2018年10月08日

平成30年司法試験の結果について(11)

1 今回は、選択科目についてみていきます。まずは、選択科目別にみた短答の受験者合格率です。

科目 短答
受験者数
短答
合格者数
短答
合格率
倒産 758 577 76.1%
租税 358 239 66.7%
経済 848 598 70.5%
知財 714 481 67.3%
労働 1481 1099 74.2%
環境 305 183 60.0%
国公 64 36 56.2%
国私 672 456 67.8%

 短答は、選択科目に関係なく同じ問題ですから、どの科目を選択したかによって、短答が有利になったり、不利になったりすることはありません。ですから、どの選択科目で受験したかと、短答合格率の間には、何らの相関性もないだろうと考えるのが普通です。しかし実際には、選択科目別の短答合格率には、毎年顕著な傾向があるのです。
 その1つが、倒産法の合格率が高いということです。今年の数字をみても、倒産法が合格率のトップです。このことは、倒産法選択者に実力者が多いことを意味しています。倒産法ほどではありませんが、労働法も似たような傾向です。
 逆に、国際公法は、毎年短答合格率が低いという傾向があります。今年も、国際公法はダントツの合格率ワースト1位。全体の短答合格率は70.0%ですから、それよりも14%ほど低い合格率です。このことは、国際公法選択者に実力者が少ないことを意味しています。国際公法ほど顕著ではありませんが、環境法も類似の傾向です。
 また、新司法試験開始当初は、国際私法も合格率が低い傾向だったのですが、最近では、そうではなくなってきています。その原因の1つには、大学在学中の予備試験合格者の選択が増えている、ということがありそうです。国際私法は、他の選択科目よりも学習の負担が少なく、渉外系法律事務所への就職を狙う際に親和性がありそうにみえる、ということが、その理由のようです。

2 論文合格率をみてみましょう。下記は、選択科目別の短答合格者ベースの論文合格率です。

科目 短答
合格者数

論文
合格者数

論文
合格率
倒産 577 240 41.5%
租税 239 101 42.2%
経済 598 265 44.3%
知財 481 192 39.9%
労働 1099 466 42.4%
環境 183 67 36.6%
国公 36 25.0%
国私 456 185 40.5%

 論文段階では、どの科目を選択したかによる影響が多少出てきます。もっとも、各選択科目の平均点は、全科目平均点に合わせて、どの科目も同じ数字になるように調整され、得点のバラ付きを示す標準偏差も、各科目10に調整されます。ですから、基本的には、選択科目の難易度によって、有利・不利は生じないはずなのです(※)。したがって、論文段階における合格率の差も、基本的には、どのような属性の選択者が多いか、実力者が多いのか、そうではないのか、といった要素によって、変動すると考えることができるのです。
 ※ 厳密には、個別のケースによって、採点格差調整(得点調整)が有利に作用したり、不利に作用したりする場合はあり得ます。極端な例で言えば、ある選択科目が簡単すぎて、全員100点だったとしましょう。その場合、全科目平均点の得点割合が45%だったとすると、得点調整後は全員が45点になります(なお、この場合は調整後も標準偏差が10にならない極めて例外的なケースです。)。この場合、選択科目の勉強をたくさんしていた人は、損をしたといえるでしょうし、逆に選択科目をあまり勉強していなかった人は、得をしたといえます。もっとわかりやすいのは、ある選択科目が極端に難しく、全員25点未満だった場合です。この場合は、素点段階で全員最低ライン未満となって不合格が確定する。これは、その選択科目を選んだことが決定的に不利に作用したといえるでしょう。このように、特定の選択科目が極端に難しかったり、易しかったりした場合などでは、どの科目を選んだかが有利・不利に作用します。とはいえ、通常は、ここまで極端なことは起きないので、科目間の難易度の差はそれほど論文合格率に影響していないと考えることができるのです。

 論文合格率についても、かつては倒産法がトップになるという傾向が確立していました。ところが、平成26年に初めて国際私法がトップになって以降、この傾向に変化が生じています。以下の表は、直近5年で論文合格率トップとなった科目をまとめたものです。


(平成)
論文合格率
トップの科目
26 国際私法
27 経済法
28 倒産法
29 国際公法
30 経済法

 直近5年で倒産法がトップになったのは、平成28年だけです。経済法が2回トップになっているものの、基本的には年によってトップになる科目が変わっています。また、上位の科目については、論文合格率にそれほど大きな差は付かなくなっています。上位に関しては、かなり流動的な状況になってきているといえるでしょう。
 他方、下位の科目については、国際公法が圧倒的に論文合格率が低く、環境法も似た傾向にあるということで安定しているように思います。昨年は、国際公法が論文合格率でトップになりましたが、これは母数が少ないことによるイレギュラーな結果とみるべきでしょう。今年は、また圧倒的な最下位に戻っています。一方、かつては国際公法と同様に低い合格率だった国際私法は、平成26年に首位となるなど、近年では上位科目として位置付けるべき存在となっています。前記のとおり、大学在学中の予備試験合格者の選択が増えていることが、その原因となっているようです。

posted by studyweb5 at 15:56| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする


  【当サイト作成の電子書籍一覧】
司法試験平成30年最新判例ノート
司法試験平成29年最新判例ノート
司法試験平成28年最新判例ノート
平成29年司法試験のための平成28年刑訴法改正の解説
司法試験定義趣旨論証集刑訴法(逐次改頁版)
司法試験定義趣旨論証集刑訴法(通常表示版)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(民法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(民法)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(行政法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(行政法)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(憲法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(憲法)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(会社法)
司法試験定義趣旨論証集(会社法)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(物権)
司法試験定義趣旨論証集(物権)
司法試験平成26年最新判例ノート
司法試験論文用平成26年会社法改正対応教材
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(民法総則)
司法試験定義趣旨論証集(民法総則)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(刑法各論)
司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(刑法総論)
司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)
司法試験平成25年判例肢別問題集
司法試験平成25年判例論証穴埋問題集
司法試験平成25年判例論証集
司法試験定義趣旨論証集(行政法)

  【最新ニュース・新刊書籍紹介】
司法試験平成30年最新判例ノート
バイト賞与なし「違法」 大阪高裁…格差「不合理」認定
バイトに賞与なし「違法」 大阪高裁「正社員の6割」支給命令
憲法 第七版
駒澤大学法学研究所が、通常会員(社会人)を募集 -- 2月28日まで応募受付
国会訴追委がツイッター裁判官に出頭要請
教職課程のための憲法入門 第2版
高検事務官、着服で停職 仙台、親睦団体会費35万円
視察欠席の市議が逆転敗訴 最高裁「厳重注意は適法」
憲法の最高法規性と基本権 (学術選書176)
強姦冤罪事件を生み出した“プロ失格”の検察と裁判所が“14歳の少女”のウソを見抜けず
ネットで集まった男たちの凶行 2つの公判でも真相分からぬまま
ヘイト・スピーチ法 研究原論 (ヘイト・スピーチを受けない権利)
AIが企業のリスク要因に? グーグルとマイクロソフトが年次報告に記載した真意
なぜスイスの女性は賃金格差を理由に雇用主を訴えないのか
憲法適合的解釈の比較研究
韓国原告側 資産売却開始を表明…新日鉄住金 協議応じず
トランプ大統領、壁建設へ非常事態宣言 民主党は法廷闘争の構え
トランプ大統領の「非常事態宣言」、法廷闘争に火蓋
メディア判例百選 第2版 (別冊ジュリスト241号)
新たな壁、100%機能…トランプ氏会見要旨
トランプ氏、非常事態宣言…壁建設に80億ドル
インドの憲法〔新版〕 ―「国民国家」の困難性と可能性―
英検察、交通事故起こしたフィリップ殿下を訴追せず
人権法の現代的課題: ヨーロッパとアジア
日産がはじくゴーン被告の「コスト」
女性活躍 検事も…4人に1人に
侵害留保原則の埒外の領域はあるか?―奈良県ため池条例事件と浦安ヨット事件
平成31年司法試験の試験場
平成31年司法試験用法文登載法令
法学セミナー 2019年 03 月号
「みんなで筋肉体操」出演東大卒弁護士に聞く 筋肉は裏切らない!
自己破産6.2%増 銀行カードローン抑制したけど…
一○六○の懲戒事例が教える 弁護士心得帖
司法試験合格者「過剰」 13弁護士会が声明 
13弁護士会が声明「さらに司法試験合格者減らすべき」 裁判官、検察と比べ「弁護士だけが増加」
Newえんしゅう本 6―司法試験/予備試験 ロースクール入試・進級・卒業/ 刑法
虐待事案への法的助言も、弁護士活用に文科相
「公正で寛容な社会に」 草野最高裁判事が就任会見
Newえんしゅう本 7―司法試験/予備試験 ロースクール入試・進級・卒業/ 刑訴
象印元副社長ら殺害 死刑確定へ
<秋田・弁護士殺害国賠訴訟>警察は真摯に検証を
Newえんしゅう本 2―司法試験/予備試験 ロースクール入試・進級・卒業/ 行政法
遺された妻「悲しみが深くなる判決」 秋田弁護士刺殺事件控訴審判決
弁護士刺殺、県も賠償責任 高裁支部が警官不手際認定 
警察官のためのわかりやすい警察行政法
警官が侵入者取り違え、弁護士刺殺 県に賠償命じる判決
80歳弁護士、和解金800万円流用の疑い
刑事訴訟法 第2版 (Next教科書シリーズ)
「無罪請負人」弘中弁護士がゴーン被告の担当に、大鶴氏は辞任
ゴーン被告の大鶴弁護人ら辞任=新たにロス疑惑の弘中氏
ロクシン刑法総論〈第1巻 基礎・犯罪論の構造〉【第4版】[翻訳第1分冊]
ゴーン氏の弁護士を尾行…東京地検特捜部「極秘作戦」の狙いと中身
警察官の服制に関する規則及び警察官等けん銃使用及び取扱い規範の一部を改正する規則(国家公安委一)
国家補償法の研究I―その実践的理論
拳銃入れ改良、奪われにくく 交番襲撃で警察庁が対策
グーグルがWikipediaへの支援を拡大、そこには「将来の利益」を見据えた戦略があった
強制採尿の違憲性 (証拠法研究第六巻)
“池袋東口暴走事件”確定判決から考える「てんかん」という病気の本当の姿
重機死傷事故に懲役10年求刑「危険認識、厳しい非難」
取調べハンドブック
【松橋事件再審無罪へ】目に余る検察の“引き延ばし戦略”…冤罪救済のために再審制度の見直しを
松橋再審 無罪へ…即日結審 検察 求刑せず 熊本地裁
新警察民法〔改訂版〕
交番射殺25年求刑…検察側「前代未聞の事件」
刑事弁護人のための科学的証拠入門 (GENJIN刑事弁護シリーズ24)
「法曹コース」設置で教育連携協定 神戸大と新潟大
岡口裁判官「要件事実マニュアルは掟破りだった」 裁判官の出版事情語る
Newえんしゅう本 5―司法試験/予備試験 ロースクール入試・進級・卒業/ 民訴
「登録弁護士制度」、4月から…大阪弁護士会
公務員生活10年から弁護士へ 福岡市の弁護士事務所に入所
Newえんしゅう本 4―司法試験/予備試験 ロースクール入試・進級・卒業/ 商法
性別変更の要件 手術の「強制」は人権侵す
性別変更、手術必要は「合憲」も 裁判官2人が「違憲の疑い」と踏み込んだ理由
Newえんしゅう本 1―司法試験/予備試験 ロースクール入試・進級・卒業/ 憲法
捜査当局にTカード情報提供「約款に明記しても解決しない」 鈴木正朝教授が徹底解説
弁護士 アイドルプロデュースのきっかけは“奴隷契約”の相談
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)
商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案
民事執行法の改正に関する中間試案(平成29年9月8日)
民法の一部を改正する法律(債権法改正)について

刑事訴訟法等の一部を改正する法律について
法曹養成制度関係閣僚会議
法曹養成制度改革の推進について(PDF)
法曹養成制度改革推進会議
法曹養成制度改革顧問会議
平成31年司法試験予備試験の実施について
平成31年司法試験の実施について
司法試験考査委員の不適切行為に関する通報窓口

  【司法研修所教材・講義案・調査官解説等】
事件記録教材 法科大学院教材
調査官解説
事例で考える民事事実認定
プラクティス刑事裁判
プロシーディングス刑事裁判
検察講義案 平成24年版
新問題研究要件事実
紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造 改訂
刑事第一審公判手続の概要
刑事判決書起案の手引
民事判決起案の手引
民事訴訟第一審手続の解説
情況証拠の観点から見た事実認定
民事訴訟における要件事実 第2巻
民事訴訟における要件事実 増補 第1巻
書記官研修講義案等