2021年06月30日

令和3年司法試験論文式刑事系第1問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.当サイトでは、平成27年から令和元年まで、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案を掲載してきました(「令和元年司法試験論文式公法系第1問参考答案」参照)。それは、限られた時間内に効率よく配点の高い事項を書き切るための、1つの方法論を示すものとして、一定の効果をあげてきたと感じています。現在では、規範の明示と事実の摘示を重視した論述のイメージは、広く受験生に共有されるようになってきているといえるでしょう。
 その一方で、弊害も徐々に感じられるようになってきました。規範の明示と事実の摘示に特化することは、極端な例を示すことで、論述の具体的なイメージを掴みやすくすることには有益ですが、実戦的でない面を含んでいます。
 また、当サイトが規範の明示と事実の摘示の重要性を強調していた趣旨は、多くの受験生が、理由付けや事実の評価を過度に評価して書こうとすることにありました。時間が足りないのに無理をして理由付けや事実の評価を書こうとすることにより、肝心の規範と事実を書き切れなくなり、不合格となることは避けるべきだ、ということです。その背景には、事務処理が極めて重視される論文の出題傾向がありました。このことは、逆にいえば、事務処理の量が少なめの問題が出題され、時間に余裕ができた場合には、理由付けや事実の評価を付すことも当然に必要となる、ということを意味しています。しかし、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案ばかり掲載することによって、いかなる場合にも一切理由付けや事実の評価をしてはいけないかのような誤解を招きかねない、という面もあったように感じます。
 上記の弊害は、司法試験の検証結果に基づいて、意識的に事務処理の比重を下げようとする近時の傾向(「検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について」)を踏まえたとき、今後、より顕著となってくるであろうと予測されます。
 以上のことから、平成27年から令和元年までに掲載してきたスタイルの参考答案は、既にその役割を終えたと評価し得る時期に来ていると考えました。そこで、令和2年からは、必ずしも規範の明示と事実の摘示に特化しない参考答案を掲載することとしています。

2.刑法は、いまだに事務処理の比重が高く、書くべき事項の取捨選択が合否を分ける科目です。一文字当たりの配点が高いと考えられる事項を優先して書き、低そうなものは気になっても書かない。さらに、本問の場合は、普通に書こうとすると時間が足りないようになっているので、書くべき事項が減るように答案構成を工夫するということも、必要だったように思います。このようなことは、実際に問題を解いて答案を書く訓練をしていないと、なかなかできるようにはなりません。普段からの演習量の差が、顕著に表れやすい問題だったといえるでしょう。
 参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」、「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」、「司法試験平成28年最新判例ノート」の付録論証例集、「司法試験令和2年最新判例ノート」の付録論証例集に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.甲

(1)丙に本件ナイフを示し、「殺されたくなかったら、これに時計を入れろ。」、「いいからやれ。刺すぞ。」と言った点は、外形上犯行抑圧に足りる害悪告知とみえる。しかし、丙と通じて腕時計強奪を装うためで、財物奪取に向けられていない。したがって、「暴行又は脅迫を用いて」といえず、強盗(236条)・同未遂(243条)は成立しない。

(2)腕時計100点を丙から受け取ってB店内から出た点に窃盗(235条)は成立するか。

ア.腕時計100点は、A社所有で時価合計3000万円相当の価値があるから、「他人の財物」に当たる。

イ.「窃取」とは、他人の財物の占有を占有者の意思に反して自己又は第三者に移転させることをいう

(ア)占有とは、財物に対する事実上の支配をいい、上下・主従関係に基づいて下位者が保管する場合には、下位者は占有補助者にすぎないから、占有は上位者にある(商店の雇人に関する判例参照)
 確かに、丙は副店長で、陳列方法をすべて決定し、ショーケースの鍵を所持していた。しかし、商品の店外持出し・価格設定の権限はなく、全てCの承認が必要であった。そうすると、丙は占有補助者にすぎず、その占有は店長であるCにある。

(イ)占有の移転時期は、財物の大きさ及び数量、搬出の容易性、占有者の管理状況等を総合的に考慮して判断すべきである
 腕時計は腕に装着できる大きさで、100点もあるが本件バッグに入っており搬出容易で、通報システムが作動しているがいまだ警備員は到着せず、乙の車で逃走する準備もある。そうすると、B店内から出た時に、占有がCから甲に移転する。

(ウ)上記(イ)がCの意思に反することは明らかである。

(エ)以上から、「窃取」に当たる。

ウ.以上から、窃盗が成立する。

(3)よって、甲は、窃盗の罪責を負う。

2.乙

(1)甲のした窃盗について共同正犯(60条)は成立するか。
 共謀共同正犯が成立するには、自己の犯罪としてする意思(正犯意思)、意思の連絡(共謀)及び共謀者の一部による犯罪の実行が必要である

ア.乙は、見張りだけでなく、通報システム作動後の速やかな逃走のための車の運転という重要な役割を果たした。金に困っており、事前に甲から「時計を分けよう。」と持ち掛けられ、犯行後に腕時計20点(時価合計400万円相当)を受け取った。以上から、正犯意思がある。

イ.甲は、「店員に刃物を突き付けて時計を奪い取ってくる。」などを持ち掛け、乙は承諾したから、強盗の共謀があり、これに基づく甲の実行があるが、犯した罪は窃盗である。
 異なる犯罪であっても、重なり合う限度で共同正犯が成立する(部分的犯罪共同説、シャクティ事件判例参照)
 強盗と窃盗は後者の限度で重なり合うから、窃盗の限度で共同正犯が成立しうる。

ウ.乙は強盗を犯す意思であったが、実際に実現したのは窃盗である。しかし、異なる構成要件間にまたがる錯誤については、構成要件が重なり合う限度で軽い罪の故意犯が成立する(判例)。したがって、軽い窃盗の故意犯が成立する。

エ.以上から、窃盗の共同正犯が成立する。

(2)よって、乙は、窃盗の罪責を負う。

3.丙

(1)甲のした窃盗について共同正犯は成立するか。

ア.丙は、警備体制に関する情報を甲に提供し、強盗を装うことを提案した上、ショーケースを解錠し、腕時計100点を本件バッグに入れ、甲に差し出しており、重要な役割を果たした。金に困っており、事前に甲に「時計は後で分けよう。」と持ち掛け、犯行後に本件腕時計40点(時価合計1300万円相当)を受け取った。以上から、正犯意思がある。

イ.丙は、「店に来て刃物を出して、ショーケースを開けろと言ってくれ。俺は後で怪しまれないように拒むふりをするけど、最後はショーケースを開けるから、すぐに時計を持って行ってくれ。」などと持ち掛け、甲は承諾したから、共謀がある。

ウ.前記1のとおり、甲は上記イに基づく犯罪を実行した。

エ.以上から、窃盗の共同正犯が成立する。

(2)よって、丙は、窃盗の罪責を負う。

4.丁

(1)盗品である本件腕時計40点を自宅押入れ内に置き続けた点に盗品保管(256条2項)は成立するか。

ア.「保管」とは、本犯の委託により盗品等の占有を受けて管理することをいう

(ア)丙は、丁に「しばらく預かっておいてくれ。」と言ったから、本犯の委託がある。

(イ)確かに、丙が押入れ内にしまっており、丁は放置して置き続けただけである。しかし、押入れは丁の自宅のもので、置き続けるだけでも追求権の行使を困難にするし、腕時計は品質の維持等に特段の行為を要しない以上、丙がしまったものを放置して置き続けただけでも、本件腕時計40点の占有を受けて管理したといえる。

(ウ)したがって、「保管」に当たる。

イ.丁は、某月10日までは、本件バッグの中に盗品である本件腕時計40点が入っていることを知らなかった。したがって、同日までは盗品の認識(故意)がなく、同罪は成立しない。
 もっとも、保管行為は、それ自体によって追求権の行使を困難にするから、盗品保管は継続犯である。したがって、知情後の保管について盗品保管が成立する。そうすると、同日から25日までの保管には同罪が成立する。

(2)よって、丁は、盗品保管の罪責を負う。

第2.設問2

1.小問(1)

(1)共謀の射程

 甲は、時計の分前に関する乙の態度に立腹し、丙に「乙は生意気だから、懲らしめてやろう。多少怪我をさせても構わない。俺が木刀で殴ってやる。その時、乙を押さえていてくれ。」と言い、丙は応じた。したがって、傷害(204条)の共謀があり、甲の木刀殴打はこれに基づく。
 しかし、丙の木刀殴打は、行為態様の点で上記共謀と異なるだけでなく、乙が「全部警察にばらしますよ。」と言ったことを契機に、警察に真相を話さないと約束させるためにしたという原因・動機の点でも、上記共謀と異なる。
 したがって、丙の木刀殴打は共謀に基づくものでない。

(2)共犯関係の解消

 実行の着手後に共犯関係を解消するためには、離脱の意思表示だけでなく、結果の発生を防止するための積極的行為が必要である
 甲は、丙に、「乙が警察にばらすはずはない。落ち着け。」と言い、丙をいさめて暴行を終了させようとした。そうすると、甲は、離脱の意思表示だけでなく、結果の発生を防止するための積極的行為をしたと評価できる。
 したがって、その時に、共犯関係は解消した。

(3)207条の適用

ア.同条の趣旨は、誰も傷害結果について刑事責任を負わないという不合理な結果を回避する点にあるから、傷害結果について刑事責任を負う者があるときは適用がない。
 丙は、甲丙の木刀殴打の双方に加功し、乙の頭部裂傷について傷害の罪責を負うから、甲に同条は適用されない。

イ.同条は「共同して実行した者でなくても」としており、甲の木刀殴打について共同正犯が成立する以上、甲に同条は適用されない。

2.小問(2)

(1)共謀の射程

 共謀内容と異なる犯罪が行われた場合に共同正犯が成立するためには、共謀と実行正犯の行為との間に因果関係があることを要する(教唆の事案におけるゴットン師事件判例参照)
 「乙を押さえていてくれ。」というのは、加害行為に加勢することを意味するから、丙の暴行を誘発しうる。乙が「全部警察にばらしますよ。」と言ったのは、共謀に基づく甲の木刀殴打を受けたからであり、共謀に起因する。
 したがって、共謀と丙の木刀殴打との間に因果関係がある。

(2)共犯関係の解消

 共同正犯関係が解消されても、幇助の因果性が残る限り、従犯が成立する。正犯の犯行を容易にするという幇助の特質からすれば、幇助により物理的・心理的に正犯の犯行が促進される関係があれば足りる
 丙の木刀殴打は甲が自宅物置内から持ち出した木刀を用いたものであり、物理的に丙の犯行が促進される関係がある。したがって、頭部裂傷の傷害につき、少なくとも甲に従犯が成立する。

(3)207条の適用

ア.同条の趣旨は、2人以上が暴行を加えた事案においては、生じた傷害の原因となった暴行を特定することが困難な場合が多いことなどに鑑み、共犯関係が立証されない場合であっても、例外的に共犯の例によることとした点にある(判例)から、傷害結果について責任を負う者がある場合であっても、その傷害の原因となった暴行を特定できないときは、同条の適用は否定されない。
 頭部裂傷の傷害は、甲丙の木刀殴打のいずれから形成されたものか不明であったから、同条の適用は否定されない。

イ.承継的共同正犯事例における判例は、共謀の事実が付け加わることで同条の適用が排除されるのは不合理であり、共謀がないときとの均衡を失するから、同条を適用すべきであるとする。このことは、共同正犯関係が解消された場合にも当てはまる。
 したがって、甲の木刀殴打について共同正犯が成立するとしても、同条の適用は否定されない。

ウ.同条を適用するためには、各暴行が当該傷害を生じさせうる危険性を有するものであること及び各暴行が同一の機会に行われたものであることの証明を要する(判例)

(ア)甲の木刀による殴打行為は、乙の頭部裂傷を生じさせうる危険性を有する。

(イ)同一の機会とは、外形的に共同実行に等しいと評価できることをいう(判例)
 甲丙の木刀殴打は、ともに甲の自宅でされ、時間的間隔は5分程度と極めて小さい。凶器も同一の木刀である。したがって、外形的に共同実行に等しいと評価でき、同一の機会によるものといえる。

エ.したがって、甲に207条が適用される。
 207条が適用される場合には、各行為者は、自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り、傷害についての責任を免れない(判例)
 頭部裂傷の傷害が甲丙の木刀殴打のいずれから形成されたものか不明で、甲の木刀殴打から生じていないことの立証はできないから、同傷害について甲は責任を免れない。

以上

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2021年06月26日

令和3年司法試験論文式民事系第3問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.当サイトでは、平成27年から令和元年まで、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案を掲載してきました(「令和元年司法試験論文式公法系第1問参考答案」参照)。それは、限られた時間内に効率よく配点の高い事項を書き切るための、1つの方法論を示すものとして、一定の効果をあげてきたと感じています。現在では、規範の明示と事実の摘示を重視した論述のイメージは、広く受験生に共有されるようになってきているといえるでしょう。

2.その一方で、弊害も徐々に感じられるようになってきました。規範の明示と事実の摘示に特化することは、極端な例を示すことで、論述の具体的なイメージを掴みやすくすることには有益ですが、実戦的でない面を含んでいます。
 また、当サイトが規範の明示と事実の摘示の重要性を強調していた趣旨は、多くの受験生が、理由付けや事実の評価を過度に評価して書こうとすることにありました。時間が足りないのに無理をして理由付けや事実の評価を書こうとすることにより、肝心の規範と事実を書き切れなくなり、不合格となることは避けるべきだ、ということです。その背景には、事務処理が極めて重視される論文の出題傾向がありました。このことは、逆にいえば、事務処理の量が少なめの問題が出題され、時間に余裕ができた場合には、理由付けや事実の評価を付すことも当然に必要となる、ということを意味しています。しかし、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案ばかり掲載することによって、いかなる場合にも一切理由付けや事実の評価をしてはいけないかのような誤解を招きかねない、という面もあったように感じます。
 上記の弊害は、司法試験の検証結果に基づいて、意識的に事務処理の比重を下げようとする近時の傾向(「検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について」)を踏まえたとき、今後、より顕著となってくるであろうと予測されます。

3.以上のことから、平成27年から令和元年までに掲載してきたスタイルの参考答案は、既にその役割を終えたと評価し得る時期に来ていると考えました。そこで、令和2年からは、必ずしも規範の明示と事実の摘示に特化しない参考答案を掲載することとしています。

4.民訴法は、論点抽出は容易でしょうから、配点の大きい設問1と設問3の論述の丁寧さ、緻密さで差が付くでしょう。特に設問1で、立退料の額の違いは執行条件の内容の違いに過ぎないことに気付いているか、引換給付が執行の条件であるということの意味(Xは執行しなければ払わなくてよく、Yの側から立退料の執行はできない。)を理解しているか、というところは、差が付きそうです。なお、所有権に基づく返還請求としての建物収去土地明渡請求については、訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権であって、建物収去部分は代替執行による収去が可能なことを明らかにするものに過ぎないとされていますが、賃貸借の終了に基づく建物収去土地明渡請求については、賃借人は原状回復義務を負います(民法621条)から、当然に建物収去も実体法上の義務に含まれます。問題文で、「XのYに対する訴えの訴訟物は,賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権としての建物収去土地明渡請求権であることを前提にしてください。」とされているのは、そのためです。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.課題1

 課題1の引換給付判決をすることは、246条に反するか。

(1)246条の趣旨は、訴訟物の設定・変更を原告の意思にゆだねる点にある(処分権主義)。したがって、判決事項が訴訟物と異なる場合に、同条違反の問題が生じる。
 本件訴訟の訴訟物は、建物収去土地明渡請求権の存否であって、立退料の支払との引換給付は執行の条件(民執31条1項)にすぎない。もっとも、執行段階における当事者間の紛争を未然に防止するため判決主文で明らかにされる事項は、訴訟物に準ずる(不執行合意に関する判例、限定承認留保に関する判例参照)。
 立退料の額は、執行段階における当事者間の紛争を未然に防止するため、判決主文で明らかにされる。したがって、立退料の額において原告の請求と判決が異なるときは、訴訟物に準じ、246条違反の問題が生じうる。

(2)同条に違反するかは、原告の意思に反するか、被告に不意打ちとなるかで判断する。

ア.仮に、引換給付判決ができないとすると、裁判所は全部棄却判決をすることになる。この場合、賃貸借契約終了に基づく建物収去土地明渡請求権の不存在について既判力が生じるだけでなく、所有権に基づく土地明渡請求の後訴も信義則によって遮断されると考えられるから、Xに裁判所の必要と考えた額を支払う意思があっても、その額を支払って本件土地の明渡しを実現することができなくなる。そうすると、本件土地の明渡しが一番大事で、多額の立退料も検討する用意があるとするXの意思に反するおそれがある。
 他方、課題1の引換給付判決をした場合、Xは、増額された立退料を支払う意思があれば、その額を支払って本件土地の明渡しを実現することができる(民執31条1項)し、これを支払う意思がないのであれば、執行をしないことで、立退料を負担しないことを選択できる。引換給付部分はXが執行する場合の条件であって、Yが引換給付判決を債務名義としてXに立退料の支払について強制執行をすることはできないから、同判決によってXが立退料の支払を強制されることはない。
 したがって、たとえXの支払意思を超える額での引換給付判決がされても、Xに不利益はないから、Xの意思に反しない。

イ.Yは、Xの申し立てた1000万円の立退料による明渡しを覚悟しているから、これが増額されても不意打ちとはならない。

ウ.以上から、246条に反しない。

(3)よって、課題1の引換給付判決は許される。

2.課題2

 課題2の引換給付判決をすることは、246条に反するか。

(1)Xにとっては利益となるから、Xの意思に反しない。

(2)一般に、数量的に可分な訴訟物について、原告の請求を超える数量の認容判決をすることは、被告に不意打ちとなるから、申立事項を超えるものとして、246条に反する。
 前記1(1)のとおり、立退料の額は執行の条件にすぎないが、訴訟物に準ずる。Yは、仮に明渡しが認められたとしても、少なくとも1000万円の支払を受けられると考えて訴訟追行しているはずであり、より少額の立退料とされれば、Yにとって不意打ちとなる。Xは、より少ない額が適切と陳述するが、それならば、請求の拡張に準じ、立退料を減額した請求に変更(143条)すべきである。
 以上から、数量的に可分な訴訟物について原告の請求を超える数量の認容判決をする場合と同視すべきである。

(3)よって、課題2の引換給付判決をすることは、申立事項を超えるものとして、246条に反し、許されない。

第2.設問2

1.訴訟承継制度の趣旨は、紛争主体の変動に応じて当事者の地位を承継させ、従前の訴訟資料を利用することで、紛争解決を図る点にある。したがって、50条1項の「承継」とは、紛争主体の地位を承継することをいう(判例)。その判断にあたっては、承継する実体法上の地位、訴訟資料の重複等を考慮する。

2.確かに、Zに対する建物退去土地明渡請求は物権請求であり、Zは、本件訴訟の訴訟物である賃借人の目的物返還義務をYから承継していない。しかし、本件建物の収去義務は、本件建物の退去義務を包含し、本件土地の明渡しを実現するため必要となる点で共通するから、Zは、Yから本件土地の明渡しを求められる地位の一部を承継したといえる。本件訴訟では、専ら本件契約の終了の肯否が争われているところ、それが肯定されれば、Zに対する請求も認容される関係にあり、争点が共通するから、訴訟資料は重複する。
 以上から、Zは、Yから紛争主体の地位を承継したといえる。

3.よって、Zは、50条1項にいう承継をしたといえる。

第3.設問3

1.課題1

(1)本件新主張を正当事由の評価障害事実又は更新拒絶権の放棄の抗弁のいずれと構成しても、Yが主張立証責任を負う。Xとしては、本件通帳がある以上、現金授受の事実自体を争うのは難しいと考え、権利金は支払われたが、それは専ら賃料の前払の性質を有し、更新料前払の性質を含まないとする理由で本件新主張を否認(積極否認)することが予想される。これに対し、本件通帳では権利金の性質を立証することはできないことから、Yは、本件新主張の立証のためAの証人尋問の申出をすることなる。したがって、本件新主張の当否を判断するにあたり、Aの証人尋問は不可欠である。
 却下決定を得るのを容易にするため、Xは、Yに対し、弁論準備手続の終了前に本件新主張を提出することができなかった理由の説明を求めることが考えられる(174条、167条)。Yとしては、Lに対する回答と同様の説明(以下「本件説明」という。)をすることにならざるをえない。

(2)上記(1)を踏まえ、157条1項の要件を検討する。

ア.「時機に後れて」とは、より早い提出が可能かつ適切であったことをいう。
 本件説明によれば、Yは、本件訴訟の前にも本件通帳の中身を見てBからAへの振込みを把握していたと認められる。本件新主張が認められれば、立退料の額にかかわらずYは勝訴できるから、訴状に対する答弁書において、直ちに本件新主張をすることが可能かつ適切であった(規則80条1項)。
 したがって、「時機に後れて」といえる。

イ.故意・重過失は、時機に後れる点にあれば足りる。
 本件説明によれば、Yは、Bから本件土地の更新時にもめるといけないから、本件通帳はきちんと保管しておくように、と伝えられたと認められる。弁論準備手続における証拠の整理において、裁判官から証拠の存否等の確認を受けるであろうから、本人訴訟であることを踏まえても、遅くとも同手続において本件通帳の存在等を陳述すべきことは、わずかな注意を払えば知ることができた。
 したがって、同手続終結後のYには、重大な過失がある。

ウ.「訴訟の完結を遅延させる」とは、新たな期日を要することをいう。
 前記(1)のとおり、本件新主張の当否を判断するにあたり、Aの証人尋問は不可欠で、実施には改めてAの出頭可能な期日を指定することを要するから、新たな期日を要する。
 したがって、「訴訟の完結を遅延させる」といえる。

(3)よって、Yが最終期日に本件新主張をしたとすれば、時機に後れたものとして却下されるべきである。

2.課題2

(1)Xの立論

 口頭弁論終結後の承継人に既判力が拡張される(115条1項3号)ことからすれば、訴訟承継人は、いわば生成中の既判力としての前主の訴訟状態に拘束される(同号類推適用)。訴訟の結果は実体法上の権利処分に準じる効果を生じるところ、Yの本件土地賃借権が否定されれば、Zの本件建物賃借権も否定されるという関係にあるから、Yの不利な訴訟追行の結果についても、Zは甘受すべき地位にある。前記1のとおり、Yが本人訴訟であることも考慮した上で却下すべきものとされるから、Zの代替的手続保障が欠けるとはいえない。
 よって、Yによる本件新主張が却下される以上、Zによる本件新主張も却下されるべきである。

(2)Zの反論

 既判力は主文、すなわち、訴訟物に対する判断についてのみ生じる(114条1項)ところ、本件新主張の当否は判決理由中の判断であるから、生成中の既判力を根拠に排斥することはできない。明文上、引受承継の効果は併合強制にとどまり(50条3項、41条1項、3項)、共同訴訟人独立の原則が妥当する(39条)。土地賃貸借の合意解除は地上建物の賃借人に対抗できない(民法613条3項本文類推適用)ことから、実体法上、ZはYの本件土地賃借権の処分に完全に従属する地位になく、訴訟上もYの不利な訴訟追行の結果をすべて甘受すべきとはいえない。時機に後れた攻撃防御方法について前主を基準とすると、最終期日直前の訴訟承継人は実質上何も訴訟活動ができないことになりかねないから、承継人の手続保障のため、判断にあたっては、承継人を基準とすべきである。
 よって、Yによる本件新主張が却下されるとしても、Zによる本件新主張は却下されるべきでない。

以上

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2021年06月23日

令和3年司法試験論文式民事系第2問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.当サイトでは、平成27年から令和元年まで、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案を掲載してきました(「令和元年司法試験論文式公法系第1問参考答案」参照)。それは、限られた時間内に効率よく配点の高い事項を書き切るための、1つの方法論を示すものとして、一定の効果をあげてきたと感じています。現在では、規範の明示と事実の摘示を重視した論述のイメージは、広く受験生に共有されるようになってきているといえるでしょう。

2.その一方で、弊害も徐々に感じられるようになってきました。規範の明示と事実の摘示に特化することは、極端な例を示すことで、論述の具体的なイメージを掴みやすくすることには有益ですが、実戦的でない面を含んでいます。
 また、当サイトが規範の明示と事実の摘示の重要性を強調していた趣旨は、多くの受験生が、理由付けや事実の評価を過度に評価して書こうとすることにありました。時間が足りないのに無理をして理由付けや事実の評価を書こうとすることにより、肝心の規範と事実を書き切れなくなり、不合格となることは避けるべきだ、ということです。その背景には、事務処理が極めて重視される論文の出題傾向がありました。このことは、逆にいえば、事務処理の量が少なめの問題が出題され、時間に余裕ができた場合には、理由付けや事実の評価を付すことも当然に必要となる、ということを意味しています。しかし、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案ばかり掲載することによって、いかなる場合にも一切理由付けや事実の評価をしてはいけないかのような誤解を招きかねない、という面もあったように感じます。
 上記の弊害は、司法試験の検証結果に基づいて、意識的に事務処理の比重を下げようとする近時の傾向(「検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について」)を踏まえたとき、今後、より顕著となってくるであろうと予測されます。

3.以上のことから、平成27年から令和元年までに掲載してきたスタイルの参考答案は、既にその役割を終えたと評価し得る時期に来ていると考えました。そこで、令和2年からは、必ずしも規範の明示と事実の摘示に特化しない参考答案を掲載することとしています。より実戦的に、現場で答案に事実を書き写している間に瞬時に思い付くであろう評価を付し、時間に余裕がありそうな場合には、規範の理由も付すこととしています。また、応用論点についても、現場でそれなりに対応できそうなものについては触れていく、という方針を採用しました。

4.商法は、それなりに配点が高く、誰もがそれなりに書けるであろう設問1と設問3のGの退場に係る部分の頑張りが、合否を分けるでしょう。設問1は、規範の明示と事実の摘示という基本を守ってしっかり書く(※)。ここで手抜きをして、コンパクトにまとめてしまった人は、予想外に低い評価となるおそれがあるでしょう。設問2と設問3は、知っていれば論点を抽出して当てはめるだけ、という問題です。事前に知識として準備していなくても、設問2は考慮要素となる事実が問題文に書いてありますから、それを肯定・否定に分類して答案に書き写していけば、最低限の論述はできたはずです。また、設問3のFの投票に係る部分は、平成21年にも類似の論点が出題されており、過去問をしっかり検討していれば、それをヒントにして十分解答可能だったのではないかと思います。過去問を真面目に解いていれば気付くはずですが、本試験では、意外と同じような論点が繰り返し問われています。また、論点自体は違っていても、基本的な考え方や、思考の切り口が共通することは、よくあるものです。解いていると、「ああ、またこのパターンか。」と直感的に構成が見えるようになる。このようなことは、予備校答練では体得できません。ですから、過去問は、最優先で全問解くべきなのです。
 参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(会社法)」、「論証例:議決権行使への意思表示、代理等規定の適用の肯否」、「論証例:議決権行使権限のない従業員の出席と書面投票の撤回」に準拠した部分です。議決権行使代理人株主限定定款規定と弁護士による代理行使については、いつも覚えている理由付けが本問には当てはまらなそうだな、と思った場合の対処法として、論述例を参考にしてみて下さい。
 ※ 細かい点ですが、取締役会の決定を欠く重要な業務執行(362条4項)について、判例は民法93条1項ただし書類推適用という法律構成を示していないので、判例として論述する際には注意を要します。また、356条1項3号は、「株式会社が取締役の債務を保証すること」と、「取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引」とを「その他」で連結しており、文言上前者が後者に包含されない並列関係となっているため、本問では、「株式会社が取締役の債務を保証すること」に該当することを示すのが正確な条文の適用です。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.本件連帯保証契約は取締役会の承認のない利益相反取引であり、無効であるとする主張が考えられる。

(1)本件連帯保証契約は、甲社が同社取締役であるAの債務を保証するものであり、利益相反取引(356条1項3号)である。

(2)本件連帯保証契約に取締役会の承認(同条柱書)はない。承認は、利益相反取引が会社に効果帰属するための要件である(356条2項参照)。したがって、承認のない利益相反取引は無効である。もっとも、取引の安全を保護する必要があるから、会社が第三者に対して上記無効を主張するためには、第三者の悪意又は重過失を立証する必要がある(相対的無効説。三栄電気事件、仙石屋事件各判例参照)

ア.本件確認書はA名義で、取締役会議事録の写しの代替となりえない。社内規定で公開できないとするAの説明は取引通念に反する。Aの説明を軽信したBには承認確認の注意義務を怠った過失がある。
 もっとも、甲社は資本金1億円、負債2億円、総資産10億円、経常利益2000万円と大規模で、Bは、その財務状況の概要をAに確認していた。甲社の販売する和食器は人気が高まっており、Aはその代表取締役であるから、甲社の評判を傷つけないと信頼するのも無理はない。Bは、Aに甲社の和食器を販売させてほしいと再三申し入れて断られた経緯があり、Aの機嫌を損ねて取引の機会を失ってしまうと考えたことも理解できる。以上から、わずかな注意を払えば承認がないことを知りえたとはいえず、過失は重大でない。
 したがって、乙社は善意・軽過失で、重過失はない(民法101条1項、2項)。

イ.以上から、本件連帯保証契約の効力を妨げない。

(3)よって、上記主張は不当である。

2.本件連帯保証契約は取締役会の決定のない多額の借財であり、無効であるとする主張が考えられる。

(1)「多額の借財」(362条4項2号)に当たるか否かは、当該借財の額、その会社の総資産及び経常利益等に占める割合、当該借財の目的及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきである(裁判例)
 保証契約も新たに金銭債務を負担する以上、「借財」に当たる。5000万円は一般に多額で、甲社資本金の50%、経常利益の2.5倍である。他の取締役らに反対されてきたA個人のレストラン業のためのもので、Aの独断で決定させるべき性質のものでない。以上から、本件連帯保証契約は「多額の借財」に当たる。

(2)取締役会の決定のない多額の借財は、内部的意思決定を欠くに過ぎないから原則として有効であり、相手方が決議がないことにつき悪意又は有過失の場合に限り無効となる(富士林産工業事件判例参照)。
 前記1(2)アのとおり、乙社に軽過失があるから、本件連帯保証契約は無効である。

(3)よって、上記主張は正当である。

3.本件連帯保証契約は代表権を濫用したものであり、無効であるとする主張が考えられる。

(1)Aには包括代表権がある(349条4項)が、本件連帯保証契約はA個人のレストラン開業の融資を受けるという自己の利益を図る目的であったから、代表権の濫用(民法107条)に当たる。

(2)甲社は信頼できる代理店のみを通じて販売する方針を堅持し、BはAに甲社の和食器を販売させてほしいと再三申し入れたが断られていた。A個人で開業するレストランの客が乙社を通じて購入できるようにするというAの提案は、上記甲社の方針や従前のAの対応に反する。A個人のレストラン業のため甲社が5000万円という多額の連帯保証をし、Aから甲社に保証料も支払われないことは、甲社の経営上合理性がない。取締役会議事録の写しを要求したのに、社内規定を理由にA名義の本件確認書で代えようとしたのは取引通念に反する。以上の不審点を甲社側に確認する等すれば、Bは、Aが自己の利益を図る目的であることを知ることができた。
 したがって、本件連帯保証契約は、甲社との関係で無効である(民法113条1項)。

(3)よって、上記主張は正当である。

第2.設問2

1.株主となるのは、出資の履行をした引受人である(209条1項柱書)。本件株式の出資の履行をした実質上の引受人はCであるとする主張が考えられる。

2.他人名義で株式を引き受けた場合には、名義貸与者ではなく、実質上の引受人が株主となる(判例)。実質上の引受人を判断するに当たっては、名義借用の理由、資金の出所、議決権の行使状況、配当金の受取先等を考慮すべきである
 確かに、本件株式がA名義とされたのは、Aに家業である甲社を継がせるためであった。
 しかし、発行に必要な事務手続はCの指示で甲社総務部が進め、Aの記名押印も総務部が行った。払込金額2000万円は全てCの貯金で賄われた。議決権は総務部がC名義株式の議決権と併せて処理した。配当はC名義株式の分と併せてC名義の銀行口座に振り込まれて、Cの所得としてCのみが確定申告した。Cが取締役を退任し、Aが代表取締役になっても、上記処理は継続された。
 以上から、本件株式は家業承継後に実質上もAに承継させる意思でCが引き受けたが、現時点ではいまだAへの実質上の承継はされていないと評価できる。したがって、実質上の引受人はCで、現在の株主の地位もCに帰属する。

3.よって、上記主張は正当である。

第3.設問3

1.Gを退場させた点が310条1項に違反し、決議方法の法令違反(831条1項1号)があるとする主張が考えられる。

(1)議決権行使の代理人資格を株主に限る旨の定款の定めは、株主以外の第三者による株主総会のかく乱を防止し、会社の利益を保護する趣旨のものであり、合理的な理由による相当程度の制限であるから、310条1項に反しないものとして有効である(関口本店事件判例参照)

(2)弁護士が代理人となる場合について、総会かく乱のおそれがないとしても、上記定款により代理行使を拒めるとする裁判例がある(大盛工業事件参照)。その趣旨は、総会の受付で代理人の職種を確認し、総会かく乱のおそれの有無を個別具体的に検討するのでは受付事務が混乱し、円滑な株主総会の運営を阻害するおそれがあるだけでなく、経営陣による恣意的運用の余地もある点にある。
 しかし、甲社は株主がACD丙社だけの非公開会社で、受付で確認しても混乱するおそれはなく、現にGは受付を円滑に済ませ、議場に案内されている。Cは、Aを排除するためFと示し合わせ、当日に動議を提出して自ら議長となっており、Gを退場させたことは、Aを排除する目的を確実に達するための恣意的運用とみる余地がある。そうすると、上記裁判例の趣旨は、本件に妥当しない。
 上記定款の定めは、総会かく乱防止の趣旨が妥当する限りで効力を認めれば足りる。弁護士には職業倫理が求められ、非違行為があれば懲戒を受ける(弁護士法56条1項)こと、DはACの一方に肩入れすることを避けるためGに委任しており、他にGが総会をかく乱させると認めうる事実はないことから、甲社は、上記定款の定めを理由にGの議決権行使を拒めない。

(3)したがって、CがGを退場させた点は310条1項に違反し、決議方法の法令違反がある。なお、決議に影響があるから裁量棄却(831条2項)の余地はない。

(4)よって、上記主張は正当である。

2.丙社の議決権の行使につきFの投票を有効とし、Aの投票を無効とした点が310条1項に違反し、決議方法の法令違反があるとする主張が考えられる。

(1)アドバネクス事件高裁判例は、書面による議決権行使について、同制度の趣旨は出席せずに議決権を行使できる便宜を図る点にあり、総会当日の出席がある場合には、当日の意思を優先すべきであるから、株主又は議決権行使の権限のある代理人が出席した場合には、事前にされた書面による議決権行使は撤回されたと考えられるが、総会当日に出席した者に議決権行使の権限がない場合には、上記のことは妥当しないから、事前にされた書面による議決権行使は撤回されたものとはならないとする。このことは、事前に委任状による代理権授与がされたが、総会当日に無権限の者が出席して議決権を行使したときにも当てはまる。

ア.Fは代表取締役であり、裁判上の包括権限(349条4項)を有するが、内規の制限がある。
 上記制限は善意の第三者に対抗できない(同条5項)。本件決議の時の議長はCであり、Cは内規を知らなかったから、甲社は善意であり(民法101条1項、2項)、丙社は、Fの代表権の制限を対抗できない。

イ.議決権行使は議案に対する株主の意見表明であり、意思表示に準じて考えるべきであるから、その性質に反しない限り、民法の意思表示、代理等の規定が適用される(アドバネクス事件高裁判例参照)
 Fは事前の委任状提出を知りながらCと示し合わせて投票しており、第三者Cの利益を図る目的でされた。当然Cはこれを知っており、甲社は悪意である。
 そうすると、Fの議決権行使は代表権濫用によるもので、無権限の者がしたとみなされる(民法107条、113条1項)。丙社のAへの代理権授与は撤回されない。

(2)以上から、Fの投票は無効であり、委任状の授権に基づくAの代理投票は有効である。これと異なるCの取扱いは310条1項に違反し、決議方法の法令違反がある。なお、決議に影響があるから裁量棄却の余地はない。

(3)よって、上記主張は正当である。

以上

posted by studyweb5 at 12:42| 新司法試験論文式過去問関係 | 更新情報をチェックする
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