2018年06月13日

平成30年司法試験短答式試験の結果について(4)

1.司法試験の合否は、短答と論文の総合評価によって決まります。今回は、短答でどのくらいの点数を取ると、論文でどのくらい有利になるのか、すなわち、短答の論文に対する寄与度をみていきます。
 総合評価の計算式は、以下のとおりです(「司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について」)。

 総合評価の得点=短答式試験の得点+(論文式試験の得点×1400÷800)

 これを見るとわかるとおり、短答の得点は、そのまま総合得点に加算されますが、論文は、800分の1400、すなわち、1.75倍になって総合得点に加算されます。したがって、論文の1点は、総合評価では、短答の1.75点に相当するわけです。
 総合評価に占める比重という点からいうと、短答は175点満点がそのまま総合評価の加算対象となるのに対し、論文は、論文段階では800点満点だったものが、総合評価では1400点満点となるために、総合評価段階での短答:論文の比重は、1:8となります。論文は、憲法、行政法、民法、商法、民訴法、刑法、刑訴法、選択科目の8科目。1:8という比重からすると、短答は9個目の科目である、という位置付けも可能でしょう。無視できるほど小さくはないけれども、選択科目と同じくらいと考えると、あまり過大視もできない、という感じです。その意味では、「短答の勉強と論文の勉強」というように、短答と論文を対等に位置付けるのは、やや短答を過大視しているといえるでしょう。もっとも、「選択科目と同じ比重なんだから、選択科目と同じくらいの勉強量でいいや。」などと言っていると、短答段階で不合格になってしまいかねません。この辺りが、短答の学習計画を考える際の難しさといえます。
 とはいえ、上記の比重を考えると、少なくとも短答の合格ラインを安定して超えるレベルになって以降は、積極的に短答の学習をするメリットは薄そうだ、ということが感じ取れます。

2.短答と論文の比重という点では、短答の寄与度は低そうだ、という印象でした。ただ、短答は、論文と違って、高得点を取りやすいシステムになっています。このことを考慮して、もう少し具体的に考えてみましょう。
 論文で、満点の75%といえば、優秀の水準を意味します。これは、現実には取ることが極めて難しい点数です。これに対し、短答における満点の75%(概ね131点)とは、今年の順位にすると1503位に相当します。これは、それなりに短答に自信のある人なら、普通に取れる点数です。また、論文には得点調整(採点格差調整)があります。これによって、強制的に、標準偏差が各科目の配点率(現在は10に設定されている。)に抑えられてしまいます。短答には、このような抑制機能を有する得点調整のようなシステムはありません。このように、短答は、論文よりも稼ぎやすいといえるのです。
 ただし、短答で高得点を取っても、単純に総合評価でそれだけ有利になる、というわけではないことに注意が必要です。短答合格点未満の点数の人は、総合評価段階では存在し得ないからです。今年でいえば、108点未満の人は、そもそも総合評価の段階では存在しない。ですから、例えば、短答で150点を取ったとしても、総合評価で150点有利になるわけではないのです。有利になるのは、最大でも、150-108=42点だけです。しかも、それは短答ギリギリ合格の人と比べて、という話です。今年の短答合格者平均点である128.1点の人と比べると、150点を取っても、150-128.1=21.9点しか有利になりません。 しかも、総合評価の段階で、論文の得点は1.75倍になりますから、短答の得点を論文の得点に換算する場合には、1.75で割り算することになります。そうすると、短答における21.9点というのは、論文の得点に換算すると、12.5点程度ということになる。このように、短答は点を取りやすいとはいっても、それが論文に寄与する程度は、限定的なものになってしまうのです。

3.実際の数字でみてみましょう。短答でどのくらいの水準の得点を取れば、短答ギリギリ合格の人(108点)や、短答合格者平均点の人(128.1点)に対して、論文で何点分有利になるのか。以下の表は、これをまとめたものです。

短答の
水準
得点 最下位
(108点)
との論文での差
短答合格者平均
(128.1点)
との論文での差
トップ 167 33.7点 22.2点
100番 152 25.1点 13.6点
500番 142 19.4点 7.9点
1000番 136 16.0点 4.5点
合格者平均
(1822番)
128.1点 11.4点 ---

 短答でトップを取ると、短答ギリギリ合格の人に、論文で33.7点のアドバンテージを取ることができます。これが、短答で付けることのできる最大のアドバンテージです。これは、どのくらい大きいのか。論文1科目の設問が3つある場合には、おおよそ設問1個分に当たります。また、論文は8科目ですから、33.7を8で割ると、33.7÷8≒4.2点。1科目当たり、おおよそ4.2点有利になる、という感じです。トップを取って、しかも、短答最下位の人と比べても、この程度しか論文で有利にはならない、ということです。論文では、4点程度の得点は、論点を1つ落としてしまったり、重要な当てはめの事実をいくつか落としてしまったりすると、簡単にひっくり返ってしまうものです。
 現実に、上位を狙って勉強をして、それなりに安定して取ることができそうなのは、500番くらいだろうと思います。しかも、そのような上位を狙える人は、論文で短答最下位の人と合否を争うことは考えにくい。このように考えてみると、現実的に短答を勉強するメリットを考える場合に考慮すべきなのは、500番と短答合格者の平均との差ということになると思います。これは、たったの7.9点です。論文8科目で割り算をすると、1科目当たり1点程度の差でしかありません。これが、現実的な短答における論文の寄与度なのです。

4.このように、短答の寄与度は、それほど大きくありません。ですから、「短答でぶっちぎりの得点を取って、逃げ切る。」などという戦略は、あり得ないのです。とはいえ、短答を軽視していいかといえば、そうでもない。その理由は2つあります。
 1つは、憲民刑3科目になってからの短答は、油断すると簡単に不合格になる、ということです。確実に短答をクリアするには、実際にはかなりの時間を投入する必要がある。上記の総合評価における寄与度は、あくまで短答に確実に受かることが前提だということを、忘れてはいけません。
 それからもう1つは、短答の知識が、論文を書く際の前提知識となる、ということです。短答レベルの知識があやふやな状態では、論文の事例を検討していても、正しく論点を抽出することができません。ですから、短答合格レベルに達するまでは、短答の学習を優先することに意味があるのです。
 以上のことからいえることは、「短答に確実に合格できる水準までは、短答の学習を優先すべきである。」ということと、「短答に確実に合格できる水準になったならば、短答は現状の実力を維持する程度の学習にとどめ、論文の学習に集中すべきである。」ということです。この優先順位に従って学習をするためには、できる限り早く短答の学習に着手する必要があります。短答の学習に着手する時期が遅いと、短答合格レベルに達する前に、論文の学習に着手せざるを得なくなってしまいます。そうなると、どちらも中途半端なまま、本試験に突入してしまう、ということになりやすい。短答の学習は、未修者であればローに入学してすぐに着手する。既修者であれば、法学部在学中にも、着手しておくべきでしょう。今年、短答で不合格になった人は、今すぐ着手しなければ、来年までに間に合いません。短答の知識は、定着させるまでにかなり時間がかかるものの、一度定着するとなかなか忘れない、というのが特徴です。今年の予備組の短答受験者合格率は、99.5%です。433人が受験して、2人しか落ちていない。このことは、一度実力を付ければ、短答は安定して結果が出せることを示しています。
 短答合格レベルに達するまでに必要な膨大な勉強量を確保し、やり抜く
。これは、司法試験に合格するための前提となる第一関門なのです。これをクリアした先にあるのが、「受かりにくい者は、何度受けても受からない」法則のある恐怖の論文です。どんなに勉強量を増やしても、受かりにくい人は成績が全く伸びない。この論文の壁に苦しんでいる人にとっては、勉強量さえ確保できればクリアできる短答は、とても楽な試験だと感じられることでしょう。しかし、その勉強量の確保さえできない人も、実際にはかなりいるのです。

posted by studyweb5 at 10:19| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする


  【当サイト作成の電子書籍一覧】
司法試験平成29年最新判例ノート
司法試験平成28年最新判例ノート
平成29年司法試験のための平成28年刑訴法改正の解説
司法試験定義趣旨論証集刑訴法(逐次改頁版)
司法試験定義趣旨論証集刑訴法(通常表示版)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(民法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(民法)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(行政法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(行政法)
司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(憲法)
司法試験平成27年出題趣旨の読み方(憲法)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(会社法)
司法試験定義趣旨論証集(会社法)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(物権)
司法試験定義趣旨論証集(物権)
司法試験平成26年最新判例ノート
司法試験論文用平成26年会社法改正対応教材
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(民法総則)
司法試験定義趣旨論証集(民法総則)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(刑法各論)
司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)
司法試験定義趣旨論証穴埋問題集(刑法総論)
司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)
司法試験平成25年判例肢別問題集
司法試験平成25年判例論証穴埋問題集
司法試験平成25年判例論証集
司法試験定義趣旨論証集(行政法)

  【最新ニュース・新刊書籍紹介】
平成30年司法試験合格者(官報)
"54歳から弁護士になった人"の人生設計
法学部、ロースクール、司法研修所で学ぶ法律知識――主要10法と法的思考のエッセンス
【東京】≪司法試験受験者対象≫早期の就職を目指す方向け個別相談会
【大阪】≪司法試験受験者対象≫ご好評につき継続中!合格発表後の活動をサポート!個別相談会
【名古屋】≪司法試験受験者対象≫企業への就職を希望される方の為の個別相談会
司法試験・予備試験 伊藤真の速習短答過去問 憲法
大法廷で石綿検出 イベント中止 最高裁
「裁判官にもつぶやく自由はある」岡口裁判官の分限裁判で声明文、弁護士269人が賛同
司法試験&予備試験短答過去問パーフェクト〈6〉民事系民訴〈平成30年度版〉
中3が“弁護士の秘書”かたり特殊詐欺未遂 容疑で大阪府警逮捕
BEXA 学習傾向解析を活用 司法試験合格者が4年連続増
司法試験&予備試験短答過去問パーフェクト〈5〉民事系商法〈平成30年度版〉
「通勤講座」、10周年記念で全22講座の受講料を10%オフに
山下新法相「国民の胸に落ちる法務行政を」「死刑廃止は適当ではない」
司法試験&予備試験短答過去問パーフェクト〈8〉刑事系刑訴〈平成30年度版〉
甲南大法科大学院の新科目 初回は神戸市長が講義
フジモリ氏の恩赦取り消し決定 ペルー最高裁
司法試験&予備試験短答過去問パーフェクト〈2〉公法系行政法〈平成30年度版〉
米司法の保守色強まる カバノー最高裁判事が就任 
ブレット・カバノー氏、最高裁判事に就任 上院が承認
商法総則・商行為法のポイント解説
李明博元大統領に懲役15年 ソウル中央地裁 収賄罪など
弁護士・法務人材 就職・転職のすべて
法制審議会民事執行法部会第19回会議議事録等
法制審議会民事執行法部会第18回会議議事録等
法制審議会民事執行法部会第17回会議議事録等
弁護士・法務人材 就職・転職のすべて
絶望的に進む司法統制  特別寄稿「ツイッター分限裁判」
事業拡大後、社員の半分が退職 サイトビジット鬼頭氏が味わったマネジメントの苦労
事業譲渡の実務――法務・労務・会計・税務のすべて
グーグルの検索、歯科医の削除請求認めず 最高裁
自賠責支払い、被害者へ多く 最高裁が初判断
事例で学ぶ会社の計算実務
会社の飲み会は「業務」か 飲酒で事故、労災認定の例も
「勝手についてきてうっとうしかった」自転車で日本一周の男逮捕
【改訂版】民法がわかると会社法はもっと面白い! ~ユミ先生のオフィスアワー日記~民法改正対応
樋田容疑者の身柄を山口県で確保
大阪の警察署から逃走の男 山口で身柄確保、48日ぶり
条文から読み解く 民法[相続法制]改正点と実務への影響
樋田容疑者「成功して大阪のタワマン住みたい」
富田林署から逃走の容疑者、自転車で道の駅へ 身柄確保
会社に関する商業登記 一発即答703問
参院選大阪選挙区で立民、亀石弁護士擁立へ
弁護士の亀石倫子氏擁立へ 参院大阪選挙区
労働法講義(第2版)
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)
商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案
民事執行法の改正に関する中間試案(平成29年9月8日)
民法の一部を改正する法律(債権法改正)について

刑事訴訟法等の一部を改正する法律について
法曹養成制度関係閣僚会議
法曹養成制度改革の推進について(PDF)
法曹養成制度改革推進会議
法曹養成制度改革顧問会議
平成30年司法試験予備試験の実施について
平成30年司法試験の実施について
司法試験考査委員の不適切行為に関する通報窓口

  【司法研修所教材・講義案・調査官解説等】
事件記録教材 法科大学院教材
調査官解説
事例で考える民事事実認定
プラクティス刑事裁判
プロシーディングス刑事裁判
検察講義案 平成24年版
新問題研究要件事実
紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造 改訂
刑事第一審公判手続の概要
刑事判決書起案の手引
民事判決起案の手引
民事訴訟第一審手続の解説
情況証拠の観点から見た事実認定
民事訴訟における要件事実 第2巻
民事訴訟における要件事実 増補 第1巻
書記官研修講義案等