2018年06月14日

平成30年予備試験短答式試験の結果について(1)

1.平成30年予備試験短答式試験の結果が公表されました。合格点は160点合格者数は2612人受験者合格率は23.4%でした。

2.以下は、合格点、合格者数等の推移です。

受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
短答
合格点
23 6477 1339 20.6% 165
24 7183 1711 23.8% 165
25 9224 2017 21.8% 170
26 10347 2018 19.5% 170
27 10334 2294 22.1% 170
28 10442 2426 23.2% 165
29 10743 2299 21.3% 160
30 11136 2612 23.4% 160

 平成25年から平成28年まで、短答合格者数は一貫して増加していましたが、昨年は減少に転じました。これだけをみると、何か意図的な合格者数の増減のようにみえます。しかし、実は、「2000人基準」、すなわち、「5点刻みで、最初に2000人を超えた得点が合格点となる。」というルールを形式的に適用した結果、偶然そうなったというだけだったのでした(「平成29年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。今年は、昨年よりも、合格者数が313人も増加しています。これも、「2000人基準」を適用した結果、偶然そうなったのでしょうか。

3.以下は、法務省の得点別人員から、合格点である160点から170点までの人員をまとめたものです。

得点 人員 累計
人員
170 80 1727
169 76 1803
168 86 1889
167 93 1982
166 91 2073
165 68 2141
164 100 2241
163 90 2331
162 85 2416
161 87 2503
160 109 2612

 今年は、「5点刻みで、最初に2000人を超えた得点」は、165点です。ですから、「2000人基準」を適用するなら、165点が合格点となっていたはずです。それが、そうはなっていない。上記の数字をみると、今年の合格点である160点は、「5点刻みで、最初に2500人を超えた得点」になっていることがわかります。このことから、どうやら従来の「2000人基準」は、「2500人基準」になったようだ、という推測が成り立ちます。このように、今年の合格者数の増加は、従来どおりの基準を適用したら偶然そうなった、というのではなく、意図的に従来より500人程度増やそうとしてそうなったのだ、ということになります。平成25年から平成28年までの合格者数の増加とは、意味が全く異なるのです。

4.なぜ、短答の合格者数を増やしたのか。この背後には、昨年初めて明らかになった、論文式試験の合格点における「245点の上限」の存在があります。従来は、5点刻みで初めて400人を超える点数が合格点となる、という、「400人基準」によって、論文の合格者数は400人強に抑制されていました。それが、昨年、「245点の上限」という考え方によって、突破されたのでした。

 

(「平成29年予備試験論文式試験の結果について(1)」より引用)

 予備合格者を増やすための理屈という点でありそうなのが、「合格点の上限を245点にしたのではないか。」という仮説です。以下は、これまでの予備論文式の合格点の推移です。


(平成)
論文
合格点
23 245
24 230
25 210
26 210
27 235
28 245
29 245

 これをみるとわかるように、予備試験の論文で、合格点が245点を超えたことは一度もないのです。この245点は、意味のある数字です。

 

(「司法試験予備試験論文式試験の採点及び合否判定等の実施方法・基準について」より引用。太字強調は筆者。)

(2) 各答案の採点は,次の方針により行う。

ア 優秀と認められる答案については,その内容に応じ,下表の優秀欄の範囲。
 ただし,抜群に優れた答案については,下表の優秀欄( )の点数以上。

イ 良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の良好欄の範囲。

ウ 良好とまでは認められないものの,一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の一応の水準欄の範囲。

エ 上記以外の答案については,その内容に応じ,下表の不良欄の範囲。ただし,特に不良であると認められる答案については,下表の不良欄[ ]の点数以下。

優秀 良好 一応の水準 不良
50点から38点
(48点)
37点から29点 28点から21点 20点から0点
[3点]

(引用終わり)

 

 予備試験では、一応の水準は28点から21点までの得点です。ですから、一応の水準の真ん中の数字は、(21+28)÷2=24.5点。予備試験の論文は各科目50点満点で、10科目です(「司法試験予備試験に関する配点について」)。したがって、各科目がそれぞれ一応の水準の真ん中である24.5点であるなら、全科目合計で245点となるわけです。
 このように、245点は、一応の水準の真ん中に相当する点数である。現在、司法試験の論文の合格点は、概ね一応の水準の真ん中よりやや下の水準となっています(「平成29年司法試験の結果について(5)」)。仮に、予備試験の論文の合格点を245点より高い数字にしてしまうと、「一応の水準より高い水準を予備試験に要求しているだけでなく、本体である司法試験の合格水準よりも高い水準を要求している」ことになってしまいます。これは、「予備試験合格者数が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする」、「予備試験で課せられる法律基本科目、一般教養科目及び法律実務基礎科目について、予備試験に合格できる能力・資質と法科大学院を修了できる能力・資質とが同等であるべきである」とする閣議決定に合致しないでしょう。

 

規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定)より引用。太字強調は筆者。)

 法曹を目指す者の選択肢を狭めないよう、司法試験の本試験は、法科大学院修了者であるか予備試験合格者であるかを問わず、同一の基準により合否を判定する。また、本試験において公平な競争となるようにするため、予備試験合格者数について、事後的には、資格試験としての予備試験のあるべき運用にも配意しながら、予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者数が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う。
 これは、法科大学院修了者と予備試験合格者とが公平な競争となることが根源的に重要であることを示すものであり、法科大学院修了者と同等の能力・資質を有するかどうかを判定することが予備試験制度を設ける趣旨である。両者における同等の能力・資質とは、予備試験で課せられる法律基本科目、一般教養科目及び法律実務基礎科目について、予備試験に合格できる能力・資質と法科大学院を修了できる能力・資質とが同等であるべきであるという理念を意味する。

(引用終わり)

 

 司法試験予備試験考査委員会議の主管省庁及び庶務担当部局課は、法務省大臣官房人事課です(「司法試験予備試験考査委員会議」の「概要」欄を参照)。法務省の事務局担当者から、上記のような説明をされた上で、「以上のような予備試験制度の趣旨及び閣議決定の趣旨を踏まえますと、合格点の上限は245点とするのが適当と思われますがいかがでしょうか。」などと言われれば、考査委員としても「なるほどそうだよな。」となりやすいでしょう。しかも、少なくとも今年に関しては、合格点を245点としても急激に合格者数が増えるわけではないので、特段反対する理由もない。そういうことで、今年の合格点は245点となったのではないか。仮に、この仮説が正しいとすると、従来の基準には、実は以下のように(3)が存在した、ということになります。

(1)210点に累計で400人以上存在しない場合は、210点が合格点となる。
(2)210点に累計で400人以上存在する場合は、5点刻みで初めて400人を超える点数が合格点となる(「400人基準」)。
(3)ただし、上記(2)を適用すると、合格点が245点を超える場合には、245点が合格点となる。

 この上記(3)によって、従来は400人強に抑えられていた合格者数が、理屈の上では青天井となったことになります。これは、予備の合格者数を増やしたい法務省としては、1つの大きなブレークスルーといえます。そして、受験生の側からすれば、今後も、「一応の水準の真ん中」さえクリアすれば合格できることを意味することになるのです。来年以降、合格点が245点を超えることがあるかどうか、注目されます。

(引用終わり)

 

 今年の短答式試験の結果は、論文式試験における合格者数が、今年も400人を大きく超えるであろうことを見越したものといえそうです。

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