2022年03月03日

令和4年予備試験の出願者数について(2)

1.出願者数から予測できる今年の予備試験の短答・論文の難易度を検討します。
 まず、短答受験者数の予測ですが、予備試験の受験率(出願者ベース)から推計できます。以下は、平成30年以降の受験率の推移です。

出願者数 短答
受験者数
受験率
平成30 13746 11136 81.0%
令和元 14494 11780 81.2%
令和2 15318 10608 69.2%
令和3 14317 11717 81.8%
令和4 16145 ??? ???

 一昨年は、出願後に新型コロナウイルス感染症の感染拡大が生じ、緊急事態宣言の発出により試験日程が延期される等のイレギュラーがありました。そのために、受験率が大きく下落しています。昨年は、ある程度状況がわかった上で出願していたので、感染リスクを恐れて受験を回避しようと考える人は、始めから出願をしなかったのでしょう。出願者数が減少する一方で、受験率は例年どおりの81%程度に戻っています。差し当たり、今年も同じような受験率になると考えておいてよいでしょう。そこで、ここでは、受験率を81%と仮定します。そうすると、受験者数は、以下のとおり、13077人と推計できます。

 16145×0.81≒13077人

 昨年と比較すると、受験者数は1360人ほど増えることになりそうだ、ということがわかります。13000人台というのは過去最多の数字で、直近の数字と比較してもかなり多いな、という感じですね。

2.次に、短答式試験の合格者数を考えます。近年は、短答合格者数の決定基準は不安定になっています。平成29年までは5点刻みの「2000人基準」(「平成29年予備試験短答式試験の結果について(1)」)、平成30年は5点刻みの「2500人基準」で説明できました(「平成30年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。令和元年は、初めて合格点が5点刻みになっていないという、異例の結果で、それは、「2500人基準」とすると、合格者数が2911人となって、多くなり過ぎるということを考慮したのではないか、と思われたのでした(「令和元年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。それ以降は、1点刻みの合格点が続きます。一昨年は、1点刻みの「2500人基準」で説明でき、これは受験者数が1万人強で推移する状況の下では、合格点前後の1点に100人弱の人員が存在するので、5点刻みだと偶然の事情で500人弱の合格者数の変動が生じてしまいかねないことを踏まえ、1点刻みとすることとしたのではないかと考えられたのでした(「令和2年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。
 そして、昨年は、1点刻みの「2700人基準」で説明でき、これは、短答合格者を意図的に200人程度増やそうとしたものと考えられたのでした(「令和3年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。今年は、昨年よりも受験者数がかなり増えることを考慮すると、昨年よりも短答合格者数が減るということは考えにくいかな、という感じです。一方で、昨年に「2500人基準」から「2700人基準」へと移行したばかりであることを考慮すると、今年もまた、さらに基準人数が増やされるという可能性は高くなさそうな気がします。そうすると、今年も1点刻みの「2700人基準」で説明できる合格者数になるというのが、穏当な予測です。そういうわけで、ここでは、短答合格者数を2750人と想定して、合格率(対受験者)を試算してみることにしましょう。そうすると、今年の短答合格率(対受験者)は、以下のとおり、21.0%と推計できます。

 2750÷13077≒21.0%

 以下は、これまでの短答合格率(対受験者)の推移です。

短答
合格率
平成23 20.6%
平成24 23.8%
平成25 21.8%
平成26 19.5%
平成27 22.1%
平成28 23.2%
平成29 21.3%
平成30 23.8%
令和元 22.8%
令和2 23.8%
令和3 23.2%
令和4 21.0%?

 こうしてみると、今年の短答式試験の数字の上での難易度は、平成30年以降でみると最も厳しく、平成29年と同じくらいになりそうだ、ということがわかります。昨年と比べてみましょう。昨年は、11717人が短答を受験して、2723人が合格。合格点は、162点でした。仮に、合格率が21.0%だったとすると、合格者数は2460人となり、得点別人員と対照すると、合格点は165点くらいとなります。順位にすると260番くらい、点数にすると3点くらい、昨年より難しくなりそうだ、ということがいえるでしょう。昨年、短答をぎりぎりの得点で合格したような人は、注意しておかないと、今年はやられてしまうかもしれません。とはいえ、全科目総合で3点程度の違いなので、ほとんど変わらないといってよいでしょう。

3.論文はどうか。まずは、論文受験者数を考えます。短答・論文が同一の時期に実施される司法試験と異なり、予備試験は短答・論文が異なる時期に実施されます。そのため、短答に合格しても論文を受験しないという人が、一定数生じることになる。以下は、平成30年以降の短答合格者ベースの論文式試験の受験率の推移です。

短答
合格者数
論文
受験者数
論文
受験率
平成30 2612 2551 97.6%
令和元 2696 2580 95.6%
令和2 2529 2439 96.4%
令和3 2723 2633 96.6%
令和4 2750? ??? ???

 概ね、96%強で推移していることがわかります。そこで、今年の受験率も、昨年と同じく96.6%となると仮定して、論文受験者数を推計すると、以下のとおり、2656人くらいになりそうだということがわかります。

 2750×0.966≒2656人

 次に、論文合格者数の予測です。平成29年以降の論文式試験の合格点及び合格者数は、「5点刻み(※)で、初めて450人を超える得点が合格点となる。」という、「450人基準」で説明することができます(「令和3年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。
 ※ 短答の方が1点刻みになったのに、論文の方では5点刻みを維持しているのは、論文は短答合格者しか受験しないので、合格点付近の人員が1点当たり10人程度となることが多く、5点刻みでも大きなブレが生じにくいということがあるのではないかと思います。

 もっとも、昨年の司法試験における予備組の受験者合格率は93.5%と圧倒的に高く、これは予備試験合格者数を増加させる圧力となるでしょう(「令和3年司法試験の結果について(8)」)。そのことを踏まえると、今年の予備試験の論文合格者は、「500人基準」で説明できる数字となってもおかしくない(「令和3年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。
 そこで、ここでは、論文合格者数が480人となる場合と、530人となる場合をそれぞれ想定して、試算してみましょう。そうすると、以下のとおり、論文合格率は、それぞれ18%、20%程度と推計できます。

 480÷2656≒18.0%
 530÷2656≒19.9%

 これを、過去の数字と比べてみましょう。


(平成)
論文
受験者数
論文
合格者数
論文合格率
23 1301 123 9.4%
24 1643 233 14.1%
25 1932 381 19.7%
26 1913 392 20.4%
27 2209 428 19.3%
28 2327 429 18.4%
29 2200 469 21.3%
30 2551 459 17.9%
令和元 2580 494 19.1%
令和2 2439 464 19.0%
令和3 2633 479 18.1%
令和4 2656? 480? 18.0%?
530? 19.9%?

 昨年同様に「450人基準」で説明できる数字なら、論文合格率も昨年とほぼ同じです。他方、「500人基準」で説明できる数字となれば、直近では令和元年、令和2年より若干高い程度の論文合格率になる。昨年の論文式試験における530番は、合計点にすると237点くらいに相当し、これは合格点である240点より3点低い得点です。もっとも、予備試験の論文の合計点で3点というのは、1科目当たりにすると0.3点なので、感覚的にはほとんど違いがわからない程度の差でしかありません。

4.以上、みてきたように、今年の数字の上での難易度は、短答は昨年よりやや厳しく、論文は昨年とほぼ同じか、わずかに易しくなりそうです。下記は、上記の各試算をまとめて直近5年の比較をしたものです。

短答
受験者数
短答
合格者数
短答
合格率
論文
受験者数
論文
合格者数
論文
合格率
平成30 11136 2612 23.8% 2551 459 17.9%
令和元 11780 2696 22.8% 2580 494 19.1%
令和2 10608 2529 23.8% 2439 464 19.0%
令和3 11717 2723 23.2% 2633 479 18.1%
令和4 13077? 2750? 21.0%? 2656? 480? 18.0%?
530? 19.9%?
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2022年03月02日

令和4年予備試験の出願者数について(1)

1.法務省から、令和4年司法試験予備試験の出願者数の速報値が公表されました。16145人でした。以下は、年別の予備試験の出願者数の推移です。

出願者数 前年比
平成23 8971 ---
平成24 9118 +147
平成25 11255 +2137
平成26 12622 +1367
平成27 12543 -79
平成28 12767 +224
平成29 13178 +411
平成30 13746 +568
令和元 14494 +748
令和2 15318 +824
令和3 14317 -1001
令和4 16145 +1828

 平成25年、平成26年と急激に増加した出願者数は、平成27年にいったん頭打ちとなり、これからは減少傾向に転じるのではないかとも思われました。ところが、平成28年から再び増加に転じ、それ以降は、一昨年まで、その増加幅を拡大させていたのでした。昨年は急激な減少となっていますが、これは新型コロナウイルス感染症の影響による一時的なものでした。今年は、出願期間中にいわゆる「第6波」の感染拡大が始まりました。出願期間は令和4年1月17日から同月28日まででしたが、同月17日の新規陽性者数は16860人、同月28日の新規陽性者数は82834人という状況でした(厚生労働省「国内の発生状況など」)。それでも、出願者は大幅に増加しています。一昨年と比較しても、827人の増加です。同感染症に関する状況やそれに対する各人の評価が変化し、受験に対する抵抗が薄れたという影響があるとしても、それだけでは、同感染症の発生前の水準より増加していることは説明ができません。平成28年以来続いている出願者の増加傾向を支える要因が、現在も強く作用しているということでしょう。それはどのようなものなのか。改めて確認してみましょう。

2.法曹になりたいと思う人には、法科大学院に入学するか、予備試験を受験するか、という2つの選択肢があります。このことを大雑把に数式化すると、以下のような関係となります。なお、予備試験出願者数から法科大学院在学中の者を除いているのは、既に法科大学院に通っている以上、新たな法曹志願者とはいえないからです。

 

 法曹志願者総数=予備試験出願者数(法科大学院在学中の者を除く。)+法科大学院入学者数

 

(1)まず、法科大学院入学者数に着目してみます。法曹志願者総数が一定で、法科大学院に入学する人が増えると、予備試験出願者は減少し、逆に法科大学院に入学する人が減ると、予備試験出願者が増えるというのが、単純な対応関係です。以下は、平成20年以降の法科大学院の実入学人員の推移です(「各法科大学院の平成28年度~令和2年度入学者選抜実施状況等」、「各年度修了者の令和3年までの司法試験合格状況」等参照)。

年度
実入学者数 前年比
平成20 5397 ---
平成21 4844 -553
平成22 4122 -722
平成23 3620 -502
平成24 3150 -470
平成25 2698 -452
平成26 2272 -426
平成27 2201 -71
平成28 1857 -344
平成29 1704 -153
平成30 1621 -83
令和元 1862 +241
令和2 1711 -151
令和3 1724 +13

 上記の入学者数の推移と、予備試験の出願者数が対応しているか、という目で見てみます。法科大学院の入学者数は、平成26年まで、一貫して下がり続けています。これに対して、予備試験出願者数は、平成25年、平成26年に大幅に増加していますが、平成24年はそれほど増加していない。これは、予備試験ルートの認知度が影響しています。予備試験が始まったのは平成23年ですが、当時の合格者数は116人にとどまっていました。そのため、当時はまだ、予備試験ルートを真剣に検討する人は、少なかったのです。それが、平成24年に合格者が219人とほぼ倍増したことから、「予備合格者は今後どんどん増える。予備ルートの方が近道だ。」と言われだした。そのために、平成25年から、どっと予備試験受験者が増えたのでした。このような経緯を踏まえると、平成25年、平成26年に、それまでの法科大学院入学者数の減少分を一気に吸収した結果が、予備試験の出願者数の推移に表れているとみることができるでしょう。法曹志願者のうち、法科大学院への入学を躊躇していた人が、予備にどっと流れたのが、この時期だったといえます。
 そのような流れが一時的に止まったのが、平成27年でした。この年は、法科大学院の実入学者数の減少が、わずかにとどまっています。これは、予備試験の出願者数が平成27年に一時的に減少に転じたことと符合しています。そして、平成28年になると、法科大学院の実入学者数の減少幅が、また拡大しました。予備の出願者数が増加に転じたことは、これと符合しています。
 しかし、平成29年以降は、この相関が希薄になっていきます。法科大学院の実入学者数は、徐々に下げ止まりの傾向となり、現在は横ばいといってよい状態です。一方、予備試験の出願者数は増加幅を拡大させていて、法科大学院の実入学者数の変動との対応はみられません。そうすると、近時の出願者数の増加傾向は、法科大学院の入学者数が減少したことによるものとはいえない、ということになるでしょう。

(2)次に、法科大学院在学中の予備試験出願者数をみていきます。以下は、法科大学院在学中の予備試験出願者数の推移です。

法科大学院在学中の
予備試験出願者数
前年比
平成23 282 ---
平成24 706 +424
平成25 1722 +1016
平成26 2153 +431
平成27 1995 -158
平成28 1875 -120
平成29 1678 -197
平成30 1548 -130
令和元 1499 -49
令和2 1543 +44
令和3 1255 -288

 平成26年までは、一貫した増加傾向です。特に、平成25年の増加幅が大きい。このことが、平成25年の予備試験の出願者の急増に対応しています。それが、平成27年になって、減少に転じました。平成27年は、予備試験の出願者も減少に転じていますから、この点でも、対応関係があるといえるでしょう。
 しかし、平成28年以降についてみると、昨年のイレギュラーな数字を除けば、そのような対応関係にはないことがわかります。平成28年以降の予備試験出願者の増加は、法科大学院在学中の出願者が増加したことによるものではないといえます。

3.以上のように、平成27年以前の予備試験出願者数の増減は、概ね法科大学院入学者数と法科大学院在学中の予備試験出願者の増減によって説明が付いたものの、直近の予備試験出願者の増加傾向については説明できないことがわかりました。法科大学院入学者と法科大学院在学中の予備試験出願者の増減によって説明できない予備試験出願者の増加は、法曹志願者総数の増加によって生じている平成27年くらいまでは、法曹志願者の総数に大きな変化はなく、法曹志願者が法科大学院入学を選ぶのか、予備試験受験を選ぶのか、という内訳が変動しているというだけでした。それが、最近では、新たに法曹を目指す人が、予備試験を受験しようとしているということです。
 ただし、これは必ずしも、法曹になりたいと思う若者が増えたということだけを意味していません。年齢別、職種別にみると、20代前半と大学生だけでなく、50代以降と有職者の受験者も増加傾向にあるからです(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」、「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)。つまり、若者だけではなく、年配社会人の法曹志願者が増えたことも、予備試験の出願者の増加傾向に寄与している可能性が高いのです。「予備試験は専ら若者の抜け道として使われている。」などとよく言われますが、それとは異なる一面が、ここに表れているといえるでしょう。

posted by studyweb5 at 02:35| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする
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