2018年11月17日

平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(5)

1 以下は、直近5年の司法試験受験経験別の受験者数の推移です。

受験経験 平成26 平成27 平成28 平成29 平成30
受験なし 6025 6384 6560 6729 7098
旧試験のみ 3358 3095 2779 2740 2670
新試験のみ 385 317 409 365 428
両方受験 579 538 694 909 940

 一貫して減少しているのが、「旧試験のみ」のカテゴリーです。旧司法試験はもう実施されていないわけですから、これは当然といえるでしょう。とはいえ、旧司法試験から予備に転じて、ずっと受け続けている人が、まだ2670人もいる。旧司法試験最後の論文試験が実施されたのが、平成22年ですから、もう既にそれから8年が経過しています。これが、長年憂慮されてきた、滞留者問題です。
 滞留者問題という意味では、「両方受験」のカテゴリーが増加を続けている点が、怖いと感じさせます。このカテゴリーは、旧司法試験を受験していたが、合格できずに法科大学院に入学し(※1)、新司法試験を受けたが、それでも合格できずに受験回数を使い切ってしまい、予備試験に流れた、という人達です。平成27年は受験回数制限緩和の影響で一時的に減少していましたが、平成28年以降からまた増加傾向となっています。このような人達がこれまでに費やしてきた資金、時間、労力は、莫大なものがあります。受験を諦めることは、それらが完全に無駄になってしまうことを意味する。だから、やめられない。これが、滞留者の陥りがちな心理状態です(※2)。
 ※1 厳密には、旧司法試験受験経験者が予備試験に合格し、新司法試験を受験したが、受験回数を使い切った、という場合も含まれます。
 ※2 ある程度以上高齢になってしまうと、公務員や民間企業の採用枠から外れてしまうということも、重要な要素です。受験を継続するか否かを考えるに当たっては、この辺りも考慮した上で、判断する必要があるでしょう。そうしないと、がむしゃらに受験を継続し、気が付いたら他の選択肢がなくなっていた、ということになりかねません。

 やや不規則な動きをしているのが、「新試験のみ」のカテゴリーです。平成27年の減少は、「両方受験」と同様、受験回数制限緩和の影響といえるでしょうが、その後、平成28年は増加、平成29年は減少、そして今年は再び増加に転じています。新司法試験しか受験経験のない人はまだ十分若いので、他の選択肢に流れる余地が大きい。そのため、民間への就職や公務員試験に流れる者が多い年と、予備で受験を続けようとする者が多い年とで流動的になりやすいのでしょう。その意味では、受験回数制限は、滞留者防止に一定の役割を果たしているといえます。
 それから、一貫して増加傾向にあるのが、「受験なし」のカテゴリーです。今年は、369人増加して、ついに7000人を超える数字になりました。このカテゴリーは、新規参入者を示しています。新規参入者としては、大学生と法科大学院生が思いつきますが、今年の大学生の受験者は3167人、法科大学院生の受験者は1298人で、合わせても4465人。「受験なし」の受験者は7098人ですから、4465人を差し引いても2633人残ります。この2633人は、大学生でも法科大学院生でもない。無職の受験者の多くは専業受験生で、受験経験のない者はあまりいないと考えると、これは有職者である可能性が高いと考えることができるでしょう。今年の有職者の受験者は、3834人います。仮に、上記2633人が全員新規参入の有職者だとすると、有職者の受験者の3分の2強は新規参入者であることになる。前回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)で、有職者の受験者の増加は、新たに法曹を目指して予備試験に参入する社会人や、司法試験で受験資格を喪失し、就職したが、諦めきれずに予備試験を受験する人が増えているという可能性を示唆しているという説明をしましたが、上記の試算は、前者の可能性を示唆するものといえるでしょう。もっとも、逆の方向を示唆する数字もあります。それは、年齢層別の短答合格率です。前々回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)で説明したとおり、30代後半から60代前半までの短答合格率は、すべて20代よりも高い数字です。このことは、30代後半から60代前半までの年代層の多くが、新規参入者ではなく、長期受験者であることを示唆しているのです。そして、前回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)で説明した有職者の短答合格率は、大学生ほど低くはないが、無職ほど高くもない数字を示しており、その中間を示唆しています。30代前半の社会人の新規参入が増えている、ということも考えられますが、今年の30代前半の受験生は1014人しかいないので、説明としては不十分でしょう(※3)。無職のカテゴリーの中に、それまでの仕事を辞めて予備試験に挑戦した新規参入者が含まれている、ということも考えられますが、仕事を辞めて法科大学院に通うという話はそれなりに聞きますが、仕事を辞めて予備試験というのは、あまり聞く話ではありません。今のところ、にゃんともいえない、という感じです。 
 ※3 大学生でも法科大学院生でもない新規参入者というと、近年は高校生を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、今年の19歳以下の受験生は76人、高校在学中の受験生は13人しかいないので、「高校生の受験生が増えた。」という説明にも無理があります。

2 今度は、最終合格者数をみていきます。以下は、直近5年の司法試験受験経験別の最終合格者数の推移です。

受験経験 平成26 平成27 平成28 平成29 平成30
受験なし 277 319 344 370 347
旧試験のみ 42 45 35 28 31
新試験のみ 15 11 10 11 18
両方受験 22 24 16 35 37

 合格しているのは、圧倒的に「受験なし」、すなわち、新規参入者であることがわかります。もっとも、昨年よりも数が減少しています。他方で、他のカテゴリーはすべて合格者数が増加している。これが、今年の特徴です。

3 では、合格率はどうなっているか。まずは、短答合格率(受験者ベース)です。

受験経験 短答
合格率
受験なし 19.5%
旧試験のみ 27.1%
新試験のみ 33.6%
両方受験 42.9%

 短答は、受験経験を積むごとに、合格率が上がっていきます特に、新司法試験の受験経験があると、合格率が高くなっている。旧司法試験時代は、憲法と刑法は論理問題が多く、知識の比重が低かった(※4)ために、旧司法試験の受験経験は、新司法試験の受験経験よりも短答合格率への寄与度が低くなっているのでしょう(※5)。知識だけで勝負すると、旧司法試験と新司法試験の両方を経験した年配者が圧倒的な差で勝利します。仮に、知識だけで最終合格が決まる試験であれば、誰も新規参入をしたがらなくなるでしょう。そこで、論文段階で強力な若年化方策が必要とされるというわけでした。
 ※4 当時の憲法、刑法の論理問題は、短答段階において知識のない者を受からせるための若年化方策でした。
 ※5 旧司法試験時代の短答の試験科目は憲民刑の3科目でしたが、平成26年以前の新司法試験の短答の試験科目は7科目で、予備試験の短答の試験科目と重なっていたことも、重要な要素です。

4 さて、その論文合格率(短答合格者ベース)をみてみると、以下のようになっています。

受験経験 論文
合格率
受験なし 26.3%
旧試験のみ 4.8%
新試験のみ 12.5%
両方受験 9.9%

 短答で苦戦していた「受験なし」の新規参入者が、圧倒的な差を付けて受かっていくこれが若年化方策の効果であり、「論文に受かりやすい人は、すぐに受かる」が「論文に受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則です。繰り返し説明しているとおり、この結果は、当局が意図的にそのような出題・採点をしているために、そうなっているのです。ただ、その効果が薄まってきている。一昨年(平成28年)の数字と比較してみましょう。以下は、平成28年と今年の論文合格率(短答合格者ベース)の比較表です。

受験経験 一昨年
(平成28年)
今年 両者の差
受験なし 29.8% 26.3% -3.5%
旧試験のみ 4.8% 4.8% 0%
新試験のみ 8.1% 12.5% +4.4%
両方受験 6.2% 9.9% +3.7%
全体 17.6% 17.2% -0.4%

 全体の合格率でみると、一昨年と今年はほとんど差がありません。しかし、カテゴリー別にみると、「受験なし」の合格率だけが下がっており、「新試験のみ」と「両方受験」の合格率は、いずれも上昇している。ここでも、若年化方策の効果が、薄まっていることが確認できます。ところが、「旧試験のみ」の合格率は、上昇していない。これは、興味深い現象です。「新試験のみ」と「両方受験」のカテゴリーに属する者は、いずれも新司法試験を受験して、受験回数を使い切っています。受験回数を使い切る過程で、若年化方策によって出力される成績を通知されている。だから、当サイトなどの情報によって、これが意図的なカラクリによるものであることを示されると、実際の自分の経験と照らし合わせることで、確認し、納得しやすいのです。旧司法試験しか受験していないと、体感が伴わないので、規範と事実が重要と言われても、その意味を十分に理解しにくいという面があるのでしょう。若年化方策のカラクリを実感を伴って理解できるかどうか、その差が、表れているといえます。「旧試験のみ」のカテゴリーの人は、旧試験時代から、一生懸命に勉強を続けてきたはずです。それなのに、論文では4.8%しか受からない。毎年、がむしゃらに勉強しても、ますます、当局が落としたい人、受かりにくい人になってしまうだけです。逆に、若年化方策のカラクリを逆手に取って、若手が書くような答案、すなわち、抽象論は極力省略する一方で、当てはめに入る前に規範を明示し、事実を問題文から丁寧に引用するということを強く意識した答案を書くようにすれば、勉強量は少なくても、受かってしまいます。ただし、そのためには、かなりの文字数を限られた時間で書き切る筆力が必要になる。これは、特に年配者に欠けている能力です。これを克服するには、文字を速く書く訓練をするしかありません。最低限、時間内に4頁びっしり書き切れる筆力を身に付ける。予備試験は、70分(実務基礎は90分)で4頁ですから、若手の上位者は平気で4頁をびっしり、それも、小さな字で一行35~40文字くらいを書いてきます。知識・理解よりも、筆力が合否を大きく左右するこのことをよく知った上で、来年に向けた学習計画を考える必要があるのです。 

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2018年11月15日

平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(4)

1 以下は、直近5年の職種別の受験者数の推移です。ただし、法務省の公表する資料において、「公務員」、「教職員」、「会社員」、「法律事務所事務員」、「塾教師」、「自営業」とされているカテゴリーは、まとめて「有職者」として表記し、「法科大学院以外大学院生」及び「その他」のカテゴリーは省略しています。なお、「無職」には、アルバイトを含みます。


(平成)
有職者 法科大学院生 大学生 無職
26 2936 1846 2838 2298
27 3092 1710 2875 2233
28 3268 1611 2881 2265
29 3527 1408 3004 2353
30 3834 1298 3167 2391

 前々回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で、20代前半は増加に転じ、20代後半は減少を継続していることを確認しました。職種別の受験者数でみると、概ね前者が大学生の増加に、後者が法科大学院生の減少に対応していることがわかります。直近5年では、大学生の増加、法科大学院生の減少という傾向になっています。
 一貫して増加傾向にあるのが、有職者です。今年は、307人の増加です。この有職者のカテゴリーには、旧司法試験時代から受験を続けているような、苦節20年、30年というタイプの人が含まれます。もっとも、そのような人は、基本的に毎年受験するので、昨年と比較する場合の増加要因とはなりません。この層が増加していることは、新たに法曹を目指して予備試験に参入する人や、司法試験で受験資格を喪失し、就職したが、諦めきれずに予備試験を受験する人が増えているという可能性を示唆します。
 無職の受験生も、基本的に増加傾向です。今年は、38人の増加となっています。受験回数制限を使い切って予備に回る人は、無職(アルバイトを含む)であることが多いでしょうから、この層の増加は、受験回数制限を使い切って予備に回る人が増えていることを示唆しています。もっとも、有職者と比較すると、増加幅は小さくなっています。平成27年にややイレギュラーな減少をみせたのは、受験回数制限が5年5回に緩和されたために、一時的に受験回数を使い切る人が減少したためでしょう。

2 では、最終合格者数でみると、どうか。以下は、直近5年の職種別の最終合格者数の推移です。


(平成)
有職者 法科大学院生 大学生 無職
26 38 165 114 34
27 54 137 156 35
28 39 153 178 31
29 50 107 214 66
30 62 148 170 47

 一貫して増加傾向にあった大学生が、今年は急激に失速しています。一方で、法科大学院生は、大幅に合格者が増加している。もっとも、以前の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)でも説明したとおり、法科大学院生の合格者数の増加は、イレギュラーな結果とみるべきでしょう。これに対し、大学生の合格者数の減少は、以前の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」、「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)で説明した論文の若年化方策の効果が薄まってきていることの表れとみることができます。
 同様に、有職者の合格者数の増加も、論文の若年化方策の効果が薄まってきていることを示すものといえるでしょう。他方、無職の合格者数は減少していますが、平成28年以前よりは増えています。昨年の増加がやや大きすぎただけで、緩やかな増加基調は続いているとみる余地もあるでしょう。とはいえ、絶対数としては圧倒的に大学生・法科大学院生が強いことには変わりがありません。若年化方策の効果はわずかに薄まったとはいえ、いまだに強力に作用しているのです。

3 短答合格率をみてみましょう。以下は、今年の職種別の短答合格率(受験者ベース)です。

職種 受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
有職者 3834 905 23.6%
法科大学院生 1298 348 26.8%
大学生 3167 631 19.9%
無職 2391 668 27.9%

 短答は、勉強時間が長く確保できれば、受かりやすくなる。無職は、多くの場合、専業受験生です。したがって、最も多く勉強時間を確保できる。それが、短答合格率に反映されています。また、法科大学院生も、最近では早い段階から短答対策の勉強をしているので、合格率は高くなっています(※1)。他方、勉強時間が最も少ないのは、大学生です。大学生は、短答では最も苦戦しているのです。このことは、若年化方策をとることなく、知識で勝負がつく試験にした場合、専業受験生の無職が合格し、大学生は受からない試験になってしまうことを意味しています。
 ※1 この傾向は、平成24年から生じたものです(「平成24年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)。平成23年は、法科大学院生の短答合格率は16.6%に過ぎませんでした(「平成23年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について」)。

4 では、論文になると、どうなるか。以下は、今年の職種別の論文合格率(短答合格者ベース)です。

職種 短答
合格者数
論文
合格者数
論文
合格率
有職者 905 70 7.7%
法科大学院生 348 155 44.5%
大学生 631 178 28.2%
無職 668 50 7.4%

 年配者の多い無職や有職者を落とし、ロー生と大学生を受からせることに成功しています。これが、若年化方策の効果です。ロー生や大学生は、特に対策を考えなくても、普通の感覚で受ければ、論文はクリアできます。ところが、社会人や無職の専業受験生は、知識・理解が過剰になっているので、普通に受けると極端に受かりにくい。当サイトで繰り返し指摘している、「論文に受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則です。そのような人は、まず、勉強の範囲を規範部分に絞ることが必要です。その上で、当てはめに入る前に規範を明示する、事実は問題文から忠実に引用する、というスタイルを守った答案を書けるようにする。そのためには、一定の文字数が必要になりますから、速く書く訓練をし、試験時間中に書き切れるだけの筆力を身に付ける。やろうと思えば、訓練次第で十分可能なことなのですが、これを実行できる人は、少ないのが現実です。障害になるのは、心理面の抵抗です。上記のような割り切った書き方は、今まで自分がやってきたこだわりと衝突する。「趣旨・本質に遡るんだ。いきなり規範なんて書きたくない。」、「自分は○○先生の連載を読んで、○○先生の考え方が正しいことを理解している。だから、その考え方で書きたい。」、「今まで勉強してきた深い理解を答案に表現したい。規範と事実だけを書くなんて我慢できない。」、「判例の規範は、実は間違っているんだ。そんな間違った規範は使いたくない。」、「問題文の事実をそのまま引くなんてバカみたいだ。そんなものは省略して、自分の言葉で事実の評価を書きたい。」、「コンパクトな答案の方が切れ味があると思う。自分は規範や事実を書き写すようなバカっぽい答案は書きたくない。」、「速く字を書く訓練なんて法の知識、理解と何の関係もなくてバカバカしいからやりたくない。」。このようなことは、長期間勉強した受験生なら、誰しも思うことです。これを捨てることは、今までの数年間(場合によっては数十年間)は何だったのか、ということになる。この未練が、とても大きな障害になってしまうのです。これを乗り越えることが、何より重要です。
 上記の「論文に受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則は、意識して訓練すれば、ある程度は克服可能です。そのことを、若年化方策の効果が薄まりつつあることが示している。以下は、職種別の論文合格率(短答合格者ベース)の一昨年(平成28年)と今年の比較表です。

職種 一昨年
(平成28年)
今年 両者の差
有職者 5.6% 7.7% +2.1%
法科大学院生 40.9% 44.5% +3.6%
大学生 32.2% 28.2% -4.0%
無職 5.8% 7.4% +1.6%
全体 17.6% 17.2% -0.4%

 全体の論文合格率でみると、平成28年と今年はほぼ同じです。しかし、職種別でみると、大学生が大幅に合格率を下げ、他の職種はすべて合格率を上昇させています(※2)。若年化方策の効果が、わずかながら薄まっていることが、ここでも確認できます。若年化方策の仕組みを理解し、これに対応した努力をすれば、「論文に受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則を克服できるそれが、この数字に表れているといえるでしょう。とはいえ、大学生・法科大学院生と、有職者・無職の合格率の差は歴然としています。繰り返し説明しているとおり、若年化方策の効果は、薄まっているとはいえ、いまだ強力に作用しているのです。
 ※2 法科大学院生の上昇幅の大きさが際立っていますが、以前の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)で説明したとおり、これにはややイレギュラーな要素もあるとみるべきでしょう。短答合格率は例年並みでしたから、今年のイレギュラーな法科大学院生の躍進は、論文段階で生じていたといえます。

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2018年11月13日

平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(3)

1 以下は、年齢層別の短答合格率(受験者ベース)です。

年齢層 短答
合格率
19歳以下 6.5%
20~24歳 22.1%
25~29歳 21.5%
30~34歳 21.2%
35~39歳 29.1%
40~44歳 24.1%
45~49歳 28.3%
50~54歳 29.9%
55~59歳 24.7%
60~64歳 28.5%
65~69歳 19.2%
70~74歳 15.4%
75~79歳 8.3%
80歳以上 0%

 当サイトでも、繰り返し説明しているとおり、短答は単純に知識で差が付くので、勉強量の多い年配者が有利です。それが、合格率にはっきり表れている。30代後半から60代前半までの年代は、全て24%を超える高い合格率です。これに対し、20代前半は22.1%に過ぎません。このことは、単純に知識だけで勝負させてしまうと、「30代後半くらいまで勉強を続けないとなかなか合格できない。」という怖い結果が出力されかねないことを示しています。合格率のトップが50代前半というのも、若い人からすれば、「意味がわからないよ。」という感じだと思います。このことは、30代後半から60代前半までの受験者の多くは、勉強期間が長い人達である。すなわち、30代、40代、50代になって初めて法曹を目指し始めた社会人ではなく、旧司法試験時代から、苦節10年、20年、30年と勉強を続けている人達である、ということを意味しています。旧司法試験時代に存在した滞留者問題は、解消されていないのです。前回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明した若年化方策が必要とされる所以です。

2 上記のとおり、短答は年配者有利の結果でしたが、論文段階ではどうなるか。以下は、短答合格者ベースの年齢層別論文合格率です。

年齢層 論文
合格率
19歳以下 20.0%
20~24歳 33.8%
25~29歳 25.0%
30~34歳 15.8%
35~39歳 11.8%
40~44歳 5.0%
45~49歳 7.7%
50~54歳 2.6%
55~59歳 3.2%
60~64歳 2.7%
65~69歳 0%
70~74歳 5.8%
75~79歳 0%
80歳以上 ---

 短答では強かった年配者が壊滅し、若手が圧倒的に有利になっています。これが、前回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明した若年化方策の効果です。法律の知識・理解だけで勝負させてしまうと、短答のように30代後半以降の者が有利になり、50代前半が最も受かりやすい試験になってしまう。「50代前半まで勉強を続けた者が一番受かりやすい試験」など、誰も受けたくないでしょう。だから、そのような年代層が受からないような出題、採点をする。具体的には、長文の事例問題を出題し、規範と事実、当てはめ重視の採点をするということです。規範も、判例の規範であれば無条件に高い点を付けるが、学説だとかなり説得的な理由を付していなければ点を付けない。若手は、とにかく判例の規範を覚えるので精一杯です。しかし、勉強が進んでくると、判例の立場の理論的な問題点を指摘する学者の見解まで理解してしまいます。「そうか判例は間違いだったのか。」と、悪い意味で目から鱗が落ちる。こうして、年配者は、「間違った」判例ではなく、「正しい」学説を書こうとします。この傾向を逆手に取れば、若年化効果のある採点ができるというわけです。この採点方法は、「理論と実務の架橋という理念からすれば、まず判例の立場を答案に示すことが求められる。」という建前論によって、正当化することができる点でも、優れています。
 予備試験の論文式試験の問題は、旧司法試験の問題に外見が似ています。しかし、旧司法試験時代と現在とでは、若年化方策が異なる旧司法試験時代は、比較的単純な基本重視で、とりあえず趣旨を書けば受かる、というものでした。だから、趣旨に遡る形式の予備校論証を貼っていれば、当てはめがスカスカでも受かっていたのです。これに対し、現在の予備試験は、規範の明示と事実の摘示に極端な配点を置く当てはめ重視です。ですから、論証を貼って当てはめがスカスカというのでは、危ない。旧司法試験過去問を解く場合には、この点に注意する必要があります。

3 このように、短答では知識重視の出題、採点をして高齢化させておいて、論文で若年化させる。現在は、そのような仕組みになっています。なぜ、短答段階でも若年化の方策を採らないのか、不思議に思う人もいるでしょう。かつての旧司法試験では、短答でも複雑なパズル問題を出題するなど、知識では解けない問題を出題して、若年化を図っていました。ところが、そのような手法は、見た目にも法律の知識・理解を問う気がないことがバレてしまう出題形式だったので、もはや法律の試験ではない、というまっとうな批判がなされました。しかも、短答段階で知識を問わなくなった結果、あまりにも知識のない者が合格してしまい、修習に支障が生じるという事態にもなりました(旧試験でも民法だけは知識重視の傾向が維持されたのは、これだけは譲れない一線だったからだと言われています。)。そして、そもそも、年配者も知識で解かないということに気付いてしまい、若年化効果が薄れてしまった。そこで、新司法試験では、そのような出題はしないこととされたのです。

 

新司法試験実施に係る研究調査会報告書(平成15年12月11日)より引用。太字強調は筆者。)

第4 短答式試験の在り方

1 出題の在り方

 (中略)

 基本的知識が体系的に理解されているかを客観的に判定するために,幅広い分野から基本的な問題を多数出題するものとし,過度に複雑な出題形式とならないように留意する

(引用終わり)

 

 このことは、司法試験考査委員会議で申し合わせ事項として確認され、予備試験における短答式試験の実施方針においても留意事項とされています。

 

(「司法試験における短答式試験の出題方針について」(平成29年11月16日司法試験考査委員会議申合せ事項)より引用。太字強調は筆者。)

 司法試験の短答式による筆記試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが,その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わないものとする。

(引用終わり)

(「予備試験の実施方針について」(平成21年11月11日司法試験委員会)より引用。太字強調は筆者。)

第2 短答式試験について

 (中略)

3 出題方針等

(1) 法律基本科目(憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法,刑事訴訟法をいう。以下同じ。)

○ 幅広い分野から,基本的な事項に関する内容を多数出題するものとする。
新司法試験の短答式試験において,過度に複雑な形式による出題は行わないものとしていることにも留意する必要がある

(引用終わり) 

 

 短答は、出題形式や採点方法に工夫の余地が少ないのに対し、論文は、採点をブラックボックスにできるので、工夫の余地が大きいのです。そして、現在の方策は、外見上、法律の知識・理解が問われているように見えるので、年配者も気が付きにくい。不合格になっても、来年に向けて法律の知識・理解を深めようと努力してくれれば、その年配者を落とすことができるので、問題がないわけです。

4 ただ、前回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)でも説明したとおり、今年の結果をみると、この若年化方策の効果が、薄まりつつあるように感じます。これは、論文合格率を一昨年(平成28年)の数字と比較すると、わかります。以下は、短答合格者ベースの論文合格率の平成28年と今年の比較表です。

年齢層 平成28年 今年 両者の差
19歳以下 0% 20.0% +20.0%
20~24歳 37.8% 33.8% -4.0%
25~29歳 24.5% 25.0% +0.5%
30~34歳 11.7% 15.8% +4.1%
35~39歳 8.3% 11.8% +3.5%
40~44歳 4.3% 5.0% +0.7%
45~49歳 4.7% 7.7% +3.0%
50~54歳 2.3% 2.6% +0.3%
55~59歳 2.1% 3.2% +1.1%
60~64歳 2.7% 2.7%
65~69歳 0% 0%
70~74歳 0% 5.8% +5.8%
75~79歳 0% 0%
80歳以上 --- --- ---
全体 17.6% 17.2% -0.4%

 全体の論文合格率でみると、平成28年と今年は、ほぼ同じです。しかし、年代別でみると、20代前半だけが合格率を落とし、他の年配者層は概ね合格率を伸ばしていることがわかります(※)。若年化方策の効果が、薄まってきているといえるでしょう。当サイトが、規範の明示と事実の摘示の重要性を繰り返し説明し、平成27年からこれに特化した参考答案を掲載するようになったこともあって、若年化方策の手口が知られるようになってきたことが、影響しているのでしょう。もっとも、合格率の数字自体は、いまだに20代前半がトップであることに変わりはない。前回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明したとおり、若年化方策の効果が若干薄れたとはいえ、その効果が消失しそうな状況には、全くなっていないということです。そうである以上、法務省としても、今の論文の出題、採点の方針を変更する理由はない。したがって、当面は、論文の傾向は変わらない、と考えておいてよいでしょう。
 ※ 19歳以下が大幅に伸びているようにみえますが、これは母数が少ないことによるものです。

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