2009年07月24日

平成21年度旧司法試験論文式試験の感想(憲法・民法)

全体について

7月19、20日に、平成21年度旧司法試験論文式試験が行われた。
試験問題は、法務省のHPで公表されている

全体的に見て、解き易い問題が多かったと思う。
もっとも、民法の第2問や、商法の第1問は、非常に解きにくい。
民法と商法は、一日目の科目である。
一日目の夜は、それを意識しながら過ごすことになる。
そのため、今年は難しい、という印象を持ちがちだ。
しかし、その他の問題は、比較的基本的なものが多い。
総合すると、例年並みか、やや解き易い問題だったといってよいだろう。
受験生の感覚としては、「今年は難しかったが、結構出来は良い」という感じではないか。

憲法について

第1問は、取材で得た映像データを刑事司法に供させることの合憲性に関する問題である。
比較問題なので、比較の視点を示し、それに沿って説明していけばよい。
この点については、博多駅事件日テレ事件TBS事件の3つの判例がある。
基本的な視点としては、博多駅事件で示された基準。
すなわち、犯罪の性質、証拠価値、必要性、取材の自由が妨げられる程度、報道の自由に及ぼす影響などである。

(最決昭44・11・26、博多駅事件より引用、下線は筆者)

 公正な刑事裁判を実現することは、国家の基本的要請であり、刑事裁判においては、実体的真実の発見が強く要請されることもいうまでもない。このような公正な刑事裁判の実現を保障するために、報道機関の取材活動によつて得られたものが、証拠として必要と認められるような場合には、取材の自由がある程度の制約を蒙ることとなつてもやむを得ないところというべきである。しかしながら、このような場合においても、一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合においても、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなけれぼならない。

(引用終わり)

判例自体を直接引用しなくても、上記視点が示されていれば、評価されるはずである。

ただ、本問は比較すべきポイントが少ないように感じられる。
前段と後段の事例で異なる点は、以下の2点くらいだろう。
一つは、撮影者が局の人間か、一般人かという点。
もう一つは、司法警察員による差押えか、裁判所の提出命令かという点である。

このうち、前者については、一般人の場合は将来映像の提供を得ることが難しくなるかもしれない。
ただ、自分の撮った映像をテレビで放映するのは良いが、裁判で使って欲しくない。
そのように思う人がどれほどいるのか、という疑問もある。
また、後者の点については、日テレ事件(検察事務官の事例)及びTBS事件(司法警察員の事例)は、本質的な差異が無いとする。

(最決平元・30、日テレ事件判例より引用、※及び下線は筆者)

 同決定(※博多駅事件決定を指す。)は、付審判請求事件を審理する裁判所の提出命令に関する事案であるのに対し、本件は、検察官の請求によつて発付された裁判官の差押許可状に基づき検察事務官が行つた差押処分に関する事案であるが、国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異がないことは多言を要しないところである。

(引用終わり)

 

(最決平2・7・9、TBS事件より引用、下線は筆者)

 報道機関の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障の下にあり、報道のための取材の自由も、憲法二一条の趣旨に照らし十分尊重されるべきものであること、取材の自由も、何らの制約を受けないものではなく、公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある場合には、ある程度の制約を受けることがあることは、いずれも博多駅事件決定(最高裁昭和四四年(し)第六八号同年一一月二六日大法廷決定・別集二三巻一一号一四九〇頁)の判示するところである。そして、その趣旨からすると、公正な刑事裁判を実現するために不可欠である適正迅速な捜査の遂行という要請がある場合にも、同様に、取材の自由がある程度の制約を受ける場合があること、また、このような要請から報道機関の取材結果に対して差押をする場合において、差押の可否を決するに当たっては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押さえるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによって報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきであることは、明らかである(最高裁昭和六三年(し)第一(一六)号平成元年一月三〇日第二小法廷決定・刑集四三巻一号一九頁参照)。

(引用終わり)

そうなると、ほとんど違いが無いことになる。

また、本問では、一番重要な要素であるはずの、証拠の必要性を示す事情が挙がっていない。
他にいかなる証拠があって、どの程度まで立証が可能な状況なのか。
また、捜査、審理の状況はどのようなものだったのか。
このあたりの事情が全く挙がっていない。
昨年度の第1問もそうであったが、不親切な出題といえる。
そのため、何を書いていいのか、もやもやしながら書き出した人が多かっただろう。

評価のポイントは、博多駅事件の視点を挙げられるか。
それと対応した検討がなされているか、ということになる。
もっとも、多くの人がこの点はできているはずである。
こういう場合、余事記載の少なさが評価を分ける場合が多い。
コンパクトで無駄の無い答案が上位になりやすいと思われる。

第2問は、免責特権についての出題である。
統治の問題にしては例外的に、多論点型だった。
論点は、以下の通りである。

1:「演説、討論又は表決」の意義。
2:「議院」の意義。
3:「責任」の意義。
4:免責特権の及ぶ行為について、議員が免責されない場合はあるか。
5:免責特権の及ぶ行為について、国が賠償責任を負う余地はあるか。

1について、「表決」とは、議題について賛否を明らかにすること。
「討論」とは、表決を要する議題についての意見の発表をいうとされる。
本会議や委員会などの議事において、「これから採決に入ります」「これから討論に入ります」等と議長・委員長が宣言する。
上記「表決」や「討論」は、これに対応するものである(採決は「表決を採る」の意味)。
「演説」とは、討論以外の意見の発表、事実の陳述をいうとされる。
そうすると、本問の発言は、「演説」にあたる。
HPへの掲載も、やや微妙ではあるが、意見の発表、事実の陳述であり、「演説」にあたるといえそうである。
従って、東京高判昭44・12・17のように職務付随行為を含むか、という論点は論じる必要が無い。

2については、議院の活動として行われる範囲を指すとされる。
公聴会は、各議院の委員会が開催する(国会法51条1項)。

国会法51条1項
 委員会は、一般的関心及び目的を有する重要な案件について、公聴会を開き、真に利害関係を有する者又は学識経験者等から意見を聴くことができる。  

地方公聴会は、地方で行う公聴会である。
従って、「議院」に含まれる。
他方、自己が開設したHPへの掲載は、議院の活動として行われる範囲を超えている。
従って、「議院」に含まれず、免責特権の対象から外れることになる。

3については、一般国民が負うべき法的責任及び公務員を兼職している場合の懲戒責任を含むとされる。
名誉毀損を理由とする不法行為に基づく損害賠償責任は、一般国民が負うべき法的責任にあたる。
また、弁護士会は弁護士法によって、懲戒権が認められている(弁護士法第8章)。
そのため、弁護士の懲戒責任も、公務員の懲戒に準ずるものとして「責任」に含まれる。

4については、免責特権は絶対的なものか。
絶対的でないと考える場合、どのようなときに例外が認められるのか。
その辺りを論じることになる。

5については、最判平9・9・9(病院長自殺事件)がある。
肯定する場合、さらに故意過失の内容、求償の可否を論じる。

以上の点について、免責特権の趣旨から一貫した論述をすることが期待されていると思われる。
本問の論点は、それほどメジャーではない。
全ての論点を的確に整理して書けた人は、それほどいないだろう。
そのため、論点把握が不正確であっても、論理的一貫性があればそれなりに評価されると思われる。

民法について

第1問は、代理に関する論点を幅広く問う問題である。
民法らしい多論点問題である。

小問1は代理権授与の独自性、委任解除の代理権への影響、無効な授権表示への109条の適用又は類推適用の可否、代理権濫用。
小問2は、利益相反該当性、親権者の代理権濫用、親権者の代表権(法定代理権)は112条の「代理権」足りうるか。
なお、親権者の代理権濫用については、最判平4・12・10がある。

上記をどれだけ拾えるか。
及び、整理してコンパクトに論述できるかで、評価がわかれる。
典型論点の組み合わせであるから、答練等で類似の問題が出題されているはずだ。
従って、全体の出来は良いはずである。
それだけに、論点を一つ落とすと、予想外に評価を下げるおそれがある。
特に、第2問が難問で、それほど差が付きそうにない。
そのため、第1問の比重は大きく、ちょっとした見落としが致命傷になりかねない怖さがある。

第2問は、相続に関するマイナー論点を問う問題である。
知らないと何が論点か気付きにくい問題文になっている。
そのため、白紙に近い答案が結構あったのではないか。

小問1は、遺産分割による相続債務分割についての相続債権者に対する対抗の可否である。
この点、金銭債務のような可分債務は相続により当然に分割帰属する(最判昭34・6・19)。
これを遺産分割で変更することは、免責的債務引受となり、債権者の同意なくすることができない。
従って、共同相続人は、遺産分割により相続債務を負わないことを相続債権者に対抗できない。
これに関し、遺言による相続分の指定についてであるが、最判平21・3・24は以下のように述べる。

(最判平21・3・24より引用)

 遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。

(引用終わり)

本問の場合、BはD・Eにも法定相続分の1000万円の支払い請求ができる。
他方、Cについて、Bが遺産分割通りの帰属を認めてこれを請求することは認められる。
従って、既払い分1000万円を除いた残額2000万円の支払いを請求できる。
D・EはBに支払った分をCに求償することになる。

小問2は、共同相続人間の担保責任くらいだろう。
DはAを包括承継しているから、Gとの関係で当事者である。
従って、対抗関係に立たないから、Gからの引渡し請求を拒めない。
そこで、Dとしては、C・Eに担保責任(911条、561条、562条)を追及することになる。
もっとも、その内容は必ずしも明らかでない。
善意・悪意について、他の共同相続人の全員についてなのか、一部で足りるのか。
また、遺産分割の債務不履行解除は認められない(最判平元・2・9)が、担保責任による解除はできるのか。
解除を認める場合、既にしたCのBへの弁済や、Fへの売却の効力はどうなるのか。
損害賠償は、信頼利益にとどまるのか。
また、Gから所有権を譲受けてDに移転できないことにつき、C・Eに故意過失がある場合。
この場合に、債務不履行責任を問うて履行利益まで請求しうるのか。
この辺りが、問題となりそうである。

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