2013年04月27日

平成24年司法試験予備試験論文式刑法出題趣旨検討と参考答案

問題文及び出題趣旨は、こちら

多論点、事例処理一部論理混在型

刑法は、長文の事例問題だった。
このような問題は、多論点、事例処理型の問題であることが多い。
予備校答練も、このような問題がほとんどだ。
その意味では、答練慣れしている人は、解き易いと感じたはずである。
逆に、演習不足の初学者は、かなりの難問と感じたのではないか。

本問は、基本的には多論点型のアプローチで問題ない。
すなわち、個々の論述を極端にコンパクト化し、なるべく論点を拾う。
特に予備では、解答用紙が4ページしかない。
油断すると、すぐ紙幅切れになってしまう。
(予備校の解答例は、答案用紙に手書きで書くと、とても収まらないことが多い。)
個々の論証の厚みは度外視して、事例処理に徹することになる。
ただ、注意すべきポイントがある。
それは、一部事例処理における論理性が問われている点である。
出題趣旨には、そのことが明示されている。

(出題趣旨より引用、下線は筆者)

 本問は,甲,乙及び丙が,故意に人身事故を発生させ,保険金をだまし取ろうと企てたが,丙は,犯罪に関与することを恐れて実行行為に参加せず,甲,乙が故意に人身事故を惹起して,乙及び通行人Aに傷害結果を生じさせ,乙の慰謝料及び休業損害について保険金請求を行ったものの保険金は支払われなかったという事案を素材として,事案を的確に分析する能力を問うとともに,被害者の承諾,方法の錯誤,共謀の意義,共犯関係からの離脱,傷害罪における「人」の意義等に関する基本的理解とその事例への当てはめが論理的一貫性を保って行われているかを問うものである。

(引用終わり)

論点が列挙され、最後に「論理的一貫性」という語が来る。
刑法では、これは比較的よくある。
「論理的整合性」や「整合的に論述」などという言い回しも、よく使われる。
いずれも、大体同じ意味である。
論理を問うポイントで矛盾を犯すと、大きな減点となりやすい。
事例処理型は、個々の論点処理に追われがちだ。
知らず知らずのうちに、論理矛盾を犯してしまいやすい。
この点は、書き出す前に、構成段階でチェックすべきである。
もっとも、本問では、結果的にあまり評価に影響がなかったようだ。
(詳細は後述する。)

それから、平成23年に引き続き、総論と各論の両方が出題された。
各論は論点が少なく、総論メインという点も、平成23年と同様である。
旧試験では2問出せたが、予備だと1問しか出題できないので、こうなるのだろう。
このことは、本問がかなりの長文になっていることの一因にもなっている。
今後も、この傾向は続きそうである。

同意傷害と共犯なき正犯の処理

甲の罪責では、まず乙に追突してケガをさせた点。
これにつき、同意傷害を論じることになる。
ここは、有名な判例(最決昭55・11・13)がある。
保険金詐取目的という点まで、類似している。
従って、この論点は、ほとんどの人が拾ってくる。
落とせない論点、ということになる。

上記判例は、考慮要素を複数挙げている。

最決昭55・11・13より引用、下線は筆者)

 被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものであるが、本件のように、過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的をもつて、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせたばあいには、右承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであつて、これによつて当該傷害行為の違法性を阻却するものではない。

(引用終わり)

しかし、こんなものを挙げて当てはめる余裕はない。
端的な理由を挙げて、簡単に処理すべきである。

理由付け自体は、それほど気を遣わなくてよい。
例えば、「社会的相当性を欠くから」くらいでも、十分である。
これは、学説上あいまいだと批判される理由付けであるが、減点されることはない。
また、同意により法益が消滅するのか、要保護性がなくなるのか。
通常、前者であれば構成要件に該当せず、後者なら違法性阻却である。
従って、「同意により法益が消滅するから、違法性が阻却される」とする答案。
あるいは、「同意により要保護性を欠くから、構成要件に該当しない」とする答案。
これらは、厳密には問題がある。
しかし、こういうところでも、減点されることはないだろう。

ただ、乙の罪責との関係で、少し注意すべきポイントがある。
本問で、甲に傷害罪が成立する場合、乙に共同正犯の成否が問題となる。
一般に、自分で自分を傷害しても、自傷行為で不可罰である。
しかし本問では、甲に傷害の違法(不法)を生じさせた点で、共同正犯たりうるのではないか。
すなわち、共犯なき正犯の問題を論じる必要が出てくる。
他方、甲の傷害罪を否定する場合は、どうか。
この場合は、正犯不法も共犯不法もない。
すなわち、共犯なき正犯の論点は、生じない。
乙は、共同正犯になりようがない。
従って、この場合に正犯なき共犯を論じると、評価を落としやすい。
こういうところは、予備校では、逆に論点を書いたという理由で、加点されたりする。
全く逆の結果になるところなので、注意したい。
とはいえ実際には、ここは評価にほとんど影響しなかった。
なぜなら、ほとんどの人が、そもそも共犯なき正犯の論点に気付かなかったからである。

共犯なき正犯については、因果的共犯論(惹起説)内部の対立がある。
純粋惹起と混合惹起なら、乙の共同正犯は否定。
修正惹起なら、乙に共同正犯が成立し得ることになる。
ただ、ここで惹起説内部の議論をする必要はない。
惹起説から素直に考えれば、共犯なき正犯は肯定。
(共犯を否定するということは、「共犯なき」を肯定することを意味する。)
本問で言えば、乙の共同正犯は否定するのが素直である。
惹起説とは、共犯は正犯を介して自ら違法な結果を生じさせる、という考え方だからである。
惹起説の上記本質論からすれば、共犯にとって違法でない場合は、共犯は成立しない。
修正惹起説は、この点を修正するからこそ、「修正」惹起説なのである。
(なお、混合惹起説が正犯不法をも要求するのは、飽くまで処罰の限定要素としてである。)
そうである以上、惹起説の基本的な考え方を示して、簡単に結論を出せば足りる。
わざわざ、純粋惹起か、修正惹起か、混合惹起か。
そういったことを、論じるべきでない。
(そもそも、本問ではそのような紙幅の余裕もない。)

「人」の意義と法定的符合説

予想外にAを負傷させた点は、誰もが方法の錯誤を思いつく。
これも、絶対落とせない論点である。
ただ、ここには、注意すべき論理のワナがある。

多くの人は、錯誤について法定的符合説に立つだろう。
傷害罪という同一構成要件内の錯誤だから、故意は認められる。
第一感は、これで簡単だ、という感じである。

しかし、乙の同意の効果を、構成要件該当性の否定と考えたとする。
その場合、甲は傷害罪の構成要件該当性の認識がない。
だとすると、法定的符合説からは、Aに対する故意も、認め得ないことになる。

※実は、同意を違法性阻却と考えても、微妙な問題が残る。
法定的符合説を採った上で、制限故意説を採る人は、今でも多いだろう。
制限故意説は、違法性阻却事由の錯誤も事実の錯誤とみる。
違法性阻却事由を認識していれば、規範に直面していない、と考えるわけである。
本問の甲は、どうか。
乙の同意という違法性阻却事由を認識している。
だから、甲は規範に直面していない。
法定的符合説は、同一規範に直面したことを根拠にする。
そうすると、制限故意説からは、上記を違法性阻却の範囲にまで拡張させなければ、厳密には筋が通らない。
(消極的構成要件の理論からは、これは当然の帰結となる。)
本問では、甲のAに対する故意は、否定するのが筋である。
理論的に詰めれば、そういうことになる。
ただ、法定的符合説、制限故意説を採る人は、本問では違法性阻却を認めないだろう。
保険金詐取目的の同意の違法性阻却を否定する説を採ることが、多いからである。
そうなると、やはり甲は当初から規範に直面していたことになる。
そのため結果的には、ここはさほど問題にはならなかった。

また、乙の罪責との関係では、さらに気付きにくいワナがある。
乙にとって、当初の認識は、甲を介して自分で自分を傷害するという認識。
すなわち、自傷行為の認識である。
自傷行為が不可罰なのは、どうしてか。
一般には、傷害罪にいう「人」とは自分以外の者をさす。
従って、自分自身は「人」に当たらないからだ、と説明されている。

(刑法204条)

 の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

およそ「人」の傷害を認識した以上、結果的に「人」を傷害すれば故意を阻却しない。
これは、よく法定的符合説で用いられる言い回しである。
ところが、乙は、当初「人」を傷害する認識がなかった。
これでは、Aに対する故意は、認められない。

上記の点に気付くことなく、簡単にAへの故意を認めれば、評価を落としやすい。
出題趣旨で、傷害罪における「人」の意義が挙がっているのは、上記の意味である。

(出題趣旨より引用、下線は筆者)

 本問は,甲,乙及び丙が,故意に人身事故を発生させ,保険金をだまし取ろうと企てたが,丙は,犯罪に関与することを恐れて実行行為に参加せず,甲,乙が故意に人身事故を惹起して,乙及び通行人Aに傷害結果を生じさせ,乙の慰謝料及び休業損害について保険金請求を行ったものの保険金は支払われなかったという事案を素材として,事案を的確に分析する能力を問うとともに,被害者の承諾,方法の錯誤,共謀の意義,共犯関係からの離脱,傷害罪における「人」の意義等に関する基本的理解とその事例への当てはめが論理的一貫性を保って行われているかを問うものである。

(引用終わり)

出題趣旨に挙がっているのは、「人」の意義が重要な解釈論だからではない。
本問では、錯誤との関係で論理上意味を持ちうるからである。
ただ、この論理性は、気付きにくい。
考査委員も、ここで大減点するのは、酷と感じたのだろう。
引っかかっても、そこまで減点にはなっていないようだ。
他の論点がきちんと拾えていれば、引っかかっても上位になっている。
とはいえ、場合によっては、極端な減点事由となることもある。
今後は、気をつけたい。

ここで、具体的符合説を採ると、全く別の問題になる。
甲のAに対する故意は否定され、過失犯が成立することになる。
甲は運転中なので、自動車運転過失致傷ということになるだろう。
そして、乙につき、これとの共同正犯の検討ということになる。
これは、厄介である。
運転者の地位は、身分なのか。
身分であるとすれば、共犯と身分の論点が生じる。
その際、これは構成的身分、加減的身分のどちらなのか。
身分犯でないとして、乙にも自動車運転過失を肯定する余地はあるのか。
これらは、本筋ではなさそうな論点である。
また、過失の共犯を否定するとしても、単独犯の余地がある。
乙は直接追突行為をしていないが、計画に参加し、追突される役割にある。
すなわち、結果予見・回避可能な(かつ予見・回避すべき)地位にあったといいうるからである。
そう考えると、乙の単独過失犯を検討することになる。
ここでも、運転者の地位の身分性が問題となるだろう。
仮に身分犯なら、乙に自動車運転過失致傷の単独犯は成立し得ない。
(Y車を運転したから運転者である、という解釈もあり得るが、苦しいだろう。)
他方、非身分犯なら、乙に自動車運転過失がある限り、同罪は成立しうる。
もっとも、自ら運転していない者に、そもそも自動車運転過失は観念できるのか。
できないと考えるのが、素直なように思われる。
(そう考えるなら、そもそも身分犯と解すべきではあるが。)
仮にできると考えたとして、非運転者の自動車運転過失における予見可能性とは、どの程度なのか。
乙については、どの時点の予見可能性を考えればよいのか。
自動車運転過失を観念できないとしても、通常の過失について上記と同様の問題は生じ得る。
これらのことは、おそらく大して配点はなさそうな、瑣末な論点である。
こういうどうでもいい論点をたくさん抱える構成は、筋が悪い。
仮に具体的符合説を採る場合、上記をうまく端折って書く必要がある。
本問では、具体的符合説からの構成は、難点が多かった。
実際、出題趣旨には、上記具体的符合説からの論点は、一つも挙がっていない。
かえって、具体的符合説からは「人」の意義の論点を落とすことになる。
具体的符合説に対して、考査委員は冷淡だったといえる。

故意を否定すると不都合な場合、具体的符合説には裏技がある。
それは、未必の故意を認めてしまう方法だ。
例えば、本問では交差点の追突を計画する以上、誰かにぶつけるかもしれない。
そう思うのが当然だから、未必の故意がある、という認定をする方法である。
しかし、本問では、それはおよそ採り得ない手段である。

(問題文より引用、下線は筆者)

3 甲及び乙は,事故を偽装することにしていた交差点付近に差し掛かった。乙は,進路前方の信号機の赤色表示に従い,同交差点の停止線の手前にY車を停止させた。甲は,X車を運転してY車の後方から接近し,減速した上,Y車後部にX車前部を衝突させ,当初の計画どおり,乙に加療約2週間を要する頸部捻挫の怪我を負わせた。
 甲及び乙は,乙以外の者に怪我を負わせることを認識していなかったが,当時,路面が凍結していたため,衝突の衝撃により,甲及び乙が予想していたよりも前方にY車が押し出された結果,前記交差点入口に設置された横断歩道上を歩いていたAにY車前部バンパーを接触させ,Aを転倒させた。Aは,転倒の際,右手を路面に強打したために,加療約1か月間を要する右手首骨折の怪我を負った。

(引用終わり)

「認識していなかった」と明示的に書いてある以上、「未必的には認識していた」という認定はできない。
本問で未必の故意を認めれば、評価を落とすだろう。

なお、Aに対する傷害については、因果関係も問題になる。
路面凍結を基礎事情に含むか否か。
一応、この点が問題になるからである。
もっとも、これを触れた人は少なかったようだ。
出題趣旨にも挙がっておらず、触れなくても問題はなかった。

詐欺罪関連

各論部分は、比較的単純だった。
いずれも、詐欺罪が問われている。
医師に大げさに自覚症状を訴えた点は、法益関係的錯誤でないという点。
保険金請求については、詐欺の着手、既遂時期である。
前者は気付きにくく、後者は気付き易い。
他にも、通院が財産上の利益といえるか等の論点はあるが、そこまで書く余裕はない。
ここは保険金請求が詐欺未遂という点だけでも、十分合格レベルという感じだ。
出題趣旨には、各論の論点は、一つも挙がっていない。
やや、各論軽視の傾向といえそうだ。

若干気をつけたいのは、医師に自覚症状を訴える行為は、保険金請求の欺罔とはなり得ない点である。
医師は、保険金について三角詐欺の成立に必要な処分権限を持っていないからだ。
(そもそも、医師は保険金の交付者ではないから、欺罔に基づく交付がないともいえる。)

なお、問題文上診断書の交付を受けた旨記述があれば、その点に係る詐欺罪。
(その場合は、診断書の財物性が問題になるだろう。)
それから、虚偽診断書作成の間接正犯を論じる余地がある。
しかし、本問ではそのような記述はないから、上記を論じる必要はない。

着手前の離脱

丙については、着手前の離脱を書く。
これも、気付くのが容易な、落とせない論点である。
一般に、着手前の離脱は、離脱の意思表示と、他の共犯者の了承が要件とされる。
本問では、離脱の意思表示はあるが、他の共犯者の了承がない。
この点を、どう考えるか。
因果性の切断という点からすれば、了承は必須でないとするのが、一つの筋である。
もう一つは、本問では黙示の了承があったとする筋だろう。
あるいは、離脱を否定して共同正犯を成立させるのも、あり得る筋である。
ただ、その場合は共同正犯の成立する罪についてその後の処理を論じる必要がある。
紙幅の厳しい本問では、ちょっと筋の悪い構成、という感じはする。

類似の判例として、最決平21・6・30がある。
強盗着手前に離脱意思を告げても、共謀関係の解消を認めない。

最決平21・6・30より引用、下線は筆者)

 被告人は,共犯者数名と住居に侵入して強盗に及ぶことを共謀したところ,共犯者の一部が家人の在宅する住居に侵入した後,見張り役の共犯者が既に住居内に侵入していた共犯者に電話で「犯行をやめた方がよい,先に帰る」などと一方的に伝えただけで,被告人において格別それ以後の犯行を防止する措置を講ずることなく待機していた場所から見張り役らと共に離脱したにすぎず,残された共犯者らがそのまま強盗に及んだものと認められる。そうすると,被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり,たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し,残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても,当初の共謀関係が解消したということはできず,その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である。

(引用終わり)

※判例は、講学上の離脱を、「共謀関係の解消」と表現する傾向がある。
「離脱」は、犯行をやめて立ち去る等の事実上の行為を指す語として用いている。
そのため、「被告人が離脱した」と「共謀関係が解消したということはできず」が両立する。

ただ、これは住居侵入後の離脱の事案である。
まだ計画が実行されていない段階の本問とは、直ちに同じには考えられない。
いずれにせよ、ここは判例を引いて当てはめるようなところではない。
基本的な枠組みを踏まえつつ、うまく事案を拾いながら無難に論述すれば足りるだろう。

【参考答案その1】

第1.甲の罪責

1.X車をY車に衝突させた行為について

(1)衝突により乙に怪我をさせた行為は、傷害罪(204条)の構成要件に該当する。当該行為には乙の同意(問題文1第2段落②)がある。しかし、これは保険金詐取目的でされた(問題文1第1段落)から、社会的相当性を欠く。従って、違法性は阻却されない。
 よって、乙に対する傷害罪が成立する。

(2)路面凍結のため、衝突の衝撃でY車が押し出されてAに接触し、Aを転倒させて怪我を負わせた点につき、さらに傷害罪は成立するか。

ア.路面の凍結は少なくとも一般人に認識可能である。凍結した路面において信号待ちの車両に追突すれば追突された車両が押し出されて歩行者に接触し、負傷させることは社会通念上相当であるから、因果関係がある(折衷的相当因果関係説)。

イ.また、甲は、乙すなわち「人」を傷害するなという規範に直面してこれを踏み越えた以上、「人」であるAの傷害結果につき非難可能であるから、故意は認められる(法定的符合説)。

ウ.よって、Aに対する傷害罪が成立する。

2.保険金支払請求について

 真実は保険金を請求し得ないのに、保険金支払請求をする行為は、詐欺罪(246条1項)の欺く行為である。もっとも、結局保険金支払いを受けられなかったから、未遂(250条)にとどまる。

3.大げさな自覚症状を訴えた行為について

 乙が医師に大げさな自覚症状を訴えた行為は、甲乙の共謀(問題文1第2段落③)に基づくから、上記行為につき甲も共同正犯の責任を負う。上記行為は、医師が真実を知れば通院させなかった以上、欺く行為である。上記行為により医師を錯誤に陥らせて必要以上に長期間の通院という財産上の利益を受けたから、詐欺罪(246条2項)が成立する。

4.結論

 以上から、甲は、乙及びAに対する2つの傷害罪、詐欺未遂罪及び2項詐欺罪の罪責を負う。2つの傷害罪は観念的競合(54条1項)となり、その余の罪は併合罪(45条前段)となる。

第2.乙の罪責

1.甲による乙に対する傷害罪につき、共謀(問題文1第2段落①及び②)に基づく共同正犯(60条)は成立しない。なぜなら、乙との関係では適法な自傷行為であって、違法な結果への因果的寄与が認められないからである(因果的共犯論)。

2.甲によるAに対する傷害罪については、どうか。確かに、上記共謀に基づく行為から、Aの傷害結果が生じている。しかし、傷害罪にいう「人」とは自分以外の者をいう。乙は、自分自身の傷害結果しか認識、認容していない。従って、乙には「人」の傷害につき認識・認容がない。そうである以上、傷害の故意は認められない。
 また、乙はX車の同乗者でもなく、X車の運転上同一の注意義務を負っていたとは認められない以上、過失犯の限度で共同正犯関係を認めることもできない。
 よって、Aの傷害についても、共同正犯は成立しない。

3.前記第1の2の詐欺未遂罪及び同3の2項詐欺は、甲との共謀(問題文1第2段落③、④及び⑤)に基づく罪であるから、乙は、甲と共同正犯となる。

4.結論

 以上から、乙は、詐欺未遂罪及び2項詐欺罪の罪責を負う。両罪は併合罪となる。

第3.丙の罪責

1.丙は、甲及び乙のした罪に係る謀議に参加した(問題文1第2段落)。X車を運転してY車に衝突させる役割(①)及び利益分配を受ける地位(⑤)からして、上記謀議は、丙について共同正犯性を基礎付け得る共謀といえる。もっとも、問題文2の事情から、着手前の離脱が認められるのではないか。

2.丙は、甲及び乙に電話で「俺は抜ける」と離脱の意思を告げているが、甲及び乙の明示の了承はない。もっとも、丙の計画上の役割は、当日のX車の運転だけである。他に道具の提供等はしていない。また、丙は計画の首謀者でもなく、積極的に犯行計画等を提案したわけでもない。丙が離脱の意思を告げても、甲及び乙はためらうことなく犯行に及んでいる。以上を考慮すると、甲及び乙の黙示の了承があったと評価すべきである。従って、上記電話の時点で、丙は共犯関係から離脱する。

3.よって、丙は、その後甲及び乙のした罪につき共同正犯の罪責を負うことはない。

4.結論

 以上から、丙は何らの罪責も負わない。

以上

【参考答案その2】

第1.甲の罪責

1.乙の傷害について

 乙の傷害は、甲の追突行為に起因する。もっとも、これは乙の同意に基づくものである(問題文1)。そして、傷害結果は軽度の頸部捻挫という軽微なもので、かつ当初の同意の範囲内にある。従って、同意により要保護性が失われるから、違法性が阻却される。なお、保険金詐取の手段であることは、身体的利益の要保護性とは無関係であるから、上記判断を左右しない。
 よって、乙に対する傷害罪(204条)は成立しない。

2.Aの傷害について

(1)因果関係

 構成要件の客観性から、路面凍結は当然に因果関係の相当性判断の基礎となる(客観的相当因果関係説)。そうすると、路面の凍結した交差点で前の車に追突すれば、その前を横断する歩行者と追突された車が接触して歩行者が負傷することは社会通念上相当である。
 よって、甲の追突行為とAの傷害には因果関係がある。

(2)故意

 傷害罪の故意を認めるためには、行為者の認識した「その人」に傷害結果が生じる必要がある(具体的符合説)。なぜなら、傷害罪の保護法益は、個々人ごとに別個のものだからである。
 本問では、甲の認識した客体は乙であって、Aではない。従って、甲には傷害罪の故意はない。

(3)よって、Aに対する傷害罪は成立しない。もっとも、甲の追突行為は自動車運転上必要な注意を怠るものであるから、自動車運転過失致傷罪(211条2項本文)が成立する。

3.不要な通院について

 問題文1の共謀に基づき、乙が医師に大げさに自覚症状を訴えた行為は、詐欺罪の欺罔行為には当たらない。なぜなら、自覚症状に係る錯誤は、医師及び病院の財産的利益と関係がないからである(法益関係的錯誤説)。従って、甲につき詐欺罪の共同正犯(60条)は成立しない。

4.保険金支払請求について

 上記請求は、事故の偶発性、乙の勤務関係及び通院の必要性につき保険会社担当者Bを誤信させるものである。上記事項は保険金支払請求権の有無という財産関係に係る錯誤を生じさせるから、詐欺罪の欺罔行為である。もっとも、保険金の支払いは受けられなかった。よって、1項詐欺未遂罪(246条1項、250条)が成立する。

5.結論

 以上から、甲は、自動車運転過失致傷罪及び1項詐欺未遂罪の罪責を負う。両罪は併合罪である(45条前段)。

第2.乙の罪責

1.Aの傷害について

(1)Aの傷害は、甲の追突に起因する。もっとも、乙は、甲の追突について問題文1の事前共謀により心理的因果性を及ぼしている。また、犯行当日も自己所有のY車を運転して追突される役割を果たしており、物理的因果性もある。乙は、Aの傷害につき正犯性を基礎付ける重要な因果的寄与をしたといえる。もっとも、乙には甲と同様、Aに対する傷害の故意はない。よって、乙は、Aの傷害につき過失犯の共同正犯となる。

(2)もっとも、乙は自動車運転者という責任身分を有しないから、重過失致傷罪(211条1項後段)が成立するにとどまる(65条2項)。

2.保険金支払請求について

 前記第1の4の1項詐欺未遂罪は、問題文1の共謀に基づいてされたから、乙は同罪の共同正犯となる。

3.結論

 以上から、乙は、重過失致傷罪及び1項詐欺未遂罪の罪責を負う。両罪は併合罪である。

第3.丙の罪責

1.丙は、甲及び乙によるAの傷害及び保険金支払請求に関して共同正犯としての重要な因果的寄与をしたといえるか。

2.丙は、問題文1の共謀においては、Y車を運転する役割が割り当てられていた(問題文1①)。しかし、当日はその役割を放棄している。他に、丙は道具の提供等の物理的因果性を及ぼすべき行為をしていない。
 また、丙は問題文1の共謀に参加したが、当日になって甲及び乙に「俺は抜ける」と電話をし、甲及び乙は、丙が犯行に参加しないことを認識した上で、犯行を行っている(問題文2)。そうである以上、丙が甲及び乙の犯行を心理的に促進したとは考えられない。
 以上のとおり、丙には重要な因果的寄与を認めることができないから、甲及び乙の惹起した犯罪結果につき共同正犯は成立しない。

3.以上から、丙は何らの罪責も負わない。

以上

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2013年04月20日

平成24年司法試験予備試験論文式民訴法出題趣旨検討と参考答案

問題文及び出題趣旨は、こちら

民訴は単発論点、論理型

民訴法は、単発論点、論理型だった。
民訴は、旧試験、新試験を通して、論理を問う傾向が強い。
本問も、その傾向どおりだったということができる。

今年の民事は、民法と民訴が単発論点、論理型。
商法が、多論点、事例処理型だった。
前者は、論理的思考力、分析力が問われる。
だから、論理を丁寧に示す。
後者は、論点を拾い、正確に処理することを要する。
だから、要点を簡潔かつ正確に示す。
このことは、出題趣旨を比較して読むと、わかりやすい。

(出題趣旨より引用、下線は筆者)

【民法】

 本問は,民法の財産法と家族法の基本的な制度について,正確な理解と応用能力とを問うものである。まず,設問1は,人的担保である保証に認められる検索の抗弁(民法第453条)と事前求償権(民法第460条)が,物的担保である物上保証にも認められるかについて,保証と物上保証との異同に着目しつつ保証についての規定の類推適用の可能性を検討すること等を通じて,法的知識の正確性と論理的思考力を試すものである。また,設問2は,遺留分減殺請求権に関して,基本的な理解とそれに基づく事案分析能力を試すものである。

【商法】

 本問は,取締役会設置会社における利益相反取引及び重要な業務執行,商人間の売買契約における検査・通知義務並びに約束手形における人的抗弁の切断に関する基本的な知識・理解等を問うものである。解答に際しては,会社法第356条第1項第2号(会社法第365条第1項)の利益相反取引の該当性及び取締役会の承認を受けない利益相反取引の効力,会社法第362条第4項の取締役会による決定を要する場合の該当性及びこの場合において代表取締役がその決定を経ないで業務執行をしたときの効果,商法第526条の適用要件,手形法第17条ただし書(手形法第77条第1項第1号)の「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ」の意義について,正しく論述することが求められる。

【民訴法】

 設問1は,既判力の作用等に関する理解を問うものであり,金銭債権の数量的一部請求についての判決確定後に残部請求がされた事例を取り上げることにより,明示された一部請求部分を前訴の訴訟物とする判例の考え方を踏まえ,既判力が生ずる範囲とその作用の仕方等に関する正確な理解や,それに基づく分析能力,論理的思考能力を試すものである。設問2は,民事訴訟における相殺の抗弁の特殊性に関する理解を前提に,その特殊性が裁判所の判断の仕方にどのような影響を与えるかを問うものである。

(引用終わり)

民法と民訴は、論理的思考力、分析能力という語が使われている。
他方、商法にそのような語はなく、論点を列挙して「正しく論述」とされるに過ぎない。
考査委員のこの要求の違いに、問題文を見た瞬間に気付くことが必要である。
論理型と事務処理型は、頭の使い方が違う。
どちらか区別しないままに、漫然と構成に入ると、ピントのずれた答案になりやすい。
特に、予備校答練では、その辺りの区別を理解しないまま作問されることが多い。
そのため、答練では優秀者なのに、本試験で合格できない、ということが起こる。
答練は、本試験との違いを把握した上で利用しないと、逆効果になることもある。
注意したい。

信義則や争点効の出番はない

設問1は、先決関係となる場合の後訴への作用の仕方を問うものである。
明示的一部請求説に立つ場合、第1訴訟と第2訴訟の訴訟物は異なる。
しかし、だからといって、既判力が作用しないわけではない。
既判力は、前訴訴訟物に対する確定判決の判断についての後訴への拘束力である。
従って、前訴訴訟物に対する判断内容が後訴で問題になる場合は、当然作用する。

上記場合としては、通常2つに分けて説明される。
一つは、矛盾関係である。
例えば、XがYに、Xの甲土地所有権確認の訴えをなし、勝訴したとする。
その後に、YがXに、Yの甲土地所有権確認の訴えをした、という場合である。
この場合、一物一権主義から、両訴の訴訟物は法律上両立し得ない。
そのため、既判力が作用する、と説明される。

もう一つは、先決関係である。
例えば、XがYに、Xの甲土地所有権確認の訴えをなし、勝訴したとする。
その後に、XがYに、所有権に基づく甲土地明渡訴訟を提起する場合である。
この場合、前訴の結果が、後訴の判断の論理的前提をなしている。
そのため、既判力が作用する、と説明される。

もっとも、両者の間に本質的な違いがあるわけではない。
単に、前訴の訴訟物に対する判断で確定したもの。
それと、矛盾する判断ができない、というだけである。
上記のどちらの例も、単にXが前訴基準時に甲土地を所有していた。
その事実が、動かせなくなる、というに過ぎない。
先の例では、いずれも、Yは前訴基準時後の事情を主張して争える。
この点に、違いはない。
ただそのことの意味が、後訴の訴訟物との関係で異なるというだけである。
とはいえ、一般には上記のように分けて説明される。
答案でも、その整理に沿って書くべきだろう。

さて、本問では、どうか。
第1訴訟と第2訴訟の訴訟物を比較してみる。
第1訴訟の訴訟物に対する判断は、本件売買契約に基づく代金400万円のうち150万円の支払請求権の存在である。
他方、第2訴訟の訴訟物は、本件売買契約に基づく代金400万円のうち250万円の支払請求権の存否ということになる。
本件売買契約に基づく代金400万円のうち150万円の支払請求権が存在した。
さらに、本件売買契約に基づく代金400万円のうち250万円の支払請求権が存在する。
これは、あり得ることである。
両者が両立することは、明らかだ。
従って、矛盾関係にはない。
他方、後訴では、本件売買契約に基づく代金400万円のうち150万円の支払請求権の存在は、もはや争えない。
すなわち、本件売買契約に基づく代金400万円のうち150万円の支払請求権が存在することを前提に、残部があるかが判断される。
従って、先決関係にある、ということになる。

これについては、疑問に思うかもしれない。
判例は、明示的一部請求の場合は既判力が及ばないと言っていたのではないか。
確かに、判例は以下のように言っている。

最判昭37・8・10より引用、下線は筆者)

 一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴が提起された場合は、訴訟物となるのは右債権の一部の存否のみであつて、全部の存否ではなく、従つて右一部の請求についての確定判決の既判力は残部の請求に及ばないと解するのが相当である。

(引用終わり)

しかし、上記判例が言っているのは、残部請求が遮断されない、ということである。
「残部の請求に及ばない」とは、そういう意味である。
従って、残部を請求する後訴に、前訴の既判力が全く作用しない。
すなわち、前訴の主文と矛盾する判断を後訴がやって構わない、という意味ではない。

設問1は、このことだけで、勝負がつく。
Yの主張①は、本件売買契約の成立自体を否定する主張である。
本件売買契約の成立が否定されれば、150万円の支払請求権は、存在しようがない。
従って、第1訴訟の訴訟物に対する判断内容と矛盾する。
だとすれば、そのような主張は許されないということになる。

※疑問を感じる人がいるかもしれない。
契約の成立は、判決理由中の前提問題に過ぎないのではないか。
例えば、土地明渡訴訟の認容判決の既判力は、所有権の帰属に及ばない。
それは、所有権の帰属が、判決理由中の前提問題に過ぎないからである。
これと、同じなのではないか。
そういう疑問である。
しかし、物権的請求権の存否と、所有権の帰属は、一応別個の問題である。
すなわち、物権的請求権の存在が、所有権の帰属と常にイコールの関係にはない。
(対抗問題や共有が絡む場合や、物権変動的登記請求のような場合を考えるとよい。)
これに対し、売買代金支払請求権は、当該売買契約が成立しないとおよそ発生し得ない。
従って、売買代金支払請求権の存在は、常に必ず当該売買契約の成立を意味する。
すなわち、売買代金支払請求権の存在は、イコール当該売買契約の成立ということになる。
土地明渡と所有権の帰属の例と対応するのは、売買代金支払請求権の存在と買主・売主が誰かという問題である。
XのYに対する売買代金支払請求が認容されても、Xが売主であることには既判力は及ばない。
そういうことである。

もう一つの疑問として、請求棄却の場合との比較を考えた人もいるかもしれない。
売買契約に基づく代金支払請求が契約不成立で棄却されても、契約不成立の点に既判力は及ばない。
これと比較して、不整合ではないか、という疑問である。
しかし、代金支払請求が棄却される場合は、契約不成立だけではない。
契約の無効や弁済の場合も、代金支払請求は棄却され得る。
だから、裁判所は、契約不成立、契約の無効、弁済のいずれかを認定できれば、すぐ判決してよい。
すなわち、契約成立が判断できなくても、弁済が認定できれば、それで棄却してよい。
その代わり、契約の成立、有効性や弁済の事実には既判力は及ばない。
従って、買主側は、契約不成立や錯誤無効等を後訴で主張できる。
しかしながら、請求認容の場合は、契約成立以外の可能性はおよそ存在しない。
前記のとおり、契約が成立していないのに、なぜか当該契約に基づく代金支払請求権が存在している。
そんなことは、およそあり得ない。
ここに、請求棄却の場合との大きな違いがある。
敗訴後の残部請求が既判力で遮断されず、信義則で処理される(最判平10・6・12)のは、そのためである。
しかし両者を混同して、「一部請求後の残部請求は全部信義則」と思い込んでいた人が多かったようである。

主張②は、要は反対債権で相殺できるか、ということである。
これは、できるに決まっている。
別個の訴訟物ということを理解していれば、当然の帰結である。
ここで、250万円を超える部分について、前訴既判力と抵触するのではないか。
そう心配した人も、いたかもしれない。
確かに本問では、相殺適状時が第1訴訟の基準時前である。

(問題文より引用、下線は筆者)

 受訴裁判所は,平成23年1月13日に口頭弁論を終結し,同年3月3日にXの請求を全部認容する判決をしたところ,同判決は同月17日の経過をもって確定した。

 (中略)

〔設問1〕

 裁判官Aと司法修習生Bの会話を踏まえ,第2訴訟において,Yは,次のような主張をすることが許されるか検討しなさい。

① Xから本件機械を買ったのはYではなく,Zであるとの主張

② 本件機械には隠れた瑕疵があり,その修理費用として平成22年10月10日に300万円を支払ったことにより,これと同額の損害を受けたので,瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権と対当額で相殺するとの主張

(引用終わり)

そのため、相殺の遡及効(民法506条2項)で、第1訴訟の基準時の金額と抵触する。
すなわち、第1訴訟の時点で残額が100万円だけだったことにならないか。
だとすれば、150万円存在するという第1訴訟の既判力と抵触する。
そういう心配である。
しかし、それは杞憂だ。
なぜなら、訴訟上の相殺は、訴訟物と対抗する範囲でしか考慮されないからである。

(民訴法114条2項)

 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。

本問では、第2訴訟の訴訟物である250万円の部分に対して相殺を対抗している。
従って、超過部分50万円が遡って第1訴訟に作用するということは、あり得ない。
(後記のとおり、第1訴訟の確定判決で執行してきた際に、残る50万円の相殺を対抗できるかは、時的限界の問題となる。)

また、一部請求と相殺に関しては、内側説、外側説、按分説の対立がある。
しかし、それは残部請求で相殺した場合には、問題にならない。
残部請求では、対抗しうる部分が、当該残部しかないからである。
(既に150万円は確定済みで、250万円よりさらに外側はもはや存在しない。)
上記対立は、本問でいえば第1訴訟で相殺した場合の問題だ。
従って、本問でこれを論点として書いても、無意味である。

さらに、いわゆる相殺と時的限界の問題も生じない。
時的限界との関係は、確定した部分を後から相殺で争う場面である。
本問では、第2訴訟はまだ確定していない。
だから、第2訴訟で相殺を主張するのは、できて当たり前だ。
本問で時的限界を論ずる必要があるのは、第1訴訟の確定判決を執行された場合。
その場合に、相殺を請求異議事由とできるか、という場面である。

以上のように、設問1は、専ら既判力の作用を問う問題である。
すなわち、信義則や争点効の出番はない。
出題趣旨にも、信義則や争点効の話は出てこない。

(出題趣旨より引用、下線は筆者)

 設問1は,既判力の作用等に関する理解を問うものであり,金銭債権の数量的一部請求についての判決確定後に残部請求がされた事例を取り上げることにより,明示された一部請求部分を前訴の訴訟物とする判例の考え方を踏まえ,既判力が生ずる範囲とその作用の仕方等に関する正確な理解や,それに基づく分析能力,論理的思考能力を試すものである。

(引用終わり)

しかし、ほとんどの人が、信義則をメインで書いたようだ。
また、主張②では、相殺と時的限界を大展開した人が、ほとんどだったようである。
特に、第1訴訟の既判力は第2訴訟に作用しないと言いながら、時的限界を論じている答案が多かった。
時的限界とは、基準時前の事由とされれば既判力で遮断される、という問題である。
すなわち、既判力が及んでいる場合にしか、問題になりえない。
既判力が及ばないのに、どうして時的限界が問題になるのか。
論理矛盾である。
これらの答案は、本来、点のつけようがない。
本問の出来は、極めて悪かったといえる。

答えが問題文に書いてある

確かに、本問のようなことは、普段考えない。
だから、なじみのある信義則や、相殺と時的限界を書く。
それも、わからないではない。
しかし、問題文をよく読むべきである。

まず、訴訟物が異なっても既判力が及ぶ場合がある。
だから、それについて検討せよ。
問題文には、そう書いてある。

(問題文より引用、下線は筆者)

裁判官A:そうですね。ところで,先ほどの数量的一部請求の訴訟物に関する判例の考え方を前提とすると,第2訴訟の訴訟物は,第1訴訟の訴訟物とは異なることになりますが,訴訟物が異なるという理由だけで,第2訴訟において,第1訴訟の確定判決の既判力が及ぶことはないと言い切れますか。例えば,第2訴訟において,裁判所は,第1訴訟の確定判決で認められた売買代金債権の発生そのものを否定する判断をすることもできるのでしょうか。

修習生B:前訴と後訴の訴訟物が異なる場合でも,前訴の確定判決の既判力が後訴に及ぶ場合はあったと思いますが,どのような場合がこれに当たるかについては,正確には覚えていません。

裁判官A:そうですか。それでは,第1訴訟と第2訴訟とで訴訟物が異なるにもかかわらず,第1訴訟の確定判決の既判力が第2訴訟にも及ぶことがあるのかどうか,さらには,それを踏まえ,第2訴訟において,Yは,どのような主張をすることが許されるか考えてみましょう

(引用終わり)

それなのに、「訴訟物が異なるから第2訴訟に既判力は及ばない」という答案が多かった。
これは、問題文の誘導を無視している。

また、代金債権の発生自体の否定は既判力と抵触すると書いてくれ。
問題文のニュアンスから、これも読み取るべきだった。

(問題文より引用、下線及びかっこ書追加部分は筆者)

裁判官A:そうですね。ところで,先ほどの数量的一部請求の訴訟物に関する判例の考え方を前提とすると,第2訴訟の訴訟物は,第1訴訟の訴訟物とは異なることになりますが,訴訟物が異なるという理由だけで,第2訴訟において,第1訴訟の確定判決の既判力が及ぶことはないと言い切れますか。例えば,第2訴訟において,裁判所は,第1訴訟の確定判決で認められた売買代金債権の発生そのものを否定する判断をすることもできるのでしょうか(できるわけないですよね)

(引用終わり)

前後の文脈から、信義則ではなく、既判力で切れ、と言っている。
そして、その代金債権発生自体を否定する主張とは、何か。
これも、問題文に書いてある。

(問題文より引用、下線は筆者)

 Yは,本件売買契約の成立を否認し,Xから本件機械を買ったのは売買契約締結の際にYとともに同席していた息子のZであると主張した

 (中略)

〔設問1〕

 裁判官Aと司法修習生Bの会話を踏まえ,第2訴訟において,Yは,次のような主張をすることが許されるか検討しなさい。

Xから本件機械を買ったのはYではなく,Zであるとの主張

(引用終わり)

これを読み合わせれば、①が契約成立を否定する主張だとわかる。
(代理構成などは、訊いていない。)
成立を否定すれば、代金債権は発生しない。
すなわち、①を既判力で切れ、と問題文が言っている。
それに沿って、答案を構成すれば足りた。

新司法試験でも、この種の誘導は多い。
特に、行政法と民訴法で、顕著である。
新試験では、受験生もそれがわかっている。
そのため、誘導に乗らないと、それだけで評価を落とす。
本問の場合、ほとんどの人が誘導を無視した。
そのため、致命傷にはなっていない。
むしろ、信義則で書いても、A評価になっている。
しかし、今後は、気をつけるべきことである。

配点に気をつける

設問2は、ほとんどの人が、問題点には気付いていた。
要は、弁済分を先に充当しないと、Yが損をする、という話である。
ただ、ここはあまり書きすぎてもいけない。
3割しか、配点がないからである。

(問題文より引用)

[民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,7:3)

(引用終わり)

旧司法試験の時代には、配点を明示することはなかった。
しかし、新試験では、時折配点が明示される。
予備試験でも、同様である。
うっかりすると見落としてしまうので、最初に確認して印をつけるようにしておくとよいだろう。

再現答案分析の際の注意

前記のとおり、本問は、全体の出来がとても悪かった。
全体の出来が極端に悪いと、素点では差が付かない。
しかし、得点調整(採点格差調整)で、強引に得点差が付けられる。
その結果、ささいなことが、大きな差となってしまう。
司法試験得点調整の検討31ページ、図表14参照)
そのため、今回の再現答案は、合理的に成績と内容を説明するのが難しい。
はっきりしているのは、設問1で先決関係、矛盾関係を挙げているか。
すなわち、前記誘導に最初だけでも乗ったかどうか、という点である。
また、明示的一部請求肯定説を延々と論証するようなものは、はっきり評価を下げる。
ただ、それ以上に、何を書けば上位になるか、という目でみても、なかなか共通点は見出せないだろう。
あるいは、間違ったことを書いても、むしろ上位になるようにすらみえる。
赤信号、みんなで渡って、A評価。
そういう現象が、生じている。
確かに、現場で考えて全くわからない。
そういう場合の対策として、みんなが書きそうなものを書いておく。
本問の場合は、結果的にそれでもよかった。
しかし、いつもそうなる、というわけではない。
試験現場では、他の人も赤信号を渡っているのか。
それは、はっきりとはわからない。
自分だけ赤信号を渡り、無残に轢かれてしまった。
これは、避けるべきことである。
本問の場合、問題文にはっきりしたヒントがあった。
ほとんどの人がそれを拾えなかったのは、不思議な感じもする。
これが予備ではなく、司法試験であったなら、拾った人もそれなりにいたはずである。
今回、ほとんどの人が無視したからといって、いつもヒントは無視してよい。
そういう態度は、危険である。

【参考答案】

第1.設問1

1.既判力は確定判決の有する後訴への通用力であり、主文に包含される事項に生じる(114条1項)。主文は、訴訟物に対する判断であるから、既判力は訴訟物に対する判断内容について生じる。
 従って、第1訴訟と第2訴訟とで訴訟物が異なるにもかかわらず、第1訴訟の確定判決の既判力が第2訴訟にも及ぶのは、第1訴訟の訴訟物に対する判断が、第2訴訟の訴訟物と法律上両立しない関係(矛盾関係)又は第2訴訟の訴訟物の判断の論理的前提となる関係(先決関係)にある場合である。

2.本問における検討

(1)本問で、第1訴訟の訴訟物は、本件売買契約に基づく代金400万円中150万円の支払請求権である。他方、第2訴訟の訴訟物は、本件売買契約に基づく代金400万円中250万円の支払請求権である。
 両訴訟物は法律上両立するから、矛盾関係にはない。
 他方、第2訴訟では、少なくとも本件売買契約に基づく150万円の代金支払請求権が存在することを論理的前提として、残部の250万円が存在するかを判断することになるから、第1訴訟の訴訟物に対する判断と先決関係にある。従って、第1訴訟の既判力は、少なくとも本件売買契約に基づく150万円の代金支払請求権が存在することと矛盾した判断が許されないという限度で、第2訴訟に及ぶ。

(2)Yの各主張について

ア.Yの主張①は、第1訴訟における本件売買契約成立の否認理由とされていることから、第2訴訟においても本件売買契約の成立を否定する趣旨のものと解される。
 一般に、売買契約が成立しなければ、当該契約に基づく売買代金支払請求権はおよそ存在し得ない。従って、訴訟物である売買代金支払請求権の存在を認める判断には、売買契約の成立も含まれている。
 従って、主張①は、本件売買契約に基づく150万円の代金支払請求権が存在するという第1訴訟の既判力と抵触するから、主張自体失当なものとして排斥される。
 よって、Yは、①の主張をすることは許されない。

イ.では、主張②はどうか。確かに、相殺の効果は相殺適状時である平成22年10月10日に遡る(民法506条2項)。従って、主張②は、第1訴訟の基準時である口頭弁論終結時(民事執行法35条2項)、すなわち平成23年1月13日より前の事情であると理解しうる。しかし、主張②は、第2訴訟の訴訟物の額である250万円について相殺を対抗するにとどまる(114条2項)。そうすると、第1訴訟の訴訟物である150万円の代金支払請求権の存否には影響し得ないから、第1訴訟の既判力との抵触を論じる余地はない。
 よって、Yは、②の主張をすることは許される。

第2.設問2

1.Yの主張がいずれも認められる以上、裁判所はXの請求を棄却すればよい。もっとも、弁済額と相殺に供した反対債権の額が訴求額の400万円を超えることから、その充当関係の取扱いが問題となる。

2.確かに、上記充当関係は請求棄却の結論に影響しないから、裁判所は上記充当関係を考慮する必要がないとも思える。
 しかし、弁済の事実は主文に包含されないから既判力は及ばないのに対し、相殺については、対抗した額につき判決理由中の判断に既判力が生じる(114条2項)。仮に、反対債権全額の300万円を相殺に供すると、その消滅を争えないだけでなく、180万円のうち非債弁済となる80万円を後訴で訴求する場合、その支払いの事実を再度立証しなければならない。従って、Yの主張を合理的に解釈すれば、両主張が認められる場合には、相殺で対抗する額は220万円であるということになる。裁判所としては、上記の点に疑義が生じることのないよう配慮する必要がある。

3.以上から、裁判所は、請求棄却判決をするに当たり、判決理由中の判断において、相殺をもって対抗した額が220万円であることを明示すべき点に留意すべきである。

以上

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2013年04月14日

平成24年司法試験予備試験論文式商法出題趣旨検討と参考答案

問題文及び出題趣旨は、こちら

多論点、事例処理型

商法は、民法から一転して、多論点型となった。
しかも、会社法、商行為法、手形法から出題されている。
設問1は、「重要な財産」該当性、取締役会決議欠缺の場合の効力、利益相反該当性、商法526条の当てはめ。
設問2は、人的抗弁の切断(河本フォーミュラ)、手形行為の「借財」該当性、「多額」の当てはめ、取締役会決議欠缺の場合の効力である。
まず最初のポイントは、上記論点を拾えたか、ということになる。

第2のポイントは、大局観である。
民法では、丁寧に本質論から論理を示す必要があった。
すなわち、理由付けが雑だと、評価を下げる。
しかし、本問を民法のときと同じように丁寧に解くと、失敗する。
途中で紙幅切れになったり、時間不足になったりする。
また、論文の基本型は、問題提起、論証、規範定立、当てはめ、結論といわれる。
しかし、本問でその型を守っていては、破綻する。
論証等は犠牲にして、事例処理に徹する必要がある。
構成段階でこのことに気付いた上で、書き出す必要があった。

第3のポイントは、問題文の読み方である。
これについては、以下で具体的にみていこう。

「本件売買契約」について論じる

設問1は、論点自体は難しくない。
ただ、ここで手形振出しの有効性を論じた人がいたようだ。
手形と利益相反取引や多額の借財の論点である。
しかし、問題文には、明確に「本件売買契約の効力」と書いてある。
手形振出しの効力は、訊かれていない。

(問題文より引用、下線は筆者)

〔設問1〕
 本件売買契約の効力及び解除に関し,Y社からみて,会社法上及び商法上どのような点が問題となるか。

(引用終わり)

手形振出しの有効性と売買契約の効力は、直接関係がない。
手形振出しが無効だから、本件売買契約も無効である。
これをやってしまうと、大きく評価を下げるだろう。
また、手形振出しの有効性だけを書いて、売買契約の効力に全く触れない。
これも、実質白紙と扱われてもやむを得ない。
こういうところで評価を下げている人が、案外いたようだ。

「Y社からみて」

本問では、X社も取締役会決議欠缺がある。
そこで、X社にとっての無効事由を検討しようとする。
これも、評価を下げているようだ。
(他の記述が雑になったことが、直接の原因ではあるが。)
問題文をみると、「Y社からみて」と書いてある。

(問題文より引用、下線は筆者)

〔設問1〕
 本件売買契約の効力及び解除に関し,Y社からみて,会社法上及び商法上どのような点が問題となるか。

(引用終わり)

厳密には、X社の無効事由をY社が援用できるか。
そのように構成すれば、なお「Y社からみて」といえることにはなる。
しかし、そうだとしても、Y社の無効事由と比べると、迂遠である。
結論的にも、否定することになるだろう(最判平21・4・17参照)。
だとすれば、書く意義はあまりない。
本問では、書くことが多い。
そんなときに、X社の無効事由を書いて、Y社の援用を否定する。
そんなまどろっこしいことは、書くべきではなかった。

「商法上」の問題点を書く

本問で、染色の不具合による解除は、債務不履行解除(541条又は543条)か。
それとも、担保責任に基づく解除(民法570条、566条1項前段)か。
担保責任の法的性質論が、問題になりうる。
しかし、これは民法の議論である。
問題文は、「商法上」の問題を書いてくれと言っている。

(問題文より引用、下線は筆者)

〔設問1〕
 本件売買契約の効力及び解除に関し,Y社からみて,会社法上及び商法上どのような点が問題となるか。

(引用終わり)

従って、法定責任説と契約責任説の対立を論じるべきではない。
(余裕があれば書く選択肢もあるが、本問では余裕がない。)
単純に、商法526条によって解除が制限されるか。
その当てはめだけを、淡々とすれば足りる。

なお、商法526条は、解除の根拠条文ではない。
債務不履行又は担保責任による解除を、制限する規定である。

(商法526条)

 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。

従って、「商法526条により解除できる」とするのは、誤りである。
また、解除をするには、同条の要件のほか、当然民法上の要件を満たす必要がある。
しかし、本問では、その点を論じようとすると、上記担保責任論が絡まってくる。
その性質論によって、要件が変わってくるからだ。
従って、民法上の要件を積極的に当てはめる必要はなかった。
商法526条だけ当てはめていれば、上位になっている。

それから、526条が不特定物にも適用されるか、という論点がある。
これは、商法上の論点である。
ただ、これも、担保責任論と絡めないように書く必要がある。
書くとしても、「不特定物に適用がないのでは適用領域が狭すぎる」程度の理由付けにとどめるべきである。
本問は、事例処理がメインである。
上記論点は、事例処理と直接かかわらない。
従って、敢えて書く必要もないと思う。

判例の基準が使えるかを現場で判断する

Y社は、本件生地を買い受ける側であるから、「重要な財産の譲受け」を検討すべきである。

※代金債務を負担するから、「借財」となるわけではない。
「多額の借財」は、借入れにより取得した流動性の高い現金の私的流用の危険に着目したものである。
多額の代金債務を負担したからといって、多額の現金を取締役が流用する危険は生じない。
従って、売買は、「借財」には当たらない。
なお、保証は直接の現金取得はないが、対価なく一方的に会社が債務を負担する。
(対価性の点で、売買と異なる。「譲受け」で捕捉できないという事情もある。)
そのことから、「借財」に当たると解されている。

また、会社法362条4項各号に該当しなければ、取締役会決議が不要とは限らない。
「その他の重要な業務執行」に当たる余地があるからである(同項柱書)。
各号は、重要な業務執行の例示に過ぎない。

「重要な財産」に当たるかについては、最判平6・1・20がある。

最判平6・1・20より引用、下線は筆者)

 重要な財産の処分に該当するかどうかは、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である。

(引用終わり)

本問で、これを答案に書いて当てはめた人はいただろう。
それはそれで、よく勉強できている。
しかし、当てはめていて、違和感を感じたのではないだろうか。
上記の判断要素の多くは、本問では事情として挙がっていないからである。
結局、1億円、平均売上高に相当、という程度しか、使わなかったのではないか。
そうなると、延々と判断要素を列挙した意味は、なかったことになる。
本問は、多論点型であり、コンパクトな論述が求められる。
にもかかわらず、意味のない判断要素を列挙するのは、大きなロスである。
判例等の規範を覚えるのはよいが、いつもそれを貼るかどうかは別である。
本問でそれが使えるのか。
現場で、きちんと判断する必要がある。

利益相反の当てはめ

利益相反該当性は、会社法356条1項2号、3号の当てはめである。
しかし、抽象的に「会社と取締役の利益が衝突するか」を論じる人が多い。
条文を、現場でよく読むべきである。

(会社法356条1項)

 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 略。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

条文は、具体的に規定している。
本問のY社について考えてみる。
まず、2号は直接取引の場合である。
Y社についてみているから、「株式会社」とはY社ということになる。
Y社と取引(本件売買契約)をしたのは、誰か。
X社を代表したAである。
しかし、AはY社の「取締役」ではない。
従って、2号には当たらないことになる。
なお、これをX社についてみると、2号該当となる。
すなわち、「株式会社」であるX社と取引したのは、(Y社を代表した)Bである。
そして、Bは、X社の「取締役」である。
従って、「取締役(B)が、第三者(Y社)のために株式会社(X社)と取引」したことになる。
(これは名義説でも計算説でも同じである。)
Bは、X社において、取締役会の承認を得る必要があったことになる。
(ただし、前記のとおり、これは答案上検討を要しないX社の無効事由である。)

次に、3号の間接取引を検討する。
3号は、やや長いが、かっこでくくると分かり易くなる。

(会社法356条1項3号、かっこ挿入は筆者)

 株式会社が(取締役の債務を保証することその他)取締役以外の者との間において(株式会社と当該取締役との利益が相反する)取引をしようとするとき。

さらにかっこ部分を省略すると、以下のようになる。

 株式会社が・・取締役以外の者との間において・・取引をしようとするとき。

「株式会社」とは、Y社である。
取引(本件売買契約)の相手方は、(Aの代表する)X社である。
AもX社もY社の取締役ではないから、「取締役以外の者」である。
そうすると、後は、かっこの要件を満たすかである。
すなわち、「取引」が、「株式会社と当該取締役との利益が相反する」ものかどうか。
ここで、「当該取締役」とは、Bを指す(Y社の他の取締役は登場しない)。
そこで、本件売買契約が、Y社とBの利益が相反する取引かどうか。
そのことを考える際にヒントになるのが、前のかっこの例示である。
すなわち、「取締役の債務を保証すること」と同様の利益相反性があるか。
その観点から検討するとよい。
例えば、Y社がBの債務を保証する場合。
この場合、Y社は保証債務の負担を負う反面、Bは担保の利益(信用)を得る。
このことが、「利益が相反する」ことを意味している。
では、本件売買契約は、そのような要素があるか。
本件売買契約で、Y社は代金債務を負い、X社が本件生地の引渡義務を負う。
Bは、法律上何らの権利も、利益も受けない。
だとすれば、例示された保証のような要素は、ないということになる。
このことから、3号該当性もない。
そう判断してよいだろう。
以上のように丁寧に考えれば、「ABが旧知の友人だから利益相反性がある」。
あるいは、「本件生地は多額で、Y社が買い取るとX社は助かるから利益相反性がある」。
などとして安易に利益相反を認めてしまうことには、ならないはずである。
X社の利益から利益相反性を基礎付けることは、一応不可能ではない。
ただ、その場合は、X社の利益が保証のケースと同程度に取締役Bの利益に直結する。
そのことを、説明する必要があるだろう。
例えば、BがX社の全株式を保有していたとする。
その場合は、X社の利益はBの利益と同視できる。
従って、利益相反性を肯定できるだろう。
しかし本問では、そのような事情は見当たらない。

無難に人的抗弁の切断を書けばよかった

設問2は、手形法からの出題である。
新司法試験では、論文で手形が問われたことはない。
そのため、旧試験の受験経験がない人は、手形はお手あげという感じだったかもしれない。
その意味では、旧試験組に有利だったといえる。
とはいえ、旧試験組でも、手形は忘れてしまっていた、という人も多かったのではないか。

本問は、ある程度手形を勉強していれば、論点自体は易しい。
特に、設問1が、大きなヒントになっている。
設問1は、本件売買契約の効力及び解除が問われた。
これらは、いずれも手形の原因関係上の抗弁となるものである。
だとすれば、人的抗弁の切断、すなわち河本フォーミュラを書けばいいのだろう。
そのように決め打ちすれば、無難に上位を取ることができた。
河本フォーミュラを書いて当てはめていれば、ここはA評価になっている。

ただ、実際には、その他の論点もある。
仮に設問1で利益相反を肯定する場合、手形振出しも無効となる余地が生じる。
利益相反と手形振出しは典型論点(最大判昭46・10・13)だから、書きたい。
しかし、普通は利益相反を否定するから、この論点は出てこない。

他方、多額の借財の問題は生じるだろう。
手形振出しは、「借財」に当たるか。
利益相反と同様、原因関係と別個に、より一層厳格な支払義務を負うことを強調すれば、当たるということになる。
その上で、Aの悪意ないし有過失により無効と考えた場合、これは物的抗弁か、人的抗弁か。
これは、色々な考え方があり得る。
振出しが無効と考えると、物的抗弁になるとするのが自然である。
交付欠缺と同じに考えるということである。
この場合は、権利外観理論で処理することになる。
また、直接の相手方以外の所持人との関係では、人的抗弁になるという考え方もある。
手形面上明らかにならない瑕疵は、当事者間しかわからない。
だから、人的抗弁になるという発想である。
判例は、これに近い考え方である(最判昭44・4・3)。
二段階創造説からは、まず、Y社の債務負担を検討する。
Bは一応代表権を有するとして、取締役会決議を欠いても、Y社の債務負担は肯定するのが普通である。
(会社法上の代表権制限は、債務負担行為に適用されない、と考えてもよい。)
他方で、X社への振出(権利移転)には取締役会決議欠缺の無効が及ぶ(有因論)。
すなわち、権利不移転ということになる。
結果として、Zは善意取得で保護される。
ただ、ここは長々論じる余裕がない。
自説の立場から、簡単に結論だけ書けばよいだろう。

【参考答案】

第1.設問1

1.本件売買契約の効力

(1)利益相反該当性

 Bは、X社の取締役でもあるが、X社を代表してY社と取引したわけではないから、356条1項2号には当たらない。
 また、本件売買契約によってBには法律上何らの権利利益も発生しない以上、同項3号の取引にも該当しない。
 以上から、本件売買契約は、Y社からみて利益相反取引には該当しない。

(2)重要な財産の譲受け

ア.会社法362条4項1号該当性

 本件生地の代金はY社の直近数年の平均的な年間売上高に相当し、過剰在庫のリスクを負う。従って、本件売買契約は、取締役会決議の必要な経営上の重要性を有するから「重要な財産の譲受け」に当たる。

イ.取締役会決議を欠く場合の効力

 AはBと旧知の友人であり、BはX社の取締役でもあることからすれば、相手方X社を代表するAにおいて、Y社の取締役会決議の有無を問い合わせることは容易であったから、その欠缺を知ることができた。
 よって、本件売買契約は、無効である(民法93条ただし書類推適用)。

2.本件売買契約の解除

(1)商人間売買による解除の制限

 X社・Y社は、いずれも商人である(会社法5条、商法4条1項)。従って、買主であるY社は商法526条1項の検査及び通知の義務を負う。そこで、同条2項によって解除が制限されるかを検討する。

(2)商法526条2項の検討

ア.Y社が受領の際に行った検査についてみると、詳細な検査は一部のみで、その余は外観上の検査にとどまっている。しかし、大量の物品の全てに詳細な検査をするには過大なコストがかかる。商取引の迅速性を図る同条の趣旨からすれば、同条1項の検査は、上記の程度で足りる。
 また、本件生地の染色の不具合は数回洗濯して初めて生じるもので、外観上判別できないのみならず、一部の抜取りの際には不具合のない生地が選別される場合もあることからすれば、上記検査では直ちに発見できない瑕疵(同条2項)であったといえる。

イ.そして、本件売買契約(平成23年9月1日)から6か月以内である平成24年2月に瑕疵を発見したY社は、直ちにX社に通知の上、解除している。
 よって、X社は、商法526条により解除を制限されることはない。

第2.設問2

1.本件手形の有効性

(1)会社法362条4項2号該当性

ア.手形の振出しは原因関係とは別個の一層厳格な債務負担であるから、「借財」に当たる。

イ.手形金額1億円はY社の直近数年の平均的な年間売上高に相当するもので、同号の会社財産保護の趣旨から「多額」である。

(2)取締役会決議を欠く場合の効力

ア.AはY社取締役会決議欠缺を知ることができた(前記第1の1(2)イ)から、本件手形の振出しは無効である(民法93条ただし書類推適用)。そうすると、Zは、X社から無効な手形の裏書を受けても、手形上の権利を取得できないとも思える。

イ.しかし、本件手形は有効に振り出された外観を有する。取締役会決議欠缺はX社の内部手続の瑕疵であり、その意味でX社に本件手形の流通について帰責性がある。また、Zにおいて、手形振出しにつきY社取締役会決議欠缺につき悪意又は重過失であったことをうかがわせる事実はない。よって、Zは本件手形の券面記載どおりの権利を取得する(権利外観理論、手形法10条参照)。

2.原因関係上の抗弁

(1)Y社は、本件売買契約の無効(前記第1の1(2))又は解除(前記第1の2)を主張して支払いを拒めるか。

(2)本件売買契約は、本件手形の原因関係である。従って、その無効及び解除は人的抗弁である。

(3)Zは、手形取得時において本件売買契約の支払いのための振出しであることを知っていたに過ぎず、Y社の取締役会決議欠缺及び本件生地の染色の不具合につき知っていたと認めるべき事実はない。従って、Y社が満期において本件売買契約の無効又は解除を主張して支払いを拒むことが確実であるとの認識はないから、「害スルコトヲ知リテ」(手形法77条、17条ただし書)本件手形を取得したとはいえない。
 よって、Y社は、Zに対して売買契約の無効又は解除を主張して支払いを拒むことはできない(手形法77条、17条本文)。

以上

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