2008年12月17日

新旧61期の2回試験の結果について

2回試験の結果

新旧の61期司法修習生の司法修習生考試(2回試験)の結果が出揃った。

(Nikkei.net08年9月1日1時12分配信記事より引用)

 最高裁は1日、司法修習を終えた642人の修習生を対象に卒業試験を実施し、33人(約5.1%)が不合格になったと発表した。

 今回受験したのは2006年の旧司法試験に合格した569人のほか、過去の卒業試験で不合格となった73人の再受験者。再受験者に限ると、13人(約17.8%)が不合格だった。

(引用終わり)

 

(asahi.com08年12月16日23時52分配信記事より引用)

 最高裁は16日、司法修習生(新61期)のうち1811人が司法研修所の卒業試験を11月に受け、101人が不合格になったと発表した。過去に卒業試験を不合格となり、再受験した33人のうち12人も再び不合格で、「落第」は過去最多の113人となった。

(引用終わり)

以下は、60期と61期の2回試験の受験者数等をまとめたものである。

  当該期の
受験者数
当該期の
合格者数
当該期の
合格率
再受験者数 再受験
合格者数
再受験者の
合格率
旧60期 1453 1393 95.8% 15 26.6%
新60期 986 927 94.0% 69 52 75.3%
旧61期 569 549 96.4% 73 60 82.1%
新61期 1811 1710 94.4% 33 21 63.6%

新旧ともに94%~96%程度の合格率である。
旧の方は60期よりも61期の方が1%程度上昇している。
また、新61期よりも旧61期の方が2%程度合格率が高い。
ただ、この程度の差には、それ程意味があるとは思えない。
今のところ、下5%程度が落とされるということで、安定した傾向だといえそうだ。
新旧共に60期と61期とで受験者数の変動が大きい。
新はほぼ倍に、旧の方は半分以下になっている。
しかし、合格率はそれほど大きく変わっていない。
司法試験の合格者数の変動にかかわらず、合格者のレベルが変わっていないためと考えるか。
それとも、最高裁が大体下5%を目安に2回試験の合格ラインを定めていると考えるか。
両方の要素があると思われる。
顕著なレベルの差がない限り、合格率にそれほど差を付けないような方針でいるのではないか。

他方、再受験者の合格率は変動が大きい。
もっとも、母集団が少ないため、小さな要因で結果が大きく変動してしまう。
従って、読み取れることはあまり無い。
おおよそ7割程度は再受験で救われるという感じだ、という程度である。

この傾向が今後も続くと考え、初受験の合格率が95%、再受験の合格率を70%と仮定する。
そうすると、初受験と再受験で2度落とされる割合は、おおよそ

5%×30%=1.5%

ということになる。
1000人受験して15人程度の割合である。

上記に基づいて、将来的に合格者数が3000人となった場合を考えてみる。
その場合、最初の2回試験で大体150人程度が不合格。
再受験で45人程度が再度不合格。
このような感じになるだろう。
これが多いと考えるか、少ないと考えるか。
微妙なところである。

不合格答案の概要

最高裁は、新60期の不合格答案の概要を公表している。
具体的に不合格答案に現れた問題点とは、以下の通りである。

新第60期司法修習生考試における不可答案の概要より引用)

民事系科目

・ 民法等の基本法における基礎的な事項についての論理的、体系的な理解不足に起因するとみられる例

○ 「代位」という民法の基本概念及びこれに基づく債権者代位訴訟の構造(被保全債権である貸金債権が譲渡されると原告適格に影響を及ぼすこと)を理解していないもの

○ 民法の基本概念である「相殺」について、債務消滅原因として主張されている相殺(民法第505条)の効果を全く理解しないまま、相殺の抗弁により反対債権と引換給付の効果が生じるにとどまる旨説明したもの

○ 売買契約に際し、解約手付として手付金を支払ったことが記録上明らかであるところ、「解約手付」とは手付金の支払によって手付解除を可能にするものであり、契約法の基本概念として修習中にも十分な指導をしているにもかかわらず、その手付金の支払自体が「履行(の)着手」(民法第557条第1項)に該当するから手付解除ができなくなる旨説明したもの

○ 被告の反論に応じて、主張立証責任を負うべき原告の立場から事実に基づき法律構成を示した再反論が求められているのに、民法上の典型論点である債務不履行責任と瑕疵担保責任の区別ができていないなどのため、単に被告の主張に対する事実の反論を羅列するにとどまり、法律構成に結び付けることができていなかったもの

・ 事実認定等の基本的な考え方が身に付いていないことが明らかである例

○ 事案において最も重要な書証である借入誓約書に全く触れなかったり、同借入誓約書の真正な成立は認められないと判断しながら、他方でその内容は信用できるとして、この書証を認定の根拠としたもの

○ 重要な間接事実をほとんど挙げることができなかったもの

○ 客観的証拠に着目せず、供述の信用性を吟味しないまま、安易に一方の供述のみに依拠して事実を認定したもの

○ 最終準備書面の起案を求められているのに、これまで自ら全く主張していなかった事実を証拠に基づかず記載したもの

・ 一般社会通念や社会常識に対する理解ができていない例

○ 2年間有償で買い猫を預かる契約の内容には「猫を生存させたまま返還するまでの債務は含まれない。」との独自の考えに基づき、「猫を死亡させても返還債務の履行不能にはならない」と論じたもの

○ 「実兄が弟に対して保証することはあまりない。」などと、独断的な経験則を平然と記載したもの

 

刑事系科目

・ 刑法等の基本法における基礎的な事項についての論理的、体系的な理解不足に起因するとみられる例

○ 刑法の重要概念である「建造物」や「焼損」の理解が足りずに、放火の媒介物である布(カーテン)に点火してこれを燃焼させた事実を認定したのみで、現住建造物等放火罪の客体である「建造物」が焼損したかどうかを全く検討しないで「建造物の焼損」の事実を認定したもの

○ 判決宣告期日における弁護人の出頭の要否、立証趣旨の明示、目撃者が犯行状況を写真に撮影した場合及び警察官が被害者の被害再現状況を写真に撮影した場合のそれぞれにおける「写真」の証拠能力といった日常的に生起する刑事訴訟の基本的事柄に関する理解が明らかに不足しているもの

・ 事実認定等の基本的な考え方が身に付いていないことが明らかである例

○ 放火犯人が被告人であるかどうかが争点の事案で、「被告人は犯行を行うことが可能であった」といった程度の評価しかしていないのに、他の証拠を検討することなく、短絡的に被告人が放火犯人であると結論付けるなど、「疑わしきは被告人の利益に」の基本原則が理解できていないと言わざるを得ないもの

○ 事実認定の重要な手法である間接事実から要証事実を推認することができるかどうかの判断過程が見に付いておらず、記録上当然検討しなければならない重要な間接事実に触れなかったり、自己の採る結論に沿わない間接事実について全く論及しなかったり、一応の論及はあるがその検討が極めて不十分であったもの

○ 刑事弁護人の立場を踏まえた柔軟な思考ができずに、被告人が一貫して犯行を否認し、詳しいアリバイを主張しているのに、被告人の主張を無視してアリバイに関する主張をまったくしないもの(さらには被告人のアリバイ供述は信用できないとして、依頼者である被告人の利益に反する弁論をしたもの)、証拠関係の評価をほとんどしていなかったり、証拠に基づいた主張をしていないもの

(引用終わり)

確かに、司法試験の論文で書いても大きな減点になりそうなものばかりである。
修習生でない一般の受験生にも十分参考になる資料である。

上記のことは質の低下の問題と絡めて、規制改革会議で話題にされている。

(規制改革会議平成20年6月24日第1回法務・資格TFより引用)

○佐々木参事官 質の低下というのが、質とは何ぞやというと、抽象的なことはかなり言えても、具体的な基準の中身について、多分国民的なコンセンサスがないのかも知れないというのが前提の問題にはありますけれども、一つ2回試験で不合格とされた人が、どういう答案を書いて不合格となっているのか、これは1つの視点を与えるものではないかと考えてございます。

○福井主査 そういう調査があるわけですか。

○野原部付 最高裁の事務総局が、最近の司法修習生の状況についてペーパーをまとめていまして、今日は持って来てないので、正確に引用できているかどうかわからないんですけれども、最高裁事務総局のペーパーによりますと、全体として最近の新60期の司法修習生は、従来の司法修習生と能力的には遜色はないということを言っております。
 しかし、司法修習生の中には、先ほど佐々木の方から申し上げたような、基本法に関する基本的な知識や理解が欠けている者がいるということをペーパーでまとめています。
 具体的に2回試験で落ちた人の答案の例が挙がっていたんですけれども、例えば放火罪で、当然、建造物放火であれば建造物が独立して燃焼すれば放火の既遂になるんですけれども、それについて建造物が独立して燃焼したかどうかをちゃんと認定せずに、媒介物、火をつけるための媒介物が独立して燃焼したことをもって既遂であると認定した答案があったやに聞いております。

○福井主査 そういう場合は落ちるわけですか。

○野原部付 それは落ちましたね。

○福井主査 決定的な間違いだから、大幅減点になるということですか。

○佐々木参事官 それは全く何というか、カーテンを燃やしたら家が燃えたと同じだと解釈するのは。

○福井主査 罪刑均衡に反する。

○佐々木参事官 はい。あるいはアリバイを主張しているので、公判の最後の段階で被告人の弁論をする書類をつくってみなさいと,そうしたら,アリバイのことに触れていないとか。もしこれで出てしまったら,弁護士になって弁護できるわけですね。国民は,そういう人に弁護してもらっていいのかというレベルの話だと思います。
 あるいは世間で相殺と言ったら清算というか貸し借り関係なしにするということですね。そうすると、お金を幾ら払って下さいと言ったときに、幾らで相殺だと言ったら、差額を返せばよいということになるはずなのに,幾らと幾らを引き換えにするんだという判決になると答えている者もいた。それは法学部の学生でも、民法、債権各論を学べば、そんな答えは出てこないはずなんです。これは従前とは異質の話だと思うんです。
大部分の教育は成功していると、さっき野原が紹介しておりましたけれども、しかしながらそういうものが混じり込むような現実がある。

○福井主査 それは山下さんが指摘されたように、研修所の在籍期間が短くなったこととも関係しているんでしょうか。

○佐々木参事官 これは研修所で教えることですかね。多分事務局の方も、みんなぽかんと口を開けておられたけれども、そんなあほなと、そんなの法学部を出ていれば知っているというお顔でみんな笑っておられますけれども。

(引用終わり)

合格率がそれほど変わらないことから、新旧61期においても、同様の不合格答案はあったはずである。
そして、これからもそのような不合格答案は出ることになる。
従って、今後も2回試験の結果が質の確保の問題と絡めて議論されることはあるだろう。
ただ、合格率が95%前後で安定推移すれば、ある種の慣れが生じる。
そうなると、それほど問題視されなくなる可能性もある。

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