2019年02月26日

平成31年予備試験の出願者数について(2)

1 出願者数から予測できる今年の予備試験の短答・論文の難易度を検討します。
 まず、受験者数の予測ですが、予備試験の受験率(出願者ベース)は、例年82%程度です。ですから、今年の予備試験の受験者数は、以下のようになると予測できます。

 14494×0.82≒11885人

2 次に、予備試験の短答式試験の合格者数です。一昨年までは、これは「2000人基準」によって説明できました(「平成29年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。それが昨年は、「2500人基準」に変化したともとれるような結果になりました(「平成30年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。当初、これは論文合格者が400人を大きく超える場合を見越したものだろう、と考えていました。ところが、実際に論文の結果をみてみると、合格者数は459人にとどまりました。実際に論文の採点をしてみると、予想より全体の出来が悪かったのではないか、そして、その要因は論文受験者の増加によるところが大きいのではないか、というのが、当サイトの推測です(「平成30年予備試験論文式試験の結果について(2)」)。
 このようなことを考慮すると、今年は、昨年の反省から、短答は「2000人基準」に戻る可能性があるでしょう。一方で、昨年より受験者数が増えることを考慮して、昨年同様、「2500人基準」が採用される可能性も十分あるように思います。そこで、ここでは、短答合格者が2100人だった場合と、2600人だった場合を考えて、合格率(対受験者)を試算してみることにしましょう。

短答合格者数 短答合格率
2100 17.6%
2600 21.8%

 以下は、これまでの短答合格率(対受験者)の推移です。


(平成)
短答
合格率
23 20.6%
24 23.8%
25 21.8%
26 19.5%
27 22.1%
28 23.2%
29 21.3%
30 23.8%
31 17.6%?
21.8%?

 これをみると、短答合格者数が2600人なら、数字の上では平成29年と同じくらいの難易度ですが、2100人となると、これまでで最も厳しい短答となってしまうことがわかります。短答合格者が2100人程度だった場合でも大丈夫なように、短答は手を抜かずにやっておく必要があるでしょう。

3 論文はどうか。近時の論文式試験の合格点及び合格者数は、以下の法則で説明することができます(「平成30年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。

(1)210点に累計で400人以上存在しない場合は、210点が合格点となる。
(2)210点に累計で400人以上存在する場合は、5点刻みで初めて400人を超える点数が合格点となる(「400人基準」)。
(3)ただし、上記(2)を適用すると、合格点が245点を超える場合には、245点が合格点となる。

 そして、平成27年、平成28年は、それ以前の傾向では説明の付かない平均点の上昇が生じた結果、上記(2)の「400人基準」によって、合格点及び合格者数が決定され(「平成28年予備試験論文式試験の結果について(2)」)、平成29年は、初めて上記(3)が適用されて、論文合格者は469人となったのでした(「平成29年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。この上記(3)の基準の存在によって、受験生全体の出来が良ければ、合格者数が400人を大きく上回る可能性がでてきたのです。しかし、昨年は、全体の平均点が7点程度下がったことによって、再び上記(2)の「400人基準」が適用されたのでした(「平成30年予備試験論文式試験の結果について(2)」)。
 以上の経緯を踏まえると、今年の合格者数としては、概ね以下の3つのケースを考えておけばよさそうです。

① 基準(2)が適用されて、合格者数は410人くらいになる。
② 基準(2)又は(3)が適用されて、合格者数は460人くらいになる。
③ 基準(3)が適用されて、合格者数は510人くらいになる。

 短答合格者数が2100人だった場合と、2600人だった場合のそれぞれについて、上記①から③までの論文式試験の短答合格者ベースの合格率を試算してまとめると、以下のようになります。

短答
合格者数
論文
合格者数
論文合格率
(対短答)
2100 410 19.5%
460 21.9%
510 24.2%
2600 410 15.7%
460 17.6%
510 19.6%

  過去の数字と比べてみましょう。


(平成)
論文
受験者数
論文
合格者数
論文合格率
23 1301 123 9.4%
24 1643 233 14.1%
25 1932 381 19.7%
26 1913 392 20.4%
27 2209 428 19.3%
28 2327 429 18.4%
29 2200 469 21.3%
30 2661 459 17.2%

 今年の論文が最も厳しくなるシナリオは、短答合格者数が2600人で、論文合格者数が410人だった場合です。昨年同様、短答で多めに合格させたのに、実際に論文を採点してみると全然出来がよくなかったという場合、このような結果になる可能性があるでしょう。この場合には、論文合格率は15.7%となり、数字の上では平成24年に次ぐ厳しい年になる。逆に、最も易しくなるシナリオは、短答合格者数が2100人で、論文合格者数510人だった場合です。昨年の反省から短答を少なめにしたところ、意外にも論文の出来がとてもよかったという場合、このような結果になり得るでしょう。この場合、論文合格率は24.2%になります。これは、数字の上では、これまでで最も難易度の低い数字です。今年は、論文の難易度が両極端に振れる可能性のある年といえるでしょう。

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2019年02月24日

平成31年予備試験の出願者数について(1)

1 法務省から、平成31年司法試験予備試験の出願者数の速報値が公表されました。14494人でした。以下は、年別の予備試験の出願者数の推移です。


(平成)
出願者数 前年比
23 8971 ---
24 9118 +147
25 11255 +2137
26 12622 +1367
27 12543 -79
28 12767 +224
29 13178 +411
30 13746 +568
31 14494 +748

 平成25年、平成26年と急激に増加した出願者数は、平成27年にいったん頭打ちとなり、これからは減少傾向に転じるのではないかとも思われました。ところが、平成28年は再度増加に転じ、それ以降は、今年に至るまで、その増加幅を拡大させています。なぜ、再び増加傾向となったのか、検討してみましょう。

2 法曹になりたいと思う人には、法科大学院に入学するか、予備試験を受験するか、という2つの選択肢があります。このことを大雑把に数式化すると、以下のような関係があることになります。なお、予備試験出願者数から法科大学院在学中の者を除いているのは、既に法科大学院に通っている以上、新たな法曹志願者とはいえないからです。

 

 法曹志願者総数=予備試験出願者数(法科大学院在学中の者を除く)+法科大学院入学者数

 

(1)まず、法科大学院入学者数に着目してみます。法曹志願者総数が一定で、法科大学院に入学する人が増えると、予備試験出願者数は減少し、逆に法科大学院に入学する人が減ると、予備試験出願者数が増えるという関係にある。以下は、平成20年以降の法科大学院の実入学人員の推移です(「各法科大学院の入学定員及び実入学者数の推移」参照)。

年度
(平成)
実入学者数 前年比
20 5397 ---
21 4844 -553
22 4122 -722
23 3620 -502
24 3150 -470
25 2698 -452
26 2272 -426
27 2201 -71
28 1857 -344
29 1704 -153
30 1621 -83

 上記の入学者数の推移と、予備試験の出願者数が対応しているか、という目で見てみます。法科大学院の入学者数は、平成26年まで、一貫して下がり続けています。これに対して、予備試験出願者数は、平成25年、平成26年に大幅に増加していますが、平成24年はそれほど増加していない。これは、予備試験ルートの認知度が影響しています。予備試験が始まったのは平成23年ですが、当時の合格者数は116人にとどまっていました。そのため、当時はまだ、予備試験ルートを真剣に検討する人は、少なかったのです。それが、平成24年に合格者が219人とほぼ倍増したことから、「予備合格者は今後どんどん増える。予備ルートの方が近道だ。」と言われだした。そのために、平成25年から、どっと予備試験受験者が増えたのでした。このような経緯を踏まえると、平成25年、平成26年に、それまでの法科大学院入学者数の減少分を一気に吸収した結果が、予備試験の出願者数の推移に表れているとみることができるでしょう。法曹志願者のうち、法科大学院への入学を躊躇していた人が、予備にどっと流れたのが、この時期だったといえます。
 そのような流れが一時的に止まったのが、平成27年でした。この年は、法科大学院の実入学者数の減少が、わずかにとどまっています。これは、予備試験の出願者数が平成27年に一時的に減少に転じたことと符合しています。そして、平成28年になると、法科大学院の実入学者数の減少幅が、また拡大しました。予備の出願者数が増加に転じたことは、これと符合しています。
 しかし、平成29年、平成30年をみると、実入学者数の減少幅は縮小しているのに、予備の出願者数は増加幅を拡大させており、今年も、予備の出願者数の増加幅は拡大を続けている。そうすると、近時の出願者数の増加傾向は、法科大学院の入学者数が減少したことによるものとはいえない、ということになるでしょう。

(2)次に、法科大学院在学中の予備試験出願者数をみていきます。以下は、法科大学院在学中の予備試験出願者数の推移です。


(平成)
法科大学院在学中の
予備試験出願者数
前年比
23 282 ---
24 706 +424
25 1722 +1016
26 2153 +431
27 1995 -158
28 1875 -120
29 1678 -197
30 1548 -130

 平成26年までは、一貫した増加傾向です。特に、平成25年の増加幅が大きい。このことが、平成25年の予備試験の出願者数の急増に対応しています。それが、平成27年になって、減少に転じました。平成27年は、予備試験の出願者数も減少に転じていますから、この点でも、対応関係があるといえるでしょう。
 しかし、平成28年以降に関しては法科大学院在学中の予備試験出願者数は減少を続けているのに、予備試験全体の出願者数は、むしろ増加しています。したがって、法科大学院在学中の予備試験出願者という要素も、近時の予備試験の出願者数の増加の要因とはいえない、ということになるのです。

3 以上のように、平成27年以前の予備試験出願者数の増減は、概ね法科大学院入学者数と法科大学院在学中の予備試験出願者数の増減によって説明が付いたものの、直近の予備試験出願者数の増加については説明できないことがわかりました。法科大学院入学者数と法科大学院在学中の予備試験出願者数の増減によって説明できない予備試験出願者数の増加は、法曹志願者総数の増加によって生じている平成27年くらいまでは、法曹志願者数は例年あまり変わらないけれども、その法曹志願者が法科大学院入学を選ぶのか、予備試験受験を選ぶのか、という内訳が変動しているというだけでした。それが、最近では、新たに法曹を目指す人が、予備試験を受験しようとしているということです。
 ただし、これは必ずしも、法曹になりたいと思う若者が増えたということだけを意味していません。年齢別、職種別にみると、20代前半と大学生だけでなく、40代以降と有職者の受験者も増加傾向にあるからです(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」、「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)。つまり、若者だけではなく、年配社会人の法曹志願者が増えたことも、予備試験の出願者数の増加傾向に寄与している可能性が高いのです。「予備試験は専ら若者の抜け道として使われている。」などとよく言われますが、それとは異なる一面が、ここに表れているといえるでしょう。

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2019年02月13日

平成31年司法試験の出願者数について(2)

1 今回は、明らかになった出願者数の速報値から、今年の司法試験についてわかることを考えてみます。以下は、直近5年の出願者数、受験者数等をまとめたものです。

出願者数 受験者数 受験率
(対出願)
27 9072 8016 88.3%
28 7730 6899 89.2%
29 6716 5967 88.8%
30 5811 5238 90.1%
31 4930 ??? ???

 

短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
27 5308 66.2%
28 4621 66.9%
29 3937 65.9%
30 3669 70.0%
31 ??? ???

 

論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
27 1850 34.8% 23.0%
28 1583 34.2% 22.9%
29 1543 39.1% 25.8%
30 1525 41.5% 29.1%
31 ??? ??? ???

2 まず、受験者数の予測です。これは、出願者数に受験率を乗じることで、算出できます。受験率は、受験回数制限が緩和されて以降、概ね88%~90%程度で推移しています。ここでは、受験率を89%と仮定して、試算しましょう。

 4930×0.89≒4387

 受験者数は、4387人と推計でき、昨年より850人程度減少するだろうということがわかります。

3 次に、短答合格者数です。現在の短答式試験の合格点は、論文の合格者数を踏まえつつ、短答・論文でバランスのよい合格率となるように決められているとみえます(「平成30年司法試験短答式試験の結果について(1)」)。そうだとすると、短答合格者数を考えるに当たっても、先に論文合格者数がどうなるかを、考えておく必要があるでしょう。そこで問題となるのは、1500人の下限は、今年こそ破られるか、ということです。

 

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用。太字強調は筆者。)

  新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである

(引用終わり)

 

(1)以下は、直近5年の論文合格者数の推移です。

論文合格者数
26 1810
27 1850
28 1583
29 1543
30 1525

 平成28年に1500人の下限ぎりぎりの数字になって以降、「今年は1500人を割り込むに違いない。」などと言われながら、結果的には1500人の下限が守られてきたという経緯があります。そして、少なくとも今年までは、これは破られないだろうという事情があります。それは、上記の推進会議決定の「当面」の意味するところに関わります。

 

衆院法務委員会平成27年05月22日より引用。太字強調は筆者。)

階猛(民主)委員 この中で、「当面、」という表現が出てきます。千五百人程度は輩出されるよう必要な取り組みを進めるということで、「当面、」という表現が出てきますけれども、この「当面、」というのは具体的にはいつからいつまでを指すのか、教えてください。

大塲亮太郎内閣官房法曹養成制度改革推進室長 検討結果の取りまとめ案における「当面、」とは、推進会議において結論が出された後に、例えば、社会的、経済的な諸事情の推移等によりますけれども、差し当たり五年程度の期間を言うのではないかと考えております。

階猛(民主)委員 五年というのは、ことしを含んで五年なのか、来年から五年なのか。ことしの合格者から始まるのかどうか、教えてください。

大塲亮太郎内閣官房法曹養成制度改革推進室長 今申し上げましたように、ことしの推進会議において結論が出された後と申しましたけれども、これは設置期限が七月十五日ということですので、近々出るわけですけれども、そこから五年という意味であります。

(引用終わり)

 

 「当面」とは、平成27年7月15日から起算して5年を意味する。そうすると、平成32年司法試験の結果が出る同年9月の時点では、この期間は過ぎてしまっているということになるでしょう。したがって、今年は、「当面」の期間内における最後の司法試験が実施される年となる。だから、少なくとも今年までは、合格者数は1500人を割り込まないだろう、ということです。
 しかも、最近になって、法務省は、上記の「当面」の期間について、先延ばしするかのような態度を見せるようになりました。

 

衆院法務委員会平成30年3月30日より引用。太字強調は筆者。)

藤原崇(自民)委員 平成二十七年六月三十日の法曹養成制度改革推進会議決定ということで、「法曹養成制度改革の更なる推進について」ということで出されております。今、集中改革期間として進んでおるんですが、この中に、こういう文言があります。当面、これより規模が縮小するとしても、千五百人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、とどまることなく、最善を尽くし、中略して、目指すべきであると。つまり、当面はこういう方向を目指すべきである、そういうふうに書いてあるんですね。
 二十七年からはもう三年近くがたってまいりました。もちろん、この当面という文言は何年後という一義的なものではないのであると思うんですが、この当面というのはどれくらいの期間を想定しているのかということについて、法務省の見解をお伺いしたいと思います。

小出邦夫法務省大臣官房司法法制部長 お答えいたします。
 委員御指摘の法曹養成制度改革推進会議決定、平成二十七年六月のものでございますが、御指摘のとおり、新たに輩出される法曹の規模につきまして、当面、千五百人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、より多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきであるとされているところでございます。
 今後、あるべき法曹の輩出規模が改めて示される際には、裁判事件数の推移や法曹有資格者の活動領域の拡大を含む法曹に対する社会の法的需要、また司法アクセスの改善状況を含む全国的な法曹等の供給状況といった要因のほか、輩出される法曹の質の確保の観点から、御指摘ございました、文科省において現在進められております法科大学院の集中改革の進捗状況やその結果等の事情が考慮されることになるものと考えております。
 このように、あるべき法曹の輩出規模につきましては、多岐にわたる事情、要因を考慮する必要がございまして、そのためのデータ集積には一定の期間を要するというふうに考えておりまして、現時点において、この千五百人程度という政府方針の見直しを行う時期を明示するのは困難なところがございます。
 ただ、推進会議決定における法科大学院の集中改革期間は平成三十年度までとされていることもありますので、これを踏まえつつ、また、あるべき法曹の輩出規模について適切な時期に的確な検討が行えるよう、改革の推進状況や改革の成果の把握も含めて、必要なデータ等の集積や、法務省が行うべき活動領域の拡大に向けた取組等を引き続きしっかり行ってまいりたいというふうに考えているところでございます。

藤原崇(自民)委員 ありがとうございます。
 当面というのはどのときかというのは一義的には難しいということで、それはそうなんだろうと思います
 ただ、一つのポイントになるのは、平成三十年度までの法科大学院の集中改革期間、これの改革の結果とか成果、どこまでを見るかというのはあるんですが、そういうことを踏まえてということだと思いますので、そろそろ集中改革期間が終わるという意味では、一つの区切りが近くなってきたのかなと思っております。
 その文書、更に下には、法務省は、法曹人口のあり方に関する必要なデータの集積を継続して行い、法曹の輩出規模について引き続き検証を行うこととするとあるが、これはどのような方法でこの検証を行っているのか、そして、検証結果の結論についていつの時点で出せるかどうか、そういう見通しをどう立てているのか、現在の状況についてお伺いをさせていただきたいと思います。

小出邦夫法務省大臣官房司法法制部長 お答えいたします。
 法曹養成制度改革推進会議決定に関しましては、今後の法曹人口のあり方に関しまして、委員御指摘のとおり、「法務省は、文部科学省等関係機関・団体の協力を得ながら、法曹人口の在り方に関する必要なデータ集積を継続して行い、高い質を有し、かつ、国民の法的需要に十分応えることのできる法曹の輩出規模について、引き続き検証を行うこと」とされております
 法務省におきましては、現在、この推進会議決定に基づきまして、司法試験の受験者数、合格者数の推移、法科大学院志願者数の推移、また弁護士登録者数及び登録取消し者数の推移、また裁判事件数の推移、企業内弁護士数の推移等といった関連するデータの集積を行っているところでございます
 先ほど申し上げましたけれども、あるべき法曹の輩出規模につきましては、多岐にわたる事情、要因を考慮する必要がありますところ、これまでに集積されたデータのみでは不十分でございまして、また今後何らかの結論を得る時期を明示することもまた困難なところではございますが、法科大学院の集中改革期間が平成三十年までとされていますので、またその成果を踏まえ、また早く検証すべきであるという委員の御指摘も踏まえた上で、あるべき法曹の輩出規模について適切な時期に的確な検討が行えるよう、引き続き必要な取組を進めてまいりたいというふうに考えております。

(引用終わり)

 

 要するに、データの集積が不十分だから、まだ1500人という政府方針の見直しを行う時期は明示できない。そして、検証結果の結論をいつだせるかの見通しすらわからない。こう言っているのです。平成30年3月の時点でこの状況ですから、来年の司法試験の結果が出る段階でも、1500人という方針が見直されるとはいえない感じになってきているといえるでしょう。したがって、場合によっては来年以降も、1500人の下限が維持されるのではないか。そうであるなら、少なくとも今年の段階で1500人を割り込むことはないだろう。このような予測にも、説得力がありそうに思えます。

(2)もっとも、ここで思い出しておきたいことがあります。それは、「合格者数は結局のところは司法試験委員会が勝手に決めるので、実は1500人の下限には意味がない。」ということです。

 

法曹養成制度検討会議第14回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

井上正仁(早大)委員 これまでも何度か申し上げてきましたけれども,今の司法試験のシステムというのは,政策的に何人と決めて,それに合わせて合格者を決めるという性質のものではありません。受験者の学力といいますか,試験の成績を司法試験委員会のほうで判定して決めている。その結果として2,000人なら2,000人という数字になっているということなので,その仕組みを変えない限り,それを何千にするということを言うわけにはいかない性質のものだと思います。ですから,法曹人口の問題については,このぐらいのところを目指すべきだということは言えるかもしれないですけれども,合格者を何人にしろというのは現行の制度では無理で,仮にそうするというのでしたら,現行の司法試験の合格者決定の仕組み自体を変えろという提言をしないといけないということになるだろうと思います。

(引用終わり)

 

 かつて、合格者数3000人を目指すと言われていた当時も、司法試験委員会は、その数字にはとらわれない合否判定をしていたとされています。

 

法科大学院特別委員会(第42回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

土屋美明(共同通信)委員  すいません、私、司法試験委員会の委員をしておりまして、説明しなければならない立場かと思うのですが、皆さんご存知の通りこれは守秘義務がございます。そういう意味では中身をですね、全部お話するという事はとても出来なくて申し訳ないと思うんですが、今回初めて考査委員の会議にも出席させて頂いて、色んな方のお話を伺いました。非常に多彩な意見の方がいて、昨年までの考査委員の会議の判定の仕方と今年は違っているという風に事務局からはうかがいました委員の皆さんの考え方がより反映されるような判定をするという方式に変わったという風に了解しております。一応目安として、本年度3,000人程度と言う合格者数、2,900人から3,000人と言う目安が出されてはおりましたけれども、それとの関連で合格者数を決めるというような発想はあまり取られていなかったように私は受け止めました。私の感じです。あくまで委員の皆さんがこの結果でもって、法曹資格を与えるに値するかどうかという事を非常に慎重に議論されていらっしゃる。受験者の中身を見ようという風に皆さん考えていらっしゃったという事が言えるかと思います。私の感想は以上です。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第48回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

井上正仁(東大)座長代理  司法試験については、司法試験委員会ないし法務省の方の見解では、決して数が先にあるのではなく、あくまで各年の司法試験の成績に基づいて、合格水準に達している人を合格させており、その結果として、今の数字になっているというのです。確かに、閣議決定で3,000人というのが目標とはされているのだけれども、受験者の成績がそこまでではないから、2,000ちょっとで止まっているのだというわけです。それに対しては、その合格者決定の仕方が必ずしも外からは見えないこともあり、本当にそうなのかどうか、合格のための要求水準について従来どおりの考え方でやっていないかどうかといった点も検証する必要があるのではないかということは、フォーラムなどでも申し上げております。

(引用終わり)

 

 考査委員の側から言わせれば、別に合格者数の目安を無視したいというわけではないが、採点していて満足な答案が少ないので、これ以上合格点を下げてまで合格者数を増やしてはさすがにダメだろうという感覚があって、やむを得ずそうしているのだ、ということになるのでしょう。これは、合格者数が少ないといわれていた旧司法試験時代からあった話です。特に実務家の考査委員は研修所教官であることも多いので、ここで甘くすると、後で自分が困るということもあるのですね。

 

司法制度改革審議会集中審議(第1日)議事録より引用。太字強調は筆者。)

藤田耕三(元広島高裁長官)委員 大分前ですけれども、私も司法試験の考査委員をしたことがあるんですが、及落判定会議で議論をしますと、1点、2点下げるとかなり数は増えるんですが、いつも学者の試験委員の方が下げることを主張され、実務家の司法研修所の教官などが下げるのに反対するという図式で毎年同じことをやっていたんです学者の方は1点、2点下げたところで大したレベルの違いはないとおっしゃる研修所の方は、無理して下げた期は後々随分手を焼いて大変だったということなんです
 そういう意味で学者が学生を見る目と、実務家が見る目とちょっと違うかなという気もするんです。口述試験も守秘義務があるから余り言っちゃいけないのかもしれませんけれども、あるレベルの点数がほとんどの受験者について付くんですが、出来がよければプラス1、プラス2、悪ければマイナス1、マイナス2というような点を付けます。本当は全科目についてレベル点以上を取らなければいけないのですが、それでは予定している人数に達しないので、1科目や2科目、マイナスが付いているような受験生も取るということでやっていました。そういう意味では以前のことではありますけれども、質的なレベルについてはかなり問題があるんじゃないでしょうか。

(引用終わり)

法曹の養成に関するフォーラム第13回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

鎌田薫(早大総長)委員 実際には旧試験の合格者が500人とか1,000人の時代でも,正直言って本当に満足できる答案は1,000人なんかとてもいないのに,1,000人合格させていたというふうな印象が採点する側にはある

(引用終わり)

 

 実務家委員の方が学者委員より厳しいという図式は、法科大学院教員が排除された平成28年に合格者数が急減し、法科大学院教員が戻ってきた平成29年に合格者数がほとんど減らなかったということとも符合します(「平成30年司法試験の出願者数について(2)」)。このようなことからすれば、全体の出来が悪いと考査委員が判断すれば、上記推進会議決定にかかわらず、合格者が1500人を割り込むことは普通にあり得る、ということになるわけです。

(3)もう1つ、考えるべきファクターとして、累積合格率があります。

 

規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定) より引用。太字強調は筆者。)

 法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格できるよう努める。

 (引用終わり)

 

 上記閣議決定の「約7~8割」は、各年の受験者合格率ではなく、修了生が受験回数制限を使い切るまでに、最終的に7~8割が合格するということ、すなわち、累積合格率を意味します(「平成30年司法試験の結果について(2)」)。そして、各年の受験者合格率をPとするとき、受控えや中途の撤退等を考慮しない単純な想定の下での累積合格率は、以下の算式で表すことができます。

 1-(1-P)

 以下は、上記の算式に基づいて、今年の論文合格者数と対応する累積合格率をまとめたものです。

論文
合格者数
受験者
合格率
累積
合格率
1500 34.1% 87.5%
1300 29.6% 82.7%
1100 25.0% 76.2%

 かつては、累積合格率が7割に達しないことが問題にされていましたが、現在ではむしろ、累積合格率が高くなりすぎるのではないか、ということを考える段階になっています。仮に、累積合格率が9割を超えるようなら、前記閣議決定の「約7~8割」の枠を超えてしまいますし、試験として適切に機能しているかが疑わしくなってくるでしょう。その観点から上記の表をみると、合格者数1500人の下限が維持された場合には、9割に迫る累積合格率になることがわかります。司法試験委員会がこのことを考慮して、「1300人くらいにしておくか。」と考えるかもしれません。さらにいえば、1100人まで減らしても、7割を維持できるので、「1100人でもいいんじゃないの?」と判断される可能性も否定できないでしょう。もっとも、上記の数字は、受控えや中途の撤退等を考慮していませんし、予備組を含んだ数字なので、法科大学院修了生に限った実際の累積合格率は、もう少し低い数字になるでしょう。そのようなことも考慮すると、今年はまだ1500人で問題ない、という判断がされても不思議ではないという感じもします。

(4)以上のことからわかることは、にゃんとも言えない、ということです。 

4 そういうわけで、ここでは、いくつかの場合を想定して、シミュレーションをしてみましょう。

(1)まず、論文合格者数の下限が守られた場合、すなわち、合格者数1500人だった場合です。この場合、仮に短答の合格率を昨年同様70%とすると、以下のようになります。

短答合格者数:3071人
短答合格率(対受験者):70.0%
論文合格者数:1500人
論文合格率(対短答):48.8%
論文合格率(対受験者):34.1%

 昨年の論文合格率は、対短答で41.5%、対受験者で29.1%でしたから、特に対短答の論文合格率がちょっと高過ぎはしないか、という感じはするところです。そこで、論文の対短答合格率を、昨年と同水準の41.5%にすると、どうなるか。この場合、短答合格者数は1500÷0.415≒3614人となりますから、まとめると、以下のようになります。

短答合格者数:3614人
短答合格率(対受験者):82.3%
論文合格者数:1500人
論文合格率(対短答):41.5%
論文合格率(対受験者):34.1%

 今度は、短答が8割超えとなって、これも具合が悪い。そこで、短答を75%に調整してみると、以下のようになります。

短答合格者数:3291人
短答合格率(対受験者):75.0%
論文合格者数:1500人
論文合格率(対短答):45.5%
論文合格率(対受験者):34.1%

 これなら、短答と論文のバランスがよさそうです。そのことからすれば、論文合格者数を1500人にするなら、この辺りの数字に落ち着きそうな感じがします。
 この場合の短答・論文の数字の上での難易度を考えてみましょう。昨年の短答の合格点は108点ですが、仮に合格率75%だったとすると、法務省の公表する得点別人員調によれば、合格点は104点まで下がります。また、昨年の論文は、短答合格者3669人中1525人が合格したわけですが、仮に対短答合格率が45.5%となれば、1669人合格する計算です。したがって、数字の上では、短答でいえば4点程度、論文でいえば140番程度、昨年より難易度が下がると考えることができるでしょう。

(2)次に、論文合格者数が1500人を割り込んで、1300人になった場合を想定します。この場合、仮に短答の合格率を昨年同様70%とすると、以下のようになります。

短答合格者数:3071人
短答合格率(対受験者):70.0%
論文合格者数:1300人
論文合格率(対短答):42.3%
論文合格率(対受験者):29.6%

 昨年の論文合格率は、対短答で41.5%、対受験者で29.1%でしたから、これはこのままでもなかなかいいバランスだ、ということができるでしょう。
 昨年の論文は、短答合格者3669人中1525人が合格したわけですが、仮に対短答合格率が42.3%であれば、1551人合格する計算です。したがって、数字の上では、短答は変わらず、論文でいえば20~30番程度難易度が下がると一応考えることができますが、ほとんど昨年と変わらないイメージでよいでしょう。

(3)最後に、最も悲観的な数字として、1100人まで減った場合を想定しましょう。この場合、仮に短答の合格率を昨年同様70%とすると、以下のようになります。

短答合格者数:3071人
短答合格率(対受験者):70.0%
論文合格者数:1100人
論文合格率(対短答):35.8%
論文合格率(対受験者):25.0%

 昨年の論文合格率は、対短答で41.5%、対受験者で29.1%でしたから、対短答の論文合格率がちょっと低すぎる、という印象がないわけではありません。そこで、短答合格率を平成27年から平成29年までの水準、すなわち、66%にすると、以下のようになります。

短答合格者数:2896人
短答合格率(対受験者):66.0%
論文合格者数:1100人
論文合格率(対短答):37.9%
論文合格率(対受験者):25.0%

 これは、それなりにありそうな数字です。
 この場合の短答・論文の数字の上での難易度はどうか。昨年の短答の合格点は108点ですが、仮に合格率が66%だったとすると、法務省の公表する得点別人員調によれば、合格点は111点となります。また、昨年の論文は、短答合格者3669人中1525人が合格したわけですが、仮に対短答合格率が37.9%となれば、1390人が合格する計算となる。したがって、数字の上では、短答でいえば3点程度、論文でいえば135番程度、昨年より難易度が上がると考えることができるでしょう。言い方を変えれば、最悪の状況でも、この程度だということです。

(4)それぞれの想定の数字をまとめると、以下のような対応関係となります。

受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
4387 3071 70.0% 1500 48.8% 34.1%
3614 82.3% 1500 41.5% 34.1%
3291 75.0% 1500 45.5% 34.1%
3071 70.0% 1300 42.3% 29.6%
3071 70.0% 1100 35.8% 25.0%
2896 66.0% 1100 37.9% 25.0%

5 最後に、以上の試算に基づく推計の数字を、最初に示した年別の一覧表に書き込んだものを示しておきましょう。

出願者数 受験者数 受験率
(対出願)
27 9072 8016 88.3%
28 7730 6899 89.2%
29 6716 5967 88.8%
30 5811 5238 90.1%
31 4930 4387? 89%?

 

短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
27 5308 66.2%
28 4621 66.9%
29 3937 65.9%
30 3669 70.0%
31 2896? 66.0%?
3071? 70.0%?
3291? 75.0%?

 

論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
27 1850 34.8% 23.0%
28 1583 34.2% 22.9%
29 1543 39.1% 25.8%
30 1525 41.5% 29.1%
31 1100? 37.9%? 25.0%?
1300? 42.3%? 29.6%?
1500? 45.5%? 34.1%?
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