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2015年01月14日

傷害の意義について

1.当サイト作成の「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」の傷害の意義について、予備校等で紹介している定義と違うのではないか、と疑問を持った人もいるかもしれません。「傷害」の定義としては、多くの人が、現在でも「生理的機能障害」と覚えているのではないかと思います。これを、判例として紹介するものもあるようです。しかし、判例は、これとは少し違う言い回しを用いています。

 

最判昭24・7・7より引用、太字強調は筆者)

 刑法にいわゆる「傷害」とは他人の健康状態の不良変更等生活機能に障害を与える場合を包含する人の体躯の完全性を害するをいうのである。されば原判決が判示被害者の左耳殻後部右上肢前面及び左右上腿部に与えた治療約一週間を要する十数ケ所の擦過傷を目して「傷害」と解したのは正当であつて、この点につき原判決には法律の解釈を誤つた違法はない

(引用終わり)

最判昭24・12・10より引用、太字強調は筆者)

 所論は原判示の傷は極めて軽微の傷で身体傷害とはいえないというのであるが軽微な傷でも人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上刑法にいわゆる傷害と認むべきであるから原判決が原判示の傷を傷害と認め被告人の所為をもつて刑法第一八一条に問擬したのは正当で論旨は理由がない。

(引用終わり)

最決昭32・4・23より引用、太字強調は筆者)

 原判決が、刑法にいわゆる傷害とは、他人の身体に対する暴行によりその生活機能に障がいを与えることであつて、あまねく健康状態を不良に変更した場合を含むものと解し、他人の身体に対する暴行により、その胸部に疼痛を生ぜしめたときは、たとい、外見的に皮下溢血、腫脹又は肋骨骨折等の打撲痕は認められないにしても、前示の趣旨において傷害を負わせたものと認めるのが相当であると判示したのは正当であつて誤りはない。

(引用終わり)

 

 上記のように、判例は、「健康状態を不良に変更する」、「生活機能に障害を与える」という言い回しを用いています(※)。上記の各判例は昭和20年代、30年代のものなので古いと思われるかもしれませんが、この言い回しは、現在の判例も用いている確立した表現です。

最判昭24・7・7では、「人の体躯の完全性を害する」という言い回しも用いられていますが、この表現はその後の判例では用いられていません。

 

最決平24・1・30より引用、太字強調は筆者)

 被告人は,病院で勤務中ないし研究中であった被害者に対し,睡眠薬等を摂取させたことによって,約6時間又は約2時間にわたり意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせ,もって,被害者の健康状態を不良に変更し,その生活機能の障害を惹起したものであるから,いずれの事件についても傷害罪が成立すると解するのが相当である。

(引用終わり)

 

 当サイト作成の「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」で採用している定義は、上記判例の言い回しを用いたものです。

2.また、強盗致傷や強姦致傷の場合には、より重度の傷害に限定すべきであるとする考え方が、学説上有力です。下級審でも、限定説を採用したものがあります(広島地判昭52・7・13、大阪地判昭54・6・21等)。しかし、最高裁の判例としては、現在に至るまで、非限定説で確立しています。

 

最決昭37・8・21より引用、太字強調は筆者)

 軽微な傷でも、人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上、刑法にいわゆる傷害と認めるべきこと当裁判所の判例(昭和二四年(れ)二〇五五号同年一二月一〇日第二小法廷判決、裁判集一五号二七三頁、昭和三〇年(あ)八〇三号同三二年四月二三日第三小法廷決定、刑集一一巻四号一三九三頁)の示すとおりであるから、原判決が原判示の傷を傷害と認め、被告人らの所為をもつて刑法二四〇条前段に問擬したのは正当である

(引用終わり)

最決昭38・6・25より引用、太字強調は筆者)

 軽微な傷でも、人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上、刑法所定のいわゆる傷害に該当するものであつて、同法一八一条所定の傷害を同法二〇四条所定の傷害と別異に解釈すべき特段の事由は存しないこと、当裁判所の判例(昭和三四年(あ)第一六八六号同三七年八月二一日第三小法廷決定参照)の趣旨に徴し、明らかであるから、原判決が原判示の傷を傷害と認め、被告人の所為をもつて、同法一八一条に問擬したのは正当である。

(引用終わり)

最決昭41・9・14より引用、太字強調は筆者)

 軽微な傷でも、人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上、刑法にいわゆる傷害と認めるべきことは、当裁判所の判例(昭和三四年(あ)第一六八六号同三七年八月二一日第三小法廷決定、裁判集一四四号一三頁)の示すところであるから、原判決が原判示の傷を傷害と認め、被告人らの所為をもつて刑法二四〇条前段に問擬したのは正当である

(引用終わり)

最決昭46・1・28より引用、太字強調は筆者)

 弁護人大川隆司の上告趣意は、刑訴法四〇五条三号所定の控訴裁判所たる高等裁判所の判例違反をいうが、強姦致傷罪における傷害の意義については、すでに最高裁判所の判例が存在する(昭和二四年(れ)第二〇五五号同年一二月一〇日第二小法廷判決・裁判集一五号二七三頁、昭和三八年(あ)第五七二号同年六月二五日第三小法廷決定・裁判集一四七号五〇七頁)のであるから、所論判例違反の主張は不適法で上告適法の理由にあたらない。なお、軽微な傷でも、人の健康状態を不良に変更するものであれば、刑法所定の傷害に該当するのであつて、同法一八一条所定の傷害を同法二〇四条所定の傷害と別異に解すべき事由は存在しない

(引用終わり)

最決平6・3・4より引用、太字強調は筆者)

 弁護人宮田桂子の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、強盗致傷罪における傷害の意義について、軽微な傷でも、人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上、刑法にいわゆる傷害と認めるべきことは、既に最高裁判所の判例(最高裁昭和三四年(あ)第一六八六号同三七年八月二一日第三小法廷決定・裁判集刑事一四四号一三頁、最高裁昭和四一年(あ)第一二二四号同年九月一四日第二小法廷決定・裁判集刑事一六〇号七三三頁)が存在するところであるから、所論は前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

(引用終わり)

 

 「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」でも、非限定説を採用しています。刑法各論では、個別の論点を深く論じるよりも、多数の論点をコンパクトに処理することが求められます。ですから、通常の事例問題であれば、非限定説から簡単に処理して問題ないでしょう。限定説で書く場合には、なぜ限定するのかという理由付けを説明する必要があります。そのくらいの余裕がある場合には、限定説で書いてもよいのですが、この論点でそのような時間と紙幅を用いるくらいであれば、他の論点の当てはめ、評価を充実させるべきでしょう。

posted by studyweb5 at 03:55| 論点解説 | 更新情報をチェックする

2014年05月04日

行政裁量の広狭の考慮要素

1.群馬バス事件判例(最判昭50・5・29)は、判断過程審査や手続違法と処分の効力との関係についての判例として有名ですが、行政裁量の広狭、覊束裁量か自由裁量かの区別についての考慮要素を明確に示した判例であることは、あまり知られていません。

2.かつての通説的見解は、行政裁量の広狭は行政行為の性質によって決まると考えていました。そのため、行政裁量の広狭を決するに当たっては、まず、当該行政行為がどの類型に当たるのか。命令的行為なのか、形成的行為なのか。あるいは、特許なのか、許可なのか。そういったことを検討し、そこから、行政裁量の範囲を導出していたのです。しかし、群馬バス事件判例は、そのようなことは裁量の範囲の結論を左右しないと言います。

 

群馬バス事件判例(最判昭50・5・29)より引用、太字強調は筆者)

 原審は、まず、一般乗合旅客自動車運送事業を独占の一形態でありその免許を公企業の特許であるとしたうえで、運輸大臣は、道路運送法六条一項に定める基準のすべてに適合し、かつ、同法六条の二の欠格事由に該当しない場合でなければこれを免許することができず、右基準のいずれかに適合しないときは申請を却下しなければならないものであり、また、右免許基準に適合するかどうかの判断は覊束裁量に属すると解し、この見解に基づき、本件免許申請につき同法六条一項一号の基準に適合しないとした被上告人の判断の適否について検討し、右判断は相当であるとするとともに、他方、行政庁が行政処分を行うにあたつては、事実の認定、法律の適用等の実質的判断はもとより、その手続についても公正でなければならないと解し、この見解に基づき、本件免許申請に対する審理手続を検討し、右審理手続上においても違法は認められないとしたのである。
 しかしながら、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と解するかどうかは、必ずしも、本件の結論に影響があるものとは考えられない

(引用終わり)

 

 その上で、行政行為の性質論に代わる考慮要素を具体的に示します。まずは、国民の自由の制約の程度です。これは裁量を狭くする要素です。判例の事案では、効果裁量を否定する要素となっています。

 

群馬バス事件判例(最判昭50・5・29)より引用、太字強調は筆者)

 自動車運送事業は高度の公益性を有し、その経営は直接社会公共の利益に関係があるものであるから、憲法二二条一項にいう職業選択の自由に対する公共の福祉に基づく制限として、道路運送法は、四条において、自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならないとし、六条一項において、免許基準を設け、また、六条の二において、欠格事由を定めているのであり(当裁判所昭和三五年(あ)第二八五四号同三八年一二月四日大法廷判決・刑集一七巻一二号二四三四頁参照)、これにより、運輸大臣は、右免許基準のすべてに適合し、かつ、右欠格事由に該当しない場合でなければ免許を付与してはならない旨の拘束を受けるものと解されるのであつて、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と解するかどうかによりこの理が左右されるものではない。

(引用終わり)

 

 次は、基準の抽象性、概括性と専門技術的・公益的判断の必要性です。これは裁量を広くする要素です。判例の事案では、要件裁量を肯定する要素となっています。

 

群馬バス事件判例(最判昭50・5・29)より引用、太字強調は筆者)

 右免許基準は極めて抽象的、概括的なものであり、右免許基準に該当するかどうかの判断は、行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし、ある程度の裁量的要素があることを否定することはできないが、このことも、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と考えるかどうかによつて差異を生ずるものではない

(引用終わり)

 

 さらに、制度上及び手続上の特別の規定の存在を挙げます。これは、裁量を狭くする要素、より具体的には、判断過程における手続の適正の要求を導きます。

 

群馬バス事件判例(最判昭50・5・29)より引用、太字強調は筆者)

 法は、道路運送法一二二条の二、運輸省設置法六条一項七号、八条以下、運輸審議会一般規則等において、右免許の許否の決定の適正と公正を保障するために制度上及び手続上特別の規定を設け、全体として適正な過程により右決定をなすべきことを法的に義務づけているのであり、このことから、右免許の許否の決定は手続的にも適正でなければならないものと解されるのであつて、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と解するかどうかによつてこれが左右されるものではない

(引用終わり)

 

3.このように、最高裁は、裁量の広狭の考慮要素を明確に示す一方で、しつこいほど、公企業の特許かどうかによってこれが左右されない旨を判示しています。ここまで明示的な判示であるにもかかわらず、この判示部分がそれほど有名ではないのは、当時の学説との乖離が大きかったからでしょう。当時は、個別法解釈により決するのではなく、より大きな視点で統一的に解決できるような方法論が好まれていました。行政行為の性質から一刀両断的に結論を導くアプローチの方が、体系的理解という点からは優れていると考えられたのです。
 しかし、それでは具体的事例処理において適切な結論が導けない場合がある。判例が当初からそのようなアプローチを採らなかったのは、その意味では当然ともいえます。そして、現在では、処分の相手方以外の第三者の原告適格の判断や「仕組み解釈」という概念に顕著なように、学説においても、個別法を詳細に検討して個別具体的に結論を導くアプローチが、当たり前になりつつあります。上記の群馬バス事件判例の判示は、現在ではむしろ自然にみえるでしょう。 

4.群馬バス事件判例が示した考慮要素を確認した後で、他の判例を読むと、理解が深まります。例えば、在留更新に関するものとして有名なマクリーン事件判例(最大判昭53・10・4)を見てみましょう。

 

マクリーン事件判例(最大判昭53・10・4)より引用、太字強調は筆者)

 憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、所論のように在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものでもないと解すべきである。そして、上述の憲法の趣旨を前提として、法律としての効力を有する出入国管理令は、外国人に対し、一定の期間を限り(四条一項一号、二号、一四号の場合を除く。)特定の資格によりわが国への上陸を許すこととしているものであるから、上陸を許された外国人は、その在留期間が経過した場合には当然わが国から退去しなければならない。もつとも、出入国管理令は、当該外国人が在留期間の延長を希望するときには在留期間の更新を申請することができることとしているが(二一条一項、二項)、その申請に対しては法務大臣が「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り」これを許可することができるものと定めている(同条三項)のであるから、出入国管理令上も在留外国人の在留期間の更新が権利として保障されているものでないことは、明らかである。
 右のように出入国管理令が原則として一定の期間を限つて外国人のわが国への上陸及び在留を許しその期間の更新は法務大臣がこれを適当と認めるに足りる相当の理由があると判断した場合に限り許可することとしているのは、法務大臣に一定の期間ごとに当該外国人の在留中の状況、在留の必要性・相当性等を審査して在留の許否を決定させようとする趣旨に出たものであり、そして、在留期間の更新事由が 概括的に規定されその判断基準が特に定められていないのは、更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広汎なものとする趣旨からであると解される。すなわち、法務大臣は、在留期間の更新の許否を決するにあたつては、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立つて、申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情をしんしやくし、時宜に応じた的確な判断をしなければならないのであるが、このような判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければとうてい適切な結果を期待することができないものと考えられる。このような点にかんがみると、出入国管理令二一条三項所定の「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの判断における法務大臣の裁量権の範囲が広汎なものとされているのは当然のことであつて、所論のように上陸拒否事由又は退去強制事由に準ずる事由に該当しない限り更新申請を不許可にすることは許されないと解すべきものではない。

(引用終わり)

 

 上記太字強調部分をみると、群馬バス事件判例の示した権利制約性、規定の概括性、専門技術的公益的判断の必要性といった考慮要素が順番に検討されていることがわかります。

5.司法試験定義趣旨論証集(行政法)では、「法律行為的行政行為の裁量」、「公企業の特許の法的性質と裁量の範囲」、「覊束裁量と自由裁量の区別」の論点で、群馬バス事件を引用して上記趣旨を論証化しています。予備校論証に慣れていると奇異に感じるかもしれませんが、上記を参照すれば、趣旨を理解して頂けると思います。

posted by studyweb5 at 17:08| 論点解説 | 更新情報をチェックする

2014年04月28日

実行の着手について

1.今回は、司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)における実行の着手の意義について、補足をしておきたいと思います。
 司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)で採用している定義は、直前行為を含む形式的客観説で、判例の立場です。構成要件的行為の開始と考えたのでは着手が遅すぎるため、直前の密接な行為も含むと考える考え方です。その際、密接な行為には法益侵害の危険性がなければならない。すなわち、密接性と危険性が着手の要件ということになります。判例は、法益侵害の危険性について、「具体的危険性」や「直接的現実的危険性」ではなく、「客観的な危険性」という表現を用いています。具体性・直接性・現実性という要素は、「密接な行為」か否かの点で考慮しているからでしょう。

 

東京高判昭29・12・27より引用、太字強調は筆者)

 一般に実行の着手とは犯罪構成要件を実現する意思を以て、その実行即ち犯罪構成要件に該当する行為を開始することを指称するものと解すべく、即ち犯罪行為の実行の着手があつたかどうかは主観的には犯罪構成要件を実現する意思乃至は認識を以てその行為をしたかどうか、客観的には、一般的に犯罪構成事実を実現する抽象的危険ある行為がなされたかどうかを探究して個々の場合につき具体的に認定さるべき事実問題であるということができる。 犯罪構成事実に属する行為及びこれに直接密接する行為がなされたときに犯罪実行の着手があるとするのも、実行の着手の客観的方面に即してこれを定義したものに外ならない。

(中略)

 検察官はBが自宅を出たときに本件交付罪の着手があつたものと主張するが、右行為は一般的に観察して未だ「交付」に直接密接な行為とは認め難く、いわゆる予備の段階たるに止まるものと認めるのが相当である。

(引用終わり)

仙台高判昭30・11・8より引用、太字強調は筆者)

 原判決挙示の証拠を以ては、被告人は窃盗の決意を以て簟笥の附近に居り、その決意実行の機を窺つていたということを認め得るに止まり、窃盗の決意をした後、それを実現すべく簟笥に近ずいたということは認め得ず、その他何等か他人の財物の事実上の支配を侵すにつき密接な行為をしたもの、即ち窃盗の事行に着手したものであることは之を認めることができないのである。

(引用終わり)

最決昭45・7・28より引用、太字強調は筆者)

 被告人が同女をダンプカーの運転席に引きずり込もうとした段階においてすでに強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において強姦行為の着手があつたと解するのが相当であり、また、Bに負わせた右打撲症等は、傷害に該当すること明らかであつて(当裁判所昭和三八年六月二五日第三小法廷決定、裁判集刑事一四七号五〇七頁参照)、以上と同趣旨の見解のもとに被告人の所為を強姦致傷罪にあたるとした原判断は、相当である。

(引用終わり)

最決平16・3・22より引用、太字強調は筆者)

 第1行為は第2行為に密接な行為であり,実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから,その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。

(引用終わり)

最判平20・3・4より引用、太字強調は筆者)

 本件においては,回収担当者が覚せい剤をその実力的支配の下に置いていないばかりか,その可能性にも乏しく,覚せい剤が陸揚げされる客観的な危険性が発生したとはいえないから,本件各輸入罪の実行の着手があったものとは解されない

(引用終わり)

 

2.「密接な行為」の判断要素を示したのが、有名なクロロホルム事件(上記引用の最決平16・3・22)です。

 

最決平16・3・22より引用、太字強調は筆者)

 実行犯3名の殺害計画は,クロロホルムを吸引させてVを失神させた上,その失神状態を利用して,Vを港まで運び自動車ごと海中に転落させてでき死させるというものであって,第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること,第1行為に成功した場合,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや,第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと,第1行為は第2行為に密接な行為であり,実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから,その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。

(引用終わり)

 

 まず、上記の判断要素は、「密接な行為」か否か、という点に係るものであることを理解する必要があります。上記引用部分を漫然と読むと、客観的な危険性をも基礎付けるかのように読めます。しかし、第1行為の客観的な危険性は、既に事実審段階で認定されています。

 

最決平16・3・22より引用、太字強調は筆者)

1 1,2審判決の認定及び記録によると,本件の事実関係は,次のとおりである。

(中略)

(5) 被告人B及び実行犯3名は,第1行為自体によってVが死亡する可能性があるとの認識を有していなかった。しかし,客観的にみれば,第1行為は,人を死に至らしめる危険性の相当高い行為であった

(引用終わり)

 

 前記引用のうち「実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから」の部分は、この事実認定を確認したに過ぎません。ですから、その前の考慮要素(必要不可欠性、遂行障害不存在、時間的場所的近接性)は、すべて「密接な行為」の判断要素だということになるわけです。
 現在学説上有力な実質的客観説(及びこれをベースにした予備校論証)によれば、上記の「客観的にみれば,第1行為は,人を死に至らしめる危険性の相当高い行為であった。」という部分だけで着手を肯定することになりかねないのですが、判例は、単に危険性があるというだけでなく、構成要件的行為と密接な行為でなければならないと考えることから、さらに上記各要素の検討が必要になるのです。理論的に説明するなら、これは罪刑法定主義を重視する形式的客観説の立場からの形式的枠付けともいえます。また、実質的客観説からも、上記各要素は危険の具体性・現実性・直接性(≒密接性)を基礎付けるものとして必要だ、という理解が可能でしょう。従来の予備校論証等は、この点の整理が不十分であったように感じます。

3.そして、同判例は、早すぎた構成要件の実現の場合における事例判例ではありますが、上記の判断要素は、一般的に妥当すると考えることができます。例えば、無人の倉庫に侵入して窃盗を行う場合の実行の着手を考えると、倉庫の中の物を盗むには倉庫に入らなければならず(必要不可欠性)、無人の倉庫に入ってしまえば(警備状況にもよりますが通常は)窃取の障害は特段存在しなくなります(遂行障害不存在)。時間的場所的接着性も容易に肯定できます。従って、倉庫に侵入する行為は、「密接な行為」といえる。従って、これによって物の占有侵害の客観的な危険が認められれば、その時点で着手を認めることができる。このように、これらの判断要素は、実行の着手一般に広く応用可能な考慮要素なのです。
 司法試験定義趣旨論証集(刑法総論) では、上記のような理解を前提に整理して論証化しているために、従来の予備校論証等とは異なっているのです。

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2014年04月20日

危険の現実化説を用いる際の注意点

1 行為時の特殊事情(被害者の特異体質等)の処理

 危険の現実化説を一般論として採用する場合に、注意を要するのは、行為時の特殊事情の処理です。例えば、甲が、Vに対してカッターナイフで切りかかり、軽い切り傷を負わせたところ、通常人では死亡するはずはなかったのに、Vが血友病であったために失血死した、というような場合です。
 まず、やってはならないのは、この場合には相当因果関係説で処理する、という方法です。これは、行為時の事情と行為後の事情でなぜ基準を使い分けるのか、説明を要するでしょう。しかも、行為時の事情と行為後の事情は、必ずしも明瞭に区別できるものではありません。例えば、甲が、Vを殴って気絶させたところ、その後、付近にいたハブに噛まれて死亡したという事例の場合、ハブに噛まれたのは行為後ですが、ハブが付近にいたことは行為時の事情ともいえます。また、甲がVに暴行を加え、Vが逃走するため吊橋を駆け渡ろうとしたところ、吊橋が腐っていて崩落し、Vが死亡したという事例においても、吊橋崩落は行為後ですが、吊橋が腐っていた事実は行為時の事実ともいえます。このようなことから、行為時の事情と行為後の事情とで基準を使い分けるのは、問題が大きいのです。このことは、近時の早稲田ローの入試問題の出題の趣旨でも指摘されているところです。

 

2014年度 早稲田大学大学院法務研究科法学既修者試験 論述試験刑法(出題の趣旨)より引用、太字強調は筆者)

 まず、乙に関しては、A・Bの致死結果との関係で傷害致死罪の成否が問われるが、自動車で衝突して傷害を負わせるという実行行為と、A、Bの致死結果との間に、それぞれ刑法上の因果関係が認められるかが問題となる。Aに関しては、行為時点で知り得なかった被害者の持病があいまって結果が生じた点Bに関しては、行為後に看護師の重大な過失行為が介入した点がポイントであり、危険の現実化や相当因果関係説などの考え方を示して結論を導くことになろう(Aとの関係では折衷的相当因果関係説に立って因果関係を否定し、Bとの関係では、行為の危険性の大小、介入事情の異常性の大小、介入事情の寄与度の大小を総合的に考慮すべきで、これが「危険の現実化」の判断であるとした上で、本件では因果関係が肯定されるとする答案が多く見られた同じく因果関係を問題にしながら事例類型によって異なった基準を援用するのであれば、そこに説明が必要かもしれない。少なくとも、それらの判断基準の理論的な関係や異同については十分考えておいてほしい)。

(引用終わり)

 

 従って、行為時の事情の場合にも、危険の現実化を基準として考えるべきことになります。そこで、次にやってはならないのは、例えば、「カッターナイフで切り傷を負わせて、その傷からの出血で失血死したのだから、行為の危険が結果に現実化したといえる」などと簡単に危険の現実化を肯定してしまうことです。これでは、事案の問題意識を的確に捉えたとはいえません。ここでの問題意識は、被害者の死の結果は、行為者の行為の危険によるのか、それとも、被害者の特殊な体質の危険によるのか、ということです。
 ここで、危険の現実化説は、客観的帰属論「的」な考え方であることを想起する必要があります(なお、我が国の「危険の現実化説」は飽くまで因果関係の枠内の議論ですから、許された危険や答責領域性、規範の保護目的や未遂危険の帰属等は問題となり得ない以上、客観的帰属論そのものではないことに注意が必要です)。すなわち、発生した結果を行為者に帰属させる「べきか」という規範的判断によって結論を導く必要がある。
 血友病事例でいえば、被害者の死の結果は、確かに被害者の特異体質が原因となっているでしょう。しかし、そのリスクは、被害者に負わせるべきでしょうか。すなわち、血友病患者は、絶えず他者から軽微な切り傷を負わされることのないよう、注意して生活すべきである(すなわち、刑法はそのような場合には被害者を保護しない)、ということが妥当なのか。それとも、行為者が他者の身体に不法な侵害を加えた以上、他者の特異体質による重篤な結果についても責任を負うべきである(すなわち、刑法はそのような場合にも被害者を保護する)、ということが妥当なのか。一般には、後者が妥当だと考えられています。このことを、端的に指摘すべきなのです。
 司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)では、客観的帰属論の立場から比較的よく用いられる言い回しを用いてコンパクトに理由付けをしています。

2 因果関係の錯誤の処理

 因果関係の錯誤については、「錯誤が相当因果関係の範囲にとどまる限り故意を阻却しない」などと論証する人が多いと思います。しかし、因果関係について相当因果関係説を採用しないのに、上記のように論証することは論理矛盾です。
 上記の論述の言いたいことは、要するに、行為者の認識において法的因果関係が認められるならば、錯誤は構成要件の範囲にとどまるから、法定的符合説からは故意を阻却しないということです。司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)では、そのことを端的に示す論証にしています。具体的な当てはめとしては、行為者の認識した事実において危険の現実化が認められるかを検討することになります。

3 不能犯の処理

 不能犯は、出題頻度がそれほど高くないためか、あまり問題意識を持っていない人が多いのですが、ここは因果関係論とパラレルな関係にあります。因果関係において基礎事情を問題にせず、客観的に判断するのであれば、不能犯の場合にも、具体的危険説は採りにくいことになる。厳密には、行為の危険性は事前判断であるが、結果の帰属は事後判断であるという理論構成はあり得るとは思いますが、論文試験でそのようなことを説明する余裕はないでしょう。従って、危険の現実化説を採用するのであれば、不能犯においても客観説を採用することになるわけです。また、前回の記事(「折衷的相当因果関係説か危険の現実化説か」)で述べたことと同じこと、すなわち、規範や当てはめの長さ、硬直性というデメリットは、具体的危険説にも同様に妥当するということも、客観説を採用する理由となります。
 判例は、絶対・相対不能説と言われますが、実際には、修正客観説に近い説明をしています(少なくとも、基礎事情を確定して、その後に危険性を判断するという二段階の判断はしていません)。司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)でも、それに沿った論証にしています。不能犯の当てはめは、厳密に考えて論理的に結論が導かれるという感じではありません。結果発生が「あり得た」か「あり得なかった」かは、どうとでも言える部分があるからです。ここは、あまり深く考えずに、多数派の採りそうな結論や構成しやすい結論を簡単に説明できることがポイントです。不能犯は、因果関係とは違って、あまり論点としてのウエイトが高くないことが多いということを、覚えておくとよいと思います。とにかく、コンパクトに処理する。不能犯の論点については、当てはめは「勝負」するところではなく、「軽く流す」という程度のものだという認識でよいでしょう。その意味では、基礎事情論をわざわざ論じなければならない具体的危険説は、因果関係のときの折衷的相当因果関係説以上に、論文では不利な説ということになってしまうのです。

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2014年04月12日

折衷的相当因果関係説か危険の現実化説か

1 刑法の因果関係、特に行為後の事情の処理について、折衷的相当因果関係説で書くべきか、それとも、最近の判例の立場とされる危険の現実化説で書くべきか、悩んでいる受験生は多いと思います。司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)では、危険の現実化説を採用しています。現在の司法試験の答案の書き易さを考えるとき、危険の現実化説の方に分があると考えたからです。そこで、今回は、その理由について説明したいと思います。

2 まず、規範の長さです。危険の現実化説は、「行為の危険が結果に現実化した」という最短の規範があります。これに対し、折衷的相当因果関係説では、「行為時において行為者の特に知っていた事情及び一般人が認識し得た事情を基礎に、当該行為から結果が発生することが社会通念上相当か」となり、基礎事情の部分を省略するわけにはいきません。
 司法試験の本試験では、知識や思考力も重要ですが、それ以上に大事なのが、時間管理です。ボールペンで答案に文字を手書きするのは、想像以上に時間のかかる作業です。コンパクトにできる部分は、極力短く書く。これがポイントになります。その観点からしたときに、折衷的相当因果関係説は規範の融通が効きにくいのです。

3 そのことは、当てはめでも言えます。折衷的相当因果関係説では、基礎事情の確定→結果発生の相当性の検討という二段階の作業を省略するのは難しい。したがって、行為者は認識していたか、一般人は認識できたか、それを基礎にして相当か、といったことを、わざわざ書かなければならない。これは、案外手間がかかることです。

4 そして、最も折衷的相当因果関係説にとって不利なのは、当てはめが硬直化しやすいという点です。現在の司法試験は、幅広い事実をうまく拾って評価することが、とりわけ刑法では評価を左右します。しかし、折衷的相当因果関係説では、ほとんどの場合、一般人の予見可能性だけで結論が左右されてしまいます。前記のように、規範や当てはめにかかる分量が多い割には、中身の充実した当てはめは難しいのです。このことは、憲法で安易にLRAの基準を用いる場合と同様の問題です。
 かつての旧試験では、むしろ、そのことがメリットでした。当てはめでさほど頭を使わなくてよいので、素早く事例処理ができる。当てはめよりも、論点をいくつ拾うかの勝負という面があったからです。しかも、問題文も現在の司法試験と比較すれば格段に短く、答案用紙も4頁しかなかったので、当てはめの充実といっても限度があったわけですね。そういったことから、かつての旧試験ではメリットの多かった折衷的相当因果関係説ですが、現在ではそれがデメリットとなってしまっているのです。

5 では、危険の現実化説に欠点はないのかというと、そうではありません。危険の現実化説の最大の欠点は、折衷的相当因果関係説の硬直性とは逆で、融通性が大きすぎる、すなわち、慣れていないと、「何を書いてよいかわからない」ことです。
 一番やってはいけないことは、介在事情があるのに、その評価を全くすることなく、「人を刺してその人が失血死したから、行為の危険が結果に現実化したといえる」などと数行足らずで書いてしまうことです。危険の現実化説の長所は充実した当てはめをしやすいことですが、それだけに当てはめを手抜きすると、折衷的相当因果関係説で書いた場合よりも、むしろ評価を下げる結果になってしまうのです。

6 一つの解決策は、前田三要素説を結合して使う方法です。「介在事情がある場合の危険の現実化の判断に当たっては〜」として、前田説にくっつけてしまうわけですね。これは、有力な方法です。現に、再現答案でもこの書き方で上位になっています。ただ、前田説でも、判断基準が曖昧で、当てはめにくいというところはあります。より確実なのは、類型ごとに規範を明確化していくことです。司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)では、判例で問題となった類型を中心に、危険の現実化の判断の下位規範や理由付けの仕方を示しました。危険の現実化説の一般論を提示し、問題文の事例からどの類型であるかを特定した上で、各類型に応じた規範を示して当てはめていけばよいと思います。類型に応じて自然に判例を引用できる点も、前田説に繋げる方法より優れています。現在の司法試験では、受験生が想像している以上に、判例名を引用することによる加点は大きいのです。

7 なお、司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)では、危険の現実化を基準とする理由を論証しないスタイルになっています。これは再現答案等を検討した結果、この点は評価をほとんど左右しない、むしろ、理由付けに充てる文量は下位規範定立や当てはめに回した方が評価を取りやすいという判断からです。仮に折衷的相当因果関係説を採る場合も、従来のように「構成要件は社会通念を基礎とした行為規範であるから」などの理由付けをするよりは、端的に規範を示して構わないとは思います。ただ、前記のとおり、理由付けを節約した分の下位規範や当てはめの充実という選択肢が、折衷的相当因果関係説には乏しい。それが、折衷的相当因果関係説の最大の欠点なのです。

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2014年04月05日

処分性要件と実効的な権利救済の合理性

1 今回は、司法試験定義趣旨論証集(行政法)における「段階的処分における処分性の判断基準」の論点について、その趣旨を補足しておきたいと思います。
 近時、処分性の要件として、従来からの公権力性、直接法効果性に加えて、実効的な権利救済の合理性も考慮すべきである、というように言われます。
 そのきっかけは、土地区画整理事業計画決定の処分性を認めた最大判平20・9・10です。

 

最大判平20・9・10より引用、太字強調は筆者)

 以上によれば,市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は,施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって,抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって,上記事業計画の決定は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。

(引用終わり)

 

 従来の判例の規範からすれば、「抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有する」の部分だけで、処分性肯定の結論が出るはずです。にもかかわらず、最高裁はさらに実効的な権利救済の合理性を追加しています。
 形式的にみると、上記判例は、処分性要件に新たに実効的な権利救済の合理性という要件を追加したようにも読めます。しかし、単純に要件を加重したと考えるのはおかしいでしょう。なぜなら、この判例は、従来処分性を認めていなかったものを認めた。すなわち、処分性を広げる判断をしたものだからです。単純に要件を加重すれば、むしろ処分性は狭くなるはずです。
 従って、本判例の上記部分は、むしろ、従来よりも直接法効果性の要件を緩和したので、不当に処分性の範囲が拡大しないようにするために、補充的要件として、実効的な権利救済の合理性を要求したと考えることになるわけです。

2 これまで、実効的な権利救済の合理性を考慮した判例としては、以下のようなものが挙げられます。

 

最判平21・11・26より引用、太字強調は筆者)

 公の施設である保育所を廃止するのは,市町村長の担任事務であるが(地方自治法149条7号),これについては条例をもって定めることが必要とされている(同法244条の2)。条例の制定は,普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから,一般的には,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでないことはいうまでもないが,本件改正条例は,本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって,他に行政庁の処分を待つことなく,その施行により各保育所廃止の効果を発生させ,当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して,直接,当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから,その制定行為は,行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる。
 また,市町村の設置する保育所で保育を受けている児童又はその保護者が,当該保育所を廃止する条例の効力を争って,当該市町村を相手に当事者訴訟ないし民事訴訟を提起し,勝訴判決や保全命令を得たとしても,これらは訴訟の当事者である当該児童又はその保護者と当該市町村との間でのみ効力を生ずるにすぎないから,これらを受けた市町村としては当該保育所を存続させるかどうかについての実際の対応に困難を来すことにもなり,処分の取消判決や執行停止の決定に第三者効(行政事件訴訟法32条)が認められている取消訴訟において当該条例の制定行為の適法性を争い得るとすることには合理性がある
 以上によれば,本件改正条例の制定行為は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。

(引用終わり)

 

最判平24・2・3より引用、太字強調は筆者)

 都道府県知事は,有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合において,当該施設を設置していた者以外に当該施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者,管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)があるときは,当該施設の使用が廃止された際の当該土地の所有者等(土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)13条括弧書き所定の場合はその譲受人等。以下同じ。)に対し,当該施設の使用が廃止された旨その他の事項を通知する(法3条2項,同施行規則13条,14条)。その通知を受けた当該土地の所有者等は,法3条1項ただし書所定の都道府県知事の確認を受けたときを除き,当該通知を受けた日から起算して原則として120日以内に,当該土地の土壌の法2条1項所定の特定有害物質による汚染の状況について,環境大臣が指定する者に所定の方法により調査させて,都道府県知事に所定の様式による報告書を提出してその結果を報告しなければならない(法3条1項,同施行規則1条2項2号,3項,2条)。これらの法令の規定によれば,法3条2項による通知は,通知を受けた当該土地の所有者等に上記の調査及び報告の義務を生じさせ,その法的地位に直接的な影響を及ぼすものというべきである。

 都道府県知事は,法3条2項による通知を受けた当該土地の所有者等が上記の報告をしないときは,その者に対しその報告を行うべきことを命ずることができ(同条3項),その命令に違反した者については罰則が定められているが(平成21年法律第23号による改正前の法38条),その報告の義務自体は上記通知によって既に発生しているものであって,その通知を受けた当該土地の所有者等は,これに従わずに上記の報告をしない場合でも,速やかに法3条3項による命令が発せられるわけではないので,早期にその命令を対象とする取消訴訟を提起することができるものではない。そうすると,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,同条2項による通知がされた段階で,これを対象とする取消訴訟の提起が制限されるべき理由はない
 以上によれば,法3条2項による通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。

(引用終わり)

 

最判平24・2・9より引用、太字強調は筆者)

 本件職務命令も,教科とともに教育課程を構成する特別活動である都立学校の儀式的行事における教育公務員としての職務の遂行の在り方に関する校長の上司としての職務上の指示を内容とするものであって,教職員個人の身分や勤務条件に係る権利義務に直接影響を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないと解される。なお,本件職務命令の違反を理由に懲戒処分を受ける教職員としては,懲戒処分の取消訴訟等において本件通達を踏まえた本件職務命令の適法性を争い得るほか,後述のように本件に係る事情の下では事前救済の争訟方法においてもこれを争い得るのであり,本件通達及び本件職務命令の行政処分性の有無について上記のように解することについて争訟方法の観点から権利利益の救済の実効性に欠けるところがあるとはいえない

(引用終わり)

 

 上記各判例に共通しているのは、明らかに処分となり得る手続の前段階の手続について、処分性が認められるかが問題となっているという点です。
 そもそも、処分に直接法効果性が必要とされてきたのは、効果の生じていないものを取り消す意味がない、という素朴な理由でした。これは、民法で、まだ契約が成立していないのに、詐欺取消しや錯誤無効を認める必要がないのと同じです。ところが、A→B→Cという手続の流れにおいて、Cは明らかに直接法効果性のある処分であるが、この段階で争っても権利救済が果たされない、という場面が生じた。そこで、Bの段階で処分性を認めて争うことができないか。そういうことが、問題になってきた。そこで、Bの場合にも処分性を認めるようになってきたのが、現在の判例の傾向です。
 ただ、その反面で、いつもBの段階で争えるとすると、今度は逆に広すぎることになる。そこで、その歯止めとして、実効的な権利救済の合理性が要求された。そのように理解することができます。このことは、上記各判例のうち、処分性を肯定するものは、常に直接法効果性と実効的な権利救済の合理性の両方を認めているのに対し、処分性を否定した最判平24・2・9においては、直接法効果性を否定した時点で処分性否定の結論が出るから、権利救済の実効性に関する判示部分は、「なお」として付言されているに過ぎないことからもわかります。

3 もっとも、段階的処分における前段階の手続に処分性を認めるという場面で、常に実効的な権利救済の合理性が独立の要件となるかは微妙です。問題となっている前段階の手続の性質、とりわけ、その時点で生じる法的効果との相関関係で考慮すべきであるともいえるからです。そのため、司法試験定義趣旨論証集(行政法)では、「段階的処分における処分性の判断基準」において、「考慮すべき」という表現にとどめています。
 それに対して、やや踏み込んでいるのが、「行政指導の直接法効果性」の論点です。ここでは、病床数削減勧告の処分性に関する判例を引用していますが、この判例自体は明示していない実効的な権利救済の合理性を、要件として加えています。行政指導には何ら法的効果はありませんから、従来の判断基準によれば処分でないことが明らかなものであるために、実効的な権利救済の合理性を独立して要求する必要性が強いからです。この判例の事案も、保険医療機関の指定を争ったのではそれまでの病院開設準備が無駄となるために、勧告段階で争うことに実効的な権利救済の合理性が認められる場合であり、判示もそれを当然の前提としていました。同判例がこれを明示しなかったのは、最初にこの要件を判示した前記最大判平20・9・10より前の判例だったからだ、と理解できます。この要件を入れていないと、行政指導不遵守と他の制度における申請に対する処分又は不利益処分が事実上結びつく場合一般が広く含まれてしまいますから、これは必須の要件でしょう。こういうところは、事例判例を一般化して使う際には気をつけなければならない点です。

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2014年03月22日

処分性要件においてごみ焼却場事件判例を用いなかった理由

1 司法試験定義趣旨論証集(行政法)では、「処分性(行訴法3条2項)の判断基準」という論点名で、処分性要件の論証を掲載しています。処分性要件については、ごみ焼却場事件判例が一般論を示していることから、これを引用するという方法もあります。

 

ごみ焼却場事件判例より引用、太字強調は筆者)

 行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分とは、所論のごとく行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。

(引用終わり)

 

 これを引用して論証するとすれば、以下のような書き方になるでしょう。

「行訴法3条2項の処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為であって、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(ごみ焼却場事件判例参照)。」

 この書き方は、著名な判例を端的に示して論証できる点で優れています。現在でも、基本書等で引用されている判例ですから、これを引いて間違っているということはありません。予備校等で上記のような論証が示されていることが多いのも、十分理由のあることです。

2 しかし、この書き方は、実際に事例問題を解く際には、意外と使いにくいのです。
 一つは、公権力性の意義が明らかになっていないという点です。ごみ焼却場事件の規範では、公権力性は、単に「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為」であれば足りるようにみえます。しかし、これでは主体が国か公共団体であれば、行為の性質とは無関係に公権力性が認められることになる。国が私人と対等の立場で私法上の契約を締結する場合を考えれば、これが誤りであることは明らかでしょう。実際に判例が用いている公権力性のメルクマールは、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行うものであるかどうかです。

 

最判平6・4・19より引用、太字強調は筆者)

 法規の定めやその趣旨等からすると、充当は、国税局長等が、行政機関としての立場から法定の要件の下に一方的に行う行為であって、それによって国民の法律上の地位に直接影響を及ぼすものというべきであり、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

(引用終わり)

最判平15・9・4より引用、太字強調は筆者)

 労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は,法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり,被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

(引用終わり)

 

 また、もう一つの直接法効果性の意義についても、難があります。ごみ焼却場事件判例の規範によれば、「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められている」ことが必要だということになります。しかし、これは実際に事例を当てはめようとすると、相当狭いということに気付くはずです。現在の判例で用いられているメルクマールは、相手方の法的地位に直接の影響を及ぼすか否かです。

 

最判平6・4・19より引用、太字強調は筆者)

 法規の定めやその趣旨等からすると、充当は、国税局長等が、行政機関としての立場から法定の要件の下に一方的に行う行為であって、それによって国民の法律上の地位に直接影響を及ぼすものというべきであり、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

(引用終わり)

最判平15・9・4より引用、太字強調は筆者)

 労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は,法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり,被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

(引用終わり)

最判平21・4・17より引用、太字強調は筆者)

 本件応答は,法令に根拠のない事実上の応答にすぎず,これにより上告人子又は上告人父の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しない。

(引用終わり)

 

3 このように、ごみ焼却場事件判例の規範は、実際の事例問題の当てはめにそのまま使うには、問題があるのです。そこで、上記で示した判例のメルクマールを端的に示したのが、司法試験定義趣旨論証集(行政法)の論証です。

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2014年03月16日

刑訴とは異なる違法性の承継

1 混同されがちな論点

 司法試験定義趣旨論証集(行政法)の違法性の承継の論証は、一部予備校等の説明とは異なるために、違和感を感じた人もいるかもしれません。ここは、刑訴の違法性の承継や公定力についてのかつての適法性推定説からの説明と混同しがちなところです。今回は、この点を説明したいと思います。

2 刑訴における違法性の承継

 刑訴における違法性の承継は、違法な先行手続を同一目的により直接利用する後行手続によって証拠が採取されたような場合に、後行手続も違法とする理論です。そして、後行手続の違法について違法収集証拠排除法則の要件(重大違法及び排除相当性)を充足すれば、後行手続の違法によって証拠排除される。そのことを示したのが、最判昭61・4・25最判昭63・9・16と理解できます。

 

最判昭61・4・25より引用、太字強調は筆者)

 本件においては、被告人宅への立ち入り、同所からの任意同行及び警察署への留め置きの一連の手続と採尿手続は、被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という同一目的に向けられたものであるうえ、採尿手続は右一連の手続によりもたらされた状態を直接利用してなされていることにかんがみると、右採尿手続の適法違法については、採尿手続前の右一連の手続における違法の有無、程度をも十分考慮してこれを判断するのが相当である。そして、そのような判断の結果、採尿手続が違法であると認められる場合でも、それをもつて直ちに採取された尿の鑑定書の証拠能力が否定されると解すべきではなく、その違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり、右鑑定書を証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められるときに、右鑑定書の証拠能力が否定される

(引用終わり)

最判昭63・9・16より引用、太字強調は筆者)

 本件所持品検査は、被告人の承諾なく、かつ、違法な連行の影響下でそれを直接利用してなされたものであり、しかもその態様が被告人の左足首付近の靴下の脹らんだ部分から当該物件を取り出したものであることからすれば、違法な所持品検査といわざるを得ない。次に、(8)の採尿手続自体は、被告人の承諾があつたと認められるが、前記一連の違法な手続によりもたらされた状態を直接利用して、これに引き続いて行われたものであるから、違法性を帯びるものと評価せざるを得ない(最高裁昭和六〇年(あ)第四二七号同六一年四月二五日第二小法廷判決・刑集四〇巻三号二一五頁参照)。
 所持品検査及び採尿手続が違法であると認められる場合であつても、違法手続によつて得られた証拠の証拠能力が直ちに否定されると解すべきではなく、その違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり、証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められるときに、その証拠能力が否定されるというべきである(最高裁昭和五一年(あ)第八六五号同五三年九月七日第一小法廷判決・刑集三二巻六号一六七二頁参照)。

(引用終わり)

 

 もっとも、近時の学説は、毒樹の果実論で処理すれば足りるから、違法性の承継を考える必要はないとするのが有力です。判例も、違法収集証拠排除法則の適用範囲を違法な手続と密接に関連する証拠にまで広げているようにみえます。このように考えれば、後行手続によって採取された証拠は、先行手続の違法によって排除されることになります。

 

最判平15・2・14より引用、太字強調は筆者)

 本件の経緯全体を通して表れたこのような警察官の態度を総合的に考慮すれば,本件逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものであると評価されてもやむを得ないものといわざるを得ない。そして,このような違法な逮捕に密接に関連する証拠を許容することは,将来における違法捜査抑制の見地からも相当でないと認められるから,その証拠能力を否定すべきである(最高裁昭和51年(あ)第865号同53年9月7日第一小法廷判決・刑集32巻6号1672頁参照)。

(引用終わり)

 

 上記で引用されている最判昭53・9・7は、違法収集証拠排除法則を判示した判例です。これを密接関連する証拠について引用することは、違法収集証拠排除法則の適用範囲を、密接関連性を有する証拠にまで拡大したことを意味するとみることができるわけです。
 もっとも、上記のことは、密接関連性を有することによって後行手続に違法性が承継し、その後行手続の違法性によって証拠排除されることによると考える余地があります。上記最判平15・2・14と、近時の最決平21・9・28では、関連性が密接である等の事情が関連証拠の収集手続の重大違法を基礎付けるかのような判示となっているからです。

 

最判平15・2・14より引用、太字強調は筆者)

 本件覚せい剤は,被告人の覚せい剤使用を被疑事実とし,被告人方を捜索すべき場所として発付された捜索差押許可状に基づいて行われた捜索により発見されて差し押さえられたものであるが,上記捜索差押許可状は上記 (2)の鑑定書を疎明資料として発付されたものであるから,証拠能力のない証拠と関連性を有する証拠というべきである。
 しかし,本件覚せい剤の差押えは,司法審査を経て発付された捜索差押許可状によってされたものであること,逮捕前に適法に発付されていた被告人に対する窃盗事件についての捜索差押許可状の執行と併せて行われたものであることなど,本件の諸事情にかんがみると,本件覚せい剤の差押えと上記(2)の鑑定書との関連性は密接なものではないというべきである。したがって,本件覚せい剤及びこれに関する鑑定書については,その収集手続に重大な違法があるとまではいえず,その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると,その証拠能力を否定することはできない

(引用終わり)

最決平21・9・28より引用、太字強調は筆者)

 本件覚せい剤等は,同年6月25日に発付された各捜索差押許可状に基づいて同年7月2日に実施された捜索において,5回目の本件エックス線検査を経て本件会社関係者が受け取った宅配便荷物の中及び同関係者の居室内から発見されたものであるが,これらの許可状は,4回目までの本件エックス線検査の射影の写真等を一資料として発付されたものとうかがわれ,本件覚せい剤等は,違法な本件エックス線検査と関連性を有する証拠であるということができる。
 しかしながら,本件エックス線検査が行われた当時,本件会社関係者に対する宅配便を利用した覚せい剤譲受け事犯の嫌疑が高まっており,更に事案を解明するためには本件エックス線検査を行う実質的必要性があったこと,警察官らは,荷物そのものを現実に占有し管理している宅配便業者の承諾を得た上で本件エックス線検査を実施し,その際,検査の対象を限定する配慮もしていたのであって,令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったとはいえないこと,本件覚せい剤等は,司法審査を経て発付された各捜索差押許可状に基づく捜索において発見されたものであり,その発付に当たっては,本件エックス線検査の結果以外の証拠も資料として提供されたものとうかがわれることなどの諸事情にかんがみれば,本件覚せい剤等は,本件エックス線検査と上記の関連性を有するとしても,その証拠収集過程に重大な違法があるとまではいえず,その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると,その証拠能力を肯定することができる

(引用終わり)

 

 上記判例が、いずれも「その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると」としている点も重要です。現在の司法試験では、法律構成よりも事実の評価が重視されていますから、「違法性の承継」なのか「毒樹の果実」なのか、という抽象論よりも、関連性があるか、関連性が密接である等の事情により収集過程に重大違法があると評価できるか、証拠の重要性等証拠として許容すべき事情があるかといった点を幅広く具体的に評価して結論を出すことの方が、配点を取りやすいでしょう。

3 行政法における違法性の承継

 以上みてきたように、刑訴における違法性の承継論は、専ら適法性の問題です。その背後にあるのは、「独立の手続だから適法性は別個に判断するのが原則だが、適正手続の観点から一定の場合には先行手続の違法がそのまま後行手続の違法となることを認める」という考え方です。
 これに対し、行政法における違法性の承継は、有効性の問題だ、ということが、一般によく理解されていない点です。「違法性の承継が生じるのは、先行行為が「処分」である場合である」とされるのは、処分には公定力が生じるために、当該処分の取消訴訟によらない限りその効力を否定できないということに根拠があるからです。公定力が専ら有効性の問題であることは、前回記事(「公定力関連の論点について」)で述べたとおりです。これを適法性の問題と混同するのは、従来の適法性推定説の残滓といえます。すなわち、「先行処分の公定力により、先行処分の取消訴訟によらなければその適法性を争えないから違法は承継しないのが原則である」という説明は、現在では誤っているのです。
 では、なぜ、「違法性の承継」が問題となるのか。すなわち、先行処分の違法を後行処分の抗告訴訟において主張できるか、という問題が生じるのでしょうか。それは、先行処分が有効であることが、後行処分の適法要件となっているからです。
 最判平21・12・17は、違法性の承継を認めた著名な判例ですが、これは、安全認定の効力によって東京都建築安全条例4条1項の適用が排除されることによって、建築確認の要件を具備することになるという事案でした。従って、安全認定の効力が否定されれば、建築確認がその適法要件を欠いて違法になる。そういう関係があったわけです。

 

最判平21・12・17より引用、太字強調は筆者)

 東京都建築安全条例(昭和25年東京都条例第89号。以下「本件条例」という。)4条1項は,法43条2項に基づき同条1項に関して制限を付加した規定であり,延べ面積が1000uを超える建築物の敷地は,その延べ面積に応じて所定の長さ(最低6m)以上道路に接しなければならないと定めている。ただし,本件条例4条3項は建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合においては,同条1項の規定は適用しないと定めている(以下,同条3項の規定により安全上支障がないと認める処分を「安全認定」という。)。

(引用終わり)

 

 すなわち、安全認定の違法が、そのまま建築確認に「承継」されるわけではない。この点に注意すべきです。一般に違法性の承継の問題とされている課税処分と滞納処分、事業認定と収用裁決の関係も同様です。「先行処分の違法が後行処分に承継される」という表現は、「先行処分が違法であることからその効力が否定されることによって、後行処分の適法要件が欠けることになるために、結果的に後行処分も違法になること」を(やや極端に)端折った表現といえます。
 ですから、「先行処分と後行処分は独立の処分であるから、原則として違法性は承継されないが〜という場合には、例外的に違法性が承継される」というような刑訴の場合と同様の論証は、誤りなのです。手続の独立性が理由なら、先行行為は処分である必要はない。行政法でいうところの違法性の承継が問題になるのは、「公定力により先行処分の有効性を後行処分の抗告訴訟では争えないのが原則」だからです。司法試験定義趣旨論証集(行政法)では、その点を明確にした論証になっています。
 なお、刑訴と同様の「独立の手続だから違法性は別個に判断すべきであるが、先行手続の違法が重大なときは適正手続の観点から例外的に後行手続も違法になる」という考え方は、行政法にも存在します。司法試験定義趣旨論証集(行政法)でいえば、「違法な行政調査を基礎にした処分の適法性」の論点がそれに当たります。この場合の違法な行政調査は、必ずしも処分である必要はありません。

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