2018年07月19日

平成30年司法試験論文式民事系第3問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.現在の司法試験の論文式試験において、ほとんどの科目では、合格ラインに達するための要件は、概ね以下の3つです。

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを摘示できている。

 もっとも、民訴法は、必ずしも上記が当てはまらない独特の傾向でした。設問の内容自体は易しく、誰もが簡単に解答できてしまうものなのですが、その説明の仕方が出題趣旨に沿っていないと、点が付かない。そこでポイントになっていたのは、概ね以下の3つでした。

(ア)問題文で指定されたことだけに無駄なく答えている。
(イ)参照判例がある場合、まずその判例の趣旨を確認している。
(ウ)例外が問われた場合、まず原則論を確認している。

 上記(ア)から(ウ)までを守っていないと、理論的には全く正しい内容を書いているのに、全然点が付かない。一方で、上記(ア)から(ウ)を守ることさえ考えていれば、無難に合格点が取れる。このように、民訴は、他の科目とは異なる独特の採点傾向を把握しておくことが必要でした。

2.ただ、一昨年から、上記の傾向に変化が生じ、他の科目同様の事例処理的な傾向も混在するようになりました(「平成28年司法試験論文式民事系第3問参考答案」、「平成29年司法試験論文式民事系第3問参考答案」)。漏洩事件を受けた考査委員の交代の影響によるものなのでしょう。今年は、さらに事務処理的な傾向が強まったといえるでしょう。民訴も、他の科目とあまり変わらなくなってきています。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.Bの訴えの訴訟物

 訴訟物とは、審判対象となる権利・法律関係をいう(判例)。金銭債務の一定金額を超える債務が存在しない旨の確認請求は、その債務額から上記一定金額を控除した残債務額についての不存在の確認を求めるものである(判例)。
 Bの訴えは、請求の趣旨において、「本件事故に係るBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務(以下「本件債務」といい、債権者との関係では「本件債権」という。)は150万円を超えないことを確認する」との判決を求めるものとされ、請求の原因において、Aは損害額が400万円を下回らないと主張して譲歩しようとしない旨が示されているから、本件債務の額の上限を400万円として、そのうちの150万円を控除した250万円について不存在の確認を求めるものである。
 よって、Bの訴えの訴訟物は、本件債務400万円のうちの250万円である。

2.課題(1)前段

(1)事件の同一性(142条)は、既判力抵触のおそれの有無によって判断する(判例)。 「主文」(114条)とは、訴訟物に対する判断をいう。
 課題(1)前段の訴えとBの訴えの当事者(115条1項1号)はいずれもA・Bである。課題(1)前段の訴えの訴訟物は本件債権全体であり、Bの訴えの訴訟物は本件債務400万円のうちの250万円である。したがって、本件債権のうち250万円については、既判力抵触のおそれがあるから、同一の事件といえる。
 以上から、課題(1)前段の訴えは、本件債権のうち250万円の支払を求める限度でBの訴えと重複する。

(2)重複する訴えについては、却下すべきとする判例もあるが、弁論の併合(152条1項)の余地がある限り、訴えを適法とした上で弁論を併合すべきである。
 課題(1)前段の訴えとBの訴えはいずれも民事訴訟であり、同一の訴訟手続(136条)である。両訴訟はいずれも乙地裁に提起されている。課題(1)前段の訴えとBの訴えは、いずれも本件債権に関する訴えである。したがって、弁論の併合の余地がある。
 以上から、乙地裁は、課題(1)前段の訴えを適法とした上で、Bの訴えと併合すべきである。

(3)よって、課題(1)前段の訴えは、適法である。

3.課題(1)後段

(1)課題(1)後段の訴えは、BCを共同被告とするものであるが、Bに対する訴えとCに対する訴えはいずれも民事訴訟であり、同一の訴訟手続(136条)である。訴訟物はいずれも本件債権であり、B・Cはその債務者であるから、訴訟の目的である義務が共通する(38条前段)。本件債務は共同不法行為(民法719条1項前段)に基づく不真正連帯債務であり、各債務者は全額の支払義務を負うから、両訴訟は通常共同訴訟の関係にある。

(2)課題(1)後段の訴えのうち、Bに対するものは、上記2(1)と同様、本件債権のうち250万円の支払を求める限度で重複する訴えとなる。他方、Cに対するものは、当事者(115条1項1号)が異なるから、既判力抵触のおそれはなく、重複する訴えとはならない。
 また、課題(1)後段の訴えとBの訴えはいずれも民事訴訟であり、同一の訴訟手続(136条)である。両訴訟はいずれも乙地裁に提起されている。課題(1)後段の訴えのうちCに対するものとBの訴えについては、訴訟の目的である義務が共通する(38条前段)。したがって、弁論の併合の余地がある。
 課題(1)後段の訴えをBの訴えに併合すべきか、Bの訴えを課題(1)後段の訴えに併合すべきか。Bの訴えが本件債務の一部の不存在確認の訴えであるのに対し、課題(1)後段の訴えは、本件債権全部の給付の訴えであり、重複する訴えではないCに対する訴えも含まれていることからすれば、Bの訴えを課題(1)後段の訴えに併合することが適切である。
 以上から、乙地裁は、課題(1)後段の訴えを適法とした上で、Bの訴えを課題(1)後段の訴えに併合すべきである。

(3)よって、課題(1)後段の訴えは、適法である。

4.課題(2)

(1)課題(2)の訴えは、甲地裁に提起する点を除けば、上記3の課題(1)後段の訴えと同じである。
 重複する訴えが既に係属する事件の受訴裁判所と異なる裁判所に提起された場合であっても、移送して弁論を併合する余地がある限り、訴えを適法なものとした上で、移送して弁論を併合すべきである。
 課題(2)の訴えは、甲地裁に提起する点を除けば、上記3の課題(1)後段の訴えと同じであるから、前記3(2)と同様の理由により、課題(2)の訴えとBの訴えは、移送して弁論を併合する余地がある。
 課題(2)の訴えを乙地裁に移送してBの訴えに併合すべきか、Bの訴えを甲地裁に移送して課題(2)の訴えに併合すべきか。Bの訴えが本件債務の一部の不存在確認の訴えであるのに対し、課題(2)の訴えは、本件債権全部の給付の訴えであり、重複する訴えではないCに対する訴えも含まれていることからすれば、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があるものとして、17条に基づき、Bの訴えの全部を甲地裁に移送すべきである。
 以上から、甲地裁は、課題(2)の訴えを適法とし、乙地裁はBの訴えの全部を甲地裁に移送すべきである。その上で、甲地裁は、Bの訴えを課題(2)の訴えに併合すべきである。

(2)よって、課題(2)の訴えは、適法である。

第2.設問2

1.Dに220条4号の文書提出義務があるとして、文書提出命令を申し立てることが考えられる。これに対するDの反論として、同号ハ又はニに該当するとするものが予想される。

2.同号ハ該当性について

(1)ア.診療記録に記載されている患者Aに関する情報は、医師の職にある者が職務上知り得た事実(197条1項2号)といえる。

イ.「黙秘すべきもの」(197条1項2号)とは、一般に知られていない事実のうち、弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が、これを秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう(判例)。
 診療記録に記載されている患者Aに関する情報は、医師に診療を依頼したAが、これを秘匿することについて客観的にみて保護に値するような利益を有するといえるから、「黙秘すべきもの」に当たる。

ウ.したがって、Aの診療記録は、「第百九十七条第一項第二号に規定する事実…が記載されている文書」に当たる。

(2)もっとも、Aは、主張に見合った領収証や診断書を提出し、一定の診療記録もD病院で謄写して提出している。そうである以上、D病院は、診療記録について黙秘の義務が免除されたといえる。したがって、「黙秘の義務が免除されていないもの」に当たらない。

(3)以上から、220条4号ハに当たらない。

3.同号ニ該当性について

(1)専ら内部の者の利用に供する目的で作成されたものであり、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示によってその文書の所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情がない限り、その文書は「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(220条4号ニ)に当たる(判例)。
 Aの訴えにおいて、Aが一定の診療記録をD病院で謄写して提出しているとおり、診療記録は訴訟の証拠となることも予定されているから、専ら内部の者の利用に供する目的で作成されたものであり、外部の者に開示することが予定されていない文書とはいえない。また、謄写に応じている以上、開示によってDに看過し難い不利益が生ずるおそれがあるともいえない。したがって、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらない。

(2)以上から、220条4号ニに当たらない。

4.よって、Dには、Aの診療記録について、220条4号に基づく文書提出義務がある。

第3.設問3

1.Cの主張(ア)について

 補助参加の申出は、補助参加人としてすることができる訴訟行為とともにすることができる(43条2項)。補助参加人は、訴訟について、上訴の提起をすることができる(45条1項本文)。Bは控訴期間内に控訴を提起したから、「補助参加の時における訴訟の程度に従いすることができないもの」(同項ただし書)に当たらない。
 以上から、Cの主張(ア)は正当でない。

2.Cの主張(イ)について

 42条における「訴訟の結果」には、主文のみならず判決理由中の判断をも含み、「利害関係」とは、法律上の利害関係、すなわち、参加人の法的地位・利益に影響を及ぼすおそれがあることをいう(判例)。
 AC間の訴訟における判決理由中の判断において、Cの過失の有無が判断される。したがって、AC間の訴訟の結果は、BがCに対して行使できる求償権の有無に影響を及ぼすおそれがある。したがって、Bは、AC間の訴訟の結果について利害関係を有する。
 以上から、BはAC間の訴訟に補助参加できる。Cの主張(イ)は正当でない。

3.よって、丙高裁の受訴裁判所は、Bの控訴を適法と判断すべきである。

以上 

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