2018年05月27日

平成30年司法試験論文式公法系第1問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.司法試験の論文式試験において、合格ラインに達するための要件は、概ね

(1)基本論点抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを摘示できている。

という3つです。とりわけ、(2)と(3)に、異常な配点がある。(1)は、これができないと必然的に(2)と(3)を落とすことになるので、必要になってくるという関係にあります。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記の配点をすべて取ったという前提の下で、優秀・良好のレベル(概ね500番より上の順位)に達するために必要となる程度の配点があるに過ぎません。 

2.ところが、法科大学院や予備校では、「応用論点に食らいつくのが大事ですよ。」、「必ず趣旨・本質に遡ってください。」、「事実は単に書き写すだけじゃダメですよ。必ず自分の言葉で評価してください。」などと指導されます。これは、必ずしも間違った指導ではありません。上記の(1)から(3)までを当然にクリアできる人が、さらなる上位の得点を取るためには、必要なことだからです。現に、よく受験生の間に出回る超上位の再現答案には、応用、趣旨・本質、事実の評価まで幅広く書いてあります。しかし、これを真似しようとするとき、自分が書くことのできる文字数というものを考える必要があります。
 上記の(1)から(3)までを書くだけでも、通常は6頁程度の紙幅を要します。ほとんどの人は、これで精一杯です。これ以上は、物理的に書けない。さらに上位の得点を取るために、応用論点に触れ、趣旨・本質に遡って論証し、事実に評価を付そうとすると、必然的に7頁、8頁まで書くことが必要になります。上位の点を取る合格者は、正常な人からみると常軌を逸したような文字の書き方、日本語の崩し方によって、驚異的な速度を実現し、7頁、8頁を書きますが、普通の考え方・発想に立つ限り、なかなか真似はできないことです。
 文字を書く速度が普通の人が、上記の指導や上位答案を参考にして、応用論点を書こうとしたり、趣旨・本質に遡ったり、いちいち事実に評価を付していたりしたら、どうなるか。必然的に、時間不足に陥ってしまいます。とりわけ、上記の指導や上位答案を参考にし過ぎるあまり、これらの点こそが合格に必要であり、その他のことは重要ではない、と誤解してしまうと、上記の(1)から(3)まで、とりわけ(2)と(3)を省略して、応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいってしまう。これは、配点が極端に高いところを書かずに、配点の低いところを書こうとすることを意味しますから、当然極めて受かりにくくなるというわけです。

3.上記のことを理解した上で、上記(1)から(3)までに絞って答案を書こうとする場合、困ることが1つあります。それは、純粋に上記(1)から(3)までに絞って書いた答案というものが、ほとんど公表されていないからです。上位答案はあまりにも全部書けていて参考にならないし、合否ギリギリの答案には上記2で示したとおりの状況に陥ってしまった答案が多く、無理に応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいって得点を落としたとみられる部分を含んでいるので、これも参考になりにくいのです。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作れば、それはとても参考になるのではないか、ということを考えました。下記の参考答案は、このようなコンセプトに基づいています。

4.参考答案についての個別の解説は、後日掲載する予定です。

 

【参考答案】

第1.本条例8条1項から3項までが青少年(同条例2条1号)と18歳以上の人(以下「成人」という。)の知る権利を侵害し、21条1項に違反するかが問題となる。

1.知る権利とは、情報等に接し、これを摂取する自由をいい、表現の自由(21条1項)の派生原理として当然に導かれる(よど号事件、レペタ事件各判例参照)。規制図書類の購入等をすることは、その内容に接し、これを摂取するための行為として、知る権利の保護範囲に含まれる。

2.本条例8条3項は、青少年に対する規制図書類(同条例7条)の販売等を禁止しており、青少年は規制図書類の購入等ができなくなるから、同項は青少年の知る権利を制約する。

(1)未成年者は、精神的未熟さに由来する害悪からの保護に必要な範囲で、知る権利に一定の制約を受ける(岐阜県青少年保護育成条例事件判例における伊藤正己補足意見参照)。本件条例は、規制図書類が青少年の健全な育成に悪影響を及ぼすことを踏まえ、未成年者を精神的未熟さに由来する害悪から保護することを目的としているといえる(本条例1条)。したがって、その目的に必要な範囲で、未成年者の知る権利を制約することができる。

(2)規制図書類が青少年の健全な育成に悪影響を及ぼすことについて、科学的証明がないとする反論が想定される。しかし、未成年者の知る権利の制約に関する合憲性は、未成年者の精神的未熟さに由来する害悪が生じる相当の蓋然性が認められるか、規制手段が必要な限度を超えていないかによって判断すべきであるが、相当の蓋然性が認められるためには、厳密な科学的証明があることは必要でなく、未成年者の健全な育成に有害であることが社会共通の認識となっていれば足りる(前記補足意見参照)。
 本件では、市民から青少年の健全な育成に悪影響を及ぼす、安心して子供と買い物に行けないという意見が寄せられている。子供がいる世帯が多数居住する地区の自治会からも性的な画像を掲載した出版物等の販売や貸与について規制を求める要望が出ている。一部のコンビニエンスストアでは、性的な画像を掲載した雑誌類の取扱いをやめる動きがある。これらの事実から、規制図書類が未成年者の健全な育成に有害であることが社会共通の認識となっており、未成年者の精神的未熟さに由来する害悪が生じる相当の蓋然性があると認められる。
 そして、本条例8条3項は、一律に青少年に対する規制図書類の販売等を禁止しているから、青少年は規制図書類を全く購入等できなくなるが、青少年は成長途上であり、上記事実から社会的に許容されるといえるから、規制手段が必要な限度を超えているとはいえない。

(3)よって、本条例8条3項は、21条1項に違反しない。

3.本条例8条1項、2項は購入者の年齢を問わず販売等を禁止するから、成人の知る権利を制約する。

(1)知る権利は、生活の様々な場面にわたり、極めて広い範囲に及ぶものであるから、これに優越する公共の利益のための必要から、一定の合理的制限を受ける(よど号事件判例参照)。

(2)青少年の健全な育成は、知る権利に優越する公共の利益といえる。そして、未成年者の知る権利に対する制約に付随して成人の知る権利の制約が生じる場合において、それが合理的制限として許されるかは、未成年者の保護のために必要とされる規制に伴って当然に付随的に生ずる効果であるか、成人には規制対象となる情報等を入手する方法が他に認められているか、規制対象となる情報等が一般に価値がないか又は極めて乏しいものといえるかという観点から判断すべきである(前記補足意見参照)。
 確かに、成人は、本条例8条1項、2項の規制対象となる店舗以外の店舗から規制図書類を購入等することができ、規制対象となる情報等を入手する方法が他に認められている。しかし、売手と対面しない自販機(岐阜県青少年保護育成条例事件判例参照)と異なり、店舗における販売等においては、購入者の年齢を確認して販売等ができるから、青少年の健全な育成の目的は、成人に対して販売等を禁止する理由とはならない。したがって、同条1項、2項による成人に対する規制が、青少年の保護のために必要とされる規制に伴って当然に付随的に生ずる効果ということはできない。また、本条例7条の画像等を一部に含む図書類(同条例2条2号)が規制図書類となるところ、最近では一般の週刊誌として販売される雑誌を含む様々な出版物等に性的な画像が掲載されており、これらの出版物がすべて規制図書類となることを考慮すると、規制対象となる情報等が一般に価値がないか又は極めて乏しいものということはできない。
 以上から、青少年の健全な育成という規制目的によっては、成人の知る権利の制約を正当化することはできない。

(3)これに対し、店舗において性的なものに触れたくない者の利益(以下「本件利益」という。)を保護する目的によって、成人の知る権利の制約を正当化できるとする反論が想定される。
 確かに、特に女性を中心として、見たくもないものが目に入って不快であるとか、思わぬところで性的なものに触れないようにしてほしいという意見が最近多く寄せられるようになっており、これを受けて、本条例1条は、性風俗に係る善良な市民の価値観を尊重することを目的として掲げている。大阪市屋外広告物条例事件判例は、美観風致を目的とする表現の自由の規制を合憲としている。
 しかし、個々人の主観的利益の保護のために店舗内で販売等する図書類を規制する場合について、街の美観のために屋外の広告物等を規制する場合について判示した上記判例の趣旨は及ばない。憲法上の権利の保障は、他者の権利行使に対して、それが強制や不利益の付与を伴うことにより自己の権利を侵害するものでない限り寛容であることを要請しているから、他者の権利行使に対する不快感を被侵害利益とする損害賠償請求や差止請求は認められない(他者の宗教的行為に関する自衛官合祀事件判例参照)こと、個々人の環境に関する利益の侵害があるというためには、生活妨害や健康被害が生じるおそれがあるなど、態様・程度において受忍限度を超えるものであることを要する(景観利益に関する国立マンション事件判例参照)こと、他者から自己の欲しない刺激によって心の静穏を乱されない利益は広い意味のプライバシーといえるとしても、公共の場所においては極めて制約されるものとなる(列車内商業宣伝放送事件判例における伊藤正己補足意見参照)ことを踏まえると、本件利益が、知る権利に優越する公共の利益であるとはいえない。
 したがって、本件利益を保護する目的によっても、成人の知る権利の制約を正当化することはできない。

(4)よって、本条例8条1項、2項は、21条1項に違反する。

第2.本条例8条が事業者の営業の自由を侵害し、22条1項に違反するかが問題となる。

1.22条1項は、職業遂行自体、すなわち、職業活動の内容、態様の自由(営業の自由)を保障している(薬事法事件、小売市場事件各判例参照)。

2.本条例8条1項、2項は、日用品と並んで規制図書類を一部販売してきたスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの店舗の営業を行う事業者(以下「1項事業者」という。)、学校周辺の規制区域となる場所で規制図書類を扱ってきた店舗の営業を行う事業者(以下「2項事業者」という。)に対し、規制図書類の販売等という特定の職業活動の内容、態様を禁止しているから、上記各事業者の営業の自由を制約する。同条3項は、規制図書類とそれ以外の図書類を扱っている書店やレンタルビデオ店の営業を行う事業者(以下「その他事業者」という。)に対し、青少年に対する規制図書類の販売等という特定の職業活動の内容、態様を禁止し、4項は、同事業者に同項各号の隔離措置を講じなければならないものとしており、職業活動の内容、態様を制限しているから、同事業者の営業の自由を制約する。

3(1)職業の自由に対する制約の合憲性は、規制の目的、必要性、内容、制限される職業の自由の性質、内容、制限の程度を衡量して、公共の福祉のための必要かつ合理的な制限といえるかという観点から判断すべきである(薬事法事件判例参照)。もっとも、違憲となるのは、その必要性、合理性についての立法府の判断が裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白である場合に限られる(小売市場事件判例参照)。上記のことは、条例による規制の場合にも当てはまる。

(2)上記(1)に対しては、青少年の健全な育成や本件利益の保護は規制図書類の販売等による弊害を防止する消極目的のものであるとか、本条例8条2項は距離的制限であるなどとして、薬事法事件判例の趣旨が妥当し、確実な根拠がなければ合憲とはいえないとする反論が想定される。
 確かに、職業の自由に対する制約であっても、①許可制のように狭義の職業選択の自由そのものに制約を課すものについては、重要な公共の利益のための規制であることを要し、これに加えて、②自由な職業活動から生じる弊害を防止する消極的な目的による場合のように立法府の政策的、技術的裁量の余地に乏しいものについては、より緩やかな制限である職業活動の内容・態様に対する規制によってはその目的を十分に達成することができないことを要し、さらに、③規制手段が目的と直結しておらず、直接の関連性が認められないときは、必要性、合理性に関する立法府の判断が単なる観念上の想定ではなく、確実な根拠に基づく合理的な判断といえることを要する(薬事法事件判例参照)。
 しかし、本条例8条は規制図書類の販売等という特定の職業活動の内容、態様について制限しているにすぎず、狭義の職業選択の自由そのものの制約とはいえない。したがって、上記薬事法事件判例の趣旨は、本件に妥当しない。

4.以下、上記3(1)の見地から検討する。

(1)本条例8条3項の目的は、青少年の健全な育成にあり、営業の自由に優越する公共の利益といえるから、前記第1の2(2)で述べたことからすれば、同項は必要かつ合理的な制限として22条1項に違反しない。

(2)これに対し、同条1項、2項、4項は3項とは別に設けられているから、その主たる目的は本件利益の保護にあるといえる。前記第1の3(3)のとおり、本件利益は、他者の憲法上の権利の行使に優越する公共の利益であるとはいえない。しかし、職業の自由に対しては、これに優越する公共の利益を保護する規制だけでなく、積極的・政策的な目的による規制も許される(小売市場事件判例参照)。したがって、積極的・政策的見地から本件利益を重視し、その実現のために営業の自由を制約することも許される。
 市民が食料品などの日用品を購入するために日常的に利用する店舗に規制図書類が置かれていると、本件利益の保護の点で望ましくないことから、本条例8条1項の規制の必要性がないとはいえない。青少年は規制図書類を購入できない(同条3項)以上、青少年が通う学校周辺を規制区域とし、およそ買うつもりのない青少年の目にむやみに触れることがないようにすることは本件利益の保護に資するから、同条2項の規制の必要性がないとはいえない。同条4項の措置は、およそ買うつもりのない人の目にむやみに触れることがないようにし、本件利益の保護に資するから、同項の規制の必要性がないとはいえない。
 A市内にある約3000店舗の小売店のうち、1項事業者の営業する店舗は約2400店舗であり、そのうちの約600店舗が規制図書類を販売しているものの、規制図書類の売上げが売上げ全体に占める割合は微々たるものである。売上げ全体のごく一部であっても、規制図書類を販売していること自体に集客力があるとして反対するものもあるが、一部であり、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの事業者や業界団体の中には、既に自主規制を行っているところもあり、反対はそれほど多くはない。
 同条2項の規制区域が市全体の面積に占める割合は20パーセント程度で、市内の商業地域に限っても規制区域が占める割合は30パーセント程度であり、市内の規制区域にある店舗は約700店舗で、そのうち規制図書類の販売等をする店舗は約150店舗あるが、そのうち規制図書類の売上げが売上げ全体の20パーセントを超えるのは、僅か10店舗にすぎない。2項事業者には条例案に反対する意見もあるが、これまでどおりの営業ができなくなっても、正にそれを市民が求めている以上はやむを得ないものであり、規制区域内であっても規制図書類の販売等ができないだけで、販売等を継続したいのであれば、市内にも店舗を移転できる場所はある。
 その他事業者は、今後、同条4項の要件を満たすための内装工事等が必要となるが、本条例においては、規制図書類の販売等の禁止がその営業に与える影響が大きいこと、通常、書店やレンタルビデオ店に規制図書類が置かれていることは一般に理解されているはずであることを考慮し、同項の義務を履行すれば規制図書類を販売等できる旨の配慮がされている。
 同条1項、2項違反の場合には、本条例9条の改善命令・業務停止命令を待つことなく刑事罰の対象となる(本条例15条1号)とはいえ、その法定刑は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金にとどまる(同条柱書)。本条例8条4項違反の場合には、同条例9条の改善命令・業務停止命令に違反して初めて刑事罰の対象となる(本条例15条1号、2号)。
 公布により直ちに施行されるのではなく、6か月の期間がある。
 以上からすれば、本件利益が個々人の主観的利益にすぎないことを考慮しても、必要かつ合理的な制限であると判断することが裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえない。
 よって、本条例8条同条1項、2項、4項は、22条1項に違反しない。

以上

posted by studyweb5 at 16:30| 新司法試験論文式過去問関係 | 更新情報をチェックする


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