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2016年07月31日

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2016年07月30日

平成28年予備試験論文式民訴法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験における合格ラインは、平成25年、26年は、「一応の水準」の下限でした。昨年は、「一応の水準」の真ん中より少し下の辺りになっています(平成27年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。この水準を超えるための十分条件といえるのが、

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記が当然にできているという前提の下で、優秀・良好のレベルに達するために必要となる場合があるに過ぎません。また、実際には、上記の3つを守っただけで、優に良好の上位くらいの水準になってしまうこともあります。
 にもかかわらず、多くの人が、上記優秀・良好レベルの事柄を過度に重視しているように思います。現場思考で応用論点を拾いに行ったり、趣旨や本質から論じようとしたり、事実に丁寧に評価を付そうと努力するあまり、基本論点を落としてしまったり、規範を正確に示すことを怠っていきなり当てはめようとしたり、問題文中の事実をきちんと摘示することを怠ってしまい、結果として不良の水準に落ちてしまっているというのが現状です。

2.その原因としては、多くの人が、あまりにも上位過ぎる再現答案を参考にしようとしてしまっていることがあると思います。
 とはいえ、合格ラインギリギリの人の再現答案には、解答に不要なことや誤った記述などが散見されるため、参考にすることが難しいというのも事実です。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作ってみてはどうか、ということを考えました。

3.参考答案は、上記のようなコンセプトに基づいています。「本問で基本論点はどれですか」と問えば、多くの人が指摘できるでしょう。「その論点について解決するための規範は何ですか」と問えば、事前にきちんと準備している人であれば、多くの人が答えられるでしょう。「その規範に当てはまる事実は問題文中のどこですか、マーカーを引いてみてください」と問えば、多くの人が正確に示すことができるものです。下記の参考答案は、いわば、それを繋ぎ合わせただけの答案です。
 それなりの実力のある人が見ると、「何だ肝心なことが書いてないじゃないか」、「一言評価を足せば良い答案になるのに」と思うでしょう。優秀・良好レベルの答案を書いて合格できる人は、それでよいのです。しかし、合格答案を書けない人は、むしろ、「肝心なこと」を書こうとするあまり、最低限必要な基本論点、規範、事実の摘示を怠ってしまっているという点に気付くべきでしょう。普段の勉強で規範を覚えるのは、ある意味つまらない作業です。本試験の現場で、事実を問題文から丁寧に引用して答案に書き写すのは、バカバカしいとも思える作業です。しかし、そういう一見するとどうでもよさそうなことが、合否を分けているのが現実なのです。規範が正確でないと、明らかに損をしています。また、事実を引いているつもりでも、雑に要約してしまっているために、問題文のどの事実を拾っているのか不明であったり、事実を基礎にしないでいきなり評価から入っているように読める答案が多いのです。そういう答案を書いている人は、自分はきちんと書いたつもりになっているのに、点が伸びない。そういう結果になってしまっています。
 参考答案は、やや極端な形で、大前提として抑えなければならない水準を示しています。合格するには、この程度なら確実に書ける、という実力をつけなければなりません。そのためには、規範を正確に覚える必要があるとともに、当てはめの事実を丁寧に摘示する筆力を身につける必要があるでしょう。これは、普段の学習で鍛えていくことになります。
 この水準をクリアした上で、さらに問題文の引用を上手に要約しつつ、応用論点にコンパクトに触れたり、趣旨・本質に遡って論述したり、当てはめの評価を足すことができれば、さらに優秀・良好のレベルが狙えるでしょう。

4.司法試験では、例年、民訴だけは、他の科目とは違う傾向がありました。規範→当てはめ型の事例処理というよりは、原理・原則から当たり前のことを説明させたり、判例の趣旨を確認させて、その射程を論じさせるような問題です。ただ、今年の司法試験の民訴は、従来の民訴の傾向と事例処理的な要素が混在した中途半端な出題となっていました(「平成28年司法試験論文式民事系第3問参考答案」)。考査委員の交代の影響があったのでしょう。
 予備試験では、司法試験ほど特殊な傾向だったわけではありませんが、やや問い方が特殊で、典型論点を落としてしまったり、雑な書き方になりやすいという点に注意が必要でした。今年は、出題形式としては、修習生と裁判官の対話が入っていますが、内容的には、素直に規範→当てはめの形に持ち込むことが容易な問題です。その意味では、オーソドックスな出題だったと言ってよいでしょう。特に難しいことを考えずに、上記(1)から(3)までを普通に書けば、A評価は確保できてしまうと思います。参考答案(その1)は、その例です。「これだけでA評価になるはずがない。」と思う人もいるでしょうが、2日目の民訴は、皆疲れ果て、心身共に正常な状態ではないために、「1頁強程度のポッキリ折れたような雑な答案」や、「全然関係のないことを延々書いている答案」など、信じられないような答案が続出します。ですから、普通に書いただけで、A評価になってしまうものなのです。本問でも、設問2で、本件訴訟の判決理由中の判断までをも当然に考慮して(そもそも既判力が及ぶかを検討する前提問題において判決の拘束力を考慮することがおかしいだけでなく、理由中の判断まで考慮するという点で、二重に誤っています。)、「Zには固有の抗弁なんてあるはずがないから、この点は全く無視していいはずだ。」と考えたり、「形式説からは既判力が及ぶことが明らかだから、数行で終わりだ。」などと勝手に考えて、極端に短い答案を書いてしまう人は多いでしょう。
 もっとも、本問の場合、論点があまりに明白で、しかも、数が多くないので、上記(1)から(3)までを単純に書いただけだと、時間が余るという人もいるでしょう。特に、民法、商法、民訴の順番で普通に解いた場合、民訴は最後ですから、ここで時間を余す意味はありません。このように時間に余裕がある場合、どのような点を充実させればよいのか。よく言われるのは、「趣旨・本質にどこまで遡ったか、そこで差が付きますよ!本問は書くことが少ないので、厚く論証しましょう!」というような解説です。当サイトとしては、そのような解説は不適切であると思っています。趣旨・本質に遡った論証は、一般的に言われているほど、加点されていないように思います。では、どこで差が付くのか。規範の明示という当たり前のところをクリアした後のレベル、すなわち、上位のAになるか否か、というレベルを分けるのは、本問の場合、設問1は当てはめの緻密さ、設問2は説明の正確さです。そのことがよくわかるように、参考答案(その2)を用意しました。参考答案(その1)と比較すると、その差がよく分かるでしょう。特に、設問1では、問題文の各小問に、わざわざ「事案に即して」と書いてあります。そのことからも、一般論のレベルで「趣旨・本質にどこまで遡ったか」にあまり配点がないことは、予測できるでしょう。設問1は、事案に即して緻密に分析できたかどうか、具体的には、当事者の主張する要件事実と、証拠調べの結果に基づく要件事実とを整理した上で、対比できているかどうか、ということです。そこで、上位のAと下位のAの差が付きます。
 注意したいのは、設問2です。ここは、実質説を採るか、形式説を採るかで、Zに拡張される既判力として念頭に置くものが異なるので、それに対応して、承継の有無の肯否の判断において検討すべき事項が異なってくるのです。実質説からは、Zに既判力が拡張されるということは、Zも敗訴判決を受けることを意味するので、主に固有の抗弁の有無を検討することになるでしょう。ここで気を付ける必要があるのは、本件訴訟の確定判決の既判力を前提にしてはいけない、ということです。実質説において固有の抗弁があるか否かは、既判力がZに及ぶか否かの前提問題です。ですから、既判力によってZの固有の抗弁が遮断される、というのは、論理矛盾となるのです。本問の場合、Zとしては、対抗関係で自分が優先する(最判昭41・6・2)こと、民法94条2項類推適用を受けること(最判昭48・6・21)を主張立証すれば、固有の抗弁があるということになるでしょう。ただし、その主張・立証の場面が、Xが本件訴訟の確定判決を債務名義として、承継執行文の付与を受けて執行する場面なのか、X又はZの提起する後訴であるのかは、本問では明らかではありません。参考答案(その1)は、この立場で書いています。なお、対抗要件の抗弁については、前訴でY2も主張できた抗弁でもありますから、これはZ固有の抗弁に当たらない、という考え方も、十分あり得るでしょう。
 これに対し、形式説からは、Zに既判力が拡張されるということは、原則として、Y1・Y2に及ぶ既判力と同内容のものが、Zにも及ぶ、ということを意味します。したがって、形式説を純粋に貫徹すると、本件訴訟の確定判決の既判力が、Zとの関係で作用し得るのかを検討することになるわけです。参考答案(その2)は、この形式説を純粋に貫徹する立場から書いています。このように、形式説を純粋に貫徹すると、本問では既判力の拡張が認められないことになってしまいます。そこで、訴訟物の同一性を擬制できる範囲で、形式説を修正する見解もあります。ただ、どのような場合に訴訟物の同一性を擬制できるのか、必ずしも明らかではありませんし、ここまで来ると、司法試験の領域を超える議論になってしまうでしょう。ですから、ここまで深入りする必要は、必ずしもないのではないかと思います。いずれにせよ、「形式説に立てば数行で終わる。」というような問題ではありません。

 

【参考答案(その1)】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)弁論主義の第1原則に違反するか否かは、主要事実に食い違いがあるか、当事者に対する不意打ちとなるかという観点から判断する。

ア.主要事実に食い違いがあるか

 主要事実とは、法律効果の発生、消滅等の要件に該当する具体的事実をいう。
 本件で、証拠調べの結果明らかになった事実には、「所定の期間内に借り受けた1000万円をY2に対して返済することで甲土地を取り戻し得るとの約定で甲土地をY2のために譲渡担保に供した。」というものがある。これは、譲渡担保権を発生させる要件に該当する具体的事実であるから、主張事実に当たる。
 これに対し、確かに、Xは、「XがY2から借り受けた1000万円の金員」との主張をしており、Y1らは、「Y2は、Xとの間で、Xが所定の期間内にY2に代金1000万円を支払うことにより甲土地をXに売り渡す旨の合意をした。」との主張をしている。しかし、上記各主張は、証拠調べの結果明らかになった事実のうち、「甲土地を取り戻し得るとの約定で甲土地をY2のために譲渡担保に供した。」とは異なる。
 よって、主要事実に食い違いがある。

イ.当事者に対する不意打ちとなるか

 当事者に対する不意打ちとなるか否かは、当事者の攻撃防御の機会を失わせるか否かの観点から判断する。
 本件で、Xは、譲渡担保権の成否について、本件訴訟において十分に攻撃防御をする機会を与えられていないから、Xの各請求をいずれも棄却する旨の判決がなされると、譲渡担保権の成否についてのXの攻撃防御の機会を失わせることになる。
 よって、当事者に対する不意打ちとなる。

(2)以上から、証拠調べの結果明らかになった事実に基づきXの各請求をいずれも棄却する旨の判決をすることは、弁論主義に反する。

2.小問(2)

(1)当事者が主張しておらず、従前の訴訟の経過等からは予測が困難な法律構成を採用する場合には、裁判所は、適切に釈明権(149条1項)を行使して、一方当事者に上記法律構成を主張するか否かを明らかにするよう促すとともに、他方当事者に十分な反論及び反証の機会を与えることを要する(愛知学泉大学定年退職事件判例参照)。

(2)本件では、譲渡担保という法律構成は、X及びY1らのいずれも主張していない。また、Y1らは、「Y2は、Xとの間で、Xが所定の期間内にY2に代金1000万円を支払うことにより甲土地をXに売り渡す旨の合意をした。」旨の主張しかしていないこと、Y1からY2へ移転登記がなされている一方で、XからY2への譲渡担保権設定を原因とする移転登記はされていないことから、判決において譲渡担保という法律構成が採用されることは、従前の訴訟の経過等からは予測が困難である。したがって、裁判所は、適切に釈明権を行使して、Y1らに譲渡担保による法律構成を主張するか否かを明らかにするよう促すとともに、Xに十分な反論及び反証の機会を当たることを要する。

(3)よって、上記(2)の措置をとることなく直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることには、釈明権不行使の違法がある。

第2.設問2

1.Zは、口頭弁論終結後の承継人(115条1項3号)に当たるか。

2.「承継人」とは、当事者適格を承継した者であって、固有の抗弁を有しないものをいう(適格承継説。実質説。)。訴訟物が土地所有権に基づく物権的請求権である場合における上記固有の抗弁とは、民法177条の「第三者」に当たること、民法94条2項の類推適用を受けること等をいう。

(1)本件で、Zは甲土地をY2から買い受け、所有権移転登記を経たから、Xから抹消登記手続請求を受ける地位を承継したといえる。したがって、当事者適格を承継した者に当たる。

(2)では、Zは固有の抗弁を有するか。

ア.Zは、甲土地をY2から買い受け、所有権移転登記を経ている。したがって、Zは、「Xが、甲土地をY1に代物弁済した後に、Y1から甲土地を買い戻したが、その買戻しに係る移転登記を経ていない。」として、Zが民法177条の「第三者」に当たると主張する余地がある。なお、固有の抗弁の有無はZに既判力が及ぶか否かの前提問題である以上、本件訴訟の確定判決の既判力により、上記主張が遮断されることはない。
 以上から、Zが上記を主張・立証した場合には、Zは固有の抗弁を有する。

イ.また、Xが、本件訴訟の判決確定後も執行を怠り、Y2名義の登記を知りながら敢えて放置したと評価できる場合において、ZがY2名義の登記を信頼してY2から甲土地を買い受けたときは、民法94条2項が類推適用される。
 したがって、Zが上記を主張・立証した場合には、Zは固有の抗弁を有する。

(3)以上から、Zは、上記(2)ア及びイの場合を除き、口頭弁論終結後の「承継人」に当たる。

3.よって、本件訴訟の確定判決の既判力は、前記2(2)ア及びイの場合を除き、Zに対して及ぶ。

以上

 

【参考答案(その2)】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)弁論主義の第1原則に違反するか否かは、主要事実に食い違いがあるか、当事者に対する不意打ちとなるかという観点から判断する。

ア.主要事実に食い違いがあるか

 主要事実とは、法律効果の発生、消滅等の要件に該当する具体的事実をいう。すなわち、請求原因事実、抗弁事実等を指す。
 本件で、証拠調べの結果から構成される請求原因事実は、Y1が、甲土地をもと所有していたこと、Y1が、甲土地をXに1000万円で売ったこと、Y1ら名義の各所有権移転登記があることである。上記各事実は、Xの主張する予備的請求原因(「Xの主張」第3段落)に含まれており、この点に食い違いはない。
 他方、証拠調べの結果から構成される抗弁は、譲渡担保権実行による所有権喪失であり、具体的な抗弁事実は、@ Xが、Y2から1000万円を借り受けたこと、A Xが、Y2に対し、@の貸金債務の担保として、期間を定めて甲土地に譲渡担保権を設定したこと、B Aで定めた期間が経過したことである。上記のうち、@については、「Xの主張」第2段落において、「XがY2から借り受けた1000万円の金員」とする部分があり、一応Xの主張がある。Bについては、顕著な事実であるから当事者による主張を要しない。
 では、上記Aの事実について当事者の主張はあるか。「Y1らの主張」には、「Y2は、Xとの間で、Xが所定の期間内にY2に代金1000万円を支払うことにより甲土地をXに売り渡す旨の合意をした。」とする部分がある。しかし、上記Aでは、法形式上、甲土地の所有権はXからY2へ移転するのに対し、上記Y1らの主張部分は、Y2からXへの移転の合意を示すに過ぎない。また、上記Y1らの主張部分においては、1000万円の支払は単に甲土地の代金とされており、XがY2に対して負担する貸金債務との関連性及びその担保としての性質をうかがわせる主張はない。そうである以上、上記Y1らの主張部分をもって、上記Aをいうものと考えることはできない。
 よって、主要事実に食い違いがある。

イ.当事者に対する不意打ちとなるか

 当事者に対する不意打ちとなるか否かは、当事者の攻撃防御の機会を失わせるか否かの観点から判断する。
 本件で、X及びY1らの主張からは、Xの主位的請求原因(「Xの主張」第1段落)に対し、Y1らは、XのY1に対する代物弁済による甲土地所有権喪失の抗弁を主張し、その抗弁を前提とするXのX・Y1売買を所有権取得原因とする予備的請求原因(「Xの主張」第3段落)に対しては、Y1らは、Y1・Y2売買及びY2の所有権移転登記の経由に基づく対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を主張する(「Y1らの主張」第2段落)ものと構成するのが自然である。
 上記の構成を前提にすると、本件訴訟における証拠調べの結果からは、Y1・Y2売買の事実が認定できない以上、Xとしては、予備的請求原因に対する抗弁事実が認められない結果、Xの各請求はいずれも認容されると期待するのが通常である。そうである以上、X・Y2間の貸金債務(被担保債権)及びX・Y2間の譲渡担保権設定契約の存否について、Xが攻撃防御を行うことは、想定しがたい。それにもかかわらず、裁判所が譲渡担保権の実行による所有権喪失の抗弁を認めるならば、Xの攻撃防御の機会を失わせることになる。
 よって、当事者に対する不意打ちとなる。

(2)以上から、証拠調べの結果明らかになった事実に基づきXの各請求をいずれも棄却する旨の判決をすることは、弁論主義に反する。

2.小問(2)

(1)当事者が主張しておらず、従前の訴訟の経過等からは予測が困難な法律構成を採用する場合には、裁判所は、適切に釈明権(149条1項)を行使して、一方当事者に上記法律構成を主張するか否かを明らかにするよう促すとともに、他方当事者に十分な反論及び反証の機会を与えることを要する(愛知学泉大学定年退職事件判例参照)。

(2)本件では、譲渡担保という法律構成は、X及びY1らのいずれも主張していない。また、前記1(1)イのとおり、Y1らの主張から読み取れるXの予備的請求原因に対する抗弁は対抗要件具備による所有権喪失の抗弁であること、Y1からY2へ移転登記がなされている一方で、XからY2への譲渡担保を原因とする移転登記はされていないことから、判決において譲渡担保という法律構成が採用されることは、従前の訴訟の経過等からは予測が困難である。したがって、裁判所は、適切に釈明権を行使して、Y1らに譲渡担保による法律構成を主張するか否かを明らかにするよう促すとともに、Xに十分な反論及び反証の機会を当たることを要する。

(3)よって、上記(2)の措置をとることなく直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることには、釈明権不行使の違法がある。

第2.設問2

1.Zは、口頭弁論終結後の承継人(115条1項3号)に当たるか。

2.「承継人」とは、当事者適格を承継した者をいい、固有の抗弁を有するか否かを問わない(適格承継説。形式説。)。

(1)本件で、Zは、甲土地をY2から買い受け、所有権移転登記を経たことにより、本件訴訟と同様の訴訟物である抹消登記手続請求訴訟の被告の地位を取得している。しかしながら、Y2の負担する抹消登記手続義務と、Zの負担すべき抹消登記手続義務は別個独立に併存するものである。そうである以上、Y2の負担する抹消登記手続義務を、Zが承継したと考えることは困難である。

(2)また、既判力の生じる客観的範囲は、原則として主文、すなわち、訴訟物の範囲に限られる(114条1項)。したがって、既判力が作用するのは、訴訟物と同一関係、矛盾関係、先決関係にある場合である。
 本件では、本件訴訟の確定判決の既判力は、Y1及びY2名義の各所有権移転登記につき、Y1及びY2が抹消登記手続義務を負うという点に生じる。これとZ名義の所有権移転登記に係るZの抹消登記手続義務の存否は、同一関係、矛盾関係、先決関係のいずれにも当たらない。甲土地所有権がXに帰属することは、Zの抹消登記手続義務の存否とは先決関係にあるが、これは本件訴訟の判決理由中の判断に過ぎない。
 そうである以上、本件訴訟の確定判決の既判力は、Zとの関係で作用する余地がない。

(3)以上から、Zが本件訴訟の当事者適格を承継したとはいえないから、Zは「承継人」に当たらない。

3.よって、本件訴訟の確定判決の既判力は、Zに対して及ばない。

以上

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2016年07月27日

平成28年予備試験論文式商法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.予備試験の論文式試験における合格ラインは、平成25年、26年は、「一応の水準」の下限でした。昨年は、「一応の水準」の真ん中より少し下の辺りになっています(平成27年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。この水準を超えるための十分条件といえるのが、

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記が当然にできているという前提の下で、優秀・良好のレベルに達するために必要となる場合があるに過ぎません。また、実際には、上記の3つを守っただけで、優に良好の上位くらいの水準になってしまうこともあります。
 にもかかわらず、多くの人が、上記優秀・良好レベルの事柄を過度に重視しているように思います。現場思考で応用論点を拾いに行ったり、趣旨や本質から論じようとしたり、事実に丁寧に評価を付そうと努力するあまり、基本論点を落としてしまったり、規範を正確に示すことを怠っていきなり当てはめようとしたり、問題文中の事実をきちんと摘示することを怠ってしまい、結果として不良の水準に落ちてしまっているというのが現状です。

2.その原因としては、多くの人が、あまりにも上位過ぎる再現答案を参考にしようとしてしまっていることがあると思います。
 とはいえ、合格ラインギリギリの人の再現答案には、解答に不要なことや誤った記述などが散見されるため、参考にすることが難しいというのも事実です。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作ってみてはどうか、ということを考えました。

3.参考答案は、上記のようなコンセプトに基づいています。「本問で基本論点はどれですか」と問えば、多くの人が指摘できるでしょう。「その論点について解決するための規範は何ですか」と問えば、事前にきちんと準備している人であれば、多くの人が答えられるでしょう。「その規範に当てはまる事実は問題文中のどこですか、マーカーを引いてみてください」と問えば、多くの人が正確に示すことができるものです。下記の参考答案は、いわば、それを繋ぎ合わせただけの答案です。
 それなりの実力のある人が見ると、「何だ肝心なことが書いてないじゃないか」、「一言評価を足せば良い答案になるのに」と思うでしょう。優秀・良好レベルの答案を書いて合格できる人は、それでよいのです。しかし、合格答案を書けない人は、むしろ、「肝心なこと」を書こうとするあまり、最低限必要な基本論点、規範、事実の摘示を怠ってしまっているという点に気付くべきでしょう。普段の勉強で規範を覚えるのは、ある意味つまらない作業です。本試験の現場で、事実を問題文から丁寧に引用して答案に書き写すのは、バカバカしいとも思える作業です。しかし、そういう一見するとどうでもよさそうなことが、合否を分けているのが現実なのです。規範が正確でないと、明らかに損をしています。また、事実を引いているつもりでも、雑に要約してしまっているために、問題文のどの事実を拾っているのか不明であったり、事実を基礎にしないでいきなり評価から入っているように読める答案が多いのです。そういう答案を書いている人は、自分はきちんと書いたつもりになっているのに、点が伸びない。そういう結果になってしまっています。
 今回の参考答案は、やや極端な形で、大前提として抑えなければならない水準を示しています。合格するには、この程度なら確実に書ける、という実力をつけなければなりません。そのためには、規範を正確に覚える必要があるとともに、当てはめの事実を丁寧に摘示する筆力を身につける必要があるでしょう。これは、普段の学習で鍛えていくことになります。
 この水準をクリアした上で、さらに問題文の引用を上手に要約しつつ、応用論点にコンパクトに触れたり、趣旨・本質に遡って論述したり、当てはめの評価を足すことができれば、さらに優秀・良好のレベルが狙えるでしょう。

4.今年の商法は、かなりの難問でした。設問1は手形が問われたというだけでなく、若干難しい部分を含んでいます。設問2では、最新判例(最判平27・2・29)に加え、細かい論点も問われています。もっとも、このような問題であっても、上記(1)から(3)までをしっかり守れば、優に合格答案となるでしょう。参考答案は、その一例です。最判平27・2・29については、「司法試験平成27年最新判例ノート」と、「司法試験定義趣旨論証集(会社法)」のいずれにも収録されていましたから、最新判例といえどもそれなりに準備して書けるようになっておきたいところでした。

5.参考答案では触れていない応用的な点について、いくつかここで説明しておきます。
 まず、設問1です。論点としては手形の偽造で、判例(最判昭43・12・24)は民法110条類推適用で処理するから、本問もそれを書いて当てはめて終わり、という感じもします。それで十分合格答案でしょう。ただ、厳密には、上記判例は、機関方式による場合も、無権限者による振出しである点で代理方式による場合と異ならないとして表見代理の類推適用を認めているだけですから、そもそも代理方式で行ったとしても表見代理の適用がないような場合には、民法110条の類推適用はないということになります。本問では、Cは経理事務員で、Aの指示に従って手形を作成して取引先に交付することもあったというだけですから、Cに基本代理権が認められるかを検討する必要があるでしょう。これを否定した場合には、民法110条の類推適用はできず、使用者責任(民法715条1項)で処理することになりそうです(最判昭32・7・16)。その場合、設問に対する解答としては、手形金支払請求を拒むことができる、ということになります。
 また、仮に110条類推適用を認めたとしても、正当事由における誤信の対象が問題です。本問の場合、経理事務員であるCに手形振出権限があるという誤信は、おそらく認めにくいでしょう。ですから、誤信の対象は、Cに振出権限がある、ということではなく、Aが真正に甲社を代表して本件手形を振り出した(Cは機械的補助者に過ぎない。)、ということになる。この場合、相手方は代理人(機関方式でいう署名代行者)の代理権(代行権)を誤信したのではなく、直接本人が行為したと誤信していることになるので、この場合にも表見代理の適用があるか、という問題が生じます。これは、通常の表見代理に関する判例(最判昭44・12・19)でも肯定されていますし、上記最判昭43・12・24は手形偽造の事案でもこれを肯定していますから、肯定の結論で問題ないでしょう。さらに、Aが本件手形交付当時意識不明であり、意思能力を欠いていることから、Cによる無権限の署名代行の瑕疵が治癒されたとしても、有効な代表行為とはならないのではないか、という点も問題となり得るでしょう。いずれにせよ、厳密には、上記のような論点をクリアする必要があるのです。
 次に、設問2です。Aの死亡によりA名義の株式が当然に分割されず、C、D及びEの準共有となることは、厳密には論点です。ここは、判例(最判平26・2・25)があるところです。

 

最判平26・2・25より引用。太字強調は筆者。)

 株式は,株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し,株主は,株主たる地位に基づいて,剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号),残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と,株主総会における議決権(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって(最高裁昭和42年(オ)第1466号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号804頁参照),このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された株式は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである(最高裁昭和42年(オ)第867号同45年1月22日第一小法廷判決・民集24巻1号1頁等参照)。

(引用終わり)

 

 相続による株式取得に対会社対抗要件(130条1項)を要するか、という点も、隠れた論点です。旧商法下では、当然に相続の場合も対会社対抗要件が必要であると考えられていました。これに対し、現在の会社法の下では、相続による株式取得には対会社対抗要件を要しない、というのが、立案担当者の立場です。

 

(旧商法206条1項)

 株式ノ移転ハ取得者ノ氏名及住所ヲ株主名簿ニ記載又ハ記録スルニ非ザレバ之ヲ以テ会社ニ対抗スルコトヲ得ズ

 

(会社法130条1項)

 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。

 

 会社法130条1項は、「譲渡」としているので、相続は含まないことは明らかでしょう、というわけです(会社法であそぼ。 「相続と名義書換の関係」も参照)。ただし、学説は、従来どおり、相続にも対会社対抗要件が必要である、という立場を維持するものが多いようです。参考答案は、不要説を前提にして書いています。仮に、必要説に立つ場合には、株式はA名義のままですから、それでも甲社がC、D及びEの準共有として扱ってよいか、すなわち、名義未了株主を会社が株主と認めることができるか、という典型論点を余計に書く必要が出てきます。本問はただでさえ書くことが多いですから、このような論点まで抱え込むことは、あまり得策とはいえないように思います。
 また、設問2は、「Dが会社法に基づき採ることができる手段」が問われています。「会社法に基づき」とある以上、文言上は、民事保全法上の差止仮処分(23条2項)は解答の対象とならないはずです。しかし、他の科目とは異なり、会社法だけは、この「会社法に基づき」や「会社法上の」という文言が民事保全法上の手段を排除しないという確立された傾向があるのです(「司法試験平成27年出題趣旨の読み方(行政法)」第2段落の項目参照)。したがって、「会社法に基づき採ることができる手段」には、民事保全法上の手段も含まれる点に注意が必要です。
 問題文では、「なお,これを論ずるに当たっては,本件株主総会の招集手続の瑕疵の有無についても,言及しなさい。」とわざわざ書いてあります。これはなぜか。それは、126条3項、4項の適用によって適法であることは明らかだけれども、この条文を現場で引けるかどうかは確認したい、という考査委員の意図があったからでしょう。仮に、このようななお書きを入れていないと、「126条の存在を知っているが、明らかに適法になるのだから書く必要はない。」という判断から、答案に書かない人が出てくるおそれがあります。そうなると、「知っているけど書かなかった人」と、「知らなくて書けなかった人」の区別が付きません。だから、わざわざ上記のようななお書きを入れたのでしょう。
 それから、気付きにくいマイナー論点として、Dは「株主」に当たるのか、という論点があります。106条本文の権利行使者でないと株主としての権利行使ができないのだから、Dは、合併差止請求の請求権者に当たらない、あるいは、Dには合併無効の訴えの原告適格が認められないのではないか、という問題です。この点については、株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格に関する判例(最判平2・12・4)があります。

 

最判平2・12・4より引用。太字強調は筆者。)

 株式を相続により準共有するに至った共同相続人は、商法二〇三条二項の定めるところに従い、右株式につき「株主ノ権利ヲ行使スベキ者一人」(以下「権利行使者」という。)を定めて会社に通知し、この権利行使者において株主権を行使することを要するところ(最高裁昭和四二年(オ)第八六七号同四五年一月二二日第一小法廷判決・民集二四巻一号一頁参照)、右共同相続人が準共有株主としての地位に基づいて株主総会の決議不存在確認の訴えを提起する場合も、右と理を異にするものではないから、権利行使者としての指定を受けてその旨を会社に通知していないときは、特段の事情がない限り、原告適格を有しないものと解するのが相当である。
 しかしながら、株式を準共有する共同相続人間において権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠く場合であっても、右株式が会社の発行済株式の全部に相当し、共同相続人のうちの一人を取締役に選任する旨の株主総会決議がされたとしてその旨登記されている本件のようなときは、前述の特段の事情が存在し、他の共同相続人は、右決議の不存在確認の訴えにつき原告適格を有するものというべきである。けだし、商法二〇三条二項は、会社と株主との関係において会社の事務処理の便宜を考慮した規定であるところ、本件に見られるような場合には、会社は、本来、右訴訟において、発行済株式の全部を準共有する共同相続人により権利行使者の指定及び会社に対する通知が履践されたことを前提として株主総会の開催及びその総会における決議の成立を主張・立証すべき立場にあり、それにもかかわらず、他方、右手続の欠缺を主張して、訴えを提起した当該共同相続人の原告適格を争うということは、右株主総会の瑕疵を自認し、また、本案における自己の立場を否定するものにほかならず、右規定の趣旨を同一訴訟手続内で恣意的に使い分けるものとして、訴訟上の防御権を濫用し著しく信義則に反して許されないからである。

(引用終わり)

 

 これらの細かい論点は、現場ではむしろ、「気付かない方が幸せ」という面もあります。気付いてしまうと、書きたくなるからです。しかし、書こうとすると、時間・紙幅がすぐに足りなくなる。特に、2日目の午後は疲労がピークに達しているので、ここで無理をすると、まとめ切れずに失敗したり、民訴を解く時間がなくなったりします。ですから、この辺りの論点は、気付いても無視した方がよいでしょう。なお、総会決議取消事由を合併差止事由や合併無効事由とする場合に、決議取消の訴えの出訴期間内に主張することを要するかについても、参考答案では触れていませんが、付随的に論点となり得ます。これは、設問2の最後の方で書くことですし、比較的知っている人の多い論点ですから、時間の余裕を見て、場合によっては触れてもよいでしょう。

6.参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(会社法)」に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.甲社は、Cが本件手形を偽造したから、手形債務は発生していないとして、手形金支払請求を拒むことはできるか。

2.手形が偽造された場合には、被偽造者は原則として手形債務を負わないが、受取人において、被偽造者が振り出したと信じるにつき正当な理由があるときは、民法110条を類推適用すべきである(判例)。
 本件では、甲社は、Aの入院を取引先等に伏せていたこと、Cは、かねてより、Aの指示に従って、手形を作成して取引先に交付することもあったこと、振出日である平成27年12月25日は、甲社が乙社から仕入れた太陽光パネルの代金2000万円の支払日であったこと、Cは、集金に来た乙社の従業員に交付したことからすれば、受取人である乙社において、Aが甲社を代表して振り出したと信じるにつき正当な理由がある。
 したがって、民法110条の類推適用により、甲社は、乙社に対し、本件手形につき手形債務を負担する。

3.丙社は、乙社から本件手形の裏書譲渡を受けたから、本件手形に係る手形上の権利を取得した(手形法77条1項1号、11条1項、14条1項)。

4.よって、甲社は、本件手形に係る手形金支払請求を拒むことはできない。

第2.設問2

1.効力発生前の手段

(1)吸収合併差止請求(784条の2)が考えられる。

(2)法令・定款違反(同条1号)はあるか。

ア.DEに対する本件株主総会の招集通知を欠く点について

 Aの死亡により、A名義の株式は、CDEの準共有となる(民法898条、899条)。A名義の株式について、通知催告受領者の指定及び通知(126条3項)がされたとの事実はない。したがって、甲社が、CDEのうち、Cのみに招集通知を送付した点は、適法である(同条4項)。
 よって、この点に法令・定款違反はない。

イ.CがA名義の全株式につき議決権行使をした点について

(ア)A名義の株式について、106条本文の権利行使者の指定及び通知はされていなかったが、甲社の同意がある。同条ただし書により、Cの議決権行使は適法とならないか。
 106条ただし書の同意は、同条本文の適用を排除するにとどまるから、会社が同条ただし書の同意をした場合であっても、権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、当該権利行使は違法である。そして、106条ただし書の同意がある場合の準共有株式の議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、管理行為(民法264条、252条本文)として、持分過半数によって決定すべきである(判例)。
 本件で、Cの議決権行使は本件吸収合併契約の承認に賛成するものであるから、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更するものといえ、上記特段の事情がある。したがって、上記議決権行使をするには共有者全員の同意が必要である(民法264条、251条)が、DEの同意がない。
 よって、Cの議決権行使は違法である。

(イ)以上から、本件株主総会決議には決議の方法に法令違反(831条1項1号)がある。DEの同意がない以上、本件吸収合併契約の承認に必要な議決権(309条2項12号)の賛成を得ることはできないから、上記違法は決議に影響を及ぼす。したがって、裁量棄却(831条2項)の余地はない。

(ウ)では、上記決議取消事由は、本件吸収合併の差止事由となるか。
 組織再編の無効の訴えとの関係において、決議取消事由は組織再編の無効事由となると考えられている(吸収説)。同様に、組織再編に関する株主総会決議に取消事由があることは、適法な株主総会決議を欠くものとして法令違反となるから、組織再編の差止事由となると考えられる。
 したがって、上記決議取消事由は、本件吸収合併の法令違反として、差止事由となる。

ウ.よって、本件吸収合併には、法令違反がある。

(3)本件吸収合併によって甲社が消滅する以上、甲社株主であるDが不利益を受けるおそれ(784条の2柱書本文)がある。

(4)よって、Dは、吸収合併差止請求をすることができる。

2.効力発生後の手段

(1)吸収合併無効の訴え(828条1項9号)が考えられる。

(2)前記1(2)イ(イ)のとおり、本件株主総会決議には取消事由がある。これは本件吸収合併の無効事由となるか。

ア.組織再編の無効事由は、法的安定性の見地から、重大な瑕疵がある場合に限られるが、組織再編に必要な株主総会特別決議を欠く場合には、株主総会特別決議を欠いた瑕疵は重大であるから、無効事由となる。

イ.では、株主総会決議に取消事由がある場合、決議取消しの訴えによるべきか。
 組織再編の効力発生後は、その効力は組織再編の無効の訴えによってのみ争うことができる(828条1項7号から12号まで)以上、組織再編に関する株主総会決議の瑕疵は上記訴えによってのみ争うことができ、株主総会決議の無効確認又は取消しの訴えは、訴えの利益を欠く(吸収説)。組織再編に関する株主総会決議の取消判決がなくても組織再編の無効の訴えによって争い得るのは、決議取消事由があること自体が、適法な承認決議を欠くものとして組織再編の無効事由となると考えられるからである。

ウ.したがって、本件株主総会決議には取消事由があることは、本件吸収合併の無効事由となる。

(3)よって、Dは、吸収合併無効の訴えを提起することができる。

以上

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