2018年10月03日

平成30年司法試験の結果について(9)

1 前回の記事(「平成30年司法試験の結果について(8)」)では、予備組全体の受験者合格率が、昨年に続いて上昇したことを確認しました。今回は、予備組内部の合格率を確認しながら、予備組全体の合格率上昇の原因を探っていきます。

2 以下は、年代別の受験者合格率です。

年齢 受験者数 合格者数 受験者合格率
19 100%
20~24 201 192 95.5%
25~29 59 50 84.7%
30~34 38 26 68.4%
35~39 35 20 57.1%
40~44 37 16 43.2%
45~49 23 10 43.4%
50以上 39 21 53.8%

 今年は、19歳の合格者が1人います。今後、19歳以下の合格者が増えてくる可能性もありますが、現段階ではイレギュラーなものといえるでしょう。20代以降を年代別にみると、合格率に顕著な差があることがわかります。20代前半は9割を超える圧倒的な合格率。それが、歳を重ねるにつれて、下がっていきます。9割以上の20代前半、8割程度の20代後半、5~6割台の30代、4割台の40代というように、歳を取ると合格率が下がっていく傾向が顕著です。ただし、今年は50代以上の合格率が5割代で、40代よりも高い合格率になってます。これは、後記3でみる昨年・今年にみられる特殊性の現れです。
 この差は、どの段階で生じているのか。短答段階では、予備組は受験者433人中2人しか落ちていません。その2人は、20代前半と20代後半にそれぞれ1人で、30代以上で短答に落ちた人は1人もいません。ですから、若手の圧倒的に高い合格率は、専ら論文段階で生じているのです。
 この論文段階での若手圧倒的有利の傾向は、今年の予備組に限ったことではなく、毎年みられる確立した傾向です。ですから、その背後にある要因を明らかにすることが、論文を攻略するための重要なヒントとなるのです。
 若手圧倒的有利の要因の1つは、以前の記事でも説明した「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則です(「平成30年司法試験の結果について(6)」)。不合格者が翌年受験する場合、必ず1つ歳をとります。不合格を繰り返せば、どんどん高齢になっていく。その結果、高齢の受験生の多くが、不合格を繰り返した「極端に受かりにくい人」として滞留し、結果的に、高齢受験者の合格率を下げる。これは、年齢自体が直接の要因として作用するのではなく、不合格を繰り返したことが年齢に反映されることによって、間接的に表面化しているといえます。
 もう1つは、年齢が直接の要因として作用する要素です。それは、加齢による反射神経と筆力の低下です。論文では、極めて限られた時間で問題文を読み、論点を抽出して、答案に書き切ることが求められます。そのためには、かなり高度の反射神経と、素早く文字を書く筆力が必要です。これが、年齢を重ねると、急速に衰えてくる。これは、現在の司法試験では、想像以上に致命的です。上記の「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則とも関係しますが、論点抽出や文字を書く速度が遅いと、規範を明示し、問題文の事実を丁寧に書き写すスタイルでは書き切れなくなります。どうしても、規範を省略したり、問題文を要約するスタイルにならざるを得ない。そうなると、わかっていても、「受かりにくい人」になってしまうのです。この悪循環が、上記のような加齢による合格率低下の要因になっているのだと思います。

3 ところが、近時、上記2の傾向に変化が生じ始めています。以下は、上記2でみた予備組の年代別合格率を直近3年で比較したものです。

年齢 平成30年 平成29年 平成28年
20~24 95.5% 96.2% 94.2%
25~29 84.7% 83.0% 72.7%
30~34 68.4% 65.5% 43.5%
35~39 57.1% 56.2% 45.6%
40~44 43.2% 42.4% 23.6%
45~49 43.4% 40.6% 22.5%
50以上 53.8% 34.2% 31.4%

 昨年は、年配者の合格率が考えられないほど急上昇しました。平成28年までは、年配者は論文段階で壊滅していたのです。上記2で、若手圧倒的有利の要因が、論文特有の「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則と、加齢による反射神経と筆力の低下にあることを説明しました。加齢による反射神経と筆力の低下が、昨年と今年の年配者に限って生じなかった、ということは、ちょっと考えられません。ですから、昨年と今年の年配者の合格率の急上昇は、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則が、あまり作用しなかった、ということになる。昨年の段階で、当サイトではそのような説明をしていたのでした(「平成29年司法試験の結果について(9)」)。今年も、その説明がそのまま妥当するような結果となっています。今年は、50代以上の合格率の上昇が顕著です。上位ロー既修の合格率が予備組と同じような推移とならなかった(「平成30年司法試験の結果について(8)」)のは、主に年配者に作用する影響が要因だったからだ、ということになります。
 ではなぜ、昨年、今年になって、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則が、あまり作用しなくなったのでしょうか。当サイトでは、数年前から、上記の「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則が生じる原因が、答案の書き方、スタイルにあることを繰り返し説明するようになりました(「平成27年司法試験の結果について(12)」)。平成27年からは、規範の明示と事実の摘示に特化したスタイルの参考答案も掲載するようになりました。その影響で、年配の予備組受験生が、規範の明示や事実の摘示を重視した答案を時間内に書き切るような訓練をするようになったのではないかと思います。「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則は、どの部分に極端な配点があるかということについて、単に受験生が知らない(ロー等で規範と事実を書き写せと指導してくれない。)という、それだけのことによって成立している法則です。ですから、受験生に適切な情報が流通すれば、この法則はあまり作用しなくなる。正確な統計があるわけではありませんが、当サイトの読者層には、年配の予備試験受験生が多いようです。今さら法科大学院や予備校には通いにくいということで、当サイト等を頼ることになりやすいからでしょう。その影響が一定程度あって、年配の予備組受験生については、正しい情報が流通し始めたのではないか。例えば、平成28年は、30代以上の受験生は189人で、そのうちの65人が合格しています。今年は、30代以上の受験生は172人で、そのうちの93人が合格です。この30人くらいの合格者の差が、当サイトの影響であったとしても、それほど不思議ではないのかな、という気がしています。とりわけ、50代以上の合格率が急上昇していることは、重要です。加齢による反射神経や筆力の衰えは、意識的に規範と事実に絞って答案を書くなどの対策をすることによって、克服できることを示しているからです。

4 以下は、予備組の職種別の受験者数、合格者数、受験者合格率をまとめたものです。法務省公表の資料で、「公務員」、「教職員」、「会社員」、「法律事務所事務員」、「塾教師」、「自営業」として表示されているカテゴリーは、それらを合計した数字を「有職者」としてまとめて表示し、「大学院生」及び「その他」のカテゴリーは省略しています。

職種 受験者数 合格者数 受験者
合格率
有職者 83 47 56.6%
法科大学院生 112 105 93.7%
大学生 119 112 94.1%
無職 105 64 60.9%

 法科大学院生・大学生のグループと、有職者・無職のグループに分かれます。前者のグループが、後者のグループより圧倒的に合格率が高い。これは、職種というより、年齢の要素を反映したものと考えてよいでしょう。大学生や法科大学院生のほとんどは20代なので、合格率が高くなっているのです。
 注目したいのは、有職者と無職で合格率にあまり違いがない、ということです。正社員として勤務していると、勉強をする時間がないので、無職(アルバイトを含む。)の方が有利である、と言われることがあります。しかし、この数字を見る限り、必ずしもそうではない。これは、論文試験が、主として法律の知識・理解ではなく、反射神経や筆力に依存する試験であることによります勉強量は、あまり関係がないのです。このことは、受験を考えている社会人にとって、重要な事実でしょう。ただし、短答は勉強量に強く依存しますから、短答の学習をする時間は、最低限確保しなければなりません。
 ここまでは、従来からみられた確立した傾向です。これに対し、直近3年の数字と比較すると、前記3で説明したことと同じ昨年・今年からみられる特有の傾向が現れます。

職種 平成30年 平成29年 平成28年
有職者 56.6% 51.5% 35.5%
法科大学院生 93.7% 95.0% 87.7%
大学生 94.1% 95.6% 95.8%
無職 60.9% 51.0% 35.7%

 有職者と無職のカテゴリーの躍進ぶりは、これまでの傾向を知る者からすれば、あり得ないものです。先ほど説明したとおり、上記の各カテゴリーの数字は、職種というより、年齢層に依存しています。昨年・今年と、年配者の予備組の合格率が大きく上昇したので、それに対応して、有職者と無職のカテゴリーの上昇幅が大きくなっている。法曹として活躍するにふさわしい意欲と能力を持ちながら、論文特有の「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則に阻まれて、合格できない人がたくさんいます。当サイトは、そのような人はできる限り少なくなった方がよいと考えています。その意味では、この傾向が、今後も続けばよいと思います。

5 以下は、予備組の最終学歴別の受験者数、合格者数、受験者合格率のうち、「大学在学中」、「法科大学院修了」、「法科大学院在学中」の3つのカテゴリーを抜粋したものです。

学歴 受験者数 合格者数 受験者
合格率
大学
在学中
119 112 94.1%
法科大学院
修了
70 36 51.4%
法科大学院
在学中
114 106 92.9%

 法科大学院修了のカテゴリーだけ、極端に合格率が低いことがわかります。このカテゴリーは、主にローを修了した後に受験回数を使い果たし、予備試験に合格して復活した人達が属します(※)。予備試験に合格して敗者復活を果たしても、司法試験で苦戦している、ということです。これが、論文特有の「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則です。以前の記事(「平成30年司法試験の結果について(6)」)で説明したとおり、書き方のクセが直らないと、予備試験に合格しても、司法試験で苦戦することになるのです。
 ※ 厳密には、ロー在学中に予備に合格し、司法試験を受験したが、不合格になった人が、ローを修了した後に再受験する場合も含みます。

 さて、ここでも、直近3年の数字を比較してみましょう。

学歴 平成30年 平成29年 平成28年
大学
在学中
94.1% 95.6% 95.8%
法科大学院
修了
51.4% 39.7% 27.5%
法科大学院
在学中
92.9% 94.1% 87.7%

 法科大学院修了のカテゴリーの合格率が大きく上昇しています。ここでも、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則の作用が弱まっていることが確認できるでしょう。

6 以上のように、昨年・今年の予備組の合格率上昇の原因は、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則の予備組に対する作用が弱まったことにあります。それは、2回目以降の予備組の受験生が、適切な情報に基づいて、規範の明示と事実の摘示のスタイルを守って書き切る訓練をするようになったために、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則の作用が弱まったことによるのでしょう。仮にそうだとすると、今後も、この傾向は続いていくことになりやすいといえます。もっとも、最近では、法科大学院修了生の間でも、当サイトを通じて、規範の明示と事実の摘示の重要性を知る人が増えてきているようです。そうなると、この傾向は予備組だけに限らず、法科大学院修了生にも及ぶようになるでしょう。以前の記事で説明したとおり、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則は、修了生との関係では修了年度別の合格率に反映されます(「平成30年司法試験の結果について(6)」)。したがって、修了年度別の合格率に傾向変化が生じれば、その兆候を知ることができる背後にある要素が変動した場合にどの数字に現れるかを理解しておくと、一般的に言われていることとは異なる、とても興味深い現象を把握することができるようになるのです。

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