2019年06月02日

令和元年司法試験論文式民事系第2問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.司法試験の論文式試験において、合格ラインに達するための要件は、概ね

(1)基本論点抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを摘示できている。

という3つです。とりわけ、(2)と(3)に、異常な配点がある。(1)は、これができないと必然的に(2)と(3)を落とすことになるので、必要になってくるという関係にあります。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記の配点をすべて取ったという前提の下で、優秀・良好のレベル(概ね500番より上の順位)に達するために必要となる程度の配点があるに過ぎません。 

2.ところが、法科大学院や予備校では、「応用論点に食らいつくのが大事ですよ。」、「必ず趣旨・本質に遡ってください。」、「事実は単に書き写すだけじゃダメですよ。必ず自分の言葉で評価してください。」などと指導されます。これは、必ずしも間違った指導ではありません。上記の(1)から(3)までを当然にクリアできる人が、さらなる上位の得点を取るためには、必要なことだからです。現に、よく受験生の間に出回る超上位の再現答案には、応用、趣旨・本質、事実の評価まで幅広く書いてあります。しかし、これを真似しようとするとき、自分が書くことのできる文字数というものを考える必要があります。
 上記の(1)から(3)までを書くだけでも、通常は6頁程度の紙幅を要します。ほとんどの人は、これで精一杯です。これ以上は、物理的に書けない。さらに上位の得点を取るために、応用論点に触れ、趣旨・本質に遡って論証し、事実に評価を付そうとすると、必然的に7頁、8頁まで書くことが必要になります。上位の点を取る合格者は、正常な人からみると常軌を逸したような文字の書き方、日本語の崩し方によって、驚異的な速度を実現し、7頁、8頁を書きますが、普通の考え方・発想に立つ限り、なかなか真似はできないことです。
 文字を書く速度が普通の人が、上記の指導や上位答案を参考にして、応用論点を書こうとしたり、趣旨・本質に遡ったり、いちいち事実に評価を付していたりしたら、どうなるか。必然的に、時間不足に陥ってしまいます。とりわけ、上記の指導や上位答案を参考にし過ぎるあまり、これらの点こそが合格に必要であり、その他のことは重要ではない、と誤解してしまうと、上記の(1)から(3)まで、とりわけ(2)と(3)を省略して、応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいってしまう。これは、配点が極端に高いところを書かずに、配点の低いところを書こうとすることを意味しますから、当然極めて受かりにくくなるというわけです。

3.上記のことを理解した上で、上記(1)から(3)までに絞って答案を書こうとする場合、困ることが1つあります。それは、純粋に上記(1)から(3)までに絞って書いた答案というものが、ほとんど公表されていないからです。上位答案はあまりにも全部書けていて参考にならないし、合否ギリギリの答案には上記2で示したとおりの状況に陥ってしまった答案が多く、無理に応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいって得点を落としたとみられる部分を含んでいるので、これも参考になりにくいのです。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作れば、それはとても参考になるのではないか、ということを考えました。下記の参考答案は、このようなコンセプトに基づいています。

4.参考答案の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(会社法)」及び「司法試験平成29年最新判例ノート」の付録の論証集に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.持株要件

 臨時株主総会を自ら招集する場合には、総株主の議決権の3%以上を6か月前から継続保有することを要し(297条1項)、定時株主総会の開催に当たり株主提案権を行使する場合には、総株主の議決権の1%以上又は300個以上の議決権を6か月前から継続保有することを要する(303条2項、305条1項ただし書)。
 乙社は、平成29年5月の時点で甲社の総株主の議決権の4%を、同年9月の時点で同9.8%を、平成30年1月の時点で同15%を保有するに至ったから、いずれの場合でも持株要件を満たす。

2.臨時株主総会を自ら招集する場合の手続

(1)乙社は、株主総会の招集権を有する取締役であるA(甲社定款14条1項)に対し、議題と招集の理由を示して、株主総会の招集を請求する。請求後遅滞なく招集の手続が行われない場合、請求日から8週間以内の日を株主総会の日とする招集通知が発せられない場合には、乙社は、裁判所の許可を得て招集できる。

(2)上記の場合には、乙社は、招集事項の決定(298条)、招集通知(299条)、株主総会参考書類・議決権行使書面の交付等(301条、302条)をしなければならない(298条1項括弧書き、4項)。

(3)臨時株主総会には甲社定款13条の適用はなく、乙社が基準日を定める(124条1項準用)。基準日を定めたときは、その基準日の2週間前までの公告を要する(同条3項本文準用)。

(4)議長は、甲社定款14条にかかわらず、総会で選任する。

3.定時株主総会の開催に当たり株主提案権を行使する場合の手続

(1)乙社は、株主総会の日の8週間前までに、Aに対し、一定の事項を議題とすることを請求する(303条1項、2項後段)。
 甲社が無視した場合であっても、そもそも株主の提案した議題は株主総会の目的となっていない以上、特段の事情がない限り、可決された別の議題に係る決議の取消原因となることはない(HOYA事件参照)。ただし、過料の制裁がある(976条19号)。

(2)乙社は、上記請求に係る議題につき議案を提出でき、Aに対し、株主総会の日の8週間前までに、議案の要領の通知等を請求できる(305条1項本文)。甲社が無視し、上記議題に係る甲社提出議案が可決された場合には、株主が提出しようとする議案についての議題に係る会社提出議案を可決した決議について、決議の方法の法令違反があるから、当該決議には取消事由(831条1項1号)がある。

(3)基準日は平成30年3月31日であり(甲社定款13条)、Aが議長となる(同14条1項)。

4.比較検討すると、臨時株主総会を自ら招集する場合の方が手続を主導できるが、その反面で負担が重いといえる。

第2.設問2

1.乙社は、新株予約権無償割当ての差止請求を本案とする差止仮処分命令(民事保全法23条2項)の申立て(同法2条1項)をすることが考えられる。

2.乙社としては、247条は新株予約権無償割当てにも類推適用され、本件新株予約権無償割当ては株主平等原則(109条)に反する(247条1号)か、著しく不公正(同条2号)であると主張することが考えられる。

3.新株予約権無償割当てによっては既存株主の持株比率や株式価値は影響しないのが通常であるから、既存株主の地位に実質的変動を及ぼす場合を除き、247条を類推適用することはできない(ブルドックソース事件参照)。
 本件新株予約権無償割当てにおいては、既存株主一般は甲社の株式1株につき2個の割合で新株予約権が割り当てられ(概要(1))、新株予約権1個の行使により、甲社の普通株式1株を払込金額1円で取得できる(概要(5)、(6))のに、乙社のみ新株予約権を行使できないとされた(概要(8))。また、取締役会決議により甲社が新株予約権を取得する場合に、乙社以外の株主については取得対価は新株予約権1個につき甲社の普通株式1株とされたのに、乙社については1円とされた(概要(10)本文)。乙社の地位に実質的変動を及ぼすといえる。
 したがって、247条が類推適用される。

4.株主平等原則(109条)の趣旨は、新株予約権無償割当ての場合についても及ぶ(278条2項参照)。もっとも、特定株主を差別的に取り扱う買収防衛策は、特定株主の経営支配権の取得により会社の企業価値が毀損される場合であって、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでないときは、株主平等原則に反しない(ブルドックソース事件判例参照)。特定株主の経営支配権の取得により会社の企業価値が毀損されるか否かは、株主総会の判断の正当性を失わせる重大な瑕疵が存在しない限り、株主総会の判断を尊重すべきである(同判例参照)。

(1)本件株主総会には、甲社の総株主の議決権の90%を有する株主が出席し、本件会社提案に係る議案は出席株主の67%の賛成により可決され、本件株主提案に係る議案はいずれも否決されたから、本件株主総会は、乙社の経営支配権の取得により会社の企業価値が毀損されると判断したといえる。本件株主総会の招集の手続・議事は適法であったから、上記判断の正当性を失わせる重大な瑕疵は存在しない。したがって、上記判断を尊重すべきである。

(2)しかし、乙社に対する取得対価は新株予約権1個につき1円である(概要(10)本文)こと、乙社がこれ以上の甲社株式の買増しを行わない旨を確約した場合に、甲社取締役会決議により、本件新株予約権無償割当てにより株主に割り当てた新株予約権の全部を無償で取得「することができる」とされ(同ただし書)、「しなければならない」とはされていないことからすれば、衡平の理念に反し、相当性を欠く。

(3)したがって、本件新株予約権無償割当ては、株主平等原則に反する。また、上記(2)からすれば、著しく不公正である。

5.よって、乙社の主張は、正当である。

第3.設問3

1.本件決議1は、会社財産処分の決定権を取締役会に帰属させた法令(362条2項1号、4項1号)に違反し、無効(830条2項)ではないか。
 非公開会社において代表取締役選定権を株主総会にも付与する定款規定は、株主総会の決議事項(295条2項)として定款で定める内容を制限する明文の規定はないこと、代表取締役の選定・解職に関する取締役会の権限(362条2項3号)は否定されず、取締役会の監督権限の実効性を失わせるとはいえないことから、有効である(判例)。このことは、公開会社において会社財産処分の決定権を株主総会にも付与する定款規定にも当てはまる。取締役会決議事項について295条3項のような規定もない。したがって、362条2項1号、4項1号に違反しない。
 よって、本件決議1は、有効である。

2.役員等の任務懈怠責任(423条1項)が発生するためには、任務懈怠、故意・過失(428条1項反対解釈)、損害の発生、損害との因果関係が必要である。

(1)「任務を怠った」(423条1項)とは、法令又は定款に違反したことをいう。将来予測にわたる経営上の専門的判断に委ねられている事項についての取締役の行為は、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務(330条、民法644条)に違反しない(アパマン事件判例参照)。
 確かに、本件決議1は有効であり、本件決議2では、遅くとも平成30年度中にP倉庫を売却するとされている。
 しかし、本件決議1は取締役会が有する会社財産処分の権限を否定しない。本件決議1と本件決議2の後に、大地震によりQ倉庫が倒壊したため、P倉庫を売却すると、競合他社に多数の顧客を奪われるなど、50億円を下らない損害が甲社に生ずることが見込まれた。他方で、P倉庫の近隣の不動産価格が下落する兆候は、うかがわれなかった。本件決議2の理由は遊休資産であるP倉庫を売却して剰余金の配当を増額すべきとする点にあり、Q倉庫が倒壊してP倉庫が遊休資産でなくなったこと、売却による利益は約15億円であるのに対し、損失は50億円を下らないこと、交渉を中止しても違約金等の負担がないこと、甲社の資本金の額は20億円、総資産額は250億円、直近数年の平均的な年間売上高は300億円であることも考慮すれば、本件決議2に従いP倉庫を売却する旨の決定の内容は著しく不合理である。
 したがって、本件決議2に従いP倉庫を売却する旨の議案を提案し、賛成したAには善管注意義務違反があり、「任務を怠った」といえる。

(2)Aは、甲社の損害を予見しており、故意がある。

(3)P倉庫の売却により、多数の顧客を奪われるなどした結果、多大な損害が甲社に発生したから、損害の発生・因果関係がある。

(4)よって、Aは、423条1項の責任を負う。

以上

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