2020年04月26日

論証例:マンション施設内ごみ集積所のごみの領置

【論点】

 マンションの居住者である被疑者がマンション施設内のごみ集積所に捨てたごみについて、捜査機関がその占有を令状なくして取得する手段としてどのようなものがあるか。また、その際に被疑者の捨てたごみであるかを判別するため、ごみ袋を開いて中身を確認することは許されるか。なお、捨てられたごみについては、居住者の所有権は放棄され、管理会社が占有するものとする。

 

【論証例】

 ごみの所持者である管理会社(※1)から任意提出を受けて領置(221条)することにより、ごみの占有を取得できる。その可否は、一般に居住者がごみの中身を見られることのない期待を有することを踏まえ、領置が必要かつ相当かで判断する。
 外見から被疑者の捨てたごみを判別できない場合、その可能性のあるごみの任意提出を受けて領置した上で(※2)、押収物に対する必要な処分(222条1項、111条2項)として、中身を確認できる。その適法性は、領置物の占有継続の要否の判断に必要で、社会通念上相当な態様かで判断する。
 上記処分の結果、被疑者の捨てたごみ以外のものと判明したものは、管理会社に還付すべきである(222条1項、123条1項)。

 ※1 221条の「所持者」とは自己のために現実に物を支配している者をいい、「保管者」とは他人のために物を支配している者をいう。 仮に、管理会社の職員が管理会社のためにごみの事実上の支配を有するという理解に立てば、その職員が保管者となる。
 ※2 被疑者の捨てたごみであるかを判別するため、ごみ袋を開いて中身を確認するには、その前に一度領置の手続を経る必要がある。なぜなら、領置しなければ、そのごみは「押収物」ではなく、222条1項、111条2項の必要な処分の対象とならないからである。

 

(参考)

東京高判平30・9・5(占有者が誰であるか、誰から任意提出を受けるべきであったか等について、上記の例よりも複雑な事案である点に注意)

マンションのごみ集積場所に排出されたごみの領置 東京高等裁判所平成30年9月5日判決 岡山大学准教授 小浦美保

posted by studyweb5 at 03:28| 論点解説等 | 更新情報をチェックする

2020年04月21日

予備組の不安定状況に対する耐性について

1.司法試験・予備試験が延期され、日程もわからない状況で、「こんな不安定な状況はひどい。こんなの耐えられないよ。」と思っている人もいるかもしれません。このような状況に対しては、予備試験合格者の方が、耐性がありそうです。

2.予備試験は、5月に短答式試験、7月に論文式試験、10月に口述試験が実施されます。しかも、最終合格した翌年の5月には、司法試験がある。
 まず、5月に短答を受験し、6月の結果発表まで論文を受けられるかわからない状態に置かれます。もっとも、短答は、予備校等の解答速報などを元に自己採点をすれば、ある程度合否がわかったりしますが、論文は全く未知数です。7月の論文受験から、10月上旬の合格発表まで、とても不安定な状態に置かれることになる。
 そして、論文に合格しても喜んでいる余裕はなく、直ちに本格的な口述の勉強をしなければならないわけです。口述は合格率がとても高い試験ですが、落ちたら来年はまた短答からという理不尽な結果になります。それだけに、「せっかく論文に受かったのに、こんなところで落ちて、来年また短答からやり直しなんて耐えられない。」という切迫した心理状態となります。しかも、口述は、ほとんどの場合、考査委員から細かい追及を受け、後から考えたら嫌になるようなおかしな返答をしてしまうのが普通なので、「自分は落ちた。」という最悪の印象で試験を終えることになりやすい試験終了から合格発表まで、そんな最悪な気分で過ごすことになるのです。
 そして、11月上旬に口述の合格発表を迎え、めでたく合格を確認できたとしても、全然気持ちは休まらない11月中旬から12月上旬くらいまでが、翌年の司法試験の出願期間です。すぐさま司法試験の願書をとりよせて記入し、提出の手続を済ませ、翌年の司法試験に向けた勉強を初めなければならない。その時点では、選択科目を全然勉強していない、という人が多いでしょうから、慌てて選択科目を決めて、必要な教材を買って、というところから始まることになる。
 このように、予備試験の短答が始まって以降、ずっと不安定な状態に置かれっぱなしで、少しも心の休まる期間はないのです。今年、司法試験を受験する予備試験合格者は、これまで、例外なくそうした試練を乗り越えてきたわけですから、今回の事態に対しても、「今まで散々経験してきたことじゃないか。」という感じで、自信を持って対処すればよいでしょう。

3.他方、予備試験を受験したことのない法科大学院修了生は、このことを理解しておくべきです。今回のような事態で、「こんなの耐えられない。」と思っているようでは、既に精神面で予備組に負けてしまっているといえます。やつらは、この程度では動じない。そんなやつらと、共に競うわけですから、改めて、相応の覚悟を持ってこの事態に臨むべきなのです。 

4.また、今年、予備試験を受験する人は、冷静さを訓練するよい機会だと思って、自分の心理状態を客観的に観察したり、心を鎮める方法論等を色々と試行錯誤してみるとよいでしょう。前記2のとおり、予備試験は、短答→論文→口述と進むにつれて、精神面を試す度合いが段階的に強くなっていくという独特な試験制度になっています。特に最後の口述は、精神テストといってもよい側面がある。今から精神面を鍛えておいて、損はないでしょう。

posted by studyweb5 at 21:26| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする

2020年04月18日

司法試験・予備試験延期の背景と学習に関する補足

1.4月8日に公式発表された司法試験・予備試験の延期。これについては、事務方が事前の調整を経て延期を決定したというよりは、政治的要因によって見切り発車的に決定された可能性の方が高そうです。

 

衆院議院運営委員会令2・4・7より引用。太字強調は筆者。)

遠藤敬(維新)委員 総理に四点、時間がありませんので、恐縮ではございますけれども、続けてお伺いをしたいと思います。
 不要不急の定義についてお伺いをいたします。
 どこまでが不要不急なのかわからないという声が多く寄せられております。大阪府の吉村知事は、今後、不要不急の言葉を余り使わずに、入院や食料品等の購入、通勤等、生活維持に必要な外出以外はやめてくださいと話しています。不要不急の線引き、受けとめは人や業種によって異なりますが、不要不急の意味を国民にわかりやすく総理から御説明をいただきたいと思います。
 そして、もう続けていきます。
 次に、この期に及んで、五月には、全国に司法試験の本試験及び予備試験が予定されています。また、一会場数千人規模の、複数日にわたり密集する。クラスター阻止のための延期は不可欠と考えますが、いかがでしょうか。 (以下略)

安倍晋三内閣総理大臣 まず、この不要不急の意味でありますが、例えば仮にその活動をきょうやめたとしても何とかほかにやり方があるかもしれないというものについては、自粛をしていただきたいということになります。
 そこで、例えば司法試験についてでありますが、本年の司法試験及び司法試験予備試験の実施については、現在、実施主体である司法試験委員会において、新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて検討中というふうに聞いております。 (以下略)

(引用終わり)

 

 不要不急の例として、「例えば司法試験」と名指しされています。もちろん、司法試験について質問があったので、それに答えたまでといえばそうでしょう。しかし、不要不急の定義に関する質問と、司法試験・予備試験の実施に関する質問は別個のものとしてなされているわけですから、それらについて個別に答えれば足りるところです。例えば、次のように答弁すればよかったはずなのです。

 

【答弁の例】

 まず、この不要不急の意味でありますが、例えば仮にその活動をきょうやめたとしても何とかほかにやり方があるかもしれないというものについては、自粛をしていただきたいということになります。
 それから、司法試験及び司法試験予備試験の実施に関する御質問を頂きました。本年の司法試験及び司法試験予備試験の実施については、現在、実施主体である司法試験委員会において、新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて検討中というふうに聞いております。 (以下略)

 

 答弁するに当たり、不要不急の具体例として、わざわざ司法試験を位置付ける必要はない。これは、敢えてそうしているとみるべきところです。内閣総理大臣が直接に延期を明言することは、司法試験委員会の独立性との関係で問題となりますから、このような遠回しな表現となったとみえるわけですね。「仮にその活動をきょうやめたとしても何とかほかにやり方があるかもしれないというものは自粛しろ、例えば司法試験だ。今の日程での実施をやめたとしても何とかほかにやり方があるかもしれないだろう。そういうのは自粛しろや。」というメッセージとして、司法試験委員会としては受け止めたことでしょう。
 また、延期の発表がなされた後、森まさこ法相は、わざわざTwitterにこれを投稿しています。

 

森まさこTwitter2020年4月9日11:21投稿記事を引用)

 #新型コロナウイルス の感染拡大状況を踏まえ、#司法試験、#予備試験 を延期することとしました。これまで一生懸命勉強をして準備されてこられたと思いますが、受験生をはじめ国民の命と健康を守るためです。どうかご理解ください。
 実施時期は決まり次第法務省HPで公開します

(引用終わり)

 

 森法相の4月9日のその他のツイートは、大阪拘置所の職員に対する防護服の着脱方法等の教育のため陸上自衛官5名の派遣を受けたことを報告し、自衛隊に対する感謝の意を表するものその件について河野防衛大臣及び自衛隊に改めて感謝の意を伝えるもの安倍総理の緊急事態宣言後の記者会見全文を紹介するものその翌日の安倍総理の記者会見を紹介するもの、の4つだけです。これらと比較するとわかりますが、司法試験・予備試験の延期というのは、本来は事務的な内容です。それを、わざわざTwitterに投稿している。しかも、その文面は、司法試験委員会が延期を決定した旨を報告する、というのではなく、森法相が「延期することとしました。」というものです。政治判断によって延期が決定され、それが積極的にアピールされている、と感じさせます。その背景には、司法試験・予備試験の実施について、これを問題視する世論や、一部の積極的なロビイングがあったのでしょう。

2.このように、今回の延期が、事務的な段取りがほとんどない中で、見切り発車的に決まったことだとすると、容易には日程は決まらないでしょうし、日程の公表のタイミングも、受験生の立場に十分な配慮を払ってなされない可能性が高いといえるでしょう。以前の記事(「令和2年司法試験・予備試験の実施延期に関する注意点」)でも説明したとおり、受験生としては、その心の準備をしておく必要がありそうです。

3.もっとも、「早く日程決めてくれよ。」という落ち着かなさを別にすれば、学習計画において特に困ることはない、というのが、当サイトの立場です。これまでどおり、習慣になっている学習を続けていけばよい司法試験に関していえば、「無心になって論文を書いていると、気持ちが落ち着いてくるよね。」という境地。これが合格レベルの証です。いつも同じように、自然と頭と手が動いて、気が付いたら合格答案が完成している。車の運転やゲーム、スポーツなどでもそうでしょうし、楽器の演奏や編み物、料理や化粧などもそうでしょう。手慣れてくると、ほとんど自然に行動でき、無心でそうやっていると、何となく心地よい。その境地に達してしまえば、その期間が多少長くなっても、特に苦にはならないものです。逆に、そうなっていないということは、まだ足りていない。そうであるなら、延期はかえって好都合でしょう。その境地に達するまで、毎日やるしかない。そういうことなのだろうと思います。予備試験については、初受験など短答に自信がない人は、従来どおり短答のインプットを続ければよく、これはインプットの時間が増えてよかったという話でしょう。他方、短答に自信のある人は、以前の記事(「令和2年司法試験・予備試験の実施延期に関する注意点」)でも説明したとおり、先行して論文の学習を開始することを考慮すべきでしょう。予備段階で上記の境地に達するのは難しいかもしれませんが、虚心坦懐に論文を書きまくる作業は、いずれにしても必要になることです。
 このように、司法試験・予備試験については、ある特定の日にピークをもっていくというのではなく、「いつ受けても合格答案は書けますよ。」というフラットな状況になる人の方が受かりやすい。これが、これまでの経験則を踏まえた当サイトの立場です。アスリートに妥当するようなピーク・パフォーマンス論は、司法試験には妥当しない。そんなわけで、当サイトは、「延期の日程がわからない現時点でどの辺りにピークをもっていくべきか。」式の議論は、そもそも前提が適切でないと考えているのです。

posted by studyweb5 at 20:06| 司法試験関連ニュース・政府資料等 | 更新情報をチェックする
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