2018年10月01日

平成30年司法試験の結果について(8)

1 ここ数年、司法試験の結果が出るたびに注目されるのが、予備組の結果です。今年は、予備試験合格の資格で受験した433人中、336人合格。予備組の受験者合格率は、77.5%でした。以下は、予備組が司法試験に参入した平成24年以降の予備試験合格の資格で受験した者の合格率等の推移です。


(平成)
受験者数 前年比 合格者数 前年比 受験者
合格率
前年比
24 85 --- 58 --- 68.2% ---
25 167 +82 120 +62 71.8% +3.6
26 244 +77 163 +43 66.8% -5.0
27 301 +57 186 +23 61.7% -5.1
28 382 +81 235 +49 61.5% -0.2
29 400 +18 290 +55 72.5% +11.0
30 433 +33 336 +46 77.5% +5.0

 まず、受験者数をみてみます。平成28年までは、受験者数は急増を続けていました。それが、昨年になって急激に増加幅を減少させています。その主な要因は、平成28年の予備試験の最終合格者数が、11人しか増えなかったことにあります(「平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)。これは、予備試験の論文段階で「400人基準」が採られたことによるものでした(「平成28年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。ところが、平成29年の予備試験では、論文段階で「400人基準」ではなく、「合格点上限245点の基準」が採られたことによって、論文合格者数は469人まで増加したのでした(「平成29年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。その影響で、今年の司法試験では、予備組の受験者数は再び増加幅を拡大させています。

2 受験者合格率をみると、平成26年から平成28年までは、下落傾向でした。これは、当時としては自然な傾向でした。論文試験には、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則があるからです(※1)。1回目の受験で合格できずに滞留した2回目以降の者は、予備組であっても極端に合格率が下がっていたのでした(「平成28年司法試験の結果について(10)」)。予備組が参入を始めてから受験回数制限が機能し始めるまでは、滞留者がどんどん蓄積していくので、その影響を受けて、予備組全体の合格率も下がりやすくなるというわけです。
 ※1 予備組はほぼ全員が短答に受かるので、受験者合格率の変動要因は、ほぼすべて論文段階で生じるものといえます。

3 ところが、昨年、合格率は突然の急上昇をみせ、今年も、上昇幅は縮小したものの、上昇傾向を維持しています。上記2の説明からすれば、これは滞留者の減少によるものだろう、という推測が成り立つでしょう。そこで、各年の受験者数から合格者数を差し引いた滞留者数の推移をまとめたのが、以下の表です(※2)。
 ※2 受験回数制限によって失権した者は次の年に受験できないので、各年の滞留者に参入するのは厳密には適切ではありませんが、今年の失権者数が現時点で不明であること、失権前に撤退する者も存在すること、失権者・撤退者は翌年の受験者数に反映されないため、全体の推移としてみる場合には大きな影響はないことから、差し当たり単純な数字を用いています。  


(平成)
滞留者数 前年比
24 27 ---
25 47 +20
26 81 +34
27 115 +34
28 147 +32
29 110 -37
30 97 -13

 一見すると、平成28年をピークに滞留者が減少傾向に転じているので、これで説明できそうに思えます。しかし、各年の司法試験を受験するのは前年の滞留者であるということに、注意が必要です。すなわち、合格率が急上昇した平成29年司法試験は、平成28年の滞留者が受験している。平成28年は、むしろ滞留者がピークのときの数字です。そのことからすれば、平成29年は、むしろ合格率が過去最低の水準にならなければおかしいでしょう。
 したがって、滞留者数による説明では、平成29年の合格率の急上昇を説明することはできないのです。一方、今年の合格率の上昇については、昨年の滞留者の減少によって、ある程度説明が可能であるといえます。

4 もう1つ、昨年と今年の合格率の上昇を説明できそうな要素として、そもそも全体の論文合格率が上昇していた、ということが考えられるでしょう。以下は、受験生全体の論文合格率(短答合格者ベース)の推移です。


(平成)
全体の
論文合格率
前年比
24 39.3% ---
25 38.9% -0.4
26 35.6% -3.3
27 34.8% -0.8
28 34.2% -0.6
29 39.1% +4.9
30 41.5% +2.4

 昨年は、全体の論文合格率が大きく上昇し、今年は、昨年の半分程度の幅で上昇しています。予備組の合格率も、昨年11%上昇し、今年はその半分程度の5%の幅で上昇していますから、その意味では似た傾向であるといえるでしょう。とはいえ、全体の論文合格率と比較して、予備組の上昇幅はかなり大きいです。したがって、全体の論文合格率が上昇したというだけでは、予備組の合格率の上昇は説明しきれていないように思われます。
 「予備組は実力者が多いのだから、全体の論文合格率以上の上昇幅が生じたのだろう。」という仮説も考えられます。仮にそうだとすると、同じように実力者の多い上位ロー既修にも、同様の高い合格率の上昇がみられるはずです。そこで、東大、京大、一橋、慶応の既修者の直近3年の受験者合格率をまとめたのが、以下の表です(※3)。
 ※3 前記※1のとおり、予備組の受験者合格率を変動させる要因のほとんどは論文段階で生じるので、ロー既修との比較をする場合も、本来は論文合格率で比較するのが適当といえますが、法科大学院修了生の既修未修別の短答合格者数が公表されていないので、ここでは受験者合格率で比較しています。

法科大学院 平成30年 平成29年 平成28年
東大
既修
66.1% 68.6% 63.0%
京大
既修
73.8% 63.1% 64.4%
一橋
既修
76.6% 65.0% 61.7%
慶応
既修
46.7% 58.5% 58.7%

 上位ローの既修のうち、京大と一橋は、予備組と遜色ない程度まで合格率の上昇をみせています。一方で、東大・慶応は昨年よりもむしろ合格率が下がっている。特に、慶応の合格率の減少幅はかなり大きくなっています。そして、注目すべきは、上昇の傾向が、予備組とは違っているということです。今年、予備組と同程度の高い合格率となった京大、一橋は、昨年はそれほど合格率が上昇しなかったのに、今年は急上昇しています。これは、予備組とは逆の傾向です。東大は、昨年は合格率が上昇したのに、今年は下落に転じている。慶応に至っては、全体の論文合格率の上昇傾向に逆らうように、むしろ下落傾向となっているのです。このように、同じく実力者が多いと思われる上位ロー既修の結果は、区々になっています。このことからすれば、「予備組は実力者が多いのだから、全体の論文合格率以上の上昇幅が生じたのだろう。」と考えるのは、やや短絡的で、十分な説明になっていないといえるでしょう。

5 このような予備組の合格率の上昇については、当サイトでは、昨年、論文特有の「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則の作用が、弱まってきているのではないか、という仮説で説明していました。(「平成29年司法試験の結果について(9)」)。次回は、この仮説で今年も説明できるのか、という視点で、予備組のデータを詳しく見ていきたいと思います。

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