2021年03月20日

論証例:任期短縮定款変更の適用・339条2項類推適用

【論点】

 取締役の任期途中において、その任期を短縮する定款変更がされた場合、その変更後の定款は在任中の取締役に適用されるか。

 

【論証例】

 会社はいつでも株主総会決議によって取締役を解任できる(339条1項)以上、任期を短縮する定款変更によって退任させることもできる。したがって、変更後の定款は当然に在任中の取締役にも適用される(地裁裁判例)。
 ※ 東京地判平27・6・29。名古屋地判令元・10・31。
 ※ 変更後の任期によれば既に任期が満了している取締役は、定款変更の効力発生時に当然に退任する(東京地判平27・6・29)。

 

 

【論点】

 任期を短縮する定款変更によって取締役を退任し、再任されなかった場合、339条2項は類推適用されるか。

 

【論証例】

 339条2項の趣旨は任期への期待を保護する点にあり、任期短縮により退任し、再任されない取締役にもその趣旨が妥当するから、同項が類推適用される(地裁裁判例)。
 ※ 東京地判平27・6・29。名古屋地判令元・10・31。

 

 

(参考)

任期途中で解任された取締役の損害賠償請求権について ―― 東京地裁平成27 年 6 月 29 日判決 ――  佐藤 誠
任期短縮の定款変更により退任した取締役の不再任に係る「正当な理由」 名古屋地方裁判所令和元年10月31日判決 東北学院大学准教授 内藤裕貴

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2020年12月19日

「〇〇的」の使い方

1.現在では、法学に限らず、「○○的」という用法が一般に用いられています。若者の間では、「俺的には~」、「私的には~」のような使われ方もしているようです。もっとも、その語源は、あまり知られていないようです。 

 

大槻文彦「文字の誤用」『復軒雑纂』(慶文堂書店 1902年)280頁から283頁までから引用。現代表記化及び太字強調は筆者。)

 今の世に「的」の字をしきりと用いるが、その元はたわけた話であるから申そう。今の文に「反抗的態度」などは「反抗様態度」などいうような意に用いている。「軍事的設備」は、「軍事上設備」、「ドイツ的教育」は、「ドイツ風教育」、「学者的口気」は、「学者然たる口気」というように用いている「的」の字をかように用いるは、中国の官話、小説に常の事であるけれども、この「的」に、「様」、「上」、「風」、「然」などいう意は決して無い。中国の官話の文法を書いた「文学書官話」という書(米国人高第丕の著)に、「的」の字を説いて……(略)……八品詞の何の類とも名づけることが出来ぬ、どんな字の尻にもつける、とある。……(略)……つまり、あっても無くてもよい字で、決して「様」、「上」、「風」、「然」などの意味は無い。……(略)……しかるに、今では、立派な学者も、皆「何々的」を用いて、今、にわかにこれを廃止をしたなら、筆は動くまいと思う程である。「的」の字の真義を調べて用いているのか知らぬ。大方、調べずに用いているのでろう。調べれば、そんな意味の無い字であるから、我慢に用いられる訳のものでない。しかしながら、この「的」の字を、かように用いるようになったのには、原因がなくてはならぬ。原因、大いにありである。その原因は、かような訳である
 明治維新の初めに、何でもかんでも、西洋々々で、翻訳流行の時があった。諸藩で大金を出して、洋学書生にどんな原書でも翻訳させた。その頃、拙者が知っている人々で、よく翻訳をしていたのは、柳河春三、桂川甫策、黒澤孫四郎(河津祐之の事)、箕作奎五(菊池大麓君の兄さん)、熊澤善庵、その他某々等であって、拙者なども、加わっておった。そうして不思議な事には、この仲間が大抵中国の小説、水滸伝、金瓶梅などを好んで読んでいた。ある日、寄り合って雑談が始まった。その時、一人が、ふと、かような事を言いだした。Systemを組織と訳するはよいが、Systematicが訳しにくい。ticという後加えは、小説の「的」の字と発音が似ている。そうだ、組織的と訳したならば、どうであろう、皆々。それは妙案である。やって見よう。やがて、「組織的」の文で清書させて、藩邸へ持たせて金を取りにやる。君、実行したのか。うん。それはひどいではないか。なに、気がつきはせぬよ。などという戯れであったが、さて、この「的」の字で度々、むずかしい所が切り抜けられるので、遂に、嘘から真事というような具合で、後には、何とも思わず使うようになって、人も承知するようになったが、その根を洗えばticと「的」が、発音が似ているからという事で、洒落に用いただけの事で、実に抱腹すべき事であるこれが、「的」の字のそもそもの原因である。その頃の仲間は今では、みんな死んでしまって……(略)……拙者でも話しておかぬと、この馬鹿げた話が湮滅してしまうから、死者に代わって、懺悔に話します。この話は、決して嘘でない。その証拠には、明治の初年以前の翻訳書はもちろん、世のあらゆる書物を御覧なされ。「何々的」などいう用字は何の書にもない。「的」の字のある文は、すべて明治初年から後の書である。今一つの証拠は、こう申す拙者も三十年来、随分、文章というものをたくさん書いて、世に発表してきたが、およそ拙者が書いた文章中には、「的」の字を用いた事は、一か所もないつもりである用いぬのは、根元を知っているから、馬鹿げて用いられぬのである。「的」の字などは、つかわずとも、ほかにいくらも字があって、不自由はせぬ。もっとも、多く書いた文の中には、我知らず、一か所や二か所、的の字を用いたことがあるかも知れぬが、それは、思わず流行に釣り込まれたので、自分で書く気で書いたのではない。まことに、はや、「幽霊の正体見たり枯尾花」、とでも言おうか。我らが罪は余程深いと思って、自首するというような仕合せである。

(引用終わり)

 

 著者の大槻文彦は、日本初の本格近代国語辞典『言海』の執筆者として知られています。上記引用のとおり、もともと、「的」にはほとんど意味がなく、語感をよくする程度の理由で用いられていたのでした。それが、「~風の」、「~様の」のような意味で用いられるようになった。これは、「的」を付することによって、その意味内容が曖昧になることを意味します。例えば、本来、「日本の」という意味であるのに、「日本的な」としてしまえば、「日本のものではないけれども、日本風のもの」を含んでしまうでしょう。冒頭で紹介した、「俺的には~」、「私的には~」の用法も、「必ずしも自分自身が絶対そう思うというわけでもないのだけれど、自分のような発想の考え方としてはこんな風にも考えられるよね。」というような含意があり、自己主張を抑えたい日本人好みの曖昧表現なのでしょう。

2.法令用語として用いることを考えるときには、そのままで意味が通るのであれば、敢えて「的」を付する必要はないし、「的」を付することによって、かえって意味が曖昧になるおそれがあるときは、「的」を付するのは避けるべきです。「個別的具体的な事例」は、「個別具体の事例」でも意味が通りますし、「違憲的適用」は、「厳密には違憲ではなく違法というべきであるが、違法となる理由が憲法の趣旨に反することによるもの」等を含ませる趣旨でないのであれば、「違憲な適用」と表記した方が紛れがないといえるでしょう。
 とはいえ、「〇〇的」の表記を用いた方が便利な場合があることも事実です。その語源がいい加減なものであったにもかかわらず、これが普及したのは、それがとても便利だったからでしょう。また、既に定着している用語については、敢えて「的」を省くことによって、かえって意味が伝わりにくくなる。そのような場合には、素直に「〇〇的」の表記を用いた方がよいでしょう。例えば、「規範的要件」は、「規範の要件」では意味が伝わりませんし、「規範性のある要件」であれば意味は通じますが、それなら「規範的要件」の方がいい。「処分的法律」も、「処分の法律」では意味不明ですし、「処分のような法律」、「処分風の法律」ならある程度は意味が通りますが、そんな言い換えをするくらいなら、「処分的法律」と表記する方が明らかに優れています。

3.論文式試験との関係でいえば、答案で、「的」がなくても意味が通るのに、とりあえず「的」を付けてしまっている場合があるでしょう。そのような場合には、「的」を省くことで、一文字分書く時間を節約できる。例えば、「一般的要件」は、「一般要件」でも意味が通りますから、省いて構わないわけです。
 逆に、「的」を用いることで、文字数を節約したり、よく分からない部分を曖昧なままごまかして書くテクニックもあります。当てはめの事実を引用した後に、一言、「〇〇的である。」、「〇〇的でない。」等と書いておけば、最低限の文字数でそれっぽい事実の評価になる。例えば、「…であり、甲の関与は積極的、能動的である。」とか、「~の方法は実効的でない。」というような使い方です。また、断定できるか不安なときに、「的」の一文字を付け加えれば、それだけで少し曖昧になる。刑法で、ある事実について責任要素と言い切っていいかわからないが、それっぽくみえる、というときには、「責任的要素といえる。」と書けば、なんとなくごまかすことができるでしょう。このようなことも、普段、答案を書く際に意識してみるとよいかもしれません。

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2020年08月01日

論証例:投票採決における株主総会決議の成立時期

【論点】

 投票の方法による表決手続を採った場合、株主総会決議は、どの時点で成立するか。

 

【論証例】

 株主総会決議は、決議に必要な議決権数に達したことが明白になった時に成立する(判例)から、投票の方法による表決手続を採った場合には、会社が株主の投票を集計し、決議結果を認識しうる状態となった時点で成立する(アドバネクス事件高裁判例参照)。
 ※ 決議の成立には、議長が決議結果を宣言することを要しない(同高裁判例参照)。
 ※ 最判昭42・7・25は、「株主総会における議事の方式については、法律に特例の規定がないから、定款に別段の定めをしていないかぎり、総会の討議の過程を通じて、その最終段階にいたつて、議案に対する各株主の確定的な賛否の態度がおのずから明らかとなつて、その議案に対する賛成の議決権数がその総会の決議に必要な議決権数に達したことが明白になつた以上、その時において表決が成立したものと解するのが相当であり、したがつて、議長が改めてその議案について株主に対し挙手・起立・投票など採決の手続をとらなかつたとしても、その総会の決議が成立しないということはいえない。」と判示している。 

 

(参考)

修正動議と書面投票の取扱いおよび株主総会決議の成立時点 東京高等裁判所令和元年10月17日判決 関西学院大学教授 笹川敏彦

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