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2013年10月08日

普通地方公共団体の課税権

最高裁判所第一小法廷判決平成25年03月21日(下線は当サイトによる)

【事案】

 神奈川県が条例で定めた臨時特例企業税を課された株式会社が、当該条例は地方税法に違反して無効であると主張して争った事案。

【判旨】

 地方自治法14条1項は,普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて同法2条2項の事務に関し条例を制定することができると規定しているから,普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には効力を有しないことは明らかであるが,条例が国の法令に違反するかどうかは,両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく,それぞれの趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない(最高裁昭和48年(あ)第910号同50年9月10日大法廷判決・刑集29巻8号489頁)。

 普通地方公共団体は,地方自治の本旨に従い,その財産を管理し,事務を処理し,及び行政を執行する権能を有するものであり(憲法92条,94条),その本旨に従ってこれらを行うためにはその財源を自ら調達する権能を有することが必要であることからすると,普通地方公共団体は,地方自治の不可欠の要素として,その区域内における当該普通地方公共団体の役務の提供等を受ける個人又は法人に対して国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されているものと解される。しかるところ,憲法は,普通地方公共団体の課税権の具体的内容について規定しておらず,普通地方公共団体の組織及び運営に関する事項は法律でこれを定めるものとし(92条),普通地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができるものとしていること(94条),さらに,租税の賦課については国民の税負担全体の程度や国と地方の間ないし普通地方公共団体相互間の財源の配分等の観点からの調整が必要であることに照らせば,普通地方公共団体が課することができる租税の税目,課税客体,課税標準,税率その他の事項については,憲法上,租税法律主義(84条)の原則の下で,法律において地方自治の本旨を踏まえてその準則を定めることが予定されており,これらの事項について法律において準則が定められた場合には,普通地方公共団体の課税権は,これに従ってその範囲内で行使されなければならない
 そして,地方税法が,法人事業税を始めとする法定普通税につき,徴収に要すべき経費が徴収すべき税額に比して多額であると認められるなど特別の事情があるとき以外は,普通地方公共団体が必ず課税しなければならない租税としてこれを定めており(4条2項,5条2項),税目,課税客体,課税標準及びその算定方法,標準税率と制限税率,非課税物件,更にはこれらの特例についてまで詳細かつ具体的な規定を設けていることからすると,同法の定める法定普通税についての規定は,標準税率に関する規定のようにこれと異なる条例の定めを許容するものと解される別段の定めのあるものを除き,任意規定ではなく強行規定であると解されるから,普通地方公共団体は,地方税に関する条例の制定や改正に当たっては,同法の定める準則に拘束され,これに従わなければならないというべきである。したがって,法定普通税に関する条例において,地方税法の定める法定普通税についての強行規定の内容を変更することが同法に違反して許されないことはもとより,法定外普通税に関する条例において,同法の定める法定普通税についての強行規定に反する内容の定めを設けることによって当該規定の内容を実質的に変更することも,これと同様に,同法の規定の趣旨,目的に反し,その効果を阻害する内容のものとして許されないと解される。

posted by studyweb5 at 04:40| 最高裁判例 | 更新情報をチェックする

2013年08月03日

将来給付の請求適格についての判例の射程

最高裁判所第二小法廷判決平成24年12月21日

【判旨】

 共有者の1人が共有物を第三者に賃貸して得る収益につき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないものである(最高裁昭和59年(オ)第1293号同63年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事153号627頁参照)。

【千葉勝美補足意見】

 私は,将来の給付請求の適格との関連で,法廷意見に付加して,次のとおり私見を述べておきたい。

1.将来発生すべき債権に基づく将来の給付請求については,その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し,その継続が予測されるとともに,債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られ,しかもこれについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても,当事者間の衡平を害することがなく,格別不当とはいえない場合に,例外的に可能となるものと解されている(最高裁昭和51年(オ)第395号同56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁参照)。
 これを前提にした上で,前掲最高裁昭和63年3月31日第一小法廷判決は,共有物件である土地を第三者に専用駐車場として賃貸することによって得た賃料収入に関し,相手方の持分割合を超える部分の不当利得返還を求める請求については,賃貸借契約が解除等で終了したり,賃借人が賃料の支払を怠っているようなときには,将来請求はその基礎を欠くところ,これらは専ら賃借人側の意思等に基づきされることでもあり,必ず約定どおりに支払われるとは限られない等の点から,将来の給付請求を可能とする適格を欠くとしている。

2.この昭和63年第一小法廷判決は,裁判集に登載され,判示事項としては,「将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないものとされた事例」となっており,文字どおり事例判断であることが明示されている。もっとも,その裁判要旨としては,持分割合を超える賃料部分の不当利得返還を求める請求のうち事実審の口頭弁論終結時後に係る部分は,将来の給付請求の適格を欠くとされ,法理に近い表現が用いられてはいるが,当該事案を前提とした判示であり,事例判断であることは争いがないところであろう。
 そうすると,事例判断としてのこの判決の射程距離が問題になるが,この判決の理解としては,@持分割合を超える賃料部分の不当利得返還を求める将来請求の場合を述べたものとする理解(このような捉え方をしていると思われる他の最高裁判例として,最高裁平成7年(オ)第1203号同12年1月27日第一小法廷判決・民集54巻1号1頁がある。)と,A@の場合に加え,当該賃料が駐車場の賃料であるという賃料の内容・性質をも含んだ事例についての判断であるとする理解とがあり得るところである。
 このうち,@の理解によると,この裁判要旨については,将来得るべき賃料はそれが現実に受領されて初めて不当利得返還請求権が発生することから,その発生は第三者の意思等によるところ,そのような構造を有する将来請求全てに射程距離が及ぶ判断であると捉えることにもなろう。しかし,昭和56年大法廷判決の法理によって将来請求の適否を判断するためには,当該不当利得返還請求権の内容・性質,すなわち,その発生の基礎となる事実関係・法律関係が将来も継続するものかどうかといった事情が最重要であり,それを個別に見て判断すべきであるとすれば,昭和63年第一小法廷判決の射程距離についてはAの理解を採ることになろう。

3.私としては,上記@の理解はいささか射程が広すぎるように思う。すなわち,居住用家屋の賃料や建物の敷地の地代などで,将来にわたり発生する蓋然性が高いものについては将来の給付請求を認めるべきであるし,他方,本件における駐車場の賃料については,50台程度の駐車スペースがあり,これが常時全部埋まる可能性は一般には高くなく,また,性質上,短期間で更新のないまま期間が終了したり,期間途中でも解約となり,あるいは,より低額の賃料で利用できる駐車場が近隣に現れた場合には賃借人は随時そちらに移る等の事態も当然に予想されるところであって,将来においても駐車場収入が現状のまま継続するという蓋然性は低いと思われ,その点で将来の給付請求を認める適格があるとはいえない。いずれにしろ,将来の給付請求を認める適格の有無は,このようにその基礎となる債権の内容・性質等の具体的事情を踏まえた判断を行うべきであり,その意味でも昭和63年第一小法廷判決の射程距離については,上記Aの理解に立つべきである。

4.ところで,本件の法廷意見は,昭和63年第一小法廷判決を引用して,共有者の1人が共有物である本件の駐車場を第三者に賃貸して得る駐車場収入につき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しない旨を説示している。これは,本件が昭和63年第一小法廷判決と事案が類似していること,特に駐車場の賃料が不当利得返還請求権の対象となっていることから,事案の内容を詳細に判示する必要がないため,簡潔な表現で判断を示したものと解することができる。しかしながら,将来的には,将来の給付請求を認める適格について,昭和63年第一小法廷判決が上記@を射程としているという理解を前提にして適格を肯定する範囲が不当に狭くなるということがないように,それにふさわしい事案が係属し,その処理がされる際には,上記Aを射程としていることが明らかとなるように当審の判断を示す必要があるものと考える。

posted by studyweb5 at 06:22| 最高裁判例 | 更新情報をチェックする

2013年07月14日

元本確定前根保証の随伴性

最高裁判所第二小法廷判決平成24年12月14日

【事案】

1 根保証契約の主たる債務の範囲に含まれる債務に係る債権(以下「被保証債権」という。)を当該根保証契約に定める元本確定期日前に譲り受けた被上告人が,保証人である上告人に対し,保証債務の履行を求める事案。

2.事実関係の概要

(1) 株式会社Aは,平成19年6月29日,有限会社Bに対し,弁済期を平成20年6月5日として8億円を貸し付けた。

(2) 上告人は,平成19年6月29日,Aに対し,Aを貸主とし,Bを借主とする金銭消費貸借契約取引等により生ずるBの債務(上記(1)の貸付けに係るものを含む。)を主たる債務とし,極度額を48億3000万円,保証期間を平成19年6月29日から5年間とする連帯保証をした(以下「本件根保証契約」という。)。

(3) Aは,平成20年8月25日,Bに対し,弁済期を平成21年8月5日として7億円を貸し付けた。

(4) Aは,平成20年8月25日,Bに対し,弁済期を平成21年8月5日として9990万円を貸し付けた。

(5) Aは,平成20年9月26日,上記(3)及び(4)の各貸付けに係る債権を株式会社Cに譲渡し,Cは,同日,当該各債権を被上告人に譲渡した。

3.原審は,被保証債権が譲渡された場合には,その譲渡が根保証契約に定める元本確定期日前であっても,保証人に対する保証債権もこれに随伴して移転するとして,被上告人の請求を認容すべきものとした。

【判旨】

1.所論は,被保証債権の譲渡が根保証契約に定める元本確定期日前にされた場合には,当該被保証債権の譲受人が保証人に対し,保証債務の履行を求めることはできないと解すべきであるというものである。

2.根保証契約を締結した当事者は,通常,主たる債務の範囲に含まれる個別の債務が発生すれば保証人がこれをその都度保証し,当該債務の弁済期が到来すれば,当該根保証契約に定める元本確定期日(本件根保証契約のように,保証期間の定めがある場合には,保証期間の満了日の翌日を元本確定期日とする定めをしたものと解することができる。)前であっても,保証人に対してその保証債務の履行を求めることができるものとして契約を締結し,被保証債権が譲渡された場合には保証債権もこれに随伴して移転することを前提としているものと解するのが合理的である。そうすると,被保証債権を譲り受けた者は,その譲渡が当該根保証契約に定める元本確定期日前にされた場合であっても,当該根保証契約の当事者間において被保証債権の譲受人の請求を妨げるような別段の合意がない限り,保証人に対し,保証債務の履行を求めることができるというべきである。
 本件根保証契約の当事者間においては上記別段の合意があることはうかがわれないから,被上告人は,上告人に対し,保証債務の履行を求めることができる。

3.これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

【須藤正彦補足意見】

 私は,法廷意見に賛同するものであるが,所論に鑑み,いわゆる根保証の随伴性の問題に関連して以下のとおり補足しておきたい。
 上告人は,本件根保証契約を根抵当権と同じように捉えるべきであり,元本確定期日前にAから譲渡された債権については保証人としての責めを負わないにもかかわらず,上告人に保証人としての責めを負わせることになる原審の結論が上告人の予測に反する結果を招来する旨の主張をする。もとより,根保証契約については,契約自由の原則上,別段の合意により保証債権に随伴性を生じさせないようにすることも自由であり,したがって,例えば,根保証契約において,主たる債務の範囲に含まれる債務のうち,元本確定期日の時点で主債務者が当初の債権者に対して負う債務のみについて保証人が責めを負う旨の定めを置いておけば,その定めは,法廷意見における「譲受人の請求を妨げる別段の合意」と解されて,そのとおりの効力が認められるというべきである。
 しかるところ,原審の適法に確定した事実によれば,Aは,Bに対し,平成19年6月29日,8億円を貸し付け,さらにその借換えとして,同20年8月25日に計7億9990万円を貸し付けたものである。そして,記録によれば,平成19年6月29日付けの,A,B及び上告人の三者を当事者とする「金銭消費貸借・手形割引等継続取引並びに限度付根保証承諾書兼金銭消費貸借契約証書」(以下「本件根保証契約書」という。)には,保証人たる上告人は,極度額(48億3000万円)の範囲内で,同日付けの貸付けに係る債務のほか,本件根保証契約締結日現在に発生している債務及び5年間の保証期間(元本確定期日の前日まで)に発生する債務並びにこれらのうち債権者(A)がCに譲渡した債権に係る債務を保証する旨が記載されている。このような本件根保証契約書上に記載された文言からすれば,主たる債務の範囲に含まれる債務のうち,元本確定期日の時点で主債務者たるBが当初の債権者たるAに対して負う債務のみについて保証人としての責めを負うとの趣旨はうかがい得ない。
 なお,平成19年6月29日付けの8億円の貸付けに係る債務は,主たる債務の範囲に含まれているから,上告人は,この個別の債務を含めて保証したものである。もとより,個別の債務の保証債権は主たる債権の移転に随伴するところ,もしこの8億円の貸付けに係る債権について譲渡がされれば,保証債権も債権の譲受人に移転するから,その場合,上告人は8億円の貸付けに係る債権について保証人としての責めを免れないところのものである。しかして,この8億円の貸付けに係る債権とその借換えによって発生した7億9990万円の貸付けに係る債権とは経済的実質においては同一と評価され,後者は元本確定期日前にCに譲渡され,それが更に被上告人に譲渡されたものであるから,上告人が当該債権について保証人としての責めを負うということはその予測の範囲内のことと思われるのである。
 以上要するに,本件根保証契約書の記載文言に沿った合理的意思解釈という見地に立ってみた場合,本件根保証契約においては,被上告人の請求を妨げるような別段の合意がされたとみることはできないというべきである。

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2013年07月02日

最新最高裁判例

最高裁判所第二小法廷判決平成24年12月07日

【事案】

1.本件の事実関係

(1) 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,厚生労働省大臣官房統計情報部社会統計課長補佐として勤務する国家公務員(厚生労働事務官)であったが,日本共産党を支持する目的で,平成17年9月10日午後0時5分頃,東京都世田谷区(以下省略)所在の警視庁職員住宅であるAの各集合郵便受け合計32か所に,同党の機関紙である「しんぶん赤旗2005年9月号外」合計32枚を投函して配布した。」というものであり,これが国家公務員法(以下「本法」という。)110条1項19号(平成19年法律第108号による改正前のもの),102条1項,人事院規則14−7(政治的行為)(以下「本規則」という。)6項7号(以下,これらの規定を合わせて「本件罰則規定」という。)に当たるとして起訴された。

(参照条文)

国家公務員法
110条1項 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
19号 第百二条第一項に規定する政治的行為の制限に違反した者

102条1項 職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

人事院規則14−7
6項 法第百二条第一項の規定する政治的行為とは、次に掲げるものをいう。
7号 政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し又はこれらの行為を援助すること。

(2) 被告人が上記公訴事実記載の機関紙の配布行為(以下「本件配布行為」という。)を行ったことは,証拠上明らかである。

(3) 被告人は,本件当時,厚生労働省大臣官房統計情報部社会統計課長補佐であり,庶務係,企画指導係及び技術開発係担当として部下である各係職員を直接指揮するとともに,同課に存する8名の課長補佐の筆頭課長補佐(総括課長補佐)として他の課長補佐等からの業務の相談に対応するなど課内の総合調整等を行う立場にあった。また,国家公務員法108条の2第3項ただし書所定の管理職員等に当たり,一般の職員と同一の職員団体の構成員となることのない職員であった。

2.第1審判決は,本件罰則規定は憲法21条1項,31条等に違反せず合憲であるとし,本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に当たるとして,被告人を有罪と認め,被告人を罰金10万円に処した。
 原判決は,第1審判決を是認して控訴を棄却した。

【判旨】

 所論は,@ 本件罰則規定は,過度に広汎な規制であり,かつ,規制の目的,手段も相当でないこと,公安警察による濫用や人権侵害を招くことから,憲法21条1項,15条,19条,31条に違反する,A 本法102条1項による「政治的行為」の人事院規則への委任は,白紙委任であるから,本件罰則規定は憲法31条,41条,73条6号に違反する,B 本件配布行為には法益侵害の危険がなく,これに対して本件罰則規定を適用することは,憲法21条1項,31条に違反すると主張する。

1.そこで検討するに,本法102条1項は,「職員は,政党又は政治的目的のために,寄附金その他の利益を求め,若しくは受領し,又は何らの方法を以てするを問わず,これらの行為に関与し,あるいは選挙権の行使を除く外,人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。」と規定しているところ,同項は,行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することをその趣旨とするものと解される。すなわち,憲法15条2項は,「すべて公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない。」と定めており,国民の信託に基づく国政の運営のために行われる公務は,国民の一部でなく,その全体の利益のために行われるべきものであることが要請されている。その中で,国の行政機関における公務は,憲法の定める我が国の統治機構の仕組みの下で,議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策を忠実に遂行するため,国民全体に対する奉仕を旨として,政治的に中立に運営されるべきものといえる。そして,このような行政の中立的運営が確保されるためには,公務員が,政治的に公正かつ中立的な立場に立って職務の遂行に当たることが必要となるものである。このように,本法102条1項は,公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することを目的とするものと解される。
 他方,国民は,憲法上,表現の自由(21条1項)としての政治活動の自由を保障されており,この精神的自由は立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって,民主主義社会を基礎付ける重要な権利であることに鑑みると,上記の目的に基づく法令による公務員に対する政治的行為の禁止は,国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきものである。
 このような本法102条1項の文言,趣旨,目的や規制される政治活動の自由の重要性に加え,同項の規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると,同項にいう「政治的行為」とは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し,同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。そして,その委任に基づいて定められた本規則も,このような同項の委任の範囲内において,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる行為の類型を規定したものと解すべきである。上記のような本法の委任の趣旨及び本規則の性格に照らすと,本件罰則規定に係る本規則6項7号については,同号が定める行為類型に文言上該当する行為であって,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものを同号の禁止の対象となる政治的行為と規定したものと解するのが相当である。このような行為は,それが一公務員のものであっても,行政の組織的な運営の性質等に鑑みると,当該公務員の職務権限の行使ないし指揮命令や指導監督等を通じてその属する行政組織の職務の遂行や組織の運営に影響が及び,行政の中立的運営に影響を及ぼすものというべきであり,また,こうした影響は,勤務外の行為であっても,事情によってはその政治的傾向が職務内容に現れる蓋然性が高まることなどによって生じ得るものというべきである。
 そして,上記のような規制の目的やその対象となる政治的行為の内容等に鑑みると,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるかどうかは,当該公務員の地位,その職務の内容や権限等,当該公務員がした行為の性質,態様,目的,内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である。具体的には,当該公務員につき,指揮命令や指導監督等を通じて他の職員の職務の遂行に一定の影響を及ぼし得る地位(管理職的地位)の有無,職務の内容や権限における裁量の有無,当該行為につき,勤務時間の内外,国ないし職場の施設の利用の有無,公務員の地位の利用の有無,公務員により組織される団体の活動としての性格の有無,公務員による行為と直接認識され得る態様の有無,行政の中立的運営と直接相反する目的や内容の有無等が考慮の対象となるものと解される。

2.そこで,進んで本件罰則規定が憲法21条1項,15条,19条,31条,41条,73条6号に違反するかを検討する。この点については,本件罰則規定による政治的行為に対する規制が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかによることになるが,これは,本件罰則規定の目的のために規制が必要とされる程度と,規制される自由の内容及び性質,具体的な規制の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである(最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁等)。そこで,まず,本件罰則規定の目的は,前記のとおり,公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することにあるところ,これは,議会制民主主義に基づく統治機構の仕組みを定める憲法の要請にかなう国民全体の重要な利益というべきであり,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為を禁止することは,国民全体の上記利益の保護のためであって,その規制の目的は合理的であり正当なものといえる。他方,本件罰則規定により禁止されるのは,民主主義社会において重要な意義を有する表現の自由としての政治活動の自由ではあるものの,前記アのとおり,禁止の対象とされるものは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為に限られ,このようなおそれが認められない政治的行為や本規則が規定する行為類型以外の政治的行為が禁止されるものではないから,その制限は必要やむを得ない限度にとどまり,前記の目的を達成するために必要かつ合理的な範囲のものというべきである。そして,上記の解釈の下における本件罰則規定は,不明確なものとも,過度に広汎な規制であるともいえないと解される。また,既にみたとおり,本法102条1項が人事院規則に委任しているのは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為の行為類型を規制の対象として具体的に定めることであるから,同項が懲戒処分の対象と刑罰の対象とで殊更に区別することなく規制の対象となる政治的行為の定めを人事院規則に委任しているからといって,憲法上禁止される白紙委任に当たらないことは明らかである。なお,このような禁止行為に対しては,服務規律違反を理由とする懲戒処分のみではなく,刑罰を科すことをも制度として予定されているが,これは常に刑罰を科すという趣旨ではなく,国民全体の上記利益を損なう影響の重大性等に鑑みて禁止行為の内容,態様等が懲戒処分等では対応しきれない場合も想定されるためであり,あり得べき対応というべきであって,刑罰を含む規制であることをもって直ちに必要かつ合理的なものであることが否定されるものではない。
 以上の諸点に鑑みれば,本件罰則規定は憲法21条1項,15条,19条,31条,41条,73条6号に違反するものではないというべきであり,このように解することができることは,当裁判所の判例(最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁,最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁,最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁最高裁昭和56年(オ)第609号同61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁最高裁平成10年(分ク)第1号同年12月1日大法廷決定・民集52巻9号1761頁)の趣旨に徴して明らかである。

3.次に,本件配布行為が本件罰則規定の構成要件に該当するかを検討するに,本件配布行為が本規則6項7号が定める行為類型に文言上該当する行為であることは明らかであるが,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものかどうかについて,前記諸般の事情を総合して判断する。
 前記のとおり,被告人は,厚生労働省大臣官房統計情報部社会統計課長補佐であり,庶務係,企画指導係及び技術開発係担当として部下である各係職員を直接指揮するとともに,同課に存する8名の課長補佐の筆頭課長補佐(総括課長補佐)として他の課長補佐等からの業務の相談に対応するなど課内の総合調整等を行う立場にあり,国家公務員法108条の2第3項ただし書所定の管理職員等に当たり,一般の職員と同一の職員団体の構成員となることのない職員であったものであって,指揮命令や指導監督等を通じて他の多数の職員の職務の遂行に影響を及ぼすことのできる地位にあったといえる。このような地位及び職務の内容や権限を担っていた被告人が政党機関紙の配布という特定の政党を積極的に支援する行動を行うことについては,それが勤務外のものであったとしても,国民全体の奉仕者として政治的に中立な姿勢を特に堅持すべき立場にある管理職的地位の公務員が殊更にこのような一定の政治的傾向を顕著に示す行動に出ているのであるから,当該公務員による裁量権を伴う職務権限の行使の過程の様々な場面でその政治的傾向が職務内容に現れる蓋然性が高まり,その指揮命令や指導監督を通じてその部下等の職務の遂行や組織の運営にもその傾向に沿った影響を及ぼすことになりかねない。したがって,これらによって,当該公務員及びその属する行政組織の職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれが実質的に生ずるものということができる。
 そうすると,本件配布行為が,勤務時間外である休日に,国ないし職場の施設を利用せずに,それ自体は公務員としての地位を利用することなく行われたものであること,公務員により組織される団体の活動としての性格を有しないこと,公務員であることを明らかにすることなく,無言で郵便受けに文書を配布したにとどまるものであって,公務員による行為と認識し得る態様ではなかったことなどの事情を考慮しても,本件配布行為には,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められ,本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当するというべきである。そして,このように公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる本件配布行為に本件罰則規定を適用することが憲法21条1項,31条に違反しないことは,前記イにおいて説示したところに照らし,明らかというべきである。

4.以上のとおりであり,原判決に所論の憲法違反はなく,論旨は採用することができない。

【須藤正彦反対意見(抜粋)】

 被告人の本件配布行為は,政治的傾向を有する行為ではあることは明らかであるところ,被告人は,厚生労働大臣官房の社会統計課の筆頭課長補佐(総括課長補佐)で,本法108条の2第3項ただし書所定の管理職員等に当たり,指揮命令や指導監督等の裁量権を伴う職務権限の行使などの場面で他の多数の職員の職務の遂行に影響を及ぼすことのできる地位にあるといえるが,勤務時間外である休日に,国ないし職場の施設を利用せず,かつ,公務員としての地位を利用することも,公務員であることを明らかにすることもなく,しかも,無言で郵便受けに文書を配布したにとどまるものであって,いわば,一私人,一市民として行動しているとみられるから,それは勤務外のものであると評価される。そうすると,被告人の本件配布行為からうかがわれる政治的傾向が被告人の職務の遂行に反映する機序あるいは蓋然性について合理的に説明できる結び付きは認めることができず,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるとはいえないというべきである。したがって,被告人が上記のとおり管理職的地位にあること,その職務の内容や権限において裁量権があること等を考慮しても,被告人の本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当しないというべきである。しかるに,第1審判決及び原判決は,被告人の本件配布行為が本法102条1項の政治的行為に該当するとするものであって,いずれも法令の解釈を誤ったものであるから,これを破棄するのが相当であり,被告人を無罪とすべきである。

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2013年03月11日

最新最高裁判例

最高裁判所第二小法廷判決平成24年12月07日

【千葉勝美補足意見】

 私は,多数意見の採る法解釈等に関し,以下の点について,私見を補足しておきたい。

1.最高裁昭和49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁(いわゆる猿払事件大法廷判決)との整合性について

(1) 猿払事件大法廷判決の法令解釈の理解等

 猿払事件大法廷判決は,国家公務員の政治的行為に関し本件罰則規定の合憲性と適用の有無を判示した直接の先例となるものである。そこでは,特定の政党を支持する政治的目的を有する文書の掲示又は配布をしたという行為について,本件罰則規定に違反し,これに刑罰を適用することは,たとえその掲示又は配布が,非管理職の現業公務員でその職務内容が機械的労務の提供にとどまるものにより,勤務時間外に,国の施設を利用することなく,職務を利用せず又はその公正を害する意図なく,かつ,労働組合活動の一環として行われた場合であっても憲法に違反しない,としており,本件罰則規定の禁止する「政治的行為」に限定を付さないという法令解釈を示しているようにも読めなくはない。しかしながら,判決による司法判断は,全て具体的な事実を前提にしてそれに法を適用して事件を処理するために,更にはそれに必要な限度で法令解釈を展開するものであり,常に採用する法理論ないし解釈の全体像を示しているとは限らない。上記の政治的行為に関する判示部分も,飽くまでも当該事案を前提とするものである。すなわち,当該事案は,郵便局に勤務する管理職の地位にはない郵政事務官で,地区労働組合協議会事務局長を務めていた者が,衆議院議員選挙に際し,協議会の機関決定に従い,協議会を支持基盤とする特定政党を支持する目的をもって,同党公認候補者の選挙用ポスター6枚を自ら公営掲示場に掲示し,また,その頃4回にわたり,合計184枚のポスターの掲示を他に依頼して配布したというものである。このような行為の性質・態様等については,勤務時間外に国の施設を利用せずに行われた行為が中心であるとはいえ,当該公務員の所属組織による活動の一環として当該組織の機関決定に基づいて行われ,当該地区において公務員が特定の政党の候補者の当選に向けて積極的に支援する行為であることが外形上一般人にも容易に認識されるものであるから,当該公務員の地位・権限や職務内容,勤務時間の内外を問うまでもなく,実質的にみて「公務員の職務の遂行の中立性を損なうおそれがある行為」であると認められるものである。このような事案の特殊性を前提にすれば,当該ポスター掲示等の行為が本件罰則規定の禁止する政治的行為に該当することが明らかであるから,上記のような「おそれ」の有無等を特に吟味するまでもなく(「おそれ」は当然認められるとして)政治的行為該当性を肯定したものとみることができる。猿払事件大法廷判決を登載した最高裁判所刑集28巻9号393頁の判決要旨五においても,「本件の文書の掲示又は配布(判文参照)に」本件罰則規定を適用することは憲法21条,31条に違反しない,とまとめられているが,これは,判決が摘示した具体的な本件文書の掲示又は配布行為を対象にしており,当該事案を前提にした事例判断であることが明確にされているところである。そうすると,猿払事件大法廷判決の上記判示は,本件罰則規定自体の抽象的な法令解釈について述べたものではなく,当該事案に対する具体的な当てはめを述べたものであり,本件とは事案が異なる事件についてのものであって,本件罰則規定の法令解釈において本件多数意見と猿払事件大法廷判決の判示とが矛盾・抵触するようなものではないというべきである。

(2) 猿払事件大法廷判決の合憲性審査基準の評価

 なお,猿払事件大法廷判決は,本件罰則規定の合憲性の審査において,公務員の職種・職務権限,勤務時間の内外,国の施設の利用の有無等を区別せずその政治的行為を規制することについて,規制目的と手段との合理的関連性を認めることができるなどとしてその合憲性を肯定できるとしている。この判示部分の評価については,いわゆる表現の自由の優越的地位を前提とし,当該政治的行為によりいかなる弊害が生ずるかを利益較量するという「厳格な合憲性の審査基準」ではなく,より緩やかな「合理的関連性の基準」によったものであると説くものもある。しかしながら,近年の最高裁大法廷の判例においては,基本的人権を規制する規定等の合憲性を審査するに当たっては,多くの場合,それを明示するかどうかは別にして,一定の利益を確保しようとする目的のために制限が必要とされる程度と,制限される自由の内容及び性質,これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を具体的に比較衡量するという「利益較量」の判断手法を採ってきており,その際の判断指標として,事案に応じて一定の厳格な基準(明白かつ現在の危険の原則,不明確ゆえに無効の原則,必要最小限度の原則,LRAの原則,目的・手段における必要かつ合理性の原則など)ないしはその精神を併せ考慮したものがみられる。もっとも,厳格な基準の活用については,アプリオリに,表現の自由の規制措置の合憲性の審査基準としてこれらの全部ないし一部が適用される旨を一般的に宣言するようなことをしないのはもちろん,例えば,「LRA」の原則などといった講学上の用語をそのまま用いることも少ない。また,これらの厳格な基準のどれを採用するかについては,規制される人権の性質,規制措置の内容及び態様等の具体的な事案に応じて,その処理に必要なものを適宜選択して適用するという態度を採っており,さらに,適用された厳格な基準の内容についても,事案に応じて,その内容を変容させあるいはその精神を反映させる限度にとどめるなどしており(例えば,最高裁昭和58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁(「よど号乗っ取り事件」新聞記事抹消事件)は,「明白かつ現在の危険」の原則そのものではなく,その基本精神を考慮して,障害発生につき「相当の蓋然性」の限度でこれを要求する判示をしている。),基準を定立して自らこれに縛られることなく,柔軟に対処しているのである(この点の詳細については,最高裁平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁(いわゆる成田新法事件)についての当職[当時は最高裁調査官]の最高裁判例解説民事篇・平成4年度235頁以下参照。)。この見解を踏まえると,猿払事件大法廷判決の上記判示は,当該事案については,公務員組織が党派性を持つに至り,それにより公務員の職務遂行の政治的中立性が損なわれるおそれがあり,これを対象とする本件罰則規定による禁止は,あえて厳格な審査基準を持ち出すまでもなく,その政治的中立性の確保という目的との間に合理的関連性がある以上,必要かつ合理的なものであり合憲であることは明らかであることから,当該事案における当該行為の性質・態様等に即して必要な限度での合憲の理由を説示したにとどめたものと解することができる(なお,判文中には,政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止されることにより失われる利益との均衡を検討することを要するといった利益較量論的な説示や,政治的行為の禁止が表現の自由に対する合理的でやむを得ない制限であると解されるといった説示も見られるなど,厳格な審査基準の採用をうかがわせるものがある。)。ちなみに,最高裁平成10年12月1日大法廷決定・民集52巻9号1761頁(裁判官分限事件)も,裁判所法52条1号の「積極的に政治運動をすること」の意味を十分に限定解釈した上で合憲性の審査をしており,厳格な基準によりそれを肯定したものというべきであるが,判文上は,その目的と禁止との間に合理的関連性があると説示するにとどめている。これも,それで足りることから同様の説示をしたものであろう。
 そうであれば,本件多数意見の判断の枠組み・合憲性の審査基準と猿払事件大法廷判決のそれとは,やはり矛盾・抵触するものでないというべきである。

2.本件罰則規定の限定解釈の意義等

 本件罰則規定をみると,当該規定の文言に該当する国家公務員の政治的行為を文理上は限定することなく禁止する内容となっている。本件多数意見は,ここでいう「政治的行為」とは,当該規定の文言に該当する政治的行為であって,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指すという限定を付した解釈を示した。これは,いわゆる合憲限定解釈の手法,すなわち,規定の文理のままでは規制範囲が広すぎ,合憲性審査におけるいわゆる「厳格な基準」によれば必要最小限度を超えており,利益較量の結果違憲の疑いがあるため,その範囲を限定した上で結論として合憲とする手法を採用したというものではない。
 そもそも,規制される政治的行為の範囲が広範であるため,これを合憲性が肯定され得るように限定するとしても,その仕方については,様々な内容のものが考えられる。これを,多数意見のような限定の仕方もあるが,そうではなく,より類型的に,「いわゆる管理職の地位を利用する形で行う政治的行為」と限定したり,「勤務時間中,国の施設を利用して行う行為」と限定したり,あるいは,「一定の組織の政治的な運動方針に賛同し,組織の一員としてそれに積極的に参加する形で行う政治的行為」と限定するなど,事柄の性質上様々な限定が考え得るところであろう。しかし,司法部としては,これらのうちどのような限定が適当なのかは基準が明らかでなく判断し難いところであり,また,可能な複数の限定の中から特定の限定を選び出すこと自体,一種の立法的作用であって,立法府の裁量,権限を侵害する面も生じかねない。加えて,次のような問題もある。
 国家公務員法は,専ら憲法73条4号にいう官吏に関する事務を掌理する基準を定めるものであり(国家公務員法1条2項),我が国の国家組織,統治機構を定める憲法の規定を踏まえ,その国家機構の担い手の在り方を定める基本法の一つである。本法102条1項は,その中にあって,公務員の服務についての定めとして,政治的行為の禁止を規定している。このような国家組織の一部ともいえる国家公務員の服務,権利義務等をどう定めるかは,国の統治システムの在り方を決めることでもあるから,憲法の委任を受けた国権の最高機関である国会としては,国家組織全体をどのようなものにするかについての基本理念を踏まえて対処すべき事柄であって,国家公務員法が基本法の一つであるというのも,その意味においてである。
 このような基本法についての合憲性審査において,その一部に憲法の趣旨にそぐわない面があり,全面的に合憲との判断をし難いと考えた場合に,司法部がそれを合憲とするために考え得る複数の限定方法から特定のものを選び出して限定解釈をすることは,全体を違憲とすることの混乱や影響の大きさを考慮してのことではあっても,やはり司法判断として異質な面があるといえよう。憲法が規定する国家の統治機構を踏まえて,その担い手である公務員の在り方について,一定の方針ないし思想を基に立法府が制定した基本法は,全体的に完結した体系として定められているものであって,服務についても,公務員が全体の奉仕者であることとの関連で,公務員の身分保障の在り方や政治的任用の有無,メリット制の適用等をも総合考慮した上での体系的な立法目的,意図の下に規制が定められているはずである。したがって,その一部だけを取り出して限定することによる悪影響や体系的な整合性の破綻の有無等について,慎重に検討する姿勢が必要とされるところである。
 本件においては,司法部が基本法である国家公務員法の規定をいわばオーバールールとして合憲限定解釈するよりも前に,まず対象となっている本件罰則規定について,憲法の趣旨を十分に踏まえた上で立法府の真に意図しているところは何か,規制の目的はどこにあるか,公務員制度の体系的な理念,思想はどのようなものか,憲法の趣旨に沿った国家公務員の服務の在り方をどう考えるのか等々を踏まえて,国家公務員法自体の条文の丁寧な解釈を試みるべきであり,その作業をした上で,具体的な合憲性の有無等の審査に進むべきものである(もっとも,このことは,司法部の違憲立法審査は常にあるいは本来慎重であるべきであるということを意味するものではない。国家の基本法については,いきなり法文の文理のみを前提に大上段な合憲,違憲の判断をするのではなく,法体系的な理念を踏まえ,当該条文の趣旨,意味,意図をまずよく検討して法解釈を行うべきであるということである。)。
 多数意見が,まず,本件罰則規定について,憲法の趣旨を踏まえ,行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持するという規定の目的を考慮した上で,慎重な解釈を行い,それが「公務員の職務遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる行為」を政治的行為として禁止していると解釈したのは,このような考え方に基づくものであり,基本法についての司法判断の基本的な姿勢ともいえる。
 なお,付言すると,多数意見のような解釈適用の仕方は,米国連邦最高裁のブランダイス判事が,1936年のアシュワンダー対テネシー渓谷開発公社事件判決において,補足意見として掲げた憲法問題回避の準則であるいわゆるブランダイス・ルールの第4準則の「最高裁は,事件が処理可能な他の根拠が提出されているならば,訴訟記録によって憲法問題が適正に提出されていても,それの判断を下さないであろう。」,あるいは,第7準則の「連邦議会の制定法の有効性が問題とされたときは,合憲性について重大な疑念が提起されている場合でも,当最高裁は,その問題が回避できる当該法律の解釈が十分に可能か否かをまず確認することが基本的な原則である。」(以上のブランダイス・ルールの内容の記載は,渋谷秀樹「憲法判断の条件」講座憲法学6・141頁以下による。)という考え方とは似て非なるものである。ブランダイス・ルールは,周知のとおり,その後,Rescue Army v.Municipal Court of City of Los Angeles,331 U.S. 549 (1947)の法廷意見において採用され米国連邦最高裁における判例法理となっているが,これは,司法の自己抑制の観点から憲法判断の回避の準則を定めたものである。しかし,本件の多数意見の採る限定的な解釈は,司法の自己抑制の観点からではなく,憲法判断に先立ち,国家の基本法である国家公務員法の解釈を,その文理のみによることなく,国家公務員法の構造,理念及び本件罰則規定の趣旨・目的等を総合考慮した上で行うという通常の法令解釈の手法によるものであるからである。

3.本件における本件罰則規定の構成要件該当性の処理

 本件配布行為は,本件罰則規定に関する上記の法令解釈によれば,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められない以上,それだけで構成要件該当性が否定される。この点について,原審は,本件配布行為の内容等に鑑みて,本件罰則規定を適用することが違憲となるとして,被告人を無罪とすべきであるとしている。これは,本件のような政治的行為についてまで,刑罰による規制を及ぼすことの問題を考慮した上での判断であり,実質的には,本件の多数意見と同様に,当該公務員の職務の遂行の政治的中立性に与える影響が小さいことを実質的な根拠としていると解され,その苦心は理解できるところではある。しかしながら,表現の自由の規制立法の合憲性審査に際し,このような適用違憲の手法を採用することは,個々の事案や判断主体によって,違憲,合憲の結論が変わり得るものであるため,その規制範囲が曖昧となり,恣意的な適用のおそれも生じかねず,この手法では表現の自由に対する威嚇効果がなお大きく残ることになろう。個々の事案ごとの政治的行為の個別的な評価を超えて,本件罰則規定の一般的な法令解釈を行った上で,その構成要件該当性を否定することが必要であると考えるゆえんである。

【須藤正彦意見】

 本件につき,私は,多数意見と結論を同じくするが,一般職の国家公務員の政治的行為の規制に関しその説くところとは異なる見解を有するので,以下この点につき述べておきたい。

1.公務員の政治的行為の解釈について

(1) 私もまた,多数意見と同様に,本法102条1項の政治的行為とは,国民の政治的活動の自由が民主主義社会を基礎付ける重要な権利であること,かつ,同項の規定が本件罰則規定の構成要件となることなどに鑑み,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる(観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして認められる)ものを指すと解するのが相当と考える。

(2) すなわち,まず,公務員の政治的行為とその職務の遂行とは元来次元を異にする性質のものであり,例えば公務員が政党の党員となること自体では無論公務員の職務の遂行の政治的中立性が損なわれるとはいえない。公務員の政治的行為によってその職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれが生ずるのは,公務員の政治的行為と職務の遂行との間で一定の結び付き(牽連性)があるがゆえであり,しかもそのおそれが観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものとなるのは,公務員の政治的行為からうかがわれるその政治的傾向がその職務の遂行に反映する機序あるいはその蓋然性について合理的に説明できる結び付きが認められるからである。そうすると,公務員の職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれが実質的に生ずるとは,そのような結び付きが認められる場合を指すことになる。進んで,この点について敷えんして考察するに,以下のとおり,多数意見とはいささか異なるものとなる。

2.勤務外の政治的行為

(1) しかるところ,この「結び付き」について更に立ち入って考察すると,問題は,公務員の政治的行為がその行為や付随事情を通じて勤務外で行われたと評価される場合,つまり,勤務時間外で,国ないし職場の施設を利用せず,公務員の地位から離れて行動しているといえるような場合で,公務員が,いわば一私人,一市民として行動しているとみられるような場合である。その場合は,そこからうかがわれる公務員の政治的傾向が職務の遂行に反映される機序あるいは蓋然性について合理的に説明できる結び付きは認められないというべきである。

(2) 確かに,このように勤務外であるにせよ,公務員が政治的行為を行えば,そのことによってその政治的傾向が顕在化し,それをしないことに比べ,職務の遂行の政治的中立性を損なう潜在的可能性が明らかになるとは一応いえよう。また,職務の遂行の政治的中立性に対する信頼も損なわれ得るであろう。しかしながら,公務員組織における各公務員の自律と自制の下では,公務員の職務権限の行使ないし指揮命令や指導監督等の職務の遂行に当たって,そのような政治的傾向を持ち込むことは通常考えられない。また,稀に,そのような公務員が職務の遂行にその政治的傾向を持ち込もうとすることがあり得るとしても,公務員組織においてそれを受け入れるような土壌があるようにも思われない。そうすると,公務員の政治的行為が勤務外で行われた場合は,職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれがあるとしても,そのおそれは甚だ漠としたものであり,観念的かつ抽象的なものにとどまるものであるといえる。
 結局,この場合は,当該公務員の管理職的地位の有無,職務の内容や権限における裁量の有無,公務員により組織される団体の活動としての性格の有無,公務員による行為と直接認識され得る態様の有無,行政の中立的運営と直接相反する目的や内容の有無等にかかわらず──それらの事情は,公務員の職務の遂行の政治的中立性に対する国民の信頼を損なうなどの服務規律違反を理由とする懲戒処分の対象となるか否かの判断にとって重要な考慮要素であろうが──その政治的行為からうかがわれる政治的傾向がその職務の遂行に反映する機序あるいはその蓋然性について合理的に説明できる結び付きが認められず,公務員の政治的中立性が損なわれるおそれが実質的に生ずるとは認められないというべきである。この点,勤務外の政治的行為についても,事情によっては職務の遂行の政治的中立性を損なう実質的おそれが生じ得ることを認める多数意見とは見解を異にするところである。

(3) ちなみに,念のためいえば,「勤務外」と「勤務時間外」とは意味を異にする。本規則4項は,本法又は本規則によって禁止又は制限される政治的行為は,「職員が勤務時間外において行う場合においても,適用される」と規定しているところであるが,これは,勤務時間外でも勤務外とは評価されず,上記の結び付きが認められる場合(例えば,勤務時間外に,国又は職場の施設を利用して政治的行為を行うような場合に認められ得よう。)にはその政治的行為が規制されることを規定したものと解される。

3.必要やむを得ない規制について

(1) ところで,本法102条1項が政治的行為の自由を禁止することは,表現の自由の重大な制約となるものである。しかるところ,民主主義に立脚し,個人の尊厳(13条)を基本原理とする憲法は,思想及びその表現は人の人たるのゆえんを表すものであるがゆえに表現の自由を基本的人権の中で最も重要なものとして保障し(21条),かつ,このうち政治的行為の自由を特に保障しているものというべきである。そのことは,必然的に,異なった価値観ないしは政治思想,及びその発現としての政治的行為の共存を保障することを意味しているといってよいと思われる。そのことからすると,憲法は,自分にとって同意できない他人の政治思想に対して寛容で(時には敬意をさえ払う),かつ,それに基づく政治的行為の存在を基本的に認めないしは受忍すること,いわば「異見の尊重」をすることが望ましいとしているともいえよう。当然のことながら,本件で問題となっている一般職の公務員もまた,憲法上,公務員である前に国民の一人として政治に無縁でなく政治的な信念や意識を持ち得る以上,前述の意味での政治的行為の自由を享受してしかるべきであり,したがって,憲法は,公務員が多元的な価値観ないしは政治思想を有すること,及びその発現として政治的行為をすることを基本的に保障しているものというべきである。

(2) 以上の表現の自由を尊重すべきものとする点は多数意見と特に異なるところはないと思われ,また,同意見が述べるとおり,本法102条1項の規制は,公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することを目的とするものであるが,公務員の政治的行為の自由が上記のように憲法上重大な性質を有することに照らせば,その目的を達するための公務員の政治的行為の規制は必要やむを得ない限度に限られるというべきである。そうすると,問題は,本法102条1項の政治的行為の解釈が前記のようなものであれば,このような必要やむを得ない規制となるかどうかである。
 そこで更に検討するに,まず,刑罰は国権の作用による最も峻厳な制裁で公務員の政治的行為の自由の規制の程度の最たるものであって,処罰の対象とすることは極力謙抑的,補充的であるべきことが求められることに鑑みれば,この公務員の政治的行為禁止違反という犯罪は,行政の中立的運営を保護法益とし,これに対する信頼自体は独立の保護法益とするものではなく,それのみが損なわれたにすぎない場合は行政内部での服務規律違反による懲戒処分をもって必要にして十分としてこれに委ねることとしたものと解し,加うるに,公務員の職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれが実質的に認められるときにその法益侵害の危険が生ずるとの考えのもとに,本法102条1項の政治的行為を上記のものと解することによって,処罰の対象は相当に限定されることになるのである。
 のみならず,そのおそれが実質的に生ずるとは,公務員の政治的行為からうかがわれる政治的傾向がその職務の遂行に反映する機序あるいはその蓋然性について合理的に説明できる結び付きが認められる場合を指し,しかも,勤務外の政治的行為にはその結び付きは認められないと解するのであるから,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる場合は一層限定されることになる。
 結局,以上の解釈によれば,本件罰則規定については,政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物の配布は,上記の要件及び範囲の下で大幅に限定されたもののみがその構成要件に該当するのであるから,目的を達するための必要やむを得ない規制であるということが可能であると思われる。

(3) ところで,本法102条1項の政治的行為の上記の解釈は,憲法の趣旨の下での本件罰則規定の趣旨,目的に基づく厳格な構成要件解釈にほかならない。したがって,この解釈は,通常行われている法解釈にすぎないものではあるが,他面では,一つの限定的解釈といえなくもない。しかるところ,第1に,公務員の政治的行為の自由の刑罰の制裁による規制は,公務員の重要な基本的人権の大なる制約である以上,それは職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものを指すと解するのは当然であり,したがって,規制の対象となるものとそうでないものとを明確に区別できないわけではないと思われる。第2に,そのようにおそれが実質的に認められるか否かということは,公務員の政治的行為からうかがわれる政治的傾向が職務の遂行に反映する機序あるいは蓋然性について合理的に説明できる結び付きがあるか否かということを指すのであり,そのような判断は一般の国民からみてさほど困難なことではない上,勤務外の政治的行為はそのような結び付きがないと解されるのであるから,規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめる相当に明確な指標の存在が認められ,したがって,一般の国民にとって具体的な場合に規制の対象となるかどうかを判断する基準を本件罰則規定から読み取ることができるといえる(最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁(札幌税関検査違憲訴訟事件)参照)。
 以上よりすると,本件罰則規定は,上記の厳格かつ限定的である解釈の限りで,憲法21条,31条に反しないというべきである。

(4) もっとも,上記のような限定的解釈は,率直なところ,文理を相当に絞り込んだという面があることは否定できない。また,本法102条1項及び本規則に対しては,規制の対象たる公務員の政治的行為が文理上広汎かつ不明確であるがゆえに,当該公務員が文書の配布等の政治的行為を行う時点において刑罰による制裁を受けるのか否かを具体的に予測することが困難であるから,犯罪構成要件の明確性による保障機能を損ない,その結果,処罰の対象にならない文書の配布等の政治的行為も処罰の対象になるのではないかとの不安から,必要以上に自己規制するなどいわゆる萎縮的効果が生じるおそれがあるとの批判があるし,本件罰則規定が,懲戒処分を受けるべきものと犯罪として刑罰を科せられるべきものとを区別することなくその内容についての定めを人事院規則に委任していることは,犯罪の構成要件の規定を委任する部分に関する限り,憲法21条,31条等に違反し無効であるとする見解もある(最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁(猿払事件)における裁判官大隅健一郎ほかの4人の裁判官の反対意見参照)。このような批判の存在や,我が国の長い歴史を経ての国民の政治意識の変化に思いを致すと(なお,公務員の政治的行為の規制について,地方公務員法には刑罰規定はない。また,欧米諸国でも調査し得る範囲では刑罰規定は見受けられない。),本法102条1項及び本規則については,更なる明確化やあるべき規制範囲・制裁手段について立法的措置を含めて広く国民の間で一層の議論が行われてよいと思われる。

4.結論

 被告人の本件配布行為は政治的傾向を有する行為ではあることは明らかであるが,勤務時間外である休日に,国ないし職場の施設を利用せず,かつ,公務員としての地位を利用することも,公務員であることを明らかにすることもなく,しかも,無言で郵便受けに文書を配布したにとどまるものであって,被告人は,いわば,一私人,一市民として行動しているとみられるから,それは勤務外のものであると評価される。そうすると,被告人の本件配布行為からうかがわれる政治的傾向が被告人の職務の遂行に反映する機序あるいは蓋然性について合理的に説明できる結び付きは認めることができず,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるとはいえないというべきである。したがって,被告人の管理職的地位の有無,その職務の内容や権限における裁量の有無等を検討するまでもなく,被告人の本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当しないというべきである。被告人を無罪とした原判決は,以上述べた理由からして,結論において相当である。

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2013年02月26日

最新最高裁判例

最高裁判所第三小法廷決定平成24年10月26日

【事案】

 本件公訴事実の要旨は,「被告人が,平成22年10月,路上で,当時12歳の女児に対し,いきなりその背後から抱きつき,着衣の上から左乳房を右手で触って押さえつけるなどのわいせつな行為をした」というものである。一件記録によれば,被告人には刑訴法89条3号及び4号に該当する事由があると認められ,常習性も強い事案であると考えられるが,被告人は,本件公訴事実について捜査段階から認める供述をしており,弁護人も本件公訴事実を争わない予定であるとしていること,被告人は,本件の起訴に先立ち,平成22年7月から平成24年5月までの本件と同種の5件の強制わいせつ事件(以下「先行事件」という。)でも起訴されているところ,本件は,それらの事件の間に行われた事案であること,被告人は,先行事件の公判で,先行事件全てにつき公訴事実を認めており,検察官請求証拠についても全て同意をして,その取調べが終了していること,本件の原々審が被告人の保釈を許可したのと同日付けで,先行事件の公判裁判所も先行事件につき保証金額を各75万円(合計375万円)と定めて被告人の保釈を許可する決定をしていること(なお,各保釈許可決定に対する検察官の抗告はいずれも棄却され,確定している。),被告人に対する追起訴は今後予定されていないこと,被告人の両親らが被告人の身柄を引き受け,公判期日への出頭確保及び日常生活の監督を誓約していること,被告人は,釈放後は本件犯行場所からは離れた父親の単身赴任先に母親と共に転居し,両親と同居して生活する予定であること,被告人は,現在勾留先で受けている臨床心理士のカウンセリングを釈放後も受け続ける意向を示していること,これまでに前科前歴がないこと等の事情がある。

【判旨】

 本件事案の性質や証拠関係,先行事件の審理経過,被告人の身上等に照らすと,保証金額を75万円とし,本件の被害者及びその関係者との接触禁止などの条件を付した上で被告人の保釈を許可した原々審の裁判は,その裁量の範囲を逸脱したものとはいえず,不当ともいえないから,これを取り消して保釈請求を却下した原決定には,刑訴法90条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成24年12月07日

【事案】

1.本件の事実関係

(1) 本件公訴事実の要旨は,

「被告人は,社会保険庁東京社会保険事務局目黒社会保険事務所に年金審査官として勤務していた厚生労働事務官であるが,平成15年11月9日施行の第43回衆議院議員総選挙に際し,日本共産党を支持する目的をもって,

第1.同年10月19日午後0時3分頃から同日午後0時33分頃までの間,東京都中央区(以下省略)所在のB不動産ほか12か所に同党の機関紙であるしんぶん赤旗2003年10月号外(『いよいよ総選挙』で始まるもの)及び同党を支持する政治的目的を有する無署名の文書である東京民報2003年10月号外を配布し,

第2.同月25日午前10時11分頃から同日午前10時15分頃までの間,同区(以下省略)所在のC方ほか55か所に前記しんぶん赤旗2003年10月号外及び前記東京民報2003年10月号外を配布し,

第3.同年11月3日午前10時6分頃から同日午前10時18分頃までの間,同区(以下省略)所在のD方ほか56か所に同党の機関紙であるしんぶん赤旗2003年10月号外(『憲法問題特集』で始まるもの)及びしんぶん赤旗2003年11月号外を配布した。」

というものであり,これが国家公務員法(以下「本法」という。)110条1項19号(平成19年法律第108号による改正前のもの),102条1項,人事院規則14−7(政治的行為)(以下「本規則」という。)6項7号,13号(5項3号)(以下,これらの規定を合わせて「本件罰則規定」という。)に当たるとして起訴された。

(参照条文)

国家公務員法
110条1項 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
19号 第百二条第一項に規定する政治的行為の制限に違反した者

102条1項 職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

人事院規則14−7
5項 法及び規則中政治的目的とは、次に掲げるものをいう。政治的目的をもつてなされる行為であつても、第六項に定める政治的行為に含まれない限り、法第百二条第一項の規定に違反するものではない。
3号 特定の政党その他の政治的団体を支持し又はこれに反対すること。

6項 法第百二条第一項の規定する政治的行為とは、次に掲げるものをいう。
7号 政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し又はこれらの行為を援助すること。
13号 政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し又は編集すること。

(2) 被告人が上記公訴事実記載の機関紙等の配布行為(以下「本件配布行為」という。)を行ったことは,証拠上明らかである。

(3) 被告人は,本件当時,目黒社会保険事務所の国民年金の資格に関する事務等を取り扱う国民年金業務課で,相談室付係長として相談業務を担当していた。その具体的な業務は,来庁した1日当たり20人ないし25人程度の利用者からの年金の受給の可否や年金の請求,年金の見込額等に関する相談を受け,これに対し,コンピューターに保管されている当該利用者の年金に関する記録を調査した上,その情報に基づいて回答し,必要な手続をとるよう促すというものであった。そして,社会保険事務所の業務については,全ての部局の業務遂行の要件や手続が法令により詳細に定められていた上,相談業務に対する回答はコンピューターからの情報に基づくものであるため,被告人の担当業務は,全く裁量の余地のないものであった。さらに,被告人には,年金支給の可否を決定したり,支給される年金額等を変更したりする権限はなく,保険料の徴収等の手続に関与することもなく,社会保険の相談に関する業務を統括管理していた副長の指導の下で,専門職として,相談業務を担当していただけで,人事や監督に関する権限も与えられていなかった。

2.第1審判決は,本件罰則規定は憲法21条1項,31条等に違反せず合憲であるとし,本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に当たるとして,被告人を有罪と認め,被告人を罰金10万円,執行猶予2年に処した。

3.原判決は,本件配布行為は,裁量の余地のない職務を担当する,地方出先機関の管理職でもない被告人が,休日に,勤務先やその職務と関わりなく,勤務先の所在地や管轄区域から離れた自己の居住地の周辺で,公務員であることを明らかにせず,無言で,他人の居宅や事務所等の郵便受けに政党の機関紙や政治的文書を配布したことにとどまるものであると認定した上で,本件配布行為が本件罰則規定の保護法益である国の行政の中立的運営及びこれに対する国民の信頼の確保を侵害すべき危険性は,抽象的なものを含めて,全く肯認できないから,本件配布行為に対して本件罰則規定を適用することは,国家公務員の政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度を超えた制約を加え,これを処罰の対象とするものといわざるを得ず,憲法21条1項及び31条に違反するとして,第1審判決を破棄し,被告人を無罪とした。

【判旨】

1.所論は,原判決は,憲法21条1項,31条の解釈を誤ったものであると主張する。

(1) そこで検討するに,本法102条1項は,「職員は,政党又は政治的目的のために,寄附金その他の利益を求め,若しくは受領し,又は何らの方法を以てするを問わず,これらの行為に関与し,あるいは選挙権の行使を除く外,人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。」と規定しているところ,同項は,行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することをその趣旨とするものと解される。すなわち,憲法15条2項は,「すべて公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない。」と定めており,国民の信託に基づく国政の運営のために行われる公務は,国民の一部でなく,その全体の利益のために行われるべきものであることが要請されている。その中で,国の行政機関における公務は,憲法の定める我が国の統治機構の仕組みの下で,議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策を忠実に遂行するため,国民全体に対する奉仕を旨として,政治的に中立に運営されるべきものといえる。そして,このような行政の中立的運営が確保されるためには,公務員が,政治的に公正かつ中立的な立場に立って職務の遂行に当たることが必要となるものである。このように,本法102条1項は,公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することを目的とするものと解される。
 他方,国民は,憲法上,表現の自由(21条1項)としての政治活動の自由を保障されており,この精神的自由は立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって,民主主義社会を基礎付ける重要な権利であることに鑑みると,上記の目的に基づく法令による公務員に対する政治的行為の禁止は,国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきものである。
 このような本法102条1項の文言,趣旨,目的や規制される政治活動の自由の重要性に加え,同項の規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると,同項にいう「政治的行為」とは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し,同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。そして,その委任に基づいて定められた本規則も,このような同項の委任の範囲内において,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる行為の類型を規定したものと解すべきである。上記のような本法の委任の趣旨及び本規則の性格に照らすと,本件罰則規定に係る本規則6項7号,13号(5項3号)については,それぞれが定める行為類型に文言上該当する行為であって,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものを当該各号の禁止の対象となる政治的行為と規定したものと解するのが相当である。このような行為は,それが一公務員のものであっても,行政の組織的な運営の性質等に鑑みると,当該公務員の職務権限の行使ないし指揮命令や指導監督等を通じてその属する行政組織の職務の遂行や組織の運営に影響が及び,行政の中立的運営に影響を及ぼすものというべきであり,また,こうした影響は,勤務外の行為であっても,事情によってはその政治的傾向が職務内容に現れる蓋然性が高まることなどによって生じ得るものというべきである。
 そして,上記のような規制の目的やその対象となる政治的行為の内容等に鑑みると,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるかどうかは,当該公務員の地位,その職務の内容や権限等,当該公務員がした行為の性質,態様,目的,内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である。具体的には,当該公務員につき,指揮命令や指導監督等を通じて他の職員の職務の遂行に一定の影響を及ぼし得る地位(管理職的地位)の有無,職務の内容や権限における裁量の有無,当該行為につき,勤務時間の内外,国ないし職場の施設の利用の有無,公務員の地位の利用の有無,公務員により組織される団体の活動としての性格の有無,公務員による行為と直接認識され得る態様の有無,行政の中立的運営と直接相反する目的や内容の有無等が考慮の対象となるものと解される。

(2) そこで,進んで本件罰則規定が憲法21条1項,31条に違反するかを検討する。この点については,本件罰則規定による政治的行為に対する規制が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかによることになるが,これは,本件罰則規定の目的のために規制が必要とされる程度と,規制される自由の内容及び性質,具体的な規制の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである(最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁等)。そこで,まず,本件罰則規定の目的は,前記のとおり,公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することにあるところ,これは,議会制民主主義に基づく統治機構の仕組みを定める憲法の要請にかなう国民全体の重要な利益というべきであり,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為を禁止することは,国民全体の上記利益の保護のためであって,その規制の目的は合理的であり正当なものといえる。他方,本件罰則規定により禁止されるのは,民主主義社会において重要な意義を有する表現の自由としての政治活動の自由ではあるものの,前記(1)のとおり,禁止の対象とされるものは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為に限られ,このようなおそれが認められない政治的行為や本規則が規定する行為類型以外の政治的行為が禁止されるものではないから,その制限は必要やむを得ない限度にとどまり,前記の目的を達成するために必要かつ合理的な範囲のものというべきである。そして,上記の解釈の下における本件罰則規定は,不明確なものとも,過度に広汎な規制であるともいえないと解される。なお,このような禁止行為に対しては,服務規律違反を理由とする懲戒処分のみではなく,刑罰を科すことをも制度として予定されているが,これは,国民全体の上記利益を損なう影響の重大性等に鑑みて禁止行為の内容,態様等が懲戒処分等では対応しきれない場合も想定されるためであり,あり得べき対応というべきであって,刑罰を含む規制であることをもって直ちに必要かつ合理的なものであることが否定されるものではない。
 以上の諸点に鑑みれば,本件罰則規定は憲法21条1項,31条に違反するものではないというべきであり,このように解することができることは,当裁判所の判例(最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁,最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁,最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁最高裁昭和56年(オ)第609号同61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁最高裁平成10年(分ク)第1号同年12月1日大法廷決定・民集52巻9号1761頁)の趣旨に徴して明らかである。

(3) 次に,本件配布行為が本件罰則規定の構成要件に該当するかを検討するに,本件配布行為が本規則6項7号,13号(5項3号)が定める行為類型に文言上該当する行為であることは明らかであるが,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものかどうかについて,前記諸般の事情を総合して判断する。
 前記のとおり,被告人は,社会保険事務所に年金審査官として勤務する事務官であり,管理職的地位にはなく,その職務の内容や権限も,来庁した利用者からの年金の受給の可否や年金の請求,年金の見込額等に関する相談を受け,これに対し,コンピューターに保管されている当該利用者の年金に関する記録を調査した上,その情報に基づいて回答し,必要な手続をとるよう促すという,裁量の余地のないものであった。そして,本件配布行為は,勤務時間外である休日に,国ないし職場の施設を利用せずに,公務員としての地位を利用することなく行われたものである上,公務員により組織される団体の活動としての性格もなく,公務員であることを明らかにすることなく,無言で郵便受けに文書を配布したにとどまるものであって,公務員による行為と認識し得る態様でもなかったものである。これらの事情によれば,本件配布行為は,管理職的地位になく,その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって,職務と全く無関係に,公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり,公務員による行為と認識し得る態様で行われたものでもないから,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえない。そうすると,本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当しないというべきである。

(4) 以上のとおりであり,被告人を無罪とした原判決は結論において相当である。なお,原判決は,本件罰則規定を被告人に適用することが憲法21条1項,31条に違反するとしているが,そもそも本件配布行為は本件罰則規定の解釈上その構成要件に該当しないためその適用がないと解すべきであって,上記憲法の各規定によってその適用が制限されるものではないと解されるから,原判決中その旨を説示する部分は相当ではないが,それが判決に影響を及ぼすものでないことは明らかである。論旨は採用することができない。

2.所論引用の判例(前掲最高裁昭和49年11月6日大法廷判決)の事案は,特定の地区の労働組合協議会事務局長である郵便局職員が,同労働組合協議会の決定に従って選挙用ポスターの掲示や配布をしたというものであるところ,これは,上記労働組合協議会の構成員である職員団体の活動の一環として行われ,公務員により組織される団体の活動としての性格を有するものであり,勤務時間外の行為であっても,その行為の態様からみて当該地区において公務員が特定の政党の候補者を国政選挙において積極的に支援する行為であることが一般人に容易に認識され得るようなものであった。これらの事情によれば,当該公務員が管理職的地位になく,その職務の内容や権限に裁量の余地がなく,当該行為が勤務時間外に,国ないし職場の施設を利用せず,公務員の地位を利用することなく行われたことなどの事情を考慮しても,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものであったということができ,行政の中立的運営の確保とこれに対する国民の信頼に影響を及ぼすものであった。
 したがって,上記判例は,このような文書の掲示又は配布の事案についてのものであり,判例違反の主張は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切ではなく,所論は刑訴法405条の上告理由に当たらない。

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2013年02月11日

最新最高裁判例

最高裁判所第三小法廷判決平成24年11月27日

【事案】

1.被上告人らが,上告人をいわゆるアレンジャーとするシンジケートローンへの招へいを受けて上告人と共にAに対し合計9億円のシンジケートローンを実行したところ,程なくして同社の経営が破綻して損害を被ったことにつき,この損害は,上告人がアレンジャーとしての情報提供義務を怠ったために生じたものであるなどと主張し,上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案。

2.事実関係の概要

(1) Aは,石油製品の卸売等を目的とする株式会社であり,平成19年当時の代表取締役は,Bであった。

(2) 上告人は,平成17年2月頃からAと銀行取引を行っていたが,平成19年8月29日,Aの委託を受けて,総額10億円を予定するシンジケートローンのアレンジャーとなって,被上告人らを含む合計10の金融機関に対しその参加を招へいし,被上告人らについては,同月30日又は31日に上告人の担当者が各店舗を訪問して上記シンジケートローンの説明をするなどした。この際,上告人は,招へい先金融機関に対し,Aの同年3月期決算書のほか,上記シンジケートローンの条件の概要等を記載した参加案内資料及び上記シンジケートローンの必要性,返済見込み等を記載した補足資料を交付したが,このうち参加案内資料には,留意事項として,資料に含まれる情報の正確性・真実性について上告人は一切の責任を負わないこと,資料は必要な情報を全て包含しているわけではなく,招へい先金融機関で独自にAの信用力等の審査を行う必要があることなどが記載されていた。

(3) 他方,AのいわゆるメインバンクであったCは,平成19年3月,他の11の金融機関と共に,Aに対し総額約30億円のシンジケートローン(以下「別件シ・ローン」という。)を組成し,実行するとともに,別件シ・ローンにおいて他の参加金融機関の代理人(いわゆるエージェント)となっていたところ,同年8月28日又は29日頃,Bに対し,Aの同年3月期決算書において不適切な処理がされている疑いがある旨を指摘し,同決算書に関して専門家による財務調査を行う必要があり,これを行わなければ,同年9月末以降の別件シ・ローンの継続ができない旨を告げた。
 Bは,上記財務調査の実施を承諾し,別件シ・ローンの各参加金融機関に対し,上記決算書において一部不適切な処理がされている可能性があるため,Dに同決算書の精査を依頼する予定である旨を記載したA名義の平成19年9月10日付けの書面(以下「本件書面」という。)を送付した。

(4) 上告人による上記(2)の参加招へいに対し,被上告人らは,それぞれ,Aの決算書等を検討し,上告人に質問するなどして,平成19年9月20日頃までに参加の意向を示したことから,上告人及び被上告人らによる総額9億円のシンジケートローン(以下「本件シ・ローン」という。)が組成され,実行されることとなった。そして,上告人岡崎支店の行員で本件シ・ローンの担当者であったEは,本件シ・ローンの契約書調印手続のため,同月21日,Aに赴いた。

(5) ところが,上記調印手続に先立ち,Bは,Eに対し,本件書面を示し,CがAの平成19年3月期決算書に不適切な処理がある旨の疑念を有しており,別件シ・ローンの参加金融機関に本件書面を送付した旨の情報(以下「本件情報」という。)を告げた。これは,Bとしては,本件シ・ローンのアレンジャーである上告人ないしその担当者であるEに,本件シ・ローンの組成・実行手続の継続の是非について判断を委ねる趣旨であった。
 これに対し,上告人ないしEは,本件情報を被上告人らに一切告げることなく,本件シ・ローンの組成・実行手続を継続した。

(6) 上告人及び被上告人らは,平成19年9月28日,Aに対し,本件シ・ローンの実行として,上告人が4億円,被上告人X1及び同X2が各2億円,同X3が1億円の合計9億円を,平成20年3月28日を第1回返済日とし,半年ごとに9000万円ずつ10回払で返済し,各回の返済額は本件シ・ローンの参加割合に応じて案分するなどとの条件で貸し付けた。もっとも,上記9億円のうち3億円は,上告人のA及びその関連会社に対する貸付金の返済に回された。
 そして,本件シ・ローンの実行に伴い,平成19年9月28日,上告人は,Aからアレンジャーフィーないしエージェントフィーとして3780万円の支払を受け,被上告人らは,参加手数料(パーティシペーションフィー)として,被上告人X1及び同X2が各210万円,同X3が105万円(いずれも上記個別貸付額の1%及び消費税相当額)を受領した。

(7) 平成19年10月29日まで行われたDによる財務調査の結果,Aの同年3月期決算書には,実在しない売掛金や前渡金の計上等があり,純資産額が約40億円過大となる粉飾のあることが判明した。このため,Cは,Aに対し,同年10月31日,別件シ・ローンの継続はできない旨及び自行単独融資分につき期限の利益喪失を通知した。
 結局,Aは,平成20年4月11日,自らの申立てに基づき名古屋地方裁判所から再生手続開始の決定を受けた。

【判旨】

1.所論は,被上告人らは金融機関として貸付取引に精通しており,上告人が本件シ・ローンのアレンジャーであるからといって,被上告人らに対する情報提供義務を負うものではないと解すべきであり,上告人の情報提供義務違反に基づく不法行為責任を認めた原審の判断は,民法709条の解釈適用を誤っているというものである。

2.前記事実関係によれば,本件情報は,AのメインバンクであるCが,Aの平成19年3月期決算書の内容に単に疑念を抱いたというにとどまらず,Aに対し,外部専門業者による決算書の精査を強く指示した上,その旨を別件シ・ローンの参加金融機関にも周知させたというものである。このような本件情報は,Aの信用力についての判断に重大な影響を与えるものであって,本来,借主となるA自身が貸主となる被上告人らに対して明らかにすべきであり,被上告人らが本件シ・ローン参加前にこれを知れば,その参加を取り止めるか,少なくとも上記精査の結果を待つことにするのが通常の対応であるということができ,その対応をとっていたならば,本件シ・ローンを実行したことによる損害を被ることもなかったものと解される。他方,本件情報は,別件シ・ローンに関与していない被上告人らが自ら知ることは通常期待し得ないものであるところ,前記事実関係によれば,Bは,本件シ・ローンのアレンジャーである上告人ないしその担当者のEに本件シ・ローンの組成・実行手続の継続に係る判断を委ねる趣旨で,本件情報をEに告げたというのである。
 これらの事実に照らせば,アレンジャーである上告人から本件シ・ローンの説明と参加の招へいを受けた被上告人らとしては,上告人から交付された資料の中に,資料に含まれる情報の正確性・真実性について上告人は一切の責任を負わず,招へい先金融機関で独自にAの信用力等の審査を行う必要があることなどが記載されていたものがあるとしても,上告人がアレンジャー業務の遂行過程で入手した本件情報については,これが被上告人らに提供されるように対応することを期待するのが当然といえ,被上告人らに対し本件シ・ローンへの参加を招へいした上告人としても,そのような対応が必要であることに容易に思い至るべきものといえる。また,この場合において,上告人が被上告人らに直接本件情報を提供したとしても,本件の事実関係の下では,上告人のAに対する守秘義務違反が問題となるものとはいえず,他に上告人による本件情報の提供に何らかの支障があることもうかがわれない。
 そうすると,本件シ・ローンのアレンジャーである上告人は,本件シ・ローンへの参加を招へいした被上告人らに対し,信義則上,本件シ・ローン組成・実行前に本件情報を提供すべき注意義務を負うものと解するのが相当である。そして,上告人は,この義務に違反して本件情報を被上告人らに提供しなかったのであるから,被上告人らに対する不法行為責任が認められるというべきである。

3.以上によれば,所論の点に関する原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

【田原睦夫補足意見】

 本件は,シンジケート・ローンにおけるアレンジャーの不法行為責任が問われた初めての事案であり,原審判決を巡って種々の論議がなされていることに鑑み,以下のとおり補足意見を述べる。

1.Aの被上告人らに対する情報提供義務について

 一般に,金融機関に融資を申し込む者は,その申込みに際して誠実に対応すべき義務を信義則上負っているものといえ,融資の可否の判断に大きな影響を与え得る情報を秘匿して融資の申込みを行い,その結果融資した金融機関に損害を与えた場合には,不法行為責任を負うものというべきである。
 本件においては,Aのメインバンクが,同社の平成19年3月期決算書において不適切な処理が行われている疑がある旨を指摘し,同決算書に関して専門家による財務調査を行う必要があり,これを行わなければ,同年9月末以降の別件シンジケート・ローンの継続ができない旨告げたというのであるところ,その事実は同社の信用の根幹に関わる重要な情報であるから,同社が金融機関に融資を申し込むに際して信義則上当該金融機関に提供すべき情報に該当するものであり,また,融資申込み後その融資実行前に判明した場合においても,同様に提供すべき情報であるといえる。
 殊に,Aが上告人に対して本件シンジケート・ローンの組成を委託するに際して提出したいわゆるインフォメーション・メモランダムにおいて,同社が提供する資料について「その内容が真実かつ正確であることを保証」しているところ,そこで提供される決算資料の正確性について,メインバンクが疑念を抱き,専門家による財務調査を求めているとの事実は,シンジケート・ローンへの参加を招聘されている金融機関にとって,その参加の可否を決する上での重要な情報である。
 従って上記の事実は,Aにおいて,本件シンジケート・ローンへの参加の呼び掛けに応じようとしている金融機関に対して信義則上開示すべき重要な情報であるといえる。

2.アレンジャーとしての上告人の被上告人らに対する本件情報提供義務について

(1) アレンジャーと借受人との関係は,一般に準委任と解されているところ,シンジケート・ローンへの招聘を受けた金融機関において参加の可否の判断に重大な影響を与えるべき事実を借受人が秘匿していることをアレンジャーが知った場合に,敢えてその事実を秘匿したままアレンジャーの業務を遂行し,その結果シンジケート・ローンの参加者が損害を被った場合には,アレンジャーは借受人の情報提供義務違反に加担したものとして,共同不法行為責任が問われ得るといえる(アレンジャーがかかる事実を知った場合には,受託者としての善管注意義務の一環として,借受人に対して,その情報を参加を招聘する金融機関に開示するよう助言すべきであり,借受人がその助言に応じない場合には,アレンジャーとしての受任契約を解約することが検討されて然るべきであろう。)。

(2) 次にアレンジャーとシンジケート・ローンへの参加を希望する金融機関との間には,契約関係は存しないが,アレンジャーはシンジケート・ローンへの参加を呼び掛けるに当っては,一般にアレンジャーとしてその相手方に対して提供が求められる範囲内において,誠実に情報を開示すべき信義則上の義務を負うものというべきであり,殊にアレンジャーがその業務の遂行過程で得た情報のうち,相手方が参加の可否を判断する上において影響を及ぼすと認められる一般的に重要な情報は,相手方に提供すべきものであり,それを怠った場合には,参加希望者を招聘する者としての信義則上の誠実義務に違反するものとして,不法行為責任が問われ得ると言える。

(3) 上告人の本件情報提供義務

 本件情報は,前記のとおり本件のインフォメーション・メモランダムにて確約されたAの提供した資料の真実性,正確性を揺るがす情報であって,被上告人らの本件シンジケート・ローンにかかる融資契約の締結前に明らかになったものであり,被上告人らが融資契約締結の可否を判断するうえで重要な影響を及ぼし得る情報である。また,上告人は本件情報をアレンジャー業務の遂行過程で入手したものであるから,上告人は上記(1),(2)の何れの点からしても,被上告人らに直ちに本件情報を開示すべき信義則上の義務を負っていたものということができるのであり,その違反に対しては不法行為責任が問われて然るべきである。

3.上告人の守秘義務について

 一般に金融機関は,取引先から入手した情報については第三者に対する守秘義務を負っていると言える。しかし借受人が金融機関にシンジケート・ローンのアレンジャー業務を委託した場合において,その業務の遂行に必要な情報は,借受人とアレンジャーとの間で別段の合意がない限り,当然に招聘先に開示されるべきものであり,借受人はアレンジャーに対し,守秘を求める利益を有しないものというべきである。
 そして,本件情報は,前記のとおりAとして,当然に被上告人ら参加金融機関に対して開示すべきものであり,また,本件記録上Aと上告人間で本件情報の秘匿に関する特段の合意がなされたことは窺えないのであるから,本件情報の提供に関し,上告人の守秘義務が問題となる余地はないものというべきである。

4.追って,上告受理決定の論旨外であるが,上告人は,上告受理申立理由書において,本件においては,過失相殺がなされるべき旨縷々主張しているので,その点について補足的に以下に触れておく。
 確かに本件記録によれば,参加金融機関に開示されたAの過去3期の決算書を瞥見するだけでも幾つかの計数上の問題点が浮び上るのであり,事実審において過失相殺の有無が問われても然るべき事案であることが窺える。しかし,上告人は,原審迄に過失相殺の主張をしていない以上,当審で採り上げるべき論点でないことは言う迄もない。

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2013年01月27日

最新最高裁判例

最高裁判所第二小法廷決定平成24年11月06日

【事案】

1(1) A及びB(以下「Aら」という。)は,平成22年5月26日午前3時頃,愛媛県伊予市内の携帯電話販売店に隣接する駐車場又はその付近において,同店に誘い出したC及びD(以下「Cら」という。)に対し,暴行を加えた。その態様は,Dに対し,複数回手拳で顔面を殴打し,顔面や腹部を膝蹴りし,足をのぼり旗の支柱で殴打し,背中をドライバーで突くなどし,Cに対し,右手の親指辺りを石で殴打したほか,複数回手拳で殴り,足で蹴り,背中をドライバーで突くなどするというものであった。

(2) Aらは,Dを車のトランクに押し込み,Cも車に乗せ,松山市内の別の駐車場(以下「本件現場」という。)に向かった。その際,Bは,被告人がかねてよりCを捜していたのを知っていたことから,同日午前3時50分頃,被告人に対し,これからCを連れて本件現場に行く旨を伝えた。

(3) Aらは,本件現場に到着後,Cらに対し,更に暴行を加えた。その態様は,Dに対し,ドライバーの柄で頭を殴打し,金属製はしごや角材を上半身に向かって投げつけたほか,複数回手拳で殴ったり足で蹴ったりし,Cに対し,金属製はしごを投げつけたほか,複数回手拳で殴ったり足で蹴ったりするというものであった。これらの一連の暴行により,Cらは,被告人の本件現場到着前から流血し,負傷していた。

(4) 同日午前4時過ぎ頃,被告人は,本件現場に到着し,CらがAらから暴行を受けて逃走や抵抗が困難であることを認識しつつAらと共謀の上,Cらに対し,暴行を加えた。その態様は,Dに対し,被告人が,角材で背中,腹,足などを殴打し,頭や腹を足で蹴り,金属製はしごを何度も投げつけるなどしたほか,Aらが足で蹴ったり,Bが金属製はしごで叩いたりし,Cに対し,被告人が,金属製はしごや角材や手拳で頭,肩,背中などを多数回殴打し,Aに押さえさせたCの足を金属製はしごで殴打するなどしたほか,Aが角材で肩を叩くなどするというものであった。被告人らの暴行は同日午前5時頃まで続いたが,共謀加担後に加えられた被告人の暴行の方がそれ以前のAらの暴行よりも激しいものであった。

(5) 被告人の共謀加担前後にわたる一連の前記暴行の結果,Dは,約3週間の安静加療を要する見込みの頭部外傷擦過打撲,顔面両耳鼻部打撲擦過,両上肢・背部右肋骨・右肩甲部打撲擦過,両膝両下腿右足打撲擦過,頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負い,Cは,約6週間の安静加療を要する見込みの右母指基節骨骨折,全身打撲,頭部切挫創,両膝挫創の傷害を負った。

2.原判決は,以上の事実関係を前提に,被告人は,Aらの行為及びこれによって生じた結果を認識,認容し,さらに,これを制裁目的による暴行という自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思の下に,一罪関係にある傷害に途中から共謀加担し,上記行為等を現にそのような制裁の手段として利用したものであると認定した。その上で,原判決は,被告人は,被告人の共謀加担前のAらの暴行による傷害を含めた全体について,承継的共同正犯として責任を負うとの判断を示した。

【判旨】

 所論は,被告人の共謀加担前のAらの暴行による傷害を含めて傷害罪の共同正犯の成立を認めた原判決には責任主義に反する違法があるという。
 そこで検討すると,事案1の事実関係によれば,被告人は,Aらが共謀してCらに暴行を加えて傷害を負わせた後に,Aらに共謀加担した上,金属製はしごや角材を用いて,Dの背中や足,Cの頭,肩,背中や足を殴打し,Dの頭を蹴るなど更に強度の暴行を加えており,少なくとも,共謀加担後に暴行を加えた上記部位についてはCらの傷害(したがって,第1審判決が認定した傷害のうちDの顔面両耳鼻部打撲擦過とCの右母指基節骨骨折は除かれる。以下同じ。)を相当程度重篤化させたものと認められる。この場合,被告人は,共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については,被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。原判決の事案2の認定は,被告人において,CらがAらの暴行を受けて負傷し,逃亡や抵抗が困難になっている状態を利用して更に暴行に及んだ趣旨をいうものと解されるが,そのような事実があったとしても,それは,被告人が共謀加担後に更に暴行を行った動機ないし契機にすぎず,共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問い得る理由とはいえないものであって,傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する上記判断を左右するものではない。そうすると,被告人の共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果を含めて被告人に傷害罪の共同正犯の成立を認めた原判決には,傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する刑法60条,204条の解釈適用を誤った法令違反があるものといわざるを得ない。
 もっとも,原判決の上記法令違反は,一罪における共同正犯の成立範囲に関するものにとどまり,罪数や処断刑の範囲に影響を及ぼすものではない。さらに,上記のとおり,共謀加担後の被告人の暴行は,Cらの傷害を相当程度重篤化させたものであったことや原判決の判示するその余の量刑事情にも照らすと,本件量刑はなお不当とはいえず,本件については,いまだ刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。

【千葉勝美補足意見】

 私は,法廷意見に補足して,次の点について私見を述べておきたい。

1.法廷意見の述べるとおり,被告人は,共謀加担前に他の共犯者らによって既に被害者らに生じさせていた傷害結果については,被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の暴行によって傷害の発生に寄与したこと(共謀加担後の傷害)についてのみ責任を負うべきであるが,その場合,共謀加担後の傷害の認定・特定をどのようにすべきかが問題となる。
 一般的には,共謀加担前後の一連の暴行により生じた傷害の中から,後行者の共謀加担後の暴行によって傷害の発生に寄与したことのみを取り出して検察官に主張立証させてその内容を特定させることになるが,実際にはそれが具体的に特定できない場合も容易に想定されよう。その場合の処理としては,安易に暴行罪の限度で犯罪の成立を認めるのではなく,また,逆に,この点の立証の困難性への便宜的な対処として,因果関係を超えて共謀加担前の傷害結果まで含めた傷害罪についての承継的共同正犯の成立を認めるようなことをすべきでもない。
 この場合,実務的には,次のような処理を検討すべきであろう。傷害罪の傷害結果については,暴行行為の態様,傷害の発生部位,傷病名,加療期間等によって特定されることが多いが,上記のように,これらの一部が必ずしも証拠上明らかにならないこともある。例えば,共謀加担後の傷害についての加療期間は,それだけ切り離して認定し特定することは困難なことが多い。この点については,事案にもよるが,証拠上認定できる限度で,適宜な方法で主張立証がされ,罪となるべき事実に判示されれば,多くの場合特定は足り,訴因や罪となるべき事実についての特定に欠けることはないというべきである。もちろん,加療期間は,量刑上重要な考慮要素であるが,他の項目の特定がある程度されていれば,「加療期間不明の傷害」として認定・判示した上で,全体としてみて被告人に有利な加療期間を想定して量刑を決めることは許されるはずである。本件を例にとれば,共謀加担後の被告人の暴行について,凶器使用の有無・態様,暴行の加えられた部位,暴行の回数・程度,傷病名等を認定した上で,被告人の共謀加担後の暴行により傷害を重篤化させた点については,「安静加療約3週間を要する背部右肋骨・右肩甲部打撲擦過等のうち,背部・右肩甲部に係る傷害を相当程度重篤化させる傷害を負わせた」という認定をすることになり,量刑判断に当たっては,凶器使用の有無・態様等の事実によって推認される共謀加担後の暴行により被害者の傷害を重篤化させた程度に応じた刑を量定することになろう。また,本件とは異なり,共謀加担後の傷害が重篤化したものとまでいえない場合(例えば,傷害の程度が小さく,安静加療約3週間以内に止まると認定される場合等)には,まず,共謀加担後の被告人の暴行により傷害の発生に寄与した点を証拠により認定した上で,「安静加療約3週間を要する共謀加担前後の傷害全体のうちの一部(可能な限りその程度を判示する。)の傷害を負わせた」という認定をするしかなく,これで足りるとすべきである。
 仮に,共謀加担後の暴行により傷害の発生に寄与したか不明な場合(共謀加担前の暴行による傷害とは別個の傷害が発生したとは認定できない場合)には,傷害罪ではなく,暴行罪の限度での共同正犯の成立に止めることになるのは当然である。

2.なお,このように考えると,いわゆる承継的共同正犯において後行者が共同正犯としての責任を負うかどうかについては,強盗,恐喝,詐欺等の罪責を負わせる場合には,共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の結果について因果関係を持ち,犯罪が成立する場合があり得るので,承継的共同正犯の成立を認め得るであろうが,少なくとも傷害罪については,このような因果関係は認め難いので(法廷意見が指摘するように,先行者による暴行・傷害が,単に,後行者の暴行の動機や契機になることがあるに過ぎない。),承継的共同正犯の成立を認め得る場合は,容易には想定し難いところである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成24年11月20日

【事案】

1.上告人らが,東広島市都市計画事業西条駅前土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)に関し,東広島市が土地区画整理法78条3項において準用する同法73条3項に基づき上告人ら及び選定者Aを相手方として損失の補償につき行った土地収用法94条2項の規定による裁決の申請は,土地区画整理法77条7項に基づき同市が自ら行うべき建築物等の移転(以下「本件直接施行」という。)が完了していない段階のもので不適法であるから,上記裁決の申請を却下しないでされた広島県収用委員会の平成18年10月24日付け裁決(以下「本件損失補償裁決」という。)は違法であると主張して,被上告人を相手に,本件損失補償裁決の取消しを求める事案。なお,上告人らは,本件と併合審理された訴えにおいて,東広島市の本件直接施行が完了していない以上,本件損失補償裁決に対する上告人ら及び選定者Aの審査請求を棄却した国土交通大臣の平成21年7月22日付け裁決(以下「本件裁決」という。)も違法であると主張して,国を相手に,本件裁決の取消しをも求めていたが,原判決のうちその請求を棄却すべきものとした部分は既に確定している。

(参照条文)

土地区画整理法

77条1項 施行者は、第九十八条第一項の規定により仮換地・・を指定した場合・・において、従前の宅地・・に存する建築物その他の工作物又は竹木土石等(以下これらをこの条及び次条において「建築物等」と総称する。)を移転し、又は除却することが必要となつたときは、これらの建築物等を移転し、又は除却することができる。
2項 施行者は、前項の規定により建築物等を移転し、又は除却しようとする場合においては、相当の期限を定め、その期限後においてはこれを移転し、又は除却する旨をその建築物等の所有者及び占有者に対し通知するとともに、その期限までに自ら移転し、又は除却する意思の有無をその所有者に対し照会しなければならない。
7項 施行者は、第二項の規定により建築物等の所有者に通知した期限後・・においては、いつでも自ら建築物等を移転し、若しくは除却し、又はその命じた者若しくは委任した者に建築物等を移転させ、若しくは除却させることができる。この場合において、・・以下略。
8項 前項の規定により建築物等を移転し、又は除却する場合においては、その建築物等の所有者及び占有者は、施行者の許可を得た場合を除き、その移転又は除却の開始から完了に至るまでの間は、その建築物等を使用することができない。

78条1項 前条第一項の規定により施行者が建築物等を移転し、若しくは除却したことにより他人に損失を与えた場合・・においては、施行者(・・かっこ書き略。)は、その損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償しなければならない。
3項 第七十三条第二項から第四項までの規定は、第一項の規定による損失の補償について準用する。この場合において、同条第四項中「国土交通大臣、都道府県知事、市町村長若しくは機構理事長等又は前条第一項後段に掲げる者」とあるのは「施行者」と、「同項又は同条第六項」とあるのは「第七十七条第一項」と読み替えるものとする。

73条2項 前項の規定による損失の補償については、損失を与えた者と損失を受けた者が協議しなければならない。
3項 前項の規定による協議が成立しない場合においては、損失を与えた者又は損失を受けた者は、政令で定めるところにより、収用委員会に土地収用法 (昭和二十六年法律第二百十九号)第九十四条第二項の規定による裁決を申請することができる。

土地収用法

94条2項 前項の規定による協議が成立しないときは、起業者又は損失を受けた者は、収用委員会の裁決を申請することができる。

133条 収用委員会の裁決に関する訴え(次項及び第三項に規定する損失の補償に関する訴えを除く。)は、裁決書の正本の送達を受けた日から三月の不変期間内に提起しなければならない。
2 収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から六月以内に提起しなければならない。
3 前項の規定による訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならない。

2.事実関係等の概要

(1) 上告人X1,上告人X2及び選定者Aは,亡Bの相続人である。

(2) B所有の広島県東広島市西条本町に所在する木造瓦葺平家(一部2階)建の建物その他工作物及び立竹木土石等(以下併せて「本件建物等」という。)並びに選定者Aを代表者とする上告人X3(以下「上告人会社」という。)所有の同町に所在する工作物等一式(以下「本件工作物等」という。)は,本件事業の平成15年度の移転区域に存していた。

(3) 東広島市は,平成15年10月30日付けで,上告人X1,上告人X2及び選定者Aに対して本件建物等の移転につき,上告人会社に対して本件工作物等の移転につき,それぞれ期限を同16年2月10日とする土地区画整理法77条2項の通知及び照会をした。
 東広島市は,同年3月24日,同条7項に基づき本件直接施行に着手し,同年9月29日,本件建物等及び本件工作物等を仮換地上に移動した上で,上告人ら及び選定者Aに対し,本件直接施行の完了を通知した。
 東広島市は,平成17年3月17日,同法78条1項の規定による損失の補償について上告人ら及び選定者Aとの間で協議をしたものの,当該協議が成立しなかったとして,同条3項において準用する同法73条3項に基づき,上告人ら及び選定者Aを相手方として,広島県収用委員会に損失の補償に係る裁決の申請をしたところ,同委員会は,同18年10月24日,本件損失補償裁決をした。

(4) 上告人ら及び選定者Aは,平成18年11月20日,本件損失補償裁決を不服として,国土交通大臣に対し審査請求をしたところ,同大臣は,同21年7月22日,上記審査請求を棄却する旨の本件裁決をした。本件裁決の裁決書の謄本は,同月23日,上告人ら及び選定者Aに対して送達された。
 上告人らは,平成22年1月19日,本件裁決の取消しを求める訴えを提起し,同年6月1日,行政事件訴訟法19条1項に基づき,本件裁決の原処分である本件損失補償裁決の取消しを求める訴えをこれに併合して提起した。

3.原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件損失補償裁決の取消しを求める訴えを却下すべきものとした。
 土地収用法133条1項は,収用委員会の裁決に関する訴えは,損失の補償に関する訴えを除き,裁決書の正本の送達を受けた日から3か月の不変期間内に提起しなければならないと規定し,行政事件訴訟法14条所定の出訴期間より短期の出訴期間を定めている。そして,収用委員会の裁決に対して審査請求をした場合の当該収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間についても,土地収用法133条1項の規定が優先して適用される結果,行政事件訴訟法14条3項の定めにかかわらず,当該取消訴訟は,当該審査請求に対する裁決の裁決書の正本の送達を受けた日から3か月以内に提起しなければならない。本件損失補償裁決の取消しを求める訴えは,同法20条により,本件裁決の取消しを求める訴えが提起された平成22年1月19日に提起されたものとみなされるところ,同訴えは,本件裁決の裁決書に係る送達がされた同21年7月23日から3か月を経過した後に提起されたものであり,出訴期間を徒過した不適法な訴えである。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 平成16年法律第84号(行政事件訴訟法の一部を改正する法律。以下「平成16年改正法」という。)により,国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る観点から,出訴期間の定めによる法律関係の安定を考慮しつつ,国民が行政事件訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保するために,行政事件訴訟法14条1項所定の取消訴訟の出訴期間が3か月から6か月に延長された一方,平成16年改正法附則により,土地収用に係る法律関係の早期安定の観点から,土地収用法に「収用委員会の裁決に関する訴え(次項及び第3項に規定する損失の補償に関する訴えを除く。)は,裁決書の正本の送達を受けた日から3月の不変期間内に提起しなければならない。」との短期の出訴期間を定める特例規定(133条1項)が設けられた。しかし,収用委員会の裁決についての審査請求に対する裁決の取消訴訟の出訴期間については,このような不服申立てに対する裁決につき短期の出訴期間の特例を定める立法例がある中で,土地収用法に同様の特例規定が設けられなかったことから,その取消訴訟の出訴期間は,行政事件訴訟法14条1項及び2項により審査請求に対する裁決があったことを知った日から6か月以内かつ当該裁決の日から1年以内とされることとなった。これは,審査請求がされた場合における審査請求に対する裁決の取消訴訟については,同法の一般規定による通例の出訴期間に服させ,訴えの提起の要否等に係る検討の機会を十分に付与するのが相当であるとされたものと解される。
 他方,審査請求をすることができる場合(行政庁が誤ってその旨を教示した場合を含む。以下同じ。)において審査請求がされたときにおける原処分の取消訴訟の出訴期間について,平成16年改正法による改正前の行政事件訴訟法14条4項は,同条1項及び3項(現行の同条1項及び2項に相当)に対する起算点に限った特則として,「第1項及び前項の期間は,…その審査請求をした者については,これに対する裁決があったことを知った日又は裁決の日から起算する。」と規定するにとどめていたが,平成16年改正法による改正後の行政事件訴訟法14条3項は,同条1項及び2項とは別個の規定として,「処分又は裁決に係る取消訴訟は,その審査請求をした者については,前2項の規定にかかわらず,これに対する裁決があったことを知った日から6箇月を経過したとき又は当該裁決の日から1年を経過したときは,提起することができない。」と規定し,審査請求に対する裁決の取消訴訟の出訴期間と起算点を含めて同一の期間と定めている。

(2) 行政事件訴訟法14条3項は,審査請求をすることができる場合において審査請求がされたときにおける原処分の取消訴訟の出訴期間の一般原則を定めるものであり,特別法の規定の解釈により例外的にその短縮を認めることについては,国民が行政事件訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保するという同条の改正の趣旨に鑑み,慎重な考慮を要する。
 土地収用法に,収用委員会の裁決につき審査請求がされた場合における当該審査請求に対する裁決の取消訴訟について短期の出訴期間を定める特例規定が設けられなかったのは,上記(1)のとおり,当該審査請求に対する裁決の取消訴訟について訴えの提起の要否等に係る検討の機会を通例と同様に確保する趣旨であると解され,そうすると,収用委員会の裁決につき審査請求がされなかった場合に法律関係の早期安定の観点から出訴期間を短縮する特例が定められているとしても,収用委員会の裁決につき審査請求がされた場合における収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間について,これと必ずしも同様の規律に服させなければならないというものではない。収用委員会の裁決につき審査請求をすることができる場合において審査請求がされたときにおける当該裁決の取消訴訟の出訴期間と当該審査請求に対する裁決の取消訴訟の出訴期間については,両者とも行政事件訴訟法14条3項を適用して同一の期間と解することができるところ,むしろその解釈によることが,国民が行政事件訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保するという同条の改正の趣旨に沿ったものであるといえる。のみならず,行政事件訴訟法20条は,同法19条1項前段の規定により処分の取消しの訴えをその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えに併合して提起する場合について,出訴期間の遵守については処分の取消しの訴えは裁決の取消しの訴えを提起した時に提起されたものとみなす旨を規定しており,これは,同法10条2項が裁決の取消しの訴えにおいては処分の違法を理由として取消しを求めることができないとしていることを看過するなどして処分の違法を理由とする裁決の取消しの訴えを提起した者につき,原処分の取消訴訟の出訴期間の徒過による手続上の不利益を救済することに配慮したものと解されるところ,審査請求をすることができる場合において審査請求がされたときにおける原処分の取消訴訟の出訴期間と裁決の取消訴訟の出訴期間につき,仮に特別法により前者が後者より短期とされれば,一定の範囲で行政事件訴訟法20条による救済がされない場合が生ずることとなるのに対し,同法の一般規定のとおり両者が同一の期間であれば,同条による救済が常に可能となるのであって,上記のように両者を同一の期間と解することが同条の趣旨にも沿うものというべきである。
 したがって,収用委員会の裁決につき審査請求をすることができる場合において,審査請求がされたときは,収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間については,土地収用法の特例規定(133条1項)が適用されるものではなく,他に同法に別段の特例規定が存しない以上,原則どおり行政事件訴訟法14条3項の一般規定が適用され,その審査請求に対する裁決があったことを知った日から6か月以内かつ当該裁決の日から1年以内となると解するのが相当である。

(3) 以上によれば,本件損失補償裁決の取消しを求める訴えの出訴期間は,本件裁決があったことを知った日から6か月以内かつ本件裁決の日から1年以内(行政事件訴訟法14条3項)となるところ,本件損失補償裁決の取消しを求める訴えは,本件裁決の裁決書の謄本が送達されて当該裁決があったことを知った日から6か月以内であって本件裁決の日から1年以内の平成22年1月19日に提起された本件裁決の取消しを求める訴えに,同法19条1項前段の規定により追加的に併合して提起されたものであり,同法20条によって同日に提起されたものとみなされることから,出訴期間を遵守して提起されたものというべきである。

2.以上のとおり,本件損失補償裁決の取消しを求める訴えが出訴期間を徒過した違法なものであるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち被上告人に関する部分は破棄を免れない。そして,同部分につき,第1審判決を取り消し,@ 本件直接施行が土地区画整理法77条の規定に従って行われ,同法78条1項の「前条第1項の規定により施行者が建築物等を移転し,若しくは除却したことにより他人に損失を与えた場合」に当たるものとして,かつ,A 同法78条3項において準用する同法73条3項の「前項の規定による協議が成立しない場合」に当たるものとして,施行者である東広島市が広島県収用委員会の裁決を申請することができるのか否か等,本件損失補償裁決の適法性について審理させるため,本件を第1審に差し戻すべきである。

【田原睦夫補足意見】

 本件は,差戻審において,本件損失補償裁決の適法性が一から審理されることになるところ,その審理の参考に供する趣旨で,本件記録から認められる若干の問題点について私の考えるところを以下に補足的に指摘しておくこととする。

(1) 本件直接施行の瑕疵の有無について

 本件損失補償裁決が適法か否かの判断をなすに当たっては,その裁決と前提となる各手続の瑕疵の有無が問われるところ,本件においては,本件直接施行が土地区画整理法77条の規定に基づくものと評価できるか否かが問われることとなる。
 ところで,上告人らの主張によれば,東広島市が上告人らに対して,平成15年10月30日付で,同16年2月10日を期限とする同条2項に基づく本件「通知及び照会」をした時点では,その移転先たる本件仮換地は,同地上に存したパチンコ店等の取壊し,撤去が未だなされておらず,その後に行われる宅地造成工事等の完成予定日も未定であったというのである(原判決の認定によれば,仮換地の造成工事の完成検査は,本件「通知及び照会」で移転期限とされた平成16年2月10日より後の同年3月30日である。)。
 上告人らの上記主張どおりの事実が認められる場合には,本件「通知及び照会」に定められた期限内に上告人らにて本件建物等を移転することは物理的に可能であったか否か自体に疑問が存し,仮に,その期限内に移転することが物理的に困難であったと認められる場合には,本件「通知及び照会」の瑕疵は重大なものといわざるを得ず,ひいては本件直接施行をもって同条に基づくものと評価することができるか自体に疑問が生じるといわざるを得ない。
 また,上告人らは,本件建物は,建築基準法施行前の建物であって,その移転工事をするには,同法に基づき建築確認手続が必要である旨主張しているところ,仮に上告人ら主張どおり建築基準法の手続が必要であるならば,本件における移転期限を定めるに当たっては,その手続に必要な期間をも考慮する必要があるといえるのであって,かかる観点からも,本件「通知及び照会」の瑕疵の有無及び程度が検討される必要があるといえよう。

(2) 土地区画整理法78条1項の移転の完了の有無について

 上告人らは,本件建物の移転は,建築基準法に定められた手続を経ていないから,土地区画整理法78条1項の移転の完了とはいえないと主張しているのに対し,原判決は,同項の移転の完了の有無は施行者の判断に委ねられているところ,直接施行による移転が完了したとするには,施行者が物理的に移転したものと判断し,その旨を客観的に明らかにすれば足りる旨判示する。
 しかし,同法77条7項による移転が行われる場合,その建築物等の所有者及び占有者は,その移転の開始から完了に至るまでの間は,その建築物等を使用することができないとされ(同条8項),その完了後にはその使用をすることができるところ,それは,移転前において適法な状態の建物として使用することができていた場合には,移転後においても適法な建物として使用できることが予定されているといえるのであって,単に物理的に移転を終えただけでは,直ちには,同法78条1項の移転の完了とは評価し得ないものというべきである。
 ところで,上告人らは,曳家工法で移転がなされた本件建物は,その移転前は建築基準法施行の際に現に存する建物として同法は適用されない建物であったところ(同法3条2項),曳家工法による移転であっても,その移転には同法の適用がある旨主張している。
 上告人らの主張するとおり本件建物の移転にも同法が適用されるならば,移転した建物が同法に違反する場合には,同法9条により除却,修繕,使用禁止,使用制限等の措置を命じられる可能性が存するのであり,仮に本件移転後の建物に対して上記措置が命じられる現実の可能性が存するときには,物理的に移転したことのみをもって移転が完了したと評価できるかは疑問であるといわざるを得ない。
 原判決の如く,移転後の建物につき建築基準法が適用されるか否か,適用される場合には,本件建物が同法の定める基準に適合しているか否か,適合していない場合に上記措置が命じられる可能性の有無,程度等について何らの検討を加えることなく,物理的な移転の完了をもって,土地区画整理法78条1項の移転が了したと解するのは,粗雑な解釈であるといわざるを得ない。
 また,仮に移転した建物が建築基準法上の違法な建築物として是正命令の対象たり得るような建物である場合に,土地区画整理法78条1項の定める「通常生ずべき損失」を適正に算定することができるかについては,大いに疑問である。
 差戻審においては,以上の諸点をも参考にして,更に審理が尽くされることを望むものである。

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