2012年01月29日

最新下級審裁判例

東京地裁民事第2部判決平成22年03月30日

【判旨】

5.争点(2)ウ(省令制定手続の適法性)について

(1)ア.原告らは,①改正省令及び再改正省令の制定に当たって行われた意見公募手続において,その公募で寄せられた意見が反映されていない点,②再改正省令の意見公募手続において行政手続法で定められた期間が遵守されていない点で,本件改正規定の制定手続に違法がある旨主張する(事案5(2)ウ(原告らの主張の要旨)(以下「原告ら主張ウ」という。)(ア))。

イ.しかしながら,上記①については,行政手続法42条は,命令等制定機関は提出された当該命令等の案についての意見(以下「提出意見」という。)を十分に考慮しなければならないと定めているものの,これは,提出意見の内容をよく考え,定めようとする命令等に反映すべきかどうか等について適切に検討しなければならないということであり,その「考慮」は,提出意見の内容に着目して行われるものであって,提出意見の多寡に着目するものではなく,まして,提出意見のうち多数意見を採用することを義務付けるものではないと解されるところ,前記4(4)ア(ウ)のとおり,本件規制は,一般用医薬品の販売について,購入者の入手上の利便性よりも,使用上の安全性の確保を優先させて設けられた規制であり,提出意見の大半は一般用医薬品の入手上の利便性を求める内容にとどまり,副作用のリスクの情報提供の観点からの対面販売とインターネット販売との実効性の対比等に関する専門的・技術的な内容に言及するものは少なく,これに言及する意見の内容も,厚生科学審議会の検討部会・専門委員会及び第一次・第二次検討会における関係各界の専門家・有識者による議論の結果並びに国会審議における議論の状況を踏まえた厚生労働省の検討結果を左右するに足りるものとは認め難いところ,厚生労働省において提出意見を考慮してもなお上記のとおり判断されることを踏まえて改正省令及び再改正省令の制定に至ったものと認められることからすれば,意見公募手続の結果において本件規制に反対の意見が多数であり,その意見を採用しなかったからといって,本件規制を内容とする省令の制定手続が行政手続法42条に違反するものとは認められないというべきである。なお,改正省令に関する意見公募手続の結果の公表に際して,厚生労働省は,郵便等販売の規制に関する意見の主な理由とそれに対する回答につき,賛成意見に係る理由・回答の約3倍に当たる反対意見に係る理由・回答を公表しており(事案6(6)タ),その公表内容からは賛成・反対の意見の多寡につき反対意見の方が多かったことを容易に看取できることからすれば,この公表方法にも手続上の問題があったということはできない。
 また,上記②については,(ア)本件各規定は,いずれも改正省令によって加えられた規定であり,再改正省令によって加えられ又は改正された規定ではないから,再改正省令案の意見公募手続の瑕疵の有無は,改正省令により新設された本件各規定の制定手続の適法性を左右するものではないし,再改正省令の公布前に意見公募手続が実施されている以上,意見提出期間の短縮に係る手続の瑕疵の有無によって直ちに再改正省令自体の効力が左右されるとも解されない上,(イ)これらの点を措くとしても,行政手続法40条1項は,やむを得ない理由があるときは30日を下回る意見提出期間を定めることができ,命令等の案の公示の際その理由を明らかにすべきものと定めているところ,(a)再改正省令は,改正省令で定めた規制に対する経過措置を定めるものであることから,改正省令の施行前に制定する必要があったこと,事案6(7)の第二次検討会の議事の経緯によれば,平成21年5月12日までに再改正省令案を提示して意見を募集することが不可能な状況にあったことはいずれも明らかであるから,再改正省令の制定の際,意見提出期間を30日より短縮したことにはやむを得ない理由があったと認めるのが相当であり,また,(b)事案6(7)クによれば,再改正省令案の公示の際に期間短縮の理由も明らかにされていることが認められるので,再改正省令の制定手続に上記期間短縮の点で同省令の無効を招来するような違法があるとは認められない。

(2)ア.また,原告らは,前掲最高裁平成16年12月24日第二小法廷判決を根拠に,改正省令及び再改正省令の立案の過程において,原告らに対し協議及び配慮がされるべき義務があるにもかかわらず,それが遵守されていない旨主張する(原告ら主張ウ(イ))。

イ.しかしながら,上記最高裁判決は,町長が事業者に不利益な一定の認定をする場合の手続として,町の条例上,事前協議をすべきことが定められていたという事案において,条例に定められた協議の場において事業者の地位に配慮することが必要であった旨判示した事例であり,前記3のとおり国会において成立した法律の委任に基づきその委任の範囲内で定められた省令の制定手続との関係で,当該省令の規制内容を定めるに当たって事前協議等の手続が法律又は省令に特に定められていない本件の場合とは事案を異にすることは明らかであり,改正省令及び再改正省令の制定手続について,所論の協議及び配慮の義務違反による違法があると認めることはできない。

(3)ア.さらに,原告らは,①改正省令の制定に至る過程において検討部会及び第一次検討会での検討は原告らを始めとするインターネット販売を行う業者を排除して行われた点,②これらの検討において厚生労働省からの天下りを受け入れている団体や多額の政治献金をしている団体などインターネット販売を行う業者と競合する業界の利益を代表する委員によって偏った議論が行われた点,また,③検討部会及び第一次・第二次検討会を通じてインターネット販売の規制の必要性及びその根拠についてのまともな議論が行われなかった点において,改正省令には手続的な瑕疵がある旨主張する(原告ら主張ウ(ウ))。

イ.しかしながら,前示のとおり,改正省令は,国会の審議・議決により制定された改正法の委任に基づき,その委任の範囲内で厚生労働大臣が定めたものであり,改正省令による本件規制の趣旨・内容は,一般用医薬品の副作用による健康被害の防止のための有資格者による情報提供並びにその内容・要否及び使用の適否の判断の実効性の観点からの情報提供及び販売の方法・態様の規制であると解されるところ,改正省令の制定に当たっては,薬学・医学,経営学及び法学等の専門家や薬害被害者団体・消費者団体の関係者などの幅広い分野の専門家・有識者を構成員に含む検討部会及び第一次検討会において関係各界の意見が聴取され,第一次検討会では原告P1代表者(P4理事長)及び他のインターネット販売を行う業者の意見の聴取並びに質疑も行われており,当該規制の趣旨・内容にかんがみ,当該業者を検討部会及び同検討会の構成員に加えなかったことの一事をもって,直ちに改正省令の制定手続にその効力を左右する瑕疵があるということはできない。そして,検討部会及び第一次検討会の構成員には上記のとおり薬学・医学,経営学及び法学等の専門家や薬害被害者団体・消費者団体の関係者などの幅広い分野の専門家・有識者が多数含まれ,医薬品販売業等(インターネット販売業を除く。)の業界団体関係の委員はいずれにおいても委員全体の3分の1以下にとどまること等を踏まえ,事案6(3)及び(6)の認定に係る検討部会及び第一次検討会における議論の状況と各報告書の内容並びに本件規制の必要性・合理性について前記4に説示したところを併せかんがみれば,改正省令による本件規制の内容が,上記検討部会及び第一次検討会の構成員及び議論の偏りのために不当にゆがめられて必要性・合理性を欠くものとなったなどということは到底できず(仮に原告らの主張に係る医薬品販売業界等における政治献金や天下りといった事実が存在したとしても,同様である。),かえって,事案6(3)及び(6)の認定によれば,検討部会及び第一次検討会において,インターネット販売の対面販売との対比等における問題点について真摯な議論がされていること(検討部会における前記3(4)エ(b)①の多数の委員の各発言,第一次検討会における事案6(6)オのP12委員及びP57委員,同カのP12委員,P50委員,P36委員及びP16委員並びに同キのP21委員の各発言参照),原告P1代表者(P4理事長)及び他のインターネット販売を行う業者は第一次検討会で意見を述べる機会を与えられており,その際,業界での自主規制案は作成中であるとするにとどまり,前記4の検討によれば,委員らから指摘された問題点に対する有効な対応策を示すことができたとはいえないこと(仮に,原告らの主張のとおり,この時点で自主規制案が完成していたとしても,委員らから指摘された問題点に対する有効な対応策を示すことができたとはいえないことからすれば,そのことは,後記の結論を左右するものではない。),その後に発表されたP4ガイドライン及びP4業界ルール案も,前記4(4)及び(5)のとおり,対面販売との対比等における各種の問題点に対する有効な対応策を示すことができたとはいえないことなどの議論の経過に照らしても,原告らの主張するような偏った議論があったとは認め難い。なお,事案6(7)のとおり,再改正省令の制定に当たっては,P5代表者及び原告P1代表者を構成員に含む第二次検討会において改正省令附則に加える経過措置の内容が議論され,再改正省令案の経過措置の追加に賛成する意見が全体の6割以上を占めたものの,規制強化の立場から当該経過措置の追加に反対する薬害被害者団体等の意見と,規制緩和の立場からインターネット販売に関する経過措置の更なる追加を求める同販売業者(P5及び原告P1)の意見が出され,意見の取りまとめに至らず,多数意見により支持された再改正省令案に沿った経過措置が同省令により改正省令附則に加えられたものであり,上記の経緯をもって,改正省令中の本件改正規定の制定手続にその効力を左右する違法を招来するものとは解されない。
 また,以上によれば,検討部会及び第一次・第二次検討会における議論にその過程での手続的な瑕疵に起因する不備があるために改正省令中の本件改正規定の制定手続が違法である旨の原告らの主張は理由がない。
 なお,厚生労働大臣の諮問機関又はこれに準ずるものとして法令改正の基礎となる政策について専門家・有識者等から意見を聴取するという厚生科学審議会の検討部会及び第一次・第二次検討会の各性質並びに事案3(2)ア,同(3)ア及び同(4)アの認定に係るそれぞれの設置の趣旨からすれば,これらにおいて,規制内容に関する憲法上の議論が行われなかったこと(あるいは,憲法・行政法を専攻する法学者がこれらの構成員に含まれていないこと)をもって,直ちに改正省令中の本件改正規定の制定手続に違法があるということはできない。

(4) そして,原告らのその余の主張も,改正省令中の本件改正規定の制定手続に係る瑕疵・違法の存在を基礎付けるものと認めることはできない。
 したがって,改正省令中の本件改正規定の制定手続に所論の違法はない。

6.小括

 以上によれば,改正省令中の本件改正規定は,これらを違法・違憲として無効であるということはできず,原告らは,本件改正規定により新設された新施行規則中の本件各規定の適用を受ける結果,既存一般販売業者(改正法附則2条)として,第一類・第二類医薬品につき郵便等販売をすることができる地位を有するとは認められないから,本件地位確認の訴えに係る請求は,いずれも理由がない。

7.結論

 よって,本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えはいずれも不適法であるから却下し,本件地位確認の訴えに係る請求はいずれも理由がないから棄却する。

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