2020年03月26日

検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について

1.平成28年以降の司法試験では、年ごとに試験内容等に関する検証を行うこととされています。

 

 (「平成28年以降における司法試験の方式・内容等の在り方について」(平成27年6月10日司法試験委員会決定)より引用。太字強調は筆者。)

第3.出題の在り方等についての検証体制

1.検証体制の位置付け

  司法試験考査委員は,これまでも毎年の出題等に関する検証を行ってきたものであるが,今後,出題等に関するより一層の工夫が求められることを踏まえ,その工夫の趣旨や効果等を検証するとともに,各科目・分野を横断して認識を共有し,その後の出題等にいかすため,年ごとに,各科目・分野の考査委員の中から検証担当考査委員を選任し,その年の司法試験実施後において,共同してその年の試験についての検証を行うこととする。

2.検証体制の構成

  検証担当考査委員については,研究者と実務家の考査委員の双方を含めるとともに,実務家については,法曹三者を全て含めることとする。

3.検証の対象

 検証担当考査委員による検証については,その年の短答式試験及び論文式試験の出題のみならず,成績評価や出題趣旨・採点実感等も対象とする

4.検証結果の取扱い

  検証担当考査委員による検証の結果については,適切な方法で司法試験委員会に報告するとともに,その後の出題等にいかすこととする。

(引用終わり)

 

 第155回司法試験委員会会議において、令和元年司法試験の検証結果が報告されました。

 

(「司法試験委員会会議(第155回)議事要旨」より引用。太字強調は筆者。)

○ 検証の結果

・ 短答式試験については,問題文の字数・頁数等の分量や設問ごとの正答率等の難易度において近年の短答式試験とほぼ同水準であり,合計点の平均点についても同様に高い水準を示し,外部からも総じて高い評価を得るなど,いずれの科目についても基本的知識を問う出題傾向で安定しており,引き続き,基本的知識を問いつつも受験者の能力を適切に識別し得るとの出題方針を継続することが望ましいとされた。

・ 論文式試験については,前年の試験の検証を踏まえ,問題作成に当たり一層の工夫がなされ,全体として高評価を得たところであるが,引き続き,他の科目分野における工夫やその成果のうち特に有用なものを参考にするなどして,受験者に対して過度に事務処理能力を求める結果とならないよう,問題文,資料,設問の分量について十分に配慮しつつ,受験者の事例解析能力,論理的思考力,法解釈・法適用能力等を適切に判定することができるよう工夫することとされた。

・ 出題の趣旨及び採点実感については,引き続き,出題の趣旨・採点実感の公表を通じて,受験者の学習の指針となるような必要十分な情報発信に努めることとされた。

・ そのほか試験の在り方全般について意見交換を行った上,今回の検証結果を今後の司法試験に適切に反映させるとともに,今後とも司法試験が適正に実施されるよう,検証方法にも工夫を加えながら検証を継続していくことが有用であるとの認識で一致した。

(引用終わり)

 

 短答については、今のままの傾向が続きそうだ、ということがわかります。他方、論文では、「受験者に対して過度に事務処理能力を求める結果とならないよう,問題文,資料,設問の分量について十分に配慮しつつ…工夫する」とされています。これは、これまでの検証結果でも繰り返し指摘されていたことです。

 

(「司法試験委員会会議(第131回)議事要旨」より引用。太字強調は筆者。)

 平成28年司法試験の検証の経過及び結果について,検証担当考査委員から報告がなされ,これを踏まえて協議を行った。

 (中略)

2 論文式試験については,必須科目に関し,出題における事例の分量及び設問の個数が増大しつつあることから,受験生に過度に事務処理能力を求めるのではなく,事案分析能力・論理的思考力等の能力を適切に判定することができるよう今後一層留意する

(引用終わり)

(「司法試験委員会会議(第138回)議事要旨」より引用。太字強調は筆者。)

(3) 平成29年司法試験の検証結果について(報告・協議)

 (中略)

・ 論文式試験については,必須科目・選択科目とも,問題の内容に関し,総じて高い評価が示され,問題の分量に関しても,多くの必須科目において前年より減少するなど,平成28年司法試験の一連の検証が反映されたものとなったとの評価で一致した。他方で,一部の科目分野において,なお分量が多いのではないかなどの指摘もあった。
 こうした評価・指摘を踏まえ,論文式試験について,受験者の事例解析能力,論理的思考力,法解釈・法適用能力等を適切に判定することができるよう,より一層工夫し,特に,受験者に対して過度に事務処理能力を求める結果とならないよう,出題に当たっては,問題文,資料,設問の分量について十分に配慮するとの認識で一致した。

(引用終わり)

(「司法試験委員会会議(第146回)議事要旨」より引用。太字強調は筆者。)

(1) 平成30年司法試験の検証結果について(報告・協議)

 (中略)

・ 論文式試験については,前年試験の検証結果も踏まえるなどして,問題作成に当たり一層の工夫がなされ,基本的知識,論理的思考力,判断枠組みを事案に当てはめる能力等の様々な能力を問う出題であることなどを理由に高い評価が示されるなど全体として高評価を得たところであるが,一部の科目分野については,なお出題論点等の分量や難易度等について改善が必要であるとの意見が出されるなどしたところであり,引き続き,受験者に対して過度に事務処理能力を求める結果とならないよう,問題文,資料,設問の分量について十分に配慮しつつ,受験者の事例解析能力,論理的思考力,法解釈・法適用能力等を適切に判定することができるよう工夫することとされた。

(引用終わり)

 

 憲法で三者形式が採られなくなり、刑法でやや理論重視の傾向がみえるようになったことなど、近時の若干の傾向変化は、上記のような検証結果を受けたものとみることができるでしょう。そうすると、今後も、この傾向変化は続きやすいといえそうです。

2.なお、上記の検証結果が予備試験に直接影響する可能性は、それほど高くないでしょう。もともと、司法試験の検証は、「司法試験をもっと簡単にしろ。」という圧力をかけるためのもの、すなわち、「法科大学院制度がうまくいかないのは、司法試験が難しすぎるせいだ。(法科大学院が悪いのではなく、司法試験委員会が悪い。)」という法科大学院関係者からの批判を契機とするものだからです。

 

法曹の養成に関するフォーラム論点整理(取りまとめ)(平成24年5月10日)より引用。太字強調は筆者。)

  現在の合否判定は,受験者の専門的学識・能力の評価を実質的に反映した合理性のあるものになっているか疑問とする余地があり,合格者数が低迷しているのは合格レベルに達しない受験者が多かったからだと直ちに断定することはできず,合否判定の在り方についても見直す必要があるのではないか,法曹になるために最低限必要な能力は何かという観点から合格水準について検討すべきではないか,新たな法曹養成制度の下で司法試験合格者に求められる専門的学識・能力の内容や程度について,考査委員の間に共通の認識がないのではないか,新司法試験の考査委員には,法科大学院での教育やその趣旨についての理解が十分でないまま,旧来の司法試験と同様の意識や感覚で合否の決定に当たっている者も少なくないのではないかと疑われるとの意見があり,また,この立場から,考査委員の選任や考査委員会議の在り方等について工夫してはどうか(例えば,考査委員代表者を中心にする少人数の作業班により答案の質的レベル評価を反映する合格ラインの決定を行う等)との意見があった。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第48回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

井上正仁座長代理 やはり旧来どおりの司法試験の在り方やその結果が絶対だと見る既存のものの考え方が根強く残っている。新しい法曹養成制度になったときに、制度の趣旨に照らしてその点を見直し、その結果として前のとおりで良いと意識的に判断して、そうしているならば、それはそれで一つの考え方だと思うのですけれども、果たしてそのような意識的な検討が十分なされたのかどうか。新たな法曹養成制度の下で、特に多様なバックグラウンドの方をたくさん受け入れて、法曹の質を豊かなものにしていこうというのが大きな理念であるはずですが、それに適合した選別の仕方がなされているのかどうか。その辺について内部では議論されているのかもしれないのですけれど、司法試験委員会ないし考査委員会議は、守秘義務の壁の向こうにあるものですから、よく分からない。しかし、そういったところも、やはり検証する必要がある

井上正仁座長代理 司法試験については、司法試験委員会ないし法務省の方の見解では、決して数が先にあるのではなく、あくまで各年の司法試験の成績に基づいて、合格水準に達している人を合格させており、その結果として、今の数字になっているというのです。確かに、閣議決定で3,000人というのが目標とはされているのだけれども、受験者の成績がそこまでではないから、2,000ちょっとで止まっているのだというわけです。それに対しては、その合格者決定の仕方が必ずしも外からは見えないこともあり、本当にそうなのかどうか、合格のための要求水準について従来どおりの考え方でやっていないかどうかといった点も検証する必要がある

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第68回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

井上正仁座長 法科大学院制度発足のときにも,必ずしも法廷活動を中心にする狭い意味の法曹の育成を専ら念頭に置いていたというわけではなく,社会のいろいろな方面に法曹資格,あるいは,それに匹敵するような能力を備えた人が進出していき,その専門的能力を活(い)かして様々な貢献をするということが目指すべき理想とされ,そういう理念で出発したはずなのですけれども,その後,現実には司法試験というものの比重が非常に重いため,どうしても狭い意味の法曹というところに焦点が絞られるというか,多くの関係者の視野が狭くなってしまっていると言うことだと思います。これまでの本委員会でも,度々同じような御意見が出,議論もあったところですが,何かもう少し具体的な形で議論できるようにすることを考えていきたいと思っています。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第75回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

上田信太郎(北大)委員 私は,法科大学院教育そのものに内在している問題もあるとは思いますけれども,それよりは,やはりちょっと難しいかもしれませんが,司法試験の方をどこか根本的に変えていくほかないのではないかなと。特に今,4人受ければ3人落ちる試験になっています。あるいは5人受けると4人落ちてしまう試験になっています。そうした中で,いわゆる純粋未修と言われている人たちが3年間で法科大学院のカリキュラムを消化していけば,きっちりと受かるというようなことを司法試験の側で示していかないと,なかなか我々法科大学院教育の携わる者として,特効薬というか,そういうものを見付け出していくというのはもう既に難しい段階に来ているのではないかなとも思います。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第78回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

鎌田薫(早大総長)委員 出口で想定している法曹像が,新しい制度を作ったときにイメージしていた法曹像と,実際の司法試験で合格させている人との間のずれが非常に大きいということなのではないかと思うんです。…ありとあらゆる法律に詳細な知識を詰め込んでいるのではない人を作ろうというのがこの制度だったはずですけれども,司法試験はそれに応じた改革がなされていないということであれば,結局,司法試験に通るための準備に四年,五年は最低掛かりますというふうなことになっていくのはやむを得ないのかなと思う反面,そこの目標に達するための手段として,法科大学院に行くほかに予備試験があるという制度が存在しているとしたら,法科大学院というのは一体どんな役割を果たすのか。 

 (中略)

井上正仁(早大)座長 法曹となる段階で要求される学力ないし専門的学識が相当レベルの高いものであり,それがそのまま維持されたままですと,学力不足とされる人が増えることになるおそれが出てきます。そして,それがまた,ロースクールを出ても役に立たない,ロースクールは役割を果たしていない,といった評価に走らせかねませんので,その辺のところをやはり十分注意深く考えていく必要があると思うのです。

(引用終わり)

 (「法曹養成制度検討会議取りまとめ」(平成25年6月26日)より引用。太字強調は筆者。)

 具体的な方式・内容,合格基準・合格者決定の在り方に関しては,司法試験委員会において,現状について検証・確認しつつより良い在り方を検討するべく,同委員会の下に,検討体制を整備することが期待される

 (引用終わり)

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日)より引用。太字強調は筆者。)

 司法試験の具体的方式・内容、合格基準・合格者決定の在り方に関しては、司法試験法の改正等を踏まえ、試験時間等に一定の変更が加えられたものであるが、今後においても、司法試験委員会において、継続的な検証を可能とする体制を整備することとしたことから、検証を通じ、より一層適切な運用がなされることを期待する

(引用終わり)  

 

 このように、検証は、飽くまで法科大学院修了生が司法試験に受かりやすくなるようにして欲しい、という方向性で要求されてきたものです。法科大学院関係者からすれば、予備試験はクソ難しくても構わない。難しすぎて、誰も予備試験を受験したがらない方が、むしろ法科大学院に来る人が増えて都合がいい。そういうわけで、予備試験については、司法試験に対して向けられているような圧力は存在しないので、司法試験と直接連動するような傾向変化は生じにくいといえるのです。

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