格点とする
(2)下位3分の1を落とす程度、すなわち、合格率66%を一応の目安とし、114点を合格点とするとそれより離れすぎる場合には、合格点を調整する

 以上のルールからすれば、今年の短答合格率も66%を大きく離れることはなさそうだ、という予測ができます。そこで、今年も短答の合格率(対受験者)が66%となると仮定すると、

 5171×0.66≒3412

 短答合格者は、3412人と推計できます。概ね3400人ということですね。
 合格率を一定にして試算していますから、合格者数が3400人前後であれば、短答の難易度は、例年とそれほど変わらないということになります。

4.さて、問題は論文です。ここは、1500人の下限が破られるか、というのが、ポイントになります。

 

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用。太字強調は筆者。)

  新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである

(引用終わり)

 

 この1500人の下限が、今年は破られるのか。現在明らかになっている資料からすれば、「そんなのわかるわけねーよ。」というのが、正直なところです。ですが、ここは少し、憶測的な話をしてみましょう。以下は、直近5年の最終合格者数の推移です。

最終合格者数
25 2049
26 1810
27 1850
28 1583
29 1543

 平成25年は「2000人基準」、平成26年と平成27年は、「1800人基準」によって、合格者数が決まっていると考えることができました(「平成27年司法試験の結果について(1)」)。上記の推進会議決定が出されたのが、平成27年の6月ですから、平成27年の結果はこれを受けたものですが、従前の「1800人基準」を維持するというもので、ここまではわかりやすい結果でした。この時点では、「今後、合格者数が減っていく可能性はあるが、おそらくは、「1700人基準」、「1600人基準」、「1500人基準」というように、徐々に基準値を引き下げる感じになるだろう。」と思われたのです。
 ところが、平成28年の合格者数は、1583人。一気に合格者数は下限近くまで減ってしまいました。しかも、「1500人基準」を採ったわけでもない、従来の傾向からすると中途半端な位置で、合格点が決まっていたのでした(「平成28年司法試験の結果について(1)」)。これは、当初の事務局案とは異なる決定によって、こうなったのだろう、というのが、憶測の出発点です。普通、事務方というのは、形式的な決定基準を用意しています。「どうしてこうなったのか。」と問われたときに、明快に答えられるようにしておく必要があるからです。例えば、平成27年の合格者数について、司法試験委員会や考査委員会議の委員から、「どうして1850人という案を出してきたのか。」と問われれば、以下のように明快に回答することが可能です。

 「従来、司法試験の合格者数は、一定の基準人数を5点刻みで最初に超える得点を合格点とし、その合格点以上の者を合格者と判定してきたわけでありますが、平成27年6月30日の法曹養成制度改革推進会議決定におきまして、直近でも1800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1500人程度は輩出されるようにするものとされております。昨年(平成26年)の段階で、基準人数を2000人から1800人へと引き下げておりまして、本年(平成27年)は、昨年と受験者数にほとんど変動がない(平成26年は8015人。平成27年は8016人。)ことを踏まえますと、現時点でさらなる基準人数の引き下げを行う特段の必要性もないと考えられますことから、昨年同様に1800人を基準人数といたしまして、5点刻みで最初にこの1800人を超える得点である835点を合格点とし、総合得点においてその得点以上であった者を合格者と判定いたしましたところ、1850人が合格者と判定されたということでございます。」

 しかし、平成28年の結果については、このような説明が難しいのです。平成28年になって急に1500人台まで減らすというのであれば、どうして平成27年の段階で基準人数を1800人に据え置いたのか。今後、合格者数を減らしていくというアナウンスという意味でも、平成27年段階で1700人程度にしておくべきではなかったのか。1500人台にするとしても、従来の先例によるならば、基準人数を1500人とし、5点刻みで最初に1500人を超える得点を合格点とすべきであるのに、なぜそうしなかったのか。これらの疑問をぶつけられると、返答に困るでしょう。ここから、当初は、例えば「1700人基準」による合格者数が事務局案として提示されたのに、考査委員会議において「もっと減らすべきだ。」という強い異論が出て、1583人になってしまった、ということかもしれない、という憶測に発展します。この平成28年は、例の漏えい事件に対する暫定的な対応として、専ら採点に携わる者を除き、法科大学院教員が考査委員から外された年でした。

 

(「平成28年司法試験における考査委員の推薦方針について」(平成27年10月21日司法試験委員会決定)より引用。太字強調は筆者。)

 当委員会は,本日,司法試験出題内容漏えい問題に関する原因究明・再発防止検討ワーキングチームから提出を受けた「平成28年司法試験考査委員の体制に関する提言」の内容を重く受け止め,今後,その基本方針に従い,平成28年司法試験考査委員の推薦を行っていくこととする。

(引用終わり)

(「平成28年司法試験考査委員の体制に関する提言」(平成27年10月21日司法試験出題内容漏えい問題に関する原因究明・再発防止検討ワーキングチーム)より引用。太字強調は筆者。)

  平成28年司法試験においては,短答式試験においても論文式試験においても,研究者・実務家を問わず,法科大学院において現に指導をしている者は問題作成に従事しないこととし,研究者委員に関しては,かつて法科大学院における指導に関わっていたものの現在は指導を離れている研究者や学部のみの指導に関わっている研究者など,法科大学院での指導に現に従事していない者が司法試験委員会の了承の下で実務家とともに問題作成を行うという考査委員体制とすることが相当と考えられる。ワーキングチームは,司法試験委員会に対し,各科目・分野における特性を踏まえつつ,かかる基本方針の下で平成28年司法試験の考査委員の選任を早急に進めることを提言する。
 これに対し,論文式試験の採点に関しては,採点者において採点対象となっている受験者を特定することができない状況とする運用が確立されており,特定の受験者が有利に取り扱われる事態が想定されないことに加え,法科大学院教育の実情を踏まえた採点方針とする必要性も認められることから,これまでと同様,司法試験実施後に任命されることを前提として,法科大学院における指導に現に関わっている者が考査委員となることも差し支えないものと考える。

(引用終わり)

 

 研究者委員に代わる実務家の多くは弁護士ということになるわけですが、日弁連は当時、早期に1500人まで減らせ、と主張していました。

 

(「平成28年司法試験最終合格発表に関する会長談話」(平成28年9月6日日弁連会長中本和洋)より引用。太字強調は筆者。)

 当連合会は…現実の法的需要や新人弁護士に対するOJT等の実務的な訓練に対応する必要性から、急激な法曹人口の増員ペースを緩和すべく、司法試験合格者数については、まずは早期に年間1,500人とすることを提言している

 (中略)

 本年の合格者数は、昨年より267人減少し、法曹人口の増員ペースが一定程度緩和されたと言うことができ、この流れに沿って早期に1,500人にすることが期待される。

(引用終わり)

 

 地方の単位会では、より大幅な減員(例えば、1000人など)を主張するものが、現在でも多数あります(「2017年司法試験合格判定にあたり、法曹の質確保のため適正かつ厳正な判定が行われるよう求める会長声明」(札幌弁護士会)。「2017年度(平成29年度)司法試験に厳正な合格判定を求める会長声明」 (京都弁護士会)。「平成29年度司法試験合格者発表を受けての会長談話」(埼玉弁護士会)。「平成29年度司法試験に厳正な合格判定を求める会長声明」(栃木県弁護士会)。「平成29年度司法試験最終合格発表に関する会長声明」(兵庫県弁護士会)。「2017年度(平成29年度)司法試験に厳正な合格判定を求める会長声明」(山口県弁護士会)等)。

 

 そんなことを考えながら、翌年の平成29年のことを考えてみます。この年は、法科大学院教員が戻ってきた年でした。

 

(「平成29年以降の司法試験考査委員体制について」(平成28年11月2日司法試験委員会決定)より引用。太字強調は筆者。)

 当委員会は,司法試験出題内容漏えい問題に関する原因究明・再発防止検討ワーキングチームから提出を受けた「司法試験出題内容漏えい事案を踏まえた再発防止策及び平成29年以降の司法試験考査委員体制に関する提言」の内容を踏まえ,当委員会及び法科大学院関係者において十分な再発防止策を講じることを前提として,法科大学院において現に指導をしている者についても,問題作成を担当する司法試験考査委員として推薦対象とすることとする。

(引用終わり)

 

 この平成29年は、多くの人が1500人割れを想定していました。仮に1500人を守るつもりがあるのであれば、徐々に減らしていくはずであるのに、平成28年に一気に1500人台まで減らしてしまった。これは、1500人という下限は守るつもりがないぞ、というメッセージだろう、と捉えたわけです。おそらく、平成27年に1583人という合格者数にすべきであるという意見を強く主張した考査委員の中には、そのような考え方の人も多かったでしょう。他方で、事務局としては、事務局の権限で上記の推進会議決定を無視するという判断をするわけにはいかないですし、前回の記事(「平成30年司法試験の出願者数について(1)」)で説明したとおり、文科省は合格者数1500人を基礎にして法科大学院の入学定員を計算しているわけですから、1500人を割り込んでしまうと、文科省の計算が狂って困るだろうということもある。そこで、1500人を基準人数とする案を提示したのでしょう。そして、おそらくは、考査委員の構成の変化によって、合格者数をさらに減少すべきだと強く主張する意見は少数にとどまった。その結果、1500人を基準人数とするという事務局案が、そのまま通ったこれが、平成29年に1500人を割り込むことがなく、かつ、「1500人基準」で説明できる合格者数だった(「平成29年司法試験の結果について(1)」)ことの背景ではないか。そんな憶測が、頭の中に浮かびます。ただ、これは当初からそうなるかどうか、ということは、必ずしもわかっていなかったのでしょう。なぜなら、短答段階では、例年どおり、合格率を66%程度に据え置いていたからです。初めから1500人を維持するつもりなら、短答段階でもう少し合格者を増やしてもよかった。それをしなかったために、短答と論文の合格率のバランスが崩れ、論文だけ、例年よりもかなり高い合格率になってしまったのでした(「平成29年司法試験の結果について(1)」)。
 さて、以上の憶測を仮に前提にするとすると、今年はどうなると考えることができるか。現段階で、1500人を下限目安とする推進会議決定を変更する特段の政府の意思決定はありませんから、事務局としては、今年も1500人を基準人数とする案を出してくる可能性が高いでしょう。そして、法科大学院教員が考査委員に戻って来たという状況に変化はなく、法科大学院教員としては、ローの定員が合格者1500人を前提に考えられている以上、1500人を下回ってしまうと、さらなる定員削減を求められることになりかねないので、1500人の下限を守ろうとするでしょう。そういうことからすれば、今年も1500人が守られる可能性は、それなりにありそうだと考えることができます。
 とはいえ、今年の場合、1500人も合格したら、論文が簡単になり過ぎるのではないか。前記の短答合格者3412人という推計を基に合格者が1500人だった場合の論文合格率(短答合格者ベース)を計算すると、以下のようになります。

 1500÷3412≒43.9%

 これは、どのくらいの水準なのでしょうか。以下は、直近5年の論文合格率(短答合格者ベース)の推移です。


(平成)
論文
合格率
26 35.6%
27 34.8%
28 34.2%
29 39.1%
30 43.9%?

 さすがにちょっと高すぎる、という印象を持ちます。出願者数が減っているのに、短答合格率を例年どおりとし、さらに論文合格者数を据え置いているので、このようなことになるのです。そこで、考えられるのは、短答でもう少し受からせる、という方法です。仮に、短答合格率を75%にして、論文合格率(短答合格者ベース)を計算すると、以下のようになります。

 1500÷(5171×0.75)≒38.6%

 この水準であれば、直近では平成28年以前と平成29年の間くらいの合格率となります。仮に、短答合格者を決定する段階から1500人程度を合格させるつもりなら、短答の合格率を75%程度まで高めてくる可能性は、十分あるでしょう。、すなわち、下位3分の1を落とす試験から、下位4分の1を落とす試験にする、ということですね。この場合の短答合格者は、5171×0.75≒3878人ということになります。短答合格者発表の段階で、この点は1つの注目点となりそうです。

5.とはいえ、今年も1500人が維持されるという前提で受験対策をすることは危険です。最悪の事態であっても合格できる程度のレベルにまで、高めておくべきでしょう。その意味でいえば、多くの人が感覚的ではあれ、合意できる最悪の水準は、「さすがに1000人は割らない。」というところだろうと思います。つまり、1000番以内に入るようにしておけば、まず落ちることはない。そこで、短答が例年どおりの合格率66%だった場合に、論文合格者数が1000人だった場合を考えると、短答合格者ベースの合格率は、以下のようになります。

 1000÷3412≒29.3%

 かなり厳しい数字だな、ということは、感覚的にわかります。ただ、受験対策として考える場合には、これが過去の例ではどのくらいの順位を意味するのか、ということを考えてみると、より具体的に把握できるでしょう。そこで、平成25年以降で、上位29.3%となる順位をまとめたのが、以下の表です。


(平成)
上位29.3%
となる順位
25 1540
26 1488
27 1555
28 1353
29 1153

 これがどんなときに役に立つか、ということですが、それは、再現答案を見るときです。再現答案には、当時の順位が付されていたりしますが、それが今年でいえば、何位くらいなのか。意外と、把握できていないことが多いのです。もちろん、受験生の構成自体が違うのですから、完全な比較はできないのですが、概ね上位何%なのか、ということを意識しておくと、ある程度の比較が可能になるのです。その意味でいえば、今年の1000番は平成25年でいえば1540番に相当しますから、平成25年の再現答案を参照する場合には、1500番程度の答案のレベルまで高めておけば一応は大丈夫だろうといえる、ということがわかるわけですね。
 最後に、これまでの試算に用いた数字をまとめておきましょう。

出願者数 受験者数 受験率
(対出願)
26 9255 8015 86.6%
27 9072 8016 88.3%
28 7730 6899 89.2%
29 6716 5967 88.8%
30 5811 5171? 89%?

 

短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
26 5080 63.3%
27 5308 66.2%
28 4621 66.9%
29 3937 65.9%
30 3421?
3878?
66%?
75%?

 

論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
26 1810 35.6% 22.5%
27 1850 34.8% 23.0%
28 1583 34.2% 22.9%
29 1543 39.1% 25.8%
30 1500? 43.9%?
38.6%?
29.0%?
1000? 29.3%? 19.3%?

 

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2018年02月02日

平成30年司法試験の出願者数について(1)

1.平成30年司法試験の出願者数の速報値が公表されました。5811人でした。以下は、直近5年の出願者数の推移です。

出願者数 前年比
26 9255 -1060
27 9072 -183
28 7730 -1342
29 6716 -1014
30 5811 -905

 出願者数は、昨年から905人減少しています。昨年は1014人の減少ですから、減少幅は縮まっていますが、かなり大きな減少です。仮に、毎年同じペースで減少を続ければ、6、7年で受験者数がゼロになってしまいます。さすがにそれはない、というのが、直感的な結論です。実際のところはどうなのか、検討してみましょう。

2.近時、出願者数が減少傾向にあることの原因は、法科大学院の入学者数の減少にあります。法科大学院に入学する人が減れば、受験資格を得る人が減りますから、出願する人も減るという理屈です。以下は、平成20年度以降の法科大学院の入学定員及び実入学者人員の推移です(「法科大学院における平成29年度の入学者選抜の状況」及び「各法科大学院の入学定員及び実入学者数の推移」参照。平成30年度の入学定員数は予定値。)。

年度 入学定員 前年比 実入学者 前年比
20 5795 --- 5397 ---
21 5765 -30 4844 -553
22 4909 -856 4122 -722
23 4571 -338 3620 -502
24 4484 -87 3150 -470
25 4261 -223 2698 -452
26 3809 -452 2272 -426
27 3169 -640 2201 -71
28 2724 -445 1857 -344
29 2566 -158 1704 -153
30 2330 -236 --- ---

 入学定員・実入学者ともに、一貫して減少傾向にあることがわかります。これだけ減少が続いていれば、司法試験の出願者数がどんどん減るのも当然といえるでしょう。この入学定員・実入学者の減少傾向に歯止めがかからない限り、出願者数の減少傾向も止まらないでしょう。では、入学定員・実入学者の減少傾向は、いつまで続くのか

3.そもそも、法科大学院の定員削減は、何のために行われたのでしょうか。これは、志願者を増加させるためです。定員を削減したのでは、むしろ志願者は減ってしまうのではないか、と疑問を持つ人も多いでしょう。これを理解するには、政府が、現在の志願者激減の原因をどのように捉えているか、ということを確認しておく必要があります。

 

(「法曹養成制度検討会議取りまとめ(平成25年6月26日)」より引用。太字強調は筆者。)

 法曹志願者の減少は,司法試験の合格状況における法科大学院間のばらつきが大きく,全体としての司法試験合格率は高くなっておらず,また,司法修習終了後の就職状況が厳しい一方で,法科大学院において一定の時間的・経済的負担を要することから,法曹を志願して法科大学院に入学することにリスクがあるととらえられていることが原因である

(引用終わり)

 

 政府は、司法試験の合格率が高くなっていないことが、志願者激減の原因の1つだと考えているのです。そこで、これを解消するにはどうしたらいいか、と考えてみると、2つの方策が考えられるでしょう。1つは、分子である合格者数を増やすこと。もう1つは、分母である受験者数を減少させることです。しかし、合格者数をこれ以上増やすことは、志願者減少の他の原因である司法修習終了後の就職状況をさらに悪化させることになってしまいます。そのため、合格者数は、1500人を一応の下限としつつ、むしろ減らしていこうというのが、現在の政府の方針になっています。

 

(「法曹養成制度検討会議取りまとめ(平成25年6月26日)」より引用。太字強調は筆者。)

 近年,過払金返還請求訴訟事件を除く民事訴訟事件数や法律相談件数はさほど増えておらず,法曹の法廷以外の新たな分野への進出も現時点では限定的といわざるを得ない状況にある。さらに,ここ数年,司法修習終了者の終了直後の弁護士未登録者数が増加する傾向にあり,法律事務所への就職が困難な状況が生じていることがうかがわれることからすれば,現時点においても司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすることを目指すべきとの数値目標を掲げることは,現実性を欠くものといわざるを得ない。
 上記数値目標は,法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題であったことから,早期に達成すべきものとして掲げられた目標であるが,現状においては,司法試験の年間合格者数の数値目標を掲げることによって,大幅な法曹人口増加を早期に図ることが必要な状況ではなくなっている

(引用終わり)

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成 27年6月30日)」より引用。太字強調は筆者。)

 新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである

(引用終わり)

 

 そうなると、考えられる方策は、分母である受験者数の減少しかない、ということになります。そのためには、法科大学院の定員を削減することが、最も直接的かつ有効な手段です。では、どの程度まで定員を削減すべきなのか。これは、合格率の目標とされてきた、「修了生の7割」(その具体的な意味については、「平成29年司法試験の結果について(2)」参照)、当面の合格者数の下限とされている1500人から、逆算することによって算定が可能です。現に、文科省はそのような逆算によって、あるべき法科大学院の定員目標を、概ね2500人としたのでした。

 

(「法曹人口の在り方に基づく法科大学院の定員規模について」より引用。太字強調は筆者。)

 累積合格率7割の達成を前提に、1,500人の合格者輩出のために必要な定員を試算すると、以下のとおりとなる。

○ 法科大学院では厳格な進級判定や修了認定が実施されており、これまでの累積修了率は85%であること。  

○ 予備試験合格資格による司法試験合格者は、平成26年は163名であるが、うち103名は法科大学院に在籍したことがあると推測されること。

 上記2点を考慮した計算式:(1,500 - 163) ÷ 0.7 ÷ 0.85 + 103 ≒ 2,350

○ さらに、法科大学院を修了しても司法試験を受験しない者がこれまでの累積で6%存在すること。 

 上記3点を考慮した計算式:(1,500 - 163)÷ 0.7 ÷ 0.85 ÷ 0.94 + 103 ≒ 2,493 

(引用終わり)

 

 法科大学院の定員を削減するといっても、文科省が直接に指示することはできません。飽くまで、定員は法科大学院自身が決めることですから、自主的に削減してもらうしかない。そこで用いられたのが、定員を削減しない法科大学院に対する補助金を削減する、という手段です。具体的には、補助金支給額の基準を「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム」として定め、その中に「定員充足率」の指標を含ませることで、定員を削減しないと補助金が減額されてしまう仕組みを作ったのでした。

 

(「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラムの審査結果について(平成29年12月28日)」より引用。太字強調は筆者。)

 本プログラムは、法科大学院間のメリハリある予算配分を通じ、入学定員の適正化等の組織見直しを促進するとともに、先導的な取組を支援し、法科大学院の教育力の向上を図るものです。 

(引用終わり)

 

4.この結果、平成29年度の入学定員は、2566人まで減少しました。この時点で、目標としていた2500人に近い水準です。これで、多少のタイムラグはあるものの、近い将来に合格率は修了生の7割を実現できる程度となるだろう、というのが、文科省の目論見です(ただし、実は修了生7割と入学定員との間には直接の対応関係がないことについては、「平成28年司法試験の結果について(3)」参照。)。この入学定員削減目標の達成を契機として、文科省の方針は、入学定員削減から志願者数確保へと転換したのです。今後、合格率は上昇に向かい、志願者が減少した原因の1つが取り除かれるので、今後は志願者数は増加に向かうだろう、という観測があるわけです。これに対応して、定員充足率が、法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラムの指標から外されたのでした。

 

法科大学院特別委員会(第75回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

塩田専門職大学院室長「法曹人口の1,500人といったような数字を踏まえまして,当面,目指すべき法科大学院の定員規模を2,500人としたということでございまして,その2,500という数字を達成するために,加算プログラムを29年度以降も継続して実施するというような趣旨を書いているものでございます。…平成29年の予定ということでございますけれども…六大学が定員の見直しを行うということを予定されていて,募集停止となる2大学がございます。その定員分を含めまして…来年度は2,566人になる見込みということでございます。ということで,先ほど御説明しましたように,目標値として2,500人程度ということを掲げておりますので,数字がほぼ達成されるというような状況になってございます。
   加算プログラムにつきましては,自主的な組織見直しの促進ということと,各法科大学院における優れた取組を支援すると,こういったような目的で実施しておるわけでございますけれども,目標値である2,500人という数字が達成されるということでございますと,今後,基礎学の指標の取り方を含めまして何らかの修正を加える必要があるのかなとは認識してございます。」

(引用終わり)

(「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム」の見直しについて」より引用。太字強調は筆者。)

 入学定員の目標がほぼ達成され、今後は入学定員の適正化に代わって志願者数の確保が重要な課題となることから、定員充足率については指標から削除する。一方、入学者数が10名を下回る場合は、教育組織として規模が小さくなり過ぎているなど、法科大学院としてふさわしい教育環境の確保への影響が懸念されることから、3年連続で入学者数が10名未満となった場合は減点する。

(引用終わり)

(「法科大学院改革の取組状況等について」より引用。太字強調は筆者。)

○ これまで、公的支援の見直し強化策等を通じて法科大学院の自主的な組織見直しを促進してきた結果、平成29年度の入学定員は2,566人となる見込みであり、法曹人口についての推進会議決定(※)を踏まえて設定した法科大学院の目指すべき定員規模(「当面2,500人程度」)を概ね達成
○ これを受け、今後は志願者数の確保がより重要な課題となることから、平成28年12月に、「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム」 の運用見直しを行った

 (中略)

これまで、定員充足率と競争倍率の両方を指標として設定することにより、組織見直しを強く促す形となっていたところ、平成30年度予算からは定員充足率の指標を削除することにより、競争倍率の向上につながる、志願者確保のための取組を促すこととしている。

(引用終わり)

 

 従来は、競争倍率(入学者選抜試験受験者数÷入学者選抜試験合格者数)と定員充足率(入学者数÷入学定員)の双方の指標をクリアする必要があったので、例えば、競争倍率2倍、定員充足率70%を同時にクリアする必要があるとすると、入学者選抜試験受験者が100人だった場合には、競争倍率2倍をクリアするために入学者選抜試験合格者数を50人以下にする必要があり、定員充足率70%をクリアするためには、入学者が50人だったとしてもせいぜい70人程度の定員とならざるを得ません。これが、定員充足率を全く考慮しなくてよいとなると、極端にいえば、仮に実際の入学者が50人程度であっても、入学定員を500人にしてよいということになる。このように、定員充足率が指標から外されると、定員を増やしやすくなるのです。

5.とはいえ、実際には、定員をどんどん増やすということは簡単ではありません。実際の入学者が50人しかいないのに、入学定員を500人にしていたりすれば、「あそこのローは大丈夫か。」という話になるでしょうし、そんなことをしていると、現状では認証評価の方で引っ掛かってしまいます。

 

法科大学院評価基準要綱(平成29年6月改定)より引用。 太字強調は筆者。)

6-2-2
 入学者受入において、所定の入学定員と著しく乖離していないこと。

解釈指針6-2-2-1
 入学者受入において、所定の入学定員と乖離しないよう必要な措置が講じられている必要がある。

解釈指針6-2-2-2
 5年の評価期間中において、評価実施年度における入学定員充足率が50%を下回っており、かつ、他の4年間において入学定員充足率が50%を下回る年度が2回以上あった場合には、原則として、所定の入学定員と著しく乖離していないとはいえない。ただし、基準に適合しているか否かの最終的な判断は、夜間開講や地域性等の個別の事情を勘案して行う。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第76回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

磯村保(早大)委員「入学定員の充足率のところなのですけども…認証評価の関係では,定員充足率が指標に含まれています。加算プログラムではこの指標を外しても,認証評価の関係では,そこは維持するということになると,方向性としては定まらないというところが残るように思いますので,そこは認証評価との関係の調整を考えていただく必要がある」

(引用終わり)

 

 現実には、2566人まで定員を減らした平成29年度の実入学者は1704人であり、平成30年度の入学定員は、さらに減少して2330人となる見込みです。これは、入学定員削減目標値である2500人を下回る数字です。今後、入学定員の減少に歯止めがかかることはあり得るとしても、どんどん定員が増えていく、ということには、なりにくいでしょう。

6.結局のところ、入学者選抜試験受験者、すなわち、法曹志願者が増えなければ、入学定員も増やせない。文科省が明示しているとおり、今後は志願者の増加が大きな課題となるわけです。しかし、これに対する文科省の対策は、「司法試験の出願者数が減少することによって、合格率が上昇すれば、志願者が増えるだろう。」というもので、仮に、これがそのとおりになったとしても、目に見えて効果が出るのはかなり先のことになるでしょう。ですから、当面は、入学定員・実入学者ともに、下げ止まることはあっても、反転上昇に向かうには時間がかかるだろうと思います。他方、合格率が低いことだけが志願者減少の原因ではないのだとすれば、司法試験の合格率が上がっても、法曹志願者は増えない可能性があります。ただ、直感的には、それでもどこかで志願者数は下げ止まりそうです。「どんなに条件が悪かろうと、何がなんでも法曹になりたい。」という人は、一定数いそうだからです。その意味では、現時点で想定できる最悪の状況は、そのような人しか司法試験を受験しないような水準まで志願者が減少する事態だといえます。既にそうなっている、と思う人もいるかもしれませんが、まだそこまでは行っていない、というのが、筆者の感覚です。

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