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2019年05月29日

令和元年司法試験論文式民事系第1問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.司法試験の論文式試験において、合格ラインに達するための要件は、概ね

(1)基本論点抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを摘示できている。

という3つです。とりわけ、(2)と(3)に、異常な配点がある。(1)は、これができないと必然的に(2)と(3)を落とすことになるので、必要になってくるという関係にあります。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記の配点をすべて取ったという前提の下で、優秀・良好のレベル(概ね500番より上の順位)に達するために必要となる程度の配点があるに過ぎません。 

2.ところが、法科大学院や予備校では、「応用論点に食らいつくのが大事ですよ。」、「必ず趣旨・本質に遡ってください。」、「事実は単に書き写すだけじゃダメですよ。必ず自分の言葉で評価してください。」などと指導されます。これは、必ずしも間違った指導ではありません。上記の(1)から(3)までを当然にクリアできる人が、さらなる上位の得点を取るためには、必要なことだからです。現に、よく受験生の間に出回る超上位の再現答案には、応用、趣旨・本質、事実の評価まで幅広く書いてあります。しかし、これを真似しようとするとき、自分が書くことのできる文字数というものを考える必要があります。
 上記の(1)から(3)までを書くだけでも、通常は6頁程度の紙幅を要します。ほとんどの人は、これで精一杯です。これ以上は、物理的に書けない。さらに上位の得点を取るために、応用論点に触れ、趣旨・本質に遡って論証し、事実に評価を付そうとすると、必然的に7頁、8頁まで書くことが必要になります。上位の点を取る合格者は、正常な人からみると常軌を逸したような文字の書き方、日本語の崩し方によって、驚異的な速度を実現し、7頁、8頁を書きますが、普通の考え方・発想に立つ限り、なかなか真似はできないことです。
 文字を書く速度が普通の人が、上記の指導や上位答案を参考にして、応用論点を書こうとしたり、趣旨・本質に遡ったり、いちいち事実に評価を付していたりしたら、どうなるか。必然的に、時間不足に陥ってしまいます。とりわけ、上記の指導や上位答案を参考にし過ぎるあまり、これらの点こそが合格に必要であり、その他のことは重要ではない、と誤解してしまうと、上記の(1)から(3)まで、とりわけ(2)と(3)を省略して、応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいってしまう。これは、配点が極端に高いところを書かずに、配点の低いところを書こうとすることを意味しますから、当然極めて受かりにくくなるというわけです。

3.上記のことを理解した上で、上記(1)から(3)までに絞って答案を書こうとする場合、困ることが1つあります。それは、純粋に上記(1)から(3)までに絞って書いた答案というものが、ほとんど公表されていないからです。上位答案はあまりにも全部書けていて参考にならないし、合否ギリギリの答案には上記2で示したとおりの状況に陥ってしまった答案が多く、無理に応用、趣旨・本質、事実の評価を書きにいって得点を落としたとみられる部分を含んでいるので、これも参考になりにくいのです。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作れば、それはとても参考になるのではないか、ということを考えました。下記の参考答案は、このようなコンセプトに基づいています。

4.参考答案の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(民法総則)」及び「司法試験平成28年最新判例ノート」の付録の論証集に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.前段

(1)本件事故は、甲建物の完成後、引渡し前に発生した。

(2)建築請負において、請負人が材料を提供した場合には、明示・黙示の特約がない限り、請負人が完成建物を原始取得する(判例)。黙示の特約があるかは、敷地の所有権者や報酬の支払時期などを考慮して判断する。
 確かに、Bは、必要な材料を全て自ら調達しており、本件契約には完成建物の所有権の帰属について明示の特約はない。
 しかし、敷地の所有権者はAであり、本件契約では、代金について、契約日に10%、着工日に30%、棟上げ日に40%、引渡日に20%を支払うこととされているから、完成建物の所有権はAに帰属する旨の黙示の特約があったといえる。

(3)よって、本件事故が発生した時点における甲建物の所有者は、Aである。

2.後段

(1)所有者の工作物責任(717条1項ただし書)を検討する。

(2)「土地の工作物」とは、土地に接着して人工的に設置された物などをいう。
 甲建物はBの工事によって建築された鉄骨鉄筋コンクリート造9階建ての建物であるから、土地に接着して人工的に設置された物であり、「土地の工作物」に当たる。

(3)「瑕疵」とは、通常有すべき安全性を欠いていることをいう(近鉄アスベスト事件判例参照)。
 甲建物に用いられた建築資材は、必要な強度を有しない欠陥品であったから、通常有すべき安全性を欠いている。したがって、甲建物の設置には「瑕疵」がある。

(4)「よって」とは、瑕疵と損害に因果関係があることをいう。
 確かに、本件事故の直接の原因は震度5弱の地震である。しかし、Cの損害は甲建物の一部が損傷して落下したことによるもので、甲建物の一部損傷をもたらした原因は建築資材の欠陥にあったから、瑕疵と損害に因果関係がある。

(5)「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をした」かを判断するにあたっては、占有者の負うべき注意義務と、その違反の有無を考慮すべきである。
 本件事故は引渡前に生じたから、甲建物の占有者はBである。
 確かに、Bは、必要な材料を全て自ら調達したから、建築資材を調達したのもBである。しかし、この資材は定評があり、多くの新築建物に用いられていたこと、欠陥品の建築資材が出荷された原因は製造業者の検査漏れであること、甲建物にはたまたま用いられていたことを考慮すれば、Bに改めて検査すべき注意義務があったとはいえない。したがって、「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をした」といえる。

(6)717条1項ただし書の所有者の責任は無過失責任であるから、Aに免責の余地はない。

(7)よって、Cは、Aに対し、所有者としての責任を追及して、本件事故による損害の賠償を請求することができる。

第2.設問2

1.Hの主張

(1)「その効力を生ずる」(借地借家法31条1項)とは、旧所有者・賃借人間の賃貸借関係が当然に新所有者・賃借人間に移転すること(賃貸人の地位の移転)を意味する(判例)。
 Hは、本件賃貸借契約に基づくEへの引渡しの後に乙建物を買い受けてその旨の移転登記をしたから、同項の適用により、DE間の賃貸借関係は、当然にHE間に移転する。

(2)確かに、Hが乙建物の所有権を取得し、登記を備えたのは、本件譲渡契約とEへの通知の後である。
 しかし、Dは、自分が取得する賃料を譲渡することはできても、他人が取得する賃料は譲渡できない。したがって、本件譲渡契約は、Dが取得する賃料のみを対象とし、Hが取得する賃料には及ばない。
 よって、Hは、本件譲渡契約にかかわらず、乙建物の所有権を取得し登記を備えることによって、Eから本件賃貸借契約に係るそれ以後の賃料の支払を受けることができる。

2.Fの主張

(1)将来債権の譲渡は、対象が特定され、公序良俗(90条)に違反しない限り、有効である。
 本件譲渡契約の対象は本件賃貸借契約に係る平成28年9月分から令和10年8月分までの賃料債権であり、特定されている。確かに、12年分の賃料が対象で、その額は3600万円になる。しかし、FのDに対する同額の貸金の回収を目的とすること、賃借人がE県であり、事前に了解を得ていたことを考慮すると、公序良俗に違反するとはいえない。
 以上から、本件譲渡契約は、有効である。

(2)Hは、賃料を譲渡したDの地位を承継するから、本件譲渡契約の効力を否定することはできない。
 よって、Fは、本件売買契約にかかわらず、本件賃貸借契約に係る賃料の支払を受けることができる。

3.㋐と㋑のいずれが正当か。
 将来債権の譲渡は、特段の付款のない限り確定的に効力を生じ、債権が将来発生したときに当然に譲受人は債権を取得する(判例)。
 そして、新賃貸人に移転する賃貸借の内容は、従前の賃貸借契約の内容のすべてにわたり、賃料前払も含まれる(判例)こと、Fが本件譲渡契約時に本件売買契約を予見していた事実はないのに対し、Hは本件売買契約時に本件譲渡契約を知っていたことも考慮すると、前記1(2)の主張は正当ではなく、前記2(2)の主張が正当である。
 よって、㋑が正当である。

第3.設問3

1.本件債務引受契約自体の錯誤無効(95条)

(1)Eは、㋐を前提に本件債務引受契約をしたから、㋑が正当であるとすれば、その動機に錯誤があった。

(2)動機の錯誤が要素の錯誤となるためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する(判例)。
 ㋐は乙建物の収益性に関する事項であり、引き受ける債務の額や債権者が誰かなどと関わりがないから、たとえ表示されても本件債務引受契約の内容とはならない。したがって、要素の錯誤がない。

(3)以上から、本件債務引受契約自体の錯誤無効を主張できない。

2.本件売買契約の錯誤無効

(1)本件売買契約は、Dに対して売買代金の支払をするのではなく、DのGに対する本件債務の弁済を引き受けることによって売買代金債務を消滅させるものとされているから、第三者のためにする契約(537条1項)である。
 第三者のためにする契約に基づく諾約者と受益者の間の法律関係は、対価関係とは無因であるが、補償関係とは有因である(539条)。
 したがって、本件売買契約の錯誤無効は、本件債務引受契約の無効事由となる。

(2)Eは、㋐を前提に本件売買契約をしたから、㋑が正当であるとすれば、その動機に錯誤があった。

ア.平成29年12月1日の合意①において、乙建物の代金がその収益性を勘案して6000万円とされたことから、㋐はDに黙示に表示されていた。

イ.売買は、目的物と代金額を要素とする(555条)。㋐は、本件売買契約の目的物である乙建物の収益性に関する事項であり、上記アのとおり代金額の基礎とされた事情でもあるから、上記アの表示により、本件売買契約の内容となっていた。

ウ.Eは、㋐と考えて自ら乙建物を購入することとしたから、もし錯誤がなかったならば本件売買契約の意思表示をしなかったであろうと認められる。

エ.以上から、Eのした本件売買契約の意思表示には要素の錯誤があった。

(3)平成29年12月1日の合意①から、Dも㋐を前提としていたと考えられるから、共通錯誤である。共通錯誤の場合には相手方保護の必要性に乏しいから、95条ただし書は適用されない。したがって、Eの重過失の有無は問題とならない。

(4)以上から、本件売買契約は、錯誤により無効である。

3.よって、Eは、本件売買契約の錯誤無効を原因とする本件債務引受契約の無効を主張することができる。

以上

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