2018年07月28日

平成30年司法試験論文式刑事系第2問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.司法試験の論文式試験において、合格ラインに達するための要件は、概ね

(1)基本論点抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを摘示できている。

という3つです。とりわけ、(2)と(3)に、異常な配点がある。(1)は、これができないと必然的に(2)と(3)を落とすことになるので、必要になってくるという関係にあります。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記の配点をすべて取ったという前提の下で、優秀・良好のレベル(概ね500番より上の順位)に達するために必要となる程度の配点があるに過ぎません。 

2.ところが、法科大学院や予備校では、「応用論点に食らいつくのが大事ですよ。」、「必ず趣旨・本質に遡ってください。」、「事実は単に書き写すだけじゃダメですよ。必ず自分の言葉で評価してください。」などと指導されます。これは、必ずしも間違った指導ではありません。上記の(1)から(3)までを当然にクリアできる人が、さらなる上位の得点を取るためには、必要なことだからです。現に、よく受験生の間に出回る超上位の再現答案には、応用、趣旨・本質、事実の評価まで幅広く書いてあります。しかし、これを真似しようとするとき、自分が書くことのできる文字数というものを考える必要があります。
 上記の(1)から(3)までを書くだけでも、通常は6頁程度の紙幅を要します。ほとんどの人は、これで精一杯です。これ以上は、物理的に書けない。さらに上位の得点を取るために、応用論点に触れ、趣旨・本質に遡って論証し、事実に評価を付そうとすると、必然的に7頁、8頁まで書くことが必要になります。上位の点を取る合格者は、正常な人からみると常軌を逸したような文字の書き方、日本語の崩し方によって、驚異的な速度を実現し、7頁、8頁を書きますが、普通の考え方・発想に立つ限り、なかなか真似はできないことです。
 文字を書く速度が普通の人が、上記の指導や上位答案を参考にして、応用論点を書こうとしたり、趣旨・本質に遡ったり、いちいち事実に評価を付していたりしたら、どうなるか。必然的に、時間不足に陥ってしまいます。とりわけ、上記の指導や上位答案を参考にし過ぎるあまり、これらの点こそが合格に必要であり、その他のことは重要ではない、と誤解してしまうと、上記の(1)から(3)まで、とりわけ(2)と(3)を省略して、応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいってしまう。これは、配点が極端に高いところを書かずに、配点の低いところを書こうとすることを意味しますから、当然極めて受かりにくくなるというわけです。

3.上記のことを理解した上で、上記(1)から(3)までに絞って答案を書こうとする場合、困ることが1つあります。それは、純粋に上記(1)から(3)までに絞って書いた答案というものが、ほとんど公表されていないからです。上位答案はあまりにも全部書けていて参考にならないし、合否ギリギリの答案には上記2で示したとおりの状況に陥ってしまった答案が多く、無理に応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいって得点を落としたとみられる部分を含んでいるので、これも参考になりにくいのです。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作れば、それはとても参考になるのではないか、ということを考えました。下記の参考答案は、このようなコンセプトに基づいています。

4.参考答案の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集刑訴法」及び「司法試験平成29年最新判例ノート」の付録の論証集に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1 設問1

1 下線部①の捜査

(1)強制処分は、刑訴法に特別の規定がなければ、することができない(197条1項ただし書)。強制処分とは、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものをいう(GPS捜査事件判例参照)。

ア 合理的に推認される個人の意思に反して秘かに行われる場合には、個人の意思を制圧するものといえる(上記判例参照)。
 下線部①の捜査は、合理的に推認される甲の意思に反して秘かに行われたから、甲の意思を制圧してされたものである。

イ 憲法35条の保障対象には、「住居、書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれる(上記判例参照)。もっとも、公道等、人が他人から容ぼう等を観察されることを受忍せざるを得ない場所においては、プライバシーに対する期待が一定程度後退するから、そのような場所において容ぼう等を撮影されない利益は、身体、住居、財産等に準じるものとはいえない。
 本件事務所は、前面が公道に面した平屋建ての建物で、玄関ドアから外に出るとすぐに公道となっていた。Pが撮影した映像は、男が同事務所の玄関ドアに向かって立ち、ドアの鍵を掛けた後、振り返って歩き出す姿が、容ぼうも含めて映っているものであった。したがって、捜査①は、人が他人から容ぼう等を観察されることを受忍せざるを得ない場所における容ぼう等の撮影である。
 したがって、憲法の保障する重要な法的利益を侵害するとはいえない。

ウ 以上から、強制処分には当たらない。

(2)任意処分としてされる公道等における被疑者の容ぼう等の撮影は、捜査目的を達成するため、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものである限り、適法である(公道及びパチンコ店内における撮影に関する判例参照)。

ア 「捜査目的を達成するため」とは、捜査機関において、被疑者が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在し、その撮影が、犯人の特定等のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するためのものであることをいう(判例)。
 Pらが所要の捜査を行ったところ、本件領収書に記載された住所には、実際にA工務店の事務所が存在することが判明したから、甲が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在する。Pらは、同事務所の玄関ドアの鍵を開けて中に入っていく中肉中背の男を目撃し、その男が甲又はA工務店の従業員である可能性があると考えて、下線部①の捜査を行ったから、その撮影が、犯人の特定等のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するためのものといえる。以上から、下線部①の捜査は、捜査目的を達成するためのものといえる。

イ Pが撮影した映像は全体で約20秒間のものであり、男が同事務所の玄関ドアに向かって立ち、ドアの鍵を掛けた後、振り返って歩き出す姿が、容ぼうも含めて映っているものであったから、被疑事実が詐欺罪(法定刑は長期10年の懲役。刑法246条1項。)であることも考慮すると、下線部①の捜査は、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものといえる。

(3)よって、下線部①の捜査は、適法である。

2 下線部②の捜査

(1)ア 下線部②の捜査は、合理的に推認される甲の意思に反して秘かに行われたから、甲の意思を制圧してされたものである。

イ 下線部②の捜査は、本件事務所内の様子を撮影するものである。確かに、本件事務所は住居ではなく、Pは同事務所の敷地に立ち入っておらず、玄関上部にある採光用の小窓を通して撮影したにとどまる。しかし、公道からは同事務所内の様子を見ることができないこと、向かい側のマンション2階通路に上がって望遠レンズ付きのビデオカメラを用いたことからすれば、「住居、書類及び所持品」に準ずる私的領域への侵入といえ、憲法の保障する重要な法的利益を侵害する。

ウ したがって、強制処分といえる。

(2)検証(218条1項)とは、五感の作用によって場所、物又は人の状態を認識する強制処分をいう。下線部②の捜査は、視覚によって工具箱の状態を認識する強制処分であるから、検証に当たる。しかし、下線部②の捜査は、検証許可状を取得せずに行われた。
 強制処分であっても、現行犯逮捕等の令状を要しない処分と同視すべき事情があると認められる場合には、必ずしも令状を要しない(京都府学連事件、GPS捜査事件各判例参照)。現に犯罪が行なわれ、又は行なわれたのち間がないと認められる場合であって、証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつ、その撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行なわれるときは、上記令状を要しない処分と同視すべき事情があると認められる(京都府学連事件判例参照)。
 確かに、下線部②の捜査でされた撮影は約5秒間であり、同事務所内の机上に工具箱が置かれている様子が映っているのみで、甲の姿は映っていなかったから、撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行なわれたといえる。また、Pらは、監視の最終日、甲が赤色の工具箱を持って本件事務所に入っていくのを目撃し、同工具箱に「A工務店」と書かれたステッカーが貼られていることが確認できれば、甲が犯人であることの有力な証拠になると考えたが、ステッカーが小さく、甲が持ち歩いている状態ではステッカーの有無を確認することが困難であったこと、Pが望遠レンズ付きのビデオカメラで同工具箱を見たところ、同工具箱の側面に、「A工務店」と記載された小さな円形のステッカーが貼られているのが見えたことから、証拠保全の必要性及び緊急性がある。しかし、現に犯罪が行なわれ、又は行なわれたのち間がないと認められる場合ではない。
 以上から、令状を要しない処分と同視すべき事情があるとはいえない。

(3)よって、下線部②の捜査は、違法である。

第2 設問2

1 小問1

(1)320条1項の「書面」(供述代用書面)とは、供述を内容とする書面であって、その供述により再現されたとおりの事実の存在を要証事実とするものをいう。

ア 本件メモは、Vの供述を内容とする書面である。

イ Qは、本件メモの立証趣旨について、「甲が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」であると述べたこと、甲がVに申し向けた内容は詐欺罪の犯罪事実である欺く行為を構成することから、本件メモの要証事実は、甲がVに対して申し向けた内容が、本件メモに記載されたとおりの内容の文言であったことである。
 本件メモは、犯人が言った内容についてのVの体験を再現したものである。したがって、本件メモは、Vの供述により再現されたとおりの事実の存在を要証事実とするものといえる。

ウ 以上から、本件メモは、320条1項の「書面」に当たる。

(2)320条1項の「書面」であっても、被告人以外の者が作成した供述書で、321条1項3号の場合には、証拠とすることができる(320条1項、321条1項柱書)。なお、供述書には録取過程がないから、署名押印を要しない(判例)。

ア 本件メモは、Vが作成した供述書である。

イ 記憶喪失が一時的なものではなく、通常の手段を尽くしても記憶の回復が困難である場合には、供述者が国外にいる場合以上の事由があるといえるから、供述不能事由に当たる。
 Vは脳梗塞で倒れ、Vの担当医師は、Vの容体について、「今後、Vの意識が回復する見込みはないし、仮に意識が回復したとしても、記憶障害が残り、Vの取調べをすることは不可能である。」との意見を述べたから、通常の手段を尽くしても記憶の回復が困難である場合といえる。したがって、供述不能事由がある。

ウ 甲は、「V方に行ったことはありません。」と述べて犯行を否認している。本件メモ以外にQが取調請求をしている証拠は、本件領収書の印影と本件事務所から押収された認め印の印影が合致する旨の鑑定書、本件領収書から検出された指紋と甲の指紋が合致する旨の捜査報告書、Vから本件メモ及び本件領収書の任意提出を受けた旨の任意提出書等及び本件領収書である。これらの証拠では、甲の欺く行為の具体的内容を明らかにすることはできない。また、Vが脳梗塞で倒れたため、PはVの供述調書の作成を断念しており、この点に関するVの供述調書も存在しない。
 以上から、本件メモは、犯罪事実の存否の証明に欠くことができない。

エ 特信情況は、供述がなされた外部的事情を基準として判断すべきであるが、外部的事情を推認させる資料として、供述内容を考慮することができる(判例)。
 本件メモは、Vが、犯行当日の午後7時頃、Vの長男WがV方を訪問した際に工事の話をしたことを契機に、詐欺の被害に遭ったことに気付き、Wから、犯人が言った内容を記載しておいた方がよいと言われたため、その場で、メモ用紙にその内容を記載したものである。Wは、Pに対し、「提出したメモは、昨夜、母が、私の目の前で記載したものです。そのメモに書かれていることは、母が私に話した内容と同じです。」と説明し、証人尋問においても、同旨の証言をした。本件メモは全ての記載がVによる手書き文字であり、信用性を疑わせる外部的事情を推認させる記載は見当たらない。したがって、特に信用すべき情況の下にされたものといえる。

オ 以上から、321条1項3号の場合に当たる。

(3)よって、本件メモの証拠能力は、認められる。

2 小問2

(1)Qは、本件領収書の立証趣旨について、「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」であると述べたこと、上記事実は詐欺罪の犯罪事実である錯誤に基づく財物の交付を構成することから、本件領収書の要証事実は、上記事実である。

(2)書証とする場合

ア 本件領収書は、甲の供述を内容とする書面であり、「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」についての甲の体験を再現したものであるから、甲の供述により再現されたとおりの事実の存在を要証事実とするものといえる。したがって、本件領収書は、320条1項の「書面」に当たる。

イ 320条1項の「書面」であっても、被告人が作成した供述書でその供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであって、任意性に疑いがない場合には、証拠とすることができる(同項、322条1項)。

ウ 本件領収書は、甲が作成した供述書である。

エ 本件領収書は、錯誤に基づく財物の交付に当たる事実を推認させる証拠であるから、甲に不利益な事実の承認を内容とする。

オ 本件領収書は、Vから工事代金として現金100万円を受領した際にVに交付されたものであり、任意性に疑いはない。

カ よって、書証とする場合には、本件領収書に証拠能力が認められる。

(3)物証とする場合

ア 供述を含む証拠であっても、専らその存在又は状態を証拠とする趣旨で採用する場合には、非供述証拠(証拠物)としての手続によれば足り、供述証拠としての要件を充足することを要しない。もっとも、非供述証拠(証拠物)として採用した証拠については、専らその存在又は状態が証拠となるに過ぎないから、その証拠に含まれる供述の内容を事実認定に用いることは許されない。したがって、裁判所が、供述の内容を事実認定に用いるために証拠を採用するためには、供述証拠としての要件を充足することが必要である(犯行被害再現実況見分調書事件判例参照)。請求証拠を非供述証拠的に用いたのでは自然的関連性が認められない場合には、裁判所は、たとえ当事者が非供述証拠的使用を示唆していたとしても、これを非供述証拠として証拠採用する余地はない(上記判例参照)。
 本件領収書について、専らその存在又は状態を証拠とする場合には、その内容を事実認定に用いることは許されない。本件領収書は、その内容を離れた形状等のみでは、要証事実である「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」との関係で何らの証明力も有しない。そうすると、本件領収書を物証として非供述証拠的に用いたのでは、要証事実との関係で自然的関連性が認められない。したがって、本件領収書を非供述証拠として証拠採用する余地はない。

イ よって、物証とする場合には、本件領収書に証拠能力は認められない。

以上

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