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2015年07月29日

平成27年予備試験論文式刑法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.現在の予備試験の論文式試験において、合格ラインは、「一応の水準」の下限です(平成26年予備試験論文式試験の結果について(1))。すなわち、不良になりさえしなければ受かる、という状況です。「一応の水準」の下限を超えるための要件は概ね

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。実際には、上記を充たせば一応の水準の上位、場合によっては良好となる場合もあります。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記が当然にできているという前提の下で、優秀・良好のレベルに達するために必要となるに過ぎないのです。
 にもかかわらず、多くの人が、上記優秀・良好レベルの事柄を過度に重視しているように思います。現場思考で応用論点を拾いに行ったり、趣旨や本質から論じようとしたり、事実に丁寧に評価を付そうと努力するあまり、基本論点を落としてしまったり、規範を正確に示すことを怠っていきなり当てはめようとしたり、問題文中の事実をきちんと摘示することを怠ってしまい、結果として不良の水準に落ちてしまっているというのが現状です。

2.その原因としては、多くの人が参考にする出題趣旨の多くの記述が、実は優秀・良好レベルの話であって、一応の水準のレベルは当たり前過ぎるので省略されてしまっていること、あまりにも上位過ぎる再現答案を参考にしようとしてしまっていることがあると思います。
 とはいえ、合格ラインギリギリの人の再現答案には、解答に不要なことや誤った記述などが散見されるため、参考にすることが難しいというのも事実です。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作ってみてはどうか、ということを考えました。

3.今回、掲載する参考答案は、上記のようなコンセプトに基づいています。「本問で基本論点はどれですか」と問えば、多くの人が指摘できるでしょう。「その論点について解決するための規範は何ですか」と問えば、事前にきちんと準備している人であれば、多くの人が答えられるでしょう。「その規範に当てはまる事実は問題文中のどこですか、マーカーを引いてみてください」と問えば、多くの人が正確に示すことができるものです。下記の参考答案は、いわば、それを繋ぎ合わせただけの答案です。
 それなりの実力のある人が見ると、「何だ肝心なことが書いてないじゃないか」、「一言評価を足せば良い答案になるのに」と思うでしょう。優秀・良好レベルの答案を書いて合格できる人は、それでよいのです。しかし、合格答案を書けない人は、むしろ、「肝心なこと」を書こうとするあまり、最低限必要な基本論点、規範、事実の摘示を怠ってしまっているという点に気付くべきでしょう。普段の勉強で規範を覚えるのは、ある意味つまらない作業です。本試験の現場で、事実を問題文から丁寧に引用して答案に書き写すのは、バカバカしいとも思える作業です。しかし、そういう一見するとどうでもよさそうなことが、合否を分けているのが現実なのです。規範が正確でないと、明らかに損をしています。また、事実を引いているつもりでも、雑に要約してしまっているために、問題文のどの事実を拾っているのか不明であったり、事実を基礎にしないでいきなり評価から入っているように読める答案が多いのです。そういう答案を書いている人は、自分はきちんと書いたつもりになっているのに、点が伸びない。そういう結果になってしまっています。
 今回の参考答案は、やや極端な形で、大前提として抑えなければならない水準を示しています。合格するには、この程度なら確実に書ける、という実力をつけなければなりません。そのためには、規範を正確に覚える必要があるとともに、当てはめの事実を丁寧に摘示する筆力を身につける必要があるでしょう。これは、普段の学習で鍛えていくことになります。
 この水準をクリアした上で、さらに問題文の引用を上手に要約しつつ、応用論点にコンパクトに触れたり、趣旨・本質に遡って論述したり、当てはめの評価を足すことができれば、さらに優秀・良好のレベルが狙えるでしょう。

4.刑法は、甲乙丙丁の4人の罪責が問われています。上記(1)から(3)までを普通に書こうとするだけでも、簡単に紙幅と時間をオーバーしてしまうでしょう。ですから、上記(1)から(3)までの中から、基本的なもの、重要度の高いものに絞って書いていく必要があります。その取捨選択も、合否を分ける1つのポイントだったといえるでしょう。なお、参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」、「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」に準拠した部分です。

 

【参考答案】

第1.丙の罪責

1.受託収賄罪(197条1項後段)の成否を検討する。

(1)丙はB市職員であり、「公務員」に当たる。

(2)丙の職務は、公共工事に関して業者を選定し、B市として契約を締結するものであるから、「職務」に当たる。

(3)謝礼の50万円は、「賄賂」に当たる。

(4)甲が「お礼として50万円を渡したい」と言ったのに対し、丙が「分かった」と言ったことは、「約束」に当たる。

(5)丙が、丁に50万円を受領させたことは、丁を道具とする間接正犯による「収受」といえないか。
 身分者が、非身分者を利用して身分犯を実現する場合には、たとえ非身分者が情を知っていたとしても、非身分者を道具とする間接正犯が成立する(身分なき故意ある道具)。
 本件で、丁は、甲からこれまでの経緯を聞いているが、公務員の身分を欠くことから、なお丙の道具といえる。
 従って、丙は、50万円を「収受」したといえる。

(6)丙は、甲から「今度発注予定の公共工事についてA社と契約してほしい」と依頼されたことは、「請託を受けた」に当たる。

(7)丙は、「約束」と「収受」を行っているが、同一法益に対する同一の意思決定に基づくから、包括一罪となる。

(8)以上から、受託収賄罪が成立する。

2.よって、丙は受託収賄罪の罪責を負う。

第2.丁の罪責

1.丙の代わりに50万円を受領した点につき、丁は、丙の道具として受領したに過ぎないから、受託収賄罪につき丙の幇助(62条1項)となるにとどまる。

2.丁には公務員の身分はないが、受託収賄罪の従犯となり得るか。
 65条1項は真正身分(「身分によって構成すべき」)の連帯作用を、同条2項は不真正身分(「身分によって特に刑の軽重があるとき」)の個別作用を定めた規定である
 本件で、受託収賄罪における公務員の身分は真正身分であるから、同条1項の適用により、丁は受託収賄罪の従犯となる。

3.よって、丁は、受託収賄罪の従犯の罪責を負う。

第3.甲の罪責

1.前記第1の1の丙の収賄に係る賄賂の約束及び供与につき、包括して贈賄罪1罪が成立する(198条)。

2.用度品購入用現金を謝礼として丙に収受させた点について検討する。

(1)事務処理者が自己の占有する本人の物を不法に処分した場合には、横領罪と背任罪の双方が問題となり得るが、横領罪と背任罪は法条競合の関係にあるから、両罪の構成要件に該当するときは、重い横領罪のみが成立する
 そして、物の処分が自己の名義又は計算で行われた場合には、領得行為であるから横領罪が成立し、本人の名義又は計算で行われた場合には、領得行為とはいえないから背任罪が成立するにとどまる(判例)。また、本人にも許されない違法な処分であることは、本人の名義又は計算でされたものでないことを推認させる1つの事情とはなり得るが、違法な処分であっても、その利益を本人に帰属させる意思ですることもあり得るから、違法行為であるということから直ちに自己の名義又は計算でされたものと認めることはできない(国際航業事件判例参照)
 本件で、賄賂の供与はA社にも許されない違法な行為であるだけでなく、甲は用度品を購入する場合に限って支出権限が認められていたこと、専ら乙を助ける目的でA社に利益を帰属させる意思はなかったことからすれば、甲の名義又は計算でされたといえる。

(2)そこで、業務上横領罪(253条)の成否を検討する。

ア.甲は、総務部長の地位に基づき、用度品購入用現金を管理し、用度品購入の場合の支出が認められていたから、業務上の占有が認められる。

イ.民事上金銭の所有と占有は一致するが、使途を定めて寄託された金銭については、なお刑法上は寄託者の所有に属するというべきであるから、受託者との関係では「他人の物」に当たる
 本件で、用度品購入用現金は用度品購入に使途を定めて寄託された金銭であるから、刑法上A社の所有に属するものとして「他人の物」に当たる。

ウ.前記(1)のとおり、甲が自己の名義又は計算によって用度品購入用現金から50万円を丙に賄賂として供与したことは、不法領得の意思の実現行為として「横領」に当たる。

エ.以上から、業務上横領罪が成立する。

3.よって、甲は、贈賄罪及び業務上横領罪の罪責を負い、両罪は併合罪(45条前段)となる。

第4.乙の罪責

1.甲の贈賄罪及び業務上横領罪に係る共謀共同正犯(60条)の成否を検討する。

2.共謀共同正犯が成立するには、自己の犯罪としてする意思(正犯意思)、意思の連絡(共謀)及び共謀者の一部による犯罪の実行が必要である
 本件で、乙は自らの降格を免れるため、甲に対し、「丙に、お礼を渡すからA社と公共工事の契約をしてほしいと頼んでくれ…用度品を買うために管理している現金から…流用してくれないか」と言ったから、正犯意思がある。これに対し、甲はこれに応じる旨を乙に告げたから、共謀がある。そして、甲による犯罪の実行がある。
 以上から、共謀共同正犯の要件を満たす。

3.もっとも、業務上横領罪について、乙には業務者及び占有者の身分がない。65条は共同正犯にも適用があり、占有者の身分は真正身分であるが、業務者の身分は不真正身分であるから、65条1項及び2項の適用により、単純横領罪(252条1項)の限度で共同正犯となる。

4.よって、乙は、贈賄罪と単純横領罪の罪責を負い、両罪は併合罪となる。

以上

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2015年07月26日

平成27年予備試験論文式民訴法参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.現在の予備試験の論文式試験において、合格ラインは、「一応の水準」の下限です(平成26年予備試験論文式試験の結果について(1))。すなわち、不良になりさえしなければ受かる、という状況です。「一応の水準」の下限を超えるための要件は概ね

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。実際には、上記を充たせば一応の水準の上位、場合によっては良好となる場合もあります。応用論点を拾ったり、趣旨や本質論からの論述、当てはめの事実に対する評価というようなものは、上記が当然にできているという前提の下で、優秀・良好のレベルに達するために必要となるに過ぎないのです。
 にもかかわらず、多くの人が、上記優秀・良好レベルの事柄を過度に重視しているように思います。現場思考で応用論点を拾いに行ったり、趣旨や本質から論じようとしたり、事実に丁寧に評価を付そうと努力するあまり、基本論点を落としてしまったり、規範を正確に示すことを怠っていきなり当てはめようとしたり、問題文中の事実をきちんと摘示することを怠ってしまい、結果として不良の水準に落ちてしまっているというのが現状です。

2.その原因としては、多くの人が参考にする出題趣旨の多くの記述が、実は優秀・良好レベルの話であって、一応の水準のレベルは当たり前過ぎるので省略されてしまっていること、あまりにも上位過ぎる再現答案を参考にしようとしてしまっていることがあると思います。
 とはいえ、合格ラインギリギリの人の再現答案には、解答に不要なことや誤った記述などが散見されるため、参考にすることが難しいというのも事実です。そこで、純粋に上記(1)から(3)だけを記述したような参考答案を作ってみてはどうか、ということを考えました。

3.今回、掲載する参考答案は、上記のようなコンセプトに基づいています。「本問で基本論点はどれですか」と問えば、多くの人が指摘できるでしょう。「その論点について解決するための規範は何ですか」と問えば、事前にきちんと準備している人であれば、多くの人が答えられるでしょう。「その規範に当てはまる事実は問題文中のどこですか、マーカーを引いてみてください」と問えば、多くの人が正確に示すことができるものです。下記の参考答案は、いわば、それを繋ぎ合わせただけの答案です。
 それなりの実力のある人が見ると、「何だ肝心なことが書いてないじゃないか」、「一言評価を足せば良い答案になるのに」と思うでしょう。優秀・良好レベルの答案を書いて合格できる人は、それでよいのです。しかし、合格答案を書けない人は、むしろ、「肝心なこと」を書こうとするあまり、最低限必要な基本論点、規範、事実の摘示を怠ってしまっているという点に気付くべきでしょう。普段の勉強で規範を覚えるのは、ある意味つまらない作業です。本試験の現場で、事実を問題文から丁寧に引用して答案に書き写すのは、バカバカしいとも思える作業です。しかし、そういう一見するとどうでもよさそうなことが、合否を分けているのが現実なのです。規範が正確でないと、明らかに損をしています。また、事実を引いているつもりでも、雑に要約してしまっているために、問題文のどの事実を拾っているのか不明であったり、事実を基礎にしないでいきなり評価から入っているように読める答案が多いのです。そういう答案を書いている人は、自分はきちんと書いたつもりになっているのに、点が伸びない。そういう結果になってしまっています。
 今回の参考答案は、やや極端な形で、大前提として抑えなければならない水準を示しています。合格するには、この程度なら確実に書ける、という実力をつけなければなりません。そのためには、規範を正確に覚える必要があるとともに、当てはめの事実を丁寧に摘示する筆力を身につける必要があるでしょう。これは、普段の学習で鍛えていくことになります。
 この水準をクリアした上で、さらに問題文の引用を上手に要約しつつ、応用論点にコンパクトに触れたり、趣旨・本質に遡って論述したり、当てはめの評価を足すことができれば、さらに優秀・良好のレベルが狙えるでしょう。

4.民訴は、司法試験では特殊な傾向がありますが、予備の場合はそこまで特殊ではありません。今年の問題に関しては、上記の(1)から(3)までを示せれば十分合格ラインでしょう。ただ、問いかけがやや特殊なので、それに合わせた書き方を工夫する必要がある。敢えて言えば、それが本問の唯一の難しさだったといえるでしょう。本問における基本論点は、設問1では、訴訟物の数の判断基準。設問2では、一部請求における明示の要否と過失相殺の処理です。上記基本論点についての規範を示した上で、問題文に即して素直な帰結を説明できれば、それだけで、一応の水準を超えるでしょう。一番良くないのは、設問の問いかけ方に惑わされて、上記基本論点に触れることなく、その場で思い付いたことを漫然と箇条書き的に列挙してしまったり、問いに直接答えようとするあまり、上記基本論点の規範を示すことなく、それを当然の前提として、雑な論述で終えてしまうことです。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.判例の考え方の理論的な理由

(1)判例の考え方は、財産的損害と精神的損害をまとめて不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した場合の訴訟物は1つであるとするものである。

(2)上記の理論的な理由は、以下のとおりである。
 訴訟物とは、審判対象となる権利又は法律関係をいい、その個数は、実体法上の請求権を基準として判断すべきである(旧訴訟物理論)。
 同一の交通事故により生じた財産的損害と精神的損害についてこれをみると、両者は原因事実及び被侵害利益を共通にするから、その賠償の実体法上の請求権は1個と考えられる。
 従って、財産的損害と精神的損害をまとめて不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した場合の訴訟物は1つとなる。

2.判例の考え方による利点

(1)本件で、仮に訴訟物が2つであると考えると、Xは財産的損害に係る700万円の損害賠償請求訴訟と精神的損害に係る300万円の損害賠償請求訴訟の双方を提起することが必要となる。
 各訴訟が別個に審理される場合には、原告X及び被告Yは、過失の有無等について、同様の立証活動を各訴訟において別個に行う必要が生じる。また、財産的損害の賠償に係る訴訟においてはYの過失がないとされて請求が棄却されたのに、精神的損害の賠償に係る訴訟においては、Yの過失があるとされて請求が認容されるなど、各訴訟において同一の事項に対する判断内容が区々となるおそれもある。
 これを避けるためには、審理の併合(152条1項)が考えられるが、裁判所の裁量によることから、必ずしも確実とはいえない。

(2)これに対し、訴訟物が1つであると考えると、Xは、人的損害全体に係る1000万円の損害賠償請求訴訟だけを提起すれば足りる。
 しかも、上記(1)のような立証活動の重複は生じず、同一の事項について判断内容が区々となるおそれもない。
 これが、判例の考え方による利点である。

第2.設問2

1.一部請求であることを明示した理由

(1)数量的に可分な一部について判決を求める旨明示された給付訴訟においては、訴訟物は上記一部に限られるから、既判力は残部に及ばない(判例)。

(2)本件で、Aが一部請求であることを明示しない場合には、訴訟物は本件交通事故によって発生した損害賠償請求権全部となる。
 従って、仮に裁判所が過失相殺による減額を3割未満と判断した場合であっても、Xは、訴求された700万円の限度で認容判決を受け得るに過ぎない一方で、残部の300万円の不存在につき既判力が生じることになる結果、残部についても、もはや訴求することはできなくなる。

(3)上記のように残部について既判力が生じるのを避けることが、Aが一部請求であることを明示した理由である。

2.1000万円のうち700万円を請求した理由

 損害賠償の一部請求がされた場合における過失相殺について、請求額を基準に過失割合による減額がされるとする考え方がある(内側説)。
 上記の考え方によると、本件では、請求額700万円から3割が減額され、認容額は490万円にとどまることになる。これはXにとって不利益である。
 しかし、損害賠償の一部請求において過失相殺をする場合には、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額を超えないときはその残額を認容し、残額が請求額を超えるときは請求の全額を認容すべきである(外側説・判例)。
 本件では、損害の全額1000万円から3割が減額され、認容額は700万円となる。
 このように、請求額を700万円に限定しても、Xにとって不利益がなく、訴額を低額にすることで印紙代を節約できることが、Aが1000万円のうち700万円を請求した理由である。

以上

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