2021年11月14日

令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(4)

1.以下は、直近5年の受験経験別の受験者数の推移です。

受験経験 なし 旧試験
のみ
新試験
のみ
両方
平成29 6729 2740 365 909
平成30 7098 2670 428 940
令和元 7796 2580 444 960
令和2 7257 2104 435 812
令和3 8322 2119 487 789

 以前の記事(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)でみたとおり、年代別でみると、すべての年代で受験者が増加していました。それが、受験経験別でみると、「両方」のカテゴリーだけ、昨年より受験者が減少しています。このカテゴリーは、旧司法試験を受験していたが、合格できずに法科大学院に通い(※1)、新司法試験を受けたが、それでも合格できずに受験回数を使い切ってしまい、予備試験に流れた、という人達です。「旧司法試験時代から長期にわたって受験を続けてきたけれども、コロナ禍をきっかけに、撤退を決意した。」ということなのかな、と感じさせます。しかし、そうであれば、同じく旧司法試験時代から受験を続けている「旧試験のみ」のカテゴリーも、減少しなければおかしい。おそらく、この違いは、新司法試験で不合格を経験しているかどうかによるのでしょう。「両方」のカテゴリーは、単に受験期間が長いというだけでなく、新司法試験でもうまくいかなかったという経験があるので、コロナ禍をきっかけに撤退を決意することになりやすい。しかし、「旧試験のみ」のカテゴリーは、新司法試験を受験したことがないので、「自分はとても合格率の低い旧試験だったから受からなかった。予備さえ受かれば、合格率の高い新試験は楽勝だ。」という感覚を持つことになりやすく、諦めきれないというところがあるのでしょう。
 ※1 厳密には、旧司法試験受験経験者が予備試験に合格し、新司法試験を受験したが、受験回数を使い切った、という場合も含まれます。

 コロナ禍以前との比較という点でいえば、「なし」、すなわち、新規参入の受験者が、最も増加しています。これは、前回の記事(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)でみたとおり、主に有職者と大学生の受験が増加したことによるものでした。一方で、「旧試験のみ」と「両方」は、減少しています。旧司法試験はもう実施されていないわけですから、これは自然なことといえるでしょう。とはいえ、「旧試験のみ」と「両方」を合わせると、2908人これほどの数の人が、旧司法試験時代からずっと苦労をしながら受験を続けているという事実は、あまり知られていません。このような人達がこれまでに費やしてきた資金、時間、労力は、莫大なものがあります。受験を諦めることは、それらが無駄になってしまうことを意味する。だから、やめられない。これが、長期受験者の陥りがちな心理状態です。
 それから、「新試験のみ」も、じわじわと受験者が増加してきています。司法試験で受験回数制限を使い切った人が予備に流れ、少しずつ滞留してきているのです。このカテゴリーは、当初、まだ若かったりするので、「ちょっとだけ予備も受けてみて、ダメだったら就職しようかな。」という軽い気持ちで受験していたりします。しかし、「あと1回だけ」、「あと1回だけ」を繰り返しているうちに、いつの間にか長期受験者となっていき、「ここで諦めるわけにはいかない。」、「受かるまでずっと受けてやる。」という心理状態へと移行していきます。その結果、滞留現象が生じているのです。

2.以下は、受験経験別最終合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。

受験経験 受験者数 最終
合格者数
最終合格率
(対受験者)
なし 8322 426 5.11%
旧試験のみ 2119 20 0.94%
新試験のみ 487 1.43%
両方 789 14 1.77%

 「なし」が、最も高い合格率になっています。それでも、5%程度の厳しい数字です。それが、旧司法試験・新司法試験の受験経験があると、絶望的な合格率まで下がってしまう。第三者の目からみると、「さすがにもう諦めればいいのに。」と感じないわけにはいきません。そこには、前回の記事(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)で無職について説明したのと同様の構図があるのです(※2)。
 ※2 「旧試験のみ」、「新試験のみ」、「両方」のカテゴリーに属する受験者3395人は、「無職」のカテゴリーに属する受験者2371人と相当程度重なっていると考えられます。

3.以下は、受験経験別短答合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。

受験経験 受験者数 短答
合格者数
短答合格率
(対受験者)
なし 8322 1648 19.8%
旧試験のみ 2119 621 29.3%
新試験のみ 487 141 28.9%
両方 789 313 39.6%

 短答は、受験経験があると、合格率が上昇していくことがわかります。知識重視の短答では、勉強期間の長い経験者の方が、有利になる。「旧試験のみ」、「新試験のみ」、「両方」のカテゴリーの受験者の中には、毎年のように短答に合格する人が相当数います。その結果、「あと一歩で合格できる。ここで諦めたらもったいない。これまでの苦労は何だったのか。」という心理状態に陥るのです。
 「旧試験のみ」、「新試験のみ」、「両方」の内部でみると、「両方」が、かなり差を付けて高いのが気になります。「新試験のみ」よりも、「両方」の方が合格率が高いのは、旧司法試験時代から勉強を続けている「両方」の方が、勉強期間が長いからだろうと理解できる。一方で、「旧試験のみ」よりも、「両方」の方が合格率が顕著に高いのは、一見すると不思議です。勉強期間だけで考えれば、「旧試験のみ」と「両方」は、どちらも旧司法試験時代から勉強しており、差がありません。では、どうして、これほどの差が付くのか。これは、旧司法試験時代の短答の特性によるものでしょう。旧司法試験の短答式試験では、文章の穴埋め、並替えという「国語のような」問題が出題されていました。これは、短答でも知識・理解で差が付かないように、若手を受からせようとする試みでした(「令和3年司法試験の結果について(12)」)。最近では、そのような問題を見たことがない、という受験生も増えていますので、分かりやすい例として、平成11年短答式試験刑法第54問をみてみましょう。

 

〔No.54〕
 後記アからカまでの文章の( )内に語句群から適切な語句を入れた上で,これらの文章を次の【①】から【⑥】までに正しく入れると,賄賂罪の保護法益に関する学生AとBの意見が完成する。このうち【②】,【④】,【⑤】の( )内に入る語句のうち,使用回数の最も多い語句と最も少ない語句の使用回数の差は何回か。

A 「刑法の規定を見ると,【①】のであるから,【②】と解される。したがって,【③】。」
B 「君の見解は,【④】。むしろ,僕は,【⑤】と考える。したがって,具体的結論としては,【⑥】。」

ア ( )か,( )かのどちらか一方というのではなく,その両方を保護法益として考慮しており,現実に( )が害されなくても( )に対する社会の信頼を損なう行為をすれば処罰に値する
イ ( )により( )が害されるか,少なくともその危険がある場合のみ処罰の対象とすべきであって,飽くまでも( )が保護法益である
ウ たとえ( )でも,( )に関して金銭等の授受が行われるならば,( )に対する社会の側の信頼は同じように動揺することから,職務との関連性を( )することができる
エ ( )があったというだけで,職務行為の正・不正にかかわらず処罰することを原則とし,( )職務行為があったときには刑を加重している
オ たとえ( )でも( )に関して金銭等の授受があれば( )に対する社会の信頼は害されるという理由で,賄賂罪の成立を( )することはできない
カ ( )に対する社会の信頼というような漠然としたものを保護法益と解することにより,賄賂罪の成立範囲を無限定なものとするおそれがある

【語句群】
 A 賄賂の授受等  B 職務の公正  C 正当な
 D 不正な  E 職務の不可買収性  F 職務に属さない行為
 G 肯定  H 否定  I 職務と密接な関係のある行為

1.1回  2.2回  3.3回  4.4回  5.5回

 

 この問題を解くためには、普通に考えると、以下の事務処理を順番にこなす必要があります。

 1.( )の穴埋めをする。
 2.【①】から【⑥】までの文章を並び替える。
 3.【②】、【④】、【⑤】の( )内に入る語句の使用回数を数える。
 4.最も多い語句と最も少ない語句の使用回数の差を計算する。

 高齢の受験者はよく勉強していて知識・理解に自信があるので、上記作業に1から順番にとりかかり、( )をきちんと全部埋めるところから始めようとする。律儀に1つ1つ丁寧に作業していくので、1問にかかる時間が多くなり、時間が足りなくなってしまう。しかし、知識・理解に乏しい若手受験者は、わからないところをどんどん飛ばして、最小限必要な作業だけをして解く。本問の場合、( )を全部埋める必要はないし、語句の使用回数は順不同で同じだから、【②】、【④】、【⑤】の順番もどうでもいい。先に【②】、【④】、【⑤】のいずれかに入るものを確定させ、その中で最も多そうな語句と少なそうな語句が入る( )だけを埋めて、早々に解答を出してしまうのでした。

 もう1つ、面白い例として、平成9年短答式試験憲法第1問もみておきましょう。

 

〔No. 1〕
 次の文章は,平等原理について論じたものであるが,( A )から( L )に下記のアからタまでの語句を挿入した場合,後記1から5までのうちで正しい組合せとなっているものはどれか。

 「自由と( A )に示される自由放任政策は,19世紀において,社会経済生活における自由競争を力づけ,資本主義の発展と高度化を促したが,他方,富の偏在,( B )などの重大な社会問題を引き起こした。「すべての者に等しく自由を」という市民国家の権利保障は,各人の事実上の不平等を問題にしなかった。(C)は,権利主体や当事者の経済的・社会的地位を考慮しない抽象的普遍性の外観のもとで,現実には,資本制社会の矛盾を激化させたのである。
 市民社会がその矛盾を自ら克服することができない状態は,市民社会が自律性を失ったことを意味し,その存立と補強のための国家の介入が必要となったことを意味する。( D )ではなく,生存に対する脅威から個人を解放し,人間に値する生活を各人に保障することが国家の任務となった。市民法の体系からはみだす( E )が形成せられ,所有権の絶対性と契約の自由の制限を手段とする( F )へと国家機能の転換がみられるのである。20世紀の憲法に登場する( G )と一連の(H) はこのような事情を基本権の内容に反映させるものである。平等の観点からみた場合,この国家機能の変化は,平等の意味を形式的なものから実質的なものへと転換させることを意味し,( I )の理念を思想的根拠としている。
 平等は,はじめは自由主義の原理であったが,ついで( J )の原理になる。国民主権の下においては,法律は国民全体の意思の表現であり,国民の自治が実現するのであるが,国民の平等な政治参加がその前提条件となる。政治の領域における平等も,( K )を排除したほかは,市民の立場からみた国家に対する貢献の資格と能力に応じた相対的な意味のものであった。財産・性別等を理由とする( L )から出発したのはそのためである。しかし,政治の領域においても,各市民を正当に遇するために必要と考えられてきた伝統的な区別の要素が,国民の政治的統合にとり本質的なものでないことが明らかになり,政治的権利の絶対的平等化が志向されるに至った。19世紀後半から20世紀初頭にかけて進行する普通選挙,婦人参政,選挙年齢の引き下げは,徹底した平等主義の方向を歩んでいる。」

ア 労働者の有産階級化  イ 労働立法や経済統制立法
ウ 国家権力による解放  エ 財産権の相対化
オ 財産の不可侵  カ 労働者の貧困,失業
キ 民主主義  ク 国家権力からの解放
ケ 社会国家ないし福祉国家  コ 社会的基本権
サ 配分的正義  シ 資本主義社会
ス 封建的特権  セ 不平等・制限選挙
ソ 所有権の自由と契約の自由  タ 平均的正義

1.(A)オ,(D)ウ,(F)ケ,(I)タ,(K)ス
2.(B)カ,(E)イ,(G)ア,(J)シ,(L)セ
3.(A)オ,(C)ソ,(F)ケ,(H)コ,(K)ス
4.(B)カ,(D)ウ,(G)ア,(I)サ,(L)セ
5.(A)オ,(C)ソ,(E)イ,(H)コ,(J)シ

 

 一見すると、とても高尚な内容で、括弧の数も候補となる語句の数も多く、とても難しい問題にみえます。勉強時間の長い高齢受験者は、知識・理解に自信があるので、律儀に自分の頭で考えて、上の括弧から順番に全部を埋めようとする全部の括弧を埋め終わってから、自分が埋めた内容と同じものを選択肢の中から探して、それを解答しようとするわけですね。しかし、これにはとても時間が掛かる
 一方、知識・理解に乏しい若手受験者は、最初から全部埋める気にならないので、最低限の作業で解こうとする。そこで冷静に解答肢をみると、実はある特定の語が入るか、入らないかさえ考えれば足りることが分かるでしょう(※3)。そして、判断に迷うものは保留して、「前後の文脈からして絶対にこれは入らない。」という自信のあるものから確定させ、それを含む選択肢を排除する。そうして、残ったものを正解にすればよいのです。こうして、一生懸命に自分の知識・理解を手掛かりに真面目に括弧を埋めていく高齢受験者を時間不足に追い込んで落とし、若手受験者を有利にすることができたのでした。現在では、旧司法試験の短答式試験の問題が解説されることはあまりないとは思いますが、本問のような問題について、「本質的理解を問う素晴らしい問題だ。」等と言って、1つ1つの括弧を解説するようなものがあるとすれば、それは旧司法試験の特性を全く理解しない不適切なものといわざるを得ません。
  ※3 Aにオ、Bにカ、Cにソ、Dにウ、Eにイ、Fにケ、Gにア、Hにコ、Iにタ・サ、Jにシ、Kにス、Lにセ以外の選択肢がない。


 このようにして、一時的に若手を有利にすることに成功したものの、すぐに知識・理解で解かないことがバレてしまい、若手優遇の効果がなくなってしまったのでした。

 

衆院法務委員会平成13年06月20日佐藤幸治参考人の意見より引用。太字強調は筆者。)

 私も、九年間司法試験委員をやりました。最初のころは、できるだけ暗記に頼らないようにということで、私がなったとき問題を工夫したことがあります、そのときの皆さんで相談して。そうしたら、国語の問題のようだといって御批判を受けたことがありました。しかし、それに対してまたすぐ、数年たちますと、それに対応する対応策が講じられて、トレーニングをするようになりましたその効果はだんだん薄れてまいりました
 申し上げたいのは、試験を一発の試験だけで決めようとすると、試験の内容をどのように変えても限界があるということを申し上げたいわけです。

(引用終わり)

 

 そして、このような問題は、法的思考を問うというより、単なるパズルではないか、という批判から、新司法試験・予備試験では出題しないこととされたのでした。

 

新司法試験調査会在り方検討グループ(第1回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

小津博司(法務省大臣官房付)委員 従来の司法試験に対する批判というのはいろいろな角度からあるわけですけれども……(略)……特に最近の短答式試験がパズルみたいではないかとか,クイズみたいという批判,それぞれ意識しなければいけない批判だろうと思いますね。

(引用終わり)

新司法試験調査会在り方検討グループ(第2回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

鈴木健太(司法研修所教官)委員 法的な推論の能力は……(略)……無視はできませんけれども,あまりそこに重点を置くと,現行短答式をどう評価するかにもかかわりますけれども,どこかに出ていたパズルのような問題になってしまうということになるし,逆に基本的な法律の知識となるとある程度幅広い知識を聞いた方がいいのではないかと……(略)……あまり問題が少ないと,ある分野なんか出ないからおよそ勉強しないとそういうことになってしまうと。そういうことがないようある程度幅広い知識理解を聞いた方がいいのではないかなとそういう気がいたします。

中川英彦(住商リース株式会社非常勤顧問京都大学大学院教授)委員 私も正直なところ,短答式を拝見しまして,何か気分が悪いですね……(略)……結局何かに偏ってしまってますよね。問うているものが何なのかが良く分からないのですよ。問われているものが何なのか,知識なのか,あるいは今委員がおっしゃった推論なのかですね。何を一体問題にしているのかなという辺りがどうも良く分からなかった。
 それで,たまたまこれ御参考になるか分かりませんが,最近3年ぐらい前にですね,ニューヨーク州の弁護士試験を受けた人がいまして,どういうふうな内容だったって聞いたところ,これは2日間あって,1日目は,ニューヨーク州法の問題のみらしいんですが,全部短答式なんですね。2日目の全国統一試験,これも短答式のようですけれども,結局ルール,つまり基本ルールというものを問う試験らしいんですね。ああいった判例法の国ですから,結局一つの事象に対して確立されたものの考え方とか,判例とかルールとかが,それが頭に入っていないと解けない問題らしいんですね。だからいくつか解答が並んでまして,この中から正しいものを選べというやり方らしいのですが,それを解くためにはきちっとルールを理解していなければいけない。そういう問題をですね,ちょっと忘れましたですけれどもかなり数が多くて,それを何時間か掛けて,午前,午後とやるらしいのですけれども,いろいろな問題が出てくると,非常にバラエティーがあって,しかし根本には,基本のコンセプトとか,基本のルールとか,そういうものが理解できていないと解けない,こういう試験らしいんですね。それはそれで一つの非常に明快なメッセージを発しているわけで,アメリカらしい,あるいは判例法の国らしい感じもしますけれども,一つのやり方だろうなと。
 それと比べますと,ちょっと我が国のものは,大分違ってきてますよね趣が。あまりにも技術的,しかも何を問われているのかが,今一つはっきりしないと,何を勉強したらいいか迷ってしまうのではないのかなと,そんな感じがいたしました。

宮川光治(弁護士)委員 私も短答式の平成10年頃からの問題を相当程度解いてみたんですが……(略)……我が国の司法試験問題は,法的推論ということにこだわり過ぎているのではないかと,解きながら感じました。また,司法試験法にいう法的推論というのはこういうものを想定しているのであろうかと。作題者はそうなのだというふうにお考えになっていらっしゃるのかもしれませんが,ひょっとしたら違うものではないのかと感じました。

(引用終わり)

新司法試験実施に係る研究調査会報告書(平成15年12月11日)より引用。太字強調は筆者。)

第4 短答式試験の在り方

1 出題の在り方

 (中略)

 基本的知識が体系的に理解されているかを客観的に判定するために,幅広い分野から基本的な問題を多数出題するものとし,過度に複雑な出題形式とならないように留意する

(引用終わり)  

 

 このことは、現在でも司法試験委員会決定において確認され、予備試験における短答式試験の実施方針においても留意事項とされています。

 

 (「司法試験の方式・内容等の在り方について」(平成30年8月3日司法試験委員会決定)より引用。太字強調は筆者。)

 短答式試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが,その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わない

(引用終わり)

(「予備試験の実施方針について」(平成21年11月11日司法試験委員会)より引用。太字強調は筆者。)

第2 短答式試験について

 (中略)

3 出題方針等

 (1) 法律基本科目(憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法,刑事訴訟法をいう。以下同じ。)

○ 幅広い分野から,基本的な事項に関する内容を多数出題するものとする。

○ 新司法試験の短答式試験において,過度に複雑な形式による出題は行わないものとしていることにも留意する必要がある。

(引用終わり) 

 

 「旧試験のみ」のカテゴリーの受験者は、知識重視の新司法試験の短答を受験したことがないので、「短答なんて知識がなくても、その場でテキトーに考えれば何とかなる。」という旧司法試験時代の意識が残っていたり、旧司法試験時代の短答には毎年受かっていたので、「今さら短答の勉強なんて」という感覚になりがちで、短答向けの知識のインプットを軽視しがちなのでしょう。その結果として、「旧試験のみ」が、「両方」よりも短答合格率が低くなっているのだろうと思います。

4.論文段階になると、どうか。受験経験別論文合格率(短答合格者ベース)をみると、以下のようになっています。 

受験経験 短答
合格者数
論文
合格者数
論文合格率
(対短答合格)
なし 1648 433 26.2%
旧試験のみ 621 22 3.5%
新試験のみ 141 4.9%
両方 313 17 5.4%

 短答で苦戦していた「なし」の受験者が、圧倒的な差を付けて受かっていくこれが若手優遇策の効果です。「旧試験のみ」、「新試験のみ」、「両方」のカテゴリーの受験者は、ここでほとんどが落とされてしまうそれでも、「あと一歩で合格できるはずだ。ここで諦めたらもったいない。」という心理状態に陥っているので、諦めきれない。その結果、数字の上では合理的とは思えないような受験が継続され、二度と抜け出すことができなくなってしまうのでした。このような心理状態に陥ってしまうことの恐ろしさは、法科大学院や予備校では、決して教えてくれないことです。
 「旧試験のみ」、「新試験のみ」、「両方」の内部でみると、「旧試験のみ」よりも、「新試験のみ」と「両方」の方が、論文合格率が若干高いことがわかります。「新試験のみ」と「両方」のカテゴリーの受験者は、新司法試験で受験回数を使い切った人達です。受験回数を使い切る過程で、若手優遇策によって出力される成績を通知されている。だから、当サイト等の情報によって、これが意図的なカラクリによるものであることを示されると、実際の自分の経験と照らし合わせることで、確認し、納得しやすいのです。旧司法試験しか受験していないと、体感が伴わないので、規範の明示と事実の摘示が重要と言われても、その意味を十分に理解しにくいという面があるのでしょう。若手優遇策のカラクリを実感を伴って理解できるかどうか、その差が、若干とはいえ、結果に表れているといえそうです。
 以前の記事(「令和3年司法試験の結果について(12)」)で説明したとおり、若手優遇策は、長期間一生懸命勉強を続けないと受からない試験になっては困るということで、導入されたものです。「旧試験のみ」、「新試験のみ」、「両方」のカテゴリーに属する受験者は、旧司法試験時代から、あるいは、受験回数を使い切ってもなお、長期間一生懸命勉強を続けている人達です。そのような人達を落とすために、当局は必死に努力し、そして、上記のとおり、成果を挙げてきた。今までどおり、がむしゃらに勉強しても、ますます、「当局が落としたい人」になってしまうだけです。合格するためには、若手優遇策を逆手に取って、「若手のフリ」をするしかない。 そのためには、当サイトで繰り返し説明しているとおり、規範の明示と事実の摘示を重視した答案スタイルと、最後まで書き切るだけの筆力を身につけるための訓練をするしかありません。時間を測って答案を書きまくり、1文字でも多く書くにはどうしたらいいか、試行錯誤する。それは、今までの自分のこだわりや、学習スタイルに反することでしょう。むしろ、そのような勉強をする若手を軽蔑し、「ああいうのだけは絶対やったらダメだ。」と思っていたかもしれません。それでも、思い切って、変えていくしかない。これまでどおりの勉強を続けて受験を継続しても、合格することはほとんどない。そのことは、上記の数字がはっきりと示しています。

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2021年11月11日

令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(3)

1.以下は、直近5年の職種別の受験者数の推移です。ただし、法務省の公表する資料において、「公務員」、「教職員」、「会社員」、「法律事務所事務員」、「塾教師」、「自営業」とされているカテゴリーは、まとめて「有職者」として表記し、「法科大学院以外大学院生」及び「その他」のカテゴリーは省略しています。なお、「無職」には、アルバイトを含みます。

有職者 法科大学院生 大学生 無職
平成
29
3527 1408 3004 2353
平成
30
3834 1298 3167 2391
令和
4240 1265 3340 2475
令和
3879 1064 3141 2116
令和
4360 1058 3508 2371

 前回の記事(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)でみたとおり、年代別でみると、すべての年代で受験者が増加していました。ところが、職種別でみると、わずかではありますが、法科大学院生の受験者だけが減少しています。コロナ禍前の段階でも、既に法科大学院生の受験者は減少傾向でした。加えて、他のカテゴリーの受験者であれば、「コロナが収束するのを待っていられない。」という発想になりやすいのですが、法科大学院生の立場からすれば、「修了すれば受験資格を得られるのだから、感染リスクのある状況下でわざわざ予備試験を受ける必要はない。」という発想になるでしょうから、受験者が増加に転じないことは、自然なことといえるでしょう。
 コロナ禍前との比較を踏まえて見てみると、有職者の受験者が増加傾向にあることがわかります。「仕事をしながら法曹を目指すことができる。しかも、受験回数や受験期間に制限がないので、マイペースに勉強できる。」ということで、受験してみようと思う人が増えているのでしょう。
 大学生も、コロナ禍前から受験者を増加させてきています。司法試験の合格を考えるのであれば、大学生の段階から本格的に受験勉強に着手する、というのが、今では当たり前になっています。予備試験は、力試しになるだけでなく、運良く合格できれば、ローに行かなくて済む。大学生の予備試験受験者の増加の背景には、このような事情があるのでしょう。このことが、「本格的な受験勉強はローに入学してからでいいや。」と考えている人との差を、ますます拡大させています。
 有職者・大学生が受験者を増加させているのと対照的に、無職の受験者は、コロナ禍前と比べるとほぼ横ばいといってよい状況です。無職の受験者は、以前から横ばい傾向でした。このカテゴリーに属するのは、多くが専業受験者です。特別の事情がなければ毎年受験を継続する一方、新規参入するのは、司法試験の受験回数を使い切って予備に回る人くらいです(※1)。そのため、横ばい傾向となりやすいのです。
 ※1 仕事を辞めて専業受験者になるというのも考えられますが、仕事を辞めて法科大学院に入学するということはあっても、仕事を辞めて予備試験というのは、あまりないことでしょう。仕事を辞めなくても受験できるというのが、予備試験の最大の魅力だからです。

2.以下は、今年の職種別最終合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。

職種 受験者数 最終
合格者数
最終合格率
(対受験者)
有職者 4360 65 1.49%
法科大学院生 1058 99 9.35%
大学生 3508 252 7.18%
無職 2371 44 1.85%

 法科大学院生・大学生のグループと、有職者・無職のグループとで、明暗が分かれています。法科大学院生や大学生であれば、「腕試しに受験したら、何となく受かってしまった。」という感じになってもおかしくない合格率です。これなら、受験したくなるのもわかる。一方で、有職者や無職は、10年受け続けて受からなかったとしても、全く不思議でないという感じの合格率です。特に無職については、「無職のまま、よくこんな合格率で受験を続けようと思うよな。」と感じさせます。これには、恐ろしいカラクリがあるのです。

3.短答合格率をみてみましょう。以下は、今年の職種別短答合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。

職種 受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
有職者 4360 994 22.7%
法科大学院生 1058 267 25.2%
大学生 3508 733 20.8%
無職 2371 625 26.3%

 短答は、勉強時間が長く確保できれば、受かりやすくなる。無職は、多くの場合、専業受験者です。したがって、最も多く勉強時間を確保できる。それが、短答合格率に反映されています。また、法科大学院生も、最近では早い段階から短答対策の勉強をしているので、合格率は高くなっています(※2)。他方、勉強時間が最も少ないのは、大学生です。大学生は、短答では最も苦戦しています。有職者は、短答段階でも法科大学院生より低い合格率となっており、短答の勉強時間を確保することが課題となっていることがわかります。
 ※2 この傾向は、平成24年から生じたものです(「平成24年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)。平成23年は、法科大学院生の短答合格率は16.6%に過ぎませんでした(「平成23年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について」)。

 上記のとおり、短答は、無職が最も合格率が高く、無職の受験者には、短答に毎年のように合格する人がそれなりにいます。そのような人は、「自分は毎年短答に受かっている。あともう一歩だ。ここで就職などを考えるのはもったいない。」という心理になる。そして、対外的にも、「自分は短答に毎年受かっていて、あと一歩で法曹になる身分なんだ。単なるフリーターやニートと一緒にするな。」と説明することができます。こうして、無職のまま、受験を続けていきやすい環境が整うわけです

4.では、論文ではどうなるか。以下は、今年の職種別論文合格率(短答合格者ベース)等をまとめたものです。

職種 短答
合格者数
論文
合格者数
論文
合格率
有職者 994 69 6.9%
法科大学院生 267 101 37.8%
大学生 733 255 34.7%
無職 625 45 7.2%

 有職者と無職を落とし、法科大学院生と大学生を受からせることに成功しています。これが、以前の記事(「令和3年司法試験の結果について(12)」)で説明した若手優遇策の効果です。短答に毎年のように合格し、「あと一歩」と思っている無職の受験者のほとんどは、ここで不合格になる。その結果、毎年のように、「あと一歩」を繰り返すのです。傍目からみると、「どうして無職のまま毎年のように受験しているのだろう。」と疑問に思えても、本人は、「来年こそは受かりそう。」と毎年のように思っているので、やめられない気が付くと、公務員や民間企業の採用枠から外れる年齢となってしまっていて、「自分にはもう司法試験しかない。死ぬまで受けてやる。」となっていく。安易な受験者を増やさないためにも、このカラクリの恐ろしさは、もう少し知らされてよいのではないかと思います。正しい対策をとることなく、これまでどおり漫然と受験を繰り返したのでは、毎年のように「あと一歩」を繰り返し、無職のまま、受験だけの人生だった、ということになりかねません。受験を続けるなら、これまでの勉強法を改める覚悟が必要です。
 若干気になるのは、最も若いはずの大学生が、法科大学院生よりも、やや低い論文合格率になっている、ということです。若手優遇策の内実を理解していれば、その理由が分かります。以前の記事(「令和3年司法試験の結果について(12)」)で説明したとおり、現在の若手優遇策は、規範の明示と事実の摘示に極端な配点を置く、というものでした。若手は、自然とそのようなスタイルの答案になりやすいし、さほど訓練しなくても、書くスピードが元からそれなりに速い。問題は、規範を明示するためには、規範を覚えていなければならないし、前提となる論点の理解が必要だ、ということです。これは知識・理解に関わる要素なので、勉強時間が影響する。大学生は、短答の勉強で精一杯で、論点の理解や規範の記憶が十分でないことが多いのです。それでも、大学時代に意識して勉強を始めていれば、ローに入学した頃には基本論点は概ね理解し、規範も記憶できるようになるので、結果を出しやすい。こうして、大学生よりも、法科大学院生の方がやや論文合格率が高いという結果が出力されるのです。とはいえ、その差がわずかにとどまることは、論文式試験における知識・理解の比重がそれだけ小さいことを表しているともいえるでしょう。

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2021年11月09日

令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(2)

1.口述試験結果の発表と同時に、参考情報として、短答、論文段階を含めた詳細なデータが公表されます。
 以下は、直近5年の年齢層別の受験者数の推移です。

年齢層 平成29 平成30 令和元 令和2 令和3
19歳以下 84 76 107 100 151
20~24歳 3422 3631 3791 3573 3952
25~29歳 1348 1297 1372 1200 1274
30~34歳 989 1014 1079 962 1063
35~39歳 1045 988 1036 908 1057
40~44歳 950 980 1006 899 941
45~49歳 906 959 992 810 898
50~54歳 706 761 817 769 844
55~59歳 566 615 692 616 638
60~64歳 335 382 434 388 440
65~69歳 256 270 281 211 256
70~74歳 79 110 120 129 150
75~79歳 44 36 31 30 31
80歳以上 13 17 22 13 22

 すべての年代で、受験者数は増加しています。昨年は、70代前半を除き、すべての年代で受験者数が減少しました。これは、新型コロナウイルス感染症の影響といってよいでしょう。昨年の短答式試験実施日(令和2年8月16日)の前日(同月15日)の新規感染者数は、1233人でした(厚生労働省「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-」参照)。「こんなに感染者が増えているなら、明日は受験をしないでおこう。」と考えた人が増えたのだろう、と考えられたのでした。これに対し、今年の短答式試験実施日(令和3年5月16日)の前日(同月15日)の新規感染者数はというと、6419人です。しかも、当時は、北海道、東京都、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県及び福岡県について緊急事態宣言がされていたのでした(「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の区域変更」)。それにもかかわらず、受験者数が増加したのは、「収束まで待っていたのでは、いつまで経っても受験できない。」、「試験会場でクラスターが発生したというニュースは聞いたことがないから、大丈夫だろう。」というような感覚があったからでしょう。また、今年は、4月12日から高齢者の新型コロナワクチン優先接種が開始されました。高齢受験者は自身が接種できたという人もいたでしょうし、昨年は高齢の同居家族がいて受験を躊躇した受験者も、家族が接種したことで受験しやすくなったということもあったのかもしれません。
 コロナ禍以前との比較という点でいうと、20代前半は受験者数が増加しているのに対し、20代後半は、むしろ減少しています。これは、概ね大学生の増加、法科大学院生の減少という最近の傾向に対応するものといえるでしょう。また、40代は、全体的にコロナ禍前より減少しています。働きながら受験をしている人が多く、万が一感染して職場に迷惑をかけることになってはいけない、という考慮がはたらきやすいからかもしれません。変に元気なのが70代前半で、コロナ禍の影響を感じさせない一貫した増加傾向を保っています。母数が少ないこともありますが、これはちょっと理解が難しいところです。同じく母数が少ないものの、19歳以下も着実に受験者数が増加してきています。今年は、17歳で最終合格した者がおり、少数とはいえ、高校生の段階で本格的に勉強を始める人が増えてきていることを示しているといえるでしょう。

2.以下は、今年の年齢層別最終合格者数、受験者ベースの最終合格率等をまとめたものです。

年齢層 受験者数 最終
合格者数
最終合格率
(対受験者)
19歳以下 151 2.64%
20~24歳 3952 313 7.92%
25~29歳 1274 60 4.70%
30~34歳 1063 31 2.91%
35~39歳 1057 18 1.70%
40~44歳 941 17 1.80%
45~49歳 898 10 1.11%
50~54歳 844 0.94%
55~59歳 638 0.62%
60~64歳 440 0.45%
65~69歳 256 0%
70~74歳 150 0%
75~79歳 31 0%
80歳以上 22 0%

 20代前半が最も高いものの、それでも8%に満たない合格率です。50代以降に関しては、ほとんど絶望的な数字になっている。「よくこんな試験受けてんな。」と、感じさせます。よく、「予備試験は抜け穴として安易に利用されている。」というような指摘がされがちですが、実際には針に糸を通すような非常に狭いルートであって、「法科大学院に行かなくても、予備ルートなら簡単に法曹になれる。」等と安易に考えて受験するのは、とても危険です。仕事をしながら予備ルートで法曹になる、というのは魅力のある選択肢ですが、受験するのであれば、相応の覚悟が必要です。今年、40代以上の受験者は4220人で、合格者は41人です。毎年41人合格するとして、4220人全員が合格するには、単純計算で103年程度を要します。何となく勉強を続けて毎年受験していれば、いつかは受かるだろう、というのは、とても甘い考えです。

3.前記2のとおり、受験者ベースの最終合格率をみると、20代前半が最も高いわけですが、短答・論文段階に分けて見てみると、見え方が違ってきます。以下は、年齢層別の短答合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。  

年齢層 受験者数 短答
合格者数
短答合格率
(対受験者)
19歳以下 151 5.96%
20~24歳 3952 884 22.36%
25~29歳 1274 236 18.52%
30~34歳 1063 218 20.50%
35~39歳 1057 279 26.39%
40~44歳 941 268 28.48%
45~49歳 898 243 27.06%
50~54歳 844 223 26.42%
55~59歳 638 168 26.33%
60~64歳 440 114 25.90%
65~69歳 256 50 19.53%
70~74歳 150 27 18.00%
75~79歳 31 9.67%
80歳以上 22 4.54%

 短答段階では、40代前半がトップであることがわかります。60代前半でも、25%を維持しています。最終合格率トップだったはずの20代前半は22%程度と、高齢受験者に及びません。19歳以下に至っては、6%程度で、70代後半にも劣る有様です。「はっはっは。甘いんじゃよ若造め。」と言われても、仕方のない結果だといえるでしょう。短答は単純に知識で差が付くので、苦節10年、20年と勉強を続けてきた高齢受験者が有利になるのです。仮に短答だけで合否を決する仕組みであれば、若手は合格することが難しい試験となっていたことでしょう。

4.それが、論文段階になると、全く景色が変わります。以下は、年齢層別の論文合格率(短答合格者ベース)等をまとめたものです。  

年齢層 短答
合格者数
論文
合格者数
論文合格率
(対短答合格)
19歳以下 44.44%
20~24歳 884 318 35.97%
25~29歳 236 60 25.42%
30~34歳 218 31 14.22%
35~39歳 279 20 7.16%
40~44歳 268 20 7.46%
45~49歳 243 11 4.52%
50~54歳 223 3.58%
55~59歳 168 2.38%
60~64歳 114 1.75%
65~69歳 50 2.00%
70~74歳 27 0%
75~79歳 0%
80歳以上 0%

 短答では強かった高齢受験者が壊滅し、若手が圧倒的に有利になっています。以前の記事(「令和3年司法試験の結果について(12)」)で説明した若手優遇策は、予備試験の論文式試験でも用いられているのです。法律の知識・理解だけで勝負させてしまうと、短答のように高齢受験者が有利になり、40代前半が最も受かりやすい試験になってしまう。「40代まで勉強を続けた者が一番受かりやすい試験」など、誰も受けたくないでしょう。だから、そのような年代層が受からないような出題、採点をする。具体的には、長文の事例問題を出題し、規範と事実、当てはめ重視の採点をするということです。規範も、判例の規範であれば無条件に高い点を付けるが、学説だとかなり説得的な理由を付していなければ点を付けない。若手は、とにかく判例の規範を覚えるので精一杯です。しかし、勉強が進んでくると、判例の立場の理論的な問題点を指摘する学者の見解まで理解してしまいます。「そうか判例は間違いだったのか。」と、悪い意味で目から鱗が落ちる。こうして、年配者は、「間違った」判例ではなく、「正しい」学説を書こうとします。この傾向を逆手に取れば、若手優遇効果のある採点ができるというわけです。この採点方法は、「理論と実務の架橋という理念からすれば、まず判例の立場を答案に示すことが求められる。」という建前論によって、正当化することができる点でも、優れています。このことを知った上で、正しく対策をしないと、知識・理解をどんなに深めても、合格することは極めて困難になります。一方で、正しく対策し、訓練すれば、高齢受験者でも、不利を克服できることがわかっています(「令和3年司法試験の結果について(8)」)。前にも説明したとおり、漫然と受験を繰り返すだけでは、計算上、40代以上の受験者は合格に100年かかっても不思議ではない合格に必要とされる知識・理解の程度は、19歳以下でも習得できるレベルになっているのが現状です。その程度の知識・理解を習得した後に合否を分けるのは、配点の高い規範と事実を重視した答案スタイルと、それを最後まで書き切る筆力です。意識して答案スタイルを変え、限られた時間で必要な文字数を書き切るだけの訓練をすることが必要です。「こんなことは法曹に必要な能力なのか。」とか、「こんな非本質的な作業はつまらない。」等と思っているうちは、合格は極めて難しいでしょう。

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