2021年05月29日

令和3年司法試験論文式民事系第1問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.当サイトでは、平成27年から令和元年まで、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案を掲載してきました(「令和元年司法試験論文式公法系第1問参考答案」参照)。それは、限られた時間内に効率よく配点の高い事項を書き切るための、1つの方法論を示すものとして、一定の効果をあげてきたと感じています。現在では、規範の明示と事実の摘示を重視した論述のイメージは、広く受験生に共有されるようになってきているといえるでしょう。

2.その一方で、弊害も徐々に感じられるようになってきました。規範の明示と事実の摘示に特化することは、極端な例を示すことで、論述の具体的なイメージを掴みやすくすることには有益ですが、実戦的でない面を含んでいます。
 また、当サイトが規範の明示と事実の摘示の重要性を強調していた趣旨は、多くの受験生が、理由付けや事実の評価を過度に評価して書こうとすることにありました。時間が足りないのに無理をして理由付けや事実の評価を書こうとすることにより、肝心の規範と事実を書き切れなくなり、不合格となることは避けるべきだ、ということです。その背景には、事務処理が極めて重視される論文の出題傾向がありました。このことは、逆にいえば、事務処理の量が少なめの問題が出題され、時間に余裕ができた場合には、理由付けや事実の評価を付すことも当然に必要となる、ということを意味しています。しかし、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案ばかり掲載することによって、いかなる場合にも一切理由付けや事実の評価をしてはいけないかのような誤解を招きかねない、という面もあったように感じます。
 上記の弊害は、司法試験の検証結果に基づいて、意識的に事務処理の比重を下げようとする近時の傾向(「検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について」)を踏まえたとき、今後、より顕著となってくるであろうと予測されます。

3.以上のことから、平成27年から令和元年までに掲載してきたスタイルの参考答案は、既にその役割を終えたと評価し得る時期に来ていると考えました。そこで、令和2年からは、必ずしも規範の明示と事実の摘示に特化しない参考答案を掲載することとしています。より実戦的に、現場で答案に事実を書き写している間に瞬時に思い付くであろう評価を付し、時間に余裕がありそうな場合には、規範の理由も付すこととしています。また、応用論点についても、現場でそれなりに対応できそうなものについては触れていく、という方針を採用しました。

4.民法は、本来の難易度は非常に高いものの、ほとんどの受験生は、そのことに気が付かないだろう、という問題でした。例えば、設問1は、いずれも判例のある典型論点のようにみえて、実は判例とは重要な点で事案を異にしています。設問2(2)は、現場でほとんどの受験生が本命視するであろう651条2項では、請求4を根拠付けることができません。

 

民法(債権関係)部会資料 81-3 「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案の原案(その3) 補充説明」より引用。太字強調は筆者。)

 相手方に不利な時期に委任を解除した場合の損害は、解除の時期が不利であることから生ずる損害のみを指し、解除自体から生ずる損害を含まないと解されることから、委任の報酬はここでいう損害には該当しない。また、受任者の利益をも目的とする委任を解除した場合の損害は、委任契約が解除されなければ受任者が得たと認められる利益(委任事務の処理によって受任者が得られる利益)から、受任者が債務を免れることによって得た利益を控除したものになると考えられるが、委任の報酬は委任事務を処理したことの対価であって、委任事務の処理によって得られる利益ではないことから、ここでいう損害には含まれないと考えられる。すなわち、いずれの場合においても、報酬を得られなくなったことは損害には含まれない

(引用終わり)

 

 また、配点は設問2が一番低く、設問3が一番高いのに、「正解」を書こうとする場合に必要となる文字数は、設問2が一番多く、設問3が一番少ない。実力者であればあるほど、書くのに苦労する内容だったといえるでしょう。実戦的には、設問1は典型論点として平凡に処理し、設問2(2)は651条2項1号くらいで処理しておいても、十分合格答案でしょう。おそらく、合格者の再現答案や予備校の解答例は、そのようなものになるだろうと思います。当サイトの参考答案は、真面目に本問を解くとどうなるか、という例として、参考にして頂ければと思います。
 参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(物権)【第2版】」に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.㋐のCの主張の根拠は、Dの即時取得(192条)及び占有権原としての使用借にある。㋑のAの主張の根拠は、「占有を始めた」(192条)の要件を欠き、Dは即時取得しない点にある。㋒のAの主張の根拠は、仮にDが即時取得するとしても、甲は回復請求できる(193条)点にある。

2(1)代物弁済(482条)は「取引行為」に当たる。Dは、甲に所有者を示すプレート等はなく、他に不審な点もなかったためBの説明を信じており、平穏・公然・善意(186条1項)、無過失(188条)の推定を覆す事実はない。
 Bは、Cに以後はDのために甲を占有するよう指示し、Dはこれを了承したから、指図による占有移転(184条)がある。「占有を始めた」といえるか。
 確かに、判例は、「占有を始めた」(192条)というためには、外観上の占有状態に変更が生じることを要するとして占有改定はこれに当たらないとし、指図による占有移転については、占有代理人が現実の占有を失ったかで判断する。しかし、上記判例の趣旨は、原所有者の間接占有を保護する点にある。したがって、原所有者に間接占有がないときは、上記判例の趣旨は及ばず、指図による占有移転は、占有代理人の直接占有の有無に関わらず、「占有を始めた」に当たる。
 甲は盗品であり、AとCには占有代理関係は存在しないから、Aに甲の間接占有はない。したがって、上記判例の趣旨は及ばず、Dは「占有を初めた」といえる。㋑のAの主張は不当である。
 以上から、192条の要件を満たす。

(2)193条の趣旨は、直ちに即時取得を成立させると被害者・遺失者に酷であることから、2年間その成立を猶予する点にある。したがって、盗難の時から2年間は、盗品の所有権は被害者に帰属する(判例)
 甲は盗品であり、盗難の時から2年経過しないから、所有権はAに帰属する。なお、Bは土木業を営む者で「同種の物を販売する商人」(194条)に当たらないから、Aは、回復請求に価額弁償を要しない。この限りで㋐のCの主張は不当であり、㋒のAの主張は正当である。

(3)バックホー事件判例は、194条の適用がある事案において、代価弁償までの間の占有者の使用収益を認める。その根拠は、同条の趣旨は占有者と被害者の保護の均衡を図る点にあるところ、被害者が回復をあきらめた場合との均衡や代価に利息が含まれないことを考慮すれば、占有者の使用収益権を認めることが両者の公平に適う点にある。占有者が代価を負担しないのに使用収益できるとすると両者の公平を欠くから、194条の適用がない本件には、上記判例の趣旨は及ばないとも思える。
 しかし、被害者が回復をあきらめた場合に占有者が使用収益できる点は同様であるし、善意占有者は果実(使用利益を含む。)を取得できる(189条1項)ことから、194条の適用がない本件にも、上記判例の趣旨は及ぶと考えられる。
 したがって、Dは甲を使用収益しうる地位にあり、令和2年11月1日までCが占有使用することを了承したから、Cは、同日まで甲を使用収益できる。この限りで㋐のCの主張は正当であり、㋒のAの主張は不当である。

(4)使用借は第三者に対抗できない(605条対照)から、Aに対する占有権原となりえない。この点に関する㋐のCの主張は不当である。

3.以上から、Aに甲の所有権があり、Cは占有権原なく甲を占有するから、請求1は認められる。Cは甲を使用収益できるから、請求2は認められない。

第2.設問2

1.小問(1)

(1)契約①によるEの主たる債務内容は、同契約でのAEの合意内容によるから、令和3年6~10月の5か月間、Aの事業所で出張講座を開設し、週4日、授業を行うことであり、下記(2)の準委任(656条)の性質から、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、上記事務を処理する義務を負う(644条)。

(2)上記(1)のように、同契約は、出張講座を開設して授業を行うという法律行為でない事務の委託であるから、準委任の性質を有する。

2.小問(2)

1.請求3の可否

(1)契約①には月額報酬60万円の報酬特約(648条1項)がある。令和3年8月31日、Aは、Eに同契約解除の意思表示をしたが、将来効にとどまる(651条1項、652条、620条前段)から、8月分の報酬の発生を妨げない。

(2)Aの指図にEが従わなかったというAの反論が考えられる。
 委任者の指図に従わないことは、原則として委任の本旨に反する。報酬は委任の本旨に従った事務処理の対価であるから、その本旨に反するときは報酬は発生しない。
 確かに、令和3年8月6日、Aは、Eに善処を求めた。しかし、課題を減らす等の具体的指示がなく、指図といえない。技能検定試験対策講座という性質上、Eには専門技術裁量がある。そうすると、8月分の講座が委任の本旨に反するとはいえない。

(3)以上から、8月31日の経過により、8月分の月額報酬60万円が発生する(648条2項ただし書、624条2項)。

(4)よって、請求3は認められる。

2.請求4の可否

(1)651条2項1号の賠償は解除時期が不利であることから生じる損害に限られること、同項2号かっこ書は専ら報酬を得ることによるものを除外することから、同項によって請求4を根拠づけることはできない。

(2)そこで、Eとしては、AE間には黙示の任意解除権放棄の合意があったのに、Aがこれに違反したことを理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項)として請求4を根拠づけることになる。

ア.本件講座はAの従業員専用の出張講座で、Aがその開設を依頼した。期間は5か月と短期で、その年の乙検定の合格者数に応じた成功報酬の定めもあった。月額報酬60万円は、Eの他の出張講座よりも高額であった。Eは、本件講座に専念するため、新たな出張講座の依頼は受けないこととし、また、通学講座のための代替の講師を手配し、これらをAに伝えた。
 以上から、本件講座は中途の終了が予定されておらず、AE間に任意解除権を放棄する黙示の合意があったといえる。

イ.これに対し、やむをえない場合であったとするAの反論が考えられる。
 委任は人的信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、著しく不誠実な行動がある等やむをえない場合には、任意解除権の放棄があっても解除できる。
 確かに、Aは、Eに善処を求めたのに、Eは従来の指導方法を維持した。しかし、課題の量が膨大で、課題の不提出についてEに叱責されるという程度のもので、引き続き技能を伸ばす受講生が相当数いたこと、令和3年8月31日の時点でも本件講座に継続して出席する受講生が20名もいたことから、著しく不誠実な行動がある等やむをえない場合であったとはいえない。

ウ.任意解除権放棄の合意に違反する解除も有効であるが、合意違反が債務不履行となる。
 Aは合意違反について債務不履行責任を負い、536条2項前段の趣旨も踏まえると、解除がなければ発生したはずの月額報酬はすべて通常生ずべき損害(416条1項)として、賠償範囲に含まれる。Eが同年10月に別の企業で出張講座を行った報酬15万円は解除と異なる原因によるから、損益相殺の対象とならない。

(3)よって、請求4は認められる。

第3.設問3

1.小問(1)

(1)Fは、主債務又は連帯保証債務の消滅時効(166条1項1号)を援用(145条)して、請求4を拒めるか。
 本件債務の弁済期(令和10年4月1日)から現在(令和15年5月11日)まででみると、消滅時効期間が経過している。
 しかし、令和10年6月20日、Aは、Hに本件債務の弁済猶予を求めた。これは債務の承認に当たり、本件債務の時効期間は更新され(152条1項)、連帯保証債務の時効期間も更新される(457条1項)。同日から現在までに消滅時効期間は経過していない。したがって、Fは、主債務及び連帯保証債務のいずれについても、消滅時効を援用して請求5を拒めない。
 よって、Fは、500万円全額を拒むことはできない。

(2)Fは、丙の売買代金100万円分について、457条3項を根拠に拒めるか。
 上記代金債権についても、既に消滅時効期間が経過している。もっとも、508条の適用の余地がある。
 同条を適用するには、自働債権の消滅時効期間経過以前に受働債権と相殺適状にあったことを要し、既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというには、受働債権につき、期限の利益を放棄できるだけでなく、期限の利益の放棄等により、弁済期が現実に到来したことを要する(判例)。
 上記代金債権の消滅時効期間は令和9年8月31日に満了するところ、本件債権の弁済期は令和10年4月1日であり、それ以前に期限の利益の放棄等により、弁済期が現実に到来した事実はない。したがって、自働債権の消滅時効期間経過以前に受働債権と相殺適状にない。
 そうすると、AはHに上記代金債権を自働債権とする相殺権を有しないから、「主たる債務者が債権者に対して相殺権…を有するとき」に当たらない。
 よって、Fは、丙の売買代金100万円分も拒めない。

2.小問(2)

(1)Fは、Aの委託を受けていない。したがって、Aが当時利益を受けた限度で求償でき(462条1項、459条の2第1項前段)、免責後の利息等は請求できない。なお、Aの意思に反するときは、Aが現に利益を受ける限度でのみ求償できる(462条2項)が、AがHに抗弁を有していた事実はないから、この点は結論を左右しない。
 免除は相対効であり(458条、441条本文)、Aとの関係で債務を消滅させない。債務の消滅行為といえるのは、300万円の弁済にとどまる。
 よって、Fは、Aに300万円を求償できる。

(2)F及びGは連帯保証人であり、Fが負担部分を超える額を弁済すれば、Gに求償できる(465条1項、442条)。FG間の内部的負担割合に関する合意はないから、負担割合は平等となる(427条類推適用)。Fの負担部分の額は、250万円である。
 免除は相対効であり、Gとの関係で債務を消滅させない。弁済した300万円のうち、Fの負担部分を超える額は50万円である。免責後の法定利息も請求できる(465条1項、442条2項)。
 よって、Fは、Gに50万円及びこれに対する令和15年5月11日以降の法定利息を求償できる。

以上

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2021年05月23日

令和3年司法試験論文式公法系第2問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.当サイトでは、平成27年から令和元年まで、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案を掲載してきました(「令和元年司法試験論文式公法系第1問参考答案」参照)。それは、限られた時間内に効率よく配点の高い事項を書き切るための、1つの方法論を示すものとして、一定の効果をあげてきたと感じています。現在では、規範の明示と事実の摘示を重視した論述のイメージは、広く受験生に共有されるようになってきているといえるでしょう。

2.その一方で、弊害も徐々に感じられるようになってきました。規範の明示と事実の摘示に特化することは、極端な例を示すことで、論述の具体的なイメージを掴みやすくすることには有益ですが、実戦的でない面を含んでいます。
 また、当サイトが規範の明示と事実の摘示の重要性を強調していた趣旨は、多くの受験生が、理由付けや事実の評価を過度に評価して書こうとすることにありました。時間が足りないのに無理をして理由付けや事実の評価を書こうとすることにより、肝心の規範と事実を書き切れなくなり、不合格となることは避けるべきだ、ということです。その背景には、事務処理が極めて重視される論文の出題傾向がありました。このことは、逆にいえば、事務処理の量が少なめの問題が出題され、時間に余裕ができた場合には、理由付けや事実の評価を付すことも当然に必要となる、ということを意味しています。しかし、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案ばかり掲載することによって、いかなる場合にも一切理由付けや事実の評価をしてはいけないかのような誤解を招きかねない、という面もあったように感じます。
 上記の弊害は、司法試験の検証結果に基づいて、意識的に事務処理の比重を下げようとする近時の傾向(「検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について」)を踏まえたとき、今後、より顕著となってくるであろうと予測されます。

3.以上のことから、平成27年から令和元年までに掲載してきたスタイルの参考答案は、既にその役割を終えたと評価し得る時期に来ていると考えました。そこで、令和2年からは、必ずしも規範の明示と事実の摘示に特化しない参考答案を掲載することとしています。より実戦的に、現場で答案に事実を書き写している間に瞬時に思い付くであろう評価を付し、時間に余裕がありそうな場合には、規範の理由も付すこととしています。また、応用論点についても、現場でそれなりに対応できそうなものについては触れていく、という方針を採用しました。

4.行政法は、時間配分で差が付きそうです。配点が明示されていて、それによれば、設問2が一番配点が高い。また、会議録の誘導も、設問2に関するものが非常に詳細です。ですから、設問2に時間を残しておく必要がある。もう1つ、会議録の読み方として、設問2に関するものは長々と書いてありますが、最終的な違法事由の切り口は最後の弁護士Dの発言部分にあるので、そこを軸にして構成すればよい。そのことに、現場で早く気が付くかどうか。後は、時間との戦いとなるでしょう。
 参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(行政法)」に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.設問1(1)

1.抗告訴訟の対象となる処分というためには、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行うものであること(公権力性)、特定の相手方の法的地位に直接的な影響を及ぼすこと(直接法効果性)が必要である

(1)本件不選定決定は、本件条例26条を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行うものであり、公権力性がある。

(2)屋台営業候補者の地位は、市道占用許可の審査基準の構成要素となる(本件条例9条1項2号イ)にとどまるから、候補者選定そのものに法的効果があるとはいえず、直接法効果性は認められないのではないか。
 確かに、公共施設の管理者による開発許可の同意に関する判例は、直接法効果性を否定する。しかし、その後の病床数削減勧告に関する判例は、法的効果のない行政指導について、他の法制度において処分要件の構成要素となっているために、相当程度の確実さをもって申請を拒否されるという仕組みとなっていることから、直接法効果性があるものとして扱うに至っている。
 本件条例9条1項柱書は、「次に掲げる基準のいずれにも適合するときに限り」とし、市長に裁量の余地を与えないから、屋台営業候補者に選定されない場合には、市道占用許可申請は、相当程度の確実さをもって拒否される。以上の仕組みから、不選定決定に直接法効果性があるものと扱うべきである。

2.もっとも、市道占用許可申請に対する不許可処分に係る抗告訴訟で屋台営業候補者不選定の違法を争えば足りるとも考えられる。
 段階的処分において、どの段階の手続に処分性を認めるかを判断するに当たっては、実効的な権利救済の観点から、抗告訴訟の対象とすることに合理性があるか否かを考慮すべきである(土地区画整理事業計画決定に関する判例参照)
 前記1(2)のとおり、屋台営業候補者に選定されない場合には、市道占用許可申請は相当程度の確実さをもって拒否される以上、敢えて市道占用許可申請に対する不許可処分を待つ意味に乏しいから、実効的な権利救済の観点から不選定決定を抗告訴訟の対象とすることに合理性がある。

3.よって、本件不選定決定は、取消訴訟の対象となる処分に当たる。

第2.設問1(2)

1.拒否処分の取消しの結果、行政庁が当初の申請に対し改めて許否の決定をすべき拘束を受けたとしても、既に何らかの理由によって適法に許認可等をすることができず、回復すべき法律上の地位の取得自体が不可能となるに至った場合には、拒否処分の取消しを求める訴えの利益は失われる(第2次教科書検定訴訟判例参照)

2.競願関係にある一方の業者への免許等の付与が、他方業者に対する拒否処分と表裏の関係にある場合には、免許等付与処分があっても、拒否処分取消しの訴えの利益は失われない(東京12チャンネル事件判例参照)。その趣旨は、行政庁が拒否処分の取消判決の趣旨に従って改めて処分をする(行訴法33条2項)ために、一方の業者への免許等付与処分を職権で取り消して他方業者に免許を付与することがあり得るから、回復すべき法律上の地位の取得が不可能となったとはいえない点にある。
 屋台営業候補者は、公募(本件条例25条)の上、応募した者のうちから選定する(同26条1項、2項)。営業希望場所は1か所で、選定されるのは営業希望場所ごとに総合成績が最も優れた者各1名とされる。そうすると、ある応募者への候補者決定は、他の応募者に対する不選定と表裏の関係にあり、市長が本件不選定決定の取消判決の趣旨に従って改めて候補者を決定するために、本件候補者決定を職権で取り消してBを候補者に決定することがあり得る。したがって、上記判例の趣旨が妥当し、本件不選定決定の取消訴訟に係る訴えの利益は失われない。

3.よって、Bは、本件不選定決定の取消しを求める訴えの利益を有する。

第3.設問2

1.裁量の有無は、国民の自由の制約の程度、規定文言の抽象性・概括性、専門技術性及び公益上の判断の必要性、制度上及び手続上の特別の規定の有無等を考慮して個別に判断すべきである(群馬バス事件判例参照)
 確かに、屋台営業は市道の本来の用途でなく、当然に市道で屋台営業をする自由は認められない。本件条例26条1項は、選定要件を示していない。観光資源となる点や、防犯効果、通行の阻害、道路の汚れや排水の垂れ流し等の問題について専門技術性があり、公益上の判断も必要となる。選定について、対象者に特別の不服申立て手続等は設けられていない。
 しかし、従来から屋台営業を行ってきた者との関係では、事実上、職業継続の自由の制約となり得る。本件条例26条2項は規則で基準を定めること、委員会が推薦することを定めている。申請に対する処分として、A市行政手続条例の適用がある(行手法第2章参照)。
 以上から、市長に一定の裁量があるとしても、範囲は限定されており、逸脱濫用があれば違法となる(行訴法30条)。

2.裁量権の逸脱又は濫用となる場合とは、事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく妥当性を欠く場合である

(1)Bは、本件区画で10年以上も屋台営業を行ってきて、A市との間でトラブルもなかったのに、今後営業が続けられなくなると生活の基盤が失われてしまう。市長がこの点を考慮しなかった点に考慮不尽があり、社会通念上著しく妥当性を欠く。

(2)これに対し、他人名義を借りた屋台営業は道路法上無許可営業に当たり、法的保護に値しないというA市の反論が想定される。
 確かに、市道占用権は公法上の権利であり、私法上の権利と同様の譲渡性があるとは考えられない。本件条例13条2項の趣旨も、その点にある。
 しかし、公法上の権利であっても、法律上特定の者に専属する性質のものではなく、単なる経済的価値として移転性が予定されている場合には、譲渡性を肯定できる(地方議会の議員報酬請求権に関する判例参照)
 A市においては、屋台の設置に必要な市道占用許可を有する者から名義を借りた別の者が営業を行っている屋台があり、許可が事実上売買の対象となったり、営業者が頻繁に交代することがあったという経緯がある。本件条例9条1項2号アは、現営業者の配偶者又は直系血族のうち主として現営業者が営む屋台営業による収入により生計を維持している屋台営業従事者に市道占用許可を与えるものとしており、限定的とはいえ営業実績を考慮して承継を認める趣旨といえる。そうすると、市道占用権そのものは専ら法律上特定の者に専属するとしても、屋台営業に係る経済的価値については承継が観念され、移転性が予定されてきたといえる。
 以上から、屋台営業において他人名義を借りることは、適法な占用権を基礎付けることはないとしても、営業実績が全て法的保護に値しなくなるほど悪質な行為とは評価できない。したがって、少なくともBのこれまでの営業実績を考慮しないことは著しく妥当性を欠く。上記反論は妥当でない。

(3)よって、市長の選定に係る判断の内容について裁量逸脱があり、本件不選定決定は違法である。

3.行政庁が処分をするに当たって諮問機関に諮問し、その決定を尊重して処分しなければならない旨の法の規定がある場合に、法が諮問を要求した趣旨に反すると認められる瑕疵があるときは、これを経てされた処分も違法として取消しを免れない(群馬バス事件判例参照)

(1)確かに、本件条例26条には委員会の推薦を尊重すべき旨の明示の文言はない。しかし、同条1項が委員会に諮る旨を定めた趣旨は選定の公正を確保する点にあるから、市長は、委員会の推薦を尊重して選定しなければならない。
 したがって、市長が委員会の推薦を覆して選定したことは、同項の趣旨に反する。

(2)これに対し、委員会の申合せは規則19条各号の選定基準及び本件指針と異なる取扱いであり、新規応募者の利益を不当に侵害することになるため、市長がその推薦を覆しても本件条例26条1項の趣旨に反しないとするA市の反論が想定される。
 裁量権行使における公正・平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼保護等の観点から、公にされた処分基準と異なる取扱いをするには、相当と認めるべき特段の事情を要する(北海道パチンコ店営業停止命令事件判例参照)。このことは、選定の審査基準の性質を有する規則19条各号の選定基準及びウェブサイトで公開されている本件指針にも当てはまる。
 確かに、上記選定基準には、他人名義営業者の既得の地位の保護という要素は直接には含まれていない。
 しかし、委員会は、選定基準とは無関係に他人名義営業者の地位を保護するため加点したのではなく、特にA市との間でトラブルのなかった他人名義営業者は、今後A市の屋台政策への確実な貢献が期待できると評価して、各号の審査において、25点という本件指針の枠内で5点を与えるとしたにすぎない。前記2(2)のとおり、営業実績が全て法的保護に値しなくなるとは評価できないから、各号の審査において営業実績を考慮できる。したがって、上記申合せは、上記選定基準及び本件指針と異なる取扱いをするものとはいえない。新規応募者に同様の加点がないのは、そのような営業実績がないことによるものであって、不当にその利益を害するとはいえない。上記反論は妥当でない。

(3)よって、本件不選定決定は違法である。

以上

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2021年05月19日

令和3年司法試験論文式公法系第1問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.当サイトでは、平成27年から令和元年まで、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案を掲載してきました(「令和元年司法試験論文式公法系第1問参考答案」参照)。それは、限られた時間内に効率よく配点の高い事項を書き切るための、1つの方法論を示すものとして、一定の効果をあげてきたと感じています。現在では、規範の明示と事実の摘示を重視した論述のイメージは、広く受験生に共有されるようになってきているといえるでしょう。

2.その一方で、弊害も徐々に感じられるようになってきました。規範の明示と事実の摘示に特化することは、極端な例を示すことで、論述の具体的なイメージを掴みやすくすることには有益ですが、実戦的でない面を含んでいます。
 また、当サイトが規範の明示と事実の摘示の重要性を強調していた趣旨は、多くの受験生が、理由付けや事実の評価を過度に評価して書こうとすることにありました。時間が足りないのに無理をして理由付けや事実の評価を書こうとすることにより、肝心の規範と事実を書き切れなくなり、不合格となることは避けるべきだ、ということです。その背景には、事務処理が極めて重視される論文の出題傾向がありました。このことは、逆にいえば、事務処理の量が少なめの問題が出題され、時間に余裕ができた場合には、理由付けや事実の評価を付すことも当然に必要となる、ということを意味しています。しかし、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案ばかり掲載することによって、いかなる場合にも一切理由付けや事実の評価をしてはいけないかのような誤解を招きかねない、という面もあったように感じます。
 上記の弊害は、司法試験の検証結果に基づいて、意識的に事務処理の比重を下げようとする近時の傾向(「検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について」)を踏まえたとき、今後、より顕著となってくるであろうと予測されます。

3.以上のことから、平成27年から令和元年までに掲載してきたスタイルの参考答案は、既にその役割を終えたと評価し得る時期に来ていると考えました。そこで、令和2年からは、必ずしも規範の明示と事実の摘示に特化しない参考答案を掲載することとしています。より実戦的に、現場で答案に事実を書き写している間に瞬時に思い付くであろう評価を付し、時間に余裕がありそうな場合には、規範の理由も付すこととしています。また、応用論点についても、現場でそれなりに対応できそうなものについては触れていく、という方針を採用しました。

4.憲法については判例重視の傾向が年を追うごとに強くなっており、昨年の採点実感では、「関連する判例に言及しつつ論ずるべきことは問題文の要求でもあるところ,全く判例に言及しないまま論述を進める答案が少なからずあった。一般論としても,法曹を目指す者が関連する判例を無視して議論を展開することは許されないであろう。まして,本設問のように当然言及してしかるべき関連判例が存在する事案については,当該判例を明示し,その論旨を踏まえて自らの見解を示すことは必須である。」とされるまでに至っています。再現答案を見ても、かつてのように人権の重要性と規制態様の強度から審査基準を導出するだけでは上位になりにくい傾向となってきています。
 もっとも、判例をどのように用いて書いたらよいかわからない、という受験生が多いでしょう。これは、判例を使って書くことについて、予備校がほとんど対応できていないことによるのだろうと思います。当サイトでは、これまでも、積極的に判例を用いた参考答案を作成してきました。今年も、そのような方針に基づいて作成しています。
 判例の知識の習得やその整理については、うまくまとまった教材がないのが現状です。その対策として、当サイトでは、「司法試験定義趣旨論証集憲法」を作成しました。参考答案中の太字強調部分は、これに依拠したものです。本書を用いれば、現場でそれほど頭を使うことなく、判例を用いたそれなりに高度な答案を書くことができるでしょう。市販の概説書等は、判例・政府見解について、著者の立場から一方的に批判する内容であったり、理論的な位置付けについて曖昧な表現に終始する等、実際の事例問題を解く際の指針となり得なかったり、答案にそのまま記載することができないものがほとんどです。本書は、論点の網羅性(論点一覧は、こちらから確認できます。)、理論的な一貫性、表現の簡潔さ、答案にそのまま記載して使用できる利便性等の点で、優れています。同様の水準のものは、現時点でおよそ市販されていないだろうし、今後も市販されることはないだろうと自負しています。
 参考答案は、当てはめについて、合憲方向、違憲方向のものを単純に拾い上げて列挙し、何かうまい評価があれば付していくという方法論を用いています。現場で、この参考答案と同程度の事実を摘示しつつ、よりうまく整理し、評価を加えて書けた、というのであれば、それは相当の実力者です。参考答案は、現場でほとんど頭を使わなくても、最低限このくらいは簡単に書けるはずだ、という例として、参考にして頂ければと思っています。

 

【参考答案】

第1.規制①

1.市民の集会の自由を侵害し、21条1項に反するか。

2.デモ行進は場所的移動を伴うが、多数人が共通の目的を持って一定の場所に集まるという性質に変わりはないから、「集会」(21条1項)に含まれる
 骨子第3の1は、デモにおいて顔面を覆う行為(覆面)を禁止するから、デモ行進の方法を制限する。したがって、集会の自由の制約となる。

3.骨子第3の1は公共の危険を理由とするデモ行進の制限であるから、その合憲性は、明らかな差し迫った危険が予見されるかで判断する(新潟県公安条例事件判例参照)という立場がありうる。しかし、上記判例の根拠は、デモ行進の不許可は事前抑制となるため、厳格かつ明確な要件が必要とされる(北方ジャーナル事件判例参照)点にある(両判例を引用する泉佐野市民会館事件判例も参照)。骨子第3の1は事後規制(同2)であり、上記基準は妥当しない。

4.骨子第3の1は意見表明そのものの禁止をねらいとするのではなく、行動に伴う弊害を防止するための間接的・付随的制約であるから、目的が正当か、手段と合理的関連性があるか、得られる利益と失われる利益の均衡を失しないかで判断する(広島市暴走族追放条例事件、猿払事件各判例参照。成田新法事件判例も同旨と考える。)

(1)公共の安全を害する行為を抑止して公共の安全の確保を図る目的(骨子第1)は、公共の福祉に適合し、正当である。
 確かに、容ぼう等をみだりに撮影されない自由は13条で保障され(京都府学連事件判例参照)、10万円という過料(骨子第3の2)の額は低額とはいえない。しかし、公共の安全を脅かす重大犯罪をひき起こす可能性のある社会的に危険な行為は表現の自由の保護を受けるに値しない(沖縄デー事件、渋谷暴動事件各判例参照)こと、禁止されるのはデモそれ自体でなく、デモにおいて覆面をすることにとどまり、顔を隠さなくても集団行進を通じてメッセージを届けることは十分に可能であること、感染症対策、健康・信仰上の理由などの正当な理由があれば禁止されないこと、過料という秩序罰による間接強制にとどまることから、得られる利益と失われる利益の均衡を失しないという余地がある。

(2)もっとも、覆面は、骨子第2の2の行為と直ちに結びつかない。手段が目的と直結せず、直接の関連性がないときは、関連性を基礎づける確実な根拠があるかを審査する(薬事法事件判例参照)
 確かに、顔を隠した参加者の一部が、商店のショーウィンドウの破壊、ごみ箱への放火などの暴力行為を行なったり、警察官を負傷させ、数十名が逮捕された。顔を隠している被疑者の特定が難しいため、逮捕者は暴力行為を行った者の一部にとどまっていた。
 しかし、上記暴力行為を行ったのは顔を隠した参加者の一部にすぎない。Xは、顔を隠すことによって、誰がやっているか分からないという感覚が生じて、普段はしないような行動に走る面があり、ウェブサイトやSNSでの表現一般をめぐっても問題となっているという。しかし、それを裏づける客観的資料が示されていないだけでなく、「普段はしないような行動」と、刑法犯である骨子第2の2の行為との間には相当の距離がある。
 以上から、関連性を基礎づける確実な根拠はなく、目的と手段の合理的関連性は認められない。

5.よって、21条1項に反する。

第2.規制②

1.団体のプライバシーを侵害し、13条に反するか。

(1)プライバシーの対象となる情報(プライバシー情報)を収集されない自由は、私生活上の自由の1つとして、13条で保障される(京都府学連事件、指紋押捺事件各判例参照)

(2)法人も、性質上可能な限り人権を享有し(八幡製鉄事件判例参照)、法人にも人格的価値が観念できる(天理教豊文教会事件判例参照)から、人格的利益としての性質上、プライバシーに係る自由を享有できる。以上のことは、独立の主体として人権を行使するに足りる社会的実体を有する団体、すなわち、権利能力なき社団・財団にも当てはまる(サンケイ新聞事件判例参照)
 骨子第4にいう団体は、代表者及び構成員が存在し、主義・主張等を伝達する実体を有するもの、すなわち、権利能力なき社団を指すから、上記(1)の自由を享有する。

(3)骨子第4の2は、観察処分を受けた団体に対し、機関紙などの報告義務を課す。

ア.プライバシー情報というためには、私事性、秘匿性、非公知性を要する(「宴のあと」事件地裁裁判例参照)

イ.私事性とは、私生活上の事実又はそれと受け取られるおそれがあることをいう
 機関紙などは団体の主義、主張などを伝える私的活動に係るから、私事性がある。

ウ.秘匿性とは、一般人であれば公開を欲しないであろうことをいう。判断にあたり、個人の私生活や内心に関わるか、利用方法によって個人の人格的利益を害するおそれがあるかなどを考慮する(指紋押捺事件、早大江沢民講演会事件、住基ネット事件各判例参照)
 確かに、報告を求められるのは媒体の名称等のみであり、団体の活動・思想の内容そのものは対象でない。しかし、それのみでも活動・思想の内容を推知しうるだけでなく、誰もが見ることができる媒体であるため名称等を手がかりに内容を調査しうるし、各都道府県公安委員会に提供されうる(骨子第4の3)ことも踏まえると、利用方法によっては団体の人格的利益を害するおそれがある。したがって、一般人であれば公開を欲しないであろうから、秘匿性がある。

エ.非公知性とは、一般の人々にいまだ知られていないことをいう
 確かに、機関紙などは誰もが見ることができる。しかし、それが団体の活動に係るものであることを網羅的に把握するのは困難であり、その意味において一般の人々にいまだ知られていないと評価できる。したがって、非公知性がある。

オ.以上から、機関紙などはプライバシー情報であり、その報告を義務づけることは上記(1)の自由の制約となる。

(4)上記(1)の自由の制約の合憲性について、優越する利益のため必要最小限かで判断する(前科照会事件判例、同判例における伊藤正己補足意見参照)という立場がありうる。しかし、同判例はプライバシー情報の開示に関するものであり、上記基準が妥当するのは、ひとたび開示・公表されて伝播してしまえば、事後の回復が不可能又は著しく困難となるからである。同情報の収集の場面では、公権力が収集して保有するにとどまり、不特定多数人に伝播することまでは直ちに想定されないから、上記基準は妥当しない。目的に十分な合理性・必要性があるか、収集方法が一般的許容限度を超えない相当なものかで判断する(指紋押捺事件判例参照)

ア.規制②の目的は、公共の安全を害する行為を助長する団体の活動状況を明らかにして公共の安全を確保する点にある(骨子第1)。
 確かに、骨子第2の3に当たる団体の危険性は、破防法団体規制法などと比べるとさほど大きくない。また、暴力行為による逮捕者の半数ほどは団体の構成員ではなく、専ら暴力行為を目的として、その都度SNSで仲間を募り、デモに参加していた者であり、その場の雰囲気に刺激された一般の参加者が、暴力行為に加わり逮捕された例もあった。
 しかし、大規模なデモの最中に暴力行為が散発的に行われることから、集団行進の主催者も警察も、暴力行為者を事前に把握し対応することが困難であったこと、公共の安全を害する行為を助長している団体は比較的小規模で、骨子第2の3の基準により、実際に問題を起こした団体だけに絞り込むことができること、各都道府県公安委員会に提供し、公安条例や道路交通法等の運用を通じ、公共の安全を害する行為の抑止に役立てることができることから、上記目的には十分な合理性・必要性がある。

イ.報告義務を負うのは観察処分を受けた団体に限られ(骨子第4の2)、報告の対象は機関紙などの媒体の名称のみで、秩序罰による間接強制にとどまる(同4)から、収集方法は一般的許容限度を超えない相当なものである。

(5)よって、13条に反しない。

2.団体の結社の自由を侵害し、21条1項に反するか。

(1)結社の自由は、団体の結成・加入・脱退につき公権力から干渉されないという個人の自由と、団体の意思形成や活動について公権力から干渉されないという団体の自由を内容とする
 規制②は、団体の意思形成や活動そのものを制限する法的効果を有しないから、結社の自由の制約がないという立場もありうる。
 しかし、精神的自由権については、事実上の支障にとどまる場合でも、その重要性に思いを致し、憲法が許容するか慎重に吟味すべきであるから、制約と評価して違憲審査をすべきである(オウム真理教解散命令事件、府中市政治倫理条例事件各判例参照)
 規制②は、観察処分を受けた団体が、そのことを意識して自覚ある行動をとることも期待しており、団体の活動に事実上の支障が生じうるから、結社の自由の制約があると評価すべきである。

(2)もっとも、前記1の(4)で述べたことに加え、上記支障は暴力行為につながりやすい活動に慎重になる程度にとどまると考えられることからすれば、規制②は必要かつ合理的なもので、結社の自由の侵害とは評価できない。

(3)よって、21条1項に反しない。

以上

posted by studyweb5 at 15:11| 新司法試験論文式過去問関係 | 更新情報をチェックする
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