2017年09月08日

平成29年予備試験論文式刑訴法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験において、合格ラインに達するための要件は、司法試験と同様、概ね

(1)基本論点抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを摘示できている。

という3つです。とりわけ、(2)と(3)に、異常な配点がある。(1)は、これができないと必然的に(2)と(3)を落とすことになるので、必要になってくるという関係にあります。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記の配点をすべて取ったという前提の下で、上位合格者のレベルに達するために必要となる程度の配点があるに過ぎません。

2.ところが、法科大学院や予備校では、「応用論点に食らいつくのが大事ですよ。」、「必ず趣旨・本質に遡ってください。」、「事実は単に書き写すだけじゃダメですよ。必ず自分の言葉で評価してください。」などと指導されます。これは、必ずしも間違った指導ではありません。上記の(1)から(3)までを当然にクリアできる人が、さらなる上位の得点を取るためには、必要なことだからです。現に、よく受験生の間に出回る超上位の再現答案には、応用、趣旨・本質、事実の評価まで幅広く書いてあります。しかし、これを真似しようとするとき、自分が書くことのできる文字数というものを考える必要があるのです。
 上記の(1)から(3)までを書くだけでも、通常は3頁程度の紙幅を要します。ほとんどの人は、これで精一杯です。これ以上は、物理的に書けない。さらに上位の得点を取るために、応用論点に触れ、趣旨・本質に遡って論証し、事実に評価を付そうとすると、必然的に4頁後半まで書くことが必要になります。上位の点を取る合格者は、正常な人からみると常軌を逸したような文字の書き方、日本語の崩し方によって、驚異的な速度を実現し、1行35文字以上のペースで4頁を書きますが、普通の考え方・発想に立つ限り、なかなか真似はできないことです。
 文字を書く速度が普通の人が、上記の指導や上位答案を参考にして、応用論点を書こうとしたり、趣旨・本質に遡ったり、いちいち事実に評価を付していたりしたら、どうなるか。必然的に、時間不足に陥ってしまいます。とりわけ、上記の指導や上位答案を参考にし過ぎるあまり、これらの点こそが合格に必要であり、その他のことは重要ではない、と誤解してしまうと、上記の(1)から(3)まで、とりわけ(2)と(3)を省略して、応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいってしまう。これは、配点が極端に高いところを書かずに、配点の低いところを書こうとすることを意味しますから、当然極めて受かりにくくなるというわけです。

3.上記のことを理解した上で、上記(1)から(3)までに絞って答案を書こうとする場合、困ることが1つあります。それは、純粋に上記(1)から(3)までに絞って書いた答案というものが、ほとんど公表されていないということです。上位答案はあまりにも全部書けていて参考にならないし、合否ギリギリの答案には上記2で示したとおりの状況に陥ってしまった答案が多く、無理に応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいって得点を落としたとみられる部分を含んでいるので、これも参考になりにくいのです。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作れば、それはとても参考になるのではないか、ということを考えました。下記の参考答案は、このようなコンセプトに基づいています。

4.今年の刑訴法は、設問1は平成25年司法試験、設問2は平成25年予備試験とかなりの部分が重なっています。過去問をきちんと検討していた人にとっては、用意していたものを書けばよかったので、楽だったでしょう。事例や論点も複雑ではなかったので、現場では解きやすいと感じた人が多かったのではないかと思います。

 設問1は、「①の現行犯逮捕の適法性」が問われています。現場では、準現行犯逮捕と緊急逮捕を書くべきか、悩んだ人もいたでしょう。設問の文理だけからすると、準現行犯逮捕も緊急逮捕も書くべきだ、ということになります。なぜかというと、以下のような場合があり得るからです。

・警察官のした①の現行犯逮捕は、現行犯逮捕としては違法であるが、準現行犯逮捕としては適法である。
・警察官のした①の現行犯逮捕は、現行犯逮捕としては違法であるが、緊急逮捕としては適法である。

 現行犯逮捕がされた事案について、直ちに緊急逮捕状を請求していればその現行犯逮捕が緊急逮捕として適法となる余地を示唆する裁判例は、それなりにあります。本問と類似の事案である京都地決昭44・11・5(西宮恐喝未遂事件)も、その1つの例です。ですから、「①の逮捕は現行犯逮捕として適法か」という問い方ではなく、「①の現行犯逮捕の適法性」という問い方である限り、準現行犯逮捕や緊急逮捕として適法であるかどうかも、文理上は問題となり得るのです。
 もっとも、ここで、過去問の傾向というものを考える必要があります。

 

平成25年司法試験論文式試験刑事系第2問より引用。太字強調は筆者。)

 同日午後10時30分,前記路上において,甲は,司法警察員Pにより,刑事訴訟法第212条第2項に基づき,乙と共謀の上,Vを殺害した事実で逮捕された【逮捕①】。また,その頃,同所において,乙は,司法警察員Qにより,同項に基づき,甲と共謀の上,Vを殺害した事実で逮捕された【逮捕②】。

 (中略)

〔設問1〕  【逮捕①】及び【逮捕②】並びに【差押え】の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

(引用終わり)

平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第2問)より引用。太字強調は筆者。)

 なお,【逮捕②】を違法とする答案の多くが,緊急逮捕としての適法性を論じていたものの,設問には「刑事訴訟法第212条第2項に基づき」と記載され,準現行犯逮捕としての適法性が問われているのは明白であり,緊急逮捕を論じる必要はない。また,中には,現行犯逮捕としての適法性を論じる答案もあったが,準現行犯逮捕として違法である以上,それよりも要件の厳しい現行犯逮捕として適法になる余地はなく,現行犯逮捕を論じること自体,無令状逮捕が認められる要件や趣旨を理解していないことの表れである。いわゆる論点主義に陥らず,刑事手続全体を俯瞰した学習を求めたい。

(引用終わり)

 

 平成25年の司法試験の問題でも、文理上は、緊急逮捕としての適法性が問題となり得ます。「Pが212条2項に基づいてした逮捕は、同項の要件は満たさないが、緊急逮捕の要件を満たす余地がある。」といい得るからです。ところが、考査委員は、問題文にわざわざ「刑事訴訟法第212条第2項に基づき」と書いてあるんだから、準現行犯逮捕だけ検討しろよ、と言っているわけですね。考査委員は、解答の対象を限定する趣旨で、そのような文言を問題文に入れてくる。このような過去問の傾向からすれば、本問の場合も、解答の対象を限定する趣旨で、わざわざ、「現行犯逮捕した」、「現行犯逮捕の適法性」と書いてあるのだろう、と読むべきです。ですから、解答の対象は現行犯逮捕だけでよい、ということになるわけですね。なお、これが、「現行犯人として逮捕した」、「現行犯人としてされた逮捕の適法性」となっていたのであれば、準現行犯逮捕も検討すべきことになります。

 

(212条)
 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
2 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす
一 犯人として追呼されているとき。
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何されて逃走しようとするとき。

(213条)
 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

 

 現行犯逮捕とは、212条1項の「現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者」を逮捕する場合をいい、準現行犯逮捕とは、同条2項によって現行犯人とみなされる者を逮捕する場合をいうわけですから、「現行犯逮捕」と「準現行犯逮捕」は別の概念であって、「現行犯逮捕」に「準現行犯逮捕」が含まれるということはできませんが、「現行犯人を逮捕する場合」といえば、概念上両方含まれるのです。 このような例としては、平成19年度の旧司法試験があります。

 

平成19年度旧司法試験刑事訴訟法第1問試験問題及び出題趣旨。太字強調は筆者。)

 警察官Aは,住居侵入被害発生の110番通報を受け,被害者B女方に赴いた。Bの説明は,「私はこの家に一人で住んでいます。先ほど居間で夕食をとっていると見知らぬ男がかぎの掛かっていない玄関から居間に上がり込んできました。悲鳴を上げるとその男は何もせずに逃げて行きましたので,すぐに110番しました。」というものであった。
 そこで,Aは,Bとともに付近を捜したところ,上記通報から約30分後に,B方から約200メートル離れたコンビニエンスストアで雑誌を立ち読みしている男性甲をBが認め,「あの男です。」と指示した。その直後,甲が同店から出てきたので,Aは,同店前路上において,甲に対し職務質問を開始した。甲の外見からは本件住居侵入を犯したことをうかがわせる証跡は認められなかったものの,甲がAの質問には何も答えずに立ち去ろうとしたことから,Aは,同所で,甲を本件住居侵入の現行犯人として逮捕した。さらに,Aは,その場で甲の身体を捜索し,着衣のポケットからカメラ機能付携帯電話,名義の異なる複数のクレジットカード及び注射器を発見したため,これらを差し押さえた。
 以上のAの行為は適法か。

 

 具体的な答案の書き方です。まず、いきなり現行犯逮捕の要件を書く。これは、事前に覚えて準備しておく必要があります。

 

(「司法試験定義趣旨論証集刑訴法」より引用)

現行犯逮捕(212条1項、213条)の要件
重要度:A
 現行犯逮捕(212条1項、213条)が認められるためには、犯罪及び犯人の明白性、犯罪の現行性(「現に罪を行い」)又は時間的接着性(「現に罪を行い終つた」)の明白性、逮捕の必要性(199条2項ただし書準用)が必要である。

(引用終わり)

 

 後は、順番に規範を書いて当てはめるだけです。これも覚えていないと書けませんから、事前に覚えておくしかありません(※1)。覚えていれば、後は吐き出すだけです。
 ※1 「現行犯逮捕着手後の追跡による時間の経過」の論点については、覚えていなくても現場で考えて書けそうです。同論点の重要度がCになっているのは、そのような趣旨によるものです。

 

(「司法試験定義趣旨論証集刑訴法」より引用)

犯罪及び犯人の明白性の意義
重要度:B
 犯罪及び犯人の明白性とは、その犯人が特定の犯罪を行ったことを逮捕者が現認したことをいう。

時間的接着性の明白性の意義
重要度:B
 時間的接着性の明白性とは、犯行後時間的に極めて接着した段階にあることが、逮捕者に明らかであることをいう。

現行犯逮捕着手後の追跡による時間の経過
重要度:C
 現行犯逮捕の着手時に要件を充足する場合には、追跡が継続している限り、時間の経過があっても、現行性又は時間的接着性の明白性は否定されない。

現行犯人性の判断資料
重要度:B
 現行犯人であるか否かは、逮捕の現場における客観的外部的状況等から、逮捕者自身において直接明白に覚知し得る事実に基いて判断すべきである(西宮恐喝未遂事件参照)。

(引用終わり)

 

 大事なことは、肯定・否定両方の事実をきちんと答案に書き写すことです。自分が取る結論を基礎付ける事実しか拾わない人が多いのですが、それは評価を落とします。設問1では、ここで一番差が付くでしょう。

 

(参考答案より引用)

2.犯罪及び犯人の明白性とは、その犯人が特定の犯罪を行ったことを逮捕者が現認したことをいう。現行犯人であるか否かは、逮捕の現場における客観的外部的状況等から、逮捕者自身において直接明白に覚知し得る事実に基いて判断すべきである(西宮恐喝未遂事件参照)。
 確かに、Wは、犯行を目撃した。しかし、逮捕者である警察官は、犯人を見失ったWから犯人の特徴及び犯人の逃走した方向を聞き、Wから聴取していた犯人の特徴と合致する甲を発見し、職務質問を実施したところ、甲が犯行を認めたにすぎない。Vの殺害に使用されたサバイバルナイフは、Vの胸部に刺さった状態で発見された。したがって、犯人が特定の犯罪を行ったことを逮捕者が現認したとはいえない。以上から、犯罪及び犯人の明白性があるとはいえない。

3.時間的接着性の明白性とは、犯行後時間的に極めて接着した段階にあることが、逮捕者に明らかであることをいう。現行犯逮捕の着手時に要件を充足する場合には、追跡が継続している限り、時間の経過があっても、現行性又は時間的接着性の明白性は否定されない。
 確かに、Wは、犯行後、直ちに犯人を追跡した。しかし、Wは、追跡開始から約1分後、犯行現場から約200メートルの地点で犯人を見失ったから、追跡は継続していない。逮捕者である警察官が甲を発見したのは、犯行から約30分後、犯行現場から約2キロメートル離れた路上であった。したがって、犯行後時間的に極めて接着した段階にあることが、逮捕者に明らかであるとはいえない。以上から、時間的接着性の明白性があるとはいえない。

(引用終わり)

 

 犯罪及び犯人の明白性が否定された時点で、違法の結論が出るのだから、時間的接着性の明白性は論じるまでもないだろう、と思う人は、理論的には正しいしかし、論文試験で点を取る、という観点からは、誤っています本問の場合、時間的接着性の明白性についても当てはめる事情があるのだから、そこに配点があるそうであるなら、書かなければならないのです。真面目な人は、このような場合に、書き方に悩むようです。「実益のないことを書いているようで違和感がある。」などと考えてしまうわけですね。しかし、そんなことは、何も気にする必要はない。参考答案のように、開き直って2つ並べて書けば済むことです。論文試験の答案は、「理論的な正解を書く。」ものではありません。「限られた時間の中で、得点が最大化される文字を記載する。」ものです。仮に理論的におかしくても、それを書いて点が取れるなら、堂々と書かなければいけない。なお、上記参考答案中で、「Vの殺害に使用されたサバイバルナイフは、Vの胸部に刺さった状態で発見された。」という部分を書き写したのは、甲は凶器を持っていないし、凶器から犯人が甲であると考えることはできないという趣旨です。「なら答案にそう書けよ。」と思う人で、現場で時間内に書ける人は、そう書けばよいでしょう。一方で、参考答案は、逮捕の必要性については何も当てはめをしていません。逮捕の必要性の配点は低いでしょうし、論理的にも、違法の結論とするならば、敢えて検討する必要はないからです。受かりにくい人は、こういったところでも、「犯罪及び犯人の明白性と時間的接着性の明白性まで当てはめたのだから、逮捕の必要性まで当てはめないとダメなのではないか。」と考えて、律儀に書こうとする傾向があります。そうしたことが、途中答案の原因となっていないか、考える必要があるでしょう。

 

 設問2です。小問1は、訴因の特定の規範を書いて、当てはめるだけの問題です。訴因の特定については、判例(最決平26・3・17)の規範を明示できたかどうかがポイントとなります。「判例は識別説だ。」という理解から、後半部分を落とす人が多いので、注意を要します。

 

最決平26・3・17より引用。太字強調は筆者。)

 いずれの事件も,上記1の訴因における罪となるべき事実は,その共犯者,被害者,期間,場所,暴行の態様及び傷害結果の記載により,他の犯罪事実との区別が可能であり,また,それが傷害罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされているから,訴因の特定に欠けるところはないというべきである。

(引用終わり)

(「司法試験定義趣旨論証集刑訴法」より引用)

訴因特定(256条3項)の程度
重要度:A
 訴因が特定(256条3項)されたというためには、他の犯罪事実との区別が可能であり、起訴に係る罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされていることを要する(包括一罪となる傷害罪の訴因に関する判例参照)。

(引用終わり)

 

 当てはめは、上位を狙わないのであれば、問題文を書き写して終わりです。

 

(参考答案より引用)

 訴因が特定(256条3項)されたというためには、他の犯罪事実との区別が可能であり、起訴に係る罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされていることを要する(包括一罪となる傷害罪の訴因に関する判例参照)。
 ②の公訴事実に記載された訴因は、「被告人は、甲と共謀の上、平成29年5月21日午後10時頃、H県I市J町1丁目2番3号先路上において、Vに対し、殺意をもって、甲がサバイバルナイフでVの胸部を1回突き刺し、よって、その頃、同所において、同人を左胸部刺創による失血により死亡させて殺害したものである。」というものであり、他の犯罪事実との区別が可能であり、Vに対する殺人の共謀共同正犯の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされている。
 よって、②の公訴事実は、訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえる。

(引用終わり)

 

 これでは足りない、と思う人も多いでしょう。しかし、この部分をきちんと説明できている人は、実際にはかなり少ないはずです。例えば、練馬事件判例(最大判昭33・5・28)を参考にして、似たようなことを書いた人もいたでしょう。

 

練馬事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となつで互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よつて犯罪を実行した事実が認められなければならない。… 「共謀」または「謀議」は、共謀共同正犯における「罪となるべき事実」にほかならないから、これを認めるためには厳格な証明によらなければならないこというまでもない。しかし「共謀」の事実が厳格な証明によつて認められ、その証拠が判決に挙示されている以上、共謀の判示は、前示の趣旨において成立したことが明らかにされれば足り、さらに進んで、謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳細、すなわち実行の方法、各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要するものではない

(引用終わり)

 しかし、上記の判示の趣旨を正しく理解して書ける人は、意外といません。例えば、以下のような誤った記述をする人が多いのです。

「共謀共同正犯における共謀は、「罪となるべき事実」そのものではないから、共謀の日時、場所及び方法の特定は不要である。」
「共謀共同正犯における実行正犯の実行行為の日時、場所及び方法は「罪となるべき事実」そのものであるから特定が必要であるが、共謀の日時、場所及び方法は「罪となるべき事実」そのものではないから、特定を要しない。」

 上記はなぜ、誤っているのか。まず、256条3項を確認しておきましょう。

 

(256条3項)
 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。

 

 特定の対象は、「罪となるべき事実」であり、それを特定するための手段が、「日時、場所及び方法」である。したがって、日時、場所及び方法は、基本的に罪となるべき事実そのものではない、ということになります。

 

最大判昭37・11・28(白山丸事件)より引用。太字強調は筆者。)

 刑訴二五六条三項において、公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないと規定する所以のものは、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防禦の範囲を示すことを目的とするものと解されるところ、犯罪の日時、場所及び方法は、これら事項が、犯罪を構成する要素になつている場合を除き、本来は、罪となるべき事実そのものではなく、ただ訴因を特定する一手段として、できる限り具体的に表示すべきことを要請されているのであるから、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、前記法の目的を害さないかぎりの幅のある表示をしても、その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しない違法があるということはできない。

(引用終わり)

 

 このことの具体的な意味は、意外と理解されていないところです。「罪となるべき事実」=「犯罪事実」とは、殺人罪を例にすれば、「人を殺すこと」です。

 

(刑法199条)
 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

 

 いつ、どこで、どんな方法であるか、被害者が誰であるかを問わず、人を殺せば、殺人罪が成立する。これは明らかです。したがって、日時、場所及び方法は、通常は犯罪事実を構成しない。ただし、犯罪事実にこれらが含まれる場合もあります。例えば、名誉毀損罪においては、公然と事実を摘示する方法であることが、強盗罪においては、暴行又は脅迫の方法を用いることが犯罪事実を構成します。

(刑法230条1項)
 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

(刑法236条)
 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 

 これが、白山丸事件判例のいう、「犯罪の日時、場所及び方法は、これら事項が、犯罪を構成する要素になつている場合を除き、本来は、罪となるべき事実そのものではなく」ということの具体的な意味です。
 次に、白山丸事件のいう、「訴因を特定する一手段として、できる限り具体的に表示すべきことを要請されている」ということと、最決平26・3・17が、「他の犯罪事実との区別」と、「構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされている」ことをもって、訴因の特定についての判断基準としていることの意味について、説明しましょう。
 犯罪の日時、場所及び方法が犯罪事実を構成しないとしても、訴訟においては、これを特定しないわけにはいきません。なぜか。例えば、甲、乙が別々の機会に殺害され、それぞれ捜査の対象にされているような場合に、「被告人は、いつ、どこで、どんな方法で、誰を殺したかはわからないが、とにかく人を殺した。」として起訴されても、甲が殺害された殺人事件のことなのか、乙が殺害された殺人事件のことなのかわかりません。少なくとも、被害者が誰であるかを確定しておかないと、どの事件が起訴されたのか、審判の対象が確定できないわけです。これが、「他の犯罪事実との区別」という観点です。他方、誰が殺されたのかさえ確定していれば、日時、場所及び方法は、他の犯罪事実との区別という見地からは、必ずしも特定の必要はないこれは殺人罪の特徴で、平成29年9月10日に何者かがVを殺害し、その1か月後の同年10月10日にも何者かがVを殺害した、ということはないわけですから、「Vを殺したって、いつの方だよ?」という話にはならないということですね。例えば、窃盗罪の事例で、平成29年9月10日に何者かがV宅で10万円を盗み、その1か月後の同年10月10日にもまた何者かがV宅で10万円を盗んだ、というような場合には、「V宅で10万円盗んだって、いつの方だよ?」という話になる。そのような場合には、日時を特定しておかないと、他の犯罪事実との区別ができないということになります。なお、日時、場所及び方法とは異なりますが、殺人罪の場合は、客観面だけからは傷害致死との区別ができないので、「殺意をもって」という文言を特に記載します。一般に、故意は客観面から明らかとなるので、犯罪事実として敢えて記載しないのですが、このような場合は記載を要するのです。
 「構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされている」という要件との関係を考えます。まず、前提となるのは、公訴事実に記載された事実が認定された場合に、起訴された罪が成立するといえる場合でなければならないということです。

 

(339条1項)
 左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。
一 第二百七十一条第二項の規定により公訴の提起がその効力を失つたとき。
二 起訴状に記載された事実が真実であつても、何らの罪となるべき事実を包含していないとき。
三 公訴が取り消されたとき。
四 被告人が死亡し、又は被告人たる法人が存続しなくなつたとき。
五 第十条又は第十一条の規定により審判してはならないとき。

 

 「被告人がいつ、どこで、何をしたかは、全くわからない。Vは死亡した。」というような公訴事実の記載では、当然ですが、殺人罪が成立するとすらいえません。ですから、少なくとも、「人を殺した」と評価できるような具体的な事実の記載がなければいけないのです。
 そして、ここからが本題ですが、殺人罪で起訴された場合に、「被告人が人を殺した」ことを立証し、裁判所がこれを認定するためには、合理的な疑いを容れない程度の証明が必要です。いくら犯罪の日時、場所及び方法が犯罪事実を構成しないといっても、「いつ、どこで、どんな方法で殺したかはわからないが、とにかく被告人がVを殺したことは間違いない。」といえるような状況は、通常はないわけです。だから、合理的な疑いを容れない程度の証明があったというためには、ある程度は日時、場所及び方法を特定しておかなければならない。逆にいえば、「被告人が人を殺した」ことについて、合理的な疑いを容れない程度の証明があったと認め得るならば、それ以上の特定は必ずしも必要がないこのことを、最決平26・3・17は、「構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされている」と表現するわけです。
 さて、このことを、共同正犯における共謀について考えてみましょう。まず、共謀は、共同正犯の成立要件ですから、犯罪事実を構成する要素です。練馬事件判例が、「「共謀」または「謀議」は、共謀共同正犯における「罪となるべき事実」にほかならない」と言っているのは、この趣旨です。同時に、共謀があれば、いつ、どこで、どんな方法でなされたかは問わないわけですから、共謀の日時、場所及び方法は、犯罪事実を構成しない。とはいえ、上記のとおり、「他の犯罪事実との区別」ができ、「構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされている」といえる程度には特定されている必要があるということになります。
 まず、「他の犯罪事実との区別」について考えてみましょう。ここでのポイントは、通常は、共謀の対象である犯罪の内容が特定されている限り、共謀の日時、場所及び方法が特定されなくても、他の犯罪事実との区別が可能だということです。例えば、先の窃盗罪の事例で、平成29年9月10日に何者かがV宅で10万円を盗み、その1か月後の同年10月10日にもまた何者かがV宅で10万円を盗んだ、というような場合であっても、共謀の対象が、同年9月10日にV宅に盗みに入る、というものであれば、共謀の日時、場所及び方法がどのようなものであるかによって、別の犯罪事実についての共同正犯が成立することになる、ということはあり得ないのです。つまり、「他の犯罪事実との区別」との観点からは、共謀の対象さえ確定していれば足り、共謀の日時、場所及び方法を特定する必要は必ずしもない、ということになります。
 それでは、「構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされている」というためには、どの程度の特定が必要でしょうか。先ほどの殺人の場合には、「いつ、どこで、どんな方法で殺したかはわからないが、とにかく被告人がVを殺したことは間違いない。」などということはほとんどない、だから、ある程度は殺害した日時、場所及び方法が明らかでないといけないだろう、という話でした。しかし、共謀の場合には、「いつ、どこで、どんな方法で共謀したかはわからないが、とにかく被告人が実行犯と共謀したことは間違いない。」ということは、それなりにあり得るわけです。例えば、被告人が見張りをし、別の実行犯がV宅に侵入して窃盗を行った、というような場合、何の共謀もないのにそのような役割分担をするだろうか、という話になるでしょう。しかし、いつ、どこで、どんな方法で共謀したかはわからない。あるいは、犯行計画を記載したメモが証拠として存在するから、その元になった計画を策定した共謀があったことは間違いない。しかし、その元になった犯行計画がいつ、どこで、どんな方法で策定されたかはわからない。このような事例は、それなりによくあるわけです。ですから、共謀の日時、場所及び方法が特定されていなくても、「構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされている」といえる場合は、それなりにあるこのことをもって、練馬事件判例は、以下のように判示しているのです。

 

練馬事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となつで互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よつて犯罪を実行した事実が認められなければならない。 …「共謀」の事実が厳格な証明によつて認められ、その証拠が判決に挙示されている以上共謀の判示は、前示の趣旨において成立したことが明らかにされれば足り、さらに進んで、謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳細、すなわち実行の方法、各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要するものではない

(引用終わり)

 

 ここまで理解すれば、前に挙げた2つの例は、太字強調部分が誤っていることがわかるでしょう。

「共謀共同正犯における共謀は、「罪となるべき事実」そのものではないから、共謀の日時、場所及び方法の特定は不要である。」
「共謀共同正犯における実行正犯の実行行為の日時、場所及び方法は「罪となるべき事実」そのものであるから特定が必要であるが、共謀の日時、場所及び方法は「罪となるべき事実」そのものではないから、特定を要しない。」

 以上を踏まえた上で、本問で適切な理由付けを付すとすれば、以下のような論述になるでしょう。

 

【論述例】

 訴因が特定(256条3項)されたというためには、他の犯罪事実との区別が可能であり、起訴に係る罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされていることを要する(包括一罪となる傷害罪の訴因に関する判例参照)。
 ②の公訴事実に記載された訴因において、共謀の対象となる殺人の客体はVとされているから、共謀の日時、場所及び方法がどのようなものであれ、被告事件がVに対する殺人の共謀共同正犯以外の犯罪となることはあり得ない。したがって、他の犯罪事実との区別が可能である。また、同訴因において、共謀の対象となる殺人の日時、場所、方法、被害者の死因等につき、平成29年5月21日午後10時頃、H県I市J町1丁目2番3号先路上において、Vに対し、殺意をもって、甲がサバイバルナイフでVの胸部を1回突き刺し、よって、その頃、同所において、同人を左胸部刺創による失血により死亡させて殺害した旨が記載されているから、殺人罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされている。そうである以上、甲との共謀の存在について合理的な疑いを容れない程度の証明がなされる限り、共謀の日時、場所及び方法が特定されなくても、Vに対する殺人の共謀共同正犯の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされているといえる。
 よって、②の公訴事実は、訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえる。

 

 こういったことを、正確に現場で書けるかというと、普通はできないわけです。そういうわけで、合格ラインという意味では、参考答案程度でよいのだろうと考えています。

 小問2です。小問2の端的な答えは、「釈明しただけで訴因変更はしてないんだから、訴因の内容になるわけねーだろ。」ということに尽きます。とはいえ、「釈明しただけで当然に訴因の内容になる場合がある。」と説明される場合があります。それは、求釈明時の訴因が不特定であって、釈明事項が訴因の内容になると考えて初めて不特定が治癒されるといえる場合です。仮に、本問で、「乙は、甲との間で、平成29年5月18日、甲方において、Vを殺害する旨の謀議を遂げた。」 という③の釈明事項が訴因に記載されていなければ、訴因は特定されていない、と考えてみましょう。この場合に、上記の「釈明しただけで訴因変更はしてないんだから、訴因の内容になるわけねーだろ。」という原則論を貫くと、こうなります。

裁判所「このままだと訴因不特定なので、共謀の日時、場所について釈明はありませんか?」
検察官「それでは、『乙は、甲との間で、平成29年5月18日、甲方において、Vを殺害する旨の謀議を遂げた。』ということで。」
弁護人「乙は、同日は終日、知人である丙方にいた。したがって、共謀については否認します。」
裁判所「そうですか。まあ、検察官は釈明しただけで訴因変更してないので、訴因は不特定なままですね。なので、338条4号に基づいて公訴棄却判決します。」
検察官「えっ?」
弁護人「えっ?」

 もちろん、これでも検察官は釈明事項を訴因に加えて再度起訴できるわけですが、それは時間の無駄、講学上の用語でいえば、訴訟経済を害するでしょう。そこで、このような場合には、当然に釈明事項が訴因の内容となる、と考えられているわけです。もっとも、これはやや便宜的にすぎるという側面もあります。このような場合に検察官の釈明事項が訴因の内容になるのは、その釈明が法的には訴因変更を伴う補正であると理解できるからでしょう。そうだとすれば、被告人が在廷していない場合(規則209条6項参照)には、釈明だけでは足りず、訴因変更の手続(※2)をとることが必要であると考える余地は、十分あるでしょう。仮に、検察官が訴因変更の手続をとろうとしない場合には、裁判所は改めてその旨を求釈明し、それでも検察官が応じないならば、訴因変更を命ずるべきときもあるように思います
 いずれにせよ、本問では訴因は不特定ではないと考えるのが一般でしょうから、釈明事項は訴因の内容とならない、と解答すれば足ります。参考答案は、それだけを簡潔に書いています。
 ※2 被告人が在廷している場合(規則209条6項)を除き、検察官は被告人の数に応じた謄本を添付した書面を提出し(同条1項、2項)、裁判所は謄本を被告人に送達し(同条3項)、検察官は公判期日において提出した書面を朗読する(同条4項)。そして、裁判所がこれを許可するときは、被告人へ通知する(法312条3項)。

 設問3です。当事者間では、平成29年5月18日の共謀の有無、具体的には、同日に甲方にいたのか、丙方にいたのか、ということを争っていたのに、裁判所がいきなり同月11日の共謀を認定してよいか、ということが問われています。設問2の解答を前提にすれば、共謀の日時は訴因の内容となっていませんから、訴因変更の要否は問題となりません。問題となるのは、争点逸脱認定です。争点逸脱認定については、最判昭58・12・13(よど号ハイジャック事件)があります。

 

(よど号ハイジャック事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 被告人が所属するA派内部において、昭和四五年一月以降、海外における国際根拠地の設定及びそのための派遣要員の国外脱出計画が存在し、その手段としてのハイジヤツクに向けた種々の準備が行われていたこと、被告人が右国外派遣要員の母体とされる「L軍」の隊長という地位にあり、ハイジヤツクを実行するうえで必要な資金や武器の獲得計画に重要な役割を果たしたことなどの点については、証拠上第一審判決の認定をおおむね是認することができるが、他方、A派内部において、国外脱出の手段としてのハイジヤツク計画が現実のものとして具体化してきたのは、三月上旬以降のことであること、被告人は、三月四日から一二日まで京都市に居て、同日夜帰京してきたものであり、帰京以前に、H、Cらと本件ハイジヤツクに関する具体的な話合いをしたことを窺わせる的確な証拠の見当らないことなども、記録上明らかなところである。そして、前記のような訴訟の経過によると、本件において、当事者双方は、被告人に対し本件ハイジヤツクに関する共同正犯の刑責を負わせることができるかどうかが、一にかかつて、被告人が、京都から帰つた一二日以降逮捕された一五日朝までの間にH、CらA派最高幹部とともに本件ハイジヤツクに関する具体的な謀議を遂げたと認めうるか否かによるとの前提のもとに、右謀議成否の判断にあたつては、証拠上本件ハイジヤツクに関する具体的な話合いが行われたとされている三月一三日の喫茶店「G」における協議(第一次協議)に被告人が加わつていたかどうかの点がとりわけ重要な意味を有するという基本的認識に立つて訴訟を追行したことが明らかであり、一、二審裁判所もまた、これと同一の基本的認識に立つものであると認められる。
 ところで、原審は、第一審と異なり、一三日夜喫茶店「G」において第一次協議が行われたとされる時間帯における被告人のアリバイの成立を認めながら、同夜の協議は現実には一二日夜に同喫茶店において行われたもので、被告人もこれに加わつており、さらに、一三日昼、一四日にも被告人を含めた顔ぶれで右協議が続行されているとして、被告人に対し本件ハイジヤツクの共謀共同正犯の成立を肯定したのである。
 しかし、三月一二日夜喫茶店「G」及びホテル「f」において被告人がH、Cらと顔を合わせた際に、ごれらの者の間で本件ハイジヤツクに関する謀議が行われたという事実は、第一審の検察官も最終的には主張せず、第一審判決によつても認定されていないのであり、右一二日の謀議が存在したか否かについては、前述のとおり、原審においても検察官が特段の主張・立証を行わず、その結果として被告人・弁護人も何らの防禦活動を行つていないのである。したがつて、前述のような基本的認識に立つ原審が、第一審判決の認めた一三日夜の第一次協議の存在に疑問をもち、右協議が現実には一二日夜に行われたとの事実を認定しようとするのであれば、少なくとも、一二日夜の謀議の存否の点を控訴審における争点として顕在化させたうえで十分の審理を遂げる必要があったと解されるのであつて、このような措置をとることなく、一三日夜の第一次協議に関する被告人のアリバイの成立を認めながら、率然として、右第一次協議の日を一二日夜であると認めてこれに対する被告人の関与を肯定した原審の訴訟手続は、本件事案の性質、審理の経過等にかんがみると、被告人に対し不意打ちを与え、その防禦権を不当に侵害するものであつて違法であるといわなければならない。

(引用終わり)

 

 本問でも、上記判例をそのまま当てはめればいいかというと、必ずしもそうではありません。訴因変更の要否で有名な最決平13・4・11(青森保険金目的放火・殺人事件判例)があるからです。

 

(青森保険金目的放火・殺人事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 殺人罪の共同正犯の訴因としては,その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって,それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから,訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても,審判対象の画定という見地からは,訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ,実行行為者がだれであるかは,一般的に,被告人の防御にとって重要な事項であるから,当該訴因の成否について争いがある場合等においては,争点の明確化などのため,検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ,検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上,判決においてそれと実質的に異なる認定をするには,原則として,訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら,実行行為者の明示は,前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから,少なくとも,被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし,被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ,かつ,判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には,例外的に,訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである。

(引用終わり)

 

 上記判例のうち、訴因の特定に必要でない事項に関する部分の判示は、「争点の明確化などのため…明示するのが望ましい…明示をした以上…実質的に異なる認定をするには,原則として,訴因変更手続を要する」としていることから読み取れるように、一種の争点逸脱認定についての判示です。これを争点逸脱認定一般の場合に敷衍すると、以下のようになるでしょう。

 

(「司法試験定義趣旨論証集刑訴法」より引用)

争点顕在化措置の要否
重要度:B
 訴因に含まれない事実であっても、一般的に被告人の防御にとって重要な事項について、当事者の前提とする事実と異なる事実を認定する場合には、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が当事者の前提とする事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえないときを除き、裁判所は、求釈明(規則208条1項)等によって争点を顕在化させる措置をとることを要する(よど号ハイジャック事件判例及び訴因変更に関する青森保険金目的放火・殺人事件判例参照)。

(引用終わり)

 

 現在では、単に当事者の前提とする事実と異なるから、というだけでなく、青森保険金目的放火・殺人事件判例の例外要件を充足するか、という点も検討する必要があるのです。本問は、上記の規範を挙げて、当てはまる事実を列挙すれば終わりです。

 

(参考答案より引用)

 訴因に含まれない事実であっても、一般的に被告人の防御にとって重要な事項について、当事者の前提とする事実と異なる事実を認定する場合には、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が当事者の前提とする事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえないときを除き、裁判所は、求釈明(規則208条1項)等によって争点を顕在化させる措置をとることを要する(よど号ハイジャック事件判例及び訴因変更に関する青森保険金目的放火・殺人事件判例参照)。
 共謀のあった日は、一般的に被告人の防御にとって重要な事項である。検察官は、乙の公判前整理手続において、裁判長からの求釈明に対し、「乙は…平成29年5月18日…謀議を遂げた。」旨釈明した。これに対し、乙の弁護人は、甲との共謀の事実を否認し、「乙は、同日は終日、知人である丙方にいた。」旨主張したため、本件の争点は、「甲乙間で、平成29年5月18日…謀議があったか否か。」であるとされ、乙の公判における検察官及び弁護人の主張・立証も上記釈明の内容を前提に展開された。したがって、裁判所が、「乙は…平成29年5月11日…謀議を遂げた。」と認定することは、当事者の前提とする事実と異なる事実を認定する場合であって、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものといえる。したがって、裁判所は、求釈明(規則208条1項)等によって争点を顕在化させる措置をとることを要する。
 よって、裁判所が上記措置をとらないまま、上記の認定をして有罪の判決をすることは許されない。

(引用終わり)

 

 本問のような問題では、「現行犯逮捕や訴因制度の趣旨に遡ったかどうかで合否を分ける。」などといわれがちです。当サイトは、それは誤っていると考えています。旧司法試験では、説の分岐や、制度趣旨に遡ってそこから自説を説明できるか、などが問われていました。配点は、他説の紹介とその批判、趣旨からの自説の説明の部分に集中していた。そのため、自説を事案に当てはめる部分は、「本問では、上記の~に当たるといえる。」などと、2行程度しか書いていなくても、合格できたのです。これに対応して、予備校が、他説の紹介と批判、趣旨からの自説の説明方法を定型化して論証集や論点ブロックカードというものを作った。当時は、それを貼り付ければ、本当に合格できたのです。しかし今は、意図的にそれでは受からないような配点に変えられています。かつての予備校が用意していた論証、すなわち、規範の理由付けに配点をおかないようにすれば、予備校論証を丸暗記する受験生を落とすことができる。そして、当てはめの事実の摘示に大きな配点を置けば、それほど勉強時間をとれない若手も点が取れる。一方で、知識の豊富な年配者は、旧試験時代のクセで規範の理由付けを延々と書いてしまったり、余計な応用論点を拾いに行ってしまったりしやすいだけでなく、体力や反射神経の衰えから、当てはめの事実を摘示する時間的余裕がなくて、事実をほとんど摘示できないので、どんなに勉強してもなかなか受からない。若手を採りたい法務省としては、今の採点方式は非常に都合がよいのです(若手優遇策の歴史的変遷については、「平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」を参照。)。参考答案は、訴因制度の趣旨を一切書いていません。これでいい。もちろん、参考答案程度では時間が余ってしまって困る、というのであれば、趣旨に遡ったり、事実の評価を増やせばよいでしょう。しかし、ほとんどの人はその余裕がないはずです。今回、「現行犯逮捕が認められた趣旨は~」、「訴因制度の趣旨は~」と書いていて時間切れになった人は、特にこの点に気を付けないと、毎年、「わかってはいたのに書き切れなかった。」を繰り返すことになってしまうでしょう。
 参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集刑訴法」に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.現行犯逮捕(212条1項、213条)が認められるためには、犯罪及び犯人の明白性、犯罪の現行性(「現に罪を行い」)又は時間的接着性(「現に罪を行い終つた」)の明白性、逮捕の必要性(199条2項ただし書準用)が必要である

2.犯罪及び犯人の明白性とは、その犯人が特定の犯罪を行ったことを逮捕者が現認したことをいう現行犯人であるか否かは、逮捕の現場における客観的外部的状況等から、逮捕者自身において直接明白に覚知し得る事実に基いて判断すべきである(西宮恐喝未遂事件参照)
 確かに、Wは、犯行を目撃した。しかし、逮捕者である警察官は、犯人を見失ったWから犯人の特徴及び犯人の逃走した方向を聞き、Wから聴取していた犯人の特徴と合致する甲を発見し、職務質問を実施したところ、甲が犯行を認めたにすぎない。Vの殺害に使用されたサバイバルナイフは、Vの胸部に刺さった状態で発見された。したがって、犯人が特定の犯罪を行ったことを逮捕者が現認したとはいえない。以上から、犯罪及び犯人の明白性があるとはいえない。

3.時間的接着性の明白性とは、犯行後時間的に極めて接着した段階にあることが、逮捕者に明らかであることをいう現行犯逮捕の着手時に要件を充足する場合には、追跡が継続している限り、時間の経過があっても、現行性又は時間的接着性の明白性は否定されない
 確かに、Wは、犯行後、直ちに犯人を追跡した。しかし、Wは、追跡開始から約1分後、犯行現場から約200メートルの地点で犯人を見失ったから、追跡は継続していない。逮捕者である警察官が甲を発見したのは、犯行から約30分後、犯行現場から約2キロメートル離れた路上であった。したがって、犯行後時間的に極めて接着した段階にあることが、逮捕者に明らかであるとはいえない。以上から、時間的接着性の明白性があるとはいえない。

4.よって、①の現行犯逮捕は、違法である。

第2.設問2

1.小問1

 訴因が特定(256条3項)されたというためには、他の犯罪事実との区別が可能であり、起訴に係る罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされていることを要する(包括一罪となる傷害罪の訴因に関する判例参照)
 ②の公訴事実に記載された訴因は、「被告人は、甲と共謀の上、平成29年5月21日午後10時頃、H県I市J町1丁目2番3号先路上において、Vに対し、殺意をもって、甲がサバイバルナイフでVの胸部を1回突き刺し、よって、その頃、同所において、同人を左胸部刺創による失血により死亡させて殺害したものである。」というものであり、他の犯罪事実との区別が可能であり、Vに対する殺人の共謀共同正犯の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされている。
 よって、②の公訴事実は、訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえる。

2.小問2

 ②の公訴事実の訴因の記載は適法であるから、③の検察官の釈明をもって訴因変更を伴う補正とみるべき余地はない。
 したがって、訴因変更の手続がとられていない本問では、③の検察官の釈明した事項は、訴因の内容とならない。

3.小問3

 訴因に含まれない事実であっても、一般的に被告人の防御にとって重要な事項について、当事者の前提とする事実と異なる事実を認定する場合には、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が当事者の前提とする事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえないときを除き、裁判所は、求釈明(規則208条1項)等によって争点を顕在化させる措置をとることを要する(よど号ハイジャック事件判例及び訴因変更に関する青森保険金目的放火・殺人事件判例参照)
 共謀のあった日は、一般的に被告人の防御にとって重要な事項である。検察官は、乙の公判前整理手続において、裁判長からの求釈明に対し、「乙は…平成29年5月18日…謀議を遂げた。」旨釈明した。これに対し、乙の弁護人は、甲との共謀の事実を否認し、「乙は、同日は終日、知人である丙方にいた。」旨主張したため、本件の争点は、「甲乙間で、平成29年5月18日…謀議があったか否か。」であるとされ、乙の公判における検察官及び弁護人の主張・立証も上記釈明の内容を前提に展開された。したがって、裁判所が、「乙は…平成29年5月11日…謀議を遂げた。」と認定することは、当事者の前提とする事実と異なる事実を認定する場合であって、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものといえる。したがって、裁判所は、求釈明(規則208条1項)等によって争点を顕在化させる措置をとることを要する。
 よって、裁判所が上記措置をとらないまま、上記の認定をして有罪の判決をすることは許されない。

以上

posted by studyweb5 at 23:49| 予備試験論文式過去問関係 | 更新情報をチェックする

2017年08月29日

平成29年予備試験論文式刑法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験において、合格ラインに達するための要件は、司法試験と同様、概ね

(1)基本論点抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを摘示できている。

という3つです。とりわけ、(2)と(3)に、異常な配点がある。(1)は、これができないと必然的に(2)と(3)を落とすことになるので、必要になってくるという関係にあります。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記の配点をすべて取ったという前提の下で、上位合格者のレベルに達するために必要となる程度の配点があるに過ぎません。

2.ところが、法科大学院や予備校では、「応用論点に食らいつくのが大事ですよ。」、「必ず趣旨・本質に遡ってください。」、「事実は単に書き写すだけじゃダメですよ。必ず自分の言葉で評価してください。」などと指導されます。これは、必ずしも間違った指導ではありません。上記の(1)から(3)までを当然にクリアできる人が、さらなる上位の得点を取るためには、必要なことだからです。現に、よく受験生の間に出回る超上位の再現答案には、応用、趣旨・本質、事実の評価まで幅広く書いてあります。しかし、これを真似しようとするとき、自分が書くことのできる文字数というものを考える必要があるのです。
 上記の(1)から(3)までを書くだけでも、通常は3頁程度の紙幅を要します。ほとんどの人は、これで精一杯です。これ以上は、物理的に書けない。さらに上位の得点を取るために、応用論点に触れ、趣旨・本質に遡って論証し、事実に評価を付そうとすると、必然的に4頁後半まで書くことが必要になります。上位の点を取る合格者は、正常な人からみると常軌を逸したような文字の書き方、日本語の崩し方によって、驚異的な速度を実現し、1行35文字以上のペースで4頁を書きますが、普通の考え方・発想に立つ限り、なかなか真似はできないことです。
 文字を書く速度が普通の人が、上記の指導や上位答案を参考にして、応用論点を書こうとしたり、趣旨・本質に遡ったり、いちいち事実に評価を付していたりしたら、どうなるか。必然的に、時間不足に陥ってしまいます。とりわけ、上記の指導や上位答案を参考にし過ぎるあまり、これらの点こそが合格に必要であり、その他のことは重要ではない、と誤解してしまうと、上記の(1)から(3)まで、とりわけ(2)と(3)を省略して、応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいってしまう。これは、配点が極端に高いところを書かずに、配点の低いところを書こうとすることを意味しますから、当然極めて受かりにくくなるというわけです。

3.上記のことを理解した上で、上記(1)から(3)までに絞って答案を書こうとする場合、困ることが1つあります。それは、純粋に上記(1)から(3)までに絞って書いた答案というものが、ほとんど公表されていないということです。上位答案はあまりにも全部書けていて参考にならないし、合否ギリギリの答案には上記2で示したとおりの状況に陥ってしまった答案が多く、無理に応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいって得点を落としたとみられる部分を含んでいるので、これも参考になりにくいのです。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作れば、それはとても参考になるのではないか、ということを考えました。下記の参考答案は、このようなコンセプトに基づいています。

4.今年の刑法は、書くべき事項が非常に多いというのが特徴です。上記(1)の基本事項だけでも、全部書こうとすると、4頁に収まらない。このような場合には、配点の高い事項に絞って書き、それ以外は敢えて落とす、というテクニックが必要です。ロースクール等では、「あれもこれも全部書け。」という指導がされがちで、刑法でも、「構成要件は必ず、絶対に、全部検討して下さい。罪刑法定主義ですからね。構成要件を全部検討しないで論点だけ書くような論点主義の答案は0点ですよ!」などと言われたりする。真面目な人は、これを真に受けて、常に構成要件を全部書こうとしたりします。今年の場合、それでは確実に途中答案になってしまったでしょう。
 また、このような書くべき事項が多い問題だと、上記(2)の規範の明示や、上記(3)の事実の摘示を省略して、幅広く論点を拾おうとする書き方をしたくなります。しかし、それは、現在の採点基準の下では、評価を下げている。では、どうするか。上記(1)の基本論点のうち、さらに配点が高そうな部分に絞って、上記(2)と(3)を守って書き、その他の論点は、思い切って落とすのです。配点が高いかどうかは、上記(2)と(3)との関係で理解することができます。すなわち、規範を明示して当てはめるような形で書くことになるか、当てはめで摘示すべき事実がたくさんあるかどうか。これらの点に着目して、配点の高そうなところを見切っていく。今回の参考答案は、普通に書くと確実に時間不足、紙幅不足に陥るような問題で、どのように省略して書けばよいか、という観点から、細かなテクニックも使いながら作成しました。

 まず、甲の罪責です。甲の罪責に関しては、前半(事例2に係る罪)と後半(事例3に係る罪)に分かれています。参考答案では、それぞれについて、「殺人未遂(199、203)」、「殺人」という見出しだけを付し、直ちに各論点の論述に入っています。本来であれば、以下のように書くべきです。

 

【論述例】

1.甲が、ワインの入った瓶にXを注入し、V宅宛てに宅配便で送った点について、殺人未遂罪(199条、203条)の成否を検討する。

2.甲が、乙に指示して、YをVに注射させた点について、殺人罪の成否を検討する。

 

 しかし、本問のように極端に忙しい問題では、こういった普通の書き方が致命的になります。この部分を丁寧に書いたからといって、点数にはほとんど影響はないのです。ならば、最小限度の文字数にとどめるべきでしょう。そうはいっても、罪名だけでは何がなんだかわからないわけですが、先を読めばわかるわけですから、問題なかろうというわけですね。条文番号を付しているのは、一応この点に配点があるようなので、とりあえず入れておいた、ということです。殺人の方に条文番号がないのは、殺人未遂のところで199条を引用しているので、もう必要はないだろうということですね。それから、「罪」と「条」を省略しています。ローの演習や答練でこれをやると、「きちんと書いて下さい。」と言われるでしょうし、ローの授業であれば、厳しく叱責されるかもしれません。採点実感等に関する意見でも、略記はやめてくれ、というものがあります。しかしながら、実際にこれをやって減点されているかというと、そうでもありません。漫然と「罪」や「条」を書いている人は、一度、時間を測って「罪」や「条」を1回ボールペンで書いてみましょう。数秒かかるはずです。それを、1つの答案で使った回数で掛け算すれば、どれほどロスしていたかがわかります。普段から時間が余る人は、別にここまでしなくてよいのでしょうが、毎回途中答案になってしまうような人は、こういったところも気にしてみるとよいでしょう。本来であれば、文字を丁寧に書いて、普通に合格できるのが理想ですが、考査委員が好んで時間勝負の問題を出してきて、それを許さないのです。毎年、真面目に勉強していて、実力もあるのに、時間が足りないという理由だけで不合格になってしまう人がいる。受験生としては、背に腹はかえられないという状況なのです。参考答案が、「甲の罪責」、「乙の罪責」ではなく、単に、「甲」、「乙」としか書いていないのも、同じ趣旨です。

 さて、 前半のXを注入したワインの送付については、実行の着手が問題になる。宅配業者を道具としているので間接正犯の認定も問題となるのですが、これはあまりに自明で、また、当てはめの事情も少ないことから、配点は少ないでしょう。参考答案では、間接正犯の認定は全く触れていません。
 実行の着手には、誰もが気付いたでしょう。ただ、実行の着手には、2つの区別すべき論点があります。不能犯と、実行の着手時期です。前者は、「結果が発生し得ない行為について、それでもなお未遂犯を成立させるべき余地はあるか。」という論点。後者は、「結果発生があり得た行為について、どの段階まで進展すれば着手があるといえるか。」という論点です。この点については、多くの人が無意識に区別しています。例えば、以下の事例は、不能犯を論じる問題だ、ということを、誰もが判断できます。

 

【事例】

 甲は、ベッドに倒れているVを射殺しようとしてピストルを発砲したが、その時点でVは死亡していた。

 

 既にVは死亡しているのですから、殺人の結果は発生し得ないわけです。しかし、具体的危険説によると、行為時において一般人もVが生きていると認識したであろうという場合には、未遂犯が成立することになり、客観的危険説によると、事後的にみて行為時におけるVの死亡について科学的不確実性が残る場合や諸条件の変動を考慮すると行為時にVが生きていた可能性が残る場合には、未遂犯が成立するのでした。これに対し、以下の事例では、同じく着手が問題になるにもかかわらず、多くの人が不能犯ではなく、実行の着手時期を論じます。

 

【事例】

 甲は、V宅に窃盗をするため、V宅に侵入したが、玄関に入った直後にVに発見されて逃走した。

 

 この事例をみて、具体的危険説の立場から、Vに発見されることを甲が認識し、一般人が予見可能であったかとか、客観的危険説の立場から、科学的不確実性や諸条件の変動可能性を考慮するとVに発見されない可能性が残っていたか、などと論じる人はいないでしょう。これは、V宅に侵入して窃盗をするという行為が、結果を発生させ得る行為だからです。このように、多くの人が、無意識のうちに、区別できているのです。ただし、この点の区別が曖昧にされて議論される場合もあります。例えば、以下の事例です。

 

【事例】

 甲は、Vを射殺しようとしてVに向けてピストルを発砲したが、銃弾はVに命中しなかった。

 

 この事例をみて、不能犯を論じる受験生は、あまりいないでしょう。当然、殺人未遂罪が成立するよね、と思うはずです。それは、ピストルを人に向けて発砲する行為が人を死亡させ得る行為であるという上記の区別を、無意識的に適用しているからです。ところが、上記事例も不能犯の議論の具体例として、提示されることがあります。それは、客観的危険説によれば、この場合も不能犯になってしまうはずだ、という文脈においてです。事後的、客観的にみると、Vに当たらないことまで考慮に入れることになるから、Vの生命に何ら危険は生じていないことになる、ということですね。しかし、その理屈が本当に正しいのなら、それは具体的危険説にも同様に当てはまってしまうでしょう。それは、以下の事例を考えればわかります。

 

【事例】

 甲は、Vを射殺しようとしてVに向けてピストルを発砲したが、銃弾はVに命中しなかった。甲はVに命中するだろうと考えていたが、一般人には、Vに命中しないと予見することは可能であった。

 

 そもそも、百発百中ということはあり得ないわけですから、外れることも通常は予見可能です。具体的危険説からも、これを基礎事情に加えざるを得ません。そうなると、客観的危険説に向けられる批判と同様のことが、当てはまってしまうのです。しかし、このことは、具体的危険説や客観的危険説が誤っているから生じている問題ではないでしょう。不能犯論が妥当しない事例に、無理に不能犯論を当てはめたからそうなっているだけの話です。そもそも、ピストルで人を撃つ行為は人の死亡結果を発生させ得る行為なのだから、不能犯論を当てはめるべき場面ではない。むしろ、実行の着手時期の問題、すなわち、ピストルで人を撃つ場合に、少なくとも弾丸を発射すれば、その時点で着手を認めるに十分な危険性を認め得るから、結果的にVに命中しなかったから危険が発生していなかった、などという余地はないと考えるべきなのでしょう。以下の事例を考えてみましょう。

 

【事例】

 甲は、窃盗をしようとしてV宅に侵入した上、室内にある金庫を発見し、施錠をこじ開けて金庫の扉を開けることに成功したが、警備員が駆け付けたため、何も取らずにそのまま逃走した。

 

 上記の事例では、少なくとも金庫を開けた時点において着手が認められるので、その後、結果的に逃走したのだから物を窃取される危険が発生しなかった、などという余地はないのです。また、警備員が駆け付けたことを基礎事情に加えるべきか、というような議論もしないのが普通です。前記のピストルの事例は、これと同じなのです(ピストル事例は、行為時に銃口がズレていた等の「行為時の事情」であるが、警備員が来たのは「行為後の事情」ではないか、と思うかもしれませんが、行為時に「金庫をこじ開ける時間が経過すれば警備員が駆け付ける状況であった。」という意味では同じです。)。
 さて、以上のことを理解して本問をみると、本問は不能犯を論じるような場面ではない、ということがわかります。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

  劇薬Xの致死量(以下「致死量」とは,それ以上の量を体内に摂取すると,人の生命に危険を及ぼす量をいう。)は10ミリリットルであるが,甲は,劇薬Xの致死量を4ミリリットルと勘違いしていたところ,Vを確実に殺害するため,8ミリリットルの劇薬Xを用意して同瓶に注入した。そのため,甲がV宅宛てに送ったワインに含まれていた劇薬Xの量は致死量に達していなかったが,心臓に特異な疾患があるVが,その全量を数時間以内で摂取した場合,死亡する危険があった

(引用終わり)

 

 ワインにXを8ミリリットル注入してV宅に送付する行為は、Vの死亡結果を生じさせ得る行為であったことがわかります。したがって、「結果が発生し得ない行為について、それでもなお未遂犯を成立させるべき余地はあるか。」という不能犯論を論じる余地はないのです。ここで、「Vにたまたま特異な疾患があったことが危険発生の原因なのだから、具体的危険説からは、行為者がその疾患を認識せず、一般人にも予見不能ならば、着手なしになり得るんじゃないの?」という疑問があるかもしれません。そのような疑問を持った人は、以下の事例で着手なしとする余地があるのか、考えてみるとよいでしょう。

 

【事例】

 甲は、倒れているVが既に死んでいると思い、土中に埋めた。しかし、当時まだVは生きており、土中に埋められたことによって窒息死した。Vがまだ生きていることは、一般人にも認識不可能であった。

 

 このような事例では、Vの死の危険のある行為であること、すなわち、着手は認めた上で、過失致死罪の成否について、過失の有無を検討するのが普通です。Vの死亡について予見可能性が全くないといえる場合には、過失も否定され、過失致死罪は成立しない、ということになるでしょう。具体的危険説の立場から、「甲がVの生存を認識しておらず、一般人にも認識不可能であったから、Vの生存は基礎事情から外すべきであり、甲には過失致死罪の実行の着手が認められない。」という議論はしないのです。不能犯論は、飽くまで、「結果が発生し得ない行為について、それでもなお未遂犯を成立させるべき余地はあるか。」という議論であって、「結果が発生し得る行為について、それでもなお未遂犯を否定すべき余地はあるか。」という議論ではないのです。仮に、「行為者が認識しておらず、一般人にも認識不可能な原因によって危険が発生する場合には、着手を否定すべきである。」という見解に立ってしまうと、因果関係の論点として有名な血友病事例や脳梅毒事例も、着手がないということになって、そもそも因果関係の段階にまで到達しないことになってしまうでしょう。
 こうして、本問では、不能犯ではなく、実行の着手時期を論じるべきことがわかりました。ここで、実行の着手時期についての判例の見解を確認しておきましょう。判例は、密接な行為を含む形式的客観説を採用しています(詳細は、「実行の着手について」参照)。そして、密接な行為といえるか否かの判断要素を示したのが、有名なクロロホルム事件判例(最決平16・3・22)です。

 

最決平16・3・22より引用、太字強調は筆者)

 実行犯3名の殺害計画は,クロロホルムを吸引させてVを失神させた上,その失神状態を利用して,Vを港まで運び自動車ごと海中に転落させてでき死させるというものであって,第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること,第1行為に成功した場合,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや,第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと,第1行為は第2行為に密接な行為であり,実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから,その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。

(引用終わり)

 

 上記引用部分を漫然と読むと、客観的な危険性をも基礎付けるかのように読めます。しかし、第1行為の客観的な危険性は、既に事実審段階で認定されています。

 

 (最決平16・3・22より引用、太字強調は筆者)

 1 1,2審判決の認定及び記録によると,本件の事実関係は,次のとおりである。

  (中略)

(5) 被告人B及び実行犯3名は,第1行為自体によってVが死亡する可能性があるとの認識を有していなかった。しかし,客観的にみれば,第1行為は,人を死に至らしめる危険性の相当高い行為であった

 (引用終わり)

 

 したがって、前記引用のうち「実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから」の部分は、この事実認定を確認したにすぎません。ですから、その前の考慮要素(必要不可欠性、遂行障害不存在、時間的場所的近接性)は、すべて「密接な行為」の判断要素だということになるわけです。 当サイト作成の「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」では、これに対応した論証を用意していました。

 

(「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」より引用)

実行の着手の意義
重要度:AA
 実行の着手とは、構成要件該当行為の開始又はこれと密接な行為であって、結果発生に至る客観的な危険性を有するものを行うことをいう。

構成要件該当行為と密接な行為の判断基準
重要度:A
 当該行為がその後の構成要件該当行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠で、当該行為に成功すればその後の構成要件該当行為を行うについて障害となる特段の事情がないと認められる場合であって、当該行為とその後の構成要件該当行為との間に時間的場所的接着性があるときは、当該行為は構成要件該当行為に密接な行為といえる(クロロホルム事件判例参照)。

(引用終わり)

 

 もっとも、これを本問に当てはめる際に注意する必要があるのは、本問は間接正犯による離隔犯の事例である、ということです。本題に入る前に、少し概念を整理しておきましょう。離隔犯とは、行為がされる場所と結果が発生する場所が離れている場合を指す用語です。例えば、東京でボタンを押すと、北海道のビルに仕掛けられた爆弾が爆発する、というような場合です。一方、間接正犯は、他者を道具として犯罪を実現する場合です。したがって、他者を道具として犯罪を実現し、かつ、行為がされる場所と結果が発生する場所が離れている場合には、それは間接正犯による離隔犯ということになるのです。ですから、「これは間接正犯であって、離隔犯ではない。」とか、「離隔犯であるから、間接正犯ではない。」とか、「間接正犯と離隔犯の区別が問題となる。」などという記述は、いずれも適切とはいえません。本問のように宅配業者を用いて毒入りの飲食物を送る場合についていえば、宅配業者を道具としていることから、間接正犯であることは明らかです。しかし、離隔犯であるかというと、厳密には、どの行為を実行行為と捉えるかによって、結論が分かれ得るということになるでしょう。行為者が宅配業者に物品を受け渡す行為が実行行為なら、その行為の場所と、配達先の場所は離れているので離隔犯です。しかし、届いた飲食物を被害者が飲食する行為や、宅配業者が被害者宅に届ける行為を実行行為と捉えるなら、行為と結果発生の場所は同じ被害者宅だから、厳密には離隔犯ではない、ということになる。現在、宅配事例が一般に離隔犯の典型例とされているのは、間接正犯について利用者標準説を採用していた団藤重光教授の体系書において、離隔犯と分類されていたことの名残りであろうと思います。単なる用語の問題ではありますが、混乱の多いところなので、注意したいところです。
 間接正犯における実行の着手時期については、利用者標準説と被利用者標準説があり、判例は、被利用者標準説であると評価されています。判例は、実行の着手について形式的客観説に立つのに、なぜ、被利用者標準説に立つのか。これを理解すると、形式的客観説の妙味と、判例の立場に基づく間接正犯と共謀共同正犯の理解が深まります。形式的客観説によれば、殺人罪における構成要件的行為とは、まさに殺す行為で、例えば、包丁で刺す行為などがこれに当たります。この理解からは、間接正犯とは、他人を道具として、その他人に構成要件的行為を行わせる犯罪形態である、と考えることになります。そうすると、間接正犯における実行の着手は、その他人のする構成要件的行為又はこれと密接な行為の開始時点ということになる。だから、被利用者標準説になる、というわけです。判例の結論を支持する学説の多くが、実質的客観説の立場から、危険性を実質的に判断して被利用者標準説に至っているのとは、思考方法が違うのです。ただ、一般的には、学説は、判例が自説と同じ思考、すなわち、実質的客観説に近い考え方によって、被利用者標準説を採用している、と説明しています。これは、「判例は自説と同じだ。」と言いたいためにこうなってしまっているのですが、司法試験の答案としては、一応これに沿う表現の方が無難でしょう。そのため、「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」では、これを踏まえた論証にしています。

 

(「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」より引用)

間接正犯における実行の着手時期
重要度:A
 結果発生に至る客観的な危険性が生じるのは被利用者の行為によるから、被利用者の行為に実行の着手を認めるべきである。

 

 それはともかく、上記の判例の理解によれば、間接正犯は、被利用者の行為をもって利用者の行為と擬制することのできる場合であり、共謀共同正犯は、実行正犯者の行為をもって、共謀参与者の行為と擬制できる場合であるということになります。このことは、それぞれの犯罪事実の記載の仕方からも、理解できることでしょう。

 

宇都宮地判平29・3・24より引用。太字強調は筆者。)

(主位的訴因を基にして認定した罪となるべき事実)

 被告人は,1型糖尿病に罹患していたA(当時7歳。以下「A」という。)の母親であるB(以下「B」又は「母親」ともいう。)から同児童が罹患している1型糖尿病について相談を受けるや,母親及び同児童の父親であるC(以下「C」又は「父親」ともいい,Bと併せて「両親」ともいう。)との間でその治療を引き受けることを約し,両親に対し,インスリンは毒であるとして同児童に対するその投与の中止などを指示していたものであるが,同児童が定期的にインスリンを投与しなければ死亡するおそれがあることを知りながら,被告人が同児童にインスリンを投与することなく同児童の1型糖尿病の治療ができるものと母親が信じて被告人の指示に従っていることに乗じ,かつ,同児童を保護する責任を有しており,悩みながらも被告人の指示に従うこととした父親と意思を通じた上,殺意をもって,平成27年4月5日頃から同月27日までの間,栃木県内又はその周辺において,両親に対し,メール又は口頭の方法により,同児童に対するインスリンの投与の中止等の指示に従うよう命じ,両親をして,同月6日午後4時36分頃の投与を最後に,それ以降,同児童にインスリンを投与させずにこれを放置させ,よって,同月27日午前6時33分頃,同県所在のD病院において,同児童を糖尿病性ケトアシドーシスを併発した1型糖尿病に基づく衰弱により死亡させて殺害したものである。

(引用終わり)

 

 間接正犯と共謀共同正犯がパラレルなものとして記載されていることがわかるでしょう。上記裁判例は、母親(B)を道具と認定し、父親(C)を共謀共同正犯における実行正犯と認定した点が特徴です。

 

宇都宮地判平29・3・24より引用。太字強調は筆者。)

 Bは,主治医からインスリンを投与しなければAが死亡する危険性があるとの説明を受けてはいたものの…1型糖尿病を完治させると断言する被告人を信じ切ってその指示に従ったものと認められる。息子の人生を守るため,1型糖尿病に罹患した息子を完治させたいとの思いから,これを実現できると言う被告人を信じようと考えた心情は,市民感覚としても十分に理解できる。すなわち,Bは,被告人の指示に従いさえすれば,インスリンを投与しなくても,Aの1型糖尿病が完治すると信じ込んでいた以上,その余の冷静で正常な判断が相当程度鈍った精神状況に陥っており,もはや被告人の指示以外の行動をとり難い心理状態にあったものと認められる。また,被告人にあっても,これまで確認してきたとおり,契約当初から自分の指示に従うよう約束させたり,折に触れて,自分の指示に従うよう,脅しめいた表現を織り交ぜながらBに申し向けたりしていたのであるから,被告人がBを自分の意のままに動くよう強いていたことは明らかである。
 このような本件当時のBの心理状態と被告人の意図に照らせば,Bは,Aにインスリンを投与させないとの被告人の意思を心理的抵抗なしに実現に移したものであると同時に,被告人にも利用意思があったものと認められる。
 したがって,Bはいわば道具であるとともに,被告人にもその旨の認識があった以上,Bとの関係においては,被告人にインスリン不投与という実行行為の間接正犯が認められる
 …他方,Cは…Aへのインスリンの不投与が治療であるか否かについて半信半疑であったこと,被告人の指示に従いたいとの妻であるBの強い思いを受け入れざるを得ずにAへのインスリン不投与を決断したこと,が認められる。そうすると,Cは,被告人の指示や言動による影響を相当程度受けてはいたものの,その程度はBほど大きくはなく,Aにインスリンを投与するとか,Aを病院へ連れて行くといった行動をとることは不可能ではなかったものと認められる。
 以上を踏まえると,被告人がBを道具として利用したと認定することはできるものの,Cを道具として利用したとまで認定することには躊躇を覚えざるをえない
 …被告人の上記指示は,Aへのインスリンの不投与という殺人の実行行為に対して初動的かつ主導的に強い影響を与えたものとして,正に正犯の行為と評価すべきである。また,Aにインスリンを投与しないとの被告人の指示は,Bを通じてCに伝わり,Cがその指示に従う決断をしたのであるから,順次共謀となる。そして,被告人は,インスリンの不投与という実行行為自体は行っていないから,Cとの関係で,共謀共同正犯となる

(引用終わり)

 

 話を本問に戻します。本問で、直接の構成要件的行為とは、何か。それは、Vが自らワインを飲む行為でしょう。すなわち、本問は、厳密には、宅配業者だけでなく、情を知らないVをも道具とするものだ、ということができます。このことは、以下のような事例が、被害者を道具とする間接正犯と理解されていることからもわかります。

 

【事例】

 甲は、Vの意思を抑圧し、Vに自ら服毒させてVを殺害した。

 

 さて、そうすると、本問では、Vは結局ワインを受け取らなかったわけですから、飲用に至っておらず、構成要件的行為の開始はない、ということになる。そこで、次に、密接な行為があるかを検討することになります。考えられるのは、宅配業者の行為です。これが、密接な行為というために必要な3つの要素を満たすかどうか、考えてみましょう。まず、「その後の構成要件該当行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠」といえるか。確実かつ容易にワインをVに飲ませるためには、V宅に届けることは必要不可欠といえるでしょう。次に、「当該行為に成功すればその後の構成要件該当行為を行うについて障害となる特段の事情がない」といえるか。これは微妙で、Vが受領したのであれば、その後にVが飲用するまでに特段の障害となる事情はなさそうですが、Vが受領していない本問では、まさにVが受領しないという事情が、Vの飲用に至るまでの障害として存在します。ですから、この点で、密接な行為の要件を満たさない、という余地はあるでしょう。もっとも、一度V宅にまで届ければ、仮に一時不在であっても、不在票を確認してその後に受領するのが通常であると考えれば、障害となる特段の事情はない、という評価も可能かもしれません。「当該行為とその後の構成要件該当行為との間の時間的場所的接着性」については、場所的にはV宅という点で接着性があるといえますし、時間的接着性についても、本問では、Vが飲みたがっていたワインであり、飲用に至るまでにそれほど大きな時間的間隔が生じるとも思えませんから、満たすといえるでしょう。以上のように、判例の枠組みに従えば、本問では、遂行障害不存在の要件をどう考えるかによって、結論が分かれることになりそうです。仮に、宅配業者がワインを持ってV宅前まで行った時点で着手ありと考えるなら、その後、宅配業者がV宅の郵便受けに不在連絡票を残してワインを持ち帰ったが、Vが同連絡票に気付かず、ワインを受け取ることはなかったという事情があったとしても、着手ありの結論を左右しないということになります。
 以上が、理論的な説明です。実戦的には、とても上記のような検討はできません。まずは、前記(2)の規範の明示です。ここでは、最低限、着手の一般的な規範と、間接正犯の場合を書く

 

(参考答案より引用)

 実行の着手とは、構成要件該当行為の開始又はこれと密接な行為であって、結果発生に至る客観的な危険性を有するものを行うことをいう。間接正犯による場合には、結果発生に至る客観的な危険性が生じるのは被利用者の行為によるから、被利用者の行為に実行の着手を認めるべきである。

 

 本来であれば、「密接な行為」の規範も書きたいところですが、これは結構長いので、本問ではちょっと書く余裕はなさそうです。なので、強引にごまかして書く。どうするかというと、とりあえず当てはまる事実を列挙しておいて、規範をオウム返しにしてしまうのです。やってはならないのは、理論的なことを書いて、問題文の事実を省略してしまうことです。本問では、着手の当てはめに使う事実がかなりあります。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 甲は,Vがワイン好きで,気に入ったワインであれば,2時間から3時間でワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を一人で飲み切ることを知っていたことから,劇薬を混入したワインをVに飲ませてVを殺害しようと考えた。甲は,同月22日,Vが飲みたがっていた高級ワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を購入し,同月23日,甲の自宅において,同ワインの入った瓶に劇薬Xを注入し,同瓶を梱包した上,自宅近くのコンビニエンスストアからVが一人で住むV宅宛てに宅配便で送った。劇薬Xの致死量(以下「致死量」とは,それ以上の量を体内に摂取すると,人の生命に危険を及ぼす量をいう。)は10ミリリットルであるが,甲は,劇薬Xの致死量を4ミリリットルと勘違いしていたところ,Vを確実に殺害するため,8ミリリットルの劇薬Xを用意して同瓶に注入した。そのため,甲がV宅宛てに送ったワインに含まれていた劇薬Xの量は致死量に達していなかったが,心臓に特異な疾患があるVが,その全量を数時間以内で摂取した場合,死亡する危険があった。なお,劇薬Xは,体内に摂取してから半日後に効果が現れ,ワインに混入してもワインの味や臭いに変化を生じさせないものであった。
 同月25日,宅配業者が同瓶を持ってV宅前まで行ったが,V宅が留守であったため,V宅の郵便受けに不在連絡票を残して同瓶を持ち帰ったところ,Vは,同連絡票に気付かず,同瓶を受け取ることはなかった。

(引用終わり)

 

 本問を時間無制限にして、「着手の当てはめに関する事実にマーカーをして下さい。」というと、誰もが上記太字強調部分にマーカーをするものです。全然難しくない。しかし、これを時間内に答案に書き写せ、というと、途端にできなくなるのが、本試験の面白いところであり、恐ろしいところです。わかっていれば何も難しくない。以下のように開き直って書き写せばよいのです。

 

(参考答案より引用)

 実行の着手とは、構成要件該当行為の開始又はこれと密接な行為であって、結果発生に至る客観的な危険性を有するものを行うことをいう。間接正犯による場合には、結果発生に至る客観的な危険性が生じるのは被利用者の行為によるから、被利用者の行為に実行の着手を認めるべきである。 
 Vはワイン好きで、気に入ったワインであれば、2時間から3時間でワイン1本(750mlの瓶入り)を一人で飲み切る。送られたのはVが飲みたがっていた高級ワイン1本(750mlの瓶入り)であった。Xの致死量は10mlであるが、甲がV宅宛てに送ったワインに含まれていたXの量は8mlであり、致死量に達していなかったが、心臓に特異な疾患があるVが、その全量を数時間以内で摂取した場合、死亡する危険があった。Xは、体内に摂取してから半日後に効果が現れ、ワインに混入してもワインの味や臭いに変化を生じさせないものであった。以上から、被利用者である宅配業者がXの注入されたワインの入った瓶を持ってV宅前まで行った行為は、構成要件該当行為の開始又はこれと密接な行為であって、結果発生に至る客観的な危険性を有するものといえ、実行の着手がある。

(引用終わり)

 

 細かいテクニック的なことを説明すると、まず、「本件では」は、「これから当てはめに入りますよ」という合図としてあってもいいが、ないからといって減点されるわけではない。ならば、書かないでおこうというのが、今回の参考答案です。また、「劇薬X」は、「X」で特定できるので、「劇薬」は書かない。それから、問題文上、「ミリリットル」という記載は、そのまま書き写すのはロスです。「ml」でよい。それも、本番なら筆記体で1秒以内で書く。こんなものは、「致死量は10●であるが」でも意味は通じるのです。そういうものは意識して殴り書く。書く内容のメリハリも大事ですが、字の綺麗さのメリハリも重要です。もっとも、それ以外の部分を、適宜要約して短くしようとするのは、余程の上級者でない限り、オススメできません。やってみるとわかりますが、要約するには内容を理解して、文章を自分の頭で考えて再構成する必要がある。これは、意外と時間を使ってしまうものです。集中して考えていると、時間の経過を忘れます。ほとんどの場合、開き直って書き写した方が、結果的に早く書けることが多いでしょう。
 上記の参考答案は、結局のところ何が密接な行為なのか、間接正犯において被利用者標準説を採ることとどう整合するのか、どういう意味で客観的な危険性があるのかについて、全然書いていません。その意味で、不十分であり、不適切とさえいえるでしょう。しかし、配点のある事実は全部拾っている。よく勉強しているのに、受かりにくい人は、理論的なことを長々と書いて、上記の事実を答案に書こうとしません。「問題文を読めば自明だから」と思っているのですが、具体的事実が答案に書いてあることによって配点を取ることができるという採点方式になっているのですから、問題文の事実を書き写そうとしない限り、どんなに高度な理論を展開しても受かりません。逆に、上記の事実を全部書き写していれば、それ以外のことを書く余裕など、ないはずです。
 前記のとおり、本問では不能犯の議論はしない。そうすると、甲がVの特異な疾患について知っていた、という事実をどこで使うのか。これは、犯罪事実に関する行為者の認識に関する事実ですから、故意で書くのです。本問のように、被害者の死の認容があることは明らかであるが、その危険発生の機序に関する事実のうちの一部の認識を欠いている場合、というのは、結果が発生した場合の因果関係の錯誤に類似した応用論点です。しかし、実戦的には、一般的な故意の規範を明示して問題文の事実を列挙するだけで十分でしょう。意外と、この程度すら書けていない人は多いのです。

 

(参考答案より引用)

 故意が認められるためには、犯罪事実の認識・認容を要する。
 確かに、甲は、Xの致死量を4mlと勘違いしていた。しかし、Vの心臓には特異な疾患があり、そのことについて、甲は知っていた。甲は、Vを確実に殺害するため、8mlのXを用意して同瓶に注入した。心臓に特異な疾患があるVが、その全量を数時間以内で摂取した場合、死亡する危険があった。甲は、Vがワイン好きで、気に入ったワインであれば、2時間から3時間でワイン1本を一人で飲み切ることを知っていた。したがって、甲は、Vの死を認識・認容していたといえるから、故意がある。

(引用終わり)

 

 甲の罪責の前半部分は、理論的には、新しい未遂概念との関係が問われています。これまで、未遂とは、「結果が発生しなかった場合」と考えられてきました。しかし、実際には、法益侵害の危険性が生じて初めて着手が認められる。そうだとすると、未遂とは、「未遂結果が発生した場合」なのではないか。そうすると、既遂犯に妥当した議論が、そのまま未遂犯にも適用できそうだ、という話になってくる。今までは、未遂は結果不発生の場合なのだから、因果関係など論じる余地もないとされてきた。しかし、未遂とは「未遂結果が発生した場合」と考えると、「行為と未遂結果との間の因果関係」も観念できることになりますから、因果関係論が問題になり得ることになる。それでは、従来の因果関係論をそのまま妥当させるとどうなるか。おかしいのではないか。他にも、従来故意とは、(既遂)結果の認識だと思われていたが、「未遂結果の認識・認容」も観念できるのではないか。いや、それはおかしいのではないか。では、未遂の議論に従来の既遂の議論をスライドさせるには、どのような修正が必要か。そんな話です。しかし、そういったことを試験現場で考えているようでは、どんなに勉強しても受かるようにはなりません。

 甲の罪責の後半部分です。前半部分で毒が致死量に達しないから不能犯が問題になる、と思った人にとっては、ここでも同じく不能犯が問題になりそうですが、さすがにここでは書かない人の方が多いでしょう。不能犯が問題とならない理由は、前半部分で説明した内容と同じです。それから、前半同様、間接正犯の認定は配点は低いでしょう。参考答案は、これを当然の前提として全く触れていません。本問の場合は、乙の道具性について、わざわざ規範を挙げて当てはめるような事実がありませんし、結論が分かれ得るところでもありませんから、これでよいのです。大きな配点が発生するのは、乙が途中で気付いたのにそのまま注射したとか、乙は最初抵抗したけれども、甲に脅されてやむなく注射に至ったというような場合です。
 最も配点が高いのは、因果関係です。明らかに、因果関係の当てはめに使う事実がたくさんある。間接正犯の認定に紙幅を割いて、因果関係の検討が雑になれば、間接正犯を一切書かなかった答案と比較して、大きく評価を落とすでしょう。因果関係の判断基準として、「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」は、以下のようなものを用意していました。

 

(「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」より引用)

因果関係の判断基準
重要度:AA
 因果関係は、条件関係を前提に、行為の危険が結果に現実化したか否かによって判断すべきである。

 

 これは、条件関係も書く場合は、このとおりでよいのです。しかし、本問のように条件関係が特に問題にならない場合には、「条件関係を前提に」の記述を省略して、以下のように書くべきです。

 

(参考答案より引用)

 因果関係は、行為の危険が結果に現実化したか否かによって判断すべきである。

(引用終わり)

 

 そもそも、危険の現実化を判断基準とする場合に、条件関係を検討する必要があるのか、というのは、1つの論点です。筆者は、理論的には、危険の現実化とは区別して別途条件関係を検討する必要はないと思っています(後記のとおり、危険の現実化という枠組みは合法則的条件関係の判断基準にすぎないのではないかと思っているからです。)。しかし、司法試験の答案をどう書くか、ということになると、話は別です。択一的競合や仮定的因果経過、不作為と条件関係など、従来から条件関係の項目で説明されてきた論点が問われた場合、とりあえずは条件関係の枠の中で解答した方が、書きやすいだけでなく、配点も取りやすいでしょう。ですから、そのような事例が問われた場合には、条件関係も書く。一方で、条件関係固有の論点がない場合には、条件関係の当てはめにはさほど配点はないでしょうから、場合によっては思い切って省略する。本問の参考答案は、その方針に拠っています。
 因果関係については、2つの点が問題となります。1つは、行為時に存在した被害者の特殊事情が相まって結果が発生した場合で、これは典型論点です。折衷的相当因果関係説によれば、Vの特異な疾患を甲が知っていたから、これを基礎事情に含めて因果関係を肯定することになります。では、危険の現実化という観点からはどうか。客観的事情を考慮して危険の現実化を判断するのだから、当然に因果関係が認められる(最判昭25・3・31)とも思えますが、実は論理必然ではありません。なぜかというと、被害者の疾患の危険が現実化したにすぎないのだ、という余地がある(「高められた一般的生活危険」の理論)からです。ここで考えるべきは、学説上、「危険の現実化説」といわれるものは、客観的帰属論的な発想に基づくものだ、ということです。客観的帰属論は、「生じた結果を誰に帰属させるべきか。」という規範的判断を重視する考え方です。その観点からは、行為と被害者の疾患の両者が相まって結果が発生した場合に、その責任を行為者と被害者のどちらに帰属させる「べきか」という規範的判断によって結論を出すべきだということになる。後は価値判断ですが、一般的には、これは行為者に帰属させるべきだ、と考えられているように思います。すなわち、「特異な疾患を有する者は、その疾患固有の危険について責任を負う立場にあるから、これを加害者に負担させるべきではない。」という価値判断ではなく、「特異な疾患を有する者は、その疾患固有の危険を現実化させるような加害を受けないことについても、法(例えば199条)の保護を受けるというべきだ。」という価値判断に立つということです。このことを、「被害者はありのままの状態で保護されるべきだ」などと表現します。「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」では、この考え方に沿った論証を用意しています。

 

(「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」より引用)

被害者の特殊事情と危険の現実化
重要度:A
 被害者はありのままの状態で保護されるべきであるから、たとえ被害者の特殊事情が相まって重い結果が生じたとしても、行為の危険が現実化したといえる。

(引用終わり)

 

 この考え方によると、行為者の認識や一般人の認識可能性を問うことなく、因果関係を認めることになります。
 それからもう1つ。因果関係との関係で問題になるのは、乙の過失行為の介在です。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 甲は,同日午後1時30分,乙に対し,「VにB薬を6ミリリットル注射してください。私はこれから出掛けるので,後は任せます。」と指示し,6ミリリットルの劇薬Yを入れた容器を渡した。乙は,甲に「分かりました。」と答えた。乙は,甲が出掛けた後,甲から渡された容器を見て,同容器に薬剤名の記載がないことに気付いたが,甲の指示に従い,同容器の中身を確認せずにVに注射することにした

 (中略)

 乙は,Vの心臓に特異な疾患があることを知らず,内科部長である甲の指示に従って熱中症の治療に効果のあるB薬と信じて注射したものの,甲から渡された容器に薬剤名の記載がないことに気付いたにもかかわらず,その中身を確認しないままVに劇薬Yを注射した点において,Vの死の結果について刑事上の過失があった

(引用終わり)

 

 乙が中身を確認していれば、その時点で事件が発覚したはずで、乙がそのまま殺意をもってVに対する注射を強行するということにならない限り、Vの死の結果は発生しなかったでしょう。ですから、考えようによっては、Vの死の直接の原因は、乙の過失行為にあるといえなくもありません。このような過失行為の介在にもかかわらず、因果関係を認め得るのか、これが、因果関係に関するもう1つの論点です。いわゆる「行為後の介在事情」ということになるのですが、厳密には、本問においてこの表現が正確であるかは微妙です。間接正犯における着手時期は飽くまで被利用者の行為時であると考えると、本問の乙の過失行為は「行為後の事情」とはいえない、とも思えるからです。とはいえ、乙の過失行為があって初めて結果が発生したのに、結果をすべて甲に帰属させてよいのか、という問題状況は同じですから、これは用意した論証を書いて当てはめれば足りるでしょう。「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」では、類型ごとに規範を用意しています。

 

(「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」より引用)

行為後の第三者の行為と危険の現実化
重要度:A
 行為自体に結果発生の危険があり、行為後の第三者の行為が行為者の行為に誘発されたと認められる場合には、当該第三者の行為が結果発生の直接の原因であったとしても、行為の危険が結果に現実化したといえる。

(引用終わり)

 

 これを答案に用いると、以下のようになります。「当該第三者の行為が結果発生の直接の原因であったとしても」に当たる問題文の事実を先出しにするのがコツです。

 

(参考答案より引用)

 甲から渡された容器に薬剤名の記載がないことに気付いたにもかかわらず、その中身を確認しないままVにYを注射したという乙の過失行為が介在しており、乙が中身を確認していればVが死に至ることはなく、乙の過失行為は結果発生の直接の原因であったともいえる。
 しかし、行為自体に結果発生の危険があり、行為後の第三者の行為が行為者の行為に誘発されたと認められる場合には、当該第三者の行為が結果発生の直接の原因であったとしても、行為の危険が結果に現実化したといえる。
 甲は内科部長であり、甲は、乙のA病院への就職を世話したことがあり、乙が甲に恩義を感じていて、甲の指示に忠実に従うと考えられたことからすると、甲の乙に対する指示自体に結果発生の危険があり、乙の過失行為は甲の指示に誘発されたと認められるから、行為の危険が結果に現実化したといえる。

(引用終わり)

 

 理論的にいえば、ここは実行行為を特定してしまうと、論理的な整合性が取りにくいところです。仮に乙の行為を実行行為とするなら、「行為後の第三者の行為」というのは変ですし、甲の指示が実行行為なら、前半部分でなぜ宅配業者の行為に着手を認めたのか、ということになる。しかし、このような理論的なところは、現在ではあまり気にする必要はないでしょう。逆に、論理的な整合性を憂慮して、敢えてこの論点を落とした、ということの方が、マイナスが大きいでしょう。参考答案は、「甲の乙に対する指示自体に結果発生の危険があり」としているので、甲の指示を実行行為と捉えているようにも読めますが、よくわからない感じで書いています。これでよいのです。大事なことは、乙が薬の中身を確認していれば結果は発生しなかっただろう、という点を因果関係の議論として検討していて、それを解決する規範と当てはまる事実を答案に書き写していることです。本来であれば、「行為後の事情」の議論の本質は、「行為者の支配ないし利用可能性を離れた事情の介在」という点にあることから、間接正犯における「行為後の事情」には、「利用者の手を離れた後の被利用者に係る事情も含む」というように修正すべきなのでしょうが、そのような理論的なことは、どうせ誰も書けないのですから、無視しておけばよいのです。
 ところで、因果関係について、判例は何説なのか。現在のところ、判例は「危険の現実化説」であり、「客観的帰属論に近い」などと言われています。しかし、判例が客観的帰属論に特徴的な規範的判断をうかがわせる判示をしたことはないこと、条件関係について通説的な「あれなければこれなし」の公式(csqn公式)を明示的に判示したことがないことから、判例は今も昔も合法則的条件関係説(ドイツの通説)であり、その「法則」には経験則が含まれる、と考えれば足りるというのが、簡明な理解ではないかと思います。

 

最判昭25・3・31より引用。太字強調は筆者。)

 原判決の確定した事実によると被告人Aは被害者Bの左眼の部分を右足で蹴付けたのである。そして原審が証拠として採用した鑑定人Cの鑑定書中亡Bの屍体の外傷として左側上下眼瞼は直径約五糎の部分が腫脹し暗紫色を呈し左眼の瞳孔の左方角膜に直径〇、五糎の鮮紅色の溢血があると記載されているからその左眼の傷が被告人Aの足蹴によつたものであることは明かである。ところで被告人の暴行もその与えた傷創もそのものだけでは致命的なものではないが(D医師は傷は一〇日位で癒るものだと述べている)被害者Bは予ねて脳梅毒にかかつて居り脳に高度の病的変化があつたので顔面に激しい外傷を受けたため脳の組織を一定度崩壊せしめその結果死亡するに至つたものであることは原判決挙示の証拠即ち鑑定人C、Eの各鑑定書の記載から十分に認められるのである。論旨は右鑑定人の鑑定によつては被告人Aの行為によつて脳組織の崩壊を来したものであるという因果関係を断定することが経験則にてらして不可能であり又他の証拠を綜合して考えて見ても被告人の行為と被害者の死亡との因果関係を認めることはできないと主張するしかし右鑑定人の鑑定により被告人の行為によつて脳組織の崩壊を来したものであること従つて被告人の行為と被害者の死亡との間に因果関係を認めることができるのであつてかかる判断は毫も経験則に反するものではない。又被告人の行為が被害者の脳梅毒による脳の高度の病的変化という特殊の事情さえなかつたらば致死の結果を生じなかつたであろうと認められる場合で被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らずまた予測もできなかつたとしてもその行為がその特殊事情と相まつて致死の結果を生ぜしめたときはその行為と結果との間に因果関係を認めることができるのである。

(引用終わり)

最決昭42・10・24(米兵ひき逃げ事件)より引用。太字強調は筆者。)

 同乗者が進行中の自動車の屋根の上から被害者をさかさまに引きずり降ろし、アスフアルト舖装道路上に転落させるというがごときことは、経験上、普通、予想しえられるところではなく、ことに、本件においては、被害者の死因となつた頭部の傷害が最初の被告人の自動車との衝突の際に生じたものか、同乗者が被害者を自動車の屋根から引きずり降ろし路上に転落させた際に生じたものか確定しがたいというのであつて、このような場合に被告人の前記過失行為から被害者の前記死の結果の発生することが、われわれの経験則上当然予想しえられるところであるとは到底いえない。したがつて、原判決が右のような判断のもとに被告人の業務上過失致死の罪責を肯定したのは、刑法上の因果関係の判断をあやまつた結果、法令の適用をあやまつたものというべきである。し

(引用終わり)

 

 判例は、予見可能性がないから基礎事情から外す、というのではなく、「行為から結果が発生することが、経験則に合致しているか」を問題にしています。このように、行為から結果が発生することが自然法則ないし経験則に合致しているかどうかという観点から条件関係を判断し、それが満たされる限り因果関係を肯定していると考えれば、判例は今も昔も条件説であり、何ら揺らいでいないということになる。「行為の危険が結果に現実化した」という近時の言い回しは、自然法則ないし経験則に合致していることを言い換えたものか、それを判断する一応の基準ということになるでしょう。とはいえ、現時点では、そこまで踏み込んだ理解を示す学説はあまりないようですから、答案では飽くまで学説のいう「危険の現実化説」という考え方に沿って検討する方がよいと思います(上記理解を示唆すると考え得るものとして、「刑法における因果関係理論(林陽一)」、「因果関係と客観的帰属(小林憲太郎)」がある。)。なお、折衷的相当因果関係説を採るべきでないことについては、過去の当サイトの記事(「折衷的相当因果関係説か危険の現実化説か」)を参照して下さい。
 もう1つ、後半部分で問題になるのが、因果関係の錯誤ですが、これについては、危険の現実化説を採りながら、「錯誤が相当因果関係の範囲にとどまる限り故意を阻却しない」などと書いてしまわないことが一応のポイントです(詳細は「危険の現実化説を用いる際の注意点」を参照)。とはいえ、書いてしまったからといって、それほど減点されるということもないでしょう。
 甲の前半の殺人未遂罪と後半の殺人罪の罪数は、どうなるのでしょうか。これについては、「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」の規範が一応使えます。

 

(「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」より引用)

同一法益に対する包括一罪となる場合
重要度:B
 同一法益に対する同一の意思決定に基づく複数の行為が犯罪を構成する場合には、包括一罪となる。

(引用終わり)

 

 本問では、法益はいずれもVの生命で同一。では、同一の意思決定に基づくものといえるか、ということですが、問題文の以下の事実を引いて、同一であるとする余地は十分あるでしょう。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 甲は,同月22日,Vが飲みたがっていた高級ワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を購入し,同月23日,甲の自宅において,同ワインの入った瓶に劇薬Xを注入し,同瓶を梱包した上,自宅近くのコンビニエンスストアからVが一人で住むV宅宛てに宅配便で送った

 (中略)

 同月26日午後1時,Vが熱中症の症状を訴えてA病院を訪れた。公務員ではない医師であり,A病院の内科に勤務する乙(30歳,男性)は,Vを診察し,熱中症と診断した。乙からVの治療方針について相談を受けた甲は,Vが生きていることを知り,Vに劇薬Yを注射してVを殺害しようと考えた

(引用終わり)

 

 前半の行為からわずか3日後であること、前半の行為でも死んでいないことを知ったということが動機になって、後半の行為を考えたことからすれば、殺意は連続しており、両行為は同一の意思決定に基づくものだ、といえそうです。仮に、これを答案に書くとすれば、以下のようになるでしょう。

 

【論述例】

 同一法益に対する同一の意思決定に基づく複数の行為が犯罪を構成する場合には、包括一罪となる。
 本件で、Vの生命という同一法益に対するもので、甲がYを注射させる指示をしたのは、Xを注入したワインを送付してからわずか3日後に、Vが生きていることを知ったためであるから、同一の意思決定に基づくものといえる。したがって、包括して重い殺人罪のみが成立する。

 

 しかしながら、罪数処理に対して振られているであろう配点を考えると、これは明らかに書きすぎです。そこで、参考答案では、以下のように簡潔に書いています。

 

(参考答案より引用)

3.上記1の罪は、上記2と包括して評価すべきである。

 

 本問では、せいぜいこの程度でしょう。場合によっては罪数処理をしない、という方法も考えられるくらいです。

 さて、乙の罪責です。最初に検討すべきは、Vを死亡させた点に関する業務上過失致死罪でしょう。業務性については、何の問題もありません。また、問題文上、過失があることが明らかにされています。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 乙は,Vの心臓に特異な疾患があることを知らず,内科部長である甲の指示に従って熱中症の治療に効果のあるB薬と信じて注射したものの,甲から渡された容器に薬剤名の記載がないことに気付いたにもかかわらず,その中身を確認しないままVに劇薬Yを注射した点において,Vの死の結果について刑事上の過失があった

(引用終わり)

 

 したがって、後は、因果関係だけを検討すればよい(なお、甲の罪責の前半で不能犯を問題にするなら、ここでも不能犯が問題となり得ることになりますが、それが誤っていることは前に説明したとおりです。)。折衷的相当因果関係によれば、乙はVの疾患を知らず、Vの疾患は通常の診察では判明し得ないもの(事例1)であり、一般人にも認識不可能であったということから、基礎事情からVの疾患は除かれます。したがって、因果関係を否定するのが素直でしょう。他方で、「危険の現実化説」による場合には、甲との関係と同様の理由で、因果関係を肯定することになります。
 参考答案は、因果関係しか書いていません。余裕があれば、「業務」の意義を書いて当てはめもしたいところですが、本問では当てはめの事情は「医師」というだけですし、あまりにも結論が自明ですから、配点は低いはずです。ですから、本問では無視すべきでしょう(もちろん、余裕で書き切れる、という人は、書けばよいのですが。)。また、参考答案の「業過致死(211前)」という表記は、一般には、「ダメ」とされる表記法で、「業務上過失致死罪(211条前段)」とするのが本来なら正しい。ローの演習や答練で書くと、「このような略記はやめて下さい。」と言われるでしょう。しかしながら、これが「ダメ」である理由は、公用文の記載方法とは異なるというだけです。実際に答案に書いて減点されるかというと、そうでもないでしょう。例えば、民事系で、最後の科目を30分で解かなければならず、ほとんど読めないような字や略字だらけで書いた、という経験をした人は結構いると思いますが、そのような答案でも、普通に評価されています。普段から時間が足りている人ならともかく、例年時間不足で書き切れずに評価を落としているような人は、こういったところで1文字でも節約することが必要だろうと思います。なお、自分の六法に211条2項がある、という人は、自動車運転死傷行為等処罰法施行以前の古い六法を使っています。
 本問で、乙に過失があることが問題文に既に明記されているのは、受験生の負担を考えて、過失の当てはめまではしなくてよい、という考慮によるものだと思いますが、これは適切ではなかったと思います。なぜかというと、Vの死の結果について過失があるということは、Vの死について予見可能性があることが前提となるからです。この前提は、Vの疾患が通常の診察では判明し得ないものであったという問題文の記述とは整合し難いでしょう。Vの死について予見可能性があり、過失が認められるならば、折衷的相当因果関係説の立場から乙との関係でVの疾患を予見不能として基礎事情から除外することは難しいように思います。このことは、「帰責の範囲が広すぎる」という客観的相当因果関係説に対する批判への反論として、「予見可能性の有無は主観的帰属、すなわち、故意・過失の認定において考慮されるから、予見不能な結果を帰責することにはならない。」との主張がなされていることを想起すれば、理解しやすいでしょう。この点は、実戦的にはほとんど影響はないと思いますが、出題の不備であると思います。

 乙に関するそれ以外の罪責は、各論分野からの出題です。虚偽死亡証書作成罪(160条)及び同行使罪(161条1項)は、マイナーな犯罪ですが、現場で条文を発見するのは、それほど難しくなかったのではないかと思います。なお、答案では「虚偽診断書作成罪」と記載した人が多いと思いますし、参考答案でも敢えてそのような記載にしていますが、厳密には、死亡診断書は160条の「死亡証書」に当たりますので、罪名は「虚偽死亡証書作成」とするのが正しいでしょう(ただし、後記東京地判平13・10・9は、「虚偽診断書作成罪」と表記しています。)。また、乙が公務員でない医師とされているのは、公務員である場合には虚偽公文書作成罪となるからです(最判昭23・10・23)。それはともかくとして、意外と難しいのは、何をもって「行使」とするかです。

 

最大判昭44・6・18より引用。太字強調は筆者。)

 偽造公文書行使罪は公文書の真正に対する公共の信用か具体的に侵害されることを防止しようとするものであるから、同罪にいう行使にあたるためには、文書を真正に成立したものとして他人に交付、提示等して、その閲覧に供し、その内容を認識させまたはこれを認識しうる状態におくことを要するのである。

(引用終わり)

 

 上記判例をそのまま当てはめると、「他人に交付、提示等して、その閲覧に供し、その内容を認識させまたはこれを認識しうる状態におく」行為とは、本問では乙がVの母親Dに死亡診断書を交付する行為ということになりそうです。では、Dに交付した時点で行使となるかというと、そうではありません。なぜか。これを理解するヒントは、160条の文言にあります。

 

(刑法160条)
 医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、三年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。

 

 160条には、偽造罪において一般に存在する「行使の目的で」という文言がありません。それでは、行使の目的に相当するものがおよそ不要なのかというと、そうではなく、行使の目的に相当するものとして、「公務所に提出すべき」ことが要求されているのです。すなわち、虚偽診断書等作成罪における「行使」とは、「公務所に提出すること」ということになるわけですね(なお、公務所の定義については7条2項参照)。そうすると、本問では、情を知らないDがC市役所に提出した行為をもって、間接正犯による「行使」があった、と理解することになります。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 乙は,同月27日午後1時,A病院において,死亡診断書用紙に,Vが熱中症に基づく多臓器不全により死亡した旨の虚偽の死因を記載し,乙の署名押印をしてVの死亡診断書を作成し,同日,同死亡診断書をVの母親Dに渡した。Dは,同月28日,同死亡診断書記載の死因が虚偽であることを知らずに,同死亡診断書をVの死亡届に添付してC市役所に提出した

(引用終わり)

 

 このような間接正犯による行使を記載した公訴事実の例として、東京地判平13・10・9において主張されたものがあります(判決は無罪)。

 

東京地判平13・10・9における主位的訴因の要旨より引用。太字強調は筆者。)

 被告人は、A病院泌尿器科医師であるが、平成八年三月二日に同病院に入院したBの治療に当たっていたところ、同月三日午前六時三〇分、同人が死亡したため、同日、同病院において、死亡届等に添付してC市役所に提出すべき同人の死亡診断書を作成するに当たり、同人の負傷の部位・程度等から、意図的に強度かつ多数回にわたる殴打等の暴行が加えられたものであり、同人が階段からの転落等によって負傷したために死亡したものではないことを認識しながら、死亡診断書の原因Ⅰ欄の(ア)直接死因欄に「急性心不全」、同欄の(エ)(ウ)の原因欄に「転倒、転落」、死因の種類欄に「外因死、不慮の外因死、転落・転倒」、外因死の追加事項の手段及び状況欄に「飲酒后、全身打撲の痛みで気付いた、階段からの転落か」などと虚偽の記載をし、もって、虚偽の死亡診断書一通を作成した上、同月四日、C市役所において、情を知らない第三者を介して、同市役所市民課市民係員に対し、右死亡診断書の内容が真実であるもののように装い、提出して行使したものである。

(引用終わり)

 

 少し前に、間接正犯の犯罪事実の記載において、道具となる他人の行為を利用者の行為と擬制する、という話をしましたが、上記の記載の仕方は、そのことがより理解しやすいものとなっています。Dを利用した間接正犯という点では、同時に公正証書原本不実記録罪も成立し得るわけですが、これは虚偽死亡証書作成罪及び同行使罪の行為類型が当然に含んでいることから、同各罪と包括して評価することになるでしょう。
 参考答案は、単に、「虚偽診断書作成(160)、同行使(161Ⅰ)が成立する。」としか書いていません。ここにそれほど大きな配点があるとは思えないからです。ここは、虚偽診断書等作成罪の存在自体を指摘できない人との間で差を付けることができれば、十分なところです。もちろん、理想形は、各構成要件を当てはめることですが、それをやってしまうと、より配点の大きい論点で規範の明示や事実の摘示ができなくなるでしょう。

 次に、問題文の以下の事実からすれば、証拠偽造罪(104条)も検討することになるでしょう。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 乙は,A病院において,Vの死亡を確認し,その後の検査の結果,Vに劇薬Yを注射したことが原因でVが心臓発作を起こして急性心不全により死亡したことが分かったことから,Vの死亡について,Vに対する劇薬Yの注射を乙に指示した甲にまで刑事責任の追及がなされると考えた。乙は,A病院への就職の際,甲の世話になっていたことから,Vに注射した自分はともかく,甲には刑事責任が及ばないようにしたいと思い,専ら甲のために,Vの親族らがVの死亡届に添付してC市役所に提出する必要があるVの死亡診断書に虚偽の死因を記載しようと考えた

(引用終わり)

 

 同時に自己の刑事事件に関する証拠でもある場合に「他人の刑事事件に関する証拠」に当たるか、というのはややマイナーとはいえ典型論点であり、「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」でも論証を用意していたところです。

 

(「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」より引用)

拠隠滅等罪(104条)における「他人の刑事事件に関する証拠」には、同時に自己の刑事事件に関する証拠でもある場合を含むか
重要度:B
 自己の刑事事件に関する証拠の隠滅等が不可罰とされるのは、自己のためにする隠滅等につき定型的に期待可能性が欠けることにあるから、他人の刑事事件に関する証拠が、同時に自己の刑事事件に関する証拠でもある場合には、専ら他人のために隠滅等を行った場合に限り、「他人の刑事事件に関する証拠」に含まれる。

(引用終わり)

 

 ただ、本問のように忙しい場合には、上記の規範部分だけ抜き出して書くべきでしょう。

 

(参考答案より引用)

 他人の刑事事件に関する証拠が、同時に自己の刑事事件に関する証拠でもある場合には、専ら他人のために隠滅等を行った場合に限り、「他人の刑事事件に関する証拠」に含まれる。

(引用終わり)

 

 犯人隠避罪(103条)が気になった人もいるでしょうが、本問では問われていないと思います。その理由は、「甲がまだ捜査の対象になっておらず、客体に含まれないから」ではありません。同罪の「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」とは、真犯人又は真犯人ではないが嫌疑を受けて捜査の対象となっている者をいいますから、真犯人については捜査の対象となっているか否かを問わず客体に含まれます。

 

最判昭28・10・2より引用。太字強調は筆者。)

 真に罰金以上の刑にあたる罪を犯した者であることを知りながら、官憲の発見、逮捕を免れるように、これをかくまつた場合には、その犯罪がすでに捜査官憲に発覚して捜査が始まつているかどうかに関係なく、犯人蔵匿罪が成立するものと解すべきであるから、原判決に所論の違法もない。

(引用終わり)

 

 本問で犯人隠避罪が問われていないと思うのは、同罪の行為定型から離れすぎている。すなわち、本問の乙の行為は、「隠避」させる行為とはいえないからです。「隠避」とは、蔵匿以外の方法により官憲の発見・逮捕を免れさせる一切の行為とされていて、「一切の行為」だから、なんでもアリだろうと思われがちです。しかし、「官憲の発見・逮捕を免れさせる」というのは、基本的には「逃げ隠れさせること」、すなわち、身柄確保を妨げるか、既にされた身柄拘束を免れさせる性質の行為でなければなりません。近時の判例でも、被疑者と口裏合わせをした虚偽供述をもって隠避させる行為に当たるとしたものがありますが、これも、飽くまで既にされた身柄拘束を免れさせるという点に着目したものです。

 

最決平29・3・27より引用。太字強調は筆者。)

 被告人は,前記道路交通法違反及び自動車運転過失致死の各罪の犯人がAであると知りながら,同人との間で,A車が盗まれたことにするという,Aを前記各罪の犯人として身柄の拘束を継続することに疑念を生じさせる内容の口裏合わせをした上,参考人として警察官に対して前記口裏合わせに基づいた虚偽の供述をしたものである。このような被告人の行為は,刑法103条にいう「罪を犯した者」をして現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為と認められるのであって,同条にいう「隠避させた」に当たると解するのが相当である(最高裁昭和63年(あ)第247号平成元年5月1日第一小法廷決定・刑集43巻5号405頁参照)。

(引用終わり)

 

 本問の場合は、単に犯罪自体の発覚を防ごうとするもので、甲の逃走を手助けするとか、捜査対象を甲から別の者に振り替えさせようといったものではありません。したがって、そもそも犯人隠避罪が問題になるような行為ではないのです。ですから、そもそも配点自体が振られていないのではないかと思います。参考答案は、そのような判断から、犯人隠避罪については何も触れていません。仮に、答案に書くとすれば、以下のように書けばよいでしょう。

 

【論述例】

 「隠避」とは、蔵匿以外の方法により官憲の発見・逮捕を免れさせる一切の行為をいう(判例)。
 虚偽の死因を記載したVの死亡診断書を作成する行為は、犯罪自体の存在が発覚しないようにするものであり、甲を官憲の発見・逮捕から免れさせる行為とはいえない。したがって、「隠避」させたとはいえない。
 以上から、犯人隠避罪は成立しない。

 

 罪数については、余裕がなければ書かない、ということでもやむを得ないかもしれませんが、数行分の配点はありそうなところですので、結論だけでも、参考答案程度には書いておくとよいでしょう。なお、参考答案では、「観念競」という記載をしていますが、これも本来であれば略記に当たり、避けるべき記載方法です。しかし、「観念的競合」と律儀に書いていて時間切れになるくらいなら、こういったところを節約した方がよいだろうということで、今回は敢えてそのような記載としています。
 参考答案の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」及び「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.甲

1.殺人未遂(199、203)

(1)実行の着手とは、構成要件該当行為の開始又はこれと密接な行為であって、結果発生に至る客観的な危険性を有するものを行うことをいう間接正犯による場合には、結果発生に至る客観的な危険性が生じるのは被利用者の行為によるから、被利用者の行為に実行の着手を認めるべきである
 Vはワイン好きで、気に入ったワインであれば、2時間から3時間でワイン1本(750mlの瓶入り)を一人で飲み切る。送られたのはVが飲みたがっていた高級ワイン1本(750mlの瓶入り)であった。Xの致死量は10mlであるが、甲がV宅宛てに送ったワインに含まれていたXの量は8mlであり、致死量に達していなかったが、心臓に特異な疾患があるVが、その全量を数時間以内で摂取した場合、死亡する危険があった。Xは、体内に摂取してから半日後に効果が現れ、ワインに混入してもワインの味や臭いに変化を生じさせないものであった。以上から、被利用者である宅配業者がXの注入されたワインの入った瓶を持ってV宅前まで行った行為は、構成要件該当行為の開始又はこれと密接な行為であって、結果発生に至る客観的な危険性を有するものといえ、実行の着手がある。

(2)故意が認められるためには、犯罪事実の認識・認容を要する。
 確かに、甲は、Xの致死量を4mlと勘違いしていた。しかし、Vの心臓には特異な疾患があり、そのことについて、甲は知っていた。甲は、Vを確実に殺害するため、8mlのXを用意して同瓶に注入した。心臓に特異な疾患があるVが、その全量を数時間以内で摂取した場合、死亡する危険があった。甲は、Vがワイン好きで、気に入ったワインであれば、2時間から3時間でワイン1本を一人で飲み切ることを知っていた。したがって、甲は、Vの死を認識・認容していたといえるから、故意がある。

(3)以上から、殺人未遂が成立する。

2.殺人

(1)因果関係の有無は、行為の危険が結果に現実化したか否かによって判断すべきである

ア.甲から渡された容器に薬剤名の記載がないことに気付いたにもかかわらず、その中身を確認しないままVにYを注射したという乙の過失行為が介在しており、乙が中身を確認していればVが死に至ることはなく、乙の過失行為は結果発生の直接の原因であったともいえる。
 しかし、行為自体に結果発生の危険があり、行為後の第三者の行為が行為者の行為に誘発されたと認められる場合には、当該第三者の行為が結果発生の直接の原因であったとしても、行為の危険が結果に現実化したといえる
 甲は内科部長であり、甲は、乙のA病院への就職を世話したことがあり、乙が甲に恩義を感じていて、甲の指示に忠実に従うと考えられたことからすると、甲の乙に対する指示自体に結果発生の危険があり、乙の過失行為は甲の指示に誘発されたと認められるから、行為の危険が結果に現実化したといえる。

イ.乙がVに注射したYの量は3mlであり、それだけでは致死量に達していなかった。Vは、心臓に特異な疾患があったため、Yの影響により心臓発作を起こし、急性心不全により死亡した。
 しかし、被害者はありのままの状態で保護されるべきであるから、たとえ被害者の特殊事情が相まって重い結果が生じたとしても、行為の危険が現実化したといえる

ウ.以上から、因果関係が認められる。

(2)因果関係に錯誤があっても、構成要件の範囲で主観と客観が一致すれば故意が認められるから、行為者の認識において法的因果関係を認め得る限り、現に生じた因果経過と一致しなくても故意を阻却しない
 甲は6mlのYを注射させる意思であったのに対し、現実に注射されたのは3mlであったが、甲の認識において法的因果関係を認め得る以上、故意を阻却しない。

(3)以上から、殺人が成立する。

3.上記1の罪は、上記2と包括して評価すべきである。

4.よって、甲は、殺人の罪責を負う。

第2.乙

1.業過致死(211前)

 確かに、乙は、Vの心臓に特異な疾患があることを知らなかった。しかし、被害者はありのままの状態で保護されるべきであるから、たとえ被害者の特殊事情が相まって重い結果が生じたとしても、行為の危険が現実化したといえる。したがって、因果関係が認められる。
 以上から業過致死が成立する。

2.Vの死亡診断書の作成について

(1)虚偽診断書作成(160)、同行使(161Ⅰ)が成立する。

(2)証拠偽造(104)

 Vの死亡診断書は、甲の罪の証拠であると同時に、乙の上記1の罪に関する証拠でもある。
 他人の刑事事件に関する証拠が、同時に自己の刑事事件に関する証拠でもある場合には、専ら他人のために隠滅等を行った場合に限り、「他人の刑事事件に関する証拠」に含まれる
 乙は、専ら甲のために作成したから、Vの死亡診断書は「他人の刑事事件に関する証拠」といえる。
 以上から、証拠偽造が成立する。

3.よって、乙は、①業過致死、②虚偽診断書作成、③同行使、④証拠偽造の罪責を負う。②③は牽連犯(54Ⅰ後)、これと④は観念競(同前)となり、①と併合罪(45前)となる。

以上

posted by studyweb5 at 07:38| 予備試験論文式過去問関係 | 更新情報をチェックする

2017年08月20日

平成29年予備試験論文式民訴法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験において、合格ラインに達するための要件は、司法試験と同様、概ね

(1)基本論点抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを摘示できている。

という3つです。とりわけ、(2)と(3)に、異常な配点がある。(1)は、これができないと必然的に(2)と(3)を落とすことになるので、必要になってくるという関係にあります。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記の配点をすべて取ったという前提の下で、上位合格者のレベルに達するために必要となる程度の配点があるに過ぎません。

2.ところが、法科大学院や予備校では、「応用論点に食らいつくのが大事ですよ。」、「必ず趣旨・本質に遡ってください。」、「事実は単に書き写すだけじゃダメですよ。必ず自分の言葉で評価してください。」などと指導されます。これは、必ずしも間違った指導ではありません。上記の(1)から(3)までを当然にクリアできる人が、さらなる上位の得点を取るためには、必要なことだからです。現に、よく受験生の間に出回る超上位の再現答案には、応用、趣旨・本質、事実の評価まで幅広く書いてあります。しかし、これを真似しようとするとき、自分が書くことのできる文字数というものを考える必要があるのです。
 上記の(1)から(3)までを書くだけでも、通常は3頁程度の紙幅を要します。ほとんどの人は、これで精一杯です。これ以上は、物理的に書けない。さらに上位の得点を取るために、応用論点に触れ、趣旨・本質に遡って論証し、事実に評価を付そうとすると、必然的に4頁後半まで書くことが必要になります。上位の点を取る合格者は、正常な人からみると常軌を逸したような文字の書き方、日本語の崩し方によって、驚異的な速度を実現し、1行35文字以上のペースで4頁を書きますが、普通の考え方・発想に立つ限り、なかなか真似はできないことです。
 文字を書く速度が普通の人が、上記の指導や上位答案を参考にして、応用論点を書こうとしたり、趣旨・本質に遡ったり、いちいち事実に評価を付していたりしたら、どうなるか。必然的に、時間不足に陥ってしまいます。とりわけ、上記の指導や上位答案を参考にし過ぎるあまり、これらの点こそが合格に必要であり、その他のことは重要ではない、と誤解してしまうと、上記の(1)から(3)まで、とりわけ(2)と(3)を省略して、応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいってしまう。これは、配点が極端に高いところを書かずに、配点の低いところを書こうとすることを意味しますから、当然極めて受かりにくくなるというわけです。

3.上記のことを理解した上で、上記(1)から(3)までに絞って答案を書こうとする場合、困ることが1つあります。それは、純粋に上記(1)から(3)までに絞って書いた答案というものが、ほとんど公表されていないということです。上位答案はあまりにも全部書けていて参考にならないし、合否ギリギリの答案には上記2で示したとおりの状況に陥ってしまった答案が多く、無理に応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいって得点を落としたとみられる部分を含んでいるので、これも参考になりにくいのです。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作れば、それはとても参考になるのではないか、ということを考えました。下記の参考答案は、このようなコンセプトに基づいています。

4.今年の民訴法は、現場では易しいと感じた人が多かったのではないでしょうか。それは、ほとんどの人が、応用論点に気が付いていなかったからです。基本論点しか見えないので、基本的な問題であると感じた、ということですね。基本論点しか見えない場合に、「他にも何かあるのではないか。」と、応用論点を探しているようでは、早く受かるようにはなりません。その基本論点に絞って、しっかり書いていけば、それでよいのです。本問のように、上記(1)の基本論点が見えやすい問題の場合には、上記(2)、(3)が合否を分けることになります。
 設問1ではっきり差が付くのは、上記の(2)。すなわち、当てはめに入る前に、大阪国際空港事件判例(最大判昭56・12・16)の規範を明示できるかどうかです。

 

大阪国際空港事件判例より引用。※注及び太字強調は筆者。)

 民訴法二二六条(※注:現行法の135条)はあらかじめ請求する必要があることを条件として将来の給付の訴えを許容しているが、同条は、およそ将来に生ずる可能性のある給付請求権のすべてについて前記の要件のもとに将来の給付の訴えを認めたものではなく、主として、いわゆる期限付請求権や条件付請求権のように、既に権利発生の基礎をなす事実上及び法律上の関係が存在し、ただ、これに基づく具体的な給付義務の成立が将来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容易に立証しうる別の一定の事実の発生にかかつているにすぎず、将来具体的な給付義務が成立したときに改めて訴訟により右請求権成立のすべての要件の存在を立証することを必要としないと考えられるようなものについて、例外として将来の給付の訴えによる請求を可能ならしめたにすぎないものと解される。このような規定の趣旨に照らすと、継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権についても、例えば不動産の不法占有者に対して明渡義務の履行完了までの賃料相当額の損害金の支払を訴求する場合のように、右請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、右請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動としては、債務者による占有の廃止、新たな占有権原の取得等のあらかじめ明確に予測しうる事由に限られ、しかもこれについては請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止しうるという負担を債務者に課しても格別不当とはいえない点において前記の期限付債権等と同視しうるような場合には、これにつき将来の給付の訴えを許しても格別支障があるとはいえない。しかし、たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であつても、それが現在と同様に不法行為を構成するか否か及び賠償すべき損害の範囲いかん等が流動性をもつ今後の複雑な事実関係の展開とそれらに対する法的評価に左右されるなど、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点においてはじめてこれを認定することができるとともに、その場合における権利の成立要件の具備については当然に債権者においてこれを立証すべく、事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものについては、前記の不動産の継続的不法占有の場合とはとうてい同一に論ずることはできず、かかる将来の損害賠償請求権については、冒頭に説示したとおり、本来例外的にのみ認められる将来の給付の訴えにおける請求権としての適格を有するものとすることはできないと解するのが相当である。

(引用終わり)

 

 予備試験の場合は、この時点で多くの人が脱落します。判例の規範を覚えていない人、覚えていても答案に明示しない人。前者は、基本的な知識が足りていない人で、規範を覚える学習を増やす必要があります。後者は、基本的な答案の書き方を習得できていない人で、答案の書き方のクセを直さないと、どんなに知識を増やしても受かりません。当サイトが繰り返し説明している、「何度受けても受からない人」になりやすいタイプです。
 後は、それぞれの要件に当てはまりそうな事実を問題文から書き写して、結論を出せば終わり、というのが、実戦的な考え方です。本問は賃料がらみの事案だったためか、上記判例でも将来給付の訴えが認められる典型例として挙げている、「不動産の不法占有者に対して明渡義務の履行完了までの賃料相当額の損害金の支払を訴求する場合」に近いと考えて、適法とした人が多かったようです。参考答案も、適法の結論にしておきました。しかし実際には、類似の事案で、判例は将来給付の訴えを不適法としているのです(※)。
 ※ 大阪国際空港事件判例は継続的不法行為の事案であったのに対し、本問は継続的不当利得の事案なので、同判例の規範がそのまま妥当するのかという点に疑問を持った人は鋭いのですが、下記判例が「将来発生すべき債権」と表記しているとおり、現在では、大阪国際空港事件判例の規範は将来給付の訴え一般に妥当する要件として取り扱われています。

 

最判昭63・3・31より引用。太字強調は筆者。)

 将来の給付の訴えは、現在すなわち事実審の口頭弁論終結の時点では即時履行を求めることのできない請求権について予め給付判決を求める訴えであつて、予め請求をする必要があるときに限り提起することが許されるものであり(民訴法二二六条)、既に権利発生の基礎をなす事実関係及び法律関係が存在し、ただこれに基づく具体的な給付義務の成立が将来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容易に立証し得る別の一定の事実の発生にかかつているにすぎない期限付債権や条件付債権のほか、将来発生すべき債権についても、その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、右債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動が予め明確に予測し得る事由に限られ、しかもこれについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても、当事者間の衡平を害することがなく、格別不当とはいえない場合には、これにつき将来の給付の訴えを提起することができるものと解するのが相当である(最高裁昭和五一年(オ)第三九五号同五六年一二月一六日大法廷判決・民集三五巻一〇号一三六九頁参照)。これを本件についてみるに、被上告人の前記請求は、上告人が被上告人との共有物件である本件土地を訴外会社に専用駐車場として賃貸することによつて得た収益のうち上告人の持分割合をこえる部分について不当利得の返還を求めるものであるから、訴外会社との賃貸借契約の存続及びこれに基づく賃料の現実の収受を当然の前提とするものであり、したがつて、賃料が現実に収受されたか否かを問わずに、将来にわたり賃料収入による収益の分配につき継続的給付を命ずることは、右請求の性質からみて問題があるというべきである。もつとも、上告人と訴外会社との間に現に賃貸借契約が存続していて、上告人に賃料収入による一定の収益がある場合には、継続的法律関係たる賃貸借契約の性質からいつて、将来も継続的に同様の収益が得られるであろうことを一応予測し得るところであるから、右請求については、その基礎となるべき事実上及び法律上の関係が既に存在し、その継続が予測されるものと一応いうことができるしかし、右賃貸借契約が解除等により終了した場合はもちろん、賃貸借契約自体は終了しなくても、賃借人たる訴外会社が賃料の支払を怠つているような場合には、右請求はその基礎を欠くことになるところ、賃貸借契約の解約が、賃貸人たる上告人の意思にかかわりなく、専ら賃借人の意思に基づいてされる場合もあり得るばかりでなく、賃料の支払は賃借人の都合に左右される面が強く、必ずしも約定どおりに支払われるとは限らず、賃貸人はこれを左右し得ないのであるから、右のような事情を考慮すると、右請求権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動が予め明確に予測し得る事由に限られるものということはできず、しかも将来賃料収入が得られなかつた場合にその都度請求異議の訴えによつて強制執行を阻止しなければならないという負担を債務者に課すことは、いささか債務者に酷であり、相当でないというべきである。そうとすれば、被上告人の前記請求のうち、原審口頭弁論終結後の期間にかかる請求部分は、将来の給付の訴えの対象適格を有するものということはできないから、右訴えにかかる請求を認容した原審の判断には、訴訟要件に関する法令の解釈適用を誤つた結果、将来の給付の訴えの対象適格を欠く請求についてその適格を認めた違法があるといわざるを得ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

(引用終わり)

 

 さらに、類似の事案において、最判平24・12・21は上記判例を明示的に引用し、より一般的な形で判示しています。

 

最判平24・12・21より引用。太字強調は筆者。)

 共有者の1人が共有物を第三者に賃貸して得る収益につき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないものである(最高裁昭和59年(オ)第1293号同63年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事153号627頁参照)。

(引用終わり)

 

 さて、そうなると、本問でも不適法とするのが正解、となるかというと、実はそう簡単ではありません。上記平成24年判例には、引用判例の射程に関する千葉勝美裁判官の補足意見(須藤正彦裁判官同調)が付されています。

 

最判平24・12・21における千葉勝美補足意見より引用。太字強調は筆者。)

 前掲最高裁昭和63年3月31日第一小法廷判決は,共有物件である土地を第三者に専用駐車場として賃貸することによって得た賃料収入に関し,相手方の持分割合を超える部分の不当利得返還を求める請求については,賃貸借契約が解除等で終了したり,賃借人が賃料の支払を怠っているようなときには,将来請求はその基礎を欠くところ,これらは専ら賃借人側の意思等に基づきされることでもあり,必ず約定どおりに支払われるとは限られない等の点から,将来の給付請求を可能とする適格を欠くとしている。
 …この判決の射程距離が問題になるが,この判決の理解としては,①持分割合を超える賃料部分の不当利得返還を求める将来請求の場合を述べたものとする理解(このような捉え方をしていると思われる他の最高裁判例として,最高裁平成7年(オ)第1203号同12年1月27日第一小法廷判決・民集54巻1号1頁がある。)と,②①の場合に加え,当該賃料が駐車場の賃料であるという賃料の内容・性質をも含んだ事例についての判断であるとする理解とがあり得るところである。
 このうち,①の理解によると,この裁判要旨については,将来得るべき賃料はそれが現実に受領されて初めて不当利得返還請求権が発生することから,その発生は第三者の意思等によるところ,そのような構造を有する将来請求全てに射程距離が及ぶ判断であると捉えることにもなろう。しかし,昭和56年大法廷判決の法理によって将来請求の適否を判断するためには,当該不当利得返還請求権の内容・性質,すなわち,その発生の基礎となる事実関係・法律関係が将来も継続するものかどうかといった事情が最重要であり,それを個別に見て判断すべきであるとすれば,昭和63年第一小法廷判決の射程距離については②の理解を採ることになろう
 私としては,上記①の理解はいささか射程が広すぎるように思う。すなわち,居住用家屋の賃料や建物の敷地の地代などで,将来にわたり発生する蓋然性が高いものについては将来の給付請求を認めるべきであるし,他方,本件における駐車場の賃料については,50台程度の駐車スペースがあり,これが常時全部埋まる可能性は一般には高くなく,また,性質上,短期間で更新のないまま期間が終了したり,期間途中でも解約となり,あるいは,より低額の賃料で利用できる駐車場が近隣に現れた場合には賃借人は随時そちらに移る等の事態も当然に予想されるところであって,将来においても駐車場収入が現状のまま継続するという蓋然性は低いと思われ,その点で将来の給付請求を認める適格があるとはいえない。いずれにしろ,将来の給付請求を認める適格の有無は,このようにその基礎となる債権の内容・性質等の具体的事情を踏まえた判断を行うべきであり,その意味でも昭和63年第一小法廷判決の射程距離については,上記②の理解に立つべきである。

(引用終わり)

 

 上記を理解してから本問の問題文を見れば、本問は最判昭63・3・31の射程外の事案であると考える余地があることに気付くでしょう。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者)

 Yは,甲土地の所有者であったが,甲土地については,Aとの間で,賃貸期間を20年とし,その期間中は定額の賃料を支払う旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結しており,Aはその土地をゴルフ場用地として利用していた

 (中略)

 なお,弁護士Lが確認したところによると,Aが運営するゴルフ場の経営は極めて順調であり,本件賃貸借契約が締結されてからこの10年間本件賃貸借契約の約定どおりに賃料の支払を続けていて,これまで未払はないとのことであった。

(引用終わり)

 

 上記の事実を捉えて、前記千葉補足意見のいう「将来にわたり発生する蓋然性が高いもの」に当たるとし、昭和63年判例の射程外とする。これが、想定される「正解」です。しかしながら、ほとんどの受験生が、そもそも昭和63年判例自体を知らないか、仮に知っていても、それを答案に明示して射程論を論じるという書き方を知らないので、誰も書けない結果的に、このような応用部分は、無視すべきことになるのです。上位を狙う場合には、とりあえず事実の評価も付しておく。そうしていると、事実の評価に関する配点だけでなく、偶然に上記のような問題意識に合致する事実の評価がされていた場合には、その部分でも配点を取れるというわけです。ただし、それは、そのような事実の評価を答案に書くだけの余裕がある人だけがなし得ることです。

 設問2です。設問2は、300万円までが114条2項で既判力、それ以外は信義則これは、誰もが気付くところだろうと思います。実戦的には、これだけを普通に書いていれば、問題ないでしょう。若干気を付けるとすると、114条2項の既判力の内容の記述の仕方です。これは、「本件貸金債権のうち300万円が不存在であること」と記載するのが正しい「本件貸金債権のうち250万円については弁済により、50万円については相殺により不存在であること」とするのは、通説とは異なる見解ということになるので、何の説明もなく書いてしまえば、評価を落とすでしょう。また、Xの不当利得返還請求権の不存在については、114条2項ではなく、同条1項の既判力によりますから、同条2項の既判力の内容として書いてしまわないようにする必要があります。
 ここからは、ほとんどの人が気付いていないであろう応用論点の話です。本問の問題文には、なぜか敢えてボカしている部分があることに、現場で疑問を持った人もいたでしょう。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 第1訴訟の受訴裁判所は,審理の結果,Xの不当利得返還請求権に係る債権については300万円全額が認められる一方,Yの本件貸金債権は500万円のうち450万円が弁済されているため50万円の範囲でのみ認められるとの心証を得て,その心証に従った判決(以下「前訴判決」という。)をし,前訴判決は確定した。

(引用終わり)

 

 「その心証に従った判決」とは、具体的にはどのような判決なのか。「250万円限度の一部認容判決に決まってるじゃん。」と思うかもしれません。実は、必ずしもそうではないのです。どういうことか。ポイントは、第1訴訟が、実は一部請求である、というところにあります。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 弁護士Lは,Xと相談した結果,差し当たり,訴え提起の時点までに既に発生した利得分の合計300万円のみを不当利得返還請求権に基づいて請求することとした。

(引用終わり)

 

 XのYに対する不当利得返還請求権のうち、「訴え提起の時点までに既に発生した利得分」だけを請求している。継続的不当利得に基づく返還請求権については、日々刻々と別個の権利が発生するのではなく、1個の不当利得返還請求権の内容が変動する、というのが、一般的な理解です。このように、現在給付部分と将来給付部分がそれぞれ1つの請求権の一部を構成することは、将来給付の訴えの請求適格に関する前記各判例の表現の仕方からも明らかです。

 

大阪国際空港事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 別紙当事者目録記載の番号1ないし239の被上告人ら(原判決別紙二の第一ないし第四表記載の被上告人らないしその訴訟承継人ら)の損害賠償請求のうち原審口頭弁論終結後に生ずべき損害(この損害の賠償の請求に関する弁護士費用を含む。)の賠償を求める部分は、権利保護の要件を欠くものというべきであつて、原判決が右口頭弁論終結ののちであることが記録上明らかな昭和五〇年六月一日以降についての上記被上告人らの損害賠償請求を認容したのは、訴訟要件に関する法令の解釈を誤つたものであり、右違法が判決に影響を及ぼすものであることは明らかである。

(引用終わり)

最判昭63・3・31より引用。太字強調は筆者。)

 被上告人の前記請求のうち、原審口頭弁論終結後の期間にかかる請求部分は、将来の給付の訴えの対象適格を有するものということはできないから、右訴えにかかる請求を認容した原審の判断には、訴訟要件に関する法令の解釈適用を誤つた結果、将来の給付の訴えの対象適格を欠く請求についてその適格を認めた違法があるといわざるを得ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

(引用終わり)

最判平24・12・21より引用。太字強調は筆者。)

 共有者の1人が共有物を第三者に賃貸して得る収益につき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないものである(最高裁昭和59年(オ)第1293号同63年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事153号627頁参照)。

(引用終わり)

 

 「~のうち…の部分」という表現は、請求の趣旨において一部請求であることを明示する場合に用いる表現でもあるので、覚えておくとよいでしょう。問題文上は「差し当たり…請求することとした。」としか書いてありませんが、当然、弁護士Lは請求の趣旨においてこれを明示した、と考えることになります。
 さて、そうすると、何がどう変わってくるか。学習の進んでいる人ならピンと来るでしょう。そうです。「一部請求と相殺」の論点が出てくるのです。一部請求と相殺については、外側説を採るのが判例(最判平6・11・22)、通説です。

 

最判平6・11・22より引用。太字強調は筆者。)

 特定の金銭債権のうちの一部が訴訟上請求されているいわゆる一部請求の事件において、被告から相殺の抗弁が提出されてそれが理由がある場合には、まず、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、原告の請求に係る一部請求の額が残存額の範囲内であるときはそのまま認容し、残存額を超えるときはその残存額の限度でこれを認容すべきである。けだし、一部請求は、特定の金銭債権について、その数量的な一部を少なくともその範囲においては請求権が現存するとして請求するものであるので、右債権の総額が何らかの理由で減少している場合に、債権の総額からではなく、一部請求の額から減少額の全額又は債権総額に対する一部請求の額の割合で案分した額を控除して認容額を決することは、一部請求を認める趣旨に反するからである。

(引用終わり)

 

 では、これを本問の場合にもそのまま適用すれば足りるかというと、そうではありません。そのことは、上記判例のいうように、「まず、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定」しようとしてみるとわかります。「当該債権の総額」とは、本問でいえば、将来発生すべき部分も含んだ全額ということになります。そこから、自働債権の額、本問では弁済で消滅していない50万円を控除する。結論的には、将来発生すべき不当利得返還請求権の額が50万円を超える場合には、Xの請求は300万円全額認容ということになります。明らかにおかしいですね。おかしいということの具体的な意味は2つです。まず1つは、請求適格との関係です。仮に、設問1で将来発生部分の請求適格を否定する場合には、 上記の処理は、これと矛盾する。すなわち、請求適格を否定しているにもかかわらず、実質的には、将来発生部分についても請求を認めているのと同じ結論になってしまうということです。もう1つは、相殺適状との関係です。将来発生すべき不当利得返還請求権は、現在発生していないわけですから、現時点で相殺適状にない。それにもかかわらず、将来発生部分をも含んだ総額から控除したのでは、相殺適状にない受働債権との相殺を認めていることになってしまいます。仮に、控除の趣旨を、将来発生した時点で直ちに相殺する趣旨と考えたとしても、Yの合理的意思として、通常は既に発生した不当利得返還請求権との相殺を望むのが当然ですから、先に将来発生部分との相殺を強制する結果になるような処理は、妥当とはいえません。こうして、本問のように、継続的に発生する債権のうち、既に発生した部分について一部請求がされた場合において、相殺の抗弁が提出されてそれが理由があるときは、外側説ではなく、内側説を採るべきだ、という結論に至るのです。その後の処理は、この論点に気付かなかった場合と同じです。
 「しまった。そんなの気付かなかったよ。」と思ったなら、むしろそれは逆です。「気付かなくてよかったよ。」と思うのが正しい。こんなことに現場で気付いてしまったら、混乱して、誰もが書く当たり前の論述が雑になってしまうでしょう。こんなものは、気付かない方が幸せなのです。上記(1)の基本論点に絞って書くというのは、このような趣旨も含んでいるのです。
 参考答案は、上記(1)から(3)までに絞って書いていますが、本問の場合は、もう少し事実の評価を付す余裕もあったかもしれません。もちろん、余裕があれば、評価を付して構いません。予備試験の場合は、民法、商法、民訴を同時に解くので、民訴で生じた余裕を、民法、商法に回すという選択肢もあったでしょう。いずれにせよ、参考答案程度のレベルなら、安定して常に時間内に書き切れる、という力を身に付けることが大切です。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.将来給付の訴えが適法となるためには、事前請求の必要性(135条)及び請求適格が必要である。

2.事前請求の必要性があるというためには、履行期の任意の履行が期待できないこと、履行期に履行されなければ債権の目的を達することができないこと等の事情があることを要する。
 本件で、Xから委任を受けた弁護士LがYと裁判外で交渉をしたものの、Yは支払に応じなかったから、履行期の任意の履行が期待できない。したがって、事前請求の必要性がある。

3.将来給付の請求適格が認められるためには、その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動が予め明確に予測しうる事由に限られ、これについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止しうるという負担を債務者に課しても、当事者間の公平を害することがなく、格別不当とはいえないことを要する(大阪国際空港事件判例参照)。
 本件で、YとAとの間で本件賃貸借契約が締結され、甲土地がXとYとの共有となった後も、甲土地の管理は引き続きYが行っており、YA間の本件賃貸借契約も従前どおり維持されていた。Aからの賃料については、Yが回収を行い、Xに対してはその持分割合に応じた額が回収した賃料から交付されていたが、ある時点からYはXに対してこれを交付しないようになり、Xから委任を受けた弁護士LがYと裁判外で交渉をしたものの、Yは支払に応じなかった。したがって、Yに対する不当利得返還請求権発生の基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測される。本件賃貸借契約における賃貸期間中の賃料は定額である。Aが運営するゴルフ場の経営は極めて順調であり、Aは、本件賃貸借契約が締結されてからこの10年間本件賃貸借契約の約定どおりに賃料の支払を続けていて、これまで未払はない。したがって、債権の発生・消滅及びその内容につきYに有利な将来における事情の変動が予め明確に予測しうる事由に限られ、しかもこれについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止しうるという負担をYに課しても、当事者間の公平を害することがなく、格別不当とはいえない。したがって、請求適格が認められる。

4.よって、訴え提起の時点では未発生である利得分も含めた不当利得返還請求訴訟を提起することは適法である。

第2.設問2

1.相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する(114条2項)。上記既判力の内容は、基準時における自働債権の不存在である。
 本件で、第1訴訟においてXの不当利得返還請求権に係る債権については300万円全額が認められたから、本件貸金債権のうち相殺をもって対抗した額は、300万円である。したがって、本件貸金債権のうち300万円は、第1訴訟の基準時において存在しないという点について、既判力が生じる。
 よって、第2訴訟において、受訴裁判所は、本件貸金債権のうち300万円については、基準時後の事実を除き、改めて審理・判断をすることはできない。

2.本件貸金債権のうち残部の200万円については、前訴判決の既判力は及ばない。
 既判力によって遮断されない場合であっても、訴訟上の信義則(2条)に反するときは、後訴での主張は許されない。 信義則に反するか否かは、前訴で容易に主張しえたか、相手方に前訴判決によって紛争が解決したとの信頼が生じるか、相手方を長期間不安定な地位に置くものといえるか等の観点から判断すべきである(判例)。
 本件で、確かに、Yが長期間経過後に第2訴訟を提起したという事情はなく、直ちにXを長期間不安定な地位に置くとはいえない。しかし、前訴判決は本件貸金債権は500万円のうち450万円が弁済されているとの心証に基づくものであり、Yは、第1訴訟において、本件貸金債権がいまだ弁済されていないとする主張を容易になしえたし、Xに前訴判決によって紛争が解決したとの信頼が生じるといえる。したがって、Yが本件貸金債権のうち残部の200万円の存否について改めて争うことは、訴訟上の信義則(2条)に反し、許されない。
 よって、第2訴訟において、受訴裁判所は、本件貸金債権のうち残部の200万円については、改めて審理・判断をすることはできない。

以上

posted by studyweb5 at 17:28| 予備試験論文式過去問関係 | 更新情報をチェックする


  【当サイト作成の電子書籍一覧】
司法試験平成28年最新判例ノート
平成29年司法試験のための平成28年刑訴法改正の解説
司法試験定義趣旨論証集刑訴法(逐次改頁版)
司法試験定義趣旨論証集刑訴法(通常表示版)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(民法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(民法)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(行政法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(行政法)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(憲法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(憲法)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(会社法)
司法試験定義趣旨論証集(会社法)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(物権)
司法試験定義趣旨論証集(物権)
司法試験平成26年最新判例ノート
司法試験論文用平成26年会社法改正対応教材
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(民法総則)
司法試験定義趣旨論証集(民法総則)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(刑法各論)
司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(刑法総論)
司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)
司法試験平成25年判例肢別問題集
司法試験平成25年判例論証穴埋問題集
司法試験平成25年判例論証集
司法試験定義趣旨論証集(行政法)

  【最新ニュース・新刊書籍紹介】
平成30年司法試験受験願書の交付等について
平成29年司法試験予備試験論文式試験結果
司法試験予備試験 新・論文の森 商法<第2版>
国民審査を受ける最高裁裁判官7人のアンケート回答全文
アディーレ 2カ月業務停止 東京弁護士会処分「事実と違う宣伝」
企業法とコンプライアンス 第3版
「ヘイト投稿」がネットで容認される不可思議
横田騒音に6億円賠償命令 各地の基地騒音訴訟は? 最高裁判例を踏襲
震災遺児の財産を横領 叔父の懲役6年確定へ 最高裁が上告棄却
商法判例集 第7版
Skill 妻と別居中に交際「不倫にならない」は本当?
選挙権ない男性が投票 神戸市長選、期日前投票
国際取引法講義
国民審査の投票用紙紛失 宮崎
法制審議会民事執行法部会第8回会議議事録等
取締役・取締役会制度
米最高裁、トランプ大統領の入国禁止令巡る上告1件退ける
無実の罪で23年間服役の米男性釈放
Before/After 民法改正
法曹養成、5年一貫コース推進 大学を1年短縮 文科省案 
法科大学院、H30年度入学定員は2,330人…ピークより3,495人減
行政法 (伊藤塾試験対策問題集:予備試験論文 8)
文科省、法科大学院の最低評価は1校 
最高裁裁判官国民審査が告示 期日前投票、衆院選と同日から
法学セミナー 2017年 11 月号
原発事故、国と東電に5億賠償命じる 「国は津波予見できた」
原状回復請求は退ける 被災者集団訴訟で福島地裁

新注釈民法17 親族(1)
裁判官の忌避認めず 大飯原発訴訟で最高裁
元特捜部長、弁護士登録申請 捜査資料改ざん・隠蔽で有罪
民法2 物権 第4版 (有斐閣Sシリーズ)
証拠改竄隠蔽事件で有罪の元特捜部長・大坪氏が弁護士申請 大阪弁護士会
「民事訴訟」詐欺、弁護士名乗る男が供託金要求
債権法改正を読む:改正論から学ぶ新民法
弁護士らが日弁連に再質問状 「質問に向き合っていない」 死刑廃止宣言めぐり
解説 民法(債権法)改正のポイント
電通 違法残業に罰金50万円の判決 東京簡裁
電通に罰金50万円 簡裁判決「違法残業が常態化」
新版 弁護士・事務職員のための破産管財の税務と手続
東京地検、大麻所持「量刑重すぎた」 異例の控訴で減刑
「刑重すぎ」 地検が異例の控訴 高裁が刑軽く
契約法(中田裕康)
「日本は機械学習パラダイス」 その理由は著作権法にあり
民法7 親族・相続 第5版 (有斐閣アルマ Specialized)
法科大学院等特別委員会(第82回)配付資料
法制審議会民事執行法部会第7回会議議事録等
民法の基礎から学ぶ 民法改正
「民事執行法の改正に関する中間試案」(平成29年9月8日)のとりまとめ
伊藤真の民法入門 第6版
死刑を求刑「遺産目的極めて悪質」…青酸連続死
青酸不審死、筧被告に死刑求刑「まれにみる凶悪な事件」
デイリー六法2018 平成30年版
名張事件、新証拠を提出 弁護団「封かん紙、貼り直し明らか」
11年前の刺殺容疑で逮捕へ 通り魔事件で服役中の男 
ポケット六法 平成30年版
「旧態依然の働き方」に問題意識突きつける
EU離脱後移行期間の貿易紛争、欧州司法裁が権限維持も=英首相
弁護士が教える IT契約の教科書
国が国賠訴訟促す通知、アスベスト被害の2300人 
新旧対照でわかる 改正債権法の逐条解説

刑事訴訟法等の一部を改正する法律について
いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について(PDF)
法曹養成制度関係閣僚会議
民法(債権関係)の改正に関する要綱案
民法の一部を改正する法律案
法曹養成制度改革の推進について(PDF)
法曹養成制度改革推進会議
法曹養成制度改革顧問会議
平成29年司法試験予備試験の結果について
平成30年司法試験の実施について
司法試験考査委員の不適切行為に関する通報窓口

  【司法研修所教材・講義案・調査官解説等】
事件記録教材 法科大学院教材
調査官解説
事例で考える民事事実認定
民事訴訟における事実認定 契約分野別研究(製作及び開発に関する契約)
プラクティス刑事裁判
プロシーディングス刑事裁判
検察講義案 平成24年版
新問題研究要件事実
紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造 改訂
刑事第一審公判手続の概要
刑事判決書起案の手引
民事判決起案の手引
民事訴訟第一審手続の解説
情況証拠の観点から見た事実認定
民事訴訟における要件事実 第2巻
民事訴訟における要件事実 増補 第1巻
書記官研修講義案等