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2017年02月28日

平成29年司法試験の出願者数について(2)

1.今回は、明らかになった出願者数の速報値から、今年の司法試験についてわかることを考えてみます。以下は、直近5年の出願者数、受験者数等をまとめたものです。

出願者数 受験者数 受験率
(対出願)
25 10315 7653 74.1%
26 9255 8015 86.6%
27 9072 8016 88.3%
28 7730 6899 89.2%
29 6716 ??? ???

 

短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
25 5259 68.7%
26 5080 63.3%
27 5308 66.2%
28 4621 66.9%
29 ??? ???

 

論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
25 2049 38.9% 26.7%
26 1810 35.6% 22.5%
27 1850 34.8% 23.0%
28 1583 34.2% 22.9%
29 ??? ??? ???

2.まず、受験者数の予測です。これは、出願者数に受験率を乗じることで、算出できます。受験率は、受験回数制限が緩和されて以降、概ね88%、89%程度で推移しています。ここでは、受験率を89%と仮定して、試算しましょう。そうすると、

 6716×0.89≒5977

 受験者数は、5977人と推計できます。概ね6000人前後で、昨年より900人程度減少するという計算になります。

3.次に、短答合格者数です。当サイトでは、現在の短答の合格点は、以下のようなルールによって決まっているのではないか、と考えています。

 

(「平成28年司法試験短答式試験の結果について(1)」より引用。太字強調は現在の筆者による。)

 従来、短答式試験は7科目350点満点で、その6割である210点が下限の合格点。それで合格者数が多すぎるようなら、5点刻みで上方修正する。これが、7科目時代の合格点の決まり方でした。
 昨年から、短答式試験の試験科目は憲民刑の3科目175点満点になりました。3科目になった場合、合格点はどのように決まるのか。当サイトの仮説は、満点(175点)の6割5分である113.75の小数点を切り上げた114点が基本的な合格点。それで合格者数が多すぎたり、少なすぎたりするようなら微修正する、というものです(「平成27年司法試験短答式試験の結果について(1)」)。

(引用終わり)

 

 直近の数字をみる限り、合格率66%というのが、居心地の良い数字のようです。ちょうど、下位3分の1を落とす、という感じになっていることが、そう感じさせる理由なのでしょう。これより高かったり、低かったりするようなら、微修正をして、66%に近づけるのではないか。ここでは、差し当たりそのように考えてみましょう。そこで、今年も短答の合格率(対受験者)が66%となると仮定すると、

 5977×0.66≒3944

 短答合格者は、3944人と推計できます。概ね4000人前後ということですね。
 合格率を一定にして試算していますから、合格者数が4000人前後であれば、短答の難易度は、それほど変わらないということになります。ただ、初回受験者は、気を付ける必要があるでしょう。短答は、受験回数が増えると、受かりやすくなる、という傾向があるからです。以下は、平成28年の受験回数別の短答合格率(受験者ベース)です。

受験回数 短答合格率
(対受験者)
1回 63.1%
2回 63.4%
3回 62.4%
4回 71.5%
5回 83.1%

 平成28年の特徴は、1回目から3回目までがあまり差がなく、むしろ3回目は少し合格率が落ちている一方で、4回目、5回目の合格率が顕著に高くなっていることです。4回目、5回目の短答合格率が顕著に高いことは、受験回数制限が緩和されて以降、確立した傾向となっています。逆にいえば、初回受験者は、短答を甘くみていると、やられてしまいやすい、ということです。肢別本に代表される肢別の問題集を全肢3回連続間違えずに正解できる、というのが1つの目安ですが、そのレベルまで早い段階で高めておく必要があります。短答は、勉強時間さえ確保すれば、ダイレクトに得点に結び付けることができますから、手抜きをせずにやっておくべきです。

4.さて、論文です。ここは、1500人の下限が破られるか、というのが、ポイントになります。

 

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用、太字強調は筆者)

  新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである

(引用終わり)

 

 論文合格者数は、昨年の段階で、既に1583人まで減少しています。上記は飽くまで「されるよう…目指す」ものに過ぎませんし、実際に合格者数を決めるのは、司法試験委員会です。これまでも、司法試験委員会は、政府の合格者数の目安を無視してきました。ですから、1500人が守られる保証は、どこにもないのです。したがって、現時点では、合格者数がどうなるのか、予測が難しいといえます。ここでは、いくつかのケースを想定して考えてみましょう。
 まず、下限が守られ、1500人だった場合です。この場合、論文の短答合格者ベースの合格率は、

 1500÷3944≒38.0%

となります。これは、直近でみると、平成25年に次ぐ高めの数字です。やや高すぎるという印象を持ちますね。このことは、1500人の下限が破られそうだと感じさせます。
 次に、1000人だった場合を考えてみましょう。これは、おそらく想定できる最悪の数字でしょう。直感的な予想に過ぎませんが、さすがに1000人を割ることはない、という感覚は、現段階で多くの人が共有しているところだろうと思います。この場合、論文の短答合格者ベースの合格率は、

 1000÷3944≒25.3%

となります。対受験者の合格率は、16.7%。これは、新司法試験では過去に例のない極端に低い数字です。合格率でみても、さすがにこれはない、という印象を持ちます。
 最後に、当サイトの仮説に基づく推計をしてみましょう。当サイトの仮説は、「司法試験委員会は、累積合格率7割が達成できる単年度合格率である23%を意識して、最終合格者数を決めている。」というものでした(「平成28年司法試験の結果について(3)」)。そこで、今年の受験者ベースの論文合格率が23%となる合格者数を考えると、

 5977×0.23≒1374

 論文合格者数は、1374人ということになります。感覚的にも、ありそうな数字だと感じさせます。この場合、短答合格者ベースの論文合格率は、

 1374÷3944≒34.8%

となります。これは、平成27年、平成28年とほぼ同水準です。これより合格者数が多ければ昨年より易しく、これより合格者数が少なければ昨年より厳しい。そのような感覚を持っておけばよいのだろうと思います。最後に、上記の数字をまとめておきましょう。

出願者数 受験者数 受験率
(対出願)
24 11265 8387 74.4%
25 10315 7653 74.1%
26 9255 8015 86.6%
27 9072 8016 88.3%
28 7730 6899 89.2%
29 6716 5977? 89%?

 

短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
24 5339 63.6%
25 5259 68.7%
26 5080 63.3%
27 5308 66.2%
28 4621 66.9%
29 3944? 66%?

 

論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
24 2102 39.3% 25.0%
25 2049 38.9% 26.7%
26 1810 35.6% 22.5%
27 1850 34.8% 23.0%
28 1583 34.2% 22.9%
29 1500?
1000?
1374?
38.0%?
25.3%?
34.8%?
25.0%?
16.7%?
23%?

5.仮に、当サイトの仮説に基づく試算どおりの結果になると、合格者数が1500人を割ってしまうので、合格者数1500人を前提に入学定員2500人を想定していた文科省は困るのか。それは実はそうではない、ということは、以前の記事(「平成28年司法試験の結果について(3)」)で説明したとおりです。

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2017年02月26日

平成29年司法試験の出願者数について(1)

1.平成29年司法試験の出願者数の速報値が公表されました。6716人でした。以下は、直近5年の出願者数の推移です。

出願者数 前年比
25 10315 ---
26 9255 −1060
27 9072 −183
28 7730 −1342
29 6716 −1014

 出願者数は、昨年から1014人減少しています。昨年は1342人の減少ですから、減少幅は縮まっていますが、かなり大きな減少です。仮に、毎年同じペースで減少を続ければ、6、7年で受験者数がゼロになってしまいます。もちろん、そのようなことはあり得ないだろう、ということは直感的にわかるのですが、実際には、どのようなメカニズムで、下げ止まりが生じるのでしょうか

2.近時、出願者数が減少傾向にあることの原因は、法科大学院の入学者数の減少にあります。法科大学院に入学する人が減れば、受験資格を得る人が減りますから、出願する人も減るという理屈です。以下は、平成20年以降の法科大学院の入学定員及び実入学人員の推移です(「法科大学院における平成28年度の入学者選抜の状況」参照)。

年度 入学定員 前年比 実入学者数 前年比
20 5795 --- 5397 ---
21 5765 −30 4844 −553
22 4909 −856 4122 −722
23 4571 −338 3620 −502
24 4484 −87 3150 −470
25 4261 −223 2698 −452
26 3809 −452 2272 −426
27 3169 −640 2201 −71
28 2724 −445 1857 −344

 上記をみると、一時的に下げ止まった年(平成24年の入学定員や平成27年の実入学者数)はあるものの、一貫して減少傾向にあることがわかります。問題は、これがいつか下げ止まるのか、ということですが、おそらくは、来年以降から、入学定員については下げ止まりの傾向が出てくるはずです。その背景には、文科省の政策転換があります。

3.そもそも、法科大学院の定員削減は、何のために行われたのか。これは、志願者を増加させるためです。定員を削減したのでは、むしろ志願者は減ってしまうのではないか、と疑問を持つ人も多いでしょう。少し理解しにくいですね。これを理解するには、政府が、現在の志願者激減の原因をどのように捉えているか、ということを確認しておく必要があります。

 

(「法曹養成制度検討会議取りまとめ(平成25年6月26日)」より引用。太字強調は筆者。)

 法曹志願者の減少は,司法試験の合格状況における法科大学院間のばらつきが大きく,全体としての司法試験合格率は高くなっておらず,また,司法修習終了後の就職状況が厳しい一方で,法科大学院において一定の時間的・経済的負担を要することから,法曹を志願して法科大学院に入学することにリスクがあるととらえられていることが原因である

(引用終わり)

 

 政府は、司法試験の合格率が高くなっていないことが、志願者激減の原因の1つだと考えているのです。そこで、これを解消するにはどうしたらいいか、と考えてみると、2つの方策が考えられるでしょう。1つは、分子である合格者数を増やすこと。もう1つは、分母である受験者数を減少させることです。しかし、合格者数をこれ以上増やすことは、志願者減少の他の原因である司法修習終了後の就職状況をさらに悪化させることになってしまいます。そのため、合格者数は、1500人を一応の下限としつつ、むしろ減らしていこうというのが、現在の政府の方針になっています。

 

(「法曹養成制度検討会議取りまとめ(平成25年6月26日)」より引用。太字強調は筆者。)

 近年,過払金返還請求訴訟事件を除く民事訴訟事件数や法律相談件数はさほど増えておらず,法曹の法廷以外の新たな分野への進出も現時点では限定的といわざるを得ない状況にある。さらに,ここ数年,司法修習終了者の終了直後の弁護士未登録者数が増加する傾向にあり,法律事務所への就職が困難な状況が生じていることがうかがわれることからすれば,現時点においても司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすることを目指すべきとの数値目標を掲げることは,現実性を欠くものといわざるを得ない。
 上記数値目標は,法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題であったことから,早期に達成すべきものとして掲げられた目標であるが,現状においては,司法試験の年間合格者数の数値目標を掲げることによって,大幅な法曹人口増加を早期に図ることが必要な状況ではなくなっている

 

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成 27年6月30日)」より引用。太字強調は筆者。)

 新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである

(引用終わり)

 

 そうなると、考えられる方策は、受験者数の減少しかない、ということになります。法科大学院の定員を削減することが、最も直接的かつ有効な手段です。では、どの程度まで定員を削減すべきなのか。これは、合格率の目標とされてきた、「修了生の7割」(その具体的な意味については、「平成28年司法試験の結果について(3)」参照)、当面の合格者数の下限とされている1500人から、逆算することによって算定が可能です。現に、文科省はそのような逆算によって、あるべき法科大学院の定員目標を、概ね2500人としたのでした。

 

(「法曹人口の在り方に基づく法科大学院の定員規模について」より引用。太字強調は筆者。)

 累積合格率7割の達成を前提に、1,500人の合格者輩出のために必要な定員を試算すると、以下のとおりとなる。

○ 法科大学院では厳格な進級判定や修了認定が実施されており、これまでの累積修了率は85%であること。  

○ 予備試験合格資格による司法試験合格者は、平成26年は163名であるが、うち103名は法科大学院に在籍したことがあると推測されること。

 上記2点を考慮した計算式:(1,500 − 163) ÷ 0.7 ÷ 0.85 + 103 ≒ 2,350

○ さらに、法科大学院を修了しても司法試験を受験しない者がこれまでの累積で6%存在すること。 

 上記3点を考慮した計算式:(1,500 − 163)÷ 0.7 ÷ 0.85 ÷ 0.94 + 103 ≒ 2,493 

(引用終わり)

 

 法科大学院の定員を削減するといっても、文科省が直接に指示することはできません。飽くまで、定員は法科大学院自身が決めることですから、自主的に削減してもらうしかない。そこで用いられたのが、定員を削減しない法科大学院に対する補助金を削減する、という手段です。具体的には、補助金支給額の基準を「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム」として定め、その中に「定員充足率」の指標を含ませることで、定員を削減しないと補助金が減額されてしまう仕組みを作ったのでした。

 

(「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラムの審査結果について(平成27年12月25日)」)

 本プログラムは,法科大学院の入学定員の適正化など自主的な組織見直しを促進するとともに,先導的な取組に対する支援を通じて,教育の質の向上を図るため,法科大学院間のメリハリのある予算配分を行うものです。

(引用終わり)

 

4.この結果、平成28年の入学定員は、2724人まで減少しました。そして、平成29年は、2566人となる見込みとなっており、目標としていた2500人に近い水準となることがわかっています。これで、多少のタイムラグはあるものの、近い将来に合格率は修了生の7割を実現できる程度となるだろう、というのが、文科省の目論見です(ただし、実は修了生7割と入学定員との間には直接の対応関係がないことについては、「平成28年司法試験の結果について(3)」参照。)。文科省の方針が、入学定員削減から志願者数確保へと転換したのは、このためなのです。今後合格率は上昇に向かい、志願者が減少した原因の1つが取り除かれるので、今後は志願者数は増加に向かうだろう、という観測があるわけです。

 

法科大学院特別委員会(第75回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

塩田専門職大学院室長「法曹人口の1,500人といったような数字を踏まえまして,当面,目指すべき法科大学院の定員規模を2,500人としたということでございまして,その2,500という数字を達成するために,加算プログラムを29年度以降も継続して実施するというような趣旨を書いているものでございます。…平成29年の予定ということでございますけれども…六大学が定員の見直しを行うということを予定されていて,募集停止となる2大学がございます。その定員分を含めまして…来年度は2,566人になる見込みということでございます。ということで,先ほど御説明しましたように,目標値として2,500人程度ということを掲げておりますので,数字がほぼ達成されるというような状況になってございます。
   加算プログラムにつきましては,自主的な組織見直しの促進ということと,各法科大学院における優れた取組を支援すると,こういったような目的で実施しておるわけでございますけれども,目標値である2,500人という数字が達成されるということでございますと,今後,基礎学の指標の取り方を含めまして何らかの修正を加える必要があるのかなとは認識してございます。」

(引用終わり)

(「「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム」の見直しについて 」より引用。太字強調は筆者。)

 入学定員の目標がほぼ達成され、今後は入学定員の適正化に代わって志願者数の確保が重要な課題となることから、定員充足率については指標から削除する。一方、入学者数が10名を下回る場合は、教育組織として規模が小さくなり過ぎているなど、法科大学院としてふさわしい教育環境の確保への影響が懸念されることから、3年連続で入学者数が10名未満となった場合は減点する。

(引用終わり)

 

5.以上のような理由から、今後は、入学定員は下げ止まるでしょう。問題は、実入学者数がこれに対応して下げ止まってくれるかです。入学定員が下げ止まっても、志願者が増えてくれなければ定員割れとなるだけで、意味がありません。昨年は実入学者数が下げ止まったかに見えたものの、今年は、また減少幅が大きくなっています。修習生への給付が一部復活したことなど、若干明るいニュースはあるものの、就職状況は依然として厳しいままなので、今後どの辺りで下げ止まるのか。直感的には、さすがにそろそろ下げ止まるのではないか、という感じはするものの、正確なところは、よくわかりません

posted by studyweb5 at 18:14| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする

2016年11月14日

平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(5)

1.以下は、直近5年の司法試験受験経験別の受験者数の推移です。

受験経験 平成24 平成25 平成26 平成27 平成28
受験なし 2517 4553 6025 6384 6560
旧試験のみ 4159 3929 3358 3095 2779
新試験のみ 152 263 385 317 409
両方受験 355 479 579 538 694

 一貫して減少しているのが、「旧試験のみ」のカテゴリーです。旧司法試験はもう実施されていないわけですから、これは当然といえるでしょう。とはいえ、旧司法試験から予備に転じて、ずっと受け続けている人が、まだ2779人もいる。旧司法試験最後の論文試験が実施されたのが、平成22年ですから、もう既にそれから6年が経過しています。これが、長年憂慮されてきた、滞留者問題です。
 滞留者問題という意味では、「両方受験」のカテゴリーが増加している点が、少し怖いと感じさせます。このカテゴリーは、旧司法試験を受験していたが、合格できずに法科大学院に入学し(※1)、新司法試験を受けたが、それでも合格できずに受験回数を使い切ってしまい、予備試験に流れた、という人達です。昨年は、受験回数制限緩和の影響で、一時的に減少していましたが、今年は、また増加しています。このように、旧司法試験時代からの滞留者は、今でも予備試験に流れてきているのです。
 「両方受験」と同じように、昨年一時的に減少し、今年また増加に転じているのが、「新試験のみ」のカテゴリーです。このカテゴリーは、新司法試験を受験して受験回数を使い切った人で、旧司法試験は受験したことがない人達です。昨年一時的に減少したのは、受験回数制限緩和によるものでしょう。このカテゴリーの人数がじわじわと増加していることから、受験回数制限があっても、予備に回って滞留してしまう人が、一定数生じてしまうことがわかります。ただ、その数は、今のところ、少ないという印象です。そのことは、「両方受験」のカテゴリーと比較してみるとわかります。絶対数としては、新司法試験のみ受験して受験回数制限を使い切った人の方が、旧司法試験と新司法試験の両方を受験して受験回数制限を使い切る人よりも多いはずです。しかし、予備試験に回った人の数は、「両方受験」のカテゴリーよりも、「新試験のみ」のカテゴリーの方が少ない。旧司法試験時代から受験している人は、それまでに投じてきた時間、資金、労力があまりに大きすぎるので、諦めきれないのです(※2)。それと比較すると、新司法試験しか受験経験のない人は、合格率の低い予備試験に回ってまで受験を続けようとは思わない人が多いのでしょう。その意味では、受験回数制限は、滞留者防止に一定の役割を果たしているといえるでしょう。
 それから、一貫して増加傾向にあるのが、「受験なし」のカテゴリーです。このカテゴリーは、新規参入者を示しています。新規参入者というと、大学生や法科大学院生がすぐに思いつきますが、前回の記事(「平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)でみたとおり、法科大学院生の受験生は減少しており、大学生も微増にとどまっています。そうすると、残る可能性は、社会人ということになる。前回の記事では、有職者の多くは、新規参入者ではないだろう、ということを説明しましたが、新規参入者も一定数は存在することがわかります(※3)。

 ※1 ロー経由だけではなく、予備ルートも考えられるのでは、と思うかもしれません。しかし、第1回予備試験が実施されたのが平成23年ですから、予備試験合格者で受験回数を使い切る人が生じるのは、今年の司法試験で不合格になった平成23年予備試験合格者だけです(そのような人は、少なくとも11人存在することがわかっています(「平成28年司法試験受験状況」))。ですから、今年の予備試験を受験している者で、予備ルートから新司法試験を受験して受験回数制限を使い切ったものは存在しません。

 ※2 ある程度以上高齢になってしまうと、公務員や民間企業の採用枠から外れてしまうということも、重要な要素です。受験を継続するか否かを考えるに当たっては、この辺りも考慮した上で、判断する必要があるでしょう。そうしないと、がむしゃらに受験を継続し、気が付いたら他の選択肢がなくなっていた、ということになりかねません。

 ※3 法科大学院生と大学生の受験者数を合わせると、4492人ですから、「受験なし」のカテゴリー全体の6560人からこれを差し引くと、2068人となります。仮に、これが全員社会人の新規参入者だと考えると、今年の有職者の受験者は3268人ですから、6割強が新規参入者だということになる。このように考えると、むしろ、有職者の受験生は、新規参入者の方が多数派だということになります。

 

2.今度は、最終合格者数をみていきます。以下は、直近5年の司法試験受験経験別の最終合格者数の推移です。

受験経験 平成24 平成25 平成26 平成27 平成28
受験なし 74 196 277 319 344
旧試験のみ 119 101 42 45 35
新試験のみ 17 15 11 10
両方受験 21 37 22 24 16

 合格しているのは、圧倒的に「受験なし」、すなわち、新規参入者であることがわかります。新規参入者には、大学生、法科大学院生だけでなく、社会人もいるわけですが、前回の記事(「平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)でみたとおり、最終合格者を職種別にみると、大学生が178人、法科大学院生が153人で、合わせて331人ですから、社会人の新規参入者は、せいぜい13人くらいしかいない、ということになります。若年化方策が、効果を発揮していることがわかります。

3.では、合格率はどうなっているか。まずは、短答合格率(受験者ベース)です。

受験経験 短答
合格率
受験なし 18.4%
旧試験のみ 28.1%
新試験のみ 33.0%
両方受験 43.5%

 短答は、受験経験を積むごとに、合格率が上がっていきます特に、新司法試験の経験があると、合格率が高くなっている。旧司法試験時代は、憲法と刑法は論理問題が多く、知識の比重が低かった(※4)ために、旧司法試験時代の経験は、新司法試験の受験経験よりも短答合格率への寄与度が低くなっているのでしょう。知識だけで勝負すると、旧司法試験と新司法試験の両方を経験した年配者が圧倒的な差で勝利します。仮に、知識だけで最終合格が決まる試験であれば、誰も新規参入をしたがらなくなるでしょう。そこで、論文段階で強力な若年化方策が必要とされるというわけです。

 ※4 当時の憲法、刑法の論理問題は、短答段階において知識のない者を受からせるための若年化方策でした。

 

4.さて、その論文合格率(短答合格者ベース)をみてみると、以下のようになっています。

受験経験 論文
合格率
受験なし 29.8%
旧試験のみ 4.8%
新試験のみ 8.1%
両方受験 6.2%

 短答で圧倒的な強さを見せた経験豊富な百戦錬磨の猛者達は、ここで壊滅します。一方で、短答で苦戦していた「受験なし」の新規参入者は、圧倒的な差を付けて受かっていくこれが若年化方策の効果であり、「論文に受かる人は、すぐに受かる」が「論文に受からない人は、何度受けても受からない」法則です。繰り返し説明しているとおり、この結果は、当局が意図的にそのような出題・採点をしているために、そうなっているのです。このことを知らないで、毎年がむしゃらに勉強しても、ますます、当局が落としたい人、受かりにくい人になってしまうだけです。逆に、当局の意図を逆手に取って、若手が書くような答案、すなわち、抽象論は極力省略する一方で、当てはめに入る前に規範を明示し、事実を問題文から丁寧に引用するということを強く意識した答案を書くようにすれば、勉強量は少なくても、受かってしまいます。ただし、そのためには、かなりの文字数を限られた時間で書き切る筆力が必要になります。これは、特に年配者に欠けている能力です。これを克服するには、文字を速く書く訓練をするしかありません。最低限、時間内に4頁びっしり書き切れる筆力を身に付ける。予備試験は、70分(実務基礎は90分)で4頁ですから、若手の上位者は平気で4頁をびっしり、それも、小さな字で一行35〜40文字くらいを書いてきます。法律の知識・理解よりも、筆力が合否を大きく左右するこのことをよく知った上で、来年に向けた学習計画を考える必要があります

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2016年11月12日

平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(4)

1.以下は、直近5年の職種別の受験者数の推移です。ただし、法務省の公表する資料において、「公務員」、「教職員」、「会社員」、「法律事務所事務員」、「塾教師」、「自営業」とされているカテゴリーは、まとめて「有職者」として表記し、「法科大学院以外大学院生」及び「その他」のカテゴリーは省略しています。なお、「無職」には、アルバイトを含みます。


(平成)
有職者 法科大学院生 大学生 無職
24 2571 526 1636 2122
25 2739 1456 2444 2198
26 2936 1846 2838 2298
27 3092 1710 2875 2233
28 3268 1611 2881 2265

 前々回の記事(「平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で、20代が減少傾向にあることを確認しました。職種別の受験者数でみると、それが法科大学院生の減少に対応していることがわかります。他方、大学生は昨年より6人増えています。もっとも、前々回の記事で確認したとおり、19歳以下の受験生が20人増えていることからすると、20代の大学生(概ね3年次から4年次)の受験は、むしろ減っていることになります。
 一貫して増加傾向にあるのが、有職者です。ただし、前回の記事(「平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)でみたとおり、30代後半から50代後半までの層は、苦節○○年という長期受験者である可能性が高い。したがって、ここでいう有職者も、社会人経験のある人が、ある日一念発起して予備試験の勉強を始めた、というよりは、司法試験に合格できずに就職したが、諦めきれずに予備試験を受けている、そういう人達であるとみた方がよさそうです。この層が増加しているのは、受験回数制限を使い切った後、就職して予備試験を受験している人や、旧司法試験が終了した時点で一度撤退したものの、予備試験の合格者数が思ったよりも多いことを知り、再度参入してきた人が増えているためでしょう。
 一方で、やや不思議な動きを示しているのが、無職です。昨年は減少したのに、今年はまた増加に転じている。これは、前々回の記事で説明した30代前半の動きに対応しています。すなわち、受験回数制限が5年5回に緩和されたために、一時的に受験回数を使い切る人が減少した。受験回数制限を使い切って予備に回る人は、無職(アルバイトを含む)であることが多いので、これが無職のカテゴリーの数字に反映されているというわけです。

2.では、最終合格者数でみると、どうか。以下は、直近5年の職種別の最終合格者数の推移です。


(平成)
有職者 法科大学院生 大学生 無職
24 42 61 69 41
25 38 162 107 36
26 38 165 114 34
27 54 137 156 35
28 39 153 178 31

 一貫して増加傾向にあるのが、大学生です。昨年に引き続き、ロー生を上回る合格者数になっています。一方で、受験者数が一貫して伸びていた有職者は、ほとんど横ばいです。無職も、横ばいか、やや減少傾向若年化方策が、うまく機能していることがわかります。

3.短答合格率をみてみましょう。以下は、今年の職種別の短答合格率(受験者ベース)です。

職種 受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
有職者 3268 724 22.1%
法科大学院生 1611 391 24.2%
大学生 2881 576 19.9%
無職 2265 631 27.8%

 短答は、勉強時間が長く確保できれば、受かりやすくなる。無職は、多くの場合、専業受験生です。したがって、最も多く勉強時間を確保できる。それが、短答合格率に反映されています。他方、勉強時間が最も少ないのは、大学生です。大学生は、短答では最も苦戦しているのです。このことは、若年化方策をとることなく、法律の知識で勝負がつく試験にした場合、専業受験生の無職が合格し、大学生は受からない試験になってしまうことを意味しています。

4.では、論文になると、どうなるか。以下は、今年の職種別の論文合格率(短答合格者ベース)です。

職種 短答
合格者数
論文
合格者数
論文
合格率
有職者 724 41 5.6%
法科大学院生 391 160 40.9%
大学生 576 186 32.2%
無職 631 37 5.8%

 年配者の多い無職や有職者を落とし、ロー生と大学生を受からせることに成功しています。これが、若年化方策の効果です。ただ、論文も全く法律の知識・理解が不要かといえば、そうではない。最低限の規範を覚え、どのような事案でどの規範を用いるべきか、規範に当てはまる事実はどれか、その程度の判断はできるようになっていなければなりませんその差が、ロー生と大学生の合格率の差として、表れているといえます。逆にいえば、その程度で十分であり、それ以上の学習をすれば、当局が落としたい受験者層になってしまいかねません。
 このように、ロー生や大学生は、特に対策を考えなくても、普通の感覚で受ければ、論文はクリアできます。ところが、社会人や無職の専業受験生は、法律の知識・理解が過剰になっているので、普通に受けると極端に受かりにくい。当サイトで繰り返し指摘している、「論文に受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則です。そのような人は、まず、勉強の範囲を規範部分に絞ることが必要です。その上で、当てはめに入る前に規範を明示する、事実は問題文から忠実に引用する、というスタイルを守った答案を書けるようにする。やろうと思えば簡単なことなのですが、これを実行できる人は、少ないのが現実です。障害になるのは、心理面の抵抗です。上記のような割り切った書き方は、今まで自分がやってきたこだわりと衝突する。「趣旨・本質に遡るんだ。いきなり規範なんて書きたくない。」、「自分は○○先生の連載を読んで、○○先生の考え方が正しいことを理解している。だから、その考え方で書きたい。」、「今まで勉強してきた深い理解を答案に表現したい。規範と事実だけを書くなんて我慢できない。」、「判例の規範は、実は間違っているんだ。そんな間違った規範は使いたくない。」、「問題文の事実をそのまま引くなんてバカみたいだ。そんなものは省略して、自分の言葉で事実の評価を書きたい。」、「コンパクトな答案の方が切れ味があると思う。自分は規範や事実を書き写すようなバカっぽい答案は書きたくない。」。このようなことは、長期間勉強した受験生なら、誰しも思うことです。これを捨てることは、今までの数年間(場合によっては数十年間)は何だったのか、ということになる。この未練が、とても大きな障害になってしまうのです。これを乗り越えることが、何より重要です。

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2016年11月09日

平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(3)

1.以下は、年齢層別の短答合格率(受験者ベース)です。

年齢層 短答
合格率
19歳以下 7.1%
20〜24歳 22.6%
25〜29歳 16.8%
30〜34歳 20.5%
35〜39歳 26.7%
40〜44歳 27.2%
45〜49歳 29.8%
50〜54歳 26.3%
55〜59歳 26.3%
60〜64歳 23.7%
65〜69歳 21.1%
70〜74歳 10.8%
75〜79歳 8.5%
80歳以上 0%

 当サイトでも、繰り返し説明しているとおり、短答は単純に知識で差が付くので、勉強量の多い年配者が有利です。それが、合格率にはっきり表れている。30代後半から50代後半までの年代は、全て25%を超える高い合格率です。トップの40代後半の世代は、3割近い合格率を誇っています。これに対し、20代前半は22%程度に過ぎません。このことは、単純に知識だけで勝負させてしまうと、「40代後半くらいまで勉強を続けた人が一番受かりやすい。」という怖い結果が出力されかねないことを示しています。同時に、30代後半から50代後半までの受験者のほとんどは、勉強期間が長い人達である。すなわち、30代、40代、50代になって初めて法曹を目指し始めた社会人ではなく、旧司法試験時代から、苦節10年、20年、30年と勉強を続けている人達である、ということを意味しています。旧司法試験時代に存在した滞留者問題は、解消されていないのです。若年化方策が必要とされる所以です。

2.これが、論文段階だとどうなるか。以下は、短答合格者ベースの年齢層別論文合格率です。

年齢層 論文
合格率
19歳以下 0%
20〜24歳 37.8%
25〜29歳 24.5%
30〜34歳 11.7%
35〜39歳 8.3%
40〜44歳 4.3%
45〜49歳 4.7%
50〜54歳 2.3%
55〜59歳 2.1%
60〜64歳 2.7%
65〜69歳 0%
70〜74歳 0%
75〜79歳 0%
80歳以上 ---

 短答段階では、その実力を見せつけていた30代後半以降の年配者は、壊滅しています。一方で、20代は圧倒的な合格率になっている。これが、前回の記事(「平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明した若年化方策の効果です。法律の知識・理解だけで勝負させてしまうと、40代、50代が有利になってしまう。「40代、50代になるまで勉強しないと受からない試験」など、誰も受けたくないでしょう。だから、そのような年代層が受からないような出題、採点をする。具体的には、長文の事例問題を出題し、規範と事実、当てはめ重視の採点をするということです。規範も、判例の規範であれば無条件に高い点を付けるが、学説だとかなり説得的な理由を付していなければ点を付けない。若手は、とにかく判例の規範を覚えるので精一杯です。しかし、勉強が進んでくると、判例の立場の理論的な問題点を指摘する学者の見解まで理解してしまいます。「そうか判例は間違いだったのか。」と、悪い意味で目から鱗が落ちる。こうして、年配者は、「間違った」判例ではなく、「正しい」学説を書こうとします。この傾向を逆手に取れば、若年化効果のある採点ができるというわけです。この採点方法は、「理論と実務の架橋という理念からすれば、まず判例の立場を答案に示すことが求められる。」という建前論によって、正当化することができる点でも、優れています。
 このような傾向は、若年化効果が薄れるまで続くでしょう。年配者の多数がこのことに気付いて、書き方を工夫してくるようになると、若年化効果が薄まってしまいます。その時には、また新しい方策を考えなければならなくなる。傾向変化が生じるのは、この時です。もっとも、これまでの結果をみる限り、年配者は、ほとんどこのことに気が付いていません。また、気が付いても、年配者は字を書く速度が遅いので、なかなか規範を明示し、事実を摘示して書き切ることができない。そういうことから、当分の間は、若年化効果は維持されるでしょう。したがって、この出題・採点傾向も、当分の間続くということです。
 予備試験の論文式試験の問題は、旧司法試験の問題に外見が似ています。しかし、旧司法試験時代と現在とでは、若年化方策が異なる旧司法試験時代は、比較的単純な基本重視で、とりあえず趣旨を書けば受かる、というものでした。だから、趣旨に遡る形式の予備校論証を貼っていれば、当てはめがスカスカでも受かっていたのです。これに対し、現在の予備試験は、規範の明示と事実の摘示に極端な配点を置く当てはめ重視です。ですから、論証を貼って当てはめがスカスカというのでは、危ない。今年の問題でいえば、その差が顕著に表れるのが、民訴と刑訴です。詳細は、以前の記事(「平成28年予備試験論文式民訴法参考答案」、「平成28年予備試験論文式刑訴法参考答案」)を参照して下さい。

3.このように、短答では知識重視の出題、採点をして高齢化させておいて、論文で若年化させる。現在は、そのような仕組みになっています。なぜ、短答段階でも若年化の方策を採らないのか、不思議に思う人もいるでしょう。かつての旧司法試験では、短答でも複雑なパズル問題を出題するなど、知識では解けない問題を出題して、若年化を図っていました。ところが、そのような手法は、見た目にも法律の知識・理解を問う気がないことがバレてしまう出題形式だったので、もはや法律の試験ではない、というまっとうな批判がなされました。しかも、短答段階で知識を問わなくなった結果、あまりにも知識のない者が合格してしまい、修習に支障が生じるという事態にもなりました(旧試験でも民法だけは知識重視の傾向が維持されたのは、これだけは譲れない一線だったからだと言われています。)。そして、そもそも、年配者も知識で解かないということに気付いてしまい、若年化効果が薄れてしまった。そこで、新司法試験では、そのような出題はしないこととされたのです。

 

新司法試験実施に係る研究調査会報告書(平成15年12月11日)より引用。太字強調は筆者。)

第4 短答式試験の在り方

1 出題の在り方

 (中略)

 基本的知識が体系的に理解されているかを客観的に判定するために,幅広い分野から基本的な問題を多数出題するものとし,過度に複雑な出題形式とならないように留意する

(引用終わり)

 

 このことは、毎年の考査委員会議でも、申し合わせ事項として確認されています。

 

(「司法試験における短答式試験の出題方針について」(平成27年11月18日司法試験考査委員会議申合せ事項)より引用。太字強調は筆者。)

 司法試験の短答式による筆記試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが,その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わないものとする。

(引用終わり)

 

 短答は、出題形式や採点方法に工夫の余地が少ないのに対し、論文は、採点をブラックボックスにできるので、工夫の余地が大きいのです。そして、現在の方策は、外見上、法律の知識・理解が問われているように見えるので、年配者も気が付きにくい。不合格になっても、来年に向けて法律の知識・理解を深めようと努力してくれれば、問題がないわけです。予備校も、今のところ、このことにほとんど気が付いていません。このことは、短答のパズル問題にいち早く予備校が対応したのとは対照的です。ですから、前記のとおり、現在の若年化方策は、当面の間、うまくいく。それはつまり、この傾向が変化しないということを意味しています。

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2016年11月07日

平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(2)

1.以下は、直近5年の年齢層別の受験者数の推移です。

年齢層 平成24 平成25 平成26 平成27 平成28
19歳以下 24 41 49 50 70
20〜24歳 1731 2894 3441 3486 3437
25〜29歳 700 1243 1503 1414 1373
30〜34歳 940 952 1045 938 998
35〜39歳 979 1028 991 974 987
40〜44歳 829 925 988 938 920
45〜49歳 678 702 776 831 852
50〜54歳 508 560 595 643 645
55〜59歳 327 362 398 459 528
60〜64歳 271 287 295 299 308
65〜69歳 108 126 163 193 222
70〜74歳 53 63 56 60 46
75〜79歳 25 29 35 31 47
80歳以上 10 12 12 18

 興味深いのは、20代の推移です。20代の受験者は、平成26年までは急増を続けていました。ところが、昨年になって、20代前半は微増、20代後半は減少に転じてしまいます。そして、今年は、ついに20代前半も減少に転じてしまいました。よく、「若い人がどんどん予備試験に流れていることが、法科大学院がうまくいかない原因である。」などと言われることがありますが、実際には、若手の予備試験受験者は減っているのです。このことは、法曹を目指す若者がローから予備試験に流れているのではなく、そもそも若者が法曹を志願しなくなったことを意味しています。ただし、19歳以下に限ってみると、昨年より20人増加しています。19歳以下の層は、まだ絶対数が少ないのですが、今後これが増えてくるようだと、「法曹を目指すなら、大学に入ってからでは遅い、高校生のうちから予備試験を目指して勉強を始めた方がよい。」という感覚になってくるかもしれません。全体的な若手の法曹志願者が減少する一方で、コアな法曹志願者の勉強開始時期が前倒しになっている。そんな状況がうかがわれる数字です。

2.現在のところ、予備試験受験者の主力は、20代です。20代は、今年の受験者全体の46%を占めている。その20代が、予備試験から遠ざかりつつあるわけですから、全体の受験者数も減少するのが自然です。ところが、受験者数全体でみると、昨年は、10334人。今年は10442人ですから、108人増えています。では、どこが増えているのか。昨年との増減を確認してみましょう。

年齢層 昨年 今年 前年比
増減
19歳以下 50 70 +20
20〜24歳 3486 3437 −49
25〜29歳 1414 1373 −41
30〜34歳 938 998 +60
35〜39歳 974 987 +13
40〜44歳 938 920 −18
45〜49歳 831 852 +21
50〜54歳 643 645 +2
55〜59歳 459 528 +69
60〜64歳 299 308 +9
65〜69歳 193 222 +29
70〜74歳 60 46 −14
75〜79歳 31 47 +16
80歳以上 18 −9

 20代を除けば、昨年より減った年齢層は、40代前半と70代前半だけで、それも、20代ほど大幅な減少にはなっていません。それ以外の年齢層は、いずれも受験者数が増加している。中でも、最も増加人数の多い年齢層は、50代後半です。その次が、30代前半。この2つの年齢層では、60人、69人という大幅な増加となっています。
 50代に関しては、50代後半だけでなく、50代前半も、これまで一貫して増加傾向でした。弁護士には定年がないので、定年後のキャリアの1つとして、予備試験を受験する人が増えているのかもしれません。
 他方、30代前半に関しては、昨年は100人以上の大幅な減少だったのに、今年は増加に転じている。少し奇妙な変動です。これは、受験回数制限の緩和が影響しているのでしょう。この30代前半の層は、受験回数制限を使い切って予備に回る人が多い年代です。受験回数制限が緩和されると、一時的に受験回数を使い切る人が減少します。その影響で、昨年は、受験者数が一時的に減少したのでしょう。今年の司法試験では、5回目の受験生247人中、合格したのは53人ですから、194人が受験回数を使い切っています。30代前半の受験生が来年以降も増加傾向となるか否かは、このうちのどの程度が撤退せずに予備に回るのかによることになります。

3.ここまでみてきたように、受験者数に着目すると、20代が減少し、30代以降は基本的に増加するという傾向でした。それでは、最終合格者数になるとどうなるか。以下は、昨年と今年の合格者数の比較表です。

年齢層 昨年 今年 前年比
増減
19歳以下 ---
20〜24歳 238 283 +45
25〜29歳 69 52 −17
30〜34歳 26 22 −4
35〜39歳 20 19 −1
40〜44歳 15 10 −5
45〜49歳 11 11
50〜54歳 11 −8
55〜59歳
60〜64歳 +2
65〜69歳 −1
70〜74歳 ---
75〜79歳 ---
80歳以上 ---

 20代前半だけが突出して増えています。60代前半も増えていますが、これは母数が少なすぎるので、誤差の範囲という感じです。他は、全ての年齢層で、合格者数が減少している。20代前半は、受験者数は減少しているが、その減少した受験生はどんどん受かっている他方で、30代前半や50代の受験者は増加しているが、受からない。これは、末期の旧司法試験に似ています。末期の旧司法試験では、新規参入の若手はとても少なかったのに、受かるのは、その若手ばかりでした。旧試験最後の論文が実施された平成22年度には、論文合格者に占める大学生の割合は、4割を超えたのでした(「平成22年度旧司法試験論文式試験の結果について」)。同じような傾向が、予備試験にも生じているということです。

4.どうして、このような現象が生じるのか。それは、司法試験委員会が、若手有利になるように出題及び採点を必死に工夫しているからです。普通に考えると、勉強量の多い年配者が有利で、勉強量の少ない若手は不利になる。しかし、10年以上受験を繰り返してようやく法曹になるというような制度では、合格後に活躍できる期間は限られてしまいますし、そもそも、そんなことでは、誰も司法試験を受けようとは思わなくなってしまいます。だから、普通に法律の知識・理解が反映されるような試験にするわけにはいかない。問題文や採点方法を工夫して、知識・理解が十分な年配者が不合格になり、知識・理解が不十分でも若ければ受かるようにしたい平成以降の司法試験の歴史は、ほぼこの努力の繰り返しでした。このことを、知らない人が多いのです。「司法試験は法律の知識・理解を試す試験なのだから、若ければ有利になるような試験であるはずがない。そんなものは陰謀論だ。」と思うかもしれません。しかし、これは国会でも明示的に議論されてきたことなのであって、決して荒唐無稽な陰謀論ではありません。今から25年前の時点で、既にこのことが議論されています。これは、当時、旧司法試験に合格枠制(合格者の一定数を受験回数3回以内の者から選抜する制度。いわゆる丙案。)に係る法改正について議論していたときのものです。この合格枠制は、受験回数が3回以内なら、知識・理解というレベルでは4回以上の受験者より劣っていても合格させようというもので、上記の「普通に法律の知識・理解が反映されるような試験にするわけにはいかない」という発想が如実に表れた制度でした。なお、この合格枠制の発想は、その後、新司法試験における受験回数制限へと形を変えて受け継がれていくことになります。

 

参院法務委員会平成03年04月16日より引用。太字強調は筆者。)

参考人(中坊公平君) この司法試験につきまして近時この試験に多数回受験の滞留現象という一種の病的な現象が発生し始めてまいりました。多数回受験の滞留現象と申しますのは、受験者の数が多いにかかわらず合格の数が余りにも少ないということから、合格水準に達しながらなお合格しない受験者が数多く滞留しておるということであります。この現象の結果は、合格平均年齢が現在では二十八歳を超え、また合格までの平均受験回数は七回に近い状態になってくることになりました。しかも、このような状態が長期間継続することによりまして大学卒業者が司法試験を敬遠することになり、出願者数も最近では減少傾向にあります。この結果、司法試験の本来の目的である幅広く多様な人材を得ること自体がまた困難になってきたという現象が発生してきたわけであります。

 (中略)

 先ほど言いましたような滞留現象というものがどうしても改善しなければ、…もっと考査委員が先ほどから言うように学識じゃなしに応用能力を本当に見られる、長期間要した者が有利にならないような問題の出題ができ、そしてまたその採点ができるというような体制に持っていかなければならない

 

政府委員(濱崎恭生君) 司法試験は、御案内のとおり、裁判官、検察官、弁護士となるための唯一の登竜門としての国家試験でございますが、最近といいますか昭和五十年ごろから急速に、合格までに極めて長期間の受験を要する状況になっております。その状態は大勢的には次第に進行しておりまして、今後放置すればますます進行するということが予想されるわけでございます。 具体的には、現在、合格者の平均受験回数が六回ないし七回。それに伴って合格者の平均年齢も二十八歳から二十九歳ということになっておりまして、二年間の修習を経て実務につくのは平均的に三十歳になってからという実情になってきているわけでございます。そのこと自体大変大きな問題でございますが、そういうことのために法曹となるにふさわしい大学法学部卒業者が最初から司法試験というものをあきらめてしまう、そんな難しい試験は最初からチャレンジしない、あるいは一、二回試験を受けてそれであきらめてしまうというような、いわゆる試験離れの状況を呈しております。これは法曹界に適材を吸引するという観点から大変大きな問題であろうと思っております。
 さらには、合格者の年齢がそういうことから総体的に高くなっていることによって、裁判官、検察官の任官希望者の数が十分に確保できないのではないかという懸念が次第に強くなってきているわけでございます。
 そういうことで、こういう状態は一刻も放置できない、何らかの改革を早急に実現しなければならないということで取り組んでまいったわけでございまして、今回の改正の目的を端的に申しますと、こうした現状を緊急に改善するために、法曹としての資質を有するより多くの人がもっと短期間の受験で合格することができる試験にしようということでございます。もっと短い期間で合格する可能性を高めるということが今回の改正の目的でございます。

 (中略)

 御指摘の合格枠制、若年者にげたを履かせるという御指摘でございました。これが短絡的な発想ではないか、あるいは便宜的ではないかという受け取り方をされがちでございますけれども、こういう改革案を必要とする理由については、先ほど来るる申し上げさせていただきました。やはり合格者を七百人程度に増加させるということを踏まえました上で、もう少し短い期間で合格する可能性を高めるという方策といたしましてはこういう方策をとるほかはない、こういう制度をとらなくてもそういう問題点が解消できるということならばそれにこしたことはないというふうに思っておりますが、この制度はすべての受験者にとってひとしく最初の受験から三年以内は合格しやすいという利益を与えるわけでございまして、決して試験の平等性を害するというものではないと思っております。

(引用終わり)

 

 上記の政府委員の発言で、「もう少し短い期間で合格する可能性を高めるという方策といたしましてはこういう方策をとるほかはない」とありますが、当時、既に、若手でも受かる試験にするための様々な方策が採られていました。その1つが、若手でも点が取れるような基本的な問題にする、ということでした。

 

参院法務委員会平成03年04月16日より引用。太字強調は筆者。)

政府委員(濱崎恭生君) 現在の試験問題の出題の方針につきましては、正しい解答を出すために必要な知識は大学の基本書などに共通して触れられている基礎的な知識に限る、そういう基礎的な知識をしっかり理解しておれば正解を得ることができる、そういう考え方で問題の作成に当たり、そのためのそういう問題づくりについて鋭意努力をしていただいておるところであるということをつけ加えさせていただきます。

(引用終わり)

 

 しかし、単純に考えればわかりますが、若手でも解けるように問題を簡単にすれば、勉強量の多い年配者は、さらに確実に正解してきます。したがって、そのような方策には限界がある。そのことは、当時の考査委員も認めていました。

 

衆院法務委員会平成03年03月19日鈴木重勝参考人の意見より引用。太字強調は筆者。)

 早稲田大学の鈴木と申します。・・・まず、司法試験が過酷だとか異常だとか言われるのは、本当に私ども身にしみて感じているのでありますけれども、何といっても五年も六年も受験勉強しなければ受からないということが、ひどいということよりも、私どもとしますと、本当にできる連中がかなり大勢いまして、それが横道にそれていかざるを得ないというところの方が一番深刻だったのです。
 だんだん申し上げますけれども、初めは試験問題の改革で何とかできないかということで司法試験管理委員会から私ども言われまして、本当はそれを言われるまでもなく私ども常々感じていましたから、何とか改善できないかということで、出題を、必ずしも知識の有無とか量によって左右されるような問題でなく、また採点結果もそれによって左右されないような問題をやったのですけれども、これは先生方ちょっとお考えいただけばわかるのですけれども、例えば三年生と四年生がいましてどっちがよくできるかといえば、これはもう四年生の方ができるに決まっているのです今度は四年生と三年も浪人した者とどっちができるかといえば、こっちの方ができるに決まっているのです。ですから、逆に言いますと、在学生でも十分な解答ができると思うような問題を一生懸命つくりましても、そうすると、それはその上の方の連中ができるに決まっておる。しかも、単にできるのじゃなくて、公平に見ましても緻密で大変行き届いた答案をつくり上げます。表現も的確です。ですから、これはどう考えても初めから軍配が決まっていた感じはするのです。
 ところが、それでは問題が特別そういうふうに難しいのかと申しますと、これははっきり申し上げますけれども、確かにそういう難しいという批判はございます。例えば裁判官でもあるいは弁護士でも、二度とおれたちはあの試験は受からぬよ、こう言うのですけれども、それはもう大分たたれたからそういうことなんでありまして、現役の学生、現場の受けている学生にとりましては、そんな無理のないスタンダードの問題なんですね。どのくらいスタンダードかと申し上げますと、例えば、まだことしは始まっておりませんけれども、ことし問題が出ます。そうしますと、ある科目の試験問題、大体二問でできておりますから、二問持たせまして、そして基本参考書一冊持たせます。学校で三年、四年ぐらいの、二年間ぐらい終わった連中に基本参考書一冊持たせて、そして一室に閉じ込めて解答してみろとやります。そうすると、ほぼ正解というか、合格答案がほとんど書ける状況なんです。ですから、私ども決して問題が特別難しいとは思っていないわけでありますけれども、やはり長年やっていた学生、いわゆるベテランの受験生はそこのところは大変心得ておりまして、合格できるような答案を物の見事につくり上げるのです。
 その秘密は、見てみますと、大体長年、五年でも六年でもやっている連中は、もちろんうちにいるだけじゃなくて、さっきから何遍も言っておりますように、予備校へ参ります。そうしますと、模擬試験とか答案練習という会がございます。そこで、私どもがどんなに工夫しても、その問題と同じ、あるいは類似の問題を既に練習しているのですね。例えば五年、六年たちました合格者で、模擬試験で書かなかった問題がないと言われるくらい既に書いているわけです。ですから、これはよくできるのは当たり前。しかも、それは解説つきで添削もしてもらっていますから。ところが、そうすると現役の方はどうかといいますと、それほど経験も知識もありませんから、試験場で初めてその問題と直面して、そもそも乏しい知識を全知全能を絞ってやるわけですけれども、やはりこれは知れているものです。差が出てくるという、初めから勝負が決まっているという感じがします。
 こういうところから、私ども何とかできないか、試験の出題とか採点でできないかと思ったのでありますけれども、どうもそれには限界があるということがだんだんわかってきました。時には私どもちょっと絶望していた時期もありますけれども、何とかならないかということで、試験問題もだめ、それから採点の方もうまくいかない・・・(後略)。

(引用終わり)

 

 その後、平成10年以降になってくると、単に簡単な問題を出す、というのではなく、より新たな試みがなされました。それは、「大学受験の国語のような、知識で差が付かないような問題」を出す、ということです。これが最も顕著だったのは、短答式試験の穴埋め、並替え問題です。ほとんど法律の知識がなくても、文章を読んで意味が通るように並び替えれば正解になる。この種の問題の特徴は、知識で解こうとすると、解けない、ということでした。よく勉強し、知識・理解の豊富な年配者は、知識で解こうとするので、解けない。それに対し、知識の乏しい若手は、その場で文章の辻褄が合うようにするにはどうすればよいか(例えば、「甲の○○という行為」という文言を含む文章と、「甲の当該行為」という文言を含む文章であれば、前者が先で後者が後に来るように並び替えるべきことがわかる。)、という目で問題文を読むため、スラスラ解ける。このようにして、法律の知識・理解の豊富な年配者を落とし、法律の知識・理解の乏しい若手を受からせることに、一時的に成功したのでした。しかし、そのような問題は、「知識で解かない」ということがわかってしまえば、年配者でも解けるようになってしまいます。そのため、この「大学受験の国語のような問題」は、すぐに若手優遇の効果を失ってしまったのです。

 

衆院法務委員会平成13年06月20日佐藤幸治参考人の意見より引用。太字強調は筆者。)

 私も、九年間司法試験委員をやりました。最初のころは、できるだけ暗記に頼らないようにということで、私がなったとき問題を工夫したことがあります、そのときの皆さんで相談して。そうしたら、国語の問題のようだといって御批判を受けたことがありました。しかし、それに対してまたすぐ、数年たちますと、それに対応する対応策が講じられて、トレーニングをするようになりましたその効果はだんだん薄れてまいりました
 申し上げたいのは、試験を一発の試験だけで決めようとすると、試験の内容をどのように変えても限界があるということを申し上げたいわけです。

(引用終わり)

 

 このように、司法試験の歴史は、「法律の知識・理解の豊富な年配者を落とし、法律の知識・理解の乏しい若手を受からせる」ための方策を一生懸命考えては、挫折してきた、という歴史だったのです。法律の知識・理解を試す試験において、法律の知識・理解にかかわらない結果を出力させようという試みですから、少し考えれば挫折するのは当然の帰結でした。
 そして、法科大学院制度と受験回数制限が、最後の切り札として、採用された。法科大学院に通う人しか受験させなければ、母数が減ります。そして、受験回数制限をかければ、年配者は退出していく。これで、本来であれば、滞留による高齢化問題は解消するはずでした。ところが、様々な事情で予備試験が残ってしまい、法科大学院に通わない人も受験でき、しかも、受験回数制限によって一度受験資格を失っても、なお予備試験ルートで受験できるようになってしまいました。そのため、滞留問題は、解消されなかったのです。しかも、近時、受験回数制限が5年5回に緩和されたため、この滞留問題は、深刻化してきていたのでした。
 以上のような状況は、新しい若手優遇策を必要とします。そこで、新司法試験になって採用された、新しい若手優遇策が、長文の事例を用いた「規範と当てはめ」重視の論文試験の出題及び採点です。法律の知識・理解の乏しい若手は、規範を明示するので精一杯です。ならば、そこに大きな配点をおけば、若手も点が取れる。他方、法律の知識・理解の豊富な年配者は、なぜそのような規範を用いるのか、制度趣旨は何か、という抽象論に至るまでよく知っていますから、これを書きたがりますならば、そこには大きな配点を与えないようにすればよい。また、法律の知識・理解の乏しい若手は、頭の中にある知識・理解が乏しいので、現場で目の前にある問題文を使おうとする。そのため、若手はとにかく問題文を丁寧に引用する傾向がある。これに対し、法律の知識・理解の豊富な年配者は、事実の持つ意味付け(評価)を重視し、問題文の事実自体の引用を省略して、評価から先に書こうとしますならば、単純な事実の引用に重い配点を置き、事実の評価は加点事由程度にしてしまえばよいこの方法は、「実務と理論の架橋という新制度においては、規範を具体的事実に当てはめるという法的三段論法が特に重要である。したがって、規範の理由付けや事実の評価よりも、規範の明示と具体的事実の摘示に極端な配点を置くべきだ。」という建前論によって正当化できるという点においても、優れていますしかも、おそらくこれは考査委員自身も気が付いていないようですが、若手は字を書く速度が早いため、事実の摘示をこなせるのに対し、年配者は字を書く速度が遅いため、配点の高い事実の摘示ができないという強力な若年化効果もありました。この方法論は、司法試験の論文における顕著な若返りの傾向として、かなりの成果を挙げています(「平成28年司法試験の結果について(15)」)。そして、この方法論は、近時の予備試験でも使われている。そのことは、予備試験の結果に表れています。論文の学習をするに当たっては、この点を意識しておく必要があります。がむしゃらに勉強して、法律の知識・理解を深めることは、かえって当局が落とそうとしている人物像に当てはまってしまうということです。法律の知識・理解は、規範と、その規範を使うのはどのような場合かを的確に把握できる程度で十分です。後は、規範の明示と事実の摘示というスタイルで最後まで書き切る筆力を身に付ける。司法試験も予備試験も、この点は変わりません。

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2016年11月05日

平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(1)

1.平成28年予備試験口述試験の結果が公表されました。合格点は、これまでと同じ119点最終合格者数は、405人でした。昨年の最終合格者数394人と比べると、11人の増加ということになります。 最終合格者数が400人を上回ったのは、今年が初めてのことです。

2.今年の口述試験の受験者合格率は、405÷429≒94.40%でした。以下は、これまでの推移をまとめたものです。

 年
(平成) 
受験者数 合格者数 受験者
合格率
前年比
23 122 116 95.08% ---
24 233 219 93.99% −1.09%
25 379 351 92.61% −1.38%
26 391 356 91.04% −1.57%
27 427 394 92.27% +1.23%
28 429 405 94.40% +2.13%

 平成26年まで低下を続けてきた合格率が、昨年は上昇に転じ、今年は増加幅を広げながら上昇を続けました。以前にも説明したとおり、口述試験の理論的な合格率は、93.75%です(「平成28年予備試験論文式試験の結果について(4)」)。今年は、それをやや上回る数字になっています。ですから、当面は58点以下が付く可能性を考える必要はないでしょう。

2.以下は、年代別の口述合格率(論文合格者ベース)の推移です。


(平成)
20代 30代 40代 50代
以降
23 96.0% 94.2% 87.5% 100%
24 99.2% 91.8% 81.8% 83.3%
25 95.0% 93.4% 75.8% 64.2%
26 92.6% 83.9% 86.2% 87.5%
27 93.0% 92.0% 83.8% 88.2%
28 95.4% 89.1% 91.3% 88.8%

 確立している傾向は、20代が常にトップだということです。口述も、基本的には若手有利といえるでしょう。もっとも、30代以降になると、年によってバラ付きが出てきます。また、年代ごとの合格率の差も、そこまで大きくはありません。最も合格率の高い20代でも、今年は16人落ちています。ですから、論文のような圧倒的な差があるというわけではありません。その意味では、年配者だからといって、特別な対策を考える必要はないだろうと思います。

3.以下は、予備試験の最終合格者の平均年齢の推移です。


(平成)
最終合格者
平均年齢
23 31.57
24 30.31
25 27.66
26 27.21
27 27.36
28 26.16

 平成24年から平成25年にかけて一気に若年化が進み、昨年までは横ばい。そして、今年はさらに1歳以上若年化しています。平成23年及び平成24年は、メインの受験生が旧司法試験組でした。それが、平成25年からロー生が本格的に参入するようになり、劇的に若年化が進んだのです。では、今年の若年化は、何が原因なのか。それは、大学生の増加です。以下は、最終合格者全体に占める大学在学中及び法科大学院在学中の合格者の割合の推移です。


(平成)
大学在学中 法科大学院在学中
23 33.6% 5.1%
24 31.5% 27.8%
25 30.4% 46.7%
26 32.0% 47.1%
27 39.5% 35.0%
28 44.1% 38.0%

 大学在学中の合格者の割合が、ついに4割を超えてきました。合格者の中核層がロー生から大学生に入れ替わったことで、更なる若年化が生じているのです。法科大学院の定員削減の影響で、ロー生の母数が減ってきていることも、この傾向に拍車を掛けています。そして、大学在学中とロー在学中を合わせると、82.1%。8割以上を、大学生とロー生が占めています。これが、現在の予備試験の実態です。

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2016年10月14日

平成28年予備試験論文式試験の結果について(5)

1.前回の記事(「平成28年予備試験論文式試験の結果について(4)」)では、口述試験合格のための基本戦略が、民事・刑事の両方で失敗をしないことである、ということを説明しました。より具体的には、民事・刑事の両方で59点を取らない。すなわち、両方とも下位4分の1(25%)に入ってしまうという事態を避けるということです。これは、受験生の感覚からすると、そう容易なことではありません。口述受験者は、全員論文合格者です。ですから、皆、それなりに実力がある。油断していると、下位4分の1にすぐ入ってしまいます。これが、2日続くと不合格になる。そう考えると、9割以上という口述の合格率の割には、高いハードルのように感じられるでしょう。
 しかも、前回紹介した口述の採点における得点分布は、どうやら考査委員(主査、副査の1組)ごとに考慮するようです。より具体的にいえば、各試験室ごと、大広間の待機室で言えば、椅子に座る列ごとの分布だということです。つまり、その列で下位4分の1に入ってしまうと、59点になってしまう。そのため、自分の列にとんでもない受け答えをする人が一定数いてくれれば助かるのですが、そうでない場合には、それほど問題のない受け答えだったのに、なぜか59点になってしまった、ということが生じるわけです。今年で言えば、論文合格者は429人いますから、概ね100人強が59点を取ることになる。とんでもない受け答えをする人が100人強もいてくれるのか。そう考えると、不運にも普通の受け答えだったのに59点になる人が、それなりの数生じるだろうということがわかります。その不運が2日続けば不合格。これが、口述試験の怖さです。 

2.そういうわけで、合格率が非常に高い試験であるにもかかわらず、口述に確実に受かるというのは、実は非常に難しい。実際には、なるべく問題のない受け答えをして、後は他の人が崩れるのを祈るしかありません。ですから、まずは、自分が変な受け答えをして崩れてしまわないようにする、ということが、具体的な合格のための戦術ということになります。

3.そこで、口述でやってはいけない、とんでもない受け答えの例を、いくつか紹介しましょう。

(1) まず、基本的なコミュニケーションができない状態に陥ってしまうことです。例えば、考査委員の追及に腹を立てて口論になってしまったり、どう答えて良いかわからなくなって長時間沈黙して何も答えられなくなってしまう、あるいは、ショックで泣き出してしまったりする、というような状態です。考査委員によっては、かなり辛辣なことを言ってくる場合がありますが、最後まで落ち着いて答えることが大事です。
 特に、自分の頭の中で迷って考えていると、自分では意識していなくても、実際には長時間の沈黙になってしまっている場合があります。なるべく自分の頭の中で考え込むのではなく、その中身をぶつぶつ口に出してつぶやいてみる。例えば、「えー確かに○○とも考えられるのですがーそうすると××という問題も生じるように思いますので…一概に○○とも言い切れないような…えー」という感じです。そうすると、「そうだね。じゃあさ、まずは××の問題は置いておいて、君が○○と考えた理由は何ですか?」という感じで話がうまく進むことが多いです。単に黙っていても、このような展開になることはありません。

(2) もう1つは、最初の基本的な質問で長時間つまずいてしまうことです。これは、案外やってしまうものです。試験時間は大体決まっていますから、最初の質問で長時間を費やしてしまうと、ほとんどの場合、考査委員の想定する質問をこなせなくなります。しかも、最初に考査委員の印象を悪くするので、その後の質問でも、本当にわかっているのかを確認するために、スムーズな人にはしないような確認の質問をする必要が出てきます。これで、ますます後の質問に到達しにくくなる。これが、トータルでは意外に大きなマイナスになるのです。
 これを避けるには、最初の考査委員の質問をよく聞いて、落ち着いて答えることが大事です。緊張して、あまり理解せずに答えてしまい、質問と噛み合わずに長引く、ということがあったりします。考査委員の方で受験生が質問の意味を誤解しているとわかってもらえたときは、「君は、○○という意味で考えたのかな?そうじゃなくて、…という意味で質問してるんだよね。」と訂正してもらえることがあるのですが、考査委員に誤解を気付いてもらえず、単に基本的な知識が欠けている、と判断されてしまう場合も、よくあります。事案の書かれたパネルなどが机上に置かれていて、最初にそれを見て事案を確認してから答える場合がありますが、これはきちんと頭に入ってくるまで、落ち着いてよく読みましょう最初の事案の把握が間違っていると、後のやり取りが全部噛み合わなくなるので、特に危険です。
 質問がよく聞き取れなかったときは、聞き返しても構いません。これは最初の質問だけに限りませんが、質問の趣旨をよく理解してから、解答するのが鉄則です。例えば、「採り得る手段は何かありますか?」と問われて、何のことだかわからない場合には、黙ってしまうのではなく、「訴訟上の手段でしょうか、それとも、保全の手段・・・」というように大雑把に趣旨を確認する質問をするのが賢い対応です。それで、「まずは訴訟上の手段から答えてみてもらえますか。」という応答をもらえば、随分答えやすくなったりするものです。ただし、単にオウム返しに質問をするのはダメです。例えば、「採り得る手段は何かありますか?」と問われて、「何か手段があるんですか?」などと聞き返すのでは、「私がそれを聞いているんですよ(怒)!」という反応が返ってくるだけでしょう。これは、考査委員の印象を悪くするだけなので、やってはいけません。
 質問の趣旨がわかりにくい問いとして、「それを何という?」とか「それって何ていうんだっけ?」という問い方があります。こういう場合は、大体はキーワードを聞いています。これまでに説明したことも含めて、具体例を示しておきましょう。このようなイメージです。

主査「逮捕状を示さないで逮捕できる場合はありますか?」

受験生「えーと、条文が認めている場合ですか?それとも、解釈上の…」 ←質問の趣旨を確認する。

主査「うん、解釈上の例外も考えられるよね。でも、ここでは条文が認めている場合を答えて下さい。」

受験生「はい。逮捕状を所持していない場合で急速を要するときは、被疑事実の要旨と逮捕状が発せられている旨を被疑者に告げて逮捕できます。」

(副査がうなずいて○を付ける動作) ←副査は受験生の回答の適否を記録する動作をすることが多い。

主査「何条に書いてありますか?」

受験生「えー…確か…200条辺りに…」 ←わからなくても、沈黙せずにとりあえずわかる範囲で答える。

主査「うん。じゃあ法文で確認していいよ。」 ←こう言われたら指示に従う。

受験生「はい、失礼します。…(法文を見る)…はい、201条2項で準用する73条3項です。 」

主査「それなんていうか知ってる?」

受験生「えっ?えーと…逮捕状による逮捕だから通常逮捕…」 ←わからなくても、思いついたことをとりあえず言う。

主査「いやいや(笑)。そうじゃなくて、今、君が言った例外的な場合ね。」

受験生「えーと…それはこの例外的な場合を指す名称ということですか?」 ←質問の趣旨を確認する。

主査「そうそう。何ていうんだっけ?今、君が言ったように、緊急時に逮捕状を執行する方法のことなんだけど?」 ←黙っていないで発言するとこのような答えに近いヒントがもらえる。

受験生「あっ、緊急執行です。」

主査「そうだね。」 (副査がうなずいて○を付ける動作)

 

(3) それから、「法曹としてこの人は大丈夫なのか?」という疑念を抱かせる受け答えをしてしまう場合です。冒頭に述べたように、口述は、「不適格者を落とす」試験です。ペーパーでは見ることのできない欠陥のありそうな人は、低い点を付ける。ただ、口述は極度に緊張していますし、とっさのやり取りが続きますから、普通の人でもうっかりやってしまうことがあります。

ア.注意したいポイントの1つに、撤回があります。口述では、間違いに気付いた時点で、「先ほどの○○という答えは撤回して、××と考えます。」というように撤回することが可能です。この撤回をどの程度使うか、これを誤ると、下位4分の1に入りやすくなります。
 極端な2つの例を挙げましょう。1つは、頑なに撤回しないケースです。考査委員は、受験生が間違ったことを言うと、その問題点を指摘して、暗に撤回を促します。ところが、考査委員の批判を論破してやろうとして、頑なに撤回しない。そういう人は、法曹として問題があると評価されて、低い点を付けられてしまうわけです。そこまではいかなくても、撤回を促すやり取りで時間をロスするので、予定した質問をこなせなくなってしまいます。撤回すると、評価が下がるのではないか、と考えて撤回しようとしない人もいるようですが、誤りに気が付いたなら、素直に撤回すべきです。それから、必ずしも間違いではないが、その後の問いが判例などの特定の見解(ときにその考査委員の見解であることもあるようです)をベースにして作成されている場合には、とりあえずその見解に誘導しようとしますその際、自説を頑なに曲げないと、その後の質問に行くことができません。最終的には、「君はどうしてもそう考えるのね(笑)。まあ、それはとりあえずここでは置いておいて、ここから先は○○という考え方で考えてみてください。」と強引に次の質問に行く場合もありますが、かなりの時間をロスすることになりますし、考査委員の印象も悪くなります。
 もう1つの例は、逆に安易に撤回を繰り返すケースです。考査委員は、受験生が正しいことを言っていても、本当に理解しているかを試すために、敢えて、「本当に?でもそれじゃ○○でおかしいんじゃないの?」などと言ってきたりします。これを安易に撤回のサインと考えて撤回すると、かえって印象を悪くする(口述用語で、「泥船」(乗ると沈む誘導の意)などと言われます。)。撤回した後に、さらに「え?撤回するの?でも、それじゃ××じゃないの?」と言われて、さらに撤回したりすると、危険です。撤回を撤回するというのは、基本的にNGだと思っておいた方がよいでしょう。ですから、最初に撤回するときは、慎重に考えてからやるべきです。難しいのは、上記の撤回を促す質問と、本当に理解しているかを試す質問のどちらかを判断するにはどうしたらよいかです。基本的には、撤回を促す場合には、考査委員の質問に素直に答えると、自分の前の解答が誤っていたことに自然に気付くことができるようになっています。自分で気付いた時点で、撤回すれば足りるでしょう。また、撤回を促す場合は、何度も執拗に言って来る場合が多いです。用意した次の質問に行く前提として、正しい結論を導く必要があったりするからです。ですから、何度か抵抗してみて、それでも執拗に言ってくるようなら、撤回を考えるという感覚でよいのだろうと思います。間違っても、考査委員を論破してやろう、などと思わないことです。

イ.もう1つ、嘘を付かない、ということがあります。そんなことする訳ないだろうと思うかもしれませんが、とっさにやってしまうことがあるものです。一番よくあるのは、自信満々に間違いを答えるという場合です。例えば、「判例は肯定していますか?」、「はい。肯定しています。」、「え?本当に?」「はい。判例は肯定説に立っています。」、「いやいや・・違うでしょ・・判例は否定説だから、後で確認しといて。」というような受け答えです。これは、かなり危険です。自信がない場合は、自信がなさそうに、「判例は肯定説ではないかと思うのですが・・・」くらいにしておいた方がよい。それだと突っ込まれやすいのではないかと思うかもしれません。もちろんそうなのですが、堂々と間違えを言うよりは、突っ込まれた後に誘導に乗って訂正する方が安全です。
 他にも、「類似の事案の判例は知っていますか」と問われて、「いいえ」と答えるのはマズいと思い、とっさに「知っています」と断言する。しかし、「じゃあどういう判示だったか言ってみて」と問われて全然答えられない。こういった対応は、ついうっかりやってしまいかねない、危ない対応です。
 それから、法文絡みで嘘を付いてしまうことがあるようです。法文は、試験室の机上に置いてありますが、勝手に見ることはできません。見たい時に、考査委員に「法文を見てもよろしいでしょうか。」と一言断ってから見ます。ところが、法文を見ていても、うまく見つけられないことがある。そんなときに、時間がかかっているので焦ってしまうからか、法文でまだ条文を確かめてもいないのに、適当に答えてしまったりする人がいるようです。考査委員に「ちゃんと条文確認した?」と言われて、とっさに「はい」などと即答してしまうと、印象は相当悪くなります。基本的に、自分から法文を見るのは、どの辺りの条文をみればよいかがわかっている場合にするべきです。よくわからないからとりあえず法文を見る、というのは、上記のような事態になりやすいだけでなく、無駄に時間をロスすることが多いので、避けるべきでしょう。
 逆に、頑なに法文を見ないという人もいるようです。知識を試されているので、法文を見たら評価が下がる、という強迫観念から、そのような対応をしてしまうのかもしれませんが、かえって考査委員に「この人は大丈夫か?」という疑いを抱かせてしまいます。特に、考査委員の方から、「法文で確認しても構いませんよ。」と言ってくる場合には、素直に従うべきです。「いえ、見なくても答えられますから。」などと抵抗するのは、とても危険な態度です。

ウ.それから、特に若い人は、ふざけた受け答えをしない、ということに気を付けたいところです。若い人の中には、コミュニケーション能力というものをやや履き違えて、何か冗談を言ったり、誤魔化したりするのがコミュニケーション能力の高さをアピールすることに繋がると考えているのか、あるいは、余裕があるところを見せようとしているのか、ふざけた応対をする人がいるようです。例えば、「甲は、乙に対して、どのような手段をとることが考えられますか?」、「そーですねー、私なら乙の家に殴り込みに行きます!(笑)」、「あっこれは違いますよねー(笑)。アハハすいません。」というような受け答えです。これはもう完全にNGです。ごく一部だとは思いますが、間違っても受けを取ってコミュニケーションを円滑にしようなどとは思わないことです。
 また、これは若い人に限りませんが、ピンチになるとつい笑って誤魔化そうとしてしまう人や、緊張するとなぜか変なタイミングで笑ってしまう人がいます。これは、見ている側に違和感を感じさせます。心当たりのある人は、意識して試験中はそうならないように気を付けるべきでしょう。

エ.後は、問われたことだけに端的に答える、ということでしょう。聞かれてもいないことを延々と話すようでは、「大丈夫か」と思われます。それだけでなく、時間をロスするので、後の質問ができなくなってしまいます。問いに対しては、まずは結論だけを答える。理由は、「なぜそう考えるのですか。」と言われてから答えれば足ります
 もちろん、端的といっても、単に結論部分だけ言い放つという意味ではありません。基本的なことではありますが、「はい」、「いいえ」で答えられる質問、例えば、「甲は乙に対し、損害賠償請求をすることはできますか?」という問いであれば、単に「はい」、「いいえ」だけでなく、「はい、できます。」、「いいえ、できません。」という感じで答える。「はい」、「いいえ」ではなく、内容的なことを答える場合、例えば、「甲のとりうる手段として何が考えられますか?」というような場合でも、まずは、「はい」と一呼吸置くのが自然です。「はい、乙に対する債権を自働債権として相殺する手段が考えられます。」という感じです。ちょっとしたことですが、こういったことでも、考査委員の受ける印象は違います。

4.以上のようなポイントに引っかからないためには、最低限の知識が必要です。沈黙してしまったり、嘘を付いてしまったり、問われていないことを延々と話してしまったりするのは、考査委員の質問に対する端的な答えがパッと頭に浮かんでこないからです。端的な解答が答えられれば、「そうだね」の一言で次の質問に行くことができることが多いでしょう(副査が「ウンウン」とうなずくのも、即答できた場合の特徴です)。色々と揺さぶられたり、誘導されたりするのは、微妙な解答をしたときなのです。また、最低限の知識がないと、誘導されても、その意味を理解できないでしょう。
 とはいえ、残された期間で確認できる知識には、限りがあります。実体法は、論文の学習範囲と重なっていますから、これまでの学習で何とか対応できます。ですから、優先順位は低いと考えてよいでしょう。他方、民事の執行・保全や、刑事の刑事訴訟規則の条文などは、これまで全く勉強したことがない、というレベルの人も結構いると思います。執行・保全については、どのような場合に、どのような手段を用いるのかといった制度の概略だけでも知っておく。刑事訴訟規則については、一度、全体を素読しておくとよいでしょう。具体的に内容を挙げられなくても、「えーと・・それは規則に条文があったと思いますが・・」まで答えられれば、「君が言いたいのは○○条だね。法文で確認してみて。」などと、考査委員から答えに近いヒントをもらえることが多いでしょう。
 また、口述では、条文番号が問われる場合がよくあります。基本的な条文については、何条か答えられるようにしておくと楽です。ただ、これも条文番号を答えられないからアウト、というわけではありません。わからない場合は、「おそらく○○条辺りだと思うのですが・・」と答えて、場合によっては法文で確認すれば足りると思います。「これくらいは法文を見なくても答えられるようにしといてね。」と嫌味を言われる場合もあるでしょうが、合否に直結するものではありませんから、気にしないことです。ですから、条文番号を覚えることに、それほど神経質になる必要はないでしょう。それから、法曹倫理は意外とよく問われます。ただ、付随的に最後にちょっと聞いてみる、という程度のものですから、弁護士法や弁護士職務基本規程を一度素読しておくくらいで十分でしょう。
 あとは、口述の雰囲気を知るという意味で、予備校等が配布している口述再現集を入手できれば、ざっと目を通しておくとよいと思います。ただ、口述再現は、文章化する際に、どうしても実際のやり取りより整然としたものになりがちです。しどろもどろだった所も、即答したように読めるようになっています。そのため、読んでいてかえってプレッシャーになることもあります。その点には、やや注意が必要でしょう。回答の内容を参考にするというよりは、なんとなく雰囲気を知るという程度のものとして、軽く目を通せば足りるのではないかと思います。

5.試験会場では、試験開始の順番によって随分待たされることがあります。当日は、待ち時間に確認する教材を用意しておいた方がよいでしょう。電子機器は使用できないので、普段タブレットなどで学習している人は、注意する必要があります。また、午前の人は、試験が終わっても午後の人が入場するまで会場から出ることができません初日に午前の時間になった人は、翌日用の教材も用意しておいた方がよいと思います。何を持って行っていいかよくわからない、という人は、六法を持って行くとよいでしょう。前にも触れたとおり、口述では、条文番号や条文の文言など、条文の知識が問われることがよくあります。また、試験中に法文を確認する場合に、素早く確認するためには、どの辺りに探したい条文があるかを把握しておく必要がある。直前に条文を素読するのは、そのような場合の対策として、効果的なのです。口述の時に用いる法文は、論文の際に用いる法文と同じはずですから、論文終了後に持ち帰ったものを持参するのもよいでしょう。待ち時間が数時間に及ぶ場合、仕方なく六法だけを延々眺めていたりすることになりますが、改めて条文をじっくり読み直してみると、意外な発見があったりします。この時に発見した条文の知識は、意外と忘れません。「この条文は口述の試験会場で初めて発見したんだよな。」という形で、何年経っても記憶に残っていたりするものです。極度の緊張感がそうさせるのでしょう。また、試験会場付近では、予備校が確認用の教材を配布していることもあります。役に立つかどうかは見てみないとわかりませんが、待ち時間が長い場合には、意外と役に立つ場合もあります。とりあえず、もらっておくとよいでしょう。
 なお、当日の服装については、特に制限はありません。ただ、圧倒的多数の受験生がスーツを着用して来ます。その中で、自分だけ私服だったりすると、それだけで目立ってしまいます。口述試験では、「目立たずにその他大勢に紛れること」が重要ですから、これはあまり得策とはいえません。それから、精神的にも、「自分だけ私服」というのは、落ち着かない気持ちになりがちなので、良くないでしょう。ですから、スーツを着用して臨むのが基本だと思います。

6.現在の司法試験には、口述試験はありません。いわば、口述試験は予備試験受験生だけに受験を許された特権ともいえます。考査委員とあれだけの緊張感の中で受け答えをする機会は、そうそうあるものではありません。試験開始まで会場で待っている時間も含め、日常普段では体験できない異常な雰囲気ですが、周囲の緊張感に飲まれてしまわないように、貴重な経験を楽しむくらいの余裕をもって試験に臨みたいものです。

posted by studyweb5 at 19:55| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする


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