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2016年08月21日

平成28年予備試験論文式一般教養の解法と参考答案

1.予備試験の論文式試験において、一番どうしていいかわからない、という感覚を持つのが、一般教養だろうと思います。一般教養の対策は何もしない、という人も、結構いるようです。しかし、それは非常にもったいないことです。論文式試験における一般教養科目の配点は、他の法律基本科目と同じ50点です。

 

(「司法試験予備試験に関する配点について」より引用)

 法律基本科目及び一般教養科目については各科目いずれも50点満点とする。

(引用終わり)

 

 ですから、一般教養の対策をしないということは、法律基本科目を1科目捨てていることと同じなのです。そして、一般教養を解くための方法論は、大学受験の現代文のテクニックと同じであり、一度解法を理解すれば、安定して上位を取れるおいしい科目でもあります。直前に覚えるような知識もありませんから、余裕のある時期に解法を確立しておけば、むしろ、安定した得点源になるのです。
 もっとも、一般教養の解法が、大学受験の現代文のテクニックと同じであるということ自体、あまり知られていないように思います。また、司法試験受験界には、大学受験の現代文のテクニックを知っている人自体が少ないのかもしれません。そこで、今回は、その解法を、具体的に、設問の目の付け所から文章の読み方、答案用紙に書き込む文言まで、詳細に解説しておきたいと思います。問題文は、こちらから、各自参照して下さい。

2.設問1です。直接的な問いは、「何が求められるであろうか」という部分です。ただ、それよりもまず、目を付けるべきは、「学問における専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割に触れつつ」という部分です。これは、解答の中身を構成する要素だからです。より具体的に言えば、答案で、「学問における専門家集団の役割は〜」という形で必ず書くことになる、ということですね。ですから、まずは、これが文章中のどの部分を指しているか、ということを、検討することになるわけです。
 この際に、気を付けたいのは、「実質的な意味を考えようとしない。」ということです。自分の頭で考えようとすると、10人いれば10人考え方が違いますから、どんどん出題者の期待する解答からズレていきます。そうではなく、文法の法則に従って、形式的、客観的に考えていく。それが、大学入試の現代文の基本であり、そのまま予備試験の一般教養の基本ともなるわけです。この場合のテクニックは、「キーワードに着目し、それと同じ言葉、あるいは同義語、類義語、対義語を探す。」ということです。「学問における専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割」の主要な要素は、「役割」です。答案では、「学問における専門家集団の役割は〜という役割である。」と書くことになるからですね。そこで、「役割」を探します。すると、「個々の学問分野において研究者が果たしている役割も,基本的にこれと同じである。」という文章を見付けることができるはずです。これを見た時に、「これは楽だな。」と感じるべきです。なぜなら、この文章の中に、他のキーワードである、「学問」と「研究者」が既に入っているからです。「学問における専門家集団の役割」と、「個々の学問分野において研究者が果たしている役割」は、ほとんど同じ意味ですね。ですから、今度は、「基本的にこれと同じである。」の「これ」が何を指しているかを確定すればよい。これも、自分の頭で考えるのではなく、文法法則に従って、「これ」のある文章の直前のものを指していると考えて、直前の文章を見ればよい。すると、「例えば法律・医療・会計などの領域では,各種の専門家が一定の条件下で知識を独占的に運用し続けている。」とあります。これをそのまま、「これ」に当てはめて、「学問における専門家集団の役割は〜という役割である。」という形式にしてみると、

 「学問における専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割は、法律・医療・会計などの領域では、一定の条件下で知識を独占的に運用し続ける役割である。」

という文章になります。これでもよさそうです。ただ、気にすべきは、「例えば」となっているということです。「例えば」は抽象的・一般的なものを示した後、それに沿う具体例を挙げる場合に使う言葉です。だとすれば、「例えば」の前の文章は、より抽象的・一般的なものがあるはずです。その意識を持って、前の文章を見てみます。すると、「その一方で,「知識」と「情報」を概念的に区分することに固有の関心=利害(interest)を持つ人々も,いまだに存在する。」という文章がある。この文章のうち、「固有の関心=利害(interest)を持つ人々」とは、ここでは「学問における専門家集団」とほぼ同義の表現として用いられていることがわかるでしょう。そして、「「知識」と「情報」を概念的に区分すること」は、「役割」に当てはまり得る表現である。そうすると、これを先の文章と合わせて、「学問における専門家集団の役割は〜」の形式で文章化すると、

 「学問における専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割は、「知識」と「情報」を概念的に区分する役割であり、例えば、法律・医療・会計などの領域では、一定の条件下で知識を独占的に運用し続けるという役割である。」

という文章になります。とりあえず、これで、「学問における専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割に触れつつ」という要求には応えられそうです。
 そこで、今度は、直接的な問いである、「一般に「学問的知識」が「学問的知識」であるためには,何が求められるであろうか。」に対する解答を考えてみましょう。答案用紙には、「一般に「学問的知識」が「学問的知識」であるためには〜が求められる。」というような形で書くことになるでしょう。設問の文章中のどの部分が、この「〜」の部分に該当するのか、そのような目で、文章を見ることになります。ここでも、自分の頭で考えてはいけません。キーワードに着目して、形式的に考えればよいのです。ここでのキーワードは、「学問的知識」です。このキーワードを探しながら文章を読むと、最後に出てきます。最後の文章で注目すべきは、「すなわち」という接続詞です。「すなわち」は、直前の文章と同じ意味のことを言い換える場合に使う接続詞です。「つまり」とか、「換言すれば」などと同じ意味ですね。そこで、前の文章を見ると、「個々の学問分野において研究者が果たしている役割も,基本的にこれと同じである。」という前に見た文章です。そして、ここでいう「これ」の意味は、前に確認しましたね。もう一度確認すると、

 「学問における専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割は、「知識」と「情報」を概念的に区分する役割であり、例えば、法律・医療・会計などの領域では、一定の条件下で知識を独占的に運用し続けるという役割である。」

ということでした。ここまで来ると、設問が、「学問における専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割に触れつつ」と言っていた意味がわかります。
 さて、上記の文章に続けて、最後の文章は、「すなわち研究者は,「斯界の権威」として学問的知識の生産や流通にコミットし続けている。」としているわけですから、研究者が、「学問的知識の生産や流通にコミットし続けている」こととは、「「知識」と「情報」を概念的に区分する」ことを指しているのであり、「一定の条件下で知識を独占的に運用し続ける」ことを指していることになります。「「知識」と「情報」を概念的に区分する」ことによって、学問的知識が生産され、それを「独占的に運用し続ける」ことによって、学問的知識が流通しているともいえるでしょう。ここまで来ると、「一般に「学問的知識」が「学問的知識」であるためには,何が求められるであろうか。」に対する解答が見えてきますね。「「知識」と「情報」を概念的に区分する」ことによって、学問的知識が生産される、すなわち、「知識」と「情報」を概念的に区分すると、学問的知識が生まれるのですから、「学問的知識」が「学問的知識」であるためには、「知識」と「情報」が概念的に区分されることが求められるというわけです。
 さあ、これで解答がわかりました。後は、これを解答用紙に書く文章としてまとめるだけです。書出しは、「学問における専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割は」で始めるのが、書きやすそうです。

 「学問における専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割は、「知識」と「情報」を概念的に区分する役割であり、例えば、法律・医療・会計などの領域では、一定の条件下で知識を独占的に運用し続けるという役割である。」

 先に確認したとおり、学問的知識は、研究者が上記の役割を果たす、すなわち、「「知識」と「情報」を概念的に区分する」ことによって生産されていたのでした。このことを文章化すると、

 「研究者は、上記の役割を果たすことにより、「斯界の権威」として学問的知識の生産や流通にコミットし続けている。すなわち、学問的知識は、「知識」と「情報」を概念的に区分することによって生み出される。 」

ということになるでしょう。そして、結論です。

 「したがって、一般に「学問的知識」が「学問的知識」であるためには、「知識」と「情報」が、研究者によって概念的に区分されることが求められる。」

 これが、設問1の解答ということになるわけです。

3.では、設問2を見ていきましょう。直接的な問いは、「「国家」はいかなる立場に置かれているであろうか。」というものです。ですから、解答用紙には、「「国家」は〜の立場に置かれている。」と書くことになるのでしょう。ただ、ここでも、この直接的な問いの解答をいきなり探さない方が解きやすい。まずは、解答の際の注文として、「具体的な事象を取り上げつつ」とされているわけですから、この「具体的な事象」とは何か、これを考えてみるべきなのです。ヒントになるのは、設問の部分で前提的に書いてある、「グローバル化=個人化が進行する中で」という部分です。これの具体例が、「具体的な事象」に当たりそうですね。ここまで読んでいればもうわかっていると思いますが、これも、自分の頭で考えてはいけません。「グローバル化=個人化が進行する中で」という言葉が、設問の文章の中のどの部分を指しているのか。これを、「グローバル化」や、「個人化」というキーワードに着目して探していけばよいのです。
 そこで、文章を頭から見ていくと、「グローバル化」と「個人化」は、セットで出てきます。まず、最初に発見するのは、「人々が中間的な集団から解放されることを「個人化(individualization)」と呼ぶならば,グローバル化は個人化と軌を一にしている。」という文章です。まず、「個人化」という言葉は、「人々が中間的な集団から解放されること」と定義されていることがわかります。このことから、解答用紙に記入する場合には、「人々が中間的な集団から解放されるという個人化」と書くことになりそうです。それから、「軌を一にする」の「軌」の語源は、「軌道」の「軌」。すなわち、車輪の跡のことです。ですから、「軌を一にする」という言葉は、「同じ方向性で」という程度の意味です。グローバル化と個人化が同じ方向性にある、という場合の、同じ方向性とは、どのようなものなのか。この、共通の方向性に当たるものを、文章から抜き出すことができれば、設問の、「グローバル化=個人化が進行する中で」の意味もわかりますし、その具体例も理解できそうです。そこで、同じ方向性とは何か、という目でもう一度文章を読むと、冒頭の「インターネットの普及によって(地理的・空間的に)遠方にいる人々と,手軽にコミュニケーションを取ることが可能になってきている。その一方で,(地理的・空間的に)身近な人々との関係が,より疎遠になる傾向が認められる。」という文章が、これに当たりそうだ、ということがわかるでしょう。すなわち、「インターネットの普及によって(地理的・空間的に)遠方にいる人々と,手軽にコミュニケーションを取ることが可能になってきている一方で,(地理的・空間的に)身近な人々との関係が,より疎遠になる傾向」が、グローバル化と個人化に共通する方向性、ないしは共通の原因である、ということです。したがって、「グローバル化=個人化が進行する中で」との関係では

 「グローバル化=人々が中間的な集団から解放されるという個人化は、インターネットの普及によって(地理的・空間的に)遠方にいる人々と手軽にコミュニケーションを取ることが可能になってきている一方で、(地理的・空間的に)身近な人々との関係がより疎遠になる傾向という点で軌を一にして進行している。」

という文章が成立します。
 さらに、「グローバル化」と「個人化」のキーワードは、その直後の文章にも登場します。「グローバル化=個人化は今日,社会の各所に多大な影響を及ぼしつつある。」という文章です。これを見れば、設問の、「グローバル化=個人化が進行する中で」との関係で

 「グローバル化=個人化の進行は、今日、社会の各所に多大な影響を及ぼしつつある。」

という文章が成立することに気が付きます。そして、注目すべきは、その直後の文章が、「例えば」で始まっていることです。「多大な影響」の具体例が挙がっているのでしょう。見てみると、「例えば家族や地域のコミュニティーは,その中で恒常的な解体圧力にさらされている。」とある。ここから

 「グローバル化=個人化の進行は、今日、社会の各所に多大な影響を及ぼしつつある。例えば、家族や地域のコミュニティーは、その中で恒常的な解体圧力にさらされている。」

という文章が成立します。そうすると、「具体的な事象」とは、今のところ、「家族や地域のコミュニティーが恒常的な解体圧力にさらされていること」を指す事象ということになる。「事象」とは、現実に起きた出来事という程度の意味です。できれば、時事的な社会現象や歴史的事実のようなものを挙げられると一番よい。ただ、問題文には、これは直接的には書いてありません。このような場合にも、「自分の頭で独創的に考える」のではなく、「考査委員が想定していそうな最も無難なもの」を「予測」して挙げるのが基本です。何を挙げるべきかについては、直接的な問いに対する解答とも関係しますので、それを検討してから考えることにしましょう。
 次に、直接的な問いである、「「国家」はいかなる立場に置かれているであろうか。」に対する解答を考えます。キーワードである「国家」を文章から探してみると、実は見つかりません。そこで、同義語、類義語、対義語を探してみると、「中間的な集団」、「社会」、「コミュニティー」という言葉が見つかります。ただ、これは、「国家」とは少し意味が違う言葉です。ですから、これを、「国家」にそのまま当てはめてよいか、というのは、少し注意が必要なのです。1つ1つ、慎重に吟味してみましょう。まず、「中間的な集団」を含む文章は、「人々が中間的な集団から解放されることを「個人化(individualization)」と呼ぶならば」となっています。これを、「国家」に置き換えてみると、

 「人々が国家から解放されることを「個人化(individualization)」と呼ぶならば」

となる。まあ、それなりに意味が通じますね。では、「社会」を含む文章を見てみます。前にみた、「グローバル化=個人化は今日,社会の各所に多大な影響を及ぼしつつある。」という文章です。これも、「国家」に置き換えてみましょう。すると、

 「グローバル化=個人化は今日、国家の各所に多大な影響を及ぼしつつある。」

となります。特に違和感はありませんね。さらに、「コミュニティー」を含む文章を見てみましょう。「例えば家族や地域のコミュニティーは,その中で恒常的な解体圧力にさらされている。」という文章です。 「国家」に置き換えると、

 「例えば家族や地域の国家は、その中で恒常的な解体圧力にさらされている。」

となります。これは、「家族や地域の国家」という部分がおかしいですね。そこで、「家族や地域の」を削除してみましょう。

 「例えば、国家は、その中で恒常的な解体圧力にさらされている。」

 これは特に違和感がない。ここまで来ると、何となくこれでいけそうだな、という感触が生じます(※)。

※ 「国家」を「中間的な集団」や「家族や地域のコミュニティー」よりは上位の組織と考えて、「国家内部の中間的な集団」、「国家内部の家族や地域のコミュニティー」という言葉で置き換えるということも十分考えられます。その場合は、「例えば国家内部の家族や地域は、その中で恒常的な解体圧力にさらされている。」ことの「具体的な事象」(例えば、貧富の格差による中間層の希薄化、核家族化、アウトソーシング化(家族や地域が担っていた機能を企業や行政のサービスが担うようになること)を挙げ、それを「家族や地域のコミュニティーのような中間的な集団の空洞化」と置き換え、これをもって国家の置かれている地位として記述することになります。より高度な解法になりますが、一度考えてみるとよいでしょう。

 


 さて、ここで、前に検討した「グローバル化=個人化の進行」と、その「具体的な事象」をもう一度確認しておきましょう。

 「人々が中間的な集団から解放されるという個人化=グローバル化は、インターネットの普及によって(地理的・空間的に)遠方にいる人々と手軽にコミュニケーションを取ることが可能になってきている一方で、(地理的・空間的に)身近な人々との関係がより疎遠になる傾向という点で軌を一にして進行している。」

「グローバル化=個人化の進行は、今日、社会の各所に多大な影響を及ぼしつつある。例えば、家族や地域のコミュニティーは、その中で恒常的な解体圧力にさらされている。」

 上記のうち、「中間的な集団」、「社会」、「家族や地域のコミュニティー」を、「国家」に置き換えるのでした。すると、

 「グローバル化=人々が国家から解放されるという個人化は、インターネットの普及によって(地理的・空間的に)遠方にいる人々と手軽にコミュニケーションを取ることが可能になってきている一方で、(地理的・空間的に)身近な人々との関係がより疎遠になる傾向という点で軌を一にして進行している。」

「グローバル化=個人化の進行は、今日、国家の各所に多大な影響を及ぼしつつある。例えば、国家は、その中で恒常的な解体圧力にさらされている。」

ということになるでしょう。そして、「例えば、国家は、その中で恒常的な解体圧力にさらされている。」に当たるような「具体的な事象」として、「考査委員が想定していそうな最も無難なもの」を予測します。2つの方向性があり得るように思います。1つは、「中間的な集団」を国家に置き換えたことに着目する方向性です。つまり、国家を中間的な集団とみる場合、より上位の集団は、国家統合体を指すことになります。ですから、国家が解体して統合されるというようなものを挙げればよい。考査委員が想定しそうなものは、EUでしょう。答案用紙に書く場合には、

 「例えば、EUのように国家より上位の統合体が組織されるなど、国家は、その中で恒常的な解体圧力にさらされている。」

というような感じになるわけです。なお、ここで、「しかし、必ずしもそのようには言えないと私は考える。国家統合の動きはインターネットが普及する以前から存在していたし、インターネットの普及は、例えば、英国のEU離脱やスコットランド独立のような、むしろ逆の動きの原動力ともなっているからである。そうだとすると〜」などと、自分が言いたいことを書き始めてはいけません。そのようなことをやってしまうと、元の文章からどんどん離れていってしまいます。
 もう1つの方向性は、「インターネットの普及によって(地理的・空間的に)遠方にいる人々と手軽にコミュニケーションを取ることが可能になってきている一方で、(地理的・空間的に)身近な人々との関係がより疎遠になる傾向」や「人々が国家から解放される」というようなことをヒントに、個人が国家を離れて勝手なことをするようになる、と考える方向性です。具体的な事象としては、イスラム国に代表されるテロ組織の活動などが、考査委員が想定しそうな無難な例です。答案用紙に書く場合には、

 「例えば、イスラム国に代表されるテロ組織の活動のように、個人が国家の枠を超えて組織され、国家と対立する行動をとるなど、国家は、その中で恒常的な解体圧力にさらされている。」

というような感じになるでしょう(なお、「国家の枠を超えて」とあるのに、「イスラム国」の語が「国」を含んでいてややこしいと感じたら、「かつてのアルカイダ」という表現にすればよいでしょう。)。これを、「「国家」は〜の立場に置かれている。」の形式に書き換えると、

 「グローバル化=個人化の進行によって、今日、国家は、その各所に多大な影響を及ぼされつつある地位に置かれている。例えば、EUのように国家より上位の統合体が組織されるなど、(イスラム国に代表されるテロ組織の活動のように、個人が国家の枠を超えて組織され、国家と対立する行動をとるなど、)国家は、その中で恒常的な解体圧力にさらされる立場に置かれている。」

ということになります。これで、ほぼ解答が完成しました。
 後は、上記を解答用紙に書き込む順番を整理するだけです。設問の、「グローバル化=個人化が進行する中で」の中身を説明するところから書き出すのが一番自然でしょう。

 「グローバル化=人々が国家から解放されるという個人化は、インターネットの普及によって(地理的・空間的に)遠方にいる人々と手軽にコミュニケーションを取ることが可能になってきている一方で、(地理的・空間的に)身近な人々との関係がより疎遠になる傾向という点で軌を一にして進行している。」
 そのような「グローバル化=個人化の進行によって、今日、国家は、その各所に多大な影響を及ぼされつつある地位に置かれている。例えば、EUのように国家より上位の統合体が組織されるなど、(イスラム国に代表されるテロ組織の活動のように、個人が国家の枠を超えて組織され、国家と対立する行動をとるなど、)国家は、その中で恒常的な解体圧力にさらされる立場に置かれている。」

 これが、設問2の解答です。

4.上記の解答をまとめたものが、下記の参考答案です。
 このように、一般教養は、教養に基づく思考が問われていないという意味では、「ほとんど頭を使わない。」といえます。もっとも、設問の文章をうまく文法法則に沿って整理するという面では高度なパズルでもあり、その意味では、「非常に頭を使う。」ともいえます。要は、頭の使い方が、「一般教養」という科目の名称から想像されるものとは随分違う、ということです。このような出題になってしまうのは、大学入試の現代文と同じ理由に基づきます。すなわち、客観的な採点をしなければならないからです。客観的な採点をするためには、客観的・形式的に解答が導けるものでなければならないだから、このような出題となり、それに対する解法も、上記のようなものとなるのです。しかし、原文を書く小説家等は、実は、そこまで厳密な文法法則を意識して書いていなかったりします。そのために、「出題された文章を書いた筆者本人が解答すると、正解できない。」という面白い現象が生じるわけですね。このことからも、「自分の頭で文章の本質を理解し、自分の言葉で答案を書く」と、ほとんど点が取れないことがわかるでしょう。多くの受験生が、このことを知らないのです。
 同時に、上記のような思考方法は、単なる予備試験の一般教養科目のためだけの受験テクニックというわけではなく、判例の原文などの法律文を読む際にも用いることのできる方法論である、ということも、指摘しておきたいと思います。上記のように、置換えや、読替え、指示語の指す対象の特定ができるようになると、判例も正しく読めるようになります。判例の規範も、より正確な、洗練されたものを用意することができるようになる。予備校のテキストだけでなく、学者の体系書の中にも、判例の規範の示し方が上記のような方法論を適切に用いていないために、不正確になっているとみられるものがあります。ここで示したような基本的な文章の読み方を理解した上で、判決原文と、テキスト等の判旨や規範を対照してみるのも、面白いのではないかと思います。

 

【参考答案】

第1.設問1

 学問における専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割は、「知識」と「情報」を概念的に区分する役割であり、例えば、法律・医療・会計などの領域では、一定の条件下で知識を独占的に運用し続けるという役割である。
 研究者は、上記の役割を果たすことにより、「斯界の権威」として学問的知識の生産や流通にコミットし続けている。すなわち、学問的知識は、「知識」と「情報」を概念的に区分することによって生み出される。
 したがって、一般に「学問的知識」が「学問的知識」であるためには、「知識」と「情報」が、研究者によって概念的に区分されることが求められる。

第2.設問2

 グローバル化=人々が国家から解放されるという個人化は、インターネットの普及によって(地理的・空間的に)遠方にいる人々と手軽にコミュニケーションを取ることが可能になってきている一方で、(地理的・空間的に)身近な人々との関係がより疎遠になる傾向という点で軌を一にして進行している。
 そのようなグローバル化=個人化の進行によって、今日、国家は、その各所に多大な影響を及ぼされつつある地位に置かれている。例えば、EUのように国家より上位の統合体が組織されるなど、(イスラム国に代表されるテロ組織の活動のように、個人が国家の枠を超えて組織され、国家と対立する行動をとるなど、)国家は、その中で恒常的な解体圧力にさらされる立場に置かれている。

以上

posted by studyweb5 at 05:25| 予備試験論文式過去問関係 | 更新情報をチェックする

2016年08月16日

平成28年予備試験論文式刑事実務基礎参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験における合格ラインは、平成25年、26年は、「一応の水準」の下限でした。昨年は、「一応の水準」の真ん中より少し下の辺りになっています(平成27年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。当サイトでは、この一応の水準の真ん中を超える十分条件として、

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つを提示しています。
 もっとも、上記のことが言えるのは、ほとんどの科目が、規範→当てはめの連続で処理できる事例処理型であるためです。近時の刑事実務基礎は、民事実務基礎と同様の傾向の出題となっており、事例処理型の問題ではありません。設問の数が多く、(知識さえあれば)それぞれの設問に対する「正解」が比較的明確で、一問一答式の問題に近い。そのため、上記(1)から(3)までを守るというような「書き方」によって合否が分かれる、というようなものではありません。端的に、「正解」を書いたかどうか単純に、それだけで差が付くのです。ですから、刑事実務基礎に関しても、民事実務基礎と同様、成績が悪かったのであれば、それは単純に勉強不足(知識不足)であったと考えてよいでしょう。実務基礎は、民事・刑事に共通して、論文試験の特徴である、「がむしゃらに勉強量を増やしても成績が伸びない。」という現象は、生じにくく、勉強量が素直に成績に反映されやすい科目といえます。ただし、民事実務基礎に関しては、主として要件事実を学習すればよいのに対し、刑事実務基礎は、学習しようとしても、なかなかその対象を絞りにくい刑事手続から事実認定まで、対象が幅広いからです。この点が、民事と刑事の重要な差であると思います。そのため、民事のように重点的に勉強しようとしても、なかなか効率的な学習が難しいのです。とはいえ、刑法・刑訴の基本的な知識(ただし、刑訴に関しては、規則等の細かい条文も把握しておく必要があります。)と、刑事事実認定の基本的な考え方(間接事実による推認の仕方、直接証拠型と間接事実型の推認構造の違いなど)を把握していれば、十分合格ラインに達します。ですから、刑事実務基礎に関しては、普段の刑訴の学習の際に、手続の条文を規則まできちんと引くようにする。そして、事実認定に関しては、過去問に出題されたようなものは、しっかりマスターするその程度の対策で、十分なのだろうと思います。
 以上のようなことから、参考答案は、他の科目ほど特徴的なものとはなっていませんほぼ模範解答のイメージに近いものとなっています。

2.今年の刑事実務基礎は、上記の傾向どおりの出題となっています。特に、今年は設問の数が多いことに注意が必要です。小問も含めると、設問1、設問2(1)、設問2(2)、設問3、設問4(1)、設問4(2)、設問5(1)、設問5(2)と、実に8つの問いがある。これらについて、1つ1つ丁寧に解答していたら、あっという間に答案用紙がパンクします。一問一答式のように、端的に解答するのが、形式面でのポイントです。

3.内容面について、簡単にポイントとなる部分を説明します。
 まず、設問1です。これは、大体ほとんどの人が、同じようなことを書くでしょう。差が付くのは、「認容がないので未必の故意もない。」ことを指摘できるかです。目を閉じて撃っているとしても、玄関付近を狙って撃っていることは認識しています。玄関先に撃てば、偶然人に当たる可能性があるわけですから、Aにはその可能性の認識はあった。しかし、脅すつもりだったので、人の死の認容がない、ということですね。「殺意の概念に言及しつつ」とあるのは、この点を問う趣旨なのでしょう。これは、刑法の基本的な知識があれば解答できる問題です。
 設問2の小問(1)は、指示説明と現場供述の区別です。ポイントは、証拠AのW供述の存在です。本問の場合、証拠AのW供述の信用性が肯定されれば、犯罪事実の存在は認定できます。後は、他の証拠により犯人とAの同一性を認定できれば、有罪認定が可能です。ですから、証拠Bの実況見分調書は、現場の客観的状況が、W供述と整合し、矛盾がないということを示すためのもの、すなわち、W供述の信用性を補強する補助証拠ということになるのです。V役の警察官Yを立たせたのは、実況見分の結果明らかになった弾丸の玄関ドア着弾位置にVの体格と似た警察官Yを立たせると、ちょうど胸部後方に当たりますよ、だから、W供述と矛盾なく整合していますよね、ということを示すためです。㋐は、そのような趣旨で警察官Yを立たせたのですよ、という動機を示しています。また、犯人役の警察官Zを立たせたのは、証拠AのW供述どおりの状況を再現した場合に、弾丸の玄関ドア着弾位置、門扉の高さ、玄関ドアの位置等との関係で、客観的状況と矛盾がないかを確かめるためです。例えば、門扉の高さは約1.3メートルで、弾丸の玄関ドア着弾位置は、玄関ドア下端から上方へ約1.3メートルから約1.4メートルの範囲で、Zが構えた銃口は門扉の上端から約10センチメートル上方だったというわけですから、Wの供述どおりの犯行が行われたとして矛盾なく整合することがわかります。㋑は、このことを示すためにZを立たせますよ、という動機を示すものです。㋐も㋑も、証拠AのW供述に含まれた内容ですから、㋐及び㋑によって犯罪事実を立証しようとする趣旨ではありません。証拠AのW供述よりも、㋐と㋑はより位置関係が詳細ではないか、と思うかもしれません。しかし、犯罪事実の認定に当たっては、構成要件該当性を判断できる程度に認定できれば足り、詳細にどの位置に立っていたかまでは立証する必要はありません。ですから、証拠AのW供述程度に具体的に認定できれば、十分有罪認定が可能なのです(最判昭23・7・22最判昭24・2・10最決昭58・5・6等参照)。ですから、㋐及び㋑は、現場供述には当たらない。このことを、コンパクトに指摘する必要があります。類似のケースは、平成21年司法試験刑事系第2問で出題されています。これを正しく理解していれば、本問は難しくなかったでしょう。これは刑事実務基礎に限ったことではなく、他の科目にも言えることですが、予備試験と司法試験は類似の論点、問題意識が問われることが多いですから、予備試験の受験生も、司法試験の過去問は全て解いておくべきです。小問(2)は、端的に、真正作成供述(刑訴法321条3項)のための証人尋問を請求すべきことを指摘すれば足ります。ここでのポイントは、「実況見分調書の伝聞例外」の論点を「論証」しないことです。設問2は、刑訴の基本的な知識があれば、十分解答可能な問題です。
 設問3は、刑訴法316条の22を引けるかどうか、その上で、Cの証人尋問、証拠Kの開示請求という問題文の事情と結び付けて説明できるかがポイントです。特に知識がなくても、現場で条文にたどり着けば、何とか解答できるでしょう。ただ、全く条文を引いたことがない人と、事前に何度か条文を読んだことのある人とでは、スピードが全く違います。こういった条文は、準用条文も含めて、普段の刑訴の学習の際に、意識して確認し、目を通しておく必要があるのです。普段からそのような学習をしていれば、これは十分解答可能な問題です。
 設問4は、小問(1)で間接事実型の推認過程を解答し、小問(2)では、それが直接証拠型になる、ということを解答すれば足ります。小問(1)は、端的に解答するのが難しいですから、ここはそれなりに分量を割いて書くことになるでしょう。小問(2)は、証拠Lも間接証拠ですから、「直接証拠型」というと違和感があるかもしれませんが、「Aが犯行計画をメモ帳に記載した。」という間接事実を、証拠I及びJから推認される再間接事実によって認定するのではなく、直接に証拠Lによって推認する場合ですから、構造としては直接証拠型です。間接事実型か直接証拠型かというのは、刑法や刑訴の学習ではフォローできないところではありますが、事実認定の基本的な知識ですから、過去問で事実認定の問題を解く過程で、習得できる内容です。ですから、特別な対策をしなくても、十分解答可能ではないかと思います。
 設問5小問(1)は、刑訴規則199条の3第3項を引けるかどうかがポイントです。これも、設問3同様、知識がなくても探せば発見できるかもしれませんが、一度条文を確認したことのある人と比べると、スピードに大きな違いが生じます。普段の刑訴の学習の際に、意識して手続の条文を引いたかどうかで差が付くところです。小問(2)は、実戦的には、刑訴規則199条の10又は199条の11を引ければ合格ラインです。実務の運用としては、ここは安易に199条の10で裁判長の許可が不要であるとされることが多いところです。また、自己矛盾供述については、伝聞法則の適用がない(刑訴法328条)ことから、自己矛盾供述を内容とする調書の内容を示すことも、199条の10によって許される、とする運用が比較的普通に行われているように思います。そのことからすれば、本問で、Cの署名押印部分のみならず、調書の内容を示すこともできることになるでしょう。しかし、このような運用は、普通の条文解釈からすると、理解が難しいように思います。書面等の提示について、裁判長の許可を要しない場合(199条の10)と、裁判長の許可を要する場合(199条の11)の違いは、前者が、証拠物の関連性に係る事項を立証対象とするに過ぎないので、証人の証言内容に不当な影響が生じるおそれがないのに対し、後者は、証人の証言内容を変更させるために書面等を提示する場合なので、その証言内容に不当な影響が生じるおそれがある(199条の11第2項参照)という点にあります。そうだとすると、調書の署名押印部分を提示するに過ぎない場合であっても、その調書の関連性を立証する趣旨ではなく、証人の記憶を喚起させてその証言内容を変更させようとするときは、そこに不当な影響が生じるおそれがあるわけですから、裁判長の許可を要する場合として199条の11によるべきであると考えるのが素直です。その意味では、本問を199条の11で処理すべきとする解答も、誤りとはいえないのではないか、という感じがします。仮に、199条の11で処理する場合には、同条1項括弧書きとの関係が問題となります。これについては、同条括弧書きは調書の中身を示すことが類型的に証人の供述に不当な影響を及ぼすと考えられることから、特に除外した趣旨の規定であるとして、署名押印部分のみを示す場合には、類型的に証人の供述に不当な影響を及ぼすとはいえない(不当な影響を及ぼす場合が全くないとはいえないが、それは個別のケースで裁判長が許可をするに当たり影響の有無を具体的に判断すれば足りる。)ので、括弧書きの適用はない、と考えることになるでしょう。なお、実務上安易に199条の10が使われていることが理解できる例として、最決平25・2・26があります。ここでは詳細な説明は避けますが、原審の東京高裁が199条の10のみを根拠として提示を許容したのに対し、最高裁が199条の11をも摘示している点に注意が必要です。これは、証人の証言内容に影響を及ぼす場合には、199条の11によるべきであるとする考え方と整合的です。いずれにせよ、この点は、合否を左右するようなものではない、と考えておいてよいと思います。現場で上記のいずれかの条文を引くことは、ある程度事前に条文に目を通しておけば可能でしょう。その意味では、本問もそこまで解答困難な問題ではなかったといえます。
 以上のように、本問は、冷静に対処すれば、個々の設問はそれほど難しくありませんしかし、2日目の試験であり、多くの人は先に民事実務基礎を解いた状態で、疲労しているということ、設問の数が多く、個々の設問をじっくり考える時間がないこと、一見すると相当高度なことを聞いているようにも見えることなどから、現場で解くとかなりの難問になるのです。とはいえ、普段の学習で対処できない内容ではないことも確かです。「実務家向けの高度な書籍を読まないと対処できない。」とか、「一部の上位ローの実務家教員の講義を聞かないと解けない。」などと誤解しないことが重要です。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.殺意とは、人を死亡させる認識及び認容をいう。

2.本件では、Aは、乙組事務所玄関付近を狙って拳銃を3発撃った際、目を閉じて撃ったため人が事務所から出てきたことに気付かなかった。したがって、人を死亡させる確定的な認識がないことは明らかである。
 また、Aは、拳銃を撃って乙組の連中を脅そうと思っただけであり、人を死亡させても構わないという認容がないから、未必的な殺意も認められない。

3.よって、Aの殺意は、認められない。

第2.設問2

1.小問(1)

(1)伝聞法則(刑訴法320条1項)が適用される現場供述であるというためには、説明の内容が証拠となることを要する。

(2)本件で、犯罪事実の存在を立証する証拠は、直接証拠である証拠AのW供述である。証拠Bは、犯行現場の客観的状況が、W供述と矛盾せず、整合すること、すなわち、W供述の信用性を補強する補助証拠に過ぎない。
 そして、証拠Aと下線部㋐及び㋑を対照すれば、下線部㋐は、V役の警察官Yを立たせた動機を示し、下線部㋑は、犯人役の警察官Zを立たせ、模擬拳銃を構えさせた動機を示すものであって、その説明の内容を証拠とするものではないことが明らかである。

(3)よって、検察官は、下線部㋐及び㋑は現場供述に当たらない旨の意見を述べるべきである。

2.小問(2)

 検察官は、証拠Bの実況見分調書の作成者の証人尋問を請求すべきである(刑訴法321条3項)。

第3.設問3

 予定主張の変更(刑訴法316条の22)を行うべきである。
 具体的には、裁判所及び検察官に対し、従来の予定主張に代えてAが犯行当時C方にいた事実を主張する旨を明らかにし(同条1項)、裁判所に対し、速やかにCの証人尋問を請求し(同条2項)、検察官に対し、変更後の主張に係る主張関連証拠として証拠KのCの警察官調書の開示を請求すべきである(同条5項、316条の20)。

第4.設問4

1.小問(1)

(1)証拠Iから、証拠Jのメモ帳がA方に存在した事実が認定できる。また、証拠Jのメモ帳の表紙の裏には、AとCが一緒に写っている写真シールが貼付されていた。このことは、同メモ帳は、Aが私的に用いるものであったことを示す。したがって、上記各事実は、同メモ帳を記載した者がAであることを一定程度推認させる。

(2)証拠Jのメモ帳の2頁目に記載されたもののうち、「11/1」の部分は、犯行日時である平成27年11月1日を指し、「J町1−1−3」の部分は、乙組事務所の住所であるH県I市J町1丁目1番3号を指し、地図の記載はその周辺の地図を指すと考えて矛盾がない。犯行日及び犯行場所を犯行とは無関係に偶然メモ帳に記載することは考えにくいから、上記各記載は、犯行計画を記載したものであると合理的に推認できる。

(3)上記(1)及び(2)並びに上記(2)の各記載が手書きであったことから、Aが、証拠Jのメモ帳に犯行計画を記載したことを推認できる。
 そして、犯行に無関係の者が、犯行計画を偶然メモ帳に記載することは考えにくいから、Aが犯行計画を記載した事実は、Aが犯行計画を立案したこと、ひいては、Aが犯人であることを相当程度推認させる。

(4)以上の推認過程により、証拠I及びJから、「Aが犯人である事実」が推認される。

2.小問(2)

 証拠Lは、Aが、証拠Jのメモ帳に犯行計画を記載したという間接事実を直接に推認させる間接証拠である。したがって、これを併せて考慮する場合には、上記事実を推認するに当たり、証拠I及び証拠Jから推認される再間接事実による推認を経由しない点で、推認過程に違いが生じる。この場合、証拠I及び証拠Jは、証拠Lの信用性を補強する補助事実を推認させる補助証拠として機能する。

第5.設問5

1.小問(1)

(1)誘導尋問は、刑訴規則199条の3第3項ただし書の場合を除き、主尋問においてすることができない(同項本文)。

ア.本件では、検察官の質問中、「証人が、平成27年11月1日に、被告人を乗せて車を運転した」とする部分は、Aのアリバイを否定することを前提とするから、上記質問は、誘導尋問である。

イ.Bの証人尋問は、裁判所が検察官請求証拠である証拠Eの採用を留保して実施することとされたのであるから、検察官の尋問は主尋問である(同条1項)。

ウ.同条3項ただし書各号に当たる事実は見当たらない。

(2)以上から、弁護人の異議には理由がある。

(3)よって、裁判所は、検察官に対し、質問の変更を命ずる決定をすべきである(刑訴法309条3項、同規則205条の6第1項)。

2.小問(2)

(1)検察官は裁判長の許可を求めていないから、刑訴規則199条の11に基づく提示としては許されない。

(2)では、刑訴規則199条の10に基づく提示として許されるか。

ア.検察官が、Cに示そうとしているのは、証拠KのCの署名押印部分である。したがって、書面の成立について尋問する場合(同条1項)に当たる。

イ.検察官の反対尋問において、Cは、「警察官が調書を作成したかどうかも覚えていない。」旨証言したから、提示の必要(同項)がある。

ウ.よって、あらかじめ弁護人に証拠Kを閲覧する機会が与えられ、又は弁護人の異議がない場合(同条2項)には、刑訴規則199条の10に基づく提示として許される。

以上

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2016年08月12日

平成28年予備試験論文式民事実務基礎参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験における合格ラインは、平成25年、26年は、「一応の水準」の下限でした。昨年は、「一応の水準」の真ん中より少し下の辺りになっています(平成27年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。当サイトでは、この一応の水準の真ん中を超える十分条件として、

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つを提示しています。
 もっとも、上記のことが言えるのは、ほとんどの科目が、規範→当てはめの連続で処理できる事例処理型であるためです。民事実務基礎は、そのような事例処理型の問題ではありません。民事実務基礎の特徴は、設問の数が多く、それぞれの設問に対する「正解」が比較的明確で、一問一答式の問題に近いという点にあります。そのため、上記(1)から(3)までを守るというような「書き方」によって合否が分かれる、というようなものではありません。端的に、「正解」を書いたかどうか単純に、それだけで差が付くのです。ですから、民事実務基礎に関しては、成績が悪かったのであれば、それは単純に勉強不足であったと考えてよいでしょう。その意味では、論文試験の特徴である、「がむしゃらに勉強量を増やしても成績が伸びない。」という現象は、民事実務基礎に関しては、生じにくい。逆に言えば、勉強量が素直に成績に反映されやすい科目ということができるでしょう。
 以上のようなことから、参考答案は、他の科目ほど特徴的なものとはなっていませんほぼ模範解答のイメージに近いものとなっています。

2.今年の民事実務基礎の問題は、上記のような例年の傾向がそのまま当てはまるものとなっています。単純に、知識で差が付く問題であったといえるでしょう。難易度としては、問題研究要件事実だけではやや足りず、「要件事実論30講」や、「完全講義 民事裁判実務の基礎〈上巻〉」くらいのレベルが要求されています。逆に言えば、その程度のレベルをマスターしていれば、非常に易しく感じるはずです。上記のとおり、民事実務基礎は勉強量が素直に成績に反映されやすいので、できる限り重点的に学習したいところです。
 また、設問1小問(1)では、保全の手段が問われました。執行・保全については、どのような場合にどのような手段があるか、それはどうしてか、という程度のことは、条文と共に把握しておきたいところですし、逆に、それ以上に細かい論点については、学習する必要がありません。口述試験でも、同程度の水準が要求されています。
 設問4では、一方当事者の立場からの事実認定が問われています。これは毎年問われている設問で、ポイントは、確実性の高い事実、証拠を重視して検討するということです。本問で言えば、本件念書の存在は、確実性の高い証拠です。そして、XYの供述については、両者が一致している部分を重視する。そのような基本的な考え方を踏まえた認定がされているかどうかで、差が付くでしょう。そして、設問4は、最後の設問です。最後の設問は、時間や紙幅を残しておく必要がありませんから、設問4に辿り着いた時点で余裕があれば、事実の評価を積極的にやるべきです。民事実務基礎は、端的に解答するタイプの設問が多いので、時間や紙幅が足りなくなるということは、あまりないはずです。ですから、設問4は、できる限り事実の評価までしっかりやりたいところです。そのため、参考答案でも、事実の評価を入れています
 今年は、法曹倫理からの出題がありませんでした。しかし、再び出題される可能性は十分あります。ただ、基本書等を読んで勉強するようなものではありません。直前に、弁護士職務基本規程と弁護士法を軽く一読して、どのような条文がどの辺りにあるか、ということを、簡単に把握しておけば足りるでしょう。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)採るべき法的手段

 処分禁止の仮処分及び占有移転禁止の仮処分(民保23条1項、24条、25条の2第1項括弧書き)の申立て(同法2条1項)である。

(2)理由

 上記各法的手段を講じない場合には、口頭弁論終結前の承継人及び固有の抗弁を有する口頭弁論終結後の承継人に対して、本件訴訟の確定判決を債務名義(民執22条1号)とする承継執行文の付与を受けられない(民訴法115条1項3号、民執27条2項、23条1項3号)ことから、上記各法的手段を講ずることにより、甲土地について処分禁止の登記(民保53条1項)を経ることによって、登記名義の変更があってもこれを抹消し(同法58条2項、不登法111条)、新たな権利の設定があってもこれをXに対抗できないものとする(民保58条1項)とともに、甲土地に占有移転があっても、新占有者に対し承継執行文の付与を受けられるようにする(同法62条。なお民執27条3項1号も参照。)ことが必要となるからである。

2.小問(2)

 被告は、原告に対し、甲土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
 被告は、原告に対し、甲土地を明け渡せ。

3.小問(3)

(1)イについて

 Aは、Xに対し、平成27年6月1日、甲土地を代金1000万円で売った。

(2)ウについて

 Yは、甲土地を占有している。

第2.設問2

1.主張すべき抗弁

 対抗要件具備による所有権喪失の抗弁である。

2.理由

 Yが甲土地の対抗要件である登記(民法177条)を具備することによって確定的に甲土地所有権を取得し、その反射としてXの甲土地所有権の取得が否定される結果、請求原因事実による所有権移転登記請求権及び甲土地明渡請求権の発生が障害されるからである。

第3.設問3

1.エに入る具体的事実

 Yは、本件第2売買契約の際、本件第1売買契約を知っていた。

2.理由

 背信的悪意者は「第三者」(民法177条)に当たらない(判例)。したがって、Yが背信的悪意者に当たる場合には、抗弁事実であるYの登記具備による効果の発生が障害される。そして、オの事実としてYの背信性の評価根拠事実が摘示されているから、エに入る具体的事実は、Yの悪意に当たる事実であり、上記1のとおりとなる。

第4.設問4

1.本件念書には、本件第2売買契約締結の日である平成27年8月1日を作成日とし、Yが、Aに対し、甲土地の転売利益の3割を謝礼として支払う旨の記載がある。本件念書の成立は、弁護士Qも認めている。また、X及びYの供述においても、AとYのどちらが持ちかけたかという点は異なるものの、AY間において、高く転売できたときは、YがAに謝礼を支払う旨の合意をし、本件念書を作成したとする点で一致する。このことから、本件第2売買契約の際、Yは転売目的を有していたことが認められる。

2.同年9月1日に、XがY宅を訪れた際、Yが、2000万円という金額を示して、Xに買取りの打診をしたことは、Yも認めている。また、当時の甲土地の時価が1000万円程度であったことにつき、XYの供述は一致している。
 本件第2売買契約からわずか1か月後に、Yが、Xに対し、当時の時価の倍の代金を提示して買取りを打診したことは、本件第2売買契約の際、Xに対して甲土地を高値で買い取らせる目的を有していたことを推認させる事実である。

3.Yが建築業者で、現在、甲土地を資材置場として使用していることについては、XYの供述が一致している。このことは、Yは、不動産業者のように土地の転売を業としておらず、甲土地を転売目的で購入したものではないという認定を導き得る事実といえる。
 しかし、AがYの知人であり、本件念書が手書きであることからも、業としての売買ではないことがうかがわれることから、Yが建築業者であることと転売目的とは矛盾しない。また、X供述によると、置かれている資材は大した分量ではなく、それ以外に運搬用のトラックが2台止まっているに過ぎないから、転売先が決まれば、上記資材及びトラックを移動させることは容易であると考えられる以上、転売目的と矛盾しない。

4.以上から、Yは、本件第2売買契約の際、Xに対して甲土地を高値で買い取らせる目的を有していたことが認められる。

以上

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2016年08月06日

平成28年予備試験論文式刑訴法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験における合格ラインは、平成25年、26年は、「一応の水準」の下限でした。昨年は、「一応の水準」の真ん中より少し下の辺りになっています(平成27年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。この水準を超えるための十分条件といえるのが、

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記が当然にできているという前提の下で、優秀・良好のレベルに達するために必要となる場合があるに過ぎません。また、実際には、上記の3つを守っただけで、優に良好の上位くらいの水準になってしまうこともあります。
 にもかかわらず、多くの人が、上記優秀・良好レベルの事柄を過度に重視しているように思います。現場思考で応用論点を拾いに行ったり、趣旨や本質から論じようとしたり、事実に丁寧に評価を付そうと努力するあまり、基本論点を落としてしまったり、規範を正確に示すことを怠っていきなり当てはめようとしたり、問題文中の事実をきちんと摘示することを怠ってしまい、結果として不良の水準に落ちてしまっているというのが現状です。

2.その原因としては、多くの人が、あまりにも上位過ぎる再現答案を参考にしようとしてしまっていることがあると思います。
 とはいえ、合格ラインギリギリの人の再現答案には、解答に不要なことや誤った記述などが散見されるため、参考にすることが難しいというのも事実です。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作ってみてはどうか、ということを考えました。

3.参考答案は、上記のようなコンセプトに基づいています。「本問で基本論点はどれですか」と問えば、多くの人が指摘できるでしょう。「その論点について解決するための規範は何ですか」と問えば、事前にきちんと準備している人であれば、多くの人が答えられるでしょう。「その規範に当てはまる事実は問題文中のどこですか、マーカーを引いてみてください」と問えば、多くの人が正確に示すことができるものです。下記の参考答案は、いわば、それを繋ぎ合わせただけの答案です。
 それなりの実力のある人が見ると、「何だ肝心なことが書いてないじゃないか」、「一言評価を足せば良い答案になるのに」と思うでしょう。優秀・良好レベルの答案を書いて合格できる人は、それでよいのです。しかし、合格答案を書けない人は、むしろ、「肝心なこと」を書こうとするあまり、最低限必要な基本論点、規範、事実の摘示を怠ってしまっているという点に気付くべきでしょう。普段の勉強で規範を覚えるのは、ある意味つまらない作業です。本試験の現場で、事実を問題文から丁寧に引用して答案に書き写すのは、バカバカしいとも思える作業です。しかし、そういう一見するとどうでもよさそうなことが、合否を分けているのが現実なのです。規範が正確でないと、明らかに損をしています。また、事実を引いているつもりでも、雑に要約してしまっているために、問題文のどの事実を拾っているのか不明であったり、事実を基礎にしないでいきなり評価から入っているように読める答案が多いのです。そういう答案を書いている人は、自分はきちんと書いたつもりになっているのに、点が伸びない。そういう結果になってしまっています。
 参考答案は、やや極端な形で、大前提として抑えなければならない水準を示しています。合格するには、この程度なら確実に書ける、という実力をつけなければなりません。そのためには、規範を正確に覚える必要があるとともに、当てはめの事実を丁寧に摘示する筆力を身につける必要があるでしょう。これは、普段の学習で鍛えていくことになります。
 この水準をクリアした上で、さらに問題文の引用を上手に要約しつつ、応用論点にコンパクトに触れたり、趣旨・本質に遡って論述したり、当てはめの評価を足すことができれば、さらに上位が狙えるでしょう。

4.今年の刑訴法は、誰の目から見ても論点が明らかで、しかも、その数が少ないことが特徴です。このような問題を見ると、「今年は、簡単だ、よかった。」と安心してしまう人がいます。しかし、実際には、その逆で、警戒する必要があるのです。本問のような問題の場合、多くの人が論点を外さないので、上記の(1)では差が付きません。そうなると、上記(2)と(3)ができているかどうかが、決定的に重要になってくるのです。これができているかどうかで、極端に差が付いてしまう。「自分は論点を落とさなかったから、最低でもCくらいだろう。」と思っていても、実際にはFだった、ということが、普通に生じます。参考答案(その1)程度に規範を示しているか、事実を摘示できているか、確認してみるとよいでしょう。
 また、本問のような問題の場合、「これは実質一行問題(「再逮捕・再勾留は認められるか。」のような問題文が一行の問題をいいます。)ですよ!こういうときは丁寧に論証できたかで差が付きます!趣旨に遡って丁寧に論じてくださいね!」などと説明されがちです。当サイトは、現在の予備試験ではそれは誤っていると考えています。かつての旧司法試験時代に、基本書の各項目の最初に載っているような趣旨・本質に異常な配点が置かれたのは、「若手を受からせるため」でした。勉強期間の長い高齢受験生は、その先の応用的なことをどんどん書いて、原則論を省略しがちであるのに対し、勉強時間の短い若手は原則論しか書けないので、原則論に異常な配点を置くことによって、若手を有利にしたのです。しかし、趣旨から書く形式の「論点ブロックカード」や「論証集」が出回るようになると、高齢受験生もそれを覚えて書くので、「趣旨から書いたか」では、若手有利にするのが難しくなりました

 

衆院法務委員会平成03年03月19日鈴木重勝参考人の意見より引用。太字強調は筆者。)

○鈴木参考人 早稲田大学の鈴木と申します。・・・まず、司法試験が過酷だとか異常だとか言われるのは、本当に私ども身にしみて感じているのでありますけれども、何といっても五年も六年も受験勉強しなければ受からないということが、ひどいということよりも、私どもとしますと、本当にできる連中がかなり大勢いまして、それが横道にそれていかざるを得ないというところの方が一番深刻だったのです。
 だんだん申し上げますけれども、初めは試験問題の改革で何とかできないかということで司法試験管理委員会から私ども言われまして、本当はそれを言われるまでもなく私ども常々感じていましたから、何とか改善できないかということで、出題を、必ずしも知識の有無とか量によって左右されるような問題でなく、また採点結果もそれによって左右されないような問題をやったのですけれども、これは先生方ちょっとお考えいただけばわかるのですけれども、例えば三年生と四年生がいましてどっちがよくできるかといえば、これはもう四年生の方ができるに決まっているのです今度は四年生と三年も浪人した者とどっちができるかといえば、こっちの方ができるに決まっているのです。ですから、逆に言いますと、在学生でも十分な解答ができると思うような問題を一生懸命つくりましても、そうすると、それはその上の方の連中ができるに決まっておる。しかも、単にできるのじゃなくて、公平に見ましても緻密で大変行き届いた答案をつくり上げます。表現も的確です。ですから、これはどう考えても初めから軍配が決まっていた感じはするのです。
 ところが、それでは問題が特別そういうふうに難しいのかと申しますと、これははっきり申し上げますけれども、確かにそういう難しいという批判はございます。例えば裁判官でもあるいは弁護士でも、二度とおれたちはあの試験は受からぬよ、こう言うのですけれども、それはもう大分たたれたからそういうことなんでありまして、現役の学生、現場の受けている学生にとりましては、そんな無理のないスタンダードの問題なんですね。どのくらいスタンダードかと申し上げますと、例えば、まだことしは始まっておりませんけれども、ことし問題が出ます。そうしますと、ある科目の試験問題、大体二問でできておりますから、二問持たせまして、そして基本参考書一冊持たせます。学校で三年、四年ぐらいの、二年間ぐらい終わった連中に基本参考書一冊持たせて、そして一室に閉じ込めて解答してみろとやります。そうすると、ほぼ正解というか、合格答案がほとんど書ける状況なんです。ですから、私ども決して問題が特別難しいとは思っていないわけでありますけれども、やはり長年やっていた学生、いわゆるベテランの受験生はそこのところは大変心得ておりまして、合格できるような答案を物の見事につくり上げるのです。
 その秘密は、見てみますと、大体長年、五年でも六年でもやっている連中は、もちろんうちにいるだけじゃなくて、さっきから何遍も言っておりますように、予備校へ参ります。そうしますと、模擬試験とか答案練習という会がございます。そこで、私どもがどんなに工夫しても、その問題と同じ、あるいは類似の問題を既に練習しているのですね。例えば五年、六年たちました合格者で、模擬試験で書かなかった問題がないと言われるくらい既に書いているわけです。ですから、これはよくできるのは当たり前。しかも、それは解説つきで添削もしてもらっていますから。ところが、そうすると現役の方はどうかといいますと、それほど経験も知識もありませんから、試験場で初めてその問題と直面して、そもそも乏しい知識を全知全能を絞ってやるわけですけれども、やはりこれは知れているものです。差が出てくるという、初めから勝負が決まっているという感じがします。
 こういうところから、私ども何とかできないか、試験の出題とか採点でできないかと思ったのでありますけれども、どうもそれには限界があるということがだんだんわかってきました。時には私どもちょっと絶望していた時期もありますけれども、何とかならないかということで、試験問題もだめ、それから採点の方もうまくいかない・・・(後略)。

(引用終わり)

 

 また、「とりあえず趣旨を書いておけば受かる。」という採点方法のしわ寄せが、司法修習の段階で顕著に表れるようになり、2回試験不合格者の増加の原因ともなったと言われます。そのことから、現在では、そのような手法は採られていません現在の若手優遇策は、「極端な当てはめ重視」です。勉強期間の長い高齢受験生は、自分の勉強した抽象論を書きたがるため、規範を明示せず、問題文の事実を答案に書き写さないクセがあるのに対し、若手はそのような難しい抽象論を知らないので、規範を端的に明示して、丁寧に問題文を引いて当てはめる傾向がある。また、高齢受験生は体力の衰えから、筆力に限界があり、丁寧に問題文を書き写すと時間が足りなくなるのに対し、若手は体力があるので、書くスピードが高齢者より格段に早く、丁寧に問題文を書き写しても、書き切ることができます。この若手優遇策がうまくいっていることは、法務省から公表されているデータから明らかです(「平成27年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)。このように、現在では、若手優遇のための採点方法の工夫の仕方が、旧司法試験時代とは根本的に異なっているのです。このような事情は、残念ながら法科大学院や予備校関係者でも知らない人が多いようです。このように、「よく勉強した者を不合格にし、勉強していない者を受からせる。」ための工夫を一貫して行ってきたのが、司法試験の歴史です。「よく勉強した者を受からせる。」という通常の資格試験の役割とは全く逆の工夫を一生懸命にやっているということ自体が、司法試験というものの理不尽さをよく表しています。
 本問では、上記(1)から(3)までを書いても、まだ、紙幅、時間に余裕がある、という人もいるだろうと思います。そういう人がさらに充実させるべきは、「事実の評価」です。その例として、参考答案(その2)を用意しました。この程度の事実の評価をやっても、まだまだ時間と紙幅が余って仕方がない。そういう人であれば、規範の理由付けを書いてもよいでしょう。規範の理由付けの優先順位というのは、現在ではその程度のものなのです。
 なお、設問1では、再逮捕と再勾留を分けて検討するかどうか、迷った人も多いと思います。本問の場合には、両者を分ける実益があまりない。より受験テクニック的に言えば、分けて検討する場合には、重複する記述が多くなることから、分けない方が適切だと思います。両者を分けてうまくいくのは、10日の勾留延長の点を捉えて、再逮捕は認めるが、再勾留は認めないという見解を採用したり、再勾留に特別の要件を課す見解を採用し、その特別の要件が再逮捕の考慮要素と重ならないというような場合に限られるでしょう。

 

【参考答案(その1)】

第1.設問1

1.再逮捕・再勾留が適法となるためには、新事情の出現による再捜査の必要があること、犯罪の重大性等から、被疑者の負担を考慮してもやむを得ないと認められること、身柄拘束の不当な蒸返しとはいえないことが必要である。

2.新事情の出現による再捜査の必要があるか

 本件では、甲が釈放された後に、甲が、平成28年3月5日に、V方で盗まれた彫刻1点を、H県から離れたL県内の古美術店に売却していたことが判明した。
 確かに、本件被疑事実に係る事件(以下「本件事件」という。)の発生したV方はH県J市内にあり、L県とは離れている。しかし、本件事件が発生したのは同年3月1日であるのに対し、上記売却がされたのは同月5日であること、売却したものがV方で盗まれた彫刻1点であることからすれば、新事情の出現による再捜査の必要がある。

3.被疑者の負担を考慮してもやむを得ないと認められるか

 本件では、甲は、同月23日、本件被疑事実により逮捕され、同月25日から同年4月13日まで勾留されている。
 確かに、上記の先行する勾留は、10日の勾留期間の延長(208条2項)を経ている。しかし、本件被疑事実は、住居侵入罪、窃盗罪及び現住建造物放火罪を構成するものであるところ、窃盗罪は長期10年の懲役(刑法235条)、現住建造物等放火罪は死刑(同法108条)の法定刑を含むこと、甲は単身居住していること、甲には本件前科があることからすれば、犯罪の重大性等から、被疑者の負担を考慮してもやむを得ないと認められる。

4.身柄拘束の不当な蒸返しとはいえないか

 本件では、先行する逮捕がされた時点において、甲の写真を含む多数の人物写真を警察官がWに示したところ、Wが甲の写真を指し示し、「私が目撃したのはこの男に間違いありません。」と述べただけで、他に甲が本件被疑事実の犯人であることを示す証拠は発見されていなかった。甲が処分保留で釈放された後の捜査によって、甲がV方で盗まれた彫刻1点を古美術店に売却していたことが判明した。
 確かに、先行する逮捕・勾留は、L県内の古美術店にV方で盗まれた彫刻が売却されていたかを捜査することなくなされたものである。しかし、上記古美術店のあるL県は、H県から離れていたことからすれば、身柄拘束の不当な蒸返しとはいえない。

5.よって、@の逮捕及び勾留は、適法である。

第2.設問2

1.伝聞法則との関係について

 判決書謄本は、伝聞証拠(320条1項)であるが、323条1号の書面に当たるから、被告人の同意(326条1項)の有無にかかわらず、証拠能力は否定されない。

2.前科証拠を犯人性を認定する証拠とする点について

(1)同種前科によって犯人性を立証する場合には、その前科が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって、初めて証拠とすることができる(判例)。

(2)本件では、本件前科に係る事件は、住宅に侵入して美術品の彫刻を盗みウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用して同住宅に放火したというものである。これに対し、本件被疑事実は、V方に侵入して彫刻1点を盗みV方に放火した旨のもので、その放火にはウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶が使用されたというものであるから、相当程度類似する。

(3)では、本件前科は、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるほど顕著な特徴を有するといえるか。上記の合理的な推認というためには、特定の犯罪性向に基づく推論でないことが必要である。
 本件前科の特徴は、被害品が美術品の彫刻であること、放火にウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用したことである。また、本件前科は、1件だけであり、本件事件が発生したのは、本件前科に係る事件の発生から7年以上前、甲の服役終了から約1年経過後である。
 上記のみから、甲が本件被疑事実の犯人であることを推認することは、甲には美術品の彫刻を狙い、放火の際にウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用するという犯罪性向があるから、本件被疑事実の犯人もまた甲であるという推論をすることにほかならない。
 したがって、本件前科は、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるほど顕著な特徴を有するとはいえない。

(4)よって、Aの判決書謄本を甲が本件公訴事実の犯人であることを立証するために用いることは許されない。

以上

 

【参考答案(その2)】

第1.設問1

1.再逮捕・再勾留が適法となるためには、新事情の出現による再捜査の必要があること、犯罪の重大性等から、被疑者の負担を考慮してもやむを得ないと認められること、身柄拘束の不当な蒸返しとはいえないことが必要である。

2.新事情の出現による再捜査の必要があるか

 本件では、甲が釈放された後に、甲が、平成28年3月5日に、V方で盗まれた彫刻1点を、H県から離れたL県内の古美術店に売却していたことが判明した。
 確かに、本件被疑事実に係る事件(以下「本件事件」という。)の発生したV方はH県J市内にあり、L県とは離れている。すなわち、場所的接着性がない。しかし、本件事件が発生したのは同年3月1日であるのに対し、上記売却がされたのは同月5日であり、わずか4日の間隔しかない。すなわち、本件事件の発生から時間的に接着する時点において、甲は被害品を所持していた。このことは、甲が本件被疑事実の犯人であることを強く推認させる。今日では短時間で長距離の移動が可能であることからすれば、場所的接着性がないことは、上記の推認力を左右しない。
 以上のとおり、甲が本件被疑事実の犯人であることを強く推認させる証拠が新たに発見されたから、新事情の出現による再捜査の必要がある。

3.被疑者の負担を考慮してもやむを得ないと認められるか

 本件では、甲は、同月23日、本件被疑事実により逮捕され、同月25日から同年4月13日まで勾留されている。
 確かに、上記の先行する勾留は、10日の勾留期間の延長(208条2項)を経ているから、甲の身柄拘束による負担は大きい。しかし、本件被疑事実は、住居侵入罪、窃盗罪及び現住建造物放火罪を構成するものであるところ、窃盗罪は長期10年の懲役(刑法235条)、現住建造物等放火罪は死刑(同法108条)の法定刑を含む重大犯罪である。また、甲は単身居住し、本件前科もあることから、逃亡や新たな被害の発生のおそれもある。したがって、犯罪の重大性等から、被疑者の負担を考慮してもやむを得ないと認められる。

4.身柄拘束の不当な蒸返しとはいえないか

 本件では、Wの面割供述のみによって先行する逮捕・勾留がなされ、甲が処分保留で釈放された後の捜査によって、初めて甲がV方で盗まれた彫刻1点を古美術店に売却していたことが判明している。このことは、捜査機関が十分な事前捜査を尽くすことなく、身柄拘束中に重要な証拠が発見されることを期待して、見切り発車的に先行する逮捕・勾留に踏み切ったものと評価する余地がある。そうすると、その後に偶然新証拠の発見に至ったとしても、再び逮捕・勾留をすることは身柄拘束の不当な蒸返しとして、許されないのではないか。
 確かに、先行する逮捕・勾留は、L県内の古美術店にV方で盗まれた彫刻が売却されていたかを捜査することなくなされたものである。しかし、上記古美術店のあるL県は、H県から離れており、通常の捜査を尽くしていなかったとまではいえないと評価できること、先行する逮捕・勾留がなければ、甲が上記古美術店に働き掛けるなど、罪証隠滅を行うおそれがあったことからすれば、身柄拘束の不当な蒸返しとはいえない。

5.よって、@の逮捕及び勾留は、適法である。

第2.設問2

1.伝聞法則との関係について

 判決書謄本は、伝聞証拠(320条1項)であるが、323条1号の書面に当たるから、被告人の同意(326条1項)の有無にかかわらず、証拠能力は否定されない。

2.前科証拠を犯人性を認定する証拠とする点について

(1)同種前科によって犯人性を立証する場合には、その前科が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって、初めて証拠とすることができる(判例)。

(2)本件では、本件前科に係る事件は、住宅に侵入して美術品の彫刻を盗みウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用して同住宅に放火したというものである。これに対し、本件被疑事実は、V方に侵入して彫刻1点を盗みV方に放火した旨のもので、その放火にはウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶が使用されたというものであるから、相当程度類似する。

(3)では、本件前科は、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるほど顕著な特徴を有するといえるか。上記の合理的な推認というためには、特定の犯罪性向に基づく推論でないことが必要である。
 本件前科の特徴は、被害品が美術品の彫刻であること、放火にウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用したことである。
 上記の各特徴のうち、美術品の彫刻のある住居が極めて限られているとはいえない。また、ウィスキー瓶とガソリンは誰でも入手可能である。ウィスキー瓶にガソリンを入れることも、誰でも容易に行うことが可能である。したがって、上記手製の火炎瓶は、誰でも容易に作成可能である。しかも、本件前科は1件だけで、本件事件が発生したのは、甲の服役終了からは約1年が経過したに過ぎないとはいえ、本件前科に係る事件の発生からみると7年以上も前であり、短期間に反復累行されたという事情もない。そうである以上、本件前科から甲が本件被疑事実の犯人であることを推認することは、甲には美術品の彫刻を狙い、放火の際にウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用するという犯罪性向があるから、本件被疑事実の犯人もまた甲であるという推論をすることにほかならない。
 したがって、本件前科は、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるほど顕著な特徴を有するとはいえない。

(4)よって、Aの判決書謄本を甲が本件公訴事実の犯人であることを立証するために用いることは許されない。

以上

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2016年08月03日

平成28年予備試験論文式刑法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験における合格ラインは、平成25年、26年は、「一応の水準」の下限でした。昨年は、「一応の水準」の真ん中より少し下の辺りになっています(平成27年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。この水準を超えるための十分条件といえるのが、

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記が当然にできているという前提の下で、優秀・良好のレベルに達するために必要となる場合があるに過ぎません。また、実際には、上記の3つを守っただけで、優に良好の上位くらいの水準になってしまうこともあります。
 にもかかわらず、多くの人が、上記優秀・良好レベルの事柄を過度に重視しているように思います。現場思考で応用論点を拾いに行ったり、趣旨や本質から論じようとしたり、事実に丁寧に評価を付そうと努力するあまり、基本論点を落としてしまったり、規範を正確に示すことを怠っていきなり当てはめようとしたり、問題文中の事実をきちんと摘示することを怠ってしまい、結果として不良の水準に落ちてしまっているというのが現状です。

2.その原因としては、多くの人が、あまりにも上位過ぎる再現答案を参考にしようとしてしまっていることがあると思います。
 とはいえ、合格ラインギリギリの人の再現答案には、解答に不要なことや誤った記述などが散見されるため、参考にすることが難しいというのも事実です。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作ってみてはどうか、ということを考えました。

3.参考答案は、上記のようなコンセプトに基づいています。「本問で基本論点はどれですか」と問えば、多くの人が指摘できるでしょう。「その論点について解決するための規範は何ですか」と問えば、事前にきちんと準備している人であれば、多くの人が答えられるでしょう。「その規範に当てはまる事実は問題文中のどこですか、マーカーを引いてみてください」と問えば、多くの人が正確に示すことができるものです。下記の参考答案は、いわば、それを繋ぎ合わせただけの答案です。
 それなりの実力のある人が見ると、「何だ肝心なことが書いてないじゃないか」、「一言評価を足せば良い答案になるのに」と思うでしょう。優秀・良好レベルの答案を書いて合格できる人は、それでよいのです。しかし、合格答案を書けない人は、むしろ、「肝心なこと」を書こうとするあまり、最低限必要な基本論点、規範、事実の摘示を怠ってしまっているという点に気付くべきでしょう。普段の勉強で規範を覚えるのは、ある意味つまらない作業です。本試験の現場で、事実を問題文から丁寧に引用して答案に書き写すのは、バカバカしいとも思える作業です。しかし、そういう一見するとどうでもよさそうなことが、合否を分けているのが現実なのです。規範が正確でないと、明らかに損をしています。また、事実を引いているつもりでも、雑に要約してしまっているために、問題文のどの事実を拾っているのか不明であったり、事実を基礎にしないでいきなり評価から入っているように読める答案が多いのです。そういう答案を書いている人は、自分はきちんと書いたつもりになっているのに、点が伸びない。そういう結果になってしまっています。
 参考答案は、やや極端な形で、大前提として抑えなければならない水準を示しています。合格するには、この程度なら確実に書ける、という実力をつけなければなりません。そのためには、規範を正確に覚える必要があるとともに、当てはめの事実を丁寧に摘示する筆力を身につける必要があるでしょう。これは、普段の学習で鍛えていくことになります。
 この水準をクリアした上で、さらに問題文の引用を上手に要約しつつ、応用論点にコンパクトに触れたり、趣旨・本質に遡って論述したり、当てはめの評価を足すことができれば、さらに上位が狙えるでしょう。

4.今年の刑法は、放火罪を中心としたオーソドックスな出題でした。やろうと思えば、規範→事実の摘示の形に持ち込むのが容易です。それだけに、これを怠ると、大きく評価を落とすでしょう。本問で、答案が4頁に達しなかったという人は、上記(1)から(3)までを怠っていることが明らかです。本問は、上記(1)から(3)までを書くだけでも、4頁に収めるのが難しい問題だからです。参考答案は、普通に現場で書こうとすると、4頁に収まらないのではないかと思います。これだけ書ければ、優に上位のA評価になってしまうでしょう。実戦的には、どんなに注意していても、うっかり論点を落としてしまったり、部分的に規範の明示や事実の摘示が抜けてしまうので、(それが逆に幸いして)結果的に何とか4頁に収まる、という感じなのだろうと思います。本問の場合、「論点の問題の所在や規範の理由付け(論証)、事実の評価を書いていたら、時間と紙幅がなくなったので、規範の明示と事実の摘示は省略しました。」という人が大量に生じるので、上記(1)から(3)までを書こうという姿勢で臨んでいれば、多少の論点落ちや、部分的な規範・事実の抜けが生じても、十分上位になるでしょう。逆に、どんなに「正解筋で書いた」としても、規範の明示と事実の摘示がなされていないと、予想外の低評価に沈む可能性が高いと思います。

5.内容面で注意すべき点として、甲宅に対する放火の既遂時期があります。多くの人が、天井板1尺四方を焼いた事案(1尺は約30.3センチメートル)で既遂にした最判昭23・11・2を参考に、本問も既遂としたのではないかと思います。ただ、ここは厳密には、「独立燃焼説において燃焼継続可能性を要求すべきか。」という隠れた応用論点があるのです。学説の多くは、すぐに立ち消えになるような場合には、媒介物の火の影響を受けたに過ぎず、「独立して」燃焼するとはいえないこと、すぐ立ち消えになる程度では公共の危険が発生するとはいえないこと等から、燃焼継続可能性を要求します。これ対し、上記最判昭23・11・2は、明示的には継続性を要求していません。

 

最判昭23・11・2より引用。太字強調は筆者。)

 原判決はその挙示する証拠を綜合して、被告人が原判示家屋の押入内壁紙にマツチで放火したため火は天井に燃え移り右家屋の天井板約一尺四方を焼燬した事実を認定しているのであるから、右の事実自体によつて、火勢は放火の媒介物を離れて家屋が独立燃焼する程度に達したことが認められるので、原判示の事実は放火既遂罪を構成する事実を充たしたものというべきである。

(引用終わり)

 

 上記判示から、判例は、燃焼継続可能性を要求していないと読む余地もあるでしょう。そのような趣旨の下級審裁判例もあります(東京高判昭37・5・30等)。しかし、上記判例の事案は、自然消火した事案ではなく、被告人自身が消火し、中止未遂の成立を主張した事案です。「既遂時期が早すぎて、被告人が自分で消火しても中止犯が成立し得ないのはおかしい。」という独立燃焼説に対する批判が妥当する典型的な事案だったわけです。このことを、上記の燃焼継続可能性との関係でみると、上記判例の事案は、被告人による消火がなければ、自然には鎮火せず、そのままどんどん燃え広がる状態に至っていた、すなわち、燃焼継続可能性のある事案だったと考えることができます。そのことからすれば、判例は、必ずしも燃焼継続可能性を要求していないとまではいえない、という考え方も、十分成り立ち得るように思います。そして、一般的な基本書等では、独立燃焼説を、「火が媒介物を離れて、目的物が独立して燃焼を『継続する』に至った状態となれば既遂とする説」として紹介し、これをもって、「判例」であるとし、しばしば上記昭和23年判例を引用しているのです。このような状況からすれば、判例の見解に立って本問を当てはめる場合にも、床板表面の約10センチメートル四方を焼いた程度で自然消火したことから、燃焼継続可能性を欠くとして未遂にするのが素直だと思います。参考答案は、規範を明示して問題文を書き写して結論を出しただけですが、基礎となる考え方としてはこの立場に立っています。もっとも、本件はたまたま自然鎮火したというだけで、床板が木製だったことをも考慮すれば、燃焼継続の「可能性」はあった、として既遂とすることも十分可能だと思います。

 それから、自動発火装置を用いた放火の着手時期については、本問では設置時と考えても発火時と考えても結論を左右しないことから、論じる必要がないと思った人もいたのではないかと思います。しかし、本試験では、成立する犯罪を左右しないものであっても、着手時期や既遂時期、犯罪成立の範囲(例えば、被害者宅から150万円を持ち去ろうとして、玄関先で50万円を落としてしまった、というような事案で、窃盗既遂が150万円全額について成立するか、100万円にとどまるのか、というようなこと。)が問題になる場合には、これを答案で特定する必要があります。これは、過去問、再現答案等から読み取れる比較的確立された傾向です。本問は、着手時期が設置時なのか、発火時なのかが問題になりそうな事案ですし、保険金詐欺との関係でも、実行の着手が問題となっていますから、上記の傾向も考えれば、結論を直接左右しなくても、着手時期を論じるべきなのです。この辺りは、純粋な理論ではなく、「過去問の傾向がそうなっている。」という単なる傾向に依存します。そのような傾向を把握する意味でも、過去問はきちんと検討しておくべきです。なお、実行の着手の判断基準については、当サイトの過去の記事(「実行の着手について」)を参照して下さい。
 本問では、乙の中止未遂の効果が甲にも及ぶか、という論点もあります。もっとも、必ずしも典型論点とまではいえませんし、本問では、他に書くべき重要基本論点が多いですから、参考答案では、この点は当然の前提として、特に論点としては取り上げていません。ただ、現場で気付きやすい論点ではありますから、余裕があれば(実戦的には、現場で他の論点に気付かなかった結果、余裕が出る、ということはあり得ます。)拾ってもよい論点だと思います。

6.参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」及び「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.甲乙が、X発火装置を甲宅1階居間の木製の床板上に置き、午後9時に発火するように設定した行為(以下「本件行為1」という。)について

1.現在建造物放火罪(108条)の成否

(1)放火罪の実行の着手は、目的物又は媒介物に点火する行為又はこれと密接な行為であって、目的物の焼損に至る客観的危険性を有する行為を開始することをいう。そして、当該行為がその後の構成要件該当行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠で、当該行為に成功すればその後の構成要件該当行為を行うについて障害となる特段の事情がないと認められる場合であって、当該行為とその後の構成要件該当行為との間に時間的場所的接着性があるときは、当該行為は構成要件該当行為に密接な行為といえる(クロロホルム事件判例参照)。
 本件で、本件行為1は、同装置の発火を確実かつ容易に行うために必要不可欠で、甲宅にはB以外誰もおらず、Bも2階で寝ていたから、これに成功すればその後の同装置の発火を行うについて障害となる特段の事情がなく、同装置の発火は同一場所において2時間後に生じたから、時間的場所的接着性がある。したがって、上記行為は同装置の発火と密接な行為である。
 また、X発火装置は自動発火する性能がある以上、本件行為1は甲宅の焼損に至る客観的危険性を有するといえる。
 以上から、本件行為1の時点で実行の着手がある。

(2)「人」(108条、109条1項)とは、犯人以外の者をいう(判例)。
 本件で、甲宅には本件行為1の時点でBがいた。したがって、甲宅は現在建造物に当たる。

(3)「焼損」とは、火が媒介物を離れて、目的物が独立して燃焼を継続するに至った状態をいう(判例)。
 本件で、X発火装置から出た火は、木製床板表面の約10センチメートル四方まで燃え広がったところで自然に消えたから、甲宅が独立して燃焼を継続するに至ったとはいえない。
 したがって、「焼損」したとはいえず、未遂(44条、112条)の余地があるにとどまる。

(4)甲乙は、Bが甲宅にいることには気付かなかったから、現在性の認識を欠いている。したがって、故意がない。

(5)よって、現在建造物放火未遂罪は成立しない(38条1項、2項)。

2.非現住建造物等放火未遂罪(109条1項、112条)の成否

(1)甲乙は、現在建造物放火の客観的構成要件のうち、現在性の認識のみを欠いており、甲宅に火災保険が掛けてあることを知っていた。したがって、他人所有(115条)の非現住建造物等放火罪の故意で現在建造物放火未遂罪を実現した錯誤がある。

(2)異なる構成要件間にまたがる錯誤については、構成要件が重なり合う限度で軽い罪の故意犯が成立する(判例)。
 本件で、現在建造物放火罪と非現住建造物等放火罪は、後者の限度で構成要件に重なり合いがある。したがって、軽い非現住建造物等放火未遂罪の故意犯が成立する。

(3)よって、非現住建造物等放火未遂罪が成立する。

3.火災保険金に係る詐欺未遂罪(246条1項、250条)の成否

(1)確かに、本件行為1は、その後の欺く行為である保険金請求を確実かつ容易に行うために必要不可欠である。しかし、これに成功しても、焼損に至らず、又は請求前に検挙される等、その後の保険金請求の障害となる特段の事情がある。したがって、本件行為1は保険金請求に密接な行為とはいえず、詐欺の実行の着手は認められない。

(2)よって、その後の保険金請求もない以上、詐欺未遂罪は成立しない。

第2.甲乙が、乙物置内にY発火装置を運び込んで、段ボール箱上に置き、午後9時30分に発火するように設定した行為(以下「本件行為2」という。)について

1.現住建造物放火罪の成否

(1)前記第1の1(1)と同様、本件行為2の時点において、実行の着手がある。

(2)「住居」(108条)とは、人の起居の場所として日常使用されるものをいい、現住性が喪失したか否かは、住居としての使用形態に変更が生じたか否かによって判断すべきである(従業員沖縄旅行中放火事件判例参照)。
 本件で、乙宅には、乙以外にAが暮らしていたから、乙宅は現住建造物に当たる。また、犯行当日にAは旅行に出掛けていたが、住居としての使用形態に変更がないから、現住性を喪失しない。

(3)現住部分と非現住部分を有する複合建造物について、その一部に放火されることにより全体に危険が及ぶと考えられる一体の構造であり(物理的一体性)、全体が一体として日常的に人の起居に利用されていた(機能的一体性)場合には、全体が1個の現住建造物である(平安神宮事件判例参照)。
 本件で、乙物置は、乙宅とは屋根付きの長さ約3メートルの木造の渡り廊下でつながっていたから、物理的一体性がある。また、乙物置は、乙宅の敷地内にあって普段から物置として使用されていたから、機能的一体性がある。したがって、乙物置及び乙宅は、全体が1個の現住建造物である。

(4)乙物置内で燃えたものは、Y発火装置のほか、段ボール箱の一部と同箱内の洋服の一部のみで、乙物置、渡り廊下及び乙宅には火は燃え移らず、焦げた箇所もなかった。そうである以上、火が媒介物を離れていないから、「焼損」したとはいえず、未遂にとどまる。

(5)乙につき中止犯(43条ただし書)は成立するか。

ア.「中止した」というためには、実行未遂の場合には、結果の発生を防止する積極的行為が必要である。
 本件で、乙は、乙物置内にある消火器を使って消火活動をし、その火を消し止めたから、結果の発生を防止する積極的行為をした。したがって、「中止した」といえる。

イ.「自己の意思により」中止したというためには、外部的障害が存在しないにもかかわらず、犯行を中止したことを要する。また、中止犯が成立するには行為者が真摯な努力を払ったと評価できること(真摯性)が必要である。
 本件で、乙は、「Aには迷惑を掛けたくない。それに、その火が隣の家に燃え移ったら危ないし、近所にも迷惑を掛けたくない。こんなことはやめよう。」と考えて消火活動をし、その火を消し止めたから、外部的障害が存在しないにもかかわらず、犯行を中止し、真摯な努力を払ったと評価できる。したがって、乙は、「自己の意思により」中止し、その中止には真摯性がある。

ウ.以上から、乙に中止犯が成立する。

(6)よって、現住建造物放火未遂罪が成立し、乙は中止未遂となる。

2.前記第1の3と同様、火災保険金に係る詐欺未遂罪は成立しない。

第3.甲乙は、同年9月1日に共謀を遂げ、これに基づいて、前記第1及び第2の罪を共同して行ったから、各罪につき共同正犯(60条)となる。

第4.よって、甲及び乙は、前記第1の非現住建造物等放火未遂罪及び前記第2の現住建造物放火未遂罪の罪責を負う。甲宅と乙宅は直線距離で約2キロメートル離れており、公共の危険は別個であるから、両罪は併合罪(45条前段)である。乙は必要的減免を受ける(43条ただし書)。

以上

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2016年07月30日

平成28年予備試験論文式民訴法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験における合格ラインは、平成25年、26年は、「一応の水準」の下限でした。昨年は、「一応の水準」の真ん中より少し下の辺りになっています(平成27年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。この水準を超えるための十分条件といえるのが、

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記が当然にできているという前提の下で、優秀・良好のレベルに達するために必要となる場合があるに過ぎません。また、実際には、上記の3つを守っただけで、優に良好の上位くらいの水準になってしまうこともあります。
 にもかかわらず、多くの人が、上記優秀・良好レベルの事柄を過度に重視しているように思います。現場思考で応用論点を拾いに行ったり、趣旨や本質から論じようとしたり、事実に丁寧に評価を付そうと努力するあまり、基本論点を落としてしまったり、規範を正確に示すことを怠っていきなり当てはめようとしたり、問題文中の事実をきちんと摘示することを怠ってしまい、結果として不良の水準に落ちてしまっているというのが現状です。

2.その原因としては、多くの人が、あまりにも上位過ぎる再現答案を参考にしようとしてしまっていることがあると思います。
 とはいえ、合格ラインギリギリの人の再現答案には、解答に不要なことや誤った記述などが散見されるため、参考にすることが難しいというのも事実です。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作ってみてはどうか、ということを考えました。

3.参考答案は、上記のようなコンセプトに基づいています。「本問で基本論点はどれですか」と問えば、多くの人が指摘できるでしょう。「その論点について解決するための規範は何ですか」と問えば、事前にきちんと準備している人であれば、多くの人が答えられるでしょう。「その規範に当てはまる事実は問題文中のどこですか、マーカーを引いてみてください」と問えば、多くの人が正確に示すことができるものです。下記の参考答案は、いわば、それを繋ぎ合わせただけの答案です。
 それなりの実力のある人が見ると、「何だ肝心なことが書いてないじゃないか」、「一言評価を足せば良い答案になるのに」と思うでしょう。優秀・良好レベルの答案を書いて合格できる人は、それでよいのです。しかし、合格答案を書けない人は、むしろ、「肝心なこと」を書こうとするあまり、最低限必要な基本論点、規範、事実の摘示を怠ってしまっているという点に気付くべきでしょう。普段の勉強で規範を覚えるのは、ある意味つまらない作業です。本試験の現場で、事実を問題文から丁寧に引用して答案に書き写すのは、バカバカしいとも思える作業です。しかし、そういう一見するとどうでもよさそうなことが、合否を分けているのが現実なのです。規範が正確でないと、明らかに損をしています。また、事実を引いているつもりでも、雑に要約してしまっているために、問題文のどの事実を拾っているのか不明であったり、事実を基礎にしないでいきなり評価から入っているように読める答案が多いのです。そういう答案を書いている人は、自分はきちんと書いたつもりになっているのに、点が伸びない。そういう結果になってしまっています。
 参考答案は、やや極端な形で、大前提として抑えなければならない水準を示しています。合格するには、この程度なら確実に書ける、という実力をつけなければなりません。そのためには、規範を正確に覚える必要があるとともに、当てはめの事実を丁寧に摘示する筆力を身につける必要があるでしょう。これは、普段の学習で鍛えていくことになります。
 この水準をクリアした上で、さらに問題文の引用を上手に要約しつつ、応用論点にコンパクトに触れたり、趣旨・本質に遡って論述したり、当てはめの評価を足すことができれば、さらに優秀・良好のレベルが狙えるでしょう。

4.司法試験では、例年、民訴だけは、他の科目とは違う傾向がありました。規範→当てはめ型の事例処理というよりは、原理・原則から当たり前のことを説明させたり、判例の趣旨を確認させて、その射程を論じさせるような問題です。ただ、今年の司法試験の民訴は、従来の民訴の傾向と事例処理的な要素が混在した中途半端な出題となっていました(「平成28年司法試験論文式民事系第3問参考答案」)。考査委員の交代の影響があったのでしょう。
 予備試験では、司法試験ほど特殊な傾向だったわけではありませんが、やや問い方が特殊で、典型論点を落としてしまったり、雑な書き方になりやすいという点に注意が必要でした。今年は、出題形式としては、修習生と裁判官の対話が入っていますが、内容的には、素直に規範→当てはめの形に持ち込むことが容易な問題です。その意味では、オーソドックスな出題だったと言ってよいでしょう。特に難しいことを考えずに、上記(1)から(3)までを普通に書けば、A評価は確保できてしまうと思います。参考答案(その1)は、その例です。「これだけでA評価になるはずがない。」と思う人もいるでしょうが、2日目の民訴は、皆疲れ果て、心身共に正常な状態ではないために、「1頁強程度のポッキリ折れたような雑な答案」や、「全然関係のないことを延々書いている答案」など、信じられないような答案が続出します。ですから、普通に書いただけで、A評価になってしまうものなのです。本問でも、設問2で、本件訴訟の判決理由中の判断までをも当然に考慮して(そもそも既判力が及ぶかを検討する前提問題において判決の拘束力を考慮することがおかしいだけでなく、理由中の判断まで考慮するという点で、二重に誤っています。)、「Zには固有の抗弁なんてあるはずがないから、この点は全く無視していいはずだ。」と考えたり、「形式説からは既判力が及ぶことが明らかだから、数行で終わりだ。」などと勝手に考えて、極端に短い答案を書いてしまう人は多いでしょう。
 もっとも、本問の場合、論点があまりに明白で、しかも、数が多くないので、上記(1)から(3)までを単純に書いただけだと、時間が余るという人もいるでしょう。特に、民法、商法、民訴の順番で普通に解いた場合、民訴は最後ですから、ここで時間を余す意味はありません。このように時間に余裕がある場合、どのような点を充実させればよいのか。よく言われるのは、「趣旨・本質にどこまで遡ったか、そこで差が付きますよ!本問は書くことが少ないので、厚く論証しましょう!」というような解説です。当サイトとしては、そのような解説は不適切であると思っています。趣旨・本質に遡った論証は、一般的に言われているほど、加点されていないように思います。では、どこで差が付くのか。規範の明示という当たり前のところをクリアした後のレベル、すなわち、上位のAになるか否か、というレベルを分けるのは、本問の場合、設問1は当てはめの緻密さ、設問2は説明の正確さです。そのことがよくわかるように、参考答案(その2)を用意しました。参考答案(その1)と比較すると、その差がよく分かるでしょう。特に、設問1では、問題文の各小問に、わざわざ「事案に即して」と書いてあります。そのことからも、一般論のレベルで「趣旨・本質にどこまで遡ったか」にあまり配点がないことは、予測できるでしょう。設問1は、事案に即して緻密に分析できたかどうか、具体的には、当事者の主張する要件事実と、証拠調べの結果に基づく要件事実とを整理した上で、対比できているかどうか、ということです。そこで、上位のAと下位のAの差が付きます。
 注意したいのは、設問2です。ここは、実質説を採るか、形式説を採るかで、Zに拡張される既判力として念頭に置くものが異なるので、それに対応して、承継の有無の肯否の判断において検討すべき事項が異なってくるのです。実質説からは、Zに既判力が拡張されるということは、Zも敗訴判決を受けることを意味するので、主に固有の抗弁の有無を検討することになるでしょう。ここで気を付ける必要があるのは、本件訴訟の確定判決の既判力を前提にしてはいけない、ということです。実質説において固有の抗弁があるか否かは、既判力がZに及ぶか否かの前提問題です。ですから、既判力によってZの固有の抗弁が遮断される、というのは、論理矛盾となるのです。本問の場合、Zとしては、対抗関係で自分が優先する(最判昭41・6・2)こと、民法94条2項類推適用を受けること(最判昭48・6・21)を主張立証すれば、固有の抗弁があるということになるでしょう。ただし、その主張・立証の場面が、Xが本件訴訟の確定判決を債務名義として、承継執行文の付与を受けて執行する場面なのか、X又はZの提起する後訴であるのかは、本問では明らかではありません。参考答案(その1)は、この立場で書いています。なお、対抗要件の抗弁については、前訴でY2も主張できた抗弁でもありますから、これはZ固有の抗弁に当たらない、という考え方も、十分あり得るでしょう。
 これに対し、形式説からは、Zに既判力が拡張されるということは、原則として、Y1・Y2に及ぶ既判力と同内容のものが、Zにも及ぶ、ということを意味します。したがって、形式説を純粋に貫徹すると、本件訴訟の確定判決の既判力が、Zとの関係で作用し得るのかを検討することになるわけです。参考答案(その2)は、この形式説を純粋に貫徹する立場から書いています。このように、形式説を純粋に貫徹すると、本問では既判力の拡張が認められないことになってしまいます。そこで、訴訟物の同一性を擬制できる範囲で、形式説を修正する見解もあります。ただ、どのような場合に訴訟物の同一性を擬制できるのか、必ずしも明らかではありませんし、ここまで来ると、司法試験の領域を超える議論になってしまうでしょう。ですから、ここまで深入りする必要は、必ずしもないのではないかと思います。いずれにせよ、「形式説に立てば数行で終わる。」というような問題ではありません。

 

【参考答案(その1)】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)弁論主義の第1原則に違反するか否かは、主要事実に食い違いがあるか、当事者に対する不意打ちとなるかという観点から判断する。

ア.主要事実に食い違いがあるか

 主要事実とは、法律効果の発生、消滅等の要件に該当する具体的事実をいう。
 本件で、証拠調べの結果明らかになった事実には、「所定の期間内に借り受けた1000万円をY2に対して返済することで甲土地を取り戻し得るとの約定で甲土地をY2のために譲渡担保に供した。」というものがある。これは、譲渡担保権を発生させる要件に該当する具体的事実であるから、主張事実に当たる。
 これに対し、確かに、Xは、「XがY2から借り受けた1000万円の金員」との主張をしており、Y1らは、「Y2は、Xとの間で、Xが所定の期間内にY2に代金1000万円を支払うことにより甲土地をXに売り渡す旨の合意をした。」との主張をしている。しかし、上記各主張は、証拠調べの結果明らかになった事実のうち、「甲土地を取り戻し得るとの約定で甲土地をY2のために譲渡担保に供した。」とは異なる。
 よって、主要事実に食い違いがある。

イ.当事者に対する不意打ちとなるか

 当事者に対する不意打ちとなるか否かは、当事者の攻撃防御の機会を失わせるか否かの観点から判断する。
 本件で、Xは、譲渡担保権の成否について、本件訴訟において十分に攻撃防御をする機会を与えられていないから、Xの各請求をいずれも棄却する旨の判決がなされると、譲渡担保権の成否についてのXの攻撃防御の機会を失わせることになる。
 よって、当事者に対する不意打ちとなる。

(2)以上から、証拠調べの結果明らかになった事実に基づきXの各請求をいずれも棄却する旨の判決をすることは、弁論主義に反する。

2.小問(2)

(1)当事者が主張しておらず、従前の訴訟の経過等からは予測が困難な法律構成を採用する場合には、裁判所は、適切に釈明権(149条1項)を行使して、一方当事者に上記法律構成を主張するか否かを明らかにするよう促すとともに、他方当事者に十分な反論及び反証の機会を与えることを要する(愛知学泉大学定年退職事件判例参照)。

(2)本件では、譲渡担保という法律構成は、X及びY1らのいずれも主張していない。また、Y1らは、「Y2は、Xとの間で、Xが所定の期間内にY2に代金1000万円を支払うことにより甲土地をXに売り渡す旨の合意をした。」旨の主張しかしていないこと、Y1からY2へ移転登記がなされている一方で、XからY2への譲渡担保権設定を原因とする移転登記はされていないことから、判決において譲渡担保という法律構成が採用されることは、従前の訴訟の経過等からは予測が困難である。したがって、裁判所は、適切に釈明権を行使して、Y1らに譲渡担保による法律構成を主張するか否かを明らかにするよう促すとともに、Xに十分な反論及び反証の機会を当たることを要する。

(3)よって、上記(2)の措置をとることなく直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることには、釈明権不行使の違法がある。

第2.設問2

1.Zは、口頭弁論終結後の承継人(115条1項3号)に当たるか。

2.「承継人」とは、当事者適格を承継した者であって、固有の抗弁を有しないものをいう(適格承継説。実質説。)。訴訟物が土地所有権に基づく物権的請求権である場合における上記固有の抗弁とは、民法177条の「第三者」に当たること、民法94条2項の類推適用を受けること等をいう。

(1)本件で、Zは甲土地をY2から買い受け、所有権移転登記を経たから、Xから抹消登記手続請求を受ける地位を承継したといえる。したがって、当事者適格を承継した者に当たる。

(2)では、Zは固有の抗弁を有するか。

ア.Zは、甲土地をY2から買い受け、所有権移転登記を経ている。したがって、Zは、「Xが、甲土地をY1に代物弁済した後に、Y1から甲土地を買い戻したが、その買戻しに係る移転登記を経ていない。」として、Zが民法177条の「第三者」に当たると主張する余地がある。なお、固有の抗弁の有無はZに既判力が及ぶか否かの前提問題である以上、本件訴訟の確定判決の既判力により、上記主張が遮断されることはない。
 以上から、Zが上記を主張・立証した場合には、Zは固有の抗弁を有する。

イ.また、Xが、本件訴訟の判決確定後も執行を怠り、Y2名義の登記を知りながら敢えて放置したと評価できる場合において、ZがY2名義の登記を信頼してY2から甲土地を買い受けたときは、民法94条2項が類推適用される。
 したがって、Zが上記を主張・立証した場合には、Zは固有の抗弁を有する。

(3)以上から、Zは、上記(2)ア及びイの場合を除き、口頭弁論終結後の「承継人」に当たる。

3.よって、本件訴訟の確定判決の既判力は、前記2(2)ア及びイの場合を除き、Zに対して及ぶ。

以上

 

【参考答案(その2)】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)弁論主義の第1原則に違反するか否かは、主要事実に食い違いがあるか、当事者に対する不意打ちとなるかという観点から判断する。

ア.主要事実に食い違いがあるか

 主要事実とは、法律効果の発生、消滅等の要件に該当する具体的事実をいう。すなわち、請求原因事実、抗弁事実等を指す。
 本件で、証拠調べの結果から構成される請求原因事実は、Y1が、甲土地をもと所有していたこと、Y1が、甲土地をXに1000万円で売ったこと、Y1ら名義の各所有権移転登記があることである。上記各事実は、Xの主張する予備的請求原因(「Xの主張」第3段落)に含まれており、この点に食い違いはない。
 他方、証拠調べの結果から構成される抗弁は、譲渡担保権実行による所有権喪失であり、具体的な抗弁事実は、@ Xが、Y2から1000万円を借り受けたこと、A Xが、Y2に対し、@の貸金債務の担保として、期間を定めて甲土地に譲渡担保権を設定したこと、B Aで定めた期間が経過したことである。上記のうち、@については、「Xの主張」第2段落において、「XがY2から借り受けた1000万円の金員」とする部分があり、一応Xの主張がある。Bについては、顕著な事実であるから当事者による主張を要しない。
 では、上記Aの事実について当事者の主張はあるか。「Y1らの主張」には、「Y2は、Xとの間で、Xが所定の期間内にY2に代金1000万円を支払うことにより甲土地をXに売り渡す旨の合意をした。」とする部分がある。しかし、上記Aでは、法形式上、甲土地の所有権はXからY2へ移転するのに対し、上記Y1らの主張部分は、Y2からXへの移転の合意を示すに過ぎない。また、上記Y1らの主張部分においては、1000万円の支払は単に甲土地の代金とされており、XがY2に対して負担する貸金債務との関連性及びその担保としての性質をうかがわせる主張はない。そうである以上、上記Y1らの主張部分をもって、上記Aをいうものと考えることはできない。
 よって、主要事実に食い違いがある。

イ.当事者に対する不意打ちとなるか

 当事者に対する不意打ちとなるか否かは、当事者の攻撃防御の機会を失わせるか否かの観点から判断する。
 本件で、X及びY1らの主張からは、Xの主位的請求原因(「Xの主張」第1段落)に対し、Y1らは、XのY1に対する代物弁済による甲土地所有権喪失の抗弁を主張し、その抗弁を前提とするXのX・Y1売買を所有権取得原因とする予備的請求原因(「Xの主張」第3段落)に対しては、Y1らは、Y1・Y2売買及びY2の所有権移転登記の経由に基づく対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を主張する(「Y1らの主張」第2段落)ものと構成するのが自然である。
 上記の構成を前提にすると、本件訴訟における証拠調べの結果からは、Y1・Y2売買の事実が認定できない以上、Xとしては、予備的請求原因に対する抗弁事実が認められない結果、Xの各請求はいずれも認容されると期待するのが通常である。そうである以上、X・Y2間の貸金債務(被担保債権)及びX・Y2間の譲渡担保権設定契約の存否について、Xが攻撃防御を行うことは、想定しがたい。それにもかかわらず、裁判所が譲渡担保権の実行による所有権喪失の抗弁を認めるならば、Xの攻撃防御の機会を失わせることになる。
 よって、当事者に対する不意打ちとなる。

(2)以上から、証拠調べの結果明らかになった事実に基づきXの各請求をいずれも棄却する旨の判決をすることは、弁論主義に反する。

2.小問(2)

(1)当事者が主張しておらず、従前の訴訟の経過等からは予測が困難な法律構成を採用する場合には、裁判所は、適切に釈明権(149条1項)を行使して、一方当事者に上記法律構成を主張するか否かを明らかにするよう促すとともに、他方当事者に十分な反論及び反証の機会を与えることを要する(愛知学泉大学定年退職事件判例参照)。

(2)本件では、譲渡担保という法律構成は、X及びY1らのいずれも主張していない。また、前記1(1)イのとおり、Y1らの主張から読み取れるXの予備的請求原因に対する抗弁は対抗要件具備による所有権喪失の抗弁であること、Y1からY2へ移転登記がなされている一方で、XからY2への譲渡担保を原因とする移転登記はされていないことから、判決において譲渡担保という法律構成が採用されることは、従前の訴訟の経過等からは予測が困難である。したがって、裁判所は、適切に釈明権を行使して、Y1らに譲渡担保による法律構成を主張するか否かを明らかにするよう促すとともに、Xに十分な反論及び反証の機会を当たることを要する。

(3)よって、上記(2)の措置をとることなく直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることには、釈明権不行使の違法がある。

第2.設問2

1.Zは、口頭弁論終結後の承継人(115条1項3号)に当たるか。

2.「承継人」とは、当事者適格を承継した者をいい、固有の抗弁を有するか否かを問わない(適格承継説。形式説。)。

(1)本件で、Zは、甲土地をY2から買い受け、所有権移転登記を経たことにより、本件訴訟と同様の訴訟物である抹消登記手続請求訴訟の被告の地位を取得している。しかしながら、Y2の負担する抹消登記手続義務と、Zの負担すべき抹消登記手続義務は別個独立に併存するものである。そうである以上、Y2の負担する抹消登記手続義務を、Zが承継したと考えることは困難である。

(2)また、既判力の生じる客観的範囲は、原則として主文、すなわち、訴訟物の範囲に限られる(114条1項)。したがって、既判力が作用するのは、訴訟物と同一関係、矛盾関係、先決関係にある場合である。
 本件では、本件訴訟の確定判決の既判力は、Y1及びY2名義の各所有権移転登記につき、Y1及びY2が抹消登記手続義務を負うという点に生じる。これとZ名義の所有権移転登記に係るZの抹消登記手続義務の存否は、同一関係、矛盾関係、先決関係のいずれにも当たらない。甲土地所有権がXに帰属することは、Zの抹消登記手続義務の存否とは先決関係にあるが、これは本件訴訟の判決理由中の判断に過ぎない。
 そうである以上、本件訴訟の確定判決の既判力は、Zとの関係で作用する余地がない。

(3)以上から、Zが本件訴訟の当事者適格を承継したとはいえないから、Zは「承継人」に当たらない。

3.よって、本件訴訟の確定判決の既判力は、Zに対して及ばない。

以上

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2016年07月27日

平成28年予備試験論文式商法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験における合格ラインは、平成25年、26年は、「一応の水準」の下限でした。昨年は、「一応の水準」の真ん中より少し下の辺りになっています(平成27年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。この水準を超えるための十分条件といえるのが、

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記が当然にできているという前提の下で、優秀・良好のレベルに達するために必要となる場合があるに過ぎません。また、実際には、上記の3つを守っただけで、優に良好の上位くらいの水準になってしまうこともあります。
 にもかかわらず、多くの人が、上記優秀・良好レベルの事柄を過度に重視しているように思います。現場思考で応用論点を拾いに行ったり、趣旨や本質から論じようとしたり、事実に丁寧に評価を付そうと努力するあまり、基本論点を落としてしまったり、規範を正確に示すことを怠っていきなり当てはめようとしたり、問題文中の事実をきちんと摘示することを怠ってしまい、結果として不良の水準に落ちてしまっているというのが現状です。

2.その原因としては、多くの人が、あまりにも上位過ぎる再現答案を参考にしようとしてしまっていることがあると思います。
 とはいえ、合格ラインギリギリの人の再現答案には、解答に不要なことや誤った記述などが散見されるため、参考にすることが難しいというのも事実です。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作ってみてはどうか、ということを考えました。

3.参考答案は、上記のようなコンセプトに基づいています。「本問で基本論点はどれですか」と問えば、多くの人が指摘できるでしょう。「その論点について解決するための規範は何ですか」と問えば、事前にきちんと準備している人であれば、多くの人が答えられるでしょう。「その規範に当てはまる事実は問題文中のどこですか、マーカーを引いてみてください」と問えば、多くの人が正確に示すことができるものです。下記の参考答案は、いわば、それを繋ぎ合わせただけの答案です。
 それなりの実力のある人が見ると、「何だ肝心なことが書いてないじゃないか」、「一言評価を足せば良い答案になるのに」と思うでしょう。優秀・良好レベルの答案を書いて合格できる人は、それでよいのです。しかし、合格答案を書けない人は、むしろ、「肝心なこと」を書こうとするあまり、最低限必要な基本論点、規範、事実の摘示を怠ってしまっているという点に気付くべきでしょう。普段の勉強で規範を覚えるのは、ある意味つまらない作業です。本試験の現場で、事実を問題文から丁寧に引用して答案に書き写すのは、バカバカしいとも思える作業です。しかし、そういう一見するとどうでもよさそうなことが、合否を分けているのが現実なのです。規範が正確でないと、明らかに損をしています。また、事実を引いているつもりでも、雑に要約してしまっているために、問題文のどの事実を拾っているのか不明であったり、事実を基礎にしないでいきなり評価から入っているように読める答案が多いのです。そういう答案を書いている人は、自分はきちんと書いたつもりになっているのに、点が伸びない。そういう結果になってしまっています。
 今回の参考答案は、やや極端な形で、大前提として抑えなければならない水準を示しています。合格するには、この程度なら確実に書ける、という実力をつけなければなりません。そのためには、規範を正確に覚える必要があるとともに、当てはめの事実を丁寧に摘示する筆力を身につける必要があるでしょう。これは、普段の学習で鍛えていくことになります。
 この水準をクリアした上で、さらに問題文の引用を上手に要約しつつ、応用論点にコンパクトに触れたり、趣旨・本質に遡って論述したり、当てはめの評価を足すことができれば、さらに優秀・良好のレベルが狙えるでしょう。

4.今年の商法は、かなりの難問でした。設問1は手形が問われたというだけでなく、若干難しい部分を含んでいます。設問2では、最新判例(最判平27・2・29)に加え、細かい論点も問われています。もっとも、このような問題であっても、上記(1)から(3)までをしっかり守れば、優に合格答案となるでしょう。参考答案は、その一例です。最判平27・2・29については、「司法試験平成27年最新判例ノート」と、「司法試験定義趣旨論証集(会社法)」のいずれにも収録されていましたから、最新判例といえどもそれなりに準備して書けるようになっておきたいところでした。

5.参考答案では触れていない応用的な点について、いくつかここで説明しておきます。
 まず、設問1です。論点としては手形の偽造で、判例(最判昭43・12・24)は民法110条類推適用で処理するから、本問もそれを書いて当てはめて終わり、という感じもします。それで十分合格答案でしょう。ただ、厳密には、上記判例は、機関方式による場合も、無権限者による振出しである点で代理方式による場合と異ならないとして表見代理の類推適用を認めているだけですから、そもそも代理方式で行ったとしても表見代理の適用がないような場合には、民法110条の類推適用はないということになります。本問では、Cは経理事務員で、Aの指示に従って手形を作成して取引先に交付することもあったというだけですから、Cに基本代理権が認められるかを検討する必要があるでしょう。これを否定した場合には、民法110条の類推適用はできず、使用者責任(民法715条1項)で処理することになりそうです(最判昭32・7・16)。その場合、設問に対する解答としては、手形金支払請求を拒むことができる、ということになります。
 また、仮に110条類推適用を認めたとしても、正当事由における誤信の対象が問題です。本問の場合、経理事務員であるCに手形振出権限があるという誤信は、おそらく認めにくいでしょう。ですから、誤信の対象は、Cに振出権限がある、ということではなく、Aが真正に甲社を代表して本件手形を振り出した(Cは機械的補助者に過ぎない。)、ということになる。この場合、相手方は代理人(機関方式でいう署名代行者)の代理権(代行権)を誤信したのではなく、直接本人が行為したと誤信していることになるので、この場合にも表見代理の適用があるか、という問題が生じます。これは、通常の表見代理に関する判例(最判昭44・12・19)でも肯定されていますし、上記最判昭43・12・24は手形偽造の事案でもこれを肯定していますから、肯定の結論で問題ないでしょう。さらに、Aが本件手形交付当時意識不明であり、意思能力を欠いていることから、Cによる無権限の署名代行の瑕疵が治癒されたとしても、有効な代表行為とはならないのではないか、という点も問題となり得るでしょう。いずれにせよ、厳密には、上記のような論点をクリアする必要があるのです。
 次に、設問2です。Aの死亡によりA名義の株式が当然に分割されず、C、D及びEの準共有となることは、厳密には論点です。ここは、判例(最判平26・2・25)があるところです。

 

最判平26・2・25より引用。太字強調は筆者。)

 株式は,株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し,株主は,株主たる地位に基づいて,剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号),残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と,株主総会における議決権(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって(最高裁昭和42年(オ)第1466号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号804頁参照),このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された株式は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである(最高裁昭和42年(オ)第867号同45年1月22日第一小法廷判決・民集24巻1号1頁等参照)。

(引用終わり)

 

 相続による株式取得に対会社対抗要件(130条1項)を要するか、という点も、隠れた論点です。旧商法下では、当然に相続の場合も対会社対抗要件が必要であると考えられていました。これに対し、現在の会社法の下では、相続による株式取得には対会社対抗要件を要しない、というのが、立案担当者の立場です。

 

(旧商法206条1項)

 株式ノ移転ハ取得者ノ氏名及住所ヲ株主名簿ニ記載又ハ記録スルニ非ザレバ之ヲ以テ会社ニ対抗スルコトヲ得ズ

 

(会社法130条1項)

 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。

 

 会社法130条1項は、「譲渡」としているので、相続は含まないことは明らかでしょう、というわけです(会社法であそぼ。 「相続と名義書換の関係」も参照)。ただし、学説は、従来どおり、相続にも対会社対抗要件が必要である、という立場を維持するものが多いようです。参考答案は、不要説を前提にして書いています。仮に、必要説に立つ場合には、株式はA名義のままですから、それでも甲社がC、D及びEの準共有として扱ってよいか、すなわち、名義未了株主を会社が株主と認めることができるか、という典型論点を余計に書く必要が出てきます。本問はただでさえ書くことが多いですから、このような論点まで抱え込むことは、あまり得策とはいえないように思います。
 また、設問2は、「Dが会社法に基づき採ることができる手段」が問われています。「会社法に基づき」とある以上、文言上は、民事保全法上の差止仮処分(23条2項)は解答の対象とならないはずです。しかし、他の科目とは異なり、会社法だけは、この「会社法に基づき」や「会社法上の」という文言が民事保全法上の手段を排除しないという確立された傾向があるのです(「司法試験平成27年出題趣旨の読み方(行政法)」第2段落の項目参照)。したがって、「会社法に基づき採ることができる手段」には、民事保全法上の手段も含まれる点に注意が必要です。
 問題文では、「なお,これを論ずるに当たっては,本件株主総会の招集手続の瑕疵の有無についても,言及しなさい。」とわざわざ書いてあります。これはなぜか。それは、126条3項、4項の適用によって適法であることは明らかだけれども、この条文を現場で引けるかどうかは確認したい、という考査委員の意図があったからでしょう。仮に、このようななお書きを入れていないと、「126条の存在を知っているが、明らかに適法になるのだから書く必要はない。」という判断から、答案に書かない人が出てくるおそれがあります。そうなると、「知っているけど書かなかった人」と、「知らなくて書けなかった人」の区別が付きません。だから、わざわざ上記のようななお書きを入れたのでしょう。
 それから、気付きにくいマイナー論点として、Dは「株主」に当たるのか、という論点があります。106条本文の権利行使者でないと株主としての権利行使ができないのだから、Dは、合併差止請求の請求権者に当たらない、あるいは、Dには合併無効の訴えの原告適格が認められないのではないか、という問題です。この点については、株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格に関する判例(最判平2・12・4)があります。

 

最判平2・12・4より引用。太字強調は筆者。)

 株式を相続により準共有するに至った共同相続人は、商法二〇三条二項の定めるところに従い、右株式につき「株主ノ権利ヲ行使スベキ者一人」(以下「権利行使者」という。)を定めて会社に通知し、この権利行使者において株主権を行使することを要するところ(最高裁昭和四二年(オ)第八六七号同四五年一月二二日第一小法廷判決・民集二四巻一号一頁参照)、右共同相続人が準共有株主としての地位に基づいて株主総会の決議不存在確認の訴えを提起する場合も、右と理を異にするものではないから、権利行使者としての指定を受けてその旨を会社に通知していないときは、特段の事情がない限り、原告適格を有しないものと解するのが相当である。
 しかしながら、株式を準共有する共同相続人間において権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠く場合であっても、右株式が会社の発行済株式の全部に相当し、共同相続人のうちの一人を取締役に選任する旨の株主総会決議がされたとしてその旨登記されている本件のようなときは、前述の特段の事情が存在し、他の共同相続人は、右決議の不存在確認の訴えにつき原告適格を有するものというべきである。けだし、商法二〇三条二項は、会社と株主との関係において会社の事務処理の便宜を考慮した規定であるところ、本件に見られるような場合には、会社は、本来、右訴訟において、発行済株式の全部を準共有する共同相続人により権利行使者の指定及び会社に対する通知が履践されたことを前提として株主総会の開催及びその総会における決議の成立を主張・立証すべき立場にあり、それにもかかわらず、他方、右手続の欠缺を主張して、訴えを提起した当該共同相続人の原告適格を争うということは、右株主総会の瑕疵を自認し、また、本案における自己の立場を否定するものにほかならず、右規定の趣旨を同一訴訟手続内で恣意的に使い分けるものとして、訴訟上の防御権を濫用し著しく信義則に反して許されないからである。

(引用終わり)

 

 これらの細かい論点は、現場ではむしろ、「気付かない方が幸せ」という面もあります。気付いてしまうと、書きたくなるからです。しかし、書こうとすると、時間・紙幅がすぐに足りなくなる。特に、2日目の午後は疲労がピークに達しているので、ここで無理をすると、まとめ切れずに失敗したり、民訴を解く時間がなくなったりします。ですから、この辺りの論点は、気付いても無視した方がよいでしょう。なお、総会決議取消事由を合併差止事由や合併無効事由とする場合に、決議取消の訴えの出訴期間内に主張することを要するかについても、参考答案では触れていませんが、付随的に論点となり得ます。これは、設問2の最後の方で書くことですし、比較的知っている人の多い論点ですから、時間の余裕を見て、場合によっては触れてもよいでしょう。

6.参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(会社法)」に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.甲社は、Cが本件手形を偽造したから、手形債務は発生していないとして、手形金支払請求を拒むことはできるか。

2.手形が偽造された場合には、被偽造者は原則として手形債務を負わないが、受取人において、被偽造者が振り出したと信じるにつき正当な理由があるときは、民法110条を類推適用すべきである(判例)。
 本件では、甲社は、Aの入院を取引先等に伏せていたこと、Cは、かねてより、Aの指示に従って、手形を作成して取引先に交付することもあったこと、振出日である平成27年12月25日は、甲社が乙社から仕入れた太陽光パネルの代金2000万円の支払日であったこと、Cは、集金に来た乙社の従業員に交付したことからすれば、受取人である乙社において、Aが甲社を代表して振り出したと信じるにつき正当な理由がある。
 したがって、民法110条の類推適用により、甲社は、乙社に対し、本件手形につき手形債務を負担する。

3.丙社は、乙社から本件手形の裏書譲渡を受けたから、本件手形に係る手形上の権利を取得した(手形法77条1項1号、11条1項、14条1項)。

4.よって、甲社は、本件手形に係る手形金支払請求を拒むことはできない。

第2.設問2

1.効力発生前の手段

(1)吸収合併差止請求(784条の2)が考えられる。

(2)法令・定款違反(同条1号)はあるか。

ア.DEに対する本件株主総会の招集通知を欠く点について

 Aの死亡により、A名義の株式は、CDEの準共有となる(民法898条、899条)。A名義の株式について、通知催告受領者の指定及び通知(126条3項)がされたとの事実はない。したがって、甲社が、CDEのうち、Cのみに招集通知を送付した点は、適法である(同条4項)。
 よって、この点に法令・定款違反はない。

イ.CがA名義の全株式につき議決権行使をした点について

(ア)A名義の株式について、106条本文の権利行使者の指定及び通知はされていなかったが、甲社の同意がある。同条ただし書により、Cの議決権行使は適法とならないか。
 106条ただし書の同意は、同条本文の適用を排除するにとどまるから、会社が同条ただし書の同意をした場合であっても、権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、当該権利行使は違法である。そして、106条ただし書の同意がある場合の準共有株式の議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、管理行為(民法264条、252条本文)として、持分過半数によって決定すべきである(判例)。
 本件で、Cの議決権行使は本件吸収合併契約の承認に賛成するものであるから、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更するものといえ、上記特段の事情がある。したがって、上記議決権行使をするには共有者全員の同意が必要である(民法264条、251条)が、DEの同意がない。
 よって、Cの議決権行使は違法である。

(イ)以上から、本件株主総会決議には決議の方法に法令違反(831条1項1号)がある。DEの同意がない以上、本件吸収合併契約の承認に必要な議決権(309条2項12号)の賛成を得ることはできないから、上記違法は決議に影響を及ぼす。したがって、裁量棄却(831条2項)の余地はない。

(ウ)では、上記決議取消事由は、本件吸収合併の差止事由となるか。
 組織再編の無効の訴えとの関係において、決議取消事由は組織再編の無効事由となると考えられている(吸収説)。同様に、組織再編に関する株主総会決議に取消事由があることは、適法な株主総会決議を欠くものとして法令違反となるから、組織再編の差止事由となると考えられる。
 したがって、上記決議取消事由は、本件吸収合併の法令違反として、差止事由となる。

ウ.よって、本件吸収合併には、法令違反がある。

(3)本件吸収合併によって甲社が消滅する以上、甲社株主であるDが不利益を受けるおそれ(784条の2柱書本文)がある。

(4)よって、Dは、吸収合併差止請求をすることができる。

2.効力発生後の手段

(1)吸収合併無効の訴え(828条1項9号)が考えられる。

(2)前記1(2)イ(イ)のとおり、本件株主総会決議には取消事由がある。これは本件吸収合併の無効事由となるか。

ア.組織再編の無効事由は、法的安定性の見地から、重大な瑕疵がある場合に限られるが、組織再編に必要な株主総会特別決議を欠く場合には、株主総会特別決議を欠いた瑕疵は重大であるから、無効事由となる。

イ.では、株主総会決議に取消事由がある場合、決議取消しの訴えによるべきか。
 組織再編の効力発生後は、その効力は組織再編の無効の訴えによってのみ争うことができる(828条1項7号から12号まで)以上、組織再編に関する株主総会決議の瑕疵は上記訴えによってのみ争うことができ、株主総会決議の無効確認又は取消しの訴えは、訴えの利益を欠く(吸収説)。組織再編に関する株主総会決議の取消判決がなくても組織再編の無効の訴えによって争い得るのは、決議取消事由があること自体が、適法な承認決議を欠くものとして組織再編の無効事由となると考えられるからである。

ウ.したがって、本件株主総会決議には取消事由があることは、本件吸収合併の無効事由となる。

(3)よって、Dは、吸収合併無効の訴えを提起することができる。

以上

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2016年07月22日

平成28年予備試験論文式民法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験における合格ラインは、平成25年、26年は、「一応の水準」の下限でした。昨年は、「一応の水準」の真ん中より少し下の辺りになっています(平成27年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。この水準を超えるための十分条件といえるのが、

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記が当然にできているという前提の下で、優秀・良好のレベルに達するために必要となる場合があるに過ぎません。また、実際には、上記の3つを守っただけで、優に良好の上位くらいの水準になってしまうこともあります。
 にもかかわらず、多くの人が、上記優秀・良好レベルの事柄を過度に重視しているように思います。現場思考で応用論点を拾いに行ったり、趣旨や本質から論じようとしたり、事実に丁寧に評価を付そうと努力するあまり、基本論点を落としてしまったり、規範を正確に示すことを怠っていきなり当てはめようとしたり、問題文中の事実をきちんと摘示することを怠ってしまい、結果として不良の水準に落ちてしまっているというのが現状です。

2.その原因としては、多くの人が、あまりにも上位過ぎる再現答案を参考にしようとしてしまっていることがあると思います。
 とはいえ、合格ラインギリギリの人の再現答案には、解答に不要なことや誤った記述などが散見されるため、参考にすることが難しいというのも事実です。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作ってみてはどうか、ということを考えました。

3.参考答案は、上記のようなコンセプトに基づいています。「本問で基本論点はどれですか」と問えば、多くの人が指摘できるでしょう。「その論点について解決するための規範は何ですか」と問えば、事前にきちんと準備している人であれば、多くの人が答えられるでしょう。「その規範に当てはまる事実は問題文中のどこですか、マーカーを引いてみてください」と問えば、多くの人が正確に示すことができるものです。下記の参考答案は、いわば、それを繋ぎ合わせただけの答案です。
 それなりの実力のある人が見ると、「何だ肝心なことが書いてないじゃないか」、「一言評価を足せば良い答案になるのに」と思うでしょう。優秀・良好レベルの答案を書いて合格できる人は、それでよいのです。しかし、合格答案を書けない人は、むしろ、「肝心なこと」を書こうとするあまり、最低限必要な基本論点、規範、事実の摘示を怠ってしまっているという点に気付くべきでしょう。普段の勉強で規範を覚えるのは、ある意味つまらない作業です。本試験の現場で、事実を問題文から丁寧に引用して答案に書き写すのは、バカバカしいとも思える作業です。しかし、そういう一見するとどうでもよさそうなことが、合否を分けているのが現実なのです。規範が正確でないと、明らかに損をしています。また、事実を引いているつもりでも、雑に要約してしまっているために、問題文のどの事実を拾っているのか不明であったり、事実を基礎にしないでいきなり評価から入っているように読める答案が多いのです。そういう答案を書いている人は、自分はきちんと書いたつもりになっているのに、点が伸びない。そういう結果になってしまっています。
 今回の参考答案は、やや極端な形で、大前提として抑えなければならない水準を示しています。合格するには、この程度なら確実に書ける、という実力をつけなければなりません。そのためには、規範を正確に覚える必要があるとともに、当てはめの事実を丁寧に摘示する筆力を身につける必要があるでしょう。これは、普段の学習で鍛えていくことになります。
 この水準をクリアした上で、さらに問題文の引用を上手に要約しつつ、応用論点にコンパクトに触れたり、趣旨・本質に遡って論述したり、当てはめの評価を足すことができれば、さらに優秀・良好のレベルが狙えるでしょう。

4.今年の民法は、これを単独で、70分1問として解くのであれば、特に難しくない問題です。しかし、実務基礎の3時間を解いた後に、3時間30分で民法、商法及び民事訴訟法をまとめて解くという現場の状況の下では、かなりの難問となります。午前の実務基礎で疲労しているだけでなく、民法を解いた後にも商法と民訴が待っている、という状況は、精神的にはかなりの重圧になります。そのため、早く民法を解いて、商法と民訴に取り掛かりたい、という焦りから、問題文の読み方が雑になったり、事実関係の整理が甘くなったりしやすいのです。当サイトが、「予備の論文は2日目の民事系が精神面で一番気を付ける必要がある。」と言っているのは、そのためです。本問は、B、C、Dの取り違えが生じやすく、しかも、その取り違え方によっては、論述内容に影響が出るおそれがあるという点が特徴です。おそらく、実際の現場では、途中でB、C、Dを取り違えて書いてしまった答案が一定数あるでしょう。こういったものは、事後的に作成する再現答案では、忠実に再現されないので、少し注意が必要です。この種の誤記は、普通の心理状態でも、ついやってしまうものです。現に、平成27年司法試験出題趣旨の民法では、登場人物を取り違える誤記を犯しています(「司法試験平成27年出題趣旨の読み方(民法)」参照。2016年7月22日現在においても、法務省HP上において、この誤記は訂正されていません。)。極度の疲労と緊張状態にある試験現場では、取り違えることもやむを得ないとはいえますが、それが論述内容に影響する場合には、得点を下げる原因になってしまいます。この点は、本問では隠れたポイントの1つだと思います。
 もう1つ、合否を分けるポイントは、いかに、規範の明示→当てはめの型に持っていくか、ということです。本問のような問題では、「俺も正解筋で書いたから合格答案だ。」と言う人が出てきますが、実際には、そうではありません。「規範→当てはめ」の型にはめて整然と書いてある答案と、一応筋はあっているけれども、規範と当てはめが渾然一体となっていたり、結論だけ書き殴ったような答案とでは、はっきりとした差が付くものです。この点も、冷静な心理状態であれば普通にできるのに、疲労と焦りが加わると、急にできなくなったりする。これが、本試験の魔力です。

 

【参考答案】

第1.DのBに対する請求について

1.乙機械購入のための増加代金分の費用(40万円)について

(1)他人物売主の担保責任に基づく損害賠償請求

 他人物売主の担保責任に基づく損害賠償請求をするためには、他人物であることにつき契約時に善意であることを要する(561条後段)。
 本件で、Bは、甲機械の所有者はCであること、甲機械の売却についてCの許諾はまだ得ていないことを本件売買契約時にDに説明した。したがって、Dは、他人物であることにつき契約時に悪意であった。
 よって、Dは、Bに対し、他人物売主の担保責任に基づく損害賠償請求をすることはできない。

(2)債務不履行に基づく損害賠償請求(415条後段)

ア.他人物売買において、売主の帰責事由によって他人の権利を取得して買主に移転する義務が履行不能となった場合には、買主は、売主に対し、415条後段に基づく損害賠償請求をすることができる(判例)。上記帰責事由が否定されるのは、不可抗力又はそれに準ずる事由がある場合に限られる。
 本件で、Bにおいて、甲機械が故障しており、Cが海外赴任中であったことから、Cが甲機械を使用するつもりはないだろうと考えただけであるから、不可抗力又はそれに準ずる事由があるとはいえない。
 したがって、Bに帰責事由があり、Dは、Bに対し、415条後段に基づく損害賠償請求をすることができる。

イ.では、乙機械購入のための増加代金分の費用(40万円)は、賠償の範囲(416条)に含まれるか。
 Dが、甲機械に代替する機械設備として、乙機械を購入したことは、通常事情である。もっとも、本件売買契約における代金額は、修理が必要であることから500万円とされたと考えられること、修理による増価は50万円であることからすれば、本件売買契約における代金額と乙機械購入費用との差額が、本件売買契約の不履行により通常生じ得る損害であるとはいえない。
 したがって、賠償の範囲に含まれない。

ウ.よって、Dは、Bに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求として、乙機械購入のための増加代金分の費用(40万円)を請求することはできない。

(3)以上から、Dの請求は、認められない。

2.修理による甲機械の価値増加分(50万円)について

(1)Dは、Bに対し、前記1(2)アの債務不履行(415条後段)に基づく損害賠償請求として、修理による甲機械の価値増加分(50万円)のうち、20万円の支払を請求できるか。

(2)修理による甲機械の価値増加分(50万円)のうち、修理費用30万円との差額である20万円については、本件売買契約によってDが得られたはずの履行利益である。上記事情は特別事情であるが、Bは、本件売買契約の際、甲機械を稼働させるためには修理が必要であることをDに説明したから、上記事情につき予見可能であった。したがって、上記利益は賠償の範囲に含まれる(416条2項)。

(3)よって、Dは、Bに対し、20万円の支払を請求できる。

3.甲機械の使用料相当額(25万円)の控除について

(1)Bは、Dに対し、上記20万円の損害賠償義務のほか、解除に基づく原状回復義務として代金500万円の返還義務を負うが、それらの額から甲機械の使用料相当額(25万円)を控除すべきとするBの主張は認められるか。

(2)Bの主張が認められるためには、Dが、Bに対し、解除に基づく原状回復義務として、甲機械の使用料相当額(25万円)の返還義務を負うことが必要である。

ア.解除は契約の巻戻しであるから、他人物売買において、売買契約が解除された場合には、返還すべき使用利益は、所有権者ではなく、売主に返還すべきである(判例)。
 本件で、Dは、使用利益を返還すべき場合には、Cではなく、Bに返還すべきである。

イ.もっとも、解除は契約の巻戻しであるから、売買契約が解除された場合には、575条を類推適用すべきである。
 本件では、同条1項の類推適用により、甲機械を返還するまでの使用利益は、Dに帰属する。
 したがって、Dは、Bに対し、使用利益の返還義務を負わない。

(3)よって、Bの主張は、認められない。

第2.DのCに対する請求について

1.Dは、Cに対し、必要費償還請求権(196条1項)に基づき、修理による甲機械の価値増加分(50万円)のうち、30万円の支払を請求できるか。

(1)ア.必要費とは、物の維持又は保存に必要な費用をいう。本件では、甲機械を稼働させるためには修理が必要であったから、修理費用は物の維持又は保存に必要な費用といえ、必要費に当たる。

イ.Dは、既に甲機械をCに返還しているが、公平の観点から、なお「占有者」に当たる。

ウ.Dは、Cから甲機械につき、所有権に基づく返還請求を受け、これをCに返還したから、Cは「回復者」に当たる。

エ.Dは甲機械の使用利益を収受しているが、休業中に生じた数箇所の故障を修理する特別の必要費であるから、同項ただし書は適用されない。

(2)よって、Dは、Cに対し、支出した30万円を償還請求できる。

2.甲機械の使用料相当額(25万円)の控除について

(1)DのCに対する必要費償還請求の額である30万円から甲機械の使用料相当額(25万円)を控除すべきとするCの主張は認められるか。

(2)Cの主張が認められるためには、Dが、Cに対し、190条に基づき、甲機械の使用料相当額(25万円)の返還義務を負うことが必要である。
 前記第1の3(2)アのとおり、他人物売買における買主は、使用利益を売主に返還すべきであるから、所有権者に対し、190条に基づく返還義務を負わない。
 本件で、Dは、Cに対し、190条に基づく返還義務を負わない。

(3)よって、Cの主張は、認められない。

以上

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情況証拠の観点から見た事実認定
民事訴訟における要件事実 第2巻
民事訴訟における要件事実 増補 第1巻
書記官研修講義案等