2022年07月29日

令和4年予備試験論文式民法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.当サイトでは、平成27年から令和元年まで、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案を掲載してきました(「令和元年予備試験論文式憲法参考答案」参照)。それは、限られた時間内に効率よく配点の高い事項を書き切るための、1つの方法論を示すものとして、一定の効果をあげてきたと感じています。現在では、規範の明示と事実の摘示を重視した論述のイメージは、広く受験生に共有されるようになってきているといえるでしょう。
 その一方で、弊害も徐々に感じられるようになってきました。規範の明示と事実の摘示に特化することは、極端な例を示すことで、論述の具体的なイメージを掴みやすくすることには有益ですが、実戦的でない面を含んでいます。
 また、当サイトが規範の明示と事実の摘示の重要性を強調していた趣旨は、多くの受験生が、理由付けや事実の評価を過度に評価して書こうとすることにありました。時間が足りないのに無理をして理由付けや事実の評価を書こうとすることにより、肝心の規範と事実を書き切れなくなり、不合格となることは避けるべきだ、ということです。その背景には、事務処理が極めて重視される論文の出題傾向がありました。このことは、逆にいえば、事務処理の量が少なめの問題が出題され、時間に余裕ができた場合には、理由付けや事実の評価を付すことも当然に必要となる、ということを意味しています。しかし、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案ばかり掲載することによって、いかなる場合にも一切理由付けや事実の評価をしてはいけないかのような誤解を招きかねない、という面もあったように感じます。
 上記の弊害は、司法試験の検証結果に基づいて、意識的に事務処理の比重を下げようとする近時の傾向(「検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について」)を踏まえたとき、今後、より顕著となってくるであろうと予測されます。
 以上のことから、平成27年から令和元年までに掲載してきたスタイルの参考答案は、既にその役割を終えたと評価し得る時期に来ていると考えました。そこで、令和2年からは、必ずしも規範の明示と事実の摘示に特化しない参考答案を掲載することとしています。

2.民法は、受験生の現場感覚からすると、かなりの難問だったのではないかと思います。設問1は、債権法改正を正面から問う問題です。司法試験・予備試験を問わず、債権法改正を問う出題の顕著な特徴は、「一般的な改正対応本にはあまり詳しく書いていないところを狙って出してくる。」という点です。本問の場合、小問(1)は代金(報酬)減額請求権の法的性質論で、減額対象が再塗装費用相当額ではないことが重要です。一部解除類似の契約改訂権であることを前提に、「βで塗装した甲建物という不適合物を目的とする契約に改訂されると、報酬は減額どころか、かえって高くなっちゃうよね。」というのが、本問の問題意識もっとも、これに気付く人は少ないでしょう。小問(2)は、追完に代わる損害賠償請求に415条2項3号の要件(催告解除権発生)を要するか、Aの追完権が優先するかが問われています。知っていれば論証を貼り付けて当てはめるだけですが、知らない人の方が多かったでしょう。もっとも、前者については、令和2年司法試験論文式民事系第1問でも出題されています(※)。「司法試験定義趣旨論証集債権総論・契約総論」 では、この辺りの「一般的な改正対応本では触れられていないけれども、出題されそうなところ」についても、論証を用意し、※注で解説を付していますので、参考にしてみて下さい。
 ※ 当時の参考答案(「令和2年司法試験論文式民事系第1問参考答案」)では催告必要説に依拠していますが、「司法試験定義趣旨論証集債権総論・契約総論」では立案担当者の立場である不要説を採用し、本問の参考答案も、これに準拠しています。

 設問2は、占有と相続を問う問題です。冷静に事実関係を整理すれば、それほど難しくないものの、現場で解こうとするとかなりの難問にみえるでしょう。難しいのは、被相続人の他主占有を相続で承継した後、相続人が新たに事実上の占有を開始する前の時点で所有の意思を表示した場合に、自主占有転換が生じるかです。これは学説の議論も十分ではないところで、条文の文言からはいけそうな感じなのですが、それだと新権原の話が出てこないし、新権原の話のときの判例との親和性からしたら、否定が筋っぽいよね、というのが、現場の相場観なのだろうと思います。
 参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(民法総則)【第2版】」、「司法試験定義趣旨論証集(物権)【第2版】」、「司法試験定義趣旨論証集債権総論・契約総論」に準拠した部分です。

【参考答案】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)本件請負契約の締結に当たり、Bはαを指定した。βはαと同系色であるが、αは極めて鮮やかなピンク色で、より明度が低いβを用いることは種類の不適合(559条、562条)となる。

(2)Aはαによる再塗装請求を拒絶した(563条2項2号)。不適合はBの帰責事由(563条3項)によらない。

(3)もっとも、αよりβを用いた方が甲建物の客観的価値が高いから、報酬減額の効果は生じないのではないか。
 代金減額請求権の法的性質は、一部解除に類似する契約改訂権(形成権)である
 Bは、専らαがBのコーポレートカラーであることに着目し、耐久性や防汚防水性に着目しないから、βの塗装はBに契約利益を与えない。そうすると、報酬減額請求の効果は、αで塗装する部分の一部解除に類似する契約改訂、すなわち、未塗装の甲建物を建築する契約への改訂であり、αで塗装する仕事に相当する報酬が減額される。

(4)よって、Bの請求が認められる。

2.小問(2)

(1)不適合による損害賠償(559条、564条、415条1項)は、不適合給付という債務不履行そのものによって生じた損害の賠償であって、追完不履行に基づくものではない。追完請求は債務不履行責任の追及であって、履行請求権の行使ではないから、追完に代わる賠償請求は、「履行に代わる損害賠償」(415条2項柱書)ではなく、同項の要件を要しない
 前記第1の1(1)の不適合給付は、債務不履行(同条1項)である。
 確かに、αは地域の美観を損ねるとして多数の住民から反発を受けたため、Aは、周辺の景観に合致するβを用いた事情がある。しかし、契約時に指定されたαと異なるβを用いる以上、Aは、その可否をBに確認すべきであった。Aは、Bに確認せずβを用いた。Bへの確認が困難であった事情はない。以上から、そのリスクはAが負担すべきであるから、免責事由(同項ただし書)はない。

(2)もっとも、Aはαで再塗装する申入れを行った。Aの追完権(562条1項ただし書)が優先するか。
 損害賠償請求も買主(注文者)が選択できる救済手段の1つである点を重視すると、562条1項ただし書の趣旨が妥当するといえるから、売主(請負人)は、買主(注文者)の損害賠償請求に対し、追完権を対抗できる。同ただし書の趣旨は、買主(注文者)による選択の利益を不当に害しない限度で売主(請負人)に二次的な追完権を認める点にあるから、「不相当な負担」かは、買主(注文者)による選択の利益を不当に害するかで判断する
 Aは、Bに確認せずβを用いるという信頼破壊行為をした。BがAに追完させたくないと考えるのは取引通念上相当であり、Bは、他の業者に再塗装させてAに費用賠償させる選択の利益を有する。Aの追完権は、上記選択の利益を不当に害する。
 したがって、Bに「不相当な負担」を課すから、Aの追完権は認められない。

(3)通常損害(416条1項)とは、契約上当然予見すべき定型損害をいう
 契約に適合しない塗料を用いたことによる再塗装費用は、契約上当然予見すべき定型損害である。
 したがって、再塗装費用は、通常損害として賠償範囲に含まれる。

(4)よって、Bの請求が認められる。

第2.設問2

1.Fに20年間の自主占有(162条1項)はあるか。

(1)相続により事実的支配も承継されるのが通常であるから、特段の事情のないかぎり、占有権も相続される(判例)
 FはDを単独相続し、特段の事情もないから、Dの占有を相続する。
 もっとも、DはCからの使用貸借により占有を開始したから、他主占有である(他主占有権原)。固定資産税は通常の必要費(595条1項)として使用借主が負担するからDの支払は上記を左右しない。D死亡による使用貸借終了(597条3項)は占有開始原因を変更しないから上記を左右しない。

(2)Fは、Eに、乙はDがCから贈与されたとして自分に登記を移したいと相談し、令和9年4月1日に登記名義人をFとする登記がされたから、「所有の意思があることを表示」(185条)した。しかし、同日時点でFはDの占有を観念的に承継しているだけで、新たに乙を事実上支配するに至っていないから、同条の自主占有転換は生じない。

(3)相続人が、被相続人の占有を相続により承継しただけでなく、新たに目的物を事実上支配することによって占有を開始した場合において、それが所有の意思に基づくときは、相続人は、新権原に基づく自主占有(同条)を取得する(判例)
 Fは、同年5月1日、本件ラーメン店従業員から管理を引き継いで新たに乙を事実上支配することによって占有を開始した。もっとも、仮に同日に新権原に基づく自主占有を取得したとしても、同29年4月15日現在において20年経過していない。したがって、同月1日のEの提訴による完成猶予・更新(147条1項1号、2項)を考慮するまでもなく、時効は完成しない。

2.よって、Fが援用する乙の取得時効は成立しない。

以上

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2022年07月18日

令和4年予備試験論文式行政法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.当サイトでは、平成27年から令和元年まで、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案を掲載してきました(「令和元年予備試験論文式憲法参考答案」参照)。それは、限られた時間内に効率よく配点の高い事項を書き切るための、1つの方法論を示すものとして、一定の効果をあげてきたと感じています。現在では、規範の明示と事実の摘示を重視した論述のイメージは、広く受験生に共有されるようになってきているといえるでしょう。
 その一方で、弊害も徐々に感じられるようになってきました。規範の明示と事実の摘示に特化することは、極端な例を示すことで、論述の具体的なイメージを掴みやすくすることには有益ですが、実戦的でない面を含んでいます。
 また、当サイトが規範の明示と事実の摘示の重要性を強調していた趣旨は、多くの受験生が、理由付けや事実の評価を過度に評価して書こうとすることにありました。時間が足りないのに無理をして理由付けや事実の評価を書こうとすることにより、肝心の規範と事実を書き切れなくなり、不合格となることは避けるべきだ、ということです。その背景には、事務処理が極めて重視される論文の出題傾向がありました。このことは、逆にいえば、事務処理の量が少なめの問題が出題され、時間に余裕ができた場合には、理由付けや事実の評価を付すことも当然に必要となる、ということを意味しています。しかし、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案ばかり掲載することによって、いかなる場合にも一切理由付けや事実の評価をしてはいけないかのような誤解を招きかねない、という面もあったように感じます。
 上記の弊害は、司法試験の検証結果に基づいて、意識的に事務処理の比重を下げようとする近時の傾向(「検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について」)を踏まえたとき、今後、より顕著となってくるであろうと予測されます。
 以上のことから、平成27年から令和元年までに掲載してきたスタイルの参考答案は、既にその役割を終えたと評価し得る時期に来ていると考えました。そこで、令和2年からは、必ずしも規範の明示と事実の摘示に特化しない参考答案を掲載することとしています。

2.行政法は、憲法と比べると、解きやすい問題でした。設問1は出訴期間と36条の原告適格設問2は無効事由の主張で、その無効事由は、問題文に処分内容の明確性と手続と書いてある

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Dは、本件処分の内容の明確性や手続等に問題があることから、本件処分それ自体を争うべきであると考えるに至り、行政訴訟を提起することを考えている。

(引用終わり)

 「内容の明確性や手続」とあるので、よくわからなくても、「内容の明確性」は手続じゃなくて、実体違法なんだろうということは読み取れたはずです。「論点がわからなかった。」という人は、ほとんどいなかったでしょう。難しいのは、36条の原告適格のうち、「法律上の利益」についてでしょう。まず問題になるのは、「本件処分の名宛人は誰か。」ということです。

D 「俺に決まってるだろ。」
C古墳 「違うよ!ボクだよ!」

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 B町教育委員会(以下「教育委員会」という。)、平成18年4月14日、告示により、B町の区域内にあるC古墳を本件条例第4条第1項に基づきB町指定文化財に指定した(以下、同指定を「本件処分」という。)。

(引用終わり)

 本件処分はC古墳を対象としているので、言っていることはC古墳の方が正しい。ただ、C古墳は人ではなくて物なので、「名宛人」にはなれません。したがって、「本件処分の名宛人などいない。」というのが正解です。このことは、本件処分の効力発生時からも読み取れます。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

○ B町文化財保護条例(抜粋)

4条 教育委員会は、町の区域内に存する文化財のうち、町にとって重要なものをB町指定文化財(以下「町指定文化財」という。)に指定することができる。
2 教育委員会は第1項の規定による指定をしようとするときは、B町文化財保護委員会(以下「保護委員会」という。)に諮問しなければならない。
3 第1項による指定は、その旨を告示するとともに、当該文化財の所有者及び権原に基づく占有者に通知して行う
4 第1項による指定は、前項の規定による告示があった日から効力を生ずる
5、6 (略)

(引用終わり)

 仮に、所有者等が名宛人となるのであれば、その通知の到達時が効力発生時となるはずです。

最判昭29・8・24より引用。太字強調は筆者。)

 効果の発生時期について考えてみると……(略)……行政庁の処分については、特別の規定のない限り、意思表示の一般的法理に従い、その意思表示が相手方に到達した時と解するのが相当である。

(引用終わり)

 名宛人がいないので、告示によるわけですね。本問の文化財指定のような行政行為は、分類上は対物処分といわれるもので、一般処分とともに、「特定の名宛人のない行政行為」に分類されます。
 さて、本問でDが名宛人ではないということになると、「処分の相手方以外の第三者」として、小田急高架訴訟の規範を用いることになりそうです。それが、実は、そうでもない「処分の相手方以外の第三者」とされるのは、処分の効力が直接に及ばない者です。本問のDは、本件条例6条1項、13条1項の制限を直接に受ける地位にあります。なので、名宛人に準じて、当然に原告適格が認められる。このような者を、「準名宛人」といいます。準名宛人に関する近時の判例として、最判平25・7・12があります。

最判平25・7・12より引用。太字強調は筆者。)

 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである(最高裁昭和49年(行ツ)第99号同53年3月14日第三小法廷判決・民集32巻2号211頁,最高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁等参照)。そして,処分の名宛人以外の者が処分の法的効果による権利の制限を受ける場合には,その者は,処分の名宛人として権利の制限を受ける者と同様に,当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として,当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり,その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

(引用終わり)

 これは多くの受験生が知らないはずなので、間違えても、それ自体は合否に影響しないでしょう。ただ、「処分の相手方以外の第三者」と同じに考えて、大展開してしまった人は、他の部分を書く時間、紙幅を失うので、総合的に損をしたでしょう。「Dが名宛人に決まってるジャーン」という感じの人の方が、ダメージが少なかったといえます。
 それから、処分内容の不明確は古典的な無効事由ですが、最近の基本書ではあまり記載がないようで、知らなかったという人もいたかもしれません。民法で、法律行為の内容の確定可能性が有効要件とされていたことを想起すれば、実体的な無効事由っぽいな、という感じにはなったでしょう。もっとも、反論を想定しつつ当てはめるのは結構難しくて、事実関係をうまく使う必要があります。なお、教育委員会の管理状況をもって信義則違反の違法があるとした人もいたかもしれませんが、それは処分当時の違法ではないので、無効事由としては適切でないと思います。
 参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(行政法)」に準拠した部分です。

【参考答案】

第1.設問1

1.取消訴訟提起断念の理由

 本件処分がされたのは、告示された平成18年4月14日であり(本件条例(以下「条例」)4条4項)、既に本件処分から1年(行訴法14条2項)が経過した。災害等提訴の障害となる客観的事情はないから、「正当な理由」(同項ただし書)はない。
 よって、取消訴訟は提起できない。

2.行訴法36条の原告適格

(1)「法律上の利益」(同条)とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。
 文化財指定(条例4条1項)は対物処分で、効力発生は所有者等への通知(同4条3項)でなく、告示による(同条4項)から、特定の名宛人のない処分である。もっとも、文化財所有者は、指定により直接に権利の制限を受ける(同6条1項、13条1項)から、自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として法律上の利益を有する。
 Dは、指定文化財C古墳の所有者であるから、法律上の利益を有する。

(2)「目的を達することができない」(行訴法36条)には、当該処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟では不利益を排除できない場合はもとより、当該処分の無効確認を求める訴えの方がより直截で適切な争訟形態であるとみるべき場合も含む(もんじゅ訴訟判例参照)
 本件処分の無効を前提とする、許可なく本件工事をなしうる地位の確認を求める実質的当事者訴訟でも不利益の排除は可能であるが、本件処分が本件土地のどの範囲に及ぶか不明で、本件土地の整備をしようとするたびに類似の紛争が生じうることからすれば、既判力(行訴法7条、民訴法114条1項)、拘束力(行訴法38条1項、33条1項)をもって本件処分の無効を確定できる無効確認訴訟の方がより直截で適切な争訟形態といえる。
 したがって、「目的を達することができない」といえる。

(3)よって、Dに原告適格が認められる。

第2.設問2

1.処分に重大かつ明白な違法がある場合には、取消訴訟によるまでもないから、当然に無効となる

2.行政行為の内容が、法律上・事実上実現不能又はおよそ不明確な場合は、当該行政行為は不存在というに等しいから、重大明白な瑕疵として当然に無効となる

(1)資料には、本件処分の指定対象物の範囲が本件石室にとどまるか、それを取り巻く盛土も含むのかについては記載がない。

(2)横穴式石室は、その全体が墳丘を成す盛土の中に埋まっているのが通常で、外観上墳丘を成す盛土全体が古墳と認識できるから、およそ不明確とはいえないという反論が想定される。
 しかし、C古墳は全体が盛土の中に埋まっていない。本件石室の入口周辺盛土は崩れ、入口構成巨石が盛土から露出している。露出した入口部分から内部の本件石室のみがC古墳とみえる外観である。教育委員会は、DからC古墳の管理責任者(条例6条3項)として選任されながら、入口構成巨石の周辺のみ定期に草刈りするだけで、それ以外の盛土全体は樹木が生い茂ったまま放置し、C古墳を示す標識を巨石のすぐそばに設置したが、半径約10mの円の内側一帯がC古墳であることを示す標識等を設置したことはなかった。上記管理状況は本件処分後の事情であるが、処分庁である教育委員会自身が盛土全体がC古墳との認識を失ったとみえる管理をするに至ったことは、本件処分がおよそ不明確であったことを裏付ける。
 さらに、仮にC古墳を「盛土全体」、「半径約10mの円の内側一帯」と考えたとしても、境界を具体的に判断できない。

(3)以上から、本件処分の内容は、およそ不明確である。

(4)よって、本件処分は無効である。

3.行政庁が処分をするに当たって諮問機関に諮問し、その決定を尊重して処分しなければならない旨の法の規定がある場合には、諮問の経由は極めて重大な意義を有する(群馬バス事件判例参照)から、その諮問を経なかったときは重大な違法がある。

(1)条例4条2項は、保護委員会への諮問を義務としており、これは文化財指定に専門技術判断を要すること(条例20条、21条1項参照)を踏まえたものであるから、答申を尊重して指定すべき趣旨を当然に含む。資料によれば、その諮問は行われていない。

(2)委員長である考古学者Eの意見聴取を経たから、重大な違法とはいえないとの反論が想定される。
 しかし、定足数(同22条2項)の潜脱であり、E以外の歴史学、民俗学等専攻の9名の研究者の多様な学術的視点を反映する機会が失われたことも踏まえると、重大な違法でないとはいえない。

(3)諮問は内部手続であって、明白な瑕疵でないとの反論が想定される。
 しかし、当然無効の根拠は、初めから誰の目にも瑕疵が明らかである以上取消訴訟によるまでもないという点にあるから、瑕疵の明白性とは、処分成立の当初から外形上、客観的に一見看取しうる瑕疵であることをいう。本件処分に保護委員会への諮問がなかったことは教育委員会の許可をえれば閲覧できる本件処分当時の資料に記載されており、外形上、客観的に一見看取しうる瑕疵である。
 したがって、明白な瑕疵である。

(4)手続を履践すれば再度同一の処分をなしうるから無効とすべきでないとの反論が想定される。
 しかし、改めて保護委員会に諮問すれば指定の範囲について異なる結論の答申がされる可能性がある。
 したがって、無効とすべきでないとはいえない。

(5)よって、本件処分は無効である。

以上
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2022年07月14日

令和4年予備試験論文式憲法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.当サイトでは、平成27年から令和元年まで、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案を掲載してきました(「令和元年予備試験論文式憲法参考答案」参照)。それは、限られた時間内に効率よく配点の高い事項を書き切るための、1つの方法論を示すものとして、一定の効果をあげてきたと感じています。現在では、規範の明示と事実の摘示を重視した論述のイメージは、広く受験生に共有されるようになってきているといえるでしょう。
 その一方で、弊害も徐々に感じられるようになってきました。規範の明示と事実の摘示に特化することは、極端な例を示すことで、論述の具体的なイメージを掴みやすくすることには有益ですが、実戦的でない面を含んでいます。
 また、当サイトが規範の明示と事実の摘示の重要性を強調していた趣旨は、多くの受験生が、理由付けや事実の評価を過度に評価して書こうとすることにありました。時間が足りないのに無理をして理由付けや事実の評価を書こうとすることにより、肝心の規範と事実を書き切れなくなり、不合格となることは避けるべきだ、ということです。その背景には、事務処理が極めて重視される論文の出題傾向がありました。このことは、逆にいえば、事務処理の量が少なめの問題が出題され、時間に余裕ができた場合には、理由付けや事実の評価を付すことも当然に必要となる、ということを意味しています。しかし、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案ばかり掲載することによって、いかなる場合にも一切理由付けや事実の評価をしてはいけないかのような誤解を招きかねない、という面もあったように感じます。
 上記の弊害は、司法試験の検証結果に基づいて、意識的に事務処理の比重を下げようとする近時の傾向(「検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について」)を踏まえたとき、今後、より顕著となってくるであろうと予測されます。
 以上のことから、平成27年から令和元年までに掲載してきたスタイルの参考答案は、既にその役割を終えたと評価し得る時期に来ていると考えました。そこで、令和2年からは、必ずしも規範の明示と事実の摘示に特化しない参考答案を掲載することとしています。

2.憲法は、論文対策としては多くの受験生が準備していなさそうな労働基本権からの出題でした。しかも、「必要に応じて判例に触れつつ」という指示まで付されています。これは、「出題する分野が尽きてきたので、しょうがない労働基本権でも出すか。」という消極的動機と、「判例を完全に無視して、人権の重要性と規制態様の強度から中間審査にして、後は思い付きでテキトーに当てはめるという感じの受験生をぶっ壊す。」という積極的動機が合わさった結果と感じます。内容的には、「全農林警職法事件判例を知ってますか?」という、ただそれだけの問題です。

全農林警職法事件判例より引用。※注及び太字強調は筆者。)

 憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」、すなわちいわゆる労働基本権を保障している。この労働基本権の保障は、憲法25条のいわゆる生存権の保障を基本理念とし、憲法27条の勤労の権利および勤労条件に関する基準の法定の保障と相まつて勤労者の経済的地位の向上を目的とするものである。このような労働基本権の根本精神に即して考えると、公務員は、私企業の労働者とは異なり、使用者との合意によつて賃金その他の労働条件が決定される立場にないとはいえ、勤労者として、自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において一般の勤労者と異なるところはないから、憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべきである。ただ、この労働基本権は、右のように、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであつて、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、おのずから勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れないものであり、このことは、憲法13条の規定の趣旨に徴しても疑いのないところである(この場合、憲法13条にいう「公共の福祉」とは、勤労者たる地位にあるすべての者を包摂した国民全体の共同の利益を指すものということができよう。)。以下、この理を、さしあたり、本件において問題となつている非現業の国家公務員(非現業の国家公務員を以下単に公務員という。)について詳述すれば、次のとおりである。
 公務員は、私企業の労働者と異なり、国民の信託に基づいて国政を担当する政府により任命されるものであるが、憲法15条の示すとおり、実質的には、その使用者は国民全体であり、公務員の労務提供義務は国民全体に対して負うものである。もとよりこのことだけの理由から公務員に対して団結権をはじめその他一切の労働基本権を否定することは許されないのであるが、公務員の地位の特殊性と職務の公共性にかんがみるときは、これを根拠として公務員の労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由があるというべきである。けだし、公務員は、公共の利益のために勤務するものであり、公務の円滑な運営のためには、その担当する職務内容の別なく、それぞれの職場においてその職責を果すことが必要不可缺であつて、公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性および職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはその虞れがあるからである。
 次に公務員の勤務条件の決定については、私企業における勤労者と異なるものがあることを看過することはできない。すなわち利潤追求が原則として自由とされる私企業においては、労働者側の利潤の分配要求の自由も当然に是認せられ、団体を結成して使用者と対等の立場において団体交渉をなし、賃金その他の労働条件を集団的に決定して協約を結び、もし交渉が妥結しないときは同盟罷業等を行なつて解決を図るという憲法28条の保障する労働基本権の行使が何らの制約なく許されるのを原則としている。これに反し、公務員の場合は、その給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によつて賄われ、私企業における労働者の利潤の分配要求のごときものとは全く異なり、その勤務条件はすべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである。これを法制に即して見るに、公務員については、憲法自体がその73条4号において「法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること」は内閣の事務であると定め、その給与は法律により定められる給与準則に基づいてなされることを要し、これに基づかずにはいかなる金銭または有価物も支給することはできないとされており(国公法63条1項参照)、このように公務員の給与をはじめ、その他の勤務条件は、私企業の場合のごとく労使間の自由な交渉に基づく合意によつて定められるものではなく、原則として、国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によつて定められることとなつているのである。その場合、使用者としての政府にいかなる範囲の決定権を委任するかは、まさに国会みずからが立法をもつて定めるべき労働政策の問題である。したがつて、これら公務員の勤務条件の決定に関し、政府が国会から適法な委任を受けていない事項について、公務員が政府に対し争議行為を行なうことは、的はずれであつて正常なものとはいいがたく、もしこのような制度上の制約にもかかわらず公務員による争議行為が行なわれるならば、使用者としての政府によつては解決できない立法問題に逢着せざるをえないこととなり、ひいては民主的に行なわれるべき公務員の勤務条件決定の手続過程を歪曲することともなつて、憲法の基本原則である議会制民主主義(憲法41条、83条等参照)に背馳し、国会の議決権を侵す虞れすらなしとしないのである。
 さらに、私企業の場合と対比すると、私企業においては、極めて公益性の強い特殊のものを除き、一般に使用者にはいわゆる作業所閉鎖(ロツクアウト)をもつて争議行為に対抗する手段があるばかりでなく、労働者の過大な要求を容れることは、企業の経営を悪化させ、企業そのものの存立を危殆ならしめ、ひいては労働者自身の失業を招くという重大な結果をもたらすことともなるのであるから、労働者の要求はおのずからその面よりの制約を免れず、ここにも私企業の労働者の争議行為と公務員のそれとを一律同様に考えることのできない理由の一が存するのである。また、一般の私企業においては、その提供する製品または役務に対する需給につき、市場からの圧力を受けざるをえない関係上、争議行為に対しても、いわゆる市場の抑制力が働くことを必然とするのに反し、公務員の場合には、そのような市場の機能が作用する余地がないため、公務員の争議行為は場合によつては一方的に強力な圧力となり、この面からも公務員の勤務条件決定の手続をゆがめることとなるのである。

 (中略)

 しかしながら、前述のように、公務員についても憲法によつてその労働基本権が保障される以上、この保障と国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれることを必要とすることは、憲法の趣意であると解されるのであるから、その労働基本権を制限するにあたつては、これに代わる相応の措置が講じられなければならない

 (中略)

 その争議行為等が、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の保障という見地から制約を受ける公務員に対しても、その生存権保障の趣旨から、法は、これらの制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている。ことに公務員は、法律によつて定められる給与準則に基づいて給与を受け、その給与準則には俸給表のほか法定の事項が規定される等、いわゆる法定された勤務条件を享有しているのであつて、人事院は、公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について、いわゆる情勢適応の原則により、国会および内閣に対し勧告または報告を義務づけられている。そして、公務員たる職員は、個別的にまたは職員団体を通じて俸給、給料その他の勤務条件に関し、人事院に対しいわゆる行政措置要求をし、あるいはまた、もし不利益な処分を受けたときは、人事院に対し審査請求をする途も開かれているのである。このように、公務員は、労働基本権に対する制限の代償として、制度上整備された生存権擁護のための関連措置による保障を受けているのである。
 以上に説明したとおり、公務員の従事する職務には公共性がある一方、法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代償措置が講じられているのであるから、国公法98条5項(※注:現行の同条2項に相当する。)がかかる公務員の争議行為およびそのあおり行為等を禁止するのは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約というべきであつて、憲法28条に違反するものではないといわなければならない。

 (中略)

 公務員の争議行為の禁止は、憲法に違反することはないのであるから、何人であつても、この禁止を侵す違法な争議行為をあおる等の行為をする者は、違法な争議行為に対する原動力を与える者として、単なる争議参加者にくらべて社会的責任が重いのであり、また争議行為の開始ないしはその遂行の原因を作るものであるから、かかるあおり等の行為者の責任を問い、かつ、違法な争議行為の防遏を図るため、その者に対しとくに処罰の必要性を認めて罰則を設けることは、十分に合理性があるものということができる。 ……(略)……もし公務員中職種と職務内容の公共性の程度が弱く、その争議行為が国民全体の共同利益にさほどの障害を与えないものについて、争議行為を禁止し、あるいはそのあおり等の行為を処罰することの当を得ないものがあるとすれば、それらの行為に対する措置は、公務員たる地位を保有させることの可否とともに立法機関において慎重に考慮すべき立法問題であると考えられるのである。

(引用終わり)

 上記判例の趣旨を踏まえた上で、本問の特別公的管理鉄道会社について、純粋な私企業に近いとみるか、公務員に近いとみるか。立案担当者の説明の間違い探しができれば、上位の合格答案でしょう。論文対策としてあまり準備していなくても、短答対策としてある程度知っていた、という人は、何とかなったかもしれません。いずれにせよ、本問はかなり出来が悪いでしょうから、感覚的には絶望的な内容であっても、意外と悪くない成績になるだろうと思います。とはいえ、今年は助かったとしても、来年以降もそうだとは限りません。考査委員の側が意識的に本問のような出題をしてきていることには留意が必要でしょう。
 なお、実戦的には全く気にする必要はありませんが、マニアが趣味で考えるのであれば以下のような点も考えてみたいところです。

労働関係調整法において公益事業(8条1項1号)とされている点をどのように考慮するか。

(参照条文)労働関係調整法
8条1項 この法律において公益事業とは、次に掲げる事業であつて、公衆の日常生活に欠くことのできないものをいう。
 一 運輸事業
 二 郵便、信書便又は電気通信の事業
 三 水道、電気又はガスの供給の事業
 四 医療又は公衆衛生の事業

35条の2第1項 内閣総理大臣は、事件が公益事業に関するものであるため、又はその規模が大きいため若しくは特別の性質の事業に関するものであるために、争議行為により当該業務が停止されるときは国民経済の運行を著しく阻害し、又は国民の日常生活を著しく危くする虞があると認める事件について、その虞が現実に存するときに限り、緊急調整の決定をすることができる

37条 公益事業に関する事件につき関係当事者が争議行為をするには、その争議行為をしようとする日の少なくとも10日前までに、労働委員会及び厚生労働大臣又は都道府県知事にその旨を通知しなければならない
2 緊急調整の決定があつた公益事業に関する事件については、前項の規定による通知は、第38条に規定する期間を経過した後でなければこれをすることができない

38条 緊急調整の決定をなした旨の公表があつたときは、関係当事者は、公表の日から50日間は、争議行為をなすことができない

電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律(スト規制法)のように、争議行為の方法を規制する手段もあり得る点をどのように考慮するか。

(参照条文)電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律
2条 電気事業の事業主又は電気事業に従事する者は、争議行為として、電気の正常な供給を停止する行為その他電気の正常な供給に直接に障害を生ぜしめる行為をしてはならない。

3条 石炭鉱業の事業主又は石炭鉱業に従事する者は、争議行為として、鉱山保安法(昭和24年法律第70号)に規定する保安の業務の正常な運営を停廃する行為であつて、鉱山における人に対する危害、鉱物資源の滅失若しくは重大な損壊、鉱山の重要な施設の荒廃又は鉱害を生ずるものをしてはならない。

・スト規制法の規制対象となる行為は、もともと正当な争議行為としては認められない類型であるとされている。そうだとすれば、本問で問題になっているような住民の生活に重大な悪影響を与える争議行為についても、そもそも正当な争議行為ではないと考えられるので、わざわざ新たな法律で規制する必要がないのではないか。

(「電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律(電気事業関係)の解釈について」(平成27年7月3日政労発第0703第1号)より引用。太字強調は筆者。)

 本条違反の行為に対しては、本法では罰則規定は設けていないが、このような行為は当然労働組合の正当な行為ではないから、労働組合法第1条第2項による刑事上の免責が失われる結果、電気事業法の罰則等が適用される。また、民事上の免責も失われる結果、このような行為によって生じた損害の賠償責任を生じ、かつ、解雇その他の不利益取扱いを受けても不当労働行為の救済を受けられないこととなる。なお、かかる行為をなすべき旨の指令は違法行為を指令するものであるから、労働組合の正当な行為でなく、したがって労働法上の保護を受けられない。また当該行為が現実に行われた場合には、その指令の性格にもよるが、刑法の共犯理論によって、その指令した者も処罰されることがある。

(引用終わり)

(「今後の電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律(電気事業関係)の在り方について(報告)」(スト規制法部会平成27年2月2日)より引用。太字強調は筆者。)

 憲法第 28 条は、労使間の対等な交渉を促進するために、労働者に団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)を保障している。このうち争議権については、全ての争議行為に保障が及ぶわけではなく、主体・目的・態様(方法)等の観点から、正当と認められる場合にのみ、保障が及ぶものとされている。こうした争議権保障の趣旨から、労働組合法では、労働組合による「正当な」争議行為について刑事・民事免責を享受できることが、確認的に規定されている(第1条第2項、第8条)。
 スト規制法は、電気事業等において争議権の保障が及ばない「正当でない争議行為」の方法の一部を明文で禁止したものとされている。また、禁止される「正当でない争議行為」すなわち「電気の正常な供給を停止する行為その他電気の正常な供給に直接に障害を生ぜしめる行為」については、従来から通知によって解釈(判断基準や対象となる行為の例示等)が示されているが、その内容によって現在、「正当な争議行為」の行使に影響を与えているのではないか、といった懸念が指摘されている。

(引用終わり)

 参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(憲法)」に準拠した部分です。

【参考答案】

第1.争議行為禁止規定

1.特別公的管理鉄道会社(以下「特公管社」)従業員の団体行動権侵害として28条に反するか。

2.同従業員は基本的な労働条件につき国交大臣の承認をえる必要があるが、労務の提供により生活の資をえる点で一般の勤労者と異ならないから、「勤労者」に当たり、労働基本権の保障が及ぶ(全農林警職法事件判例参照)

3.団体行動権とは、労働組合などの団体を通じて争議行為を行う権利をいう
 法案では争議行為を行ってはならないとするから、同従業員の団体行動権を制約する。

4.労働基本権保障の趣旨は、生存権の保障(25条)を基本理念とし、勤労の権利(27条1項)・勤労条件基準の法定(同条2項)と相まって勤労者の経済的地位向上を図る点にある(前記判例参照)。もっとも、労働基本権は勤労者の経済的地位向上のための手段であり、それ自体が目的とされる絶対のものではないから、勤労者を含めた国民全体の共同利益、すなわち、公共の福祉(13条後段)による制約を受ける(同判例参照)

(1)利潤追求が原則自由な私企業では、労働者側の利潤分配要求の自由も当然に認められるから、私企業勤労者の労働基本権を制約することは、原則として許されない(同判例参照)。他方、公務員は、公共の利益のために勤務し、その停廃は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはそのおそれがあるから、公務員の労働基本権については、地位の特殊性と職務の公共性を根拠として、必要やむをえない限度の制限を加えることができる(同判例参照)
 特公管社は私企業であるが、鉄道事業継続が著しく困難で国の財政支援と管理の下での抜本改革を必要とし、補助金原資の一部は住民負担であるから、利潤追求が原則自由な通常の私企業と異なり、労働者側の利潤分配要求の自由も当然には認められない。同社は住民の移動に不可欠な鉄道を運営するから、その停廃は住民生活に重大な悪影響を与える。同社従業員には公務員に準ずる地位の特殊性と職務の公共性があり、これを根拠として、必要やむをえない限度の制限を加えることができる。立案担当者説明(以下「説明」)①は上記をいうものとして正当である。

(2)説明②につき、確かに、地方の私鉄の中には、ストライキ頻発が利用客離れを呼び、経営危機が進行するといった悪循環に陥った事例もあり、争議行為禁止の必要があるとみえる。
 しかし、公務員による争議行為のように市場の抑制力が働かない(前記判例参照)場合と異なり、特公管社はあくまで私企業で、市場の抑制力が働く。利用客離れは、むしろその証左である。また、争議行為により経営危機が進行すれば従業員自らの労働条件をさらに悪化させかねないから、過剰な争議行為は抑制される。上記事例は、一部の例外といえ、争議行為禁止の必要性を基礎づけるものでない。

(3)説明③につき、確かに、公務員について、前記判例は、勤務条件は国会の制定する法律・予算によって定められる以上、政府に対する争議行為は適切でなく、かえって民主的な手続過程を歪曲させ、議会制民主主義(41条、83条等参照)に反し、国会の議決権を侵すおそれがあるとする。
 しかし、特公管社では勤務条件は第一次的に労使で決定されるから、特公管社に対して争議行為を行うのが筋違いとはいえない。国交大臣の承認に係る裁量判断に影響するとしても、それは正当な考慮要素であって不当とはいえず、行政に対する影響にとどまり、議会制民主主義に反し、国会の議決権を侵すおそれはない。

(4)公務員の争議行為禁止につき、前記判例は、公務員にも労働基本権が保障される以上、制限には国民全体の共同利益との間の均衡を保つことを要し、争議行為に代わる相応の措置が講じられなければならないとして、主要な勤務条件の法定、身分保障、適切な代償措置を要求する。特公管社従業員についても、争議行為禁止に見合う措置が必要であることは同様であるから、上記のことが当てはまる。
 しかし、特公管社従業員の勤務条件は労使交渉の決定と国交大臣の承認によるとされ、法定されておらず、特別の身分保障や代償措置もない。

(5)以上から、特公管社従業員の地位の特殊性と職務の公共性を踏まえても、必要やむをえないとはいえない。

5.よって、28条に反する。

第2.争議行為のあおり、そそのかし処罰規定

1.前記第1のとおり、争議行為禁止規定は違憲無効(98条1項)であるから、同規定違反の処罰規定も違憲である。

2.仮に、争議行為禁止規定を合憲と考えた場合、確かに、前記判例は、説明④と同旨の判示をする。しかし、特公管社はあくまで私企業で、地方の私鉄にとどまり、影響は地域的に限定され、他の交通手段もありうることから、従業員の地位の特殊性と職務の公共性は公務員と比較すれば弱いといえる。そうすると、争議行為に通常随伴するものも含めてあおり又はそそのかしを単独で処罰し、違法性の程度を問わないことは、前記判例を前提としても必要やむをえないとはいえず、28条に反する(都教組事件判例も参照)。

以上 

posted by studyweb5 at 11:22| 予備試験論文式過去問関係 | 更新情報をチェックする
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