2018年10月17日

平成30年予備試験論文式試験の結果について(2)

1 以下は、直近5年の予備試験における論文受験者ベースの論文合格率等の推移です。


(平成)
論文
受験者数
論文
合格者数
論文
合格率
26 1913 392 20.4%
27 2209 428 19.3%
28 2327 429 18.4%
29 2200 469 21.3%
30 2551 459 17.9%

 昨年は、直近5年で最も高い合格率になっています。短答の合格者数は従来どおり「2000人基準」で決定された(「平成29年予備試験短答式試験の結果について(1)」)のに、論文の合格者数については「400人基準」が適用されなかった(「平成29年予備試験論文式試験の結果について(1)」)ために、高い合格率になったのでした。
 今年は、昨年とは逆に、直近5年で最も低い合格率になっています。短答で「2000人基準」ではなく、「2500人基準」を用いた(「平成30年予備試験短答式試験の結果について(1)」)のに、論文の合格者数については「400人基準」が適用された(「平成30年予備試験論文式試験の結果について(1)」)ために、低い合格率になったのです。このことから想像できるのは、短答段階では、論文で昨年同様に「400人基準」が適用されない場合を想定して多めに合格させたのに、いざ論文段階になってみると、想定とは異なって「400人基準」が適用されることになったのだろう、ということです。

2 では、なぜ、今年は「400人基準」が適用されたのか。それは、以前の記事で説明したとおり、5点刻みで初めて400人を超える点数が245点を超えない240点だったからです(「平成30年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。では、なぜ、5点刻みで初めて400人を超える点数が245点を超えなかったのか。それは、全体の平均点が下がったからです。以下は、論文受験者数と論文平均点の推移です。


(平成)
論文
受験者数
受験者数
前年比
論文
平均点
平均点
前年比
23 1301 --- 195.82 ---
24 1643 +342 190.20 -5.62
25 1932 +289 175.53 -14.67
26 1913 -19 177.80 +2.27
27 2209 +296 199.73 +21.93
28 2327 +118 205.62 +5.89
29 2200 -127 208.23 +2.61
30 2551 +351 200.76 -7.47

 全体の平均点が7点程度下がったので、5点刻みで初めて400人を超える点数も240点まで下がっていたのでした(※)。
 ※ 厳密には、得点のバラ付きが昨年より小さかったことも、要因のうちの1つです。昨年は、論文の合計得点の標準偏差は52.5でした(「平成29年予備試験論文式試験の結果について(3)」)が、今年は44.4まで低下しています。このことは、上位陣の層がやや薄くなったことを意味します。

  では、なぜ、平均点が7点程度下がったのか短答式試験の場合、平均点が上下する主要な要因は、問題の難易度です。正解した問題の数で得点が決まるため、難しい問題が多いと平均点が下がり、易しい問題が多いと平均点が上がります。これに対し、論文式試験の場合は、必ずしも試験問題自体の難易度によって、平均点が左右されるわけではない論文試験の得点は、優秀、良好、一応の水準、不良という大まかに4つの水準によって相対的に決定され、その大まかな得点分布の目安についても、決まっているからです。

 

(「司法試験予備試験論文式試験の採点及び合否判定等の実施方法・基準について」より引用。太字強調は筆者。)

(1) 白紙答案は零点とする。

(2) 各答案の採点は,次の方針により行う。

ア 優秀と認められる答案については,その内容に応じ,下表の優秀欄の範囲。
 ただし,抜群に優れた答案については,下表の優秀欄( )の点数以上。

イ 良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の良好欄の範囲。

ウ 良好とまでは認められないものの,一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の一応の水準欄の範囲。

エ 上記以外の答案については,その内容に応じ,下表の不良欄の範囲。
 ただし,特に不良であると認められる答案については,下表の不良欄[ ]の点数以下。

優秀 良好 一応の水準 不良
50点から38点
(48点)
37点から29点 28点から21点 20点から0点
[3点]

(3) 採点に当たってのおおまかな分布の目安を,各問に応じ次のとおりとする。ただし,これは一応の目安であって,採点を拘束するものではない

割合 5%程度 25%程度 40%程度 30%程度
得点 50点から38点 37点から29点 28点から21点 20点から 0点

(引用終わり)

 

 どんなに問題が難しくて、全体の出来が悪くても、全体の概ね4割くらいには、一応の水準、すなわち、28点から21点までの点数を付ける。逆にどんなに問題が簡単で、全体の出来が良かったとしても、3割程度は不良、すなわち、20点以下の点数を付ける。基本的には、そういった採点をするということです。このような採点方式を厳格に守って運用すれば、本来は、毎年平均点は同じくらいになるはずです。その意味では、論文は相対評価で得点が決まっているといえます。しかし、上記にも「これは一応の目安であって,採点を拘束するものではない。 」とあるように、実際には、上記の目安どおりの得点分布にはなっていない。考査委員の想定する受験生のレベルよりも、実際の受験生のレベルが低いと、目安より低い得点分布になりやすいのです。そこには、「考査委員の想定する一応の水準に達しているか。」というような、絶対評価的な要素も含まれている毎年の平均点の変動には、そのような意味での受験生全体の実力の変化がある程度反映されている、ということができるのです。このような理由から、当サイトでは、各年の論文の平均点の推移を、受験生全体のレベルの変化を測る1つの指標として、用いてきたのでした。
 平成26年までの平均点の推移は、論文受験者数との緩やかな負の相関性によって、説明ができました。いつの年も上位陣は一定数しかいないので、受験者数が増えると、全体のレベルは下がりやすいのです。他方、平成27年及び平成28年は、それでは説明の付かない平均点の上昇が生じました。このような受験者数との相関性では説明の付かない平均点の上昇は司法試験でも生じており、これは、得点分布の目安を守ろうとした、ということで、説明が付いたのでした(「平成30年司法試験の結果について(3)」)。
 もっとも、予備試験については、従来の平均点が、得点分布の目安どおりにした場合の平均点と比べてかなり低い水準であったという点で、司法試験の場合とは異なります。予備試験では、目安に近い採点がされた場合の得点は、以下のとおり、1科目当たり23.25点となります。

 (50+38)÷2×0.05+(37+29)÷2×0.25+(28+21)÷2×0.4+20÷2×0.3=23.25点

 予備の論文は10科目ですから、全体の得点にすると、232.5点。過去の平均点をみると、最も高い昨年でも208.23点ですから、これよりかなり低い水準であることがわかるでしょう。

3 得点分布の目安に近づけようとするなら、今年も平均点は上昇するはずでした。そして、平均点がさらに上昇すれば、5点刻みで初めて400人を超える点数も昨年同様に245点を上回るので、「400人基準」の適用はなく、合格点は245点となり、合格者数ももっと増えたはずでした。おそらく、短答段階では、そのことを想定して、「2000人基準」ではなく、「2500人基準」を適用していたのでしょう。ところが、論文段階になって実際に採点してみると、当初の想定よりも答案の出来がよくなかったのでしょう。短答の合格者を増やしたことによる論文受験者の増加の影響があったのだろうと思います。前記2のとおり、論文受験者数と全体の出来との間には、負の相関性があるからです。「いくら目安を守れと言われてもさすがに今年は無理でしょう。」という考査委員の意見が強くて、今年はこのような採点結果になったそのために、短答段階と論文段階の合格者数が噛み合わない結果になってしまったのだろうと思います。昨年は平均点が若干上昇しましたが、これは前年より短答合格者が減少したことによるものとみることもできるでしょう。その意味では、昨年と今年に関しては、論文受験者数との相関性の方が、より強い平均点の変動要因だったとみることができるのです。
 今年の結果をみると、今後、得点分布の目安に近づける方向で、平均点がどんどん上昇していくとはいいにくいとも感じられます。そうなると、5点刻みで初めて400人を超える点数が245点を超えにくくなるので、「400人基準」が維持されやすいことになる。とはいえ、平均点が受験者数と無関係に上昇傾向となった平成27年以降、平均点が下落した年は今年が初めてです。今年がイレギュラーだったということになるのか、来年以降の推移を見ていく必要があるでしょう。 

posted by studyweb5 at 07:14| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする

2018年10月14日

平成30年予備試験口述試験対策について

1 論文を突破しても、さらに口述試験があります。これが、予備試験の辛いところです。ただ、口述試験は、基本的には落ちない試験です。毎年、口述受験者ベースの合格率は9割を超えています。短答や論文のように、「できる人を受からせる」試験ではなく、「不適格者を落とす」試験なのです。その意味で、短答や論文とは位置付けが随分違います。また、試験時間という点でも、短答・論文は長時間にわたる試験で、体力勝負という側面がありますが、口述は、1日(1科目)当たり15分から25分程度です。しかも、考査委員を目の前にして口頭で答えるわけですから、多少疲れていても、集中力が切れるなどということはまずない。ですから、体力(疲労による集中力・気力の衰え)よりも精神面(緊張や動揺)の要素の方が合否に影響しやすいといえるでしょう。この点も、短答・論文とは違うところです。
 口述試験で不合格になると、来年はまた短答からやり直しです。実際に不合格になってしまうと、そのショックはかなり大きいものがあります。論文までは、低い合格率だからダメでも仕方がないという意味で、精神的に楽な部分がありますが、口述になると、「せっかく論文に受かったのに、こんなところで落ちるわけにはいかない。」という心理が生じます。また、試験会場の雰囲気や受験までの流れも、短答・論文とは随分違います。試験会場では、自分の順番が来るまで待たされます。順番によっては、数時間も待たされることがある。異常な雰囲気の中で、何時間も待機させられると、なかなか正常な精神状態を保てなくなるものです。そんな慣れない環境の中で、考査委員を目の前にして受け答えをするわけですから、その緊張感は短答・論文とは比較になりません。普段ならやらないような、とんでもない勘違いをしてしまいがちです。そのために、数字の上ではほとんど落ちない試験であるにもかかわらず、短答・論文よりも怖い試験であると感じられるのです。

2 口述試験の試験科目は、法律実務基礎科目の民事及び刑事の2科目です。2日間で行われますが、必ずしも民事が初日、2日目が刑事とは限りません。各自、受験票で確認しておく必要があります。
 それぞれの科目について、以下のような基準で採点されることになっています。

 

(「司法試験予備試験口述試験の採点及び合否判定の実施方法・基準について」より引用。太字強調は筆者。)

1 採点方針

 法律実務基礎科目の民事及び刑事の採点は次の方針により行い,両者の間に不均衡の生じないよう配慮する。

(1)  その成績が一応の水準を超えていると認められる者に対しては,その成績に応じ,

 63点から61点までの各点

(2)  その成績が一応の水準に達していると認められる者に対しては,

 60点(基準点)

(3)  その成績が一応の水準に達していないと認められる者に対しては,

 59点から57点までの各点

(4)  その成績が特に不良であると認められる者に対しては,その成績に応じ,

 56点以下

2 運用

(1)  60点とする割合をおおむね半数程度とし,残る半数程度に61点以上又は59点以下とすることを目安とする。

(2)  61,62点又は58,59点ばかりでなく,63点又は57点以下についても積極的に考慮する。

(引用終わり)

 

 口述では、得点にほとんど差が付かないことが知られています。上記引用部分の2(2)では、「63点又は57点以下についても積極的に考慮する」と記載されていますが、実際には、このような点数が付くことは極めてまれです。さらにいえば、62点と58点も、なかなか付かないといわれています。ですから、大雑把にいえば、上位4分の1が61点、真ん中の半数が60点、残る下位4分の1が59点、という感じになっていると思っておけばよいでしょう。

各科目の
得点
評価 受験生全体
に対する割合
59点 一応の水準
に達しない
25%
60点 一応の水準 50%
61点 一応の水準
を超える
25%

 このことから明らかなように、口述は、個々の質問に何個正解したから何点、というような点の付き方はしない。飽くまで、考査委員の裁量、もっといえば印象によって、ざっくりと点が付く。ですから、考査委員に悪い印象を与える受け答えをしてしまうと、個々の質問にはそれなりに答えているのに、59点にされる、ということは、普通にあることなのです。それぞれの質問に対する回答が正解であるか否かは、そのような考査委員の印象に影響を与える1つの要素に過ぎないと思っておいた方がよいと思います。これも、口述の怖さの1つといえるでしょう。

3 口述試験の合否は、民事と刑事の合計点で決まります。ただし、どちらか一方でも欠席すると、それだけで不合格です。

 

(「司法試験予備試験口述試験の採点及び合否判定の実施方法・基準について」より引用。太字強調は筆者。)

3 合否判定方法

 法律実務基礎科目の民事及び刑事の合計点をもって判定を行う。

 口述試験において法律実務基礎科目の民事及び刑事のいずれかを受験していない場合は,それだけで不合格とする。

(引用終わり)

 

 では、実際の合格点は、どうなっているか。以下は、これまでの合格点の推移です。


(平成)
合格点
23 119
24 119
25 119
26 119
27 119
28 119
29 119

 毎年、119点が合格点になっています。前記のとおり、通常は、各科目最低でも59点です。民事と刑事が両方59点だと、118点で不合格になります。しかし、一方の科目で60点を取れば、片方が59点でも119点になりますから、ギリギリセーフ、合格となるのです。ですから、不合格になるのは、民事も刑事も59点を取ってしまった場合だ、と思っておけばよいわけです。
 各科目、概ね下位4分の1が59点を取るとすると、両方の科目で59点を取る割合は、16分の1、すなわち、6.25%です。ですから、93.75%が、理論的な口述の合格率となります(※)。
 ※ 厳密には、合格率は93.75%よりやや低めの数字になるのが自然です。なぜなら、この93.75%という数字は、民事と刑事の成績が完全に独立に決まる、という前提で算出された数字だからです。実際には、民事と刑事の成績には、一定の相関性がある。口述試験の形式自体に弱い人は、民事も刑事も失敗しやすいでしょう。また、基本的な法的思考力が不足している人も、民事と刑事両方で失敗しやすいはずです。このように、民事と刑事に一定の相関性がある場合には、合格率は93.75%より低い数字になるのです。わかりやすく、極端な例を考えてみましょう。民事と刑事の成績が、完全に相関するとしましょう。上位25%の人は、民事も刑事も61点を取り、真ん中の50%は、民事も刑事も60点を取る。そして、残りの下位25%が、民事も刑事も59点を取る。この場合、下位の25%は、全員118点ですから、不合格です。そうすると、合格率は75%になってしまいます。このように、民事と刑事の成績に相関性があると、民事も刑事も59点になる人が増えるので、合格率は93.75%より下がってしまうわけです。実際にはここまで極端な相関性はありませんが、理論的には、合格率は93.75%より少し低い数字になるはずなのです。

 実際の合格率をみてみましょう。以下は、口述試験の合格率(口述受験者ベース)の推移です。


(平成)
受験者数 合格者数 合格率 前年比
23 122 116 95.08% ---
24 233 219 93.99% -1.09%
25 379 351 92.61% -1.38%
26 391 356 91.04% -1.57%
27 427 394 92.27% +1.23%
28 429 405 94.40% +2.13%
29 469 444 94.66% +0.26%

 概ね、93.75%に近い数字で推移していることがわかります。平成26年までは、合格率は低下傾向でした。平成25年から平成27年までは、93.75%を下回っています。それが、平成27年以降は合格率は上昇傾向に転じ、平成28年以降は、93.75%よりも高い数字になっています。とはいえ、93.75%との乖離はわずかです。
 このように、実際の合格率の推移は、62点以上や58点以下を一切考慮しない場合の理論的な合格率に近いものになっています。このことから、62点以上や58点以下が、実際には無視できる程度しか付いていないことが推測できるのです。多くの人が心配するのは、「58点が付いてしまう可能性」です。片方の科目で58点が付いてしまうと、もう片方の科目が60点でも、合格できません。そうなると、上位4分の1以上に入って挽回することが必要になってしまう。これが怖い、ということですね。ただ、上記のような合格率の推移を見る限り、今のところ、その心配をする必要はほとんどなさそうです。

4 以上のことからわかる口述の基本的な戦略は、民事と刑事の両方で失敗しない、ということです。逆にいえば、片方を失敗しても、もう一方で60点を守る。そうすれば、119点で合格できるわけです。ですから、仮に初日の感触がとても悪かったとしても、翌日を普通に乗り切ればよい。このことは、とりわけ精神面の影響の大きい口述では、重要なことだと思います。
 口述試験は、1日目は出来が悪く、2日目はそれなりに答えられたと感じる人が多い試験です。初日は、試験の会場や待機の方法、試験室への入室までの流れなど、ほとんど全てのことが初めての経験で、極度に緊張します。このような状態では、普通の受け答えすらうまくできないのが普通です。ですから、初日の受験後の気分は最悪であることが、むしろ通常の心理状態なのですね。多くの人が、「1日目で落ちたかもしれない。」と感じてしまう。これが、口述試験の最も恐ろしいところです。中には、自暴自棄になって2日目を欠席しようと思ったりする人もいる。そうではなくても、2日目は「1日目の失敗を挽回しよう。」と思って無理をしてしまいがちです。そうなると、問われていないことまで答えようとしたり、パーフェクトな答えを思い付くまで回答できなくなり、焦って沈黙したり、法文を見ないで答えないと評価が下がると心配して、頑なに法文を見なかったり、撤回すると間違いを認めることになると心配して、頑なに撤回しない等、とんでもない受け答えをしてしまい、かえって失敗してしまうのです。これが、民事・刑事の両方で失敗する典型例です。ですから、1日目で失敗しても、2日目は普通に切り抜ければ合格できる、という信念を心の中に強く持っておく。これが、心理面の要素が強く作用する口述試験では、重要なキーポイントになります。2日目は、想像以上に1日目の体験が大きく、様々なことに慣れてしまっています平常心を維持してさえいれば、意外と普通に受け答えができるでしょう。
 前記3で、58点の可能性はあまり心配しない方がいい、と説明したのも、同様の理由です。厳密には、58点が付いてしまう可能性はゼロではないでしょう。しかし、その可能性を頭の片隅に置いてしまうと、ほとんどの人が最悪な気分で1日目を終えるので、自分は58点だと思い込んでしまいやすい。そうなると、上記のように無理をしてしまうことになる。仮に、1日目で58点が付いてしまったとしても、2日目に狙って61点を取れるものではありません。結局のところ、61点を取る最善の方法は、平常心で普通に受け答えをするしかないのですね。ですから、「58点は付かない。」という信念を持っていた方が、口述試験には受かりやすいといえるのです。

5 上記の基本的な戦略を踏まえた具体的な方法論については、以前の記事(「平成28年予備試験論文式試験の結果について(5)」)で詳細に説明しました。参考にしてみて下さい。

posted by studyweb5 at 21:15| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする

2018年10月11日

平成30年予備試験論文式試験の結果について(1)

1 平成30年予備試験論文式試験の結果が公表されました。合格点は240点合格者数は459人でした。以下は、予備試験論文式試験の合格者数及び合格点の推移です。


(平成)
論文
合格者数
合格者数
前年比
論文
合格点
合格点
前年比
23 123 --- 245 ---
24 233 +110 230 -15
25 381 +148 210 -20
26 392 +11 210
27 428 +36 235 +25
28 429 +1 245 +10
29 469 +40 245
30 459 -10 240 -5

2 今年は、昨年よりも合格点が5点下がり、合格者数は10人減少しました。論文の合格者数が減少に転じたのは、今年が初めてのことです。どうして、このような結果になったのでしょうか。予備試験の論文の結果については、平成25年以降、以下の3つの基準によって、合格者数、合格点を説明することができました(「平成29年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。

(1)210点に累計で400人以上存在しない場合は、210点が合格点となる。
(2)210点に累計で400人以上存在する場合は、5点刻みで初めて400人を超える点数が合格点となる(「400人基準」)。
(3)ただし、上記(2)を適用すると合格点が245点を超える場合には、245点が合格点となる。

 上記の3つの基準は、単に結果的にそうなっている、というだけでなく、それぞれにそれ相応の正当化の理屈が存在します。これらのことを理解しておくことは、予備試験が現状どのような位置付けとされているのかを理解することと同義です。

3 上記の(1)は、「資格試験としてのあるべき運用に配意」すると、210点未満を合格点にするわけにはいかない、という理屈によって正当化される基準です。

 

規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定)より引用。太字強調は筆者。)

 法曹を目指す者の選択肢を狭めないよう、司法試験の本試験は、法科大学院修了者であるか予備試験合格者であるかを問わず、同一の基準により合否を判定する。また、本試験において公平な競争となるようにするため、予備試験合格者数について、事後的には、資格試験としての予備試験のあるべき運用にも配意しながら、予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者数が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う。
 これは、法科大学院修了者と予備試験合格者とが公平な競争となることが根源的に重要であることを示すものであり、法科大学院修了者と同等の能力・資質を有するかどうかを判定することが予備試験制度を設ける趣旨である。両者における同等の能力・資質とは、予備試験で課せられる法律基本科目、一般教養科目及び法律実務基礎科目について、予備試験に合格できる能力・資質と法科大学院を修了できる能力・資質とが同等であるべきであるという理念を意味する。

(引用終わり)

 

  予備試験の論文は各科目50点満点で、10科目です(「司法試験予備試験に関する配点について」)。したがって、210点というのは、1科目当たりにすると、21点。これは、一応の水準の下限の数字でした。

 

(「司法試験予備試験論文式試験の採点及び合否判定等の実施方法・基準について」より引用。太字強調は筆者。)

(2) 各答案の採点は,次の方針により行う。

ア 優秀と認められる答案については,その内容に応じ,下表の優秀欄の範囲。
 ただし,抜群に優れた答案については,下表の優秀欄( )の点数以上。

イ 良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の良好欄の範囲。

ウ 良好とまでは認められないものの,一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の一応の水準欄の範囲。

エ 上記以外の答案については,その内容に応じ,下表の不良欄の範囲。ただし,特に不良であると認められる答案については,下表の不良欄[ ]の点数以下。

優秀 良好 一応の水準 不良
50点から38点
(48点)
37点から29点 28点から21点 20点から0点
[3点]

(引用終わり)

 

 210点未満を合格させてしまうことは、不良の水準でも合格させてしまうことを意味する。それは、「資格試験としてのあるべき運用に配意」すると、許されない、ということです。

4  上記の(2)は、閣議決定の「予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させる。」とは、うまく行っていない法科大学院修了者の合格率に予備試験合格者の合格率を合わせるという意味ではなく、法科大学院修了者の合格率を引き上げる方策を検討すべきであるという趣旨であるから、法科大学院がうまく行っていない現状においては、予備試験合格者数をこれ以上増やすべきではない、という理屈によって、正当化される基準でした。

 

規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定)より引用。太字強調は筆者。)

 法曹を目指す者の選択肢を狭めないよう、司法試験の本試験は、法科大学院修了者であるか予備試験合格者であるかを問わず、同一の基準により合否を判定する。また、本試験において公平な競争となるようにするため、予備試験合格者数について、事後的には、資格試験としての予備試験のあるべき運用にも配意しながら、予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者数が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う。
 これは、法科大学院修了者と予備試験合格者とが公平な競争となることが根源的に重要であることを示すものであり、法科大学院修了者と同等の能力・資質を有するかどうかを判定することが予備試験制度を設ける趣旨である。両者における同等の能力・資質とは、予備試験で課せられる法律基本科目、一般教養科目及び法律実務基礎科目について、予備試験に合格できる能力・資質と法科大学院を修了できる能力・資質とが同等であるべきであるという理念を意味する。

(引用終わり)

法曹養成制度改革顧問会議第8回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

吉戒修一(元東京高裁長官)顧問 「予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させる」ということが書いてあるので、これをどう読むかです。・・・今の時点で予備試験合格者に占める本試験合格者の割合は約7割です。それに対し、法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合は約3割です。本来、法科大学院修了者の司法試験合格率は7~8割というのが目標ですから、現在は、それにはるかに及ばない、3割という低いところにいるわけです。したがって、これを7~8割までに引き上げるべきと読めるかと思います。これを低減させる方向で、つまり、法科大学院修了者の3割のラインに予備試験合格者の水準も下げるというのはおかしいだろうと思います。

(引用終わり)

法曹養成制度改革顧問会議第9回山根顧問提出資料より引用。太字強調は筆者。)

 予備試験の合格者数に関しては,「規制改革推進のための3か年計画」の存在が問題視されているが、この閣議決定は“両方のルートからの司法試験合格率がどちらも7~8割”となるという形での均衡を言っているのであって、法科大学院修了者の司法試験合格率が3割を切るという当時想定していなかった現状の中で、それに合わせて予備試験合格者を増加すべきと言っているものではないと考える。従って法科大学院制度の改革が進み、修了生が7~8割司法試験に合格できるようになるまでの当面の間は予備試験合格者の数を現状維持、あるいは減少させることが適当であると考える。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第61回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

土井真一(京都大学大学院法学研究科教授)委員  政府の規制改革推進3か年計画の中で、新司法試験の合格率において、予備試験合格者と法科大学院修了者の間で可能な限り差異が生じないようにすべきであると指摘されていますけれども、しかし、これは本来法科大学院が期待されていた役割を十全に果たしているという状況を前提にして、それと比べて予備試験合格者を不公平に取り扱わないという趣旨だったものだと私は理解しております。決して課題を抱えている法科大学院の現状に予備試験を合わせていって、法科大学院が抱えている課題をより深刻にするというようなことを意図しているわけではないと思います。その意味では、対症療法の一つとして、この閣議決定が間違っているというわけではなくて、本来の趣旨というものを適切に理解した上でその運用をお考えいただくということが大変重要なことではないかと思います。

片山直也(慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)委員長・教授)委員 仮にこの閣議決定に拘束力があることを前提に、今合格率の均衡を図る必要があるということだとしましても、その方法はいろいろ考えられるわけでありまして、その均衡を達成するために予備試験の合格者数を増やすというのは、これは本末転倒の議論ではないかという印象を受けております。

(引用終わり)

法曹養成制度改革顧問会議第8回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

有田知德(元福岡高検検事長)顧問 私、この前にもお話ししましたように、もう土俵が全く違ってきているのではないかなという感じを持っているのです。ですから、これはこれとして、今、射程範囲を超えた状況にあるわけですから、現状をどうするのかという視点で見た場合、一応、これは横に置いておくという措置しか私はないと。それで、その横に置いておくための理由付けをどうするのかというのをもう少し肉づけした上で、みんなに分かっていただくような方法がいいのではないのか。

橋本副孝(元日弁連副会長)顧問 私としては、現状、国として、法科大学院の卒業生に関して、一方で7~8割は受かるという目標設定をして、それを達成するための施策を立案し、実行している過程にある。他方で、予備試験合格者について、書かれているように法科大学院の卒業生と合格率の点で均衡させることを謳っている。こういう状態なのですから、国としては、この両方の要請を満たす形で考えないと、方針として一貫しないのではないかと思います。
 そういう意味で、両方を整合させて考えるのであれば、低い方の合格率に合わせて全体の制度を設計するというのは・・・前提が違うのではないかと思います。ここからどういう対応策を導くかという議論はあるとは思いますが、ただ、両者の要請があることを前提としたものにしないと政策として一貫しませんし、本来の趣旨が生きないのではないかと考えています。

(引用終わり)

法曹養成制度改革顧問会議第10回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

納谷廣美(前明大学長)座長 現状では、法科大学院修了者の司法試験合格率について、累積合格率が約7割と当初目指していた水準にほぼ達する法科大学院がある一方、累積合格率が全国平均(約5割)の半分未満の法科大学院も相当数あり、全体として法科大学院修了者の約5割(単年では約3割弱)しか司法試験に合格していないことから、法科大学院全体としては大きな課題を抱えており、極めて深刻な事態である。このように認識している。
 一方、平成23年から始まった予備試験については、これまでの実績を見ると、合格者の司法試験合格率が単年で7割程度で推移している。しかし、法務省の公表データ、今日のデータもありますが、自己申告によるものではあるが、予備試験に合格した者のうち法科大学院生と大学生が占める割合は高く、彼らのほとんどが司法試験に合格しており、その現象は増大傾向にあることが読み取られる。上記閣議決定当時には想定されていなかった事態が生じていると思います。このことから、予備試験合格者の司法試験合格率と、法科大学院修了者の司法試験合格率を単純に比較することは適当でないと思います。
 以上の問題状況に鑑みると、法科大学院教育については、その教育内容、水準及び質を早急に根本的に改善・充実させることが必要であるところ、法科大学院制度と予備試験制度との関係が当初想定されていた姿となっていない現状においては、予備試験の合否の判定を現状の法科大学院修了者の水準に合わせることは適当ではない
 こんなところでまとまるかなと思ってペーパーにまとめました。言葉は言い尽せないところもありますし、もう少し付加したいところもあるのですが、おおよそ閣議決定についてはこのように考えていけたらどうなのだろうか。このように顧問会議の御意見を集約させていただいたところでございます。

(引用終わり)

 

 予備試験合格者の増加を抑制したい立場の側が合格率均衡の閣議決定を無効化する理屈を考えた結果が、上記の(2)の基準だったといえます。

5 そして、上記の(3)は、いかに予備試験合格者数を増やすべきでないとはいっても、さすがに司法試験の合格水準よりも高い水準を予備試験の合格ラインとするわけにはいかない、という理屈で、正当化できる基準でした。現在、司法試験の論文の合格点は、概ね一応の水準の真ん中くらいとなっています(「平成30年司法試験の結果について(5)」)。予備試験では、一応の水準は28点から21点までの得点ですから、一応の水準の真ん中の数字は、(21+28)÷2=24.5点。したがって、各科目がそれぞれ一応の水準の真ん中である24.5点であるなら、全科目合計で245点となるわけです。
 このように、245点は、現在の司法試験の合格水準である一応の水準の真ん中に相当する点数である。仮に、予備試験の論文の合格点を245点より高い数字にしてしまうと、「本体である司法試験の合格水準よりも高い水準を要求している。」ということになってしまいます。これは、「予備試験合格者数が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする」、「予備試験で課せられる法律基本科目、一般教養科目及び法律実務基礎科目について、予備試験に合格できる能力・資質と法科大学院を修了できる能力・資質とが同等であるべきである」とする閣議決定に合致しないでしょう。

 

規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定)より引用。太字強調は筆者。)

 法曹を目指す者の選択肢を狭めないよう、司法試験の本試験は、法科大学院修了者であるか予備試験合格者であるかを問わず、同一の基準により合否を判定する。また、本試験において公平な競争となるようにするため、予備試験合格者数について、事後的には、資格試験としての予備試験のあるべき運用にも配意しながら、予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者数が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う。
 これは、法科大学院修了者と予備試験合格者とが公平な競争となることが根源的に重要であることを示すものであり、法科大学院修了者と同等の能力・資質を有するかどうかを判定することが予備試験制度を設ける趣旨である。両者における同等の能力・資質とは、予備試験で課せられる法律基本科目、一般教養科目及び法律実務基礎科目について、予備試験に合格できる能力・資質と法科大学院を修了できる能力・資質とが同等であるべきであるという理念を意味する。

(引用終わり)

 

 司法試験予備試験考査委員会議の主管省庁及び庶務担当部局課は、法務省大臣官房人事課です(「司法試験予備試験考査委員会議」の「概要」欄を参照)。法務省の事務局担当者から、上記のような説明をされた上で、「以上のような予備試験制度の趣旨及び閣議決定の趣旨を踏まえますと、合格点の上限は245点とするのが適当と思われますがいかがでしょうか。」などと言われれば、考査委員としても「なるほどそうだよな。」となりやすいでしょう。法務省がどうしてこのような理屈をわざわざ考えてくるかというと、優秀な若手を多く採りたいからです。若手を採りたい、というのは、旧司法試験以来からの、一貫した法務省の希望でした。

 

参院法務委員会平成03年04月16日より引用。太字強調は筆者。)

政府委員(濱崎恭生君) 司法試験は、御案内のとおり、裁判官、検察官、弁護士となるための唯一の登竜門としての国家試験でございますが、最近といいますか昭和五十年ごろから急速に、合格までに極めて長期間の受験を要する状況になっております。その状態は大勢的には次第に進行しておりまして、今後放置すればますます進行するということが予想されるわけでございます。 具体的には、現在、合格者の平均受験回数が六回ないし七回。それに伴って合格者の平均年齢も二十八歳から二十九歳ということになっておりまして、二年間の修習を経て実務につくのは平均的に三十歳になってからという実情になってきているわけでございます。そのこと自体大変大きな問題でございますが、そういうことのために法曹となるにふさわしい大学法学部卒業者が最初から司法試験というものをあきらめてしまう、そんな難しい試験は最初からチャレンジしない、あるいは一、二回試験を受けてそれであきらめてしまうというような、いわゆる試験離れの状況を呈しております。これは法曹界に適材を吸引するという観点から大変大きな問題であろうと思っております。
 さらには、合格者の年齢がそういうことから総体的に高くなっていることによって、裁判官、検察官の任官希望者の数が十分に確保できないのではないかという懸念が次第に強くなってきているわけでございます。
 そういうことで、こういう状態は一刻も放置できない、何らかの改革を早急に実現しなければならないということで取り組んでまいったわけでございまして、今回の改正の目的を端的に申しますと、こうした現状を緊急に改善するために、法曹としての資質を有するより多くの人がもっと短期間の受験で合格することができる試験にしようということでございます。もっと短い期間で合格する可能性を高めるということが今回の改正の目的でございます。

 (中略)

 御指摘の合格枠制、若年者にげたを履かせるという御指摘でございました。これが短絡的な発想ではないか、あるいは便宜的ではないかという受け取り方をされがちでございますけれども、こういう改革案を必要とする理由については、先ほど来るる申し上げさせていただきました。やはり合格者を七百人程度に増加させるということを踏まえました上で、もう少し短い期間で合格する可能性を高めるという方策といたしましてはこういう方策をとるほかはない、こういう制度をとらなくてもそういう問題点が解消できるということならばそれにこしたことはないというふうに思っておりますが、この制度はすべての受験者にとってひとしく最初の受験から三年以内は合格しやすいという利益を与えるわけでございまして、決して試験の平等性を害するというものではないと思っております。

(引用終わり)

 

 上記は、旧司法試験で合格枠制、いわゆる丙案を導入する際の議論です。「丙案」という名称は、議論の際に、「甲案」、「乙案」、「丙案」を念頭に議論されていたことに由来します。

 

衆院法務委員会平成元年11月22日より引用。太字強調は筆者。)

○井嶋政府委員 司法試験制度は委員御承知のとおり法曹三者の後継者を選抜いたします事実上唯一の試験でございまして、国家試験の中でも最難関の試験であるというふうに言われておるわけでございますけれども、近年、この試験が非常に異常な状況を呈してまいっておりまして、平均受験回数が六回以上、合格者の平均年齢が二十八・九一歳というようなことに象徴されますように、司法試験の受験を目指す者にとって非常に過酷な試験になっておるという現状があるわけでございます。そういったことから、法曹の後継者を実務家として修練する機会と申しますか、開始する機会が非常に遅くなってきているということもございます。そのような結果、定年制を持ってキャリアシステムで進んでまいります判事、検事につきましては、給源としての問題も非常に出てまいっておるという面もございます。そういったことで、本来法曹三者がバランスよく採用される、登用されるという姿であるべき司法試験が異常な形になってまいっておりますために、そのバランスよく採るという点においても一つの破綻を来しておるということがあるわけでございます。
 そういったところから、法務省といたしましても、まず司法試験の現状を改めて、より多くの人がより早く合格できるような試験制度に改めて、若くて優秀な人たちが司法試験に魅力を感じて受けてもらえるようなものにしたいという観点で改革の提言を行ったわけでございます。そして昨年十二月から一昨日まで十一回、法曹三者協議会でこの問題について討議を重ねてまいりました。その間におきまして、司法試験の抱えております現状と問題点をそれぞれ資料に基づいて分析、検討いたしまして、協議を行ってまいったわけでございます。まだ認識の程度あるいは質において必ずしも全部が一致したというわけではございませんけれども、少なくとも共通項といたしまして、現状の試験を改革する必要性があるという点におきましては認識が大体まとまった。そこで、ではこれからはいかにすべきかということを審議するために、提案者でございますので、法務省としてのたたき台をお示ししようということで、一昨日、司法試験制度改革の基本構想というものを提出したわけでございます。
 それで、今申しましたような経緯でございますので、改革の基本的構想というのは、まさに現在の司法試験に比べまして、より多くの者がより短期間に合格し得るような試験とするということを目途といたしまして、次のような改革の具体的内容を提言いたしました。
 まず、制度上の改革でございます。
 一つは、甲案と申しておりますけれども、司法試験第二次試験におきまして、初めて受験した年から五年以内に限って受験することができる。これは一つの受験資格の制限という方向の改革でございます。したがって、五年以内に連続いたしますと五回受けられる、しかしそれ以上は受けられません、こういう形にする案がまず甲案でございます。
 しかし、それだけで打ち切ってしまいますと、法曹というものは必ずしも若いときだけでなくて、いろいろな社会経験を積んだ後に法曹を目指して司法試験を受ける方も現実におられますし、またそういった方々のキャリアも法曹にとって重要であるというような観点もございますから、これを単に一律に当初から五年連続五回でおしまいだということでは酷であるということで、復活制というものを設けまして、五年引き続いてやって失敗されましたら五年間はお休みいただきます、五年お休みいただきましたら前と同じように、原則と同じように、さらにまた五年間連続受けていただけます、こういうような制度にいたしまして、いわゆる社会経験をされた方で改めて司法試験を目指そうという方にも道を開くということを考えたわけでございます。
 それから、乙案と申しますのは、そういった五年以内連続五回という受験制限の考え方を一応原則といたしまして、合格者数の八割ぐらいに当たるものをそういった五回以内の方々から選ぶ、しかし、現実に現行制度では制限をしておらないわけでございますから、そういった方も将来ともあるだろう、そういうことのために、残りの二割ぐらいの合格者の数につきましては、引き続き六回、七回、十回と受けておられる方の中からでも採るようにしよう、そのぐらいの枠をその方々に提供しよう、ただし、もちろん合格最低点はいわゆる八割の方の合格最低点と同じものにする、こういう考え方が乙案でございます。
 丙案は、これは逆にと申しますか、発想を変えておりまして、現在五百名ばかり採っておるわけでございますけれども、現在の姿をそのまま維持いたしましょう、したがって受験回数制限も一切いたしません、その方々で大体七割くらいを採らしていただきましょう、残りの三割につきまして、今度は受験回数三回以下の方々についてこの枠でもって合格の判定をさせていただきましょう、こういう考え方を示しておるわけでございます。

(引用終わり)

 

 上記の「甲案」が、現在の受験回数制限へと引き継がれていったのでした。ここで重要なことは、上記の議論において、合格者の平均年齢が28歳であることをもって、「非常に異常な状況」と表現されていることです。今年の司法試験における合格者の平均年齢はといえば、28.8歳です。すなわち、法務省からすれば、現在も、「非常に異常な状況」は何ら改善されていない、ということになるわけですね。ちなみに、現在の司法試験制度の導入を検討していた際には、合格者の平均年齢は、概ね24歳、25歳くらいが想定されていました。

 

参院法務委員会平成13年11月06日より引用。太字強調は筆者。)

○佐々木知子君 続いて、法科大学院を修了するための要件として、法学部出身者と他学部出身者とを区別せず、三年の在学期間を原則とすべきであるとの意見もあると聞いております。しかしながら、法科大学院に入学する学生の多くは、実際のところは法学部の出身者であろうと思われるわけです。その場合、学部で四年、大学院でさらに三年、合わせて七年間法律を学ぶということになるわけですね。これでは法曹となるまでの年月が余りに長くなってしまい、多くの有為な若者が法曹を目指すことをちゅうちょしてしまうのではないか。それとともに、頭のやわらかいときに余りにも法律法律と詰め込むことによって、実際は何も融通のきかない頭のかたい若者を育てる結果になってしまうのではないかということを私は非常に憂慮しているものでございますが、法科大学院の在学期間について、法務大臣の見解を求めます。

○国務大臣(森山眞弓君) 法科大学院におきましては、必ずしもいわゆる法学部の出身者だけを頭に置いているわけではございませんで、いろいろな分野の勉強をした若者が法曹を志してもらいたいという気持ちがあるわけでございます。
 司法制度改革審議会意見では、法科大学院における標準修業年限を三年とし、法学既修者、つまり法学部等で法律を勉強した者については、短縮型として二年での修了を認めるべきであるというふうにもおっしゃっているわけでございます。
 また、その教育内容については、厳格な成績評価及び修了認定を不可欠の前提としておりまして、修了者のうち相当程度の者が新司法試験に合格できるように充実したものとするべきであるということも言っております。
 そうしますと、司法試験合格時の年齢はおよそ二十四、五歳ということになろうかと推定されるわけでございますが、一方、現行の司法試験の合格者は、その平均受験期間がおよそ四年から五年となっておりますので、合格時の平均年齢がおよそ二十六、七歳ということが現実でございます。したがいまして、法科大学院制度導入後において、現行制度に比べて法曹資格を取得するまでの期間が長くなるとは必ずしも言えないかと思います。

(引用終わり)

 

 このように、当初の想定よりも合格者の平均年齢が高くなりすぎているので、法務省としては、予備の合格者数を増やして若手を採りたいのです。しかし、これに反対しているのが、文科省と法科大学院関係者です。予備試験のせいで法科大学院制度がうまくいっていない、と考えているからです。現在では、マスメディアも概ね文科省や法科大学院関係者の見解に近い姿勢で報道しています。「予備試験が抜け道になって、法科大学院制度が危うくなっている。」式の報道は、よく目にすることでしょう。とはいえ、予備試験を直接に所管しているのは法務省なので、法務省がその気になれば、合格者数を増やすことはできそうです(※)が、そのためには、これを正当化する理屈が必要です。そのためのうまい理屈として考え出されたのが、「合格点の上限を司法試験の合格水準とする。」というものだったというわけです。
 ※ 司法試験の合格者数が抑制されてきたのは、従来から法務省が急激な増員に消極的な姿勢をとっていたからです(「合格者増員方針は転換されたと言われているが」)。法務省は、「合格者数は法曹の質という観点から司法試験委員会が独立して決めている。数が増えていないのは質が確保できなかったからであり、仕方がない。」と言いながら、巧みに急激な増員を回避してきたのでした。また、法曹養成制度改革顧問会議において予備試験の受験資格の制限が議論された際に、推進室長など主要な構成員を法務省からの出向者で占める法曹養成制度改革推進室(組織構成に関する資料)がこれに極めて消極的な態度で臨み、受験資格制限の議論を封殺したのでした(「予備試験制度に関する意見の整理等」)。

6 以上を踏まえて今年の結果をみてみましょう。今年の論文式試験の結果における得点別人員調によれば、210点以上を取った人は、累計で1110人います。したがって、(1)の基準によって合格点が決まることはありません。次に、(2)の基準を考えます。5点刻みで初めて400人を超える点数を確認しましょう。以下は、累計人員が400人前後となる得点分布の抜粋です。

得点 人員
250 304
245 380
240 459
235 549
230 662

 5点刻みで初めて400人を超える点数は、240点です。245点を超えていませんから、(3)の基準の適用はなく、(2)の基準によってそのまま240点が合格点となる。実際にも、合格点は240点でした。以上のように、今年の結果は、従来の基準でそのまま説明できる結果であったということになります。予備の論文合格者数が減少に転じたのは今年が初めてなので、「政府が予備合格者数を抑制する方向に姿勢を転換したのだ。」というような説明がされるかもしれませんが、そのような説明は適切とはいえないでしょう。

posted by studyweb5 at 17:19| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする


  【当サイト作成の電子書籍一覧】
司法試験平成29年最新判例ノート
司法試験平成28年最新判例ノート
平成29年司法試験のための平成28年刑訴法改正の解説
司法試験定義趣旨論証集刑訴法(逐次改頁版)
司法試験定義趣旨論証集刑訴法(通常表示版)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(民法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(民法)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(行政法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(行政法)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(憲法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(憲法)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(会社法)
司法試験定義趣旨論証集(会社法)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(物権)
司法試験定義趣旨論証集(物権)
司法試験平成26年最新判例ノート
司法試験論文用平成26年会社法改正対応教材
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(民法総則)
司法試験定義趣旨論証集(民法総則)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(刑法各論)
司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(刑法総論)
司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)
司法試験平成25年判例肢別問題集
司法試験平成25年判例論証穴埋問題集
司法試験平成25年判例論証集
司法試験定義趣旨論証集(行政法)

  【最新ニュース・新刊書籍紹介】
平成31年司法試験受験願書の交付等について
法科大学院等特別委員会(第88回) 配付資料
法学セミナー 2018年 11 月号
平成30年司法試験予備試験論文式試験結果
合コンで一番人気はアディーレ!? 意外とモテない“司法修習生”の恋愛事情
速報判例解説(23) 2018年 10 月号: 法学セミナー 増刊
給費制訴訟、広島高裁が請求棄却 司法修習生の月額20万円廃止で
司法試験・予備試験 スタンダード100 (6) 民事訴訟法 2019年 (司法試験・予備試験 論文合格答案集)
死亡事故で虚偽の供述依頼した疑い、弁護士を逮捕 横浜
犯人隠避教唆容疑で弁護士ら逮捕
司法試験・予備試験 スタンダード100 (7) 刑事訴訟法 2019年 (司法試験・予備試験 論文合格答案集)
加害者家族に法的支援へ 山形県弁護士会、全国初
加害者家族を法的支援 11月から、山形県弁護士会
司法試験論文過去問演習 民法
海賊版サイト運営者 弁護士が特定 政府の遮断法、根拠揺らぐ
津波対策検討会議「知らなかった」 東電元副社長が証言
東電・武藤元副社長「大津波対策指示せず」 原発事故 強制起訴
司法試験・予備試験 スタンダード100 (3) 刑法 2019年 (司法試験・予備試験 論文合格答案集)
空き家対策推進で協定…日立市と県弁護士会
松橋事件「検察は無罪主張を」弁護団会見、迅速審理も求める
司法試験・予備試験 スタンダード100 (5) 商法 2019年 (司法試験・予備試験 論文合格答案集)
松橋事件再審確定、最高裁が特別抗告棄却…無罪の公算大
(社説)再審手続き 繰り返し整備を求める
司法試験・予備試験 スタンダード100 (4) 行政法 2019年 (司法試験・予備試験 論文合格答案集)
「松橋事件」再審やっと 宮田さん、病床で朗報 弁護団「命あるうちに無罪判決を」
「同性婚支持するケーキ」拒否は差別でない 英最高裁
司法試験・予備試験 スタンダード100 (1) 憲法 2019年 (司法試験・予備試験 論文合格答案集)
「米ハーバード大学がアジア系を差別」 歴史的裁判、冒頭陳述開始
「Google+」の閉鎖と情報流出問題は、大手テック企業の「矛盾」を浮き彫りにした
司法試験・予備試験 スタンダード100 (2) 民法 2019年 (司法試験・予備試験 論文合格答案集)
フェイスブックの「バグ報奨金」制度拡大は、個人情報を今度こそ守れるか
インドのヒンズー教寺院、月経年齢の女性入館許可控え対立激化
企業不祥事のケーススタディ――実例と裁判例
「良心的兵役拒否」認める憲法裁判所の判決に続く下級審…1・2審で無罪21件(韓国)
平成30年司法試験合格者(官報)
"54歳から弁護士になった人"の人生設計
法学部、ロースクール、司法研修所で学ぶ法律知識――主要10法と法的思考のエッセンス
【東京】≪司法試験受験者対象≫早期の就職を目指す方向け個別相談会
【大阪】≪司法試験受験者対象≫ご好評につき継続中!合格発表後の活動をサポート!個別相談会
【名古屋】≪司法試験受験者対象≫企業への就職を希望される方の為の個別相談会
司法試験・予備試験 伊藤真の速習短答過去問 憲法
大法廷で石綿検出 イベント中止 最高裁
「裁判官にもつぶやく自由はある」岡口裁判官の分限裁判で声明文、弁護士269人が賛同
司法試験&予備試験短答過去問パーフェクト〈6〉民事系民訴〈平成30年度版〉
中3が“弁護士の秘書”かたり特殊詐欺未遂 容疑で大阪府警逮捕
BEXA 学習傾向解析を活用 司法試験合格者が4年連続増
司法試験&予備試験短答過去問パーフェクト〈5〉民事系商法〈平成30年度版〉
「通勤講座」、10周年記念で全22講座の受講料を10%オフに
山下新法相「国民の胸に落ちる法務行政を」「死刑廃止は適当ではない」
司法試験&予備試験短答過去問パーフェクト〈8〉刑事系刑訴〈平成30年度版〉
甲南大法科大学院の新科目 初回は神戸市長が講義
フジモリ氏の恩赦取り消し決定 ペルー最高裁
司法試験&予備試験短答過去問パーフェクト〈2〉公法系行政法〈平成30年度版〉
米司法の保守色強まる カバノー最高裁判事が就任 
ブレット・カバノー氏、最高裁判事に就任 上院が承認
商法総則・商行為法のポイント解説
李明博元大統領に懲役15年 ソウル中央地裁 収賄罪など
弁護士・法務人材 就職・転職のすべて
法制審議会民事執行法部会第19回会議議事録等
法制審議会民事執行法部会第18回会議議事録等
法制審議会民事執行法部会第17回会議議事録等
弁護士・法務人材 就職・転職のすべて
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)
商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案
民事執行法の改正に関する中間試案(平成29年9月8日)
民法の一部を改正する法律(債権法改正)について

刑事訴訟法等の一部を改正する法律について
法曹養成制度関係閣僚会議
法曹養成制度改革の推進について(PDF)
法曹養成制度改革推進会議
法曹養成制度改革顧問会議
平成30年司法試験予備試験の実施について
平成30年司法試験の実施について
司法試験考査委員の不適切行為に関する通報窓口

  【司法研修所教材・講義案・調査官解説等】
事件記録教材 法科大学院教材
調査官解説
事例で考える民事事実認定
プラクティス刑事裁判
プロシーディングス刑事裁判
検察講義案 平成24年版
新問題研究要件事実
紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造 改訂
刑事第一審公判手続の概要
刑事判決書起案の手引
民事判決起案の手引
民事訴訟第一審手続の解説
情況証拠の観点から見た事実認定
民事訴訟における要件事実 第2巻
民事訴訟における要件事実 増補 第1巻
書記官研修講義案等