2015年01月14日

傷害の意義について

1.当サイト作成の「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」の傷害の意義について、予備校等で紹介している定義と違うのではないか、と疑問を持った人もいるかもしれません。「傷害」の定義としては、多くの人が、現在でも「生理的機能障害」と覚えているのではないかと思います。これを、判例として紹介するものもあるようです。しかし、判例は、これとは少し違う言い回しを用いています。

 

最判昭24・7・7より引用、太字強調は筆者)

 刑法にいわゆる「傷害」とは他人の健康状態の不良変更等生活機能に障害を与える場合を包含する人の体躯の完全性を害するをいうのである。されば原判決が判示被害者の左耳殻後部右上肢前面及び左右上腿部に与えた治療約一週間を要する十数ケ所の擦過傷を目して「傷害」と解したのは正当であつて、この点につき原判決には法律の解釈を誤つた違法はない

(引用終わり)

最判昭24・12・10より引用、太字強調は筆者)

 所論は原判示の傷は極めて軽微の傷で身体傷害とはいえないというのであるが軽微な傷でも人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上刑法にいわゆる傷害と認むべきであるから原判決が原判示の傷を傷害と認め被告人の所為をもつて刑法第一八一条に問擬したのは正当で論旨は理由がない。

(引用終わり)

最決昭32・4・23より引用、太字強調は筆者)

 原判決が、刑法にいわゆる傷害とは、他人の身体に対する暴行によりその生活機能に障がいを与えることであつて、あまねく健康状態を不良に変更した場合を含むものと解し、他人の身体に対する暴行により、その胸部に疼痛を生ぜしめたときは、たとい、外見的に皮下溢血、腫脹又は肋骨骨折等の打撲痕は認められないにしても、前示の趣旨において傷害を負わせたものと認めるのが相当であると判示したのは正当であつて誤りはない。

(引用終わり)

 

 上記のように、判例は、「健康状態を不良に変更する」、「生活機能に障害を与える」という言い回しを用いています(※)。上記の各判例は昭和20年代、30年代のものなので古いと思われるかもしれませんが、この言い回しは、現在の判例も用いている確立した表現です。

最判昭24・7・7では、「人の体躯の完全性を害する」という言い回しも用いられていますが、この表現はその後の判例では用いられていません。

 

最決平24・1・30より引用、太字強調は筆者)

 被告人は,病院で勤務中ないし研究中であった被害者に対し,睡眠薬等を摂取させたことによって,約6時間又は約2時間にわたり意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせ,もって,被害者の健康状態を不良に変更し,その生活機能の障害を惹起したものであるから,いずれの事件についても傷害罪が成立すると解するのが相当である。

(引用終わり)

 

 当サイト作成の「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」で採用している定義は、上記判例の言い回しを用いたものです。

2.また、強盗致傷や強姦致傷の場合には、より重度の傷害に限定すべきであるとする考え方が、学説上有力です。下級審でも、限定説を採用したものがあります(広島地判昭52・7・13、大阪地判昭54・6・21等)。しかし、最高裁の判例としては、現在に至るまで、非限定説で確立しています。

 

最決昭37・8・21より引用、太字強調は筆者)

 軽微な傷でも、人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上、刑法にいわゆる傷害と認めるべきこと当裁判所の判例(昭和二四年(れ)二〇五五号同年一二月一〇日第二小法廷判決、裁判集一五号二七三頁、昭和三〇年(あ)八〇三号同三二年四月二三日第三小法廷決定、刑集一一巻四号一三九三頁)の示すとおりであるから、原判決が原判示の傷を傷害と認め、被告人らの所為をもつて刑法二四〇条前段に問擬したのは正当である

(引用終わり)

最決昭38・6・25より引用、太字強調は筆者)

 軽微な傷でも、人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上、刑法所定のいわゆる傷害に該当するものであつて、同法一八一条所定の傷害を同法二〇四条所定の傷害と別異に解釈すべき特段の事由は存しないこと、当裁判所の判例(昭和三四年(あ)第一六八六号同三七年八月二一日第三小法廷決定参照)の趣旨に徴し、明らかであるから、原判決が原判示の傷を傷害と認め、被告人の所為をもつて、同法一八一条に問擬したのは正当である。

(引用終わり)

最決昭41・9・14より引用、太字強調は筆者)

 軽微な傷でも、人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上、刑法にいわゆる傷害と認めるべきことは、当裁判所の判例(昭和三四年(あ)第一六八六号同三七年八月二一日第三小法廷決定、裁判集一四四号一三頁)の示すところであるから、原判決が原判示の傷を傷害と認め、被告人らの所為をもつて刑法二四〇条前段に問擬したのは正当である

(引用終わり)

最決昭46・1・28より引用、太字強調は筆者)

 弁護人大川隆司の上告趣意は、刑訴法四〇五条三号所定の控訴裁判所たる高等裁判所の判例違反をいうが、強姦致傷罪における傷害の意義については、すでに最高裁判所の判例が存在する(昭和二四年(れ)第二〇五五号同年一二月一〇日第二小法廷判決・裁判集一五号二七三頁、昭和三八年(あ)第五七二号同年六月二五日第三小法廷決定・裁判集一四七号五〇七頁)のであるから、所論判例違反の主張は不適法で上告適法の理由にあたらない。なお、軽微な傷でも、人の健康状態を不良に変更するものであれば、刑法所定の傷害に該当するのであつて、同法一八一条所定の傷害を同法二〇四条所定の傷害と別異に解すべき事由は存在しない

(引用終わり)

最決平6・3・4より引用、太字強調は筆者)

 弁護人宮田桂子の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、強盗致傷罪における傷害の意義について、軽微な傷でも、人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上、刑法にいわゆる傷害と認めるべきことは、既に最高裁判所の判例(最高裁昭和三四年(あ)第一六八六号同三七年八月二一日第三小法廷決定・裁判集刑事一四四号一三頁、最高裁昭和四一年(あ)第一二二四号同年九月一四日第二小法廷決定・裁判集刑事一六〇号七三三頁)が存在するところであるから、所論は前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

(引用終わり)

 

 「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」でも、非限定説を採用しています。刑法各論では、個別の論点を深く論じるよりも、多数の論点をコンパクトに処理することが求められます。ですから、通常の事例問題であれば、非限定説から簡単に処理して問題ないでしょう。限定説で書く場合には、なぜ限定するのかという理由付けを説明する必要があります。そのくらいの余裕がある場合には、限定説で書いてもよいのですが、この論点でそのような時間と紙幅を用いるくらいであれば、他の論点の当てはめ、評価を充実させるべきでしょう。

posted by studyweb5 at 03:55| 論点解説 | 更新情報をチェックする

2014年05月04日

行政裁量の広狭の考慮要素

1.群馬バス事件判例(最判昭50・5・29)は、判断過程審査や手続違法と処分の効力との関係についての判例として有名ですが、行政裁量の広狭、覊束裁量か自由裁量かの区別についての考慮要素を明確に示した判例であることは、あまり知られていません。

2.かつての通説的見解は、行政裁量の広狭は行政行為の性質によって決まると考えていました。そのため、行政裁量の広狭を決するに当たっては、まず、当該行政行為がどの類型に当たるのか。命令的行為なのか、形成的行為なのか。あるいは、特許なのか、許可なのか。そういったことを検討し、そこから、行政裁量の範囲を導出していたのです。しかし、群馬バス事件判例は、そのようなことは裁量の範囲の結論を左右しないと言います。

 

群馬バス事件判例(最判昭50・5・29)より引用、太字強調は筆者)

 原審は、まず、一般乗合旅客自動車運送事業を独占の一形態でありその免許を公企業の特許であるとしたうえで、運輸大臣は、道路運送法六条一項に定める基準のすべてに適合し、かつ、同法六条の二の欠格事由に該当しない場合でなければこれを免許することができず、右基準のいずれかに適合しないときは申請を却下しなければならないものであり、また、右免許基準に適合するかどうかの判断は覊束裁量に属すると解し、この見解に基づき、本件免許申請につき同法六条一項一号の基準に適合しないとした被上告人の判断の適否について検討し、右判断は相当であるとするとともに、他方、行政庁が行政処分を行うにあたつては、事実の認定、法律の適用等の実質的判断はもとより、その手続についても公正でなければならないと解し、この見解に基づき、本件免許申請に対する審理手続を検討し、右審理手続上においても違法は認められないとしたのである。
 しかしながら、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と解するかどうかは、必ずしも、本件の結論に影響があるものとは考えられない

(引用終わり)

 

 その上で、行政行為の性質論に代わる考慮要素を具体的に示します。まずは、国民の自由の制約の程度です。これは裁量を狭くする要素です。判例の事案では、効果裁量を否定する要素となっています。

 

群馬バス事件判例(最判昭50・5・29)より引用、太字強調は筆者)

 自動車運送事業は高度の公益性を有し、その経営は直接社会公共の利益に関係があるものであるから、憲法二二条一項にいう職業選択の自由に対する公共の福祉に基づく制限として、道路運送法は、四条において、自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならないとし、六条一項において、免許基準を設け、また、六条の二において、欠格事由を定めているのであり(当裁判所昭和三五年(あ)第二八五四号同三八年一二月四日大法廷判決・刑集一七巻一二号二四三四頁参照)、これにより、運輸大臣は、右免許基準のすべてに適合し、かつ、右欠格事由に該当しない場合でなければ免許を付与してはならない旨の拘束を受けるものと解されるのであつて、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と解するかどうかによりこの理が左右されるものではない。

(引用終わり)

 

 次は、基準の抽象性、概括性と専門技術的・公益的判断の必要性です。これは裁量を広くする要素です。判例の事案では、要件裁量を肯定する要素となっています。

 

群馬バス事件判例(最判昭50・5・29)より引用、太字強調は筆者)

 右免許基準は極めて抽象的、概括的なものであり、右免許基準に該当するかどうかの判断は、行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし、ある程度の裁量的要素があることを否定することはできないが、このことも、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と考えるかどうかによつて差異を生ずるものではない

(引用終わり)

 

 さらに、制度上及び手続上の特別の規定の存在を挙げます。これは、裁量を狭くする要素、より具体的には、判断過程における手続の適正の要求を導きます。

 

群馬バス事件判例(最判昭50・5・29)より引用、太字強調は筆者)

 法は、道路運送法一二二条の二、運輸省設置法六条一項七号、八条以下、運輸審議会一般規則等において、右免許の許否の決定の適正と公正を保障するために制度上及び手続上特別の規定を設け、全体として適正な過程により右決定をなすべきことを法的に義務づけているのであり、このことから、右免許の許否の決定は手続的にも適正でなければならないものと解されるのであつて、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と解するかどうかによつてこれが左右されるものではない

(引用終わり)

 

3.このように、最高裁は、裁量の広狭の考慮要素を明確に示す一方で、しつこいほど、公企業の特許かどうかによってこれが左右されない旨を判示しています。ここまで明示的な判示であるにもかかわらず、この判示部分がそれほど有名ではないのは、当時の学説との乖離が大きかったからでしょう。当時は、個別法解釈により決するのではなく、より大きな視点で統一的に解決できるような方法論が好まれていました。行政行為の性質から一刀両断的に結論を導くアプローチの方が、体系的理解という点からは優れていると考えられたのです。
 しかし、それでは具体的事例処理において適切な結論が導けない場合がある。判例が当初からそのようなアプローチを採らなかったのは、その意味では当然ともいえます。そして、現在では、処分の相手方以外の第三者の原告適格の判断や「仕組み解釈」という概念に顕著なように、学説においても、個別法を詳細に検討して個別具体的に結論を導くアプローチが、当たり前になりつつあります。上記の群馬バス事件判例の判示は、現在ではむしろ自然にみえるでしょう。 

4.群馬バス事件判例が示した考慮要素を確認した後で、他の判例を読むと、理解が深まります。例えば、在留更新に関するものとして有名なマクリーン事件判例(最大判昭53・10・4)を見てみましょう。

 

マクリーン事件判例(最大判昭53・10・4)より引用、太字強調は筆者)

 憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、所論のように在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものでもないと解すべきである。そして、上述の憲法の趣旨を前提として、法律としての効力を有する出入国管理令は、外国人に対し、一定の期間を限り(四条一項一号、二号、一四号の場合を除く。)特定の資格によりわが国への上陸を許すこととしているものであるから、上陸を許された外国人は、その在留期間が経過した場合には当然わが国から退去しなければならない。もつとも、出入国管理令は、当該外国人が在留期間の延長を希望するときには在留期間の更新を申請することができることとしているが(二一条一項、二項)、その申請に対しては法務大臣が「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り」これを許可することができるものと定めている(同条三項)のであるから、出入国管理令上も在留外国人の在留期間の更新が権利として保障されているものでないことは、明らかである。
 右のように出入国管理令が原則として一定の期間を限つて外国人のわが国への上陸及び在留を許しその期間の更新は法務大臣がこれを適当と認めるに足りる相当の理由があると判断した場合に限り許可することとしているのは、法務大臣に一定の期間ごとに当該外国人の在留中の状況、在留の必要性・相当性等を審査して在留の許否を決定させようとする趣旨に出たものであり、そして、在留期間の更新事由が 概括的に規定されその判断基準が特に定められていないのは、更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広汎なものとする趣旨からであると解される。すなわち、法務大臣は、在留期間の更新の許否を決するにあたつては、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立つて、申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情をしんしやくし、時宜に応じた的確な判断をしなければならないのであるが、このような判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければとうてい適切な結果を期待することができないものと考えられる。このような点にかんがみると、出入国管理令二一条三項所定の「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの判断における法務大臣の裁量権の範囲が広汎なものとされているのは当然のことであつて、所論のように上陸拒否事由又は退去強制事由に準ずる事由に該当しない限り更新申請を不許可にすることは許されないと解すべきものではない。

(引用終わり)

 

 上記太字強調部分をみると、群馬バス事件判例の示した権利制約性、規定の概括性、専門技術的公益的判断の必要性といった考慮要素が順番に検討されていることがわかります。

5.司法試験定義趣旨論証集(行政法)では、「法律行為的行政行為の裁量」、「公企業の特許の法的性質と裁量の範囲」、「覊束裁量と自由裁量の区別」の論点で、群馬バス事件を引用して上記趣旨を論証化しています。予備校論証に慣れていると奇異に感じるかもしれませんが、上記を参照すれば、趣旨を理解して頂けると思います。

posted by studyweb5 at 17:08| 論点解説 | 更新情報をチェックする

2014年04月28日

実行の着手について

1.今回は、司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)における実行の着手の意義について、補足をしておきたいと思います。
 司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)で採用している定義は、直前行為を含む形式的客観説で、判例の立場です。構成要件的行為の開始と考えたのでは着手が遅すぎるため、直前の密接な行為も含むと考える考え方です。その際、密接な行為には法益侵害の危険性がなければならない。すなわち、密接性と危険性が着手の要件ということになります。判例は、法益侵害の危険性について、「具体的危険性」や「直接的現実的危険性」ではなく、「客観的な危険性」という表現を用いています。具体性・直接性・現実性という要素は、「密接な行為」か否かの点で考慮しているからでしょう。

 

東京高判昭29・12・27より引用、太字強調は筆者)

 一般に実行の着手とは犯罪構成要件を実現する意思を以て、その実行即ち犯罪構成要件に該当する行為を開始することを指称するものと解すべく、即ち犯罪行為の実行の着手があつたかどうかは主観的には犯罪構成要件を実現する意思乃至は認識を以てその行為をしたかどうか、客観的には、一般的に犯罪構成事実を実現する抽象的危険ある行為がなされたかどうかを探究して個々の場合につき具体的に認定さるべき事実問題であるということができる。 犯罪構成事実に属する行為及びこれに直接密接する行為がなされたときに犯罪実行の着手があるとするのも、実行の着手の客観的方面に即してこれを定義したものに外ならない。

(中略)

 検察官はBが自宅を出たときに本件交付罪の着手があつたものと主張するが、右行為は一般的に観察して未だ「交付」に直接密接な行為とは認め難く、いわゆる予備の段階たるに止まるものと認めるのが相当である。

(引用終わり)

仙台高判昭30・11・8より引用、太字強調は筆者)

 原判決挙示の証拠を以ては、被告人は窃盗の決意を以て簟笥の附近に居り、その決意実行の機を窺つていたということを認め得るに止まり、窃盗の決意をした後、それを実現すべく簟笥に近ずいたということは認め得ず、その他何等か他人の財物の事実上の支配を侵すにつき密接な行為をしたもの、即ち窃盗の事行に着手したものであることは之を認めることができないのである。

(引用終わり)

最決昭45・7・28より引用、太字強調は筆者)

 被告人が同女をダンプカーの運転席に引きずり込もうとした段階においてすでに強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において強姦行為の着手があつたと解するのが相当であり、また、Bに負わせた右打撲症等は、傷害に該当すること明らかであつて(当裁判所昭和三八年六月二五日第三小法廷決定、裁判集刑事一四七号五〇七頁参照)、以上と同趣旨の見解のもとに被告人の所為を強姦致傷罪にあたるとした原判断は、相当である。

(引用終わり)

最決平16・3・22より引用、太字強調は筆者)

 第1行為は第2行為に密接な行為であり,実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから,その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。

(引用終わり)

最判平20・3・4より引用、太字強調は筆者)

 本件においては,回収担当者が覚せい剤をその実力的支配の下に置いていないばかりか,その可能性にも乏しく,覚せい剤が陸揚げされる客観的な危険性が発生したとはいえないから,本件各輸入罪の実行の着手があったものとは解されない

(引用終わり)

 

2.「密接な行為」の判断要素を示したのが、有名なクロロホルム事件(上記引用の最決平16・3・22)です。

 

最決平16・3・22より引用、太字強調は筆者)

 実行犯3名の殺害計画は,クロロホルムを吸引させてVを失神させた上,その失神状態を利用して,Vを港まで運び自動車ごと海中に転落させてでき死させるというものであって,第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること,第1行為に成功した場合,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや,第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと,第1行為は第2行為に密接な行為であり,実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから,その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。

(引用終わり)

 

 まず、上記の判断要素は、「密接な行為」か否か、という点に係るものであることを理解する必要があります。上記引用部分を漫然と読むと、客観的な危険性をも基礎付けるかのように読めます。しかし、第1行為の客観的な危険性は、既に事実審段階で認定されています。

 

最決平16・3・22より引用、太字強調は筆者)

1 1,2審判決の認定及び記録によると,本件の事実関係は,次のとおりである。

(中略)

(5) 被告人B及び実行犯3名は,第1行為自体によってVが死亡する可能性があるとの認識を有していなかった。しかし,客観的にみれば,第1行為は,人を死に至らしめる危険性の相当高い行為であった

(引用終わり)

 

 前記引用のうち「実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから」の部分は、この事実認定を確認したに過ぎません。ですから、その前の考慮要素(必要不可欠性、遂行障害不存在、時間的場所的近接性)は、すべて「密接な行為」の判断要素だということになるわけです。
 現在学説上有力な実質的客観説(及びこれをベースにした予備校論証)によれば、上記の「客観的にみれば,第1行為は,人を死に至らしめる危険性の相当高い行為であった。」という部分だけで着手を肯定することになりかねないのですが、判例は、単に危険性があるというだけでなく、構成要件的行為と密接な行為でなければならないと考えることから、さらに上記各要素の検討が必要になるのです。理論的に説明するなら、これは罪刑法定主義を重視する形式的客観説の立場からの形式的枠付けともいえます。また、実質的客観説からも、上記各要素は危険の具体性・現実性・直接性(≒密接性)を基礎付けるものとして必要だ、という理解が可能でしょう。従来の予備校論証等は、この点の整理が不十分であったように感じます。

3.そして、同判例は、早すぎた構成要件の実現の場合における事例判例ではありますが、上記の判断要素は、一般的に妥当すると考えることができます。例えば、無人の倉庫に侵入して窃盗を行う場合の実行の着手を考えると、倉庫の中の物を盗むには倉庫に入らなければならず(必要不可欠性)、無人の倉庫に入ってしまえば(警備状況にもよりますが通常は)窃取の障害は特段存在しなくなります(遂行障害不存在)。時間的場所的接着性も容易に肯定できます。従って、倉庫に侵入する行為は、「密接な行為」といえる。従って、これによって物の占有侵害の客観的な危険が認められれば、その時点で着手を認めることができる。このように、これらの判断要素は、実行の着手一般に広く応用可能な考慮要素なのです。
 司法試験定義趣旨論証集(刑法総論) では、上記のような理解を前提に整理して論証化しているために、従来の予備校論証等とは異なっているのです。

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刑事訴訟法判例百選 第10版〈別冊ジュリスト232号〉
青学大、法科大学院の募集を停止
立教大と桐蔭横浜大、法科大学院の募集停止
会社法訴訟 (【企業訴訟実務問題シリーズ】)
【大阪開催】≪弁護士インハウス希望者対象≫弁護士のキャリアを共に考える!個別転職相談会
受験新報 2017年 07 月号
法学教室 2017年 06 月号
【東京開催】司法試験受験者のための就職活動スタートダッシュセミナー!(各論編)
【東京開催】司法試験受験者のための就職活動スタートダッシュセミナー!(総論編)
ジュリスト 2017年 06月号
【横浜開催】≪法務対象≫電話相談でもOK!土曜日も開催!地元・神奈川県で働きたい方向け個別転職相談会
会社法入門(第五版)
判例検索ソフトの「コピペ裁判官」増加 最高裁も危機感募らす実態
法曹養成制度改革連絡協議会第7回協議会配布資料
会社訴訟ハンドブック
法務省だより あかれんが第57号(2017年5月)
国際的な視点から見た日本の教育に関する調査研究
企業組織法: 会社法等 (企業法要綱)

刑事訴訟法等の一部を改正する法律について
いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について(PDF)
法曹養成制度関係閣僚会議
民法(債権関係)の改正に関する要綱案
民法の一部を改正する法律案
法曹養成制度改革の推進について(PDF)
法曹養成制度改革推進会議
法曹養成制度改革顧問会議
平成29年司法試験予備試験の実施について
平成29年司法試験の実施について
司法試験考査委員の不適切行為に関する通報窓口

  【司法研修所教材・講義案・調査官解説等】
事件記録教材 法科大学院教材
調査官解説
事例で考える民事事実認定
民事訴訟における事実認定 契約分野別研究(製作及び開発に関する契約)
プラクティス刑事裁判
プロシーディングス刑事裁判
検察講義案 平成24年版
新問題研究要件事実
紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造 改訂
刑事第一審公判手続の概要
刑事判決書起案の手引
民事判決起案の手引
民事訴訟第一審手続の解説
情況証拠の観点から見た事実認定
民事訴訟における要件事実 第2巻
民事訴訟における要件事実 増補 第1巻
書記官研修講義案等